第5節 地域における人と自然の関係を再構築する取組

1 里地里山の保全

 里地里山は、二次林や水田等の農耕地、ため池、草地等を構成要素としており、人為による適度なかく乱によって特有の環境が形成・維持され、固有種を含む多くの野生生物を育む地域となっています。希少種が集中して分布している地域の5割以上が里地里山に含まれます。

 里地里山の保全再生に向けた多様な主体の取組をさらに全国へと展開していくために、生物多様性などのさまざまな観点から全国の優良事例となりうる里地里山の取組を調査・分析し、里地里山の新たな利活用の方策や都市住民など多様な主体が共有の資源として管理し、持続的に利用する枠組みの構築について検討しました。また、平成19年度から継続して、都市住民等のボランティア活動への参加を促進するため、活動場所や専門家の紹介等を実施しました。特別緑地保全地区等に含まれる里地里山については、土地所有者と地方公共団体等とが管理協定を締結し、持続的に管理を行うとともに市民に公開するなどの取組を推進しました。

 また、棚田や里山といった地域における人々と自然との関わりの中で形成されてきた文化的景観の保存活用のために行う調査、保存計画策定、整備、普及・啓発事業を補助する重要文化的景観保護推進事業を実施しました。

 さらに、地域の創意と工夫をより生かした「農山漁村活性化プロジェクト支援交付金」により、自然再生の視点に基づく環境創造型の整備を推進しました。また、上下流連携いきいき流域プロジェクトにより、里山林等における森林保全活動や多様な利用活動への支援を実施しました。

2 鳥獣の保護管理の推進

(1)鳥獣保護事業及び鳥獣に関する調査研究等の推進

 長期的ビジョンに立った鳥獣の科学的・計画的な保護管理を促し、鳥獣保護行政の全般的ガイドラインとしてより詳細かつ具体的な内容を記した、鳥獣の保護を図るための事業を実施するための基本的な指針(以下「基本指針」という。)に基づき、鳥獣保護区の指定、被害防止のための捕獲及びその体制の整備、違法捕獲の防止等の対策を総合的に推進しました。

 また、渡り鳥の生息状況等に関する調査として、鳥類観測ステーションにおける鳥類標識調査、ガンカモ類の生息調査、シギ・チドリ類の定点調査等を実施しました。

 また、野生生物保護についての普及啓発を推進するため、愛鳥週間行事の一環として東京都内において第62回「全国野鳥保護のつどい」を開催したほか、野生生物保護の実践活動を発表する「全国野生生物保護実績発表大会」等を開催しました。


(2)適正な狩猟と鳥獣管理の推進

 適切な狩猟が鳥獣の個体数管理に果たす効果等にかんがみ、都道府県及び関係狩猟者団体に対し、事故及び違法行為の防止を徹底し、適正な狩猟を推進するための助言を行いました。また、狩猟者人口は、約53万人(昭和45年度)から約19万人(平成17年度)まで減少し、高齢化も進んでいるため、被害防止のための捕獲に当たる従事者の確保が困難な地域も見られるなど鳥獣保護管理の担い手の育成及び確保が求められていることから、狩猟者等現場における鳥獣保護管理の担い手の育成のための研修事業を実施するとともに、鳥獣保護管理に係る人材登録制度を開始しました。

 さらに、都道府県の特定鳥獣保護管理計画に基づく保護管理実施状況を調査・分析したほか、特定鳥獣保護管理計画の目的推進のため、モニタリング手法等に関する調査を実施しました。

 特定鳥獣保護管理計画技術研修会を開催し、都道府県による計画作成を促し、科学的、計画的な鳥獣保護管理を推進しました。関東地域におけるカワウの保護管理については、協議会が作成した指針に基づき、一斉追い払い等の事業を実施するとともに、中部・近畿地域においても協議会を開催し関係者間の情報の共有を行いました。


(3)鳥獣による農林漁業等への被害対策

 野生獣類の効果的な追い上げ技術の開発等の試験研究、防護柵等の被害防止施設の設置、効果的な被害防止システムの整備、被害防止マニュアルの作成等の対策を推進するとともに、鳥獣との共存にも配慮した多様で健全な森林の整備・保全等を実施しました。

 また、農山漁村地域において鳥獣による農林水産業等に係る被害が深刻な状況にあることを背景として、その防止のための施策を総合的かつ効果的に推進することにより、農林水産業の発展及び農山漁村地域の振興に寄与することを目的とする鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律(平成19年法律第134号)が成立し、平成20年2月から施行されました。この法律に基づき、市町村における被害防止計画の作成を推進し、鳥獣被害対策の体制整備等を推進しました。

