作成:環境省自然環境局国立公園課
1.日時
平成22年7月12日(月)9:30~11:30
2.場所
皇居外苑管理事務所会議室
3.議事次第
(1)山岳環境等浄化・安全対策緊急事業等について
(2)山岳地域環境保全の実態について(関係者ヒアリング)
(3)現状を踏まえた新たな施策の方向性について
4.出席者
- (委員)
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- 北村 憲彦
- 名古屋工業大学大学院工学研究科准教授
- 塩沢 久仙
- 南アルプス芦安山岳館長
- 田部井 淳子
- 登山家
- 土屋 俊幸
- 東京農工大学大学院共生科学技術研究院教授
- 畠山 武道
- 早稲田大学法科大学院教授
- (吉田正人 筑波大学大学院准教授は、欠席)
- (事務局)
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- 渡辺 綱男
- 環境省大臣官房審議官
- 田中 聡志
- 環境省自然環境局総務課長
- 中山 隆治
- 環境省自然環境局国立公園課 課長補佐
- 勝田 孝
- 環境省自然環境局国立公園課 公園事業専門官
- (ヒアリング対象者)
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- 車 司
- 富山県生活環境文化部自然保護課長
- 石原 三義
- 山梨県観光部観光資源課長
- 菅谷 行博
- 長野県環境部自然保護課長
- 穂苅 康治
- 槍ヶ岳山荘代表
4.議事経過
座長に互選で土屋委員を選出。
事務局からの配付資料に基づく説明に続き、関係者からのヒアリング及び意見交換を行った。主な発言は以下のとおりである。
○関係者ヒアリング
- (富山県)
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- 事前提出資料に沿って説明
- 山小屋のトイレの整備には県の補助金もあり、国補助以外のうちの半額を補助している。
- ヘリ空輸費が事業費の40%前後を占め、条件が悪い故に建設費用が高コストである。
- トイレを整備済みの山小屋は、経営状況が良好で資金力がある山小屋と認識。
- 未整備の山小屋は必ずしも経営状況は良くないことから本事業の継続を要望する。
- (山梨県)
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- 事前提出資料に沿って説明
- しかし、県内にはトイレが未整備の山小屋は16ある。
南アルプスや八ヶ岳、秩父山地は、69ヶ所の山小屋のうち23%が未整備。富士山に比べ利用者も少なく経営が脆弱であり、支援が必要。 - 山岳トイレの整備は今後も課題であると認識しており、本事業の継続を要望する。
- 整備費1千万未満の場合は、県独自の補助金制度があり、1/2を補助している。
- (長野県)
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- 未整備トイレが国立公園13、国定公園4、県立公園14ヶ所残っている。今後3年以内にこのうち11箇所を整備する予定であった。
- 来年度以降補助申請を前提に、補助を希望する山小屋について、時間のかかる山小屋の関係法令の許認可や資金調達の作業を先行して進めてさせていた。本事業が廃止になれば、支障が出る。
- 特に、御岳県立自然公園では、トイレ改修を推進するため「御岳山山小屋等のし尿処理他検討会」を実施してきており、その前提としてこの補助金を使う予定だった。このようなこともあり県立自然公園での整備についての補助の継続についても特に要望する。
- 整備費1000万未満の場合は、県の補助金制度がある。
- 本事業の廃止は、かえって山岳環境を悪化させることから継続をお願いしたい。
- 上高地や八ヶ岳において、水質・土壌に関する整備効果のモニタリングを進めたい。
- (山小屋経営者(穂苅氏))
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- 本事業が始まる前、平成10年に今後の経営を考え、槍沢小屋のトイレを4000万円かけ改修した(全額自費)。その後自分の経営する全ての小屋について、本事業の補助も受けつつトイレを改修した。
- 近年、中高年の登山者や女性の登山者は増えているが、登山者全体としては暫時減少している。中高年の方々に、トイレの費用として1000円さらにくれとも言えない。
- 北アルプスの山小屋でも、年間利用者は多いところでも1万人、千人と言うところもある。経営は零細で、イニシャルコストの負担に耐えられないところも多いだろう。
