環境省総合環境政策社会的責任(持続可能な環境と経済)に関する研究会

社会的責任(持続可能な環境と経済)に関する研究会
企業におけるCSRの取組の現状について(第1回)
議事録


  1. 日時:平成16年9月30日(金) 13:30~15:30
     
  2. 場所:三田共用会議所 C・D・E会議室
     
  3. 出席者
    メンバー(五十音順): 11名
    秋山  裕之 
    足達  英一郎 
    荒井  喜章 
    大久保  和孝 
    黒田  かをり 
    五所  亜紀子 
    齊藤  弘憲 
    酒井  香世子 
    坂口  和隆 
    長沢  恵美子 
    山田  真理子 
    スーパーバイザー(五十音順、敬称略): 2名
    大木  壮一
    後藤  敏彦
    オブザーバー(五十音順): 4名
    厚生労働省2名
    経済産業省1名
    農林水産省1名
    事務局: 6名
    鎌形  浩史
    川野  光一
    瀧口  直樹
    石川  宣明
    藤原  敬明
    島川  崇
     
  4. 議題
    (1)研究会の趣旨及びスケジュール(案)
    (2)企業のCSR取組における現状認識について
    (3)「市場の進化」と社会的責任経営を目指す取組はどこまで現実的か
      ・経済同友会 企画部企画グループ マネージャー 齋藤 弘憲
    (4)企業の自発的な取組事例について
      ・松下電器株式会社 環境本部参事 荒井 喜章
      ・富士ゼロックス株式会社環境経営管理グループ長兼CSRグループ長 秋山 裕之
    (5)質疑応答・意見交換
     
  5. 配布資料
    社会的責任(持続可能な環境と経済)に関する研究会について
    資料1-1 議事次第
    資料1-2 メンバー名簿
    資料1-3 座席表
    資料1-4 企業のCSR取組における現状認識について
    資料1-5 「市場の進化」と社会的責任経営を目指す取組はどこまで現実的か
    参考資料
     ・サステナビリティレポート2004(富士ゼロックス株式会社)
     ・CSRコミュニケーションレポート2004(株式会社損害保険ジャパン)
     ・エコマーク取得ガイド(財団法人日本環境協会)
     
  6. 議事内容(発言者ごとに発言内容を記述):

事務局(川野補佐)
 本研究会では、企業、コンサルタント、NPOなど最前線で活躍しておられる若手の方々にお集まりいただき、議論をしていただきたいと考えております。また、本研究会は全5回の開催を予定しております。
 それでは、総合環境政策局環境経済課長の鎌形より開会の挨拶をいたします。

事務局(鎌形課長)
 鎌形でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
 私、この仕事に就きましたのはこの4月からでございます。課の仕事を把握するために課の職員に対して、「CSRとは具体的にどのような範疇のものなのか、どのような経緯で捉えていくものなのか」など非常に素朴な質問をしたところ、その答えは「色々です」ということでした。この色々というのは、色々な取組がなされているという意味と、色々な人が色々なことを言っているという意味だと理解しました。したがって、これからしっかりと勉強しなければならないと思いました。たまたま、このような研究会を開催するという意見があり、それならば是非行おうということで皆様にお集まりいただきました。
 私事ですが、20年前に環境庁に勤めてから水俣病問題に関わる仕事が多くありました。この水俣病問題というのは、企業と環境との関係が非常に古典的な構造になっていたと思います。この問題にかかわるのは、加害者企業であるチッソ、被害者、そして行政でありました。企業の行動は当時ではまだ関係法制度は未整備だったとはいえ、基本的な法的責任、社会的責任を果たさないという事態の中で、この問題が生じました。このような時代を経て現在、地域社会を含めた関係者の数、また企業が関わる問題の数も非常に拡大してきました。現在の企業を巡る状況は非常に複雑であると言えます。その意味で、企業の社会的責任と言った時、その答えが「色々です」というのは当然のことだと考えています。
 しかしながら、このテーマでしっかりと研究して、色々な人がどのようなことを考えているかも含めて勉強し、我々も施策的にどのようなことができるかを考えていきたいと思います。皆様、どうぞよろしくお願いいたします。