 また、近年、トドによる漁業被害が増大しており、トドの資源に悪影響を及ぼすことなく、被害を防ぐための対策として、被害を受ける定置網の強度強化を促進しました。


(4)国指定鳥獣保護区における渡り鳥等の保護対策

 渡り鳥の保護対策として、出水平野に集中的に飛来するナベヅル、マナヅルの生息環境の保全、整備を実施するとともに、越冬地の分散を図るための地域活動の推進、普及啓発等の事業を実施しました。

 また、わが国有数の渡り鳥の渡来地の一つである谷津干潟において、生息環境の調査等の事業を実施しました。

 鳥獣の生息環境が悪化した鳥獣保護区の生息地の保護及び整備を図るため、浜頓別クッチャロ湖(北海道)、宮島沼(北海道)、片野鴨池(石川県)、漫湖(沖縄県)において保全事業を実施しました。


(5)野鳥における高病原性鳥インフルエンザ対策

 平成20年春の十和田湖等における高病原性鳥インフルエンザの発生を受けて「野鳥における高病原性鳥インフルエンザに係る都道府県鳥獣行政担当部局等の対応技術マニュアル」を整備するとともに、全国における高病原性鳥インフルエンザウイルスに係るサーベイランス体制を構築しました。また、マニュアルに基づき、ウイルス保有状況調査を全国で実施し、結果を公表したほか、平成17年度から実施の人工衛星を使った渡り鳥の飛来経路に関する調査を継続するとともに、国指定鳥獣保護区への渡り鳥の飛来状況の情報提供をホームページ等を通じて行いました。

3 希少野生動植物種の保存

(1)絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律に基づく取組

 絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4年法律第75号。以下「種の保存法」という。)に基づく国内希少野生動植物種に9種の追加、1種の削除を行い、国内希少野生動植物は、哺乳類4種、鳥類38種、爬虫類1種、両生類1種、汽水・淡水魚類4種、昆虫類10種、植物23種の81種となりました。同法に基づき指定している全国で9か所の生息地等保護区において、保護区内の国内希少野生動植物の生息・生育状況調査、巡視等を行いました。新たに9種の国内希少野生動植物種について保護増殖事業計画を策定し、計47種に対し、個体の繁殖や生息地の整備等の保護増殖事業を行っています。平成20年9月には、佐渡島においてトキ10羽の試験放鳥を実施しました。また、絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(以下「ワシントン条約」という。)及び二国間の渡り鳥等保護条約等により、国際的に協力して保存を図るべき677種類を、国際希少野生動植物種として指定しています。

 絶滅のおそれのある野生動植物の保護増殖事業や調査研究、普及啓発を推進するための拠点となる野生生物保護センターを、平成21年3月末現在8か所設置しています。主な事業、調査等は表5-5-1のとおりです。


表5-5-1 主な保護増殖事業等の概要


(2)猛禽類保護への対応

 絶滅のおそれがある猛禽類のうち、イヌワシ、クマタカについて、繁殖状況のモニタリング、行動圏内における利用環境の分析等を実施しました。


(3)海棲動物の保護と管理

 沖縄本島周辺海域に生息するジュゴンについては、地域住民への普及啓発を進めるとともに、全般的な保護方策を検討するため、地元関係者等との情報交換等を実施しました。

4 外来種等への対応

(1)外来種対策

 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号)に基づき、96種類の特定外来生物(平成21年3月現在)の輸入、飼養等を規制しています。また、奄美大島や沖縄本島北部(やんばる地域)の希少動物を捕食するマングースの防除事業、小笠原諸島内の国有林でのアカギ等の外来種の駆除のほか、アライグマ、カミツキガメ、アルゼンチンアリ、オオクチバス等についての防除モデル事業等、具体的な対策を進めています。

 また、外来種の適正な飼育に係る呼びかけ、ホームページ(http://www.env.go.jp/nature/intro/)等での普及啓発を実施しました。


(2)遺伝子組換え生物への対応

 カルタヘナ議定書を締結するための国内制度として定められた遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号)に基づき、平成21年3月末現在、137件の遺伝子組換え生物の環境中での使用について承認されています。また、日本版バイオセーフティクリアリングハウスhttp://www.bch.biodic.go.jp/)を通じて、法律の枠組みや承認された遺伝子組換え生物に関する情報提供を行ったほか、主要な輸入港周辺等において遺伝子組換えナタネの生物多様性への影響監視調査などを行いました。

