第2節 地球温暖化と世界の暮らし

 私たちの暮らしも、地球温暖化の原因である化石燃料の使用などを通じて、地球環境に影響を与えています。低炭素社会の構築に向けて、私たちは、エネルギー多消費型のライフスタイルを見直し、エネルギー資源を大切にする暮らしへと転換を図る必要があります。

1 世界の家庭用エネルギー消費

 エネルギーは、各国の経済社会活動の基礎であり、人々の生活にも不可欠です。地球温暖化の防止のためには、エネルギー消費に伴う二酸化炭素排出量を抑える必要があります。2005年(平成17年)の一人当たりの二酸化炭素排出量をアメリカ、ドイツ及びイギリスと比較してみると、アメリカが我が国の約2倍と突出して多く、特に運輸部門の全体に占める比率が31%と、イギリス(25%)、日本(21%)、ドイツ(20%)に比べ非常に高くなっています。また、我が国は産業部門の比率が36%となっており、ドイツ(30%)、イギリス(25%)、アメリカ(21%)と比較して高いことがわかります。他方、家庭部門の比率は、14%となっており、ドイツ(32%)、イギリス(32%)、アメリカ(23%)よりも低くなっています(図2-2-1)。


図2-2-1 一人当たり二酸化炭素排出量の国際比較(2005年)

 一人当たり及び世帯当たりの家庭用エネルギー消費量の推移(図2-2-2)を見てみると、我が国は、一人当たりでも世帯当たりでも消費量が他国と比較して少ないことがわかります。2005年における我が国の世帯当たりのエネルギー消費量は1.1TOE(石油換算トン)であり、イギリス(1.7TOE)、ドイツ(1.6TOE)、アメリカ(2.5TOE)と比較して低水準となっています。アメリカの一人当たりの消費量と我が国の世帯当たりの消費量は同程度であるといえます。しかし、次に見るように、我が国では家庭用エネルギー消費量が長期的に増加基調にあることが特色であり、増加を止め、減少傾向へと転じることが重要です。


図2-2-2 各国の一人当たり及び世帯当たりの家庭用エネルギー消費の推移

2 家庭用エネルギー消費の推移

 次に、家庭用エネルギー消費の推移について見ていきます。我が国の家庭用エネルギー消費量は、1970年では17,619KTOE(石油換算千トン)、1990年では38,123KTOE、2005年では54,743KTOEと、2005年の消費量は1970年の3.1倍、1990年の1.4倍と大きく増加してきています。図2-2-3は、1990年を基準年(1.00)として、家庭用エネルギー消費量とそれに関連する複数の指標の推移を示したものです。これを見ると、2005年における我が国の家庭用エネルギー消費量は、基準年から44%増加しており、他の3か国(アメリカ28%増、イギリス16%増、ドイツ0.7%増)と比較しても突出してその増加率が大きいことがわかります。また、我が国の最終エネルギー消費量は一貫して増加してきていますが、家庭用エネルギー消費量の増加率は、1982年以降、最終エネルギー消費量の増加率(15%増(2005年における基準年からの増加率))を上回って伸びてきています。また、GDPの増加に伴い、家庭消費支出も増加してきていますが、我が国の家庭用エネルギー消費量の増加率は、これら経済指標の増加率をも上回っています。また、我が国の人口は、2005年を境に減少に転じますが、他方、世帯数は引き続き増加基調にあり、2005年は21%増と、他の3か国(アメリカ17%増、イギリス14%増、ドイツ12%増)を上回る増加率で推移していることがわかります。


図2-2-3 各国の家庭用エネルギー消費と関連指標の推移

 これらを見てみると、我が国の家庭用エネルギー消費は、家庭でのエネルギー利用による様々な利便性や快適性の向上に起因する[1]世帯当たりのエネルギー需要の増加(家庭用エネルギー消費原単位の増加)と、[2]世帯数の増加により大幅に増えてきたといえます。我が国の世帯数は、2015年をピークに減少に転ずるとされていますが、それまで増加傾向は続くと推計されています(国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計」(平成20年3月))。世帯数の増加傾向が当面続く中、家庭用エネルギー消費量を抑えるためには、世帯当たりのエネルギー消費量の削減を進める必要があります。

