環境省自然環境・自然公園

両生類等の新興感染症について


目次
1.両生類等と新興感染症
  • 地球規模で、両生類等の減少や絶滅が起こっています。
  • その原因の一つとして、カエルツボカビ症やラナウイルス症等が知られています。
  • なお、カエルツボカビ症及びラナウイルス症は、ヒトには感染しません。
2.国内のカエルツボカビ症の現状と対策
  • カエルツボカビ症の原因となるカエルツボカビは、カビ・キノコと同様、真菌類の一種Batrachochytrium dendrobatidisです。
  • 全国的な調査を実施した結果、カエルツボカビは日本の野外に常在しており、少なくとも最近侵入したものではなく、国内の両生類等は抵抗性を持っているものと考えられました。
  • しかし、海外に分布するタイプのカエルツボカビが国内の両生類等に被害を与えるか否かについては明らかになっていないため、引き続き注意が必要です。
3.国内のラナウイルス症の現状と対策
  • ラナウイルス症の原因となるラナウイルスは、マダイ等の感染症として知られているマダイイリドウイルスを含むイリドウイルス科の、Ranavirus属のウイルスです。
  • 両生類等の集団死が継続的に確認されている特定の場所で、ラナウイルスの感染が確認されています。
  • 同ウイルスの全国の分布状況や日本の両生類等に対する影響については不明な点が多く、引き続き調査を行うとともに、感染個体の除去により、感染拡大の防止に努めています。
4.新興感染症から国内の両生類等を守るためのお願い
  • (みなさまへ)
      河川や湖沼、ため池等で両生類等の集団死を発見された場合、地方環境事務所等への御連絡をお願いしています。
  • (両生類等の現地調査や捕獲等をされる方へ)
      一般のみなさまと同様に情報提供をお願いするとともに、調査等で使用された器具や靴等の消毒の徹底をお願いします。
  • (両生類等を飼育されている方へ)
      野外に捨てたり逃したりしないよう、責任を持って最後まで飼育して下さい。

※資料等
(1)検討会関係
・カエルツボカビ実態把握検討会(07.11.27) 議事次第・資料議事概要

(2)報告書関係
平成19年度カエルツボカビ実態把握調査検討業務報告書[PDF 1,342KB]
平成20年度カエルツボカビ実態把握調査検討業務報告書[PDF 1,161KB]
平成21年度カエルツボカビ等実態把握調査検討業務報告書[PDF 2,475KB]
平成22年度両生類の新興感染症実態調査業務報告書[PDF 806KB]

(3)ポスター関係
みんなで防ごう!カエルツボカビ症 [PDF 969KB]


1 .両生類等の動向と新興感染症

  • 地球上に生息する両生類(カエル、サンショウウオ、イモリなど)のうち、122種以上が1980年以降に絶滅したと推測され、現存する6000種近くの両生類のうち32%の種が、絶滅のおそれがあるといわれています(Stuart et al., 2004)。
  • このような両生類の急激な減少や絶滅を引き起こしている要因として、過度の採集や生息環境の悪化等が指摘されています。
  • その一方で、減少の原因がよく分かっていない事例も多くあり、疾病や気候変動等の関与が疑われています。
  • 最近国内で初確認されたカエルツボカビ症やラナウイルス症等の新興感染症は、こうした両生類の減少を引き起こす疾病の一つと考えられています。現在、カエルツボカビ症とラナウイルス症は、OIE(国際獣疫事務局)の対象疾病に位置づけられ、またカエルツボカビ症はIUCN(国際自然保護連合)外来生物ワースト100にも掲載されるなど、世界的な監視が必要とされています。
  • なお、どちらもヒトに感染することはありません。
  • 環境省では、平成19年度からこれらの新興感染症について、日本の両生類等への感染状況を調べるとともに、海外の情報も含め文献等から最新の知見を収集しています。

2.カエルツボカビ症の現状と対策

(1)経緯

  • 世界的には1998年に初めて発見された感染症です。
  • パナマやオーストラリアにおける両生類の絶滅にこの感染症が関与していることが明らかになって以降、世界各地で両生類の減少との関係が調べられています。
  • 日本では、平成18年に飼育下の外国産のウシガエルから初めてカエルツボカビが確認されました。
  • 全国各地の研究者、自然保護団体、自然愛好家等の全面的な協力を得て、環境省は(独)国立環境研究所等と連携し、平成19年7月から平成22年5月までカエルツボカビの全国一斉調査を実施しました。
カエルツボカビの遊走子嚢
カエルツボカビの遊走子嚢