5 飼養動物の愛護・管理

 動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)の適切かつ着実な運用を図るため、平成18年10月に策定された動物の愛護及び管理に関する施策を推進するための基本的な指針(以下「基本指針」という。)に基づき各種施策を総合的に推進しました。また、これら各種施策の進捗状況についての点検を行いました。

 広く国民が動物の虐待の防止や適正な取扱などに関して正しい知識と理解を持つため、動物愛護週間(9月20日~26日)に、関係行政機関、団体との協力の下、「動物愛護管理功労者表彰」、「動物愛護ふれあいフェスティバル」等の催しを実施しました。また、動物愛護週間に関するポスターのデザインコンクールを実施しました。

 基本指針等を踏まえ、飼養放棄等によって都道府県等に引取りや収容された動物の譲渡及び返還を促進するため、適正譲渡講習会の実施やDVD教材の作成等を実施したほか、再飼養支援データベース・ネットワークシステムの一層の充実を図りました。

 マイクロチップ等による個別識別措置の推進については、個別識別データに関するデータベースの運用を行うとともに、個体識別措置についてのポスターやパンフレットの作成・配布を行いました。

 また、平成19年3月以降、アメリカで有害な原料を含むペットフードに起因する犬や猫の死亡事故が発生したこと等を受け、第169回通常国会に「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律」案を提出し、平成20年6月に成立しました。

6 遺伝資源など持続可能な利用

(1)遺伝資源の利用と保存

 熱帯林の乱伐や農業の近代化に伴う開発などによる生物遺伝資源消失の危険性が一層増大しており、遺伝資源の収集などが難しくなってきています。そのような中で、生物の多様性を保全する意味からも貴重な遺伝資源を収集・保存し、次世代に引き継ぐとともに、これを積極的に活用していくことが重要となっています。

 農林水産分野においては、農業生物資源は「農業生物資源ジーンバンク事業」として独立行政法人農業生物資源研究所のセンターバンクと5つの独立行政法人などのサブバンクが、林木などの森林・林業に関する生物については独立行政法人森林総合研究所が、また、水産生物については独立行政法人水産総合研究センターが組織的に取り組み、動植物、微生物、DNA、林木、水産生物の各部門の国内外の遺伝資源の収集、分類、保存などを行っています。この結果、食料・農業関係の植物遺伝資源24万点をはじめとして、世界有数の保存点数を誇るジーンバンクとして機能しており、研究開発資料として利用者に配布及びその情報の提供が図られています。平成20年度においては、国内・国外で探索を行い、新たに植物遺伝資源約6,000点等を追加しました。その他、インド及びラオスから研究者を受け入れ、遺伝資源の保護と利用のための研修を行いました。

 また、「林木育種戦略」に基づき、絶滅の危機に瀕している種等の希少・貴重な林木遺伝資源の保全を図るとともに、林木の新品種の開発に不可欠な育種素材として利用価値の高い林木遺伝資源等を確保するため、その収集・保存を進めました。さらに、林木遺伝資源の有効利用を図るため、特性評価、情報管理及び配布を行いました。


(2)微生物資源の利用

 独立行政法人製品評価技術基盤機構を通じた資源保有国との国際的取組の実施などにより、資源保有国への技術移転、わが国企業への海外の微生物資源の利用機会の提供などを行い、微生物資源の「持続可能な利用」の促進を図りました。


(3)バイオマス資源の利用

 地球温暖化の防止、循環型社会の形成、競争力のある新たな戦略的産業の育成、農林漁業・農山漁村の活性化の観点から、バイオマスを総合的かつ効率的に最大限利活用することが重要です。このため、「バイオマス・ニッポン総合戦略(平成18年3月閣議決定)」に基づき、関係7府省連携のもと、持続的に発展可能な社会の早期実現に向け取り組みました。このうち、バイオ燃料の利用促進については、平成19年2月に総理報告した「国産バイオ燃料の大幅な生産拡大に向けた工程表」に基づき、農林漁業バイオ燃料法の着実な運用やバイオ燃料製造設備に係る固定資産税の軽減措置等の施策を実施しました。また、食料の安定供給と両立できる稲わらや間伐材等の非食用資源から効率的にバイオ燃料を生産する「日本型バイオ燃料生産拡大対策」を推進しました。地域のバイオマスを効率的に利活用するバイオマスタウンについては、22年に300地区程度の構想策定を目標に施策を推進し、21年1月末現在で163地区が公表しています。



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