総説2 我が国の循環型社会づくりを支える技術
─3R・廃棄物処理技術の発展と変遷─


はじめに

廃棄物の発生は、人間の活動において避けて通れないものです。発生した廃棄物は、衛生的かつ環境保全に配慮して速やかに処理・処分される必要があります。廃棄物は、どの国でも発生することから、廃棄物問題への取組は、その国の環境問題への取組の尺度ともなります。
我が国では、戦後の高度経済成長の過程で廃棄物問題への取組が後手に回り、結果として大規模な不法投棄や有害物質の蓄積を招きました。また、狭い国土であるがゆえに廃棄物の最終処分場の不足が深刻な問題となりました。これらの経験を経て、過去十数年において廃棄物・リサイクル政策の分野で大きな改革を成し遂げました。そして、現在では、3R(廃棄物の発生抑制(Reduce:リデュース)、再使用(Reuse:リユース)、再生利用(Recycle:リサイクル))を通じて、天然資源の消費を抑制し環境への負荷を低減する循環型社会の構築に取り組んでいます。
我が国における循環型社会への取組は、国だけでなく、地方公共団体、事業者、国民など各階各層の絶え間ない努力によるものです。そして、その基盤となったのが廃棄物処理や3Rに関する技術です。経済社会活動が拡大し、人々の暮らしが豊かになるにつれて、廃棄物の発生量は増大し、質も多様化しています。こうした変化に対応して廃棄物対策技術も進化し、廃棄物・リサイクル政策分野での改革により、優れた技術が導入されるようになりました。また、天然資源が乏しい我が国には、リサイクル技術により資源を有効に活用する豊富な経験があります。
今日、廃棄物の問題は日本だけでなく、世界共通の問題でもあります。発展途上国の中には、急速な経済成長による廃棄物発生量の増加への対応に苦慮している国があります。また、金属くずや古紙などに代表される循環資源は国内だけにとどまらず国境を越えて移動しています。さらに、天然資源の持続可能な利用が世界的な課題となっています。
こうした現状を踏まえ、本年度の白書では、我が国の循環型社会づくりを支える技術に焦点を当て、3R・廃棄物処理技術の変遷とともに、技術の役割を評価し、今後の進展を展望することとしました。技術を取り上げることで、次の二つの効果が上がることが期待されます。第一に、3Rや廃棄物処理に対する私たちの理解が深まることです。廃棄物は日常生活からも排出されており、誰もが廃棄物問題の被害者であると同時に加害者でもあります。したがって、自らが排出したモノがどのようにリユース、リサイクルされるのか、そして廃棄物として適正処理されるのか、そのプロセスを理解することは重要です。そのプロセスを構成しているのが様々な技術です。技術を通じて3Rや廃棄物処理のプロセスを理解することで、排出者としての自覚が芽生え、3Rの取組を促進することになります。第二に、技術を理解することが、その開発や導入に携わる人々への励みになることです。3Rや廃棄物処理の基盤となる技術は、多くの技術者や専門家、研究者の苦労や試行錯誤の末に開発され導入されたものです。したがって、技術を理解することはこれらの人々の努力を理解することでもあり、こうした人達が更に高度な技術の開発に取り組む契機ともなりえます。
総説2の構成として、国際的な3R推進の必要性と日本の技術への期待を明らかにした後で、我が国の循環型社会を支える基盤技術について、用途ごとに見ていきます。そして、これらの技術の開発・導入を促進してきた政策について概観し、今後の3R・廃棄物処理技術を展望します。

第1節 国際的な3R推進の必要性と我が国の技術への期待


1 世界的な廃棄物問題とアジアの現状

アジアを中心とした国際的な経済成長と人口増加に伴って、世界的に廃棄物の発生量が増大しています。また、医療廃棄物や廃電気電子製品(E−waste)など、廃棄物の質も多様化しています。さらに、資源やエネルギーの需要拡大に伴って価格も上昇し、この傾向は金属くずや古紙など循環資源にも及んでいます。
平成17年4月に我が国で開催された3Rイニシアティブ閣僚会合で、各国は、地球規模の共通の課題として、廃棄物発生量の増加と持続可能でない廃棄物管理に直面していることを強調しました。岡山大学が行った世界の廃棄物発生量に関する将来予測によれば、2000年(平成12年)現在で世界の廃棄物の総排出量は約127億トンであり、2025年には約190億トン、2050年には約270億トンと見積もっています(図4-1-1)。その中でも、特に、アジア地域における伸びが大きくなっています。