(2)全国一斉調査の概要

  • 環境省では、野外におけるカエルツボカビの両生類への感染実態を把握するため、全国各地の調査地から、両生類計48種(亜種を含む)からサンプリング(綿棒で皮膚粘膜を採取)をし、カエルツボカビDNAの有無から、カエルツボカビへの感染状況を確かめました。
  • DNA検査の結果、5735サンプルのうち132サンプルにおいてカエルツボカビDNAが確認されました(表1)
  • このうち、外来種のウシガエル(24.4%)、在来種のシリケンイモリ(19.9%)が比較的高い割合でカエルツボカビ症に感染していることが判明しました(表2)。在来のカエル類でも感染個体が確認されましたが、その感染率は概して高くありませんでした。
  • カエルツボカビ症が原因と思われる両生類の集団死は、この調査では一切確認されませんでした。
  • 他方、(独)国立環境研究所を中心とする研究グループは、日本の野生個体や飼育個体から採取したサンプルをもとに、日本におけるカエルツボカビの遺伝的多様性とそれらの系統関係を調べました(Goka et al., 2009)。この解析には、先述の調査等から得られたサンプルも活用されました。
  • 解析の結果、日本に分布するカエルツボカビは海外の調査結果から知られているものに比べて遺伝的多様性が高いことと、日本在来の両生類は国外ではみられない遺伝子型のカエルツボカビを保菌していることが分かりました。
  • また、20世紀初頭に作製されたオオサンショウウオの標本を観察したところ、その皮膚にカエルツボカビと思われる真菌に感染した痕跡が確認されました。

(3)まとめと対策

  • これまでの調査結果から、カエルツボカビは日本に常在する菌類であり、少なくとも最近海外から侵入したものではないと考えられました。
  • また、日本に常在するタイプのカエルツボカビに対して、日本に棲む両生類は抵抗性を持っているものと考えられました。
  • しかし、海外に分布するタイプのカエルツボカビが国内の両生類に被害を与えるか否かについては明らかになっていないため、その新たな導入には引き続き注意が必要です。
  • また、希少な固有両生類が数多く棲んでいる南西諸島の一部では、島外からの来訪者に対し、入島時に消毒薬を浸みこませたマットを踏んで貰い、新しいタイプのカエルツボカビが侵入しないように予防措置を執っています。
ウシガエルの幼体
ウシガエルの幼体
≫平成19〜22年度調査に基づく地方ブロックごとのカエルツボカビ感染率(表1)
≫平成19〜22年度調査に基づく種ごとのカエルツボカビ感染率(表2)

3.ラナウイルス症の現状と対策

(1)経緯

  • ラナウイルスには複数の種があり、このうちいくつかの種では両生類や魚類に対して致死的な感染症を引き起こすことがわかっています。アメリカ合衆国やブラジル、イギリス、中国等では両生類の集団死を引き起こしたケースが知られています。
  • 国内では、平成20年に野外のウシガエルから初めてラナウイルスが確認されました。
  • 環境省は、希少な野生生物へのラナウイルスの感染及び被害を防止するため、平成21年9月から11月の間に集団死(両生類数千匹程度、魚類数百匹程度)が確認された場所を中心として、ラナウイルス症のモニタリング調査と両生類・魚類の死亡個体の回収及び感染し得る個体の捕獲を行っています。
    ※集団死の規模を示す死亡個体数は、回収した数量から目算した概数です。
ウシガエルから分離したラナウイルス
ウシガエルから分離したラナウイルス

(2)これまでのモニタリング調査の概要

  • 平成21年10月から平成22年3月の間に、計12回の目視によるモニタリング調査を行いました。その結果、6月の集団死発生以後も継続してフナ属の一種及びウシガエルの死亡個体が確認されていましたが、平成21年12月以降はその数が減少し、平成22年3月の調査では死亡個体が確認されませんでした。また、平成21年10月から12月に両生類3個体(生体1、生死不明2)及び魚類17個体(生体14、死体3)について、内臓をサンプルとしてラナウイルスDNAの検査を行いましたが、ウイルスDNAは一切確認されませんでした。
  • 平成22年6月下旬から11月下旬の間に、平成21年の集団死発生箇所を含む計3箇所より採取された両生類197個体(生体189、死体8)及び魚類183個体(生体181、死体2)について、ラナウイルスDNAの検査を行いました。このうち、平成21年に両生類等の集団死が確認された場所から採取された両生類11個体について、ラナウイルスへの感染が確認されました。その内訳は、ウシガエル10個体(生存幼生5、死亡幼生4、生存幼体1)とニホンアマガエル1個体(死亡成体1)でした(表3)。
  • 平成22年6月下旬以降ラナウイルス感染個体が低頻度に確認され、9月下旬には感染率が最大に達した後、9月下旬〜10月中旬にウシガエル幼生等の集団死(数千〜1万匹程度)が認められました(表4)
  • 集団死の発生が収束した11月後半以降には、両生類の感染個体は確認されませんでした。また、希少種も含め魚類の感染については一切認められず、集団死も確認されませんでした。