事務局(川野補佐)
メンバー紹介
スーパーバイザーの紹介
事務局の紹介
議事進行は日本総研へ。

事務局(藤原)
 進行を勤めさせていただきます、日本総研藤原でございます。CSRに関する取組、議論は、国内外でかなり進められております。しかし、CSRの現状のギャップや課題なども多く聞かれます。本日お集まりいただいたメンバーの皆様は、各分野の前線で活躍され、CSRについて豊富な知識をもっている方々ばかりです。これからの議論の中で、ネガティブな課題も含め、様々なご意見をいただければ幸いだと思っております。
 配布資料の確認。
 それでは、本研究会の趣旨について、鎌形課長より説明を行います。

事務局(鎌形課長)
 まず、先ほど挨拶でも言いましたが、本研究会はCSRにおける色々について皆様で話し合っていこうというものです。結果として色々は色々のままかもしれませんが、皆様で様々な事例や考え方を話し合って、その色々がより一層深まることを期待したいと思います。この研究会の特徴は、一つ目として若手の方が集まっていること、そして二つ目として、企業の社会的責任に関する研究会ですが、様々な分野の関係者にお集まりいただいて議論すること、すなわちマルチステークホルダーによって議論を行うことであります。その中で、企業の社会的責任に関して、環境問題を軸に議論していただければ幸いです。
 次に、研究会の進め方ですが、先進的な取組や現状報告などを皆様に発表していただいていく中で、社会的存在としての事業者のあり方やCSRを考えていこうと思っております。
 また、スケジュールに関しては、全5回を考えております。本日第1回は「企業におけるCSRの取組の現状について」というテーマで、企業の方が現在どのような取組を行っているのかなどについて話し合っていきたいと思います。第2回は「ステークホルダーの意識と取組の現状」というテーマで、CSRに関して様々なステークホルダーがどのような意識をもっているかについて発表を中心に議論したいと思います。第3回は「持続的な環境経済社会実現のための方策」というテーマで、企業が持続的な環境経済を実現するための課題や方策などを考えていきたいと思います。第4回は「日本型環境経済社会システムのアジアへの進展」というテーマで、日本の経験をアジアに発信していくことなどに関して考えていきたいと思います。第5回は「社会的責任(持続可能な環境と経済)にむけた官民の役割」というテーマで、官民はCSRに関してどのような役割を果たしていかなければならないのかなどについて考えていきたいと思います。

事務局(藤原)
資料1-4「企業のCSR取組における現状認識について」を説明。

齊藤メンバー
資料1-5「『市場の進化』と社会的責任経営を目指す取組はどこまで現実的か」を説明。

荒井メンバー
松下電器の自発的な取組事例について説明。

秋山メンバー
富士ゼロックスの自発的な取組事例について説明。

事務局(藤原)
 今、荒井メンバー、秋山メンバーより企業の自発的な取組事例について説明がありましたが、スーパーバイザーの後藤様、大木様、ご意見をお願いします。

後藤スーパーバイザー
 素晴らしい先進的な取組をご発表いただきありがとうございます。
 現在懸念されていることは、あまりCSRに取組み過ぎると、本来サスティナビリティにとって重要な環境が沈没してしまうのではないかということです。ここに環境省さんがCSRに取組むことの意義があるのではないかと思い、したがってこの視点は忘れてはいけないと思います。
 第3回で「持続的な環境経済社会実現のための方策」、第4回で「日本型環境経済社会システムのアジアへの進展」というテーマがありますが、これからの議論の中で、特にアジアと一体でサスティナビリティに取組む場合、社会システムや、企業の場合大企業・多国籍企業だけでなく、中小企業が大企業と同じようなCSRに取組めるようにすることが重要だと思います。当然中小企業が社会から期待されていることは、大企業とは違います。しかし、それに答えることは中小企業のCSRとして必要なことです。これがサステイナブルな社会を構築する上で、おそらく環境への取組を中心に、社会システム的なことで取組んでいかなければならないと思います。こういったことに関して、大企業の方々は多くの中小企業を持つサプライチェーンの中で取組んでいかなければならないと思います。これからの議論の中で、このようなシステム的な取組に関する議論を深めることも大切だと思います。また、企業の取組といった場合、多国籍企業の取組と、地場企業の取組を明確に分けることが必要だと思います。

