課題名

D-2 東アジア海域における有害化学物質の動態解明に関する研究

課題代表者名

功刀 正行 (国立環境研究所地球環境研究グループ海洋研究チーム)

研究期間

平成10−11年度

合計予算額

81,246千円(11年度 40,819千円)

研究体制

1 東アジア海域における有害化学物質の時空間変動機構に関する研究

  〕機ハロゲン化合物を中心とする有害化学物質の時空間変動機構に関する研究

(環境庁 国立環境研究所)

 ◆‥譽轡奮い砲ける有機化学物質の時空間変動機構に関する研究

(農林水産省 西海区水産研究所)

  東アジア海域における有害化学物質の起源と蓄積に関する研究

(通商産業省 資源環境技術総合研究所)

(2) 底泥をめぐる食物連鎖による底泥堆積有害化学物質の底魚類への蓄積過程に関する研究

  _合域底層の食物連鎖の構造の解析(農林水産省 日本海区水産研究所)

 ◆…豕類、底生生物の底泥堆積有害化学物質蓄積に関する研究(農林水産省 中央水産研究所)

  東シナ海域における有害化学物質の分布と起源に関する研究

(厚生省 国立医薬品食品衛生研究所)

研究概要

1.序

 人為起源の有害化学物質による海洋汚染は、自然生態系に多大な影響を及ぼすことが懸念されているが、従来の研究および観測は様々な制限の下に発生源近傍の沿岸域や閉鎖系水域に限られることが多かった。これらの物質の内、特に残留性有機汚染物質(POPs)は様々な輸送過程を経て広域に拡散・蓄積され、地球規模での海洋の生態系に脅威を与えることが問題となってきている。さらに、近年これらの有害化学物質の中には内分泌撹乱物質(環境ホルモン)が存在し、自然生態系に大きな影響を与えるのみならず人類への影響も懸念されている。しかしながら、海洋は日頃の生活の場となっていないこともあり、その変化には敏感ではなく、海洋環境研究は必ずしも十分であるとはいえない状況である。本研究は、東アジア海域におけるこうした有害化学物質の広域汚染を種々の輸送過程による時空間的な拡散動態を鉛直分布を含めて捉え、輸送された汚染物質の海水から底質への除去・蓄積過程を、さらにこうして蓄積された底質堆積物等から食物連鎖を通じて底魚類への生物濃縮・蓄積過程を明らかにすることにより、同海域における有害化学物質の動態解明を行う。

 

2.研究目的

 東アジア海域における有害化学物質の海水中濃度等の分析を行い、同海域などから海流などによる日本近海海域への移送過程とその変動機構、海水から底質への除去・蓄積過程、および蓄積された底泥中から底魚類への生物濃縮・蓄積過程を明らかにすることにより、東アジア海域における有害化学物質の動態の解明を行うとともに、東アジア各国における有害化学物質の使用実態や環境調査などの情報を収集し、本研究成果のデータベース化を図る。

 

(1)東アジア海域における有害化学物質の時空間変動機構に関する研究

 対象海域における有害化学物質の時間的空間的変動を把握するためにこれまでに確立した観測体制(定期航路上および観測船上での観測体制)を用いて、その変動(季節変動や気象状況による変化、空間的な分布の変化など)を複数回の観測結果および異なる海域の結果を用いて解析し東アジア海域における有害化学物質の変動要因を抽出する。この解析結果をもとに有害化学物質の輸送過程などの動態を解明し、日本近海への負荷の動態を明らかにする。同海域の海水試料やマッセル試料中の有機スズ化合物、有機ハロゲン化合物を分析し、これらのデータに基づいて各海域に放出された有害化学物質の行方と起源を有害化学物質の種類と濃度や異性体パターンなどから推定する。また、現場ろ過により溶存態と懸濁態を分別して定量することにより、有害化学物質の海水から底質への除去と蓄積過程を明らかにする。

 

(2)底泥をめぐる食物連鎖による底泥堆積有害化学物質の底魚類への蓄積過程に関する研究

 水深の深い沖合域における底泥−多毛類等底泥中の無脊椎動物−底魚類から構成される底層食物連鎖構造を明らかにすることにより、有害化学物質の移行・蓄積の経路を把握する。この結果を用いて有害化学物質の移行・蓄積を定量的に把握する。底泥、底生生物及び底魚類から構成される沖合及び外洋の底層食物連鎖の構造を現地調査の成果から明らかにするとともに、底泥から底魚類に至る食物連鎖を通した有害化学物質の移行・蓄積過程とその機構を解明する。これらの研究成果により、底泥堆積有害化学物質の行方と底魚類中濃度に対する寄与を明らかにするとともに、有害化学物質の動態解明のために資する。さらに、有害化学物質特にPOPs(残留性有機汚染物質)や内分泌系撹乱物質などの環境モニタリングや分析データなどの実測値を収集し、これを時間軸と空間軸(地図)から整理した基本的なデータベースを作成し、これをもとに、湾、沿岸海域、外洋における対象物質の濃度と分布、水産物における濃縮などを分析、解析する。

 

