○テーマ:エコツーリズムのさらなる推進に向けて〜自然観光資源の保全と活用を通じた地域振興〜
○開催日時:平成22年1月14日(木)〜15日(金)
※15日(金)13時30分から飯能市のエコツアーを実施
○会 場:飯能市市民会館
○主 催:環境省
○協 力:NPO法人日本エコツーリズム協会
○プログラム:
【1日目】
第5回エコツーリズム大賞表彰式
基調講演:『エコツーリズムの魅力—日本の自然と文化の楽しみ方』
講師:東京情報大学環境情報学科 教授 ケビン・ショート氏
基調報告:『エコツーリズム推進法をめぐる動向』
講師:環境省自然環境局総務課自然ふれあい推進室長 堀上 勝
基調報告2:エコツーリズム推進法に基づく全体構想認定を受けた団体からの報告
『自然と文化を生かした里地里山のエコツーリズムの実践〜飯能市民の取り組み』
講師:飯能市エコツーリズム推進協議会 会長 犬井 正氏
【2日目】
事例報告1『慶良間地域におけるエコツーリズムの取り組み』
講師:慶良間サンゴ礁保全利用部会 理事 森山 敦氏
事例報告2『コウノトリと共生する地域づくりとツーリズムへの取り組み』
講師:NPOコウノトリ湿地ネット 副代表 佐竹 節夫氏
事例報告3『自然のめぐみとのつながりを考えるほんもの体験』
講師:越後田舎体験推進協議会 事務局長 小林 美佐子氏
総括パネルディスカッション、質疑
司会:(財)日本生態系協会 地域計画室長 城戸 基秀氏
登壇者:事例報告の各講師、環境省担当官
エコツーリズム大賞は、エコツーリズムを実践する地域や事業者の優れた取組を表彰し、広く紹介することで、取り組みへの更なる質の向上や継続に意欲を与えるとともに、関係者の連携、情報交換などによる連帯意識の醸成を図ることを目的とした環境省による表彰制度です。 第5回目の今回は83件の応募の中から、エコツーリズムの有識者で構成されるエコツーリズム大賞審査委員会によって、環境保全、観光振興、地域振興などの総合的な観点から選定されました。次の団体、事業者の方の授賞が発表されました。
東京情報大学環境情報学科 教授 ケビン・ショート氏
40年前に来日し、1年半の滞在中に各地を回って日本に魅せられました。国土面積の狭い国で、これほど自然の多様性・変化が豊かにある国は他にはないと思います。また、その自然を持続可能的に使って暮らしてきた日本人そのものにも刺激を受けました。日本のエコツーリズム資源としてキーワードになってくるのは、生物多様性と持続可能性だと思います。狭い国土にある限られた資源を使いながらも乱用せず、資源を支える生態系も壊さずに、人間がその自然を利用して生活しているという視点は重要です。
もう一つ、日本人の気付きにくい優れた資源として、里やまがあります。水田を由来とする水辺環境と森林環境という異なるタイプの環境が隣り合い、それらが一つの地域にパッチワークのように混在し、独特な風景を構成しています。その田んぼや森は、生物多様性の保全に大きく貢献しており、循環型の暮らしを見せるのにも利用しやすいと思います。また、地域的な文化が変化に富んでおり、植物を紹介しながら人間との関係や食文化も体感できるので、エコツアーの内容も多彩に展開することができます。また、人間と自然の物質的な関係だけではなく、「spiritual ecology」というべき精神的な関係も見直されてきています。日本の場合、鎮守の森や水神様など自然に対する精神文化が、豊かな自然環境を守ってきた側面もあります。自然を持続可能的に利用してきた暮らしを、ストーリーとして理解・体験できれば、世界最高の素晴らしい日本型エコツーリズムになることでしょう。
環境省自然環境局総務課自然ふれあい推進室長 堀上 勝氏
環境省は、平成16年から3か年でモデル地域事業に取り組んで来ました。これは全国様々なエコツーリズムを、自然が豊かな地域、観光客が多い地域、里地里山など身近な地域の三つに大別し、モデル事業を展開しているものです。平成19年にエコツーリズム推進法が成立してからは、自然環境を持続可能な形で観光に活用していくために、他省庁と連携して取り組んでいます。基本理念としては、まず自然環境への配慮、その上で観光振興への寄与、地域振興への寄与、環境教育への活用の四つがあります。
また昨年12月には国土交通大臣の呼びかけで、観光立国推進本部ができました。環境省も、DVDの制作やエコツーリズム大賞を始め、エコツーリズムの広報、普及、啓発や技術的な支援に努めています。
飯能市エコツーリズム推進協議会 会長 犬井 正氏