 他の3か国について見てみると、イギリスでは、最終エネルギー消費量は小さく漸増し(12%増)、家庭用エネルギー消費量も基準年から16%増加しています。ただし、GDP(43%増)や家庭消費支出(50%増)などの経済指標の増加率と比べて、エネルギー消費量の増加率は小さくなっています。

 ドイツでは、家庭用エネルギー消費量が、近年、基準年に近づいていることが特徴的です。

 アメリカの最終エネルギー消費量は、1980年代は年率0.16%程度の増加水準にとどまっており、家庭用エネルギー消費量もこれに連動して同程度の増加水準となっていました。これは、石油危機によるエネルギー価格の高騰により石油を中心とした燃料消費量が増加せず、家庭用エネルギー消費原単位が改善されたためといえます。これが、石油価格が低下した1990年代に入ると、好調な経済成長にも支えられてエネルギー消費量が増加し、家庭用エネルギー消費量も大きく増加しています。

3 用途の違いからみた家庭用エネルギー消費

 世界の国々の家庭用エネルギー消費の構造は、気候風土や生活水準のほか、ライフスタイルや文化に応じて異なっています。ここでは家庭用エネルギーの用途の違いに着目し、エネルギー消費原単位の改善のための各国の取組について、考察していきます。

 先に見たように、我が国の世帯当たりの家庭用エネルギー消費量は、他の欧米先進諸国と比較すると少なくなっています。

 2006年度の我が国の世帯当たりの用途別エネルギー消費量の構成を見てみると、動力・照明他35.1%、給湯用31.2%、暖房用23.7%、厨房用7.9%、冷房用2.2%となっており、全国平均的に見ると、家庭における機器や給湯の使用によるエネルギー消費量が多いことが特徴となっています。これに対してイギリスやドイツでは、暖房用途が圧倒的に多いことが特徴的です(図2-2-4)。


図2-2-4 各国の世帯当たり用途別エネルギー消費量の推移

 イギリスやドイツの世帯当たりの暖房用エネルギー消費量は、我が国の3倍以上もあり、これが世帯当たりのエネルギー消費量の差をもたらす主要因であるといえます。これは、冬季の気温の差による暖房需要の違いもありますが、欧米各国では、住宅暖房システムは集中化(セントラル・ヒーティング)されて全館終日暖房となっている住宅が多く、この暖房形態の違いが、消費量の違いに影響しているといえます。


(1)建物のエネルギー効率改善に向けた取組

 ア EUにおける取組

 このように家庭用エネルギー消費量の大半を暖房用途が占める欧州では、家庭部門の省エネルギー対策として、断熱のための建物のエネルギー効率改善に関する対策に重点が置かれています。暖房と建物が一体化しているセントラル・ヒーティングが普及している欧州では、暖房効率の改善は、個別機器の入れ替えというよりも、住宅改修の一環として実施されることになります。そして、建物の多くが築年数が長く、設備が旧式であることから、古い建物の断熱化・機器交換等を進めることで、エネルギー効率の改善による大幅なエネルギー消費量の削減が見込まれます。

 そこでEUでは、「建物のエネルギー効率に関するEU指令」(2002年)により、加盟国に、[1]新築の住宅・建築物のエネルギー効率に関する最低基準の導入、[2]大規模な住宅・建築物の改修に関するエネルギー効率に関する最低基準の導入、[3]住宅・建築物のエネルギー効率証明書制度の導入等の国内制度を原則として2006年までに確立することを求め、多くの国で対応が進んでいます。[3]の建築物のエネルギー効率証明書は、建物を建築・販売・賃貸契約する際、所有者等に対してエネルギー効率の証明書の作成と掲示を義務付ける制度です。エネルギー効率に関する各種データを消費者に提供することで、消費者の選択基準に建物のエネルギー効率性が加わることになり、所有者側が省エネルギー改修などを行うインセンティブになります。「EUエネルギー効率アクションプラン」(2006年)では、EUはエネルギー効率の改善により、2020年までにエネルギー消費量の20%を削減できる潜在力があるとしていますが、このうち半分以上の11%分を建物のエネルギー効率の改善により達成することが可能であるとしています。

