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保護及び管理に係るさまざまな取組

行政における傷病鳥獣救護の考え方

 第二次世界大戦以降の鳥獣行政の歴史の中で、動物がいのちあるものであることを尊重する愛護思想に根差し、個体の生命を救うことを主な目的とした傷病鳥獣の救護は、鳥獣保護思想普及のための重要な活動とされていました。「保護」という言葉を前面に押し出した昭和38(1963)年の狩猟法改正(鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律に名称変更)ののち、昭和41(1966)年の第2次鳥獣保護事業計画の基準において、鳥獣保護思想の普及啓発のための傷病鳥獣救護を主な目的とした鳥獣保護センターの設置が盛り込まれ、行政が救護に直接関与するという方式が打ち出されました。
 しかし、1990年代に入ってから、鳥獣の生息状況や鳥獣と人間社会との関係の変化、鳥獣保護思想が国民に広範に浸透したこと、鳥獣保護管理に対する考え方と施策が発展したことに伴って、従来の傷病鳥獣救護の在り方に対する様々な意見が出されるようになりました。議論は多岐にわたりますが、基本的な問題は次の3つにまとめられます。
一つ目は、2つの異なる思想的な立場に基づく傷病鳥獣救護の目的や実施内容の考え方の違いで、鳥獣の生死は生態系の自然なプロセスの一部であり人間が必要以上に介入すべきではないとする考え方と、傷病鳥獣を救うことは人道的で自然な行為であり、救護することは当然であるとする考え方があります。
 二つ目は、近年、鳥獣の保護管理分野では生物多様性の保全とそのための科学的計画的な保護管理という考え方が主流となってきたことに伴うもので、個体数が増加しているシカやイノシシ、外来種等、問題となっている種に対しては個体数調整等が実施されている一方で、他方では救護や放野を行うという矛盾した事態が発生している等、鳥獣保護管理施策としての救護の位置づけには見直しが求められています。
 三つ目は、すべての傷病鳥獣の救護に行政のみで対応することは困難であることから、傷病鳥獣救護における行政と民間との役割分担や連携を進めていく必要があるという点です。しかしながら、民間団体による地域に根ざした活動は発展中であり、ボランティアによる救護個体の飼養の中には問題となるケースもあることから、今後どのようにそれらを推進、連携、育成、管理していくか、検討が必要となっています。
 環境省では、こうした背景から論議を重ね、行政が行う鳥獣保護管理施策としての傷病鳥獣救護について現時点における基本的な検討の方向性をまとめ、平成28(2016)年10月に環境大臣が定めた「鳥獣の保護及び管理を図るための事業を実施するための基本的な指針」(以下、「基本指針」という。)の中に示しました。

【基本指針抜粋】
Ⅰ 鳥獣保護管理事業の実施に関する基本的事項
「第六 その他鳥獣保護管理事業の実施のために必要な事項」
4 傷病鳥獣救護に関する考え方
鳥獣は、山野等にあって、専ら他の生物を捕食・採食し、個体の生と死を繰り返している。このように生態系は野生生物の生と死によって成り立っており、自然の傷病による鳥獣の死も生態系の重要な一要素である。
一方、人には鳥獣を敬い命を大切に思う気持ちがある。傷病鳥獣救護は、もともと人道的な行為として行われてきており、鳥獣保護思想上も生きものを大切に思う気持ちからなされてきた側面もある。
傷病鳥獣救護については、これらの考え方を踏まえつつ、絶滅のおそれのある種の保全や環境モニタリングへの活用、傷病の発生原因の究明とその予防措置等、生物多様性の保全への貢献に重点を置いて対応を検討する。

行政における傷病鳥獣救護の考え方と地域の取組み事例

 環境省では、各都道府県において傷病鳥獣の救護等に関する対応方針を定める際の参考として、また現場での傷病鳥獣救護の対応を進める際の参考として活用できるよう、上記の基本指針において示した「傷病鳥獣救護に関する考え方」及び「傷病鳥獣救護への対応」の解説と、行政の取組み体制とその課題に関する全国的な傾向、及び鳥獣救護に関する地域の実情に応じた行政等の取組み事例について、平成30年3月に冊子にまとめています。