図4-1-1世界の廃棄物排出量の将来予測

とりわけ、経済成長著しい中国では、1995年(平成7年)から2004年(平成16年)の9年間に廃棄物全体の排出量が1.8倍になっています(図4-1-2)。こうした中国の現状に対して、OECDが2006年(平成18年)に実施した環境政策レビューでは、中国政府に対し、循環経済に向けた取組を強化するとともに、廃棄物処理施設の整備や廃棄物の回収・再利用・再生利用のシステムの構築を進めることなどを勧告しています。

図4-1-2中国における廃棄物排出量の推移

また、廃棄物処理に関係して、悲惨な事故が起きた例もあります。インドネシア・バンドン市などの廃棄物が運び込まれていたルイ・ガジャ最終処分場では、谷間を堰き止めて廃棄物を埋め立てていましたが、2005年(平成17年)2月、3日間にわたる豪雨の後に崩落するという事故が起きました。崩落により、約86万トンの廃棄物が、長さ1km、幅200〜250mにわたって流出し、147名の死者を出すという大惨事となりました。さらに、最終処分場という“出口”を失った廃棄物は、街角のあちこちに放置されるという事態となりました。
一方、近年、使用済みのテレビ、パソコン、冷蔵庫などの廃電気電子製品の発生量が増加しており、リサイクルや処分を目的とした輸出入も急増しています。これらの廃電気電子製品の中には、鉛などの有害物質が含まれているものもありますが、途上国では、環境上不適切な形でリサイクルが行われているケースが報告されています。

2 資源・エネルギーの逼迫

中国などの旺盛な資源需要を反映して、天然資源の価格の高騰が生じています。これと連動して、金属くずや古紙などの循環資源の価格も高騰し、その越境移動も活発になっています。社団法人日本鉄リサイクル工業会の調査によれば、国内の鉄スクラップの価格は、平成15年12月に1トン当たり2万円であったものが平成18年12月には3万円を超えています(図4-1-3)。また、財団法人古紙再生促進センターによれば、古紙価格は近年上昇傾向にあり、段ボールでいえば、平成14年に1kgあたり6円であったものが、平成18年には10円程度となっています。

図4-1-3鉄スクラップの価格の推移

我が国においては、中国をはじめとしたアジア諸国への循環資源の輸出量が増加傾向にあります。廃プラスチックなど有価で流通している循環資源の貿易における取り扱いについては、他の素材や製品と同様になっており、中国を始めとした東アジア諸国の経済発展に伴う資源需要の増大につれて、これらの国々への輸出量が近年急増してきています(図4-1-4)。例えば、日本から中国への鉄鋼くずの輸出量は、平成7年には約33万トンであったものが、平成17年には約346万トンとなり、この10年間で約10倍以上に急増しています。このように循環資源の移動は国内では完結せず、国際的に拡がっています。

図4-1-4循環資源の輸出量

エネルギー需要も同様に大きく伸びています。これに伴い、エネルギー価格も高騰しています。原油価格は、平成13年には、1バレル約25ドルで取引されていたものが平成18年には2.5倍の1バレル約64ドルとなりました(図4-1-5)。

図4-1-5原油の輸入CIF価格の推移

国際エネルギー機関(IEA)によれば、世界の一次エネルギー需要は、エネルギー・環境分野における現行政策が大きく変化しない場合には、2003年(平成15年)から2030年(平成42年)の間に約50%増加すると見込まれています(図4-1-6)。特に、2030年(平成42年)には中国及びその他のアジア諸国の占める割合が世界全体の30%まで増加すると試算されています。
また、化石燃料の燃焼などにより膨大な量の二酸化炭素が人為的に大気中に排出されており、地球が過度に温暖化するおそれが生じています。地球温暖化の進行に伴い、人類の生活環境や生物の生息環境に広範で深刻な影響が生じるおそれがあり、3Rを推進していく上でも二酸化炭素など温室効果ガスの削減が国際的な課題になっています。

図4-1-6世界の一次エネルギー需要の見通し(総量)