 さらに、EU指令に基づく規制的手法の他、各国は、エネルギー供給者への義務付け、消費者の自主的な対応を促すための補助金制度や税制の活用などにより、建物のエネルギー効率改善を進めるための各種取組を行っています。

 例えば、イギリスでは、エネルギー効率コミットメント(EEC)により、電力及びガスの供給者は国が義務付けた省エネルギー目標を達成すべく消費者に対して断熱等の省エネルギー策の支援・サービスを行うこととされています。また、ドイツでは、政策金融による支援に力を入れており、例えば、ドイツを代表する政策金融機関である復興金融公庫(KfW Förderbank)では、環境税収入の一部等が財源となっている融資プログラムを通じて、建物の断熱工事、旧式の暖房器具の交換、再生可能エネルギー設備の導入等に対して低率で貸付けを行い、省エネルギー支援を行っています。

 イ 我が国における取組

 我が国においても、必要な居住水準を確保しつつ、住宅・建築物本体の省エネルギー性能を向上していくために、今後さらに取組を進めることとしています。京都議定書目標達成計画では、新築時等における省エネルギー措置の徹底に加えて、既存の住宅・建築物ストックの省エネルギー性能の向上を図る省エネルギー改修を促進することとしています。

 新築時における措置としては、エネルギーの使用の合理化に関する法律(以下「省エネルギー法」という。)を改正し、住宅・建築物に係る省エネルギー措置の届出の義務付けの対象について、一定の中小規模の住宅・建築物(2,000m2未満)へ拡大するとともに、大規模な住宅・建築物(2,000m2以上)については、省エネルギー措置が不十分な建築主に対する命令を導入する予定です。

 また、融資等による支援、地域住宅交付金及び地球温暖化対策地域協議会への支援制度を活用した地域の創意工夫による省エネルギー住宅等の普及促進のための措置も行われています。

 既存の住宅ストックにおける省エネルギー措置としては、既存住宅において一定の省エネルギー改修(窓の二重サッシ化等)を行った場合の省エネ改修促進税制を創設するなど、省エネルギー改修を促進する仕組みに力を入れています。

 さらに、消費者等が省エネルギー性能の優れた住宅を選択することを可能とするため、住宅等に関する総合的な環境性能評価手法(CASBEE)や住宅設備を含めた総合的な省エネルギー評価方法の開発を推進し、省エネルギー性能の評価・表示による消費者等への情報提供を促進していく予定です。


(2)家電製品等のエネルギー効率改善に向けた取組と課題

 ア トップランナー基準に基づく取組

 我が国の世帯当たりの動力・照明他の使用によるエネルギー消費量は、ドイツの約2倍、イギリスの約1.5倍と、多いことが特徴です(図2-2-4)。このため我が国では、省エネルギー技術の開発を促し機器のエネルギー効率を高めるため、エネルギーを多く使用する機器ごとに省エネルギー性能の向上を促すための目標基準(トップランナー基準)を設け、規制しています。トップランナー基準は、エネルギー多消費機器のうち、省エネルギー法で指定するもの(特定機器)の省エネルギー基準を、各々の機器において、基準設定時に商品化されている製品のうち最も省エネルギー性能が優れている機器の性能以上に設定するというものです(図2-2-5)。これまで21機器が指定されており、個別機器の効率改善は確実に効果を上げてきています。今後更にトップランナー基準の対象を拡大するとともに、既に対象となっている機器の対象範囲の拡大及び基準の強化を図ることとしています。


図2-2-5 トップランナー基準の対象となる特定機器(21機器)とトップランナーの例

 イ 増加する家電製品等の使用によるエネルギー消費

 このように個々の機器のエネルギー効率を改善する取組は進められていますが、用途別家庭用エネルギー消費量の推移を見ると、我が国では、動力・照明他のエネルギー消費量が、2006年度には基準年度比50%増と、他の用途(給湯用(13%増)、暖房用(21%増)、厨房用(10%増)、冷房用(26%増))や他の欧米先進国と比較して大幅に増加しています。