大木スーパーバイザー
 大変素晴らしい発表を行っていただきありがとうございます。
 個人的な見解ですが、私のCSRに関する考え方は、新しい分配論にあります。これはもともとやっていたことなのですが、日本の企業は株主のものではなくて、従業員、サラリーマン経営者のものだったのが、最近は株主のものになって、もっと違うものになってきていると言えるかもしれません。その意味で、企業は本当にお世話になった方、資本家であれば配当・利益、従業員であれば給与、社会には税金、という形で返還しています。また、負担をかけているものについては返すことはできないので、例えば地球であれば、負担を軽減しています。このように貢献していると思います。このような分配論が叫ばれてきたのは、情報技術やネットワーク、方法論が発達してきて市場が評価できるようになったからであると思います。そのような中で、この研究会で考えていただきたいのは、方法論一つ一つを育てていくことです。例えば、評価システムはNPO、ステークホルダーの評価がなければできません。このようなものを蓄積していく中で捉えていってもらいたいと思います。

事務局(藤原)
 本日は第1回ですので、先ほど発表された以外の方に自己紹介を兼ねて、現在の取組やお考えをお聞かせください。

足達メンバー
 日本総合研究所の足達でございます。弊社で事務局を拝命させていただいておりますが、私の立場はそこからは離れ、ステークホルダーの一員として研究会に参加させていただきたいと思います。
 エコファンドを日本に導入することに携わりもう5年が経ちます。損害保険ジャパンの酒井さんとも、歩調を取りながら、このようなことは社会に対してきっとポジティブな役割を何か生み出すと考え取組んできました。私どもの力不足もあり、現在一つの踊り場を迎えていることも事実であると思います。残高、投資家の関心という観点から申し上げてもそうであります。一方で、先ほど荒井さんの発表にもありましたように、日本では、企業の方々の方がイニシアティブを持って、このような社会システムを作らなければならない、あるいは作るべきだとして発言されています。これらのギャップに最近モヤモヤとしたものを感じております。このギャップをどのように埋めるかということが目下の関心事であります。
 したがって、これまでCSRとは何かという議論を尽くしてきた感がありますが、むしろこの研究会がジャンルを問わず、社会のためにポジティブになることを、先ほどの斎藤さんの言葉を借りれば、市場のメカニズムのようなものに乗せる、企業の取組が評価される、社会のニーズを企業がつかむ、そのためにどんな仕組みづくりがあるのかということを考えたいと思います。具体的には、昨年環境報告書を制度化するという動きがありました。  これに対しては、ネガティブな意見、ポジティブな意見、双方がありましたが、私は、違う法律ができたから終わりにして良いということではなく、何がポジティブ、良さであるのか、あるいは企業の自主的な取組にゆだねるべきということであれば、制度化はなぜ悪いのか、それではその代替になる情報提供の仕組みはどのようなものが望ましいのかという議論を粘り強く続けていかなければならないと思います。この研究会では、そのような具体的な議論ができれば良いと考えております。

大久保メンバー
 新日本監査法人の大久保でございます。私は、コンプライアンスというアプローチからCSRに取組んでまいりました。これまで、ECS2000というコンプライアンス基準の策定や、企業経営からCSRを捉えてきました。また、社会責任フォーラムのようなNPOも先月立ち上げ、そこで評議員も行っております。これまで色々とCSRの議論を行ってきましたが、自分としても分からなくなってきて悩んでいることがあります。
 CSRは経営そのものであり、CSRイコール環境ではないと考えています。経営における重要なファクターとは何かということは常々企業が考えていることであります。その中で、日本では環境が大きなファクターになっているのだと思います。その際に、CSRは名詞ではなく、動詞であると最近気が付いてきました。CSRを一つの社会運動として位置付けた場合に、海外におけるCSRの位置付けと、日本におけるCSRの位置付けをどのように考えていくべきかを考えております。やはり日本は日本としての考えをもっと明確に確立し、それを海外に出していっても良いと思っております。GRIなど様々な基準があり、私も多くの現場を回っておりますが、あまり考えず形式の部分のみを議論しがちであります。この研究会では是非日本におけるCSRをどのような運動として捉えていくべきかについて、特に重要な環境というファクターについて考えていきたいと思っております。