3 3Rイニシアティブと我が国の技術への期待

こうした世界的な廃棄物問題の深刻化と、資源・エネルギーの逼迫は、国際的な循環型社会を構築することの重要性を示しています。循環型社会基本法では、「循環型社会」について、製品等が廃棄物等となることを抑制し、排出された廃棄物等についてはできるだけ資源として適正に利用し、最後にどうしても利用できないものは適正に処分することが徹底されることにより実現される、天然資源の消費が抑制され環境への負荷が低減される社会と定義しています。国際的な循環型社会とは、この定義を国際的に拡げたものと考えることができます。平成18年版循環型社会白書では、国際的な循環型社会構築に当たっての基本的な考え方として、まず1)各国の国内で循環型社会を構築し、次に2)廃棄物の不法な輸出入を防止する取組を充実・強化し、その上で3)循環資源の輸出入の円滑化を図ることの三点を挙げました。
我が国は、こうした国際的な循環型社会の構築に向け、「3Rイニシアティブ」を推進することにより、世界の中で主導的な役割を果たしています。平成16年のG8シーアイランドサミット(米国)において、我が国の小泉首相(当時)は、資源及び物質のより効率的な使用を奨励するために、3Rの取組を国際的に進める「3Rイニシアティブ」を提唱し、G8の各国首脳の間で合意されました。
これを受けて、平成17年4月には、東京で3Rイニシアティブ閣僚会合が開催され、3Rに適した技術の推進が議題の一つとして取り上げられました。同会合では、持続可能な生産・消費パターンを実現する上で、技術の役割は極めて重要であり、3Rに関する技術は、環境保全だけでなく、社会の潜在的需要を引き出す新しい価値創造や産業界の効率化を促進することが参加者の間で認識されました。また、研究及び技術革新が必要な分野として、再生産、廃棄物の最小化、リサイクル、リカバリーなどのクリーン技術、資源効率性を向上させ環境負荷を低減化するためのエコデザインなどが挙げられました。
3Rイニシアティブ閣僚会合において、我が国は「3Rを通じた循環型社会の構築を国際的に推進するための日本の行動計画」(ごみゼロ国際化行動計画)を発表しました。この行動計画では、ごみゼロ社会を世界に広げるための国際協調として、アジアにおけるごみゼロ化のための知識基盤・技術基盤を強化することなどを我が国の行動として挙げています。また、行動計画の中で、ゴミゼロ社会を世界に広げるための国際協調の一環として、「東アジア循環型社会ビジョン」を平成24年までに策定することとしています。
3Rイニシアティブ閣僚会合のフォローアップとして、平成18年3月には、3Rイニシアティブ高級事務レベル会合が東京で開催されました。この高級事務レベル会合においても、3Rに関連した技術の開発や移転について議論され、3R関連技術について、特定の国やコミュニティに応じて発展の程度や社会経済条件が異なるため、その経済性が重要であることなどが指摘されました。
さらに、平成18年10月には、アジアの19ヵ国と8国際機関が参加して、「アジア3R推進会議」が東京で開催されました。会議では、3Rの総合的な推進に加え、生ごみの3Rや、電気電子廃棄物(E-waste)の3R、医療廃棄物対策について、各国、国際機関や国際的なNGOのネットワーク、企業などから各々の3Rに係る具体的な取組が紹介され、活発な議論が行われました。参加者はアジアにおける3R推進の重要性を共有するとともに、今回の会議がアジア各国、国際機関の政策担当者が3Rに関し議論する初めての機会となったことを評価しました。また、3R推進のために技術は重要な要素であり、必要とされる技術は必ずしも最新のものではなく、環境上適正で経済的に見合い、社会的に受容されるものであることなどが確認されました。
このように、我が国は、3Rイニシアティブを通じて、国際的な循環型社会の構築に先導的な役割を果たしてきており、各国・国際機関から日本のイニシアティブを高く評価されています。そして、平成20年には我が国がG8議長国となることから、引き続きG8サミットに向け、国際的なリーダーシップを発揮して3Rイニシアティブを推進していくこととしています。このリーダーシップの発揮において、3Rを具体的に推進するための技術面での貢献が期待されています。特に我が国には、3Rや廃棄物処理の分野で、優れた技術があります。次節では、これらの技術のうち、代表的なものについて取り上げていきます。

写真アジア3R推進会議の風景



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