 (ア)機器の増加に伴うエネルギー消費の増大

 我が国の家電製品等の世帯当たりの保有台数は全体的に増加傾向にあり、特に、エアコンやテレビについては一世帯当たりの保有台数が平均2.5台を超えています。また、現時点では総量に占める割合は大きくありませんが、パソコン、温水洗浄便座、DVDといった新しい機器によるエネルギー消費が近年増加しています(図2-2-6)。このような機器の増加傾向は、世帯当たりのエネルギー消費量を増加させる要因となっています。さらに、テレビや冷蔵庫に見られるような機器の大型化や多機能化も進んでおり、エネルギー消費量を増加させる傾向にあるといえます。


図2-2-6 主要耐久消費財の保有率と普及率の推移

 (イ)生活スタイルの変化に伴うエネルギー消費の増大

 生活スタイルが深夜化したことによるエネルギー消費量の増加も指摘されています。NHK放送文化研究所による日本人の生活時間の調査によると、1970年以降、日本人の睡眠時間は長期的に減少を続けてきています(図2-2-7)。これは家庭での機器の使用時間の増加など、様々な側面で家庭でのエネルギー消費の増大につながっていると考えられます。


図2-2-7 睡眠時間の時系列変化(国民全体・平日)

 (ウ)世帯構成の変化に伴うエネルギー消費の増大

 我が国では、先に指摘したように各国と比較して、基準年から世帯数が大きく増加しています。また、我が国の世帯当たりの人数の推移を見てみると、1970年には3.4人であったのが、2006年には2.6人と減少し、アメリカ(2.7人)よりも少なくなっています。いまだイギリス(2.3人)、ドイツ(2.1人)レベルではありませんが、1990年以降、少子高齢化の進行、核家族化、住居の個別化、晩婚化・未婚化等による単身世帯の増加などにより世帯当たりの人数は急速に減少してきており、その減少のペースは他の3か国よりも明らかに速いものとなっています(図2-2-8)。


図2-2-8 各国の世帯当たりの人数の推移

 この点、世帯人数とエネルギー消費量との関係を調査した結果によると、一人当たりのエネルギー消費量は、世帯人数の減少とともに大幅に増加し、1人世帯では4人世帯の約1.5倍になるとされています(図2-2-9)。世帯においては、給湯設備や冷蔵庫、洗濯機などの機器を共同で使用することが多いため、世帯数を構成する人数が少ないほど1人当たりのエネルギー消費量は増加するのです。このような我が国の家族を取り巻く環境の変化も、家電製品等の使用によるエネルギー消費量を増加させている大きな要因になっているといえます。


図2-2-9 世帯人数別1人当たりエネルギー消費量


学校のエコ改修


 学校は、教育の場であるとともに、地域社会の核であることから、地球温暖化対策を進める上でも重要な拠点です。このような認識のもと、環境省では、冷暖房負荷低減のための断熱改修や、太陽光発電等の再生可能エネルギーの導入、屋上緑化等を効果的に組み合わせ、二酸化炭素の排出を抑制しながら、児童生徒の快適な学習環境を確保する「学校エコ改修と環境教育事業」を平成17年度から実施しています。この事業は、ハード整備に加え、その改修過程を素材として、地域への環境建築等の技術普及や学校を核とする地域ぐるみの環境教育を展開することに大きな特徴があります。

 本事業による第一号校舎として、北海道寿都郡黒松内町立黒松内中学校のエコ改修が平成19年2月に完成しました。ガルバリウム鋼板と外断熱工法による断熱、断熱ペアガラス屋根による昼光利用、樹脂サッシの採用、ブナのフローリングなどによる内装木質化、照明の高効率化などを実施し、改修前よりも二酸化炭素排出量が約30%削減される見込みとなっています。