黒田メンバー
 CSOネットワークの黒田でございます。私はNPOでございますので、直接企業のCSRに関して取組んでいるというわけではございません。しかし、ステークホルダーの一員としてCSRを推進するためにNPOがどのような役割を果たしていけるかということに関して一番関心があります。私ども昨年イギリスのシンクタンクと一緒にCSRにおけるNPOの役割のようなセミナーを行いました。
 先ほど事務局の発表の中に、日本ではNPOからのプレッシャーがあまりないという話がありましたが、確かにその通りだと思います。NPOの役割はいくつかあると思いますが、企業にプレッシャーをかける、国際基準を作るということがあると思います。また、特に環境分野では従来から企業のパートナーシップも確立されてきているのではないかと思います。先ほど荒井さんの話にあったように、環境にやさしい製品の開発などをパートナーシップという形で行っていることもあります。これは比較的に馴染みやすい取組だと思います。
 私どもが比較的に注目しているのは、CSR推進のためにマルチステークホルダーがたくさん関わってきますが、そのつなぎ役としてのNPOの役割であります。特に、途上国に操業している、また直接投資をしている企業、その地域の住民、例えばその自然保護、その他環境問題などの問題は、それ以外の地域も含めて、企業の方々が住民に対応していくというのは、言うのは簡単ですが実行となると難しいと思いますので、その際のつなぎ役としてNPOの存在が考えられると思います。実際にも様々な国で実例があります。そのようなことを踏まえながら、NPOがCSRに積極的に関わっていく役割について注目したいと思います。
 この研究会では、それぞれの立場の方の考えや、先進的な問題や議論などについて勉強させていただきながら、私もできることがあれば後見させていただきたいと考えております。

五所メンバー
 NPO法人環境経営学会の五所でございます。普段は中央青山サスティナビリティ認証機構に勤めており、企業の環境報告書やCSRレポートの情報開示を保証するという業務を行っておりますが、今回は環境経営学会の環境格付け部門の監事をしておりますのでその立場から意見させていただきます。
 企業の経営をするということは社会と関わっていくということが第一歩であります。社会と関わっていくということは色々な人に利益を分配していくことが重要になります。その際に、企業行動を色々な人に理解していただくことが重要です。その時に情報開示が重要になります。企業の取組の中で情報を開示することは、企業行動を行っていなければ情報は開示できません。情報を開示することと、企業行動を起こすことという2つの大きな取組に対して、ステークホルダーの考え方を入れていくことが現在の社会では重要になってきていると思います。もともと日本企業には社会的責任ができていて、従業員と雇い主という関係で成り立っていたところもあります。そこに株主が関わってきました。従来は限られたステークホルダーだったのですが、現在は地球環境問題を解決するためにも色々な人の意見を取り入れていくことが非常に重要です。その時に、情報開示を通して、一度自分たちに足りないところや、課題となるところを整理していく、そこにステークホルダーのニーズを入れていくことが重要になると思います。整理をして、明確にして、自分たちのCSRとは何かについて考えていくことが重要になると思います。考えていただいてそれを毎回毎回、まわしていただく、終わりはありませんが、まわしていくことが重要であります。その時に、NPOとしては、このような情報開示や、企業が取組んでいくという姿勢に対して、第三者として評価していくことが重要ではないかと考えております。これはネガティブな評価ではなく、プラスになる評価です。これは考え方を整理していく、先ほど日本のCSRを世界に発信していきたいという意見がありましたが、日本としては実際に進んだものがあって、こういったものがトップランナーをやっていて、それに追随してくる中小企業がどうやって考えていくかというときに、第三者として我々も少し整理をして皆さんにお返しをして、また皆さんも情報開示や企業行動に働きかけていきたいと思っております。今回色々な方のご意見を伺えますので、環境経営学会の格付けも改めて考えていきたいと思います。