(3)まとめと対策

  • これまでの調査結果では、ラナウイルスが平成21年度に確認された場所と同じ特定の地点において、平成22年度も引き続き同ウイルスが分布していたことが示唆されましたが、希少種も含め魚類の感染については一切認められませんでした。
  • 今後、ラナウイルスの分布状況や日本の両生類等に対する影響については不明な部分も多いことから、引き続きモニタリング調査を行うとともに、感染を拡げないように、死亡個体の回収や感染し得る個体の捕獲等を実施することとしています。

≫平成22年度調査に基づく種ごとのラナウイルス感染率(表3)
≫平成22年度の調査に基づく一調査地のウシガエルにおけるラナウイルス感染率(季節変化)(表4)

4.新興感染症から両生類等を守るためのお願い

(1)みなさまへ

  • 野外で両生類の集団死等を発見された場合は、各地域を管轄している地方環境事務所等又は地方自治体の関係部局にご連絡ください。その際、可能な範囲で次の情報と現地の様子が分かる写真のご提供をお願いします。

【御提供頂きたい情報】
@集団死等の発見場所
A発見した年月日と時間
B発見の経緯(誰が発見したか)
C発見場所の環境の概要(河川・湖沼・ため池の別、油膜の有無等)
D集団死等を起こしている個体の概要(種類、数量、サイズ、症状等)
※症状の例)傷がある、赤みがある、皮膚が腐っている、膨らんでいる、目に異常がある、水面に浮いている、干からびている

(2)両生類等の現地調査や捕獲等をされる方へ

  • 野外で両生類の集団死等を発見された場合は、(1)に示したとおり、早期連絡への御協力をお願いします。
  • 両生類等の現地調査や捕獲等をされた際には、他地域への2次的感染・被害を防止するため、特に集団死等が発見された場所から他地域へ生物、泥や水等を移動させないように、また、使用した器具や靴等を消毒されるようにお願いします。器具等の消毒には、消毒用エタノール(70%エタノール)の使用が推奨されています。(一般の薬局でも購入できます。)

≫カエルツボカビとラナウイルスの滅菌法(表5)

(3)両生類等を飼育されている方へ

  • 在来の種も含め、飼育されている両生類等の取扱いについては、外来生物被害予防三原則を踏まえ適切な対応をお願いします。
  • 飼育個体を野外に捨てたり逃がしたりすると、飼育個体が病原体を保有している場合、病原体が野外に拡散してしまいます。最後まで責任を持って飼育して下さい。
  • また、飼育個体に異変があった際には、水の管理も重要です。異変のあった個体を飼育していた水や水槽は感染源となり得るので、野外にそのまま捨てないようにお願いします。また、水や水槽の消毒の方法等については、動物病院や専門の研究機関に連絡し、相談されることをお勧めします。
  • 特に、南西諸島は希少な両生類等の宝庫であり、同諸島においては両生類等について細心の取扱いが求められます。また、同諸島に棲息するシリケンイモリはカエルツボカビを比較的高頻度で保菌していることが判明しており、当該種を海外にむやみに持ち出すことは、輸出先の地域の両生類等に甚大な被害を与えるおそれもあり、慎重な対応が求められます。

(参考文献)
Goka et al.(2009. Mol. Ecol. 18:4747-4772)
Stuart et al. (2004. Science 306:1783-1786)
カエルツボカビ症侵入緊急事態宣言(2007) 両生類の保全・研究、及び日本の自然保護に関わる16団体の共同署名

(参考ウェブサイト)
・麻布大学( カエルツボカビ症 ラナウイルス症
国立環境研究所
爬虫類と両生類の臨床と病理のための研究会
WWFジャパン