北海道黒松内中学校の自然光に溢れた「ひかりのみち」 写真提供:(株)アトリエブンク  撮影:吉田誠



4 エネルギー源の違いからみた家庭用エネルギー消費と二酸化炭素排出量

 次に、家庭用エネルギー消費をエネルギー源の違いから考察します。

 IEA統計による、日本、イギリス、ドイツ、アメリカの炭素集約度(エネルギー消費量単位当たりの二酸化炭素排出量)を比較すると、各国の炭素集約度は現在概ね同程度となっています(図2-2-10)。その推移を見ると、我が国においては、石油ショック以降、電源構成については石油依存度を低減させ、石油に代わるエネルギーとして、原子力、天然ガス等の導入を促進してきた結果、電力の二酸化炭素排出原単位は国際的にも低い水準にあります(図2-2-11)。これに伴い、炭素集約度も低下してきましたが、近年では横ばいとなっています。


図2-2-10 各国の炭素集約度の推移


図2-2-11 電力の二酸化炭素排出原単位(発電端)の国際比較

 我が国の家庭部門におけるエネルギー源の構成を見ると、2005年における構成比は、電力52%、石油29%、ガス17%、太陽光1%となっており、エネルギー源ごとの消費量は1990年と比べて、電力が81%、ガスが27%、石油が18%増加しています(図2-2-12)。我が国はイギリス、ドイツ等と比べると電力の割合が大きいことが特徴的です。このため、他国と比べると、電力の発電に用いる燃料(石油、石炭、天然ガス、原子力)の構成変化による電力の二酸化炭素排出原単位の増減は、家庭用エネルギー消費における炭素集約度に強く影響を及ぼすことになります。例えば、2005年度における家庭部門の二酸化炭素排出量は約174百万トンとなっていますが、この年度において原子力発電所が仮に2002年度に計画された設備利用率で運転していた場合、その実績と比べて850万トン削減されていたこととなります。


図2-2-12 各国の家庭用エネルギー消費の燃種構成の推移

 イギリスでは、基準年と比べて石炭の利用は83%減少し、その分、天然ガスの利用が増加しており、2005年では天然ガスの利用の割合が全体の約7割を占め、炭素集約度の最近の改善には著しいものがあります。イギリスにおいては、北海における天然ガス生産量の拡大、国内の電力市場の自由化と石炭産業に対する保護措置を縮小(民営化)したことにより、天然ガス化が進行しました。天然ガスは、化石燃料の中でも石炭や石油と比べて燃焼時の二酸化炭素排出量が少ないため、炭素集約度は大きく低下し、家庭部門における二酸化炭素排出量の減少に寄与しています。

 ドイツにおいても、石炭の利用が減少し、反対に天然ガスの利用が増加することにより炭素集約度を低下させています。ドイツにおいては、1990年の東西統合以降、旧東ドイツ地区における築年数の古い住宅の断熱化や機器交換を進めたことによる建物のエネルギー効率の改善に加え、この地域での石炭から天然ガスへの燃料シフトが、家庭部門の二酸化炭素排出量の減少に大きく寄与したといわれています。また、ドイツでは、太陽熱発電やバイオマスによる地域暖房の利用の増加も家庭部門の二酸化炭素排出量の削減に貢献していると報告されています。世界の再生可能エネルギーに関する動きついては第1節で取り上げましたが、家庭部門においても、省エネルギー対策とともに、暖房や給湯などの低温熱需要における太陽熱利用や太陽光発電の設置など、再生可能エネルギーの利用が期待されています。


我が国の家庭部門からの二酸化炭素排出量


 我が国では、電気事業者の発電に伴う二酸化炭素排出量と、熱供給事業者の熱発生に伴う二酸化炭素排出量を、電力・熱の消費量に応じて産業、運輸、業務その他、及び家庭部門に配分(電気・熱配分)したデータを作成し、公表しています。我が国の二酸化炭素総排出量に占める家庭部門からの直接の排出量は、電気・熱配分前では約5%ですが、電気・熱配分後では、電気事業者の発電に伴う二酸化炭素排出量をエネルギー転換部門ではなく家庭部門でカウントすることになり、13%になります(図2-2-13)。2006年度の家庭部門の二酸化炭素排出量は、電力・熱配分後の数値でみると、基準年比30%増加しています。この間、二酸化炭素排出原単位はいったん大きく低下しましたが、原子力発電設備の利用率の低下などの影響により、発電構成比のバランスが大きく変化したことから、基準年とほぼ同じ水準になりました。したがって、家庭部門の二酸化炭素排出量の基準年比30%の増加は、家庭におけるエネルギー消費量の増加とほぼ比例したものとなっています。