酒井メンバー
 損害保険ジャパンの酒井でございます。我々はISO14001の取得や、先ほど足達さんからもありましたが、エコファンドの開発など環境というアプローチからCSRに入ってきました。私の所属する部署も、もともと地球環境室という名前だったのですが、この7年を経てCSR環境推進室に変わっています。
 このようなところからもわかるように、世の中の動きがかなりCSRを意識したように変わってきているのではないかと思います。だからといって環境に対する意識が薄くなったわけではないと思います。むしろ、やらなければならないことが増えているのではないかと思います。
 あえてネガティブにということでしたが、事務局の発表に関して、私はこう考えているという意見を述べます。まず、投資家からのプレッシャーが少ないのではないかということに関して、エコファンドは階段の踊り場にきているという話がありましたが、この数年で規模を拡大しているということも事実です。また、我々はエコファンドを開発するという立場と、評価をされる企業としての立場という両面を持っております。そこから言いますと、海外のSRIファンドの伸び、規模の大きさは無視できません。実際に株式を購入していただいているイギリスの年金基金やアメリカの年金基金もかなり増えており、またそれらが株を買うことは企業イメージを向上させることに通じますので、日本の投資家のプレッシャーというものはまだ少ないかもしれませんが、海外からのプレッシャーは無視できません。当社の外国人持ち株比率も35%以上になっているので、その点もあるのかと考えております。
 また、CSR活動のとまどいに関して、先ほどの発表で社内風土ということが出ておりましたが、意識の中にあってもそれがCSRだと思ってやっている社員が少ないことがあります。したがって、こういった活動をもっとやっていくことがCSRにつながるのだということを社員に認識してもらいことが重要だと思います。そのために、ISO14001のような、環境で言うと、マネジメントシステムがありますが、CSRに関してもマネジメントシステムをどうにか導入していきたいと考えているのが、現在の当社の課題であります。それが非常に幅が広くて難しいのですが、マネジメントシステムを導入する、社員の意識啓発を行っていくということで、本日配布させていただきましたレポートもあえてコミュニケーションと名前を入れているところは社員の意識啓発、社外のステークホルダーの方々ともコミュニケーションを通じて、当社のCSRをレベルアップしていきたいという思いを込めて、そのようなレポートにしております。したがって、環境で培ってきた様々なノウハウをどうにかCSR活動のレベルアップにもつなげていきたいというのが当社の現状であります。

坂口メンバー
 シャプラニールの坂口でございます。我々の団体は環境のNPOではなく、社会開発のNPO(NGO)でございます。私の理解するところでは、アジアに現場を持つNGOとしてお声がけしていただいたと思っております。門外のところがあるかもしれませんが、我々の活動に準じた形で発言したいと思います。
 少しだけ活動の紹介をすると、現在バングラディッシュとネパールで最貧困層の住民、並びに路上で生活している子どもたち、ストリートチルドレンなど約10万人を対象に彼ら彼女らの生活向上についての支援を30年以上も行っております。実は、今年前半にある大企業がクレームを起こした際、我々の支援者からメールが来ました。我々はその大企業と直接の関係はなかったのですが、そのグループ企業からイベントの協賛をしていただいておりました。すると、そのようなトラブルを起こす大企業のグループ企業と付き合いをするのかと、非常に厳しいクレームをいただきました。それは何とか対処をしたのですが、そのくらい我々に対しても色々な企業の方々とお付き合いさせていただくに際して、我々なりのステークホルダーなど関係者の目が光っていると実感しております。
 我々の団体はある程度歴史がありますので、色々な企業の方々とお付き合いしておりますが、ここ数年もらうたびに名刺の肩書きが異なります。所属が、総務から環境へ、環境から社会貢献へ、またCSRと変わりましたと名刺をいただくことがあります。それを見ても、現在CSRがテーマになっているのだと実感しております。
 今日の発表の中で話をさせていただきますと、事務局のところで、日本のNPOや市民活動団体からはあまりプレッシャーがきていないことに関して、確かにその可能性は高いと思いますが、今回企業がCSRに取組み始めたのはコンプライアンスであったり、トランスペアレンシーであったり、どちらかと言うと端からの目に対応するためにCSRが進んでいる形になっていると思います。一つの社会において、どこが社会のためになることについて先導しても良いと思います。企業が先導するならばどんどんやって下さって良いし、逆にNPOやNGOがそれについて気づかされるということでも全くかまわないと思います。
 我々の団体は一つ原則を掲げております。それは当事者主体の原則であります。我々は支援する人たちに対して、単にサービスを提供して良かったね、貧しくなくなって良かったねということではなく、彼ら彼女らがその気になる、その気になってもらって主体性を発揮してもらいながら生活を向上していくことを原則としております。これは実は国内の活動者に対しても強く要求しております。あなたはどう考えるか、あなたは何をやるのか、そのような姿勢を持っておりますので、是非企業の方々は当事者主体となって、先導していただくことについては全く吝かではなく、我々を叱咤激励していただければと思います。
 逆に今一番大事だと思っているのは、NPO・NGOのCSRだと思います。むしろ企業側からNPO・NGOの評価をしていただきたいくらいです。NPO・NGOが現在企業を評価するなどしていますが、ではNPO・NGOはどうなのか、ガバナンスなどはどうなっているのか、事業評価・組織評価はしっかりとできているのかなどを言ってもらいたいです。実際には事業評価・組織評価ができていないところが多いです。その意味で、お互い良い意味でのWin-Win、付き合いがあってこそセクター間の垣根を取り払うような一つの方向性がでてくるのではないかと思います。
 また、少し気になるところがあります。日本は進んでいるからアジアに進出して教えてあげようというベクトルで見えすぎてしまいます。我々は現地で色々な団体とお付き合いさせていただいていると、特にNPO・NGOの世界でははるかにアジアの方が進んでおります。企業の場合は日本の方が進んでおります。その意味では、よりローカルベースのCSRを作っていくべきであると思います。我々も地域に根ざしたNPOではなく、全国区のNPOであります。もちろん、大企業も支部や支店をお持ちだと思いますが、どうしても全国区レベルの発想になりがちであります。先ほど後藤さんもおっしゃっていましたが、中小企業のCSRという話もありました。正に日本の一般の人たちが接しているようなCSRでなければ、一般市民が実感のわくようなCSRになっていかないのではないかと思います。我々も全国区組織として地域の方々がわかる、その人たちが本当にいいねと言われるような方向性を出していかなければ根付いていかないのではないかと考えております。