山小屋経営者にとっては、山岳トイレの整備において初期投資がネック。 - 山岳トイレの整備は登山者に評判がいい。「山ガール」ブームで女性の登山者が増えており、また外国人登山者受け入れの観点からも、トイレの整備は必要。
- 本事業が廃止になれば、トイレを整備できない山小屋が増え、山小屋を廃業するものもいるだろう。山岳環境を守る山小屋が減ってしまう。
- トイレの維持管理費で、バッテリーの交換コストは馬鹿にならない。しかし、ここまでは補助の対象とならない。
- 山小屋で用いる軽油については、軽油取引税が課税されている。道路特定財源であることから、農家等、公道を走る自動車に関わらない業種では減税されているが、山小屋は減税されていない。この税の減税についてもお願いしたい。
○意見交換
- 美しい日本の自然を後世に残していきたい。山岳トイレの整備は山の生態系に関わることであり、山岳トイレの整備は山岳環境保全にとって重要。
- 女性の登山者が急増しているが、ネックはトイレ。
- 本事業のゴールはどこに置いていたのか。目標を達成しないまま事業を廃止することについては疑問がある。
- 山岳遭難において脱水症状に起因するものは多く、安全な登山には水分補給が欠かせない。登山者はトイレが整備されることで安心して水分を取ることができ、トイレ整備は安全な登山に繋がる。
- 政府として外国人観光客の増加を推進しているようだが、韓国や台湾からの外国人登山客も増加しており、外国人対策としても山岳トイレの整備は有効。
- 事業レビューでの指摘についてはもっともな点もある。利用者の増加を踏まえ、将来的には、利用者のコントロールも検討するべきはないか。全体的な構図を検討して、全部一気にやるのは無理でも、方向性は打ち出すべき。
- 山岳環境の保全は多面的。したがって、多様な施策が必要であり、補助金の制度もあって良いのではないか。
- 各山小屋では、登山道の清掃や修繕など様々な自然保護のための活動を行っている。トイレだけではなく、山岳環境保全全体を対象にした補助金にしてほしい。
- 登山道の維持は、その大きな部分を山小屋などによるボランタリーな部分にとって支えられているのが現状。
- 整備が必要な場合が多いことも大きな問題であるが、一方で過剰整備という面はないのか。山域の状況や登山者の求める体験の質を踏まえてトイレ等の整備水準を個別に判断する必要があり、ROSの考え方を導入するなどして、そのための計画作りを進めることが必要ではないか。
- 山岳トイレは山岳地の水質改善などにも資するものであり、その受益者は登山者だけではなく、下流域に住む国民も当てはまる。
- 行政事業レビューの評価者が競争原理に触れていたが、そもそも儲けを目的に山小屋を営業している人がどれだけいるのか疑問。山小屋に競争原理はそぐわないのではないか。
- 利用調整地区などの制度もあるが、例えば長野県の登山者数は、全体としては減少しており、特に入山者数のコントロールの必要はないと思う。
- 山小屋について地域によっては多少の競争原理はあるものの、利用者が少なくて経営の困難な小屋も多く、山を守りたいから山小屋を営業している人がほとんどである。
- 公と民間の線引きが曖昧な点が気になる。本来、公が整備する部分を山小屋が担わされているのではないか。
- 山は、山に行く人だけのものではなく、山に行かない人でも保護してほしいという人もたくさんいる。だから税金を使えという論理にもなる。山に行く人の便宜というだけではなく、環境保全全体から考えるべき。
- (事務局)
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- 国立公園内では環境省が自らトイレを整備するも多い。富士山の吉田口では、山頂と下山路の途中に環境省が、登山口には県が公衆トイレを整備し、その隙間を本補助金の補助により整備された山小屋のトイレを使っていただくようになっている。従って、本補助金は公共事業費の圧縮には効果があったと認識している。
- 山岳環境保全のあるべき姿について、公共整備、山小屋トイレの整備、携帯トイレの普及などの様々な施策や、整備の水準や利用のコントロールなども含め、次回以降の検討会で提案するので議論いただきたい。
○次回に向けて
- (座長)
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- 山岳トイレの整備の効果についてご意見があった一方、問題点の検討が必要という意見もあった。
- 日程が詰まっていることもあり、事務局には、次回には具体的な施策に踏み込んで必要な資料等を用意していただき、検討を進めたい。