図2-2-13 二酸化炭素排出量の内訳(電力・熱配分前後)



5 暮らしを見直す

 私たちの住まい方、使い方、選び方により、エネルギー消費量は変わってきます。無駄なエネルギー消費をなくし、二酸化炭素排出量を削減するためには、人々が環境に対して関心を持ち、自分の問題として捉え、さらにその関心が実際の行動に結びつくことが重要です。


(1)暮らしとエネルギー消費の関係について知る

 居住者の家庭用エネルギーに対する認識について調査した結果によると、家庭用エネルギーの用途は、暖房が最大用途と回答した世帯が全世帯の40%、エネルギー消費量が実際は2%と少ない冷房が最大用途と回答した世帯が全世帯の30%と、約7割の人が暖房又は冷房用のエネルギーが一番多く家庭で消費されていると認識していることがわかりました。また、給湯(この場合は厨房を含む。)が家庭用エネルギー消費量の多くを占める実態(39%)を把握している世帯は全体の16%と少なく、認識と実態の乖離があることが指摘されています(図2-2-14)。


図2-2-14 家庭におけるエネルギー消費の実態と認識の乖離

 自分自身の生活行動とエネルギー消費の関係について、正しい認識を持つことが、家庭用エネルギー消費の削減につながります。そこで、エネルギー消費量や二酸化炭素排出量等の情報を提示し、「見える化」することで、生活者の省エネ・省CO2意識を喚起し、行動を促す試みが始まっています。例えばイギリスでは、家庭での電力使用量を数値化し、リアルタイムで表示することができる「スマートメーター」の全家庭への導入に向けて取り組んでいます。我が国においても、現在の電力消費量と金額を知らせるとともに、利用者自身が決めた省エネルギー目標を超えると知らせる「省エネナビ」などの「見える化」するための機器の普及が進められています。


スマートメーター(左)と省エネナビ(右)の例(写真提供:More Associates、(財)省エネルギーセンター)


(2)省エネルギー行動を実践する

 自分自身の暮らしとエネルギー消費の関係について認識した上で、私たちは行動により、エネルギー多消費型の生活から、エネルギー資源を大切にする暮らしへと転換していくことが必要です。

 我が国の総理大臣をチームリーダーとする地球温暖化防止のための国民運動「チーム・マイナス6%」では、6つの具体的な温暖化防止の行動やクールビズ、ウォームビズなどを提唱しているところですが、このほかに、「めざせ!1人、1日、1kgCO2削減」キャンペーンとして、国民からの「私のチャレンジ宣言」の受付等を行っています。これは、冷暖房の温度調節、商品の選び方、自動車の使い方、電気の使い方などについて、身近なところでできる地球温暖化防止メニューの中から個人が「実践してみよう」と思うものを選び、毎日の生活の中で1人1日1kgの二酸化炭素排出量削減を目指そうとする取組です。平成20年4月末現在、約59万9千人の人がチャレンジ宣言を行っています。

 これらのメニューを毎日の生活の中で心がけて実践することが大切ですが、意識による行動の実践とともに、省エネ機器の普及促進や省エネ設備の導入など、省エネルギー技術を活用した対策も大きな効果が期待されます。例えば、我が国は他国と比較してお風呂に入る回数が多く、給湯用のエネルギー消費量が多いですが、家族が入浴の間隔を空けずに入る、シャワーの使用時間を1日1分短くするといった行動の実践とともに、給湯エネルギーについては、太陽熱の利用や高効率の給湯器の導入など、設備面での対策が有効です。従来の燃焼系給湯器をCO2冷媒ヒートポンプ給湯器に換えると、一次エネルギー使用量を約3割、二酸化炭素排出量を約半分削減することができます。