長沢メンバー
 日本経団連の長沢でございます。日本経団連は1973年から企業の社会性部会を設置し、企業の社会的責任について考えてきています。ただ、企業行動憲章を見てわかるように、コンプライアンスという面から進められている点が多いと言えます。それを今年度改正したときに、CSRの視点から見直しました。そのキーワードとして、入れたことがあります。それは、人権を尊重すること、持続可能な社会を構築するために自主的に行動することであります。本研究会の名前にもありますが、持続可能な環境と経済を一体どうやったら進められるのか、CSRを行うためのメタミッションのような位置付けになると思いますが、やはりこういったことをどうやって達成していくのかを中心に置いて考えていかなければならないと思います。
 もちろん、企業が活動を推進していく上では、斎藤さんがおっしゃったように、いかに市場メカニズムを機能させていくか、どのようにステークホルダーからの評価を得ていくかということも非常に重要だと思います。その一方で、実際に何を目指して、それをどうやって達成していくのかということのために、色々な人たちが共同していくことが重要だと思います。企業の社会貢献活動を推進していくという立場に長年いますが、その当初の議論、1990年代くらいに始まった議論と同じ議論を今しているのだろうと思います。どうやって進めていくか、どうやって評価をしていくかなどです。このような議論をこの研究会でしていきたいと考えています。
 特に、そのうちの一つとして、先ほどおっしゃいましたが、社会の意識や価値観をどうやって変化させていくかは、やはり企業の方だけではできないことなので、労働組合、NPO・NGO、消費者団体などが知恵を持ち寄ってやらなければならないと思います。先ほど荒井さんの発表で、ノンフロン冷蔵庫を開発された後に、ノンフロンライフフォーラムというものを開催し、グリンピースと協働された時に、正に消費者の意識を変えていくために開発過程を公開していくという趣旨の元に開かれていると思いますが、そのような行動が必要になってくると個人的には考えております。是非実質を高めていくために皆さんと知恵を出し合っていきたいと思います。

