第6節 国際的動向と日本の取組

1 国際化学物質管理戦略(SAICM)

 2002年(平成14年)のヨハネスブルグ・サミット(WSSD)で定められた実施計画において、2020年(平成32年)までに化学物質の製造と使用による人の健康と環境への悪影響の最小化を目指すこととされたことを受け、2006年(平成18年)2月に国際化学物質管理戦略SAICM)が採択されました。

 我が国は、SAICMの準備会合や地域会合などに積極的に出席し、その策定作業に能動的に関与してきました。また、平成19年5月に開催されたアジア太平洋地域会合では、我が国が共同議長となり、同地域におけるSAICMの実施に関する議論に貢献しました。国内に対しても、20年3月に「諸外国におけるSAICM実施状況に関するセミナー」を開催し、関係者間で情報交換・意見交換を行いました。また、化学物質管理に関する能力構築として、中国やASEAN諸国等に対して化学物質管理全般に関する研修を実施しました。

2 国連の活動

 PCB、DDT、クロルデン、ダイオキシンなど残留性有機汚染物質(POPs)12物質を対象に、その製造・使用の禁止・制限、排出の削減、廃棄物の適正処理や在庫・貯蔵物の適正管理等の措置を各国に義務付けるPOPs条約については、日本は同条約に基づく国内実施計画を策定し、同計画に基づき条約の義務を着実に履行しています。また、東アジアPOPsモニタリングワークショップを開催するなど、アジア・太平洋地域におけるPOPsモニタリングについての協力等の取組を進めました。さらに、新たにPOPs条約の対象物質として追加が検討されている化学物質について、日本独自の情報を提供するなど、国際貢献を進めました。

 また、有害な化学物質による潜在的な害から人の健康及び環境を保護するとともに当該化学物質の環境上適正な使用に寄与する「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約」(PIC条約)については、関係府省が連携して条約を着実に履行しています。

 化学物質の分類と表示の調和を図ることを目的として、2008年(平成20年)中の導入が各国に求められている「化学品の分類及び表示に関する世界調和システムGHS)」については、関係省庁連絡会議の下、作業を分担しながら、化学物質の分類事業を行うとともに、勧告文書の翻訳を作成するなどの作業を進めました。なお、国連経済社会理事会の下に設置されたGHS専門家小委員会では、分類基準の充実、実施のためのガイダンスドキュメント作成などの作業を引き続き進めています。

 UNEPでは、2001年(平成13年)から地球規模の水銀対策に関する議論が行われており、2005年(平成17年)からは鉛及びカドミウムも対象に加えています。これらの動向を踏まえ、我が国も積極的に議論に参加するとともに、我が国の対応を検討するため、平成19年12月に関係府省連絡会議を設置しました。さらに、環境省では、平成18年度から国際的観点からの有害金属対策戦略を策定するための調査・検討を進めています。

3 OECDの活動

 OECDでは、環境保健安全プログラムの下で化学物質の安全性試験の技術的基準であるテストガイドラインの作成及び改廃等化学物質の適正な管理に関する種々の活動を行っています。我が国は、これに関する作業として、OECD加盟各国で大量に生産されている化学物質(HPV化学物質)の安全性点検作業に積極的に対応するとともに、新規化学物質の試験データの信頼性確保及び各国間のデータ相互受入れのため、優良試験所基準(GLP)に関する国内体制の維持・更新、生態影響評価試験法等に関する我が国としての評価作業、化学物質の安全性を総合的に評価するための手法等の検討、内外の化学物質の安全性に係る情報の収集、分析等を行っています。平成19年度においては、OECDのHPV点検プロジェクトにおいて、生態影響試験、毒性試験等の実施により必要な知見を収集、整理し、初期評価報告書を作成し、OECDの初期評価会合に3物質の初期評価報告書を提出しました。また、18年に設置された「工業ナノ材料作業部会」では、工業ナノ材料に係る安全性評価の開発に関する国際協力が進められており、我が国も積極的に議論に貢献しました。

4 諸外国の化学物質規制の動向を踏まえた取組

 欧州(EU)では、平成19年6月に新たな化学物質管理制度であるREACH(化学物質の登録、評価、認可及び制限に関する規則)が施行されました(実質的な運用開始は20年6月から)。REACHには、既存化学物質・新規化学物質の扱いをほぼ同等にした新たな登録等の制度を始め、事業者へのリスク評価の義務づけ、流通経路を通じた化学物質の安全性や取扱いに関する情報共有の強化といった新しい考え方が盛り込まれています(図5-6-1)。このため、我が国でも化学物質を製造又は利用する様々な事業者の対応が求められているほか、化学物質管理の新たな方向性を示すものとして動向が注目されています。


図5-6-1 REACHの特徴

 こうした我が国の経済活動にも影響を及ぼす海外の化学物質対策の動きへの対応を強化するため、平成19年7月に化学産業や化学物質のユーザー企業、関係省庁等が幹事となり、「化学物質国際対応ネットワーク」(http://www.chemical-net.info/)が発足し、ウェブサイト等を通じた情報発信やセミナーの開催による海外の化学物質対策に関する情報の収集・共有を行いました。

 また、日中韓三カ国による化学物質管理に関する情報交換及び連携・協力を進め、平成19年11月には「日中韓における化学物質管理に関する政策ダイアローグ」を東京で開催し、各国の取組の現状及び今後の方針についての情報を共有し、共通の課題に対する今後の連携可能性について検討しました。



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