 また、照明についても、エネルギー消費の多い白熱灯から、省エネルギー型の蛍光灯やLED(発光ダイオード)照明に転換する動きが、世界の家庭やオフィス、街灯などで広がってきています。

 省エネ機器の普及については、環境省と経済産業省の協力の下、家電メーカー、小売事業者及び消費者団体など関係者が連携しながら省エネ家電普及促進フォーラムを設立しています。

 また、住宅については、ITの活用により、エネルギーの使用状況をリアルタイムに表示し、また室内状況に対応して照明・空調等の最適な運転を行う省エネルギー管理システムの技術開発も進んでおり、活用が期待されています。

 さらに、暮らしの場となる住まいそのものについても、環境の面から見直そうとする視点も重要です。住宅については、「つくっては壊す」フロー消費型から、「いいものをつくって、きちんと手入れして長く大切に使う」ストック型への転換が求められています。住宅の価値をエネルギー効率性などの環境の視点からも適切に評価することや、長期にわたって使用可能で環境性能にも優れた住宅(200年住宅)を普及させていくことが、低炭素社会に向けて求められているといえるでしょう。


LEDを使用したクリスマスイルミネーション(左:パリ・シャンゼリゼ通り、右:六本木けやき坂通り)(写真提供:カイエ・ド・パリ、森ビル(株))



(3)エネルギー資源を大切にする暮らしへ

 低炭素社会に向けては、エネルギー多消費型の生活から、環境を大切にすることを価値として認めるライフスタイルへの転換を進める必要があります。そして、低炭素社会への移行に当たっては、地球環境を考え、環境への負荷が少ないものを選択し、環境に配慮した暮らしをする生活者が大きな役割を果たします。低炭素社会の構成員は私たち一人ひとりです。

 世界では、16億人が電気のない暮らしをし、エネルギーの貧困に苦しんでいます。また、地球の人口は現在67億人ですが、2050年までにはアジアを中心に人口が増え、その数は90億人を超えるといわれています。人口が増え、人々が豊かな暮らしを求めるようになると、より多くのエネルギーが必要となり、二酸化炭素排出量も増え、地球温暖化はますます深刻なものになると予想されています。そして、地球温暖化が進行すると、その影響と考えられる変化により、暮らし自体が失われていくおそれがあることを私たちは心に留める必要があります。低炭素社会へと動き出した世界の中で、私たちは、次代を担う世代のために、エネルギー資源を大切に使う暮らしへと今、転換しなければなりません。


エコポイント ~ポイント制度が行動を変える~


 家庭部門の温室効果ガスの削減の「決めて」となる手法として、国民に身近で、わかりやすい形で一人一人の努力を促すエコポイントが注目されています。エコポイントは、省エネルギー型の商品やサービスの購入・利用、又は節電等の省エネ行動に対してポイントが付与され、ポイントを商品等経済的に価値を有するものに交換できるものです。

 現在、地域レベルで、スーパーなどでレジ袋を辞退する、自動車の利用を控え電車を利用して買い物に出かけることに対して、エコポイントを付与する取組が始まっています。また平成19年のボーナス商戦では、一部の家電量販店で、省エネルギー家電の購入によるポイントアップや特別値引き等の取組も行われたところです。

 このような動きを全国的に展開していくため、環境省では、平成20年度より経済的に自立したビジネスモデルとして立ち上げられるエコポイントのモデル事業を推進しています。具体的には、公募で採択された3件の全国的に事業を展開する事業、9件の地域レベルで実施される事業について、エコポイントシステムの立ち上げ及び試行の実施を支援します。

 全国型の事業は、家電や鉄道等複数の異業種事業者の連携により共通のエコポイントを全国規模で発行するもの、地域型の事業は、商店街等地域の多様な事業者が参加し地域活性化と一体となって進める事業、省エネ型集合住宅開発事業と一体となって進められる事業、家庭への宅配の省CO2化を図る事業など多様な事業が選定されました。これらのモデル事業の実施等を通じ、幅広い国民の参加を得たエコポイントを本格展開していきます。(図2-2-15)


図2-2-15 環境省が推進するエコポイント事業のイメージ




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