山田メンバー
 日本環境協会エコマーク事務局の山田でございます。先ほどの話の中でも、環境に配慮した商品は売れないのではないか、消費者の方が興味あるのは価格で選択しているのではないかという耳の痛い話を伺っていたのですが、私どもエコマークというのは環境に配慮した商品に付ける環境ラベルでございまして、消費者の方と製品事業者の方とをうまく結んで、持続的な生産と消費のパターン、このような行動計画を変えていく際に有効なツールとして機能していくようにがんばってまいりたいと思います。今回このような研究会に参加させていただいて、事務局にフィードバックして、また事業に活かしていきたいと思います。
 少しエコマークについてご説明します。エコマークは事業者、消費者、中立機関の専門家という3者の利害関係者の協議の場を設けた研究会によって運営されております。私はエコマーク事務局の中で基準課というところにいます。実際エコマークというのは商品ごとに厳しい認定基準がありまして、それを認証する制度で行っております。その認定基準を策定するためのワーキンググループの運営を担当しております。先ほど、NPO・NGOの方からのプレッシャーが少ないのではないかという話がありましたが、昨年木製品というカテゴリーのワーキンググループを担当していました。例えば、熱帯雨林のある地域では違法伐採という非常に大きな社会問題、地球環境問題として捉えられていると思います。これに対して、日本の木材の事業団体なども違法伐採に対する声明を出していると思います。その中で、消費者の方が買い求める木材の製品の木材が、どのような生産国からきているのか、どのような森林からきているのかという突き上げがなく、一般消費者のそういったことに関する意識がまだ低いと感じます。NGOの方などには非常に強い意見がありました。そういった中で、木製品の認定基準を作ったときに、解説書を付けていますが、その解説書の中に詳しく議論の過程を記述したものを公開しております。その中では、私ども事務局として是非消費者の方に自分の使っている木の製品の木は、持続的な管理がなされた森林からの木なのか、違法伐採が行われて熱帯雨林の消滅につながったりはしていないかというような関心を是非払っていただきたいということを訴えております。そういった中で、環境配慮型商品を選んでいただくという意味では、まだ力の弱いところがあると思いますが、私どもとして事業者の方にも訴えかけてまいりたいと思いますし、また消費者の方との間をつなぐという役割も是非果たしていきたいと思います。五所さんの話の中で、透明性、公開性とありましたが、エコマークでは認定基準を策定した際に、どのような経緯で、どのような機能があって、事業者の方や消費者の方からこのようにして欲しい、技術的に今ある時点ではこれは困難であるのでここまでのレベルをやりましょうといった議論の過程は全て公開しております。その意味で、透明性、公開性の担保というのは払っていて、私どもとしての責任を果たすという姿勢を持っていると考えております。
 また、世界エコラベリングネットワークがあり、タイプⅠというものが第三者の認証によるエコラベルであります。世界約35カ国で実施されており、ネットワークを作っています。また、相互認証、共通コア基準などの取組を行っています。先ほどアジアへの日本の役割についての話がありましたが、現在アジアの何ラベルかの間でも相互認証を進めておりますので、この研究会を通してエコマークしてどのような役割を果たしていて、技術支援などを行っていけるか、そのようなこともフィードバックしていきたいと思います。

事務局(藤原)
 ここからは自由討論になりますが、何かご意見はございますか。

瀧口補佐
 先ほど後藤さんから、CSRにシフトして環境が軽視されてしまうのではないかとご指摘がありましたが、そのような考え方の人がいないわけではありませんでした。個人的な関心事項では、足達さんが持っていたモヤモヤ感を私自身も持っております。
 実は環境政策は十数年、環境と経済の統合という方向性で研究し政策を作ってきました。それ以前は環境政策にとって、鎌形課長がおっしゃった水俣病や、四日市ぜんそく問題などのように、企業の行動に対する厳しい批判があり、一定のルールを作らなければならないという時代でした。過去十数年の問題では、例えば自由化型社会であれ温暖化であれ、単一的な行動ではなく、ある意味では、共に良い社会をどのように作っていくかという方向で、経済、企業との関係をどのように再構築していくかということを環境と経済の統合という名のもとで議論してきました。例えば、環境税のようなものを導入したり、技術開発を行う上でのインセンティブのようなものを与えたり、色々な形の政策を展開しました。
 先ほどモヤモヤ感があると言いましたが、環境と経済の統合を突き詰めると、環境への負荷や環境コストなどを企業経営のコスト計算の中に取り込んでいく、つまり環境コストの内部化を大きなテーマでやってきました。ただ、それだけではないのではないかと思います。社会性という要素が持続可能な社会を作るために必要なのではないかと最近考えます。ちょうど良いタイミングで、企業の社会的責任、CSRが登場してきました。この社会というものが何を意味するのかが疑問で、斎藤さんは市場の進化という言葉で表現されました。もう少し社会性から見て、企業との関係や教育のあり方などが変わってくるのではないかという問題関心があります。そのような意味で、このような色々な方からご意見を伺う場を作らせていただいたとことがございます。危機感がある、また遅れているからやらなければならないというわけではなく、もう少し積極的に社会との関わりの中で環境をどのように捉えていくべきか、単に汚染物質が少なければ良いという化学的な視点や、また経済的視点だけではなく、社会的な視点も環境政策に必要なのではないかということが一つ大きな関心事でございます。これについてはご議論をいただければ幸いと思います。
 もう一点ですが、CSRの規格化について、何名の方からも話をいただきましたが、形の話と中身の話で、これは両輪であると考えています。単に中身がない形はないと思います。まずは、中身は何なのかを深めることが大切だと思います。
 今回本当に多様な方にご参加いただきましたが、どのようなことがCSRとして、また環境として関わりを持ってできるかということをご議論いただければ幸いと思います。

