第4節 生物多様性を社会に浸透させる取組

1 地方公共団体、企業や市民の参画

 生物多様性の保全と持続可能な利用は、国民の暮らしと密接にかかわることから、国、地方公共団体、企業、NGO、国民等のさまざまな主体が自主的かつ連携して取り組むことが重要です。

 広く国民への生物多様性に関する普及・広報を推進するため、生物多様性のホームページ(http://www.biodic.go.jp/biodiversity/)を開設したほか、有識者等からなる「生物多様性広報・参画推進委員会」を設置しました。委員会での検討をもとに、生物多様性をより端的にわかりやすい言葉で表現したコミュニケーションワードを「地球のいのち、つないでいこう」に決定し、著名人による広報組織「地球いきもの応援団」を発足させるとともに、国民一人ひとりが生物多様性に取り組む際のヒントとなる「国民の行動リスト」を公表しました。

 また、都道府県及び市町村が、生物多様性基本法に基づき、その区域内の生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する基本的な計画(生物多様性地域戦略)を定める際の指針や、企業が生物多様性の保全と持続可能な利用のための活動を自主的に行う際に参考となる指針について検討を行いました。

 さらに、地域における生物多様性の保全・再生に資する取組を支援するため、「生物多様性保全推進支援事業」を開始し、野生生物の保護管理や外来種対策など、全国の19の取組を交付対象として採択しました。

2 自然とのふれあいの推進

(1)自然解説活動及び健全なふれあい利用の推進

 「みどりの月間」(4月15日~5月14日)、「自然に親しむ運動」(7月21日~8月20日)、「全国・自然歩道を歩こう月間」(10月)等を通じて、自然観察会等自然とふれあうための各種活動を実施しました。また、「平成20年度自然公園ふれあい全国大会」を平成20年8月に単独指定された尾瀬国立公園(福島県、群馬県、栃木県、新潟県)において開催しました。

 国立・国定公園の利用の適正化のため、自然公園指導員の研修を実施し、利用者指導の充実を図りました。また、地方環境事務所等においてパークボランティア(約1,800名)の養成や活動に対する支援を全国25国立公園等40地区で実施しました。さらに、自然解説活動における指導者育成のため、ビジターセンター等の職員の研修を実施しました。

 また、関係省庁が連携し実施する、農山漁村での小学生の長期宿泊体験等において、その体制づくりの一環として自然体験プログラムの開発や子どもたちに自然保護官の業務を体験してもらう「子どもパークレンジャー」などにより、自然環境の大切さなどを学ぶ機会を提供することで、自然と人との共生について子どもたちをはじめ関係者の理解を深める事業を展開しました。

 国有林野においては、森林教室、体験セミナー等を通じて、森林とのふれあいを楽しみながら理解を深める「森林ふれあい推進事業」等を実施しました。また、学校等による体験・学習活動の場である「遊々の森」や、国民による自主的な森林づくりの活動の場である「ふれあいの森」の設定・活用を推進しました。

 国営公園においては、ボランティア等による自然ガイドツアー等の開催、プロジェクト・ワイルド等を活用した指導者の育成等、多様な環境教育プログラムを提供しました。


(2)利用のための施設整備の推進

 国立・国定公園等において、自然とのふれあいを求める国民のニーズに対応した安全で快適な公園利用施設の整備を、木材等の自然素材を活用し、周辺の自然環境の保全や、バリアフリー化に配慮しつつ推進しました。

 ア 国立公園の整備

 国立公園の保護及び利用上重要な公園事業を環境省の直轄事業としており、国立公園の主要な入口における情報提供施設、山岳地域の適正な利用を推進するための登山道、すぐれた自然景観にふれあう景観歩道、国民保養温泉地における自然にふれあうための施設について、重点的に整備しました。

 イ 国定公園等の整備

 38都道府県が策定した自然環境整備計画に位置付けられている国定公園の整備、国指定鳥獣保護区における自然再生及び長距離自然歩道の整備に対して、自然環境整備交付金により、支援しました。

 ウ 長距離自然歩道の整備

 自然公園や文化財を有機的に結ぶ長距離自然歩道について、四季を通じて安全で快適に利用できるよう整備を進めました。長距離自然歩道の計画総延長は約26,000kmに及んでおり、平成19年には、約6,000万人が長距離自然歩道を利用しました。

 エ 森林の多様な利用の推進

 保健保安林等を対象として防災機能、環境保全機能等の高度発揮を図る共生保安林整備事業を実施するとともに、国民が自然に親しめる森林環境の整備を行う森林空間総合整備事業等に対し助成しました。