飯能市は2004年にモデル地区として選定され、自然と文化を活かした里地里山のエコツーリズムに取り組んでいます。高度経済成長期以降、農林業や地域の産業が停滞した状況の中、自分たちの生活の基盤となっている地域の自然環境、産業、暮らしをもう一度見直すことが、必然的にエコツーリズムへ繋がることになりました。
これは従来のハード型のツーリズムや、単なるアウトドアの観光とは大きく異なります。地域での自然環境の仕組みや生活のあり方を体感することにより、現代の生活に欠けている部分や投影できる原理を見つけ出す、それが新たな着地型観光のニーズだと考えています。また、地域の自然や文化を保全・継承するために、伝承されてきた知識・地の体系「ローカル・ナレッジ」を活用し、市民が主体的にルールやマナーを発信していくことも必要です。
エコツーリズム推進協議会、エコツーリズム活動市民の会、市の三者がそれぞれの役割分担をしながら、市民の手で持続可能な経済、地域社会を作っていく、それが今飯能で行われている着地型エコツーリズムであろうと思っています。
慶良間サンゴ礁保全利用部会 理事 森山 敦氏
2001年にオニヒトデが大発生しサンゴが大きな被害を受けたため、ボランティアでの捕獲が始まりました。
しかしもっと組織的にやらねば追いつかない状態だったため、事業者をまとめてダイビング協会を作りました。当番制にしたり場所を絞り込むなどの工夫で場所によっては守ることができましたが、次の段階として、どうやって守りながら使っていくか、という課題が見えてきました。
特定自然観光資源として指定し、漁協にも協力を仰いで自主的にルールを作り、ダイバーへの規制や意識付けを図ったり、地元の子ども達への体験教育も積極的に行っています。資金調達など未解決の問題もありますが、資源を守る者が優先的に利用できる仕組みを作り、地域振興へ寄与していきたいと思っています。
NPOコウノトリ湿地ネット 副代表 佐竹 節夫氏
2001年にオニヒトデが大発生しサンゴが大きな被害を受けたため、ボランティアでの捕獲が始まりました。
肉食で大食漢のコウノトリは、生態系のピラミッドが強固な環境でなければ生きていけません。日本での生態系の基本は水田であり、人間の管理がなければ成立しないため、鳥の個体だけの保護活動をやっても効果はありません。
豊岡では、環境を良くする取り組みと経済活動が、刺激し合いながら高まっていくような地域を創りあげることを目標に、「環境経済戦略」として取り組んでいます。米だけでなく生き物をも育む農法を体系化し、地産地消とともに推進しています。また、CSR活動を超えた企業との関わり方も模索しています。
人々の取組みによって地域の風景が変わっていき、その風景が持つ意味を、取り組んだ人と来訪者とで共有したい。「コウノトリツーリズム」とも言うべき野生復帰貢献ツアーを提唱していきたいと思っています。
越後田舎体験推進協議会 事務局長 小林 美佐子氏
日本海の長い海岸線と米どころ新潟の広い平野、そして棚田やブナ林がある日本の原風景が残る中山間部を持つ越後田舎体験のエリアは、自然・環境・歴史民俗学習に適しています。
具体的には田植えや稲刈り体験、自然観察、食や工芸体験、また農家民泊などを行っています。あらゆる体験プログラムには土地の人がインストラクターとして関わることが特徴で、自然や人との「つながり」を伝えることをテーマとして掲げています。また、手配、連絡、調整等全てのコーディネートは協議会事務局が窓口になりますので、団体受け入れもスムーズです。教育旅行から始まり、現在では大人向けのイベントも各種開催しています。地域の方々が研修会などを通じて学び合いながら、利害を越えて一丸となって頑張っています。
自然観光資源を保全しながら活用していくにはどうしたらいいか、また、地域でエコツーリズムを発展させていくために大事なことは何か、この二つを議題に進めていきました。
保全を図る方法としては、まず共通の認識の中でルールを作り守っていくこと、それでも難しい場合には規制をかけるという必要性も出てきます。もう一つ重要なのは、モニタリングを継続的に行い、常に影響の把握に努めることです。
地域でエコツーリズムを発展させていく具体的事例として、森山氏からは、環境教育を推進することにより地域に誇りを持ち、自然を大事にする意識を継承していけるという意見が出ました。小林氏からは、子ども達を受け入れることによる意識や配慮が、資源の保全に繋がることや、伝えるべき情報を学び合うインストラクター側の取り組みが紹介されました。
佐竹氏からは、努力した結果を評価される、それにより地元の資源に対しての意識が変わり、原動力になる、との意見が出ました。また、従来の経済的側面だけの指標ではなく、エコを評価する新しい「ものさし」が必要ではないかという提案がなされました。