事務局(藤原)
 他にご意見はございますか。

荒井メンバー
 まず、私自身の危機感として、環境の意識が薄れているのではないかと感じており、またモヤモヤ感を抱いております。確実に社会の関心の軸が環境からずれてきているという危機感があります。環境は我々が生きていく上でのベースとなりますので、そこが揺らいでいると意味では原点にならざるを得ないと思いますし、それは人間としての原点であるとも考えられます。それが社会、経済、企業などの枠組みからすると、ちょっとずれてきているという危機感があります。これは確実にあると思います。
 一方で、CSRという話もあり、これもまた形がつかめない話になっております。熱病のようにうなされているのがこの一年間だと思います。できれば今回のこの機会に議論を通じてCSRを具体化したい、早く沈着化したいと思っております。坂口さんがおっしゃったように、実感のわくCSRが大切だと思います。一体何をしたら良いかが見えないと、人は動けないと思います。そのことを環境だけではなく、社会的な視点で中身の議論をすることが必要だと思います。
 二つ目として、仕組みについて、実は環境が企業活動の中で本格的に動き出したのはこの10年であります。ISOのマネジメントシステムが導入されるまで環境に関しては何もありませんでした。現在ISO14000の形骸化ということが叫ばれ、その改革がすすめられておりますが、私はISO規格ができてよかったと思います。なぜなら、企業に何もなかったものが何らかの形で生まれたからです。つまり、仕組みができた、第三者の目に見える形になったということです。本社にいるとわかるのですが、色々な形でマネジメントシステムができています。例えば、品質、環境、労働、安全、情報、セキュリティなどです。それぞれが仕組みで、それはやむを得ないと思いますが、何とかしなければいけないと思っていたところに、CSRのマネジメントシステムがあります。確かにこれもやらなければならないのですが、心のどこかにもうやめてくれという思いがあると思います。そこをどのように仕組み化していくのかというところが問題で、これには社会全体のコンセンサスが必要でないかと思います。
 三つ目として、情報開示について、経験談ですが、環境に取り組んでいる人間として、我々を突き動かす原動力として確実に環境報告書の存在があったと思います。GRIや環境報告書ガイドラインなどがあります。本当にそれが我々の在りようを摘み高にしていく中で、良く見せたいという本能が働き、そこで一つの力が生まれてきたと言えます。今そのことをもう一度考えてみる必要があるのではないかと思います。これは課題提起でございます。

事務局(藤原)
 鎌形課長より閉会の挨拶をいたします。

事務局(鎌形課長)
 有意義なご意見をいただき誠にありがとうございました。
 一番初めに申し上げた「色々」にこだわりますが、社会に対してどのように貢献するか、あるいは社会的責任をどのように果たすかについて、正にそれぞれの企業がそれぞれの個性の中で、創意工夫で考えていかれることを一生懸命取組んでおられることを実感いたしました。結局、それも誰がどのように評価しているかというところがあって、これも色々な人がいろいろな評価をするということであります。したがって、そのような色々な相互関係の中で社会的責任や社会貢献を考えなければならないと思いました。
 行政としての立場を考えると、この色々の中を整理してこうあるべきだとするのではなく、色々な相互関係をうまくつなげるような役割を果たすべきなのではないかと考えております。その具体的な役割はまだわかっておりません。
 事務局からの発表の中で、ステークホルダーからのプレッシャーを感じないとありましたが、個人的には非常に衝撃的でした。緊張感の中で創意工夫されているかと思っていました。ステークホルダーからのプレッシャーを感じないということは、実は相互関係がうまくいっていないのではないかと思います。パートナーシップということも言われていますが、それも緊張感があって初めて成り立つものだと思います。そのような緊張感のある相互関係の中で、社会的責任や社会貢献を考えていくべきだと思います。その中で、我々行政の果たすべき役割について、これからの4回、事例や発表などを聞きながら考えていきたいと思います。
 本日はありがとうございました。

事務局(藤原)
 第1回社会的責任(持続可能な環境と経済)に関する研究会を終了します。皆様ありがとうございました。

以上