 また、森林環境教育、林業体験学習の場となる森林・施設の整備、学校林の整備・活用を行うモデル学校林の設定等を推進しました。

 さらに、森林総合利用施設等において、年齢や障害の有無にかかわらず多様な利用方法の選択肢を提供するユニバーサルデザイン手法の普及を図りました。

 国有林野については、自然休養林等のレクリエーションの森において、民間活力をいかしつつ利用者のニーズに対応した森林及び施設の整備等を行いました。

 オ 海岸等のふれあい施設の整備

 生物の生息・繁殖場所となる砂浜、干潟などの保全や創出を行う「エコ・コースト事業」を19か所で実施しました。また、海岸利用を活性化し、海岸の観光資源としての魅力を向上させるなど、地域の特色を活かした自主的・戦略的取組を支援するため、「海岸環境整備事業」を拡充しました。

 カ 港湾等のふれあい施設の整備

 港の良好な自然環境の市民による利活用を促進し、自然環境の大切さを学ぶ機会の充実を図るため、自治体やNPOなどが行う自然体験・環境教育活動等の場ともなる藻場・干潟等の整備を行いました。

 キ 河川等のふれあい施設の整備

 河川の高水敷やダム周辺等を公園、緑地、運動場等に利用するため、「水系環境整備事業」等により整備を実施しました。水辺プラザや水辺の楽校等の整備により、水辺での活動を促進し、親水レクリエーションの促進を図りました。


(3)エコツーリズムの推進

 「エコツーリズム推進法(平成19年法律第105号)」が平成20年4月に施行され、政府の基本方針「エコツーリズム推進基本方針」が同年6月に閣議決定されました。基本方針では、各地で組織されるエコツーリズム推進協議会や全体構想の作成、認定に関する基本的事項等を定めています。

 エコツーリズム推進法の成立・施行を踏まえ、地域の創意工夫を生かしたエコツーリズムのより一層の普及・定着を図るため、[1]普及啓発事業、[2]ノウハウの確立、[3]人材育成、[4]地域の取組支援等を総合的に実施しました。

 [1]では、JATA世界旅行博2008でのフォーラム開催を、[2]では、「第4回エコツーリズム大賞」(大賞1団体、優秀賞3団体、特別賞6団体)の環境大臣表彰や全国セミナーの開催を、[3]では、自然学校のインストラクターやエコツアーガイドの育成を、[4]では、世界自然遺産地域や国立公園等でのエコツーリズムの推進や仕組みづくり、エコツーリズム推進法に基づき協議会を設置するトップランナー地域への支援等を実施し、エコツーリズムの考え方に基づいた自然や歴史・文化資源の保全と活用の全国的な普及・定着に向けた展開を図りました。また、全国10か所でエコツーリズム推進法の説明会を開催しました。


(4)都市と農山漁村の交流

 全国の小学校において農山漁村での1週間程度の長期宿泊体験活動の実施を目指す「子ども農山漁村交流プロジェクト」を推進し、子どもの豊かな心を育むとともに、自然の恩恵などを理解する機会の促進を図るため、全国で53地域の受入モデル地域を指定しました。

 都市住民の農山漁村情報に接する機会の拡大、地域資源を活用した交流拠点の整備、都市と農村の多様な主体が参加した取組等を総合的に推進し、グリーン・ツーリズムの普及を進め、農山漁村地域の豊かな自然とのふれあい等を通じて自然環境に対する理解の増進を図りました。


(5)温泉の保護及び安全・適正利用

 ア 温泉の保護及び安全・適正利用

 温泉法(昭和23年法律第125号)に基づき、平成19年度においては、温泉掘削417件、増掘33件、動力装置376件、浴用又は飲用3,311件の許可が行われました。

 温泉法等の温泉に関する制度については、平成20年5月に改正温泉法施行令等関係政省令が公布され、同年10月1日から、温泉の採取等に伴い発生する可燃性天然ガスによる災害を防止することを目的として19年11月に公布された改正温泉法が施行されました。

 また、温泉資源の保護のため、平成21年3月、新規事業者による掘削や動力装置の許可等の基準の内容や、都道府県における温泉資源保護のための望ましい仕組みを示したガイドラインを策定し、都道府県に周知しました。

 イ 国民保養温泉地

 国民保養温泉地は、温泉の公共的利用増進のため、温泉法に基づき指定された地域であり、平成21年3月末現在、91か所が指定されています。



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