3.研究の内容・成果

(1)東アジア海域における有害化学物質の時空間変動機構に関する研究

 〕機ハロゲン化合物を中心とする有害化学物質の時空間変動機構に関する研究

 商船に搭載するための連続濃縮捕集システムを開発し、本システムを用いて同一海域を頻繁に航行するフェリーを観測プラットフォームとする有害化学物質による海洋汚染観測態勢を確立した。同一海域を頻度高く観測することにより、有害化学物質による海洋汚染の動態の把握と解析を行った。商船は一般に効率を優先するために、本研究に必要なような比較的規模の大きな新たな観測機材を設置するスペースは少ない。我々は、平成7年度〜9年度において実施した地球環境研究総合推進費による研究において、比較的設置スペースに余裕のあるフェリーに搭載するための連続濃縮捕集システムを開発し良い結果を得た。今回はこの経験をもとに新たに搬入・搬出が容易でかつ限られた設置スペースに対応可能な汎用型商船搭載用有害化学物質自動連続濃縮捕集システムを開発し、平成1012月から平成123月まで瀬戸内海を航行するフェリー「さんふらわあ あいぼり」に同システムを搭載して計11回の海水中有害化学物質の観測を行い、同システムの有用性を確認するとともに、同海域における有害化学物質による汚染の動態を解析した。また、平成7年からの研究で、有害化学物質の種類によっては大気から海洋への負荷が大きいことが示唆されたことを受け、平成113月からは同海域における大気中有害化学物質の観測をあわせて行った。これらの観測では、平成7年度から9年度に実施した大阪−那覇間での観測と同様にほとんどすべての観測でα-HCHおよびβ-HCRが検出された。大阪−那覇間の観測では、b-HCHの濃度変動は小さかったが、瀬戸内海の観測では大きな変動が観測された。特に19999月以降は継続して比較的高濃度が維持されていた。α-HCHは、空間的にも時間的にも変動が大きく、海水中での残留時間が短いことが示唆された。γ-HCHは、ほとんどの観測で検出されているが検出限界に近い濃度の場合が多い。各異性体の存在比は、観測地点、時間で大きく変動していた。大気中のHCH類はα-HCHおよびγ-HCHがすべての捕集試料から検出されたが、β-HCHはほとんどの試料でブランクレベルであった。クロルデン類、ノナクロル類は観測の半数以上が検出限界以下であり、海水、大気ともに変動が大きかった。19999月以降のβ-HCHの高濃度は台風により大きく撹拌され、底泥に蓄積されていたものの回帰と考えられ、海水中のα-HCH、γ-HCH、クロルデン類、ノナクロル類の濃度変動は大気中のそれぞれの濃度と相関があり、大気−海洋間の交換がかなり早いと考えられる。これらの結果から、海洋における有害化学物質による海洋汚染の動態の把握には高頻度の観測が不可欠であること、HCHs、クロルデン類を観測することにより観測地点・時点で支配的な起源推定が可能であることが明らかとなった。

 

◆‥譽轡奮い砲ける有機化学物質の時空間変動機構に関する研究

 東シナ海の環境保全のためには、海域に流入する汚染物質の挙動解明と海洋生態系への影響評価が不可欠である。そこで、東シナ海における有害化学物質の分布を把握するため、1998910月および19991011月に東シナ海の陸棚中央部から沖縄舟状海盆に至る海域で実施した調査船航海において、海水の濃縮捕集試料、エアロゾル試料及び海底堆積物を採取し、分析を行った。海水及びエアロゾル試料からは、濃度はきわめて低いものの有機塩素系の有害化学物質であるヘキサクロロシクロヘキサン類(以下HCHと略)、クロルデン及びノナクロル類が検出された。これら有機ハロゲン化合物の分析結果と、同時に得られた水温・塩分等の関連データ及び本課題1期(19961997年)の観測結果を総合し、東シナ海における有機ハロゲン化合物の分布特性及びそれらの供給源について検討した。エアロゾル及び表層海水中における分布特性及び異性体比の特徴から、HCH類の海域への供給経路の主体はα-HCHが大気、β-HCHが陸水であることが示唆された。また、夏季の表層海水においてはβ-HCH類濃度と塩分との間に明瞭な負の相関関係が認められることから、長江河川水が主要な供給源として寄与していると考えられた。クロルデン及びノナクロル類については、降雨・強風時に大気を経由した供給が行われている可能性が示唆された。一方、これらの有機ハロゲン化合物は海底堆積物中からは検出されなかったこと、また表層水と比べて底層水中で高濃度となる傾向はβ-HCHを除いては認められないことから、今回観測した海域においては、海底堆積物がこれら有機ハロゲン化合物の供給源となっている可能性は低いと考えられた。一方、β-HCHは底層水中で、クロルデン及びノナクロル類は夏季の躍層付近で比較的高濃度となるなど、物質により異なる鉛直分布を示したことから、有害化学物質が海域に供給された後、海水中でどのような挙動をするかに関しては、より詳細な調査・解析が必要と考えられた。

 

 

 東アジア海域における有害化学物質の起源と蓄積に関する研究

 ガスクロマトグラフィー誘導結合プラズマ質量法(GC/ICP-MS)の感度を、大量試料導入法、ICPの新たな測定モードの採用、試薬不純物の低減により1000倍以上向上させ、外洋水中の有機スズ化合物の定量を可能にした。また、存在状態の違いを把握するため、溶存態と懸濁態を個別に定量する方法を開発した。これらの方法を東シナ海や西部日本海で採取した海水に適用し、同海域におけるトリブチルスズ(TBT)やトリフェニルスズ(TPhT)等9種類の有機スズ化合物の汚染実態を明らかにした。その結果、1)東シナ海から西部日本海にかけて広範囲に汚染が広がっており、従来の港湾中心の局所的な汚染という観点ではなく、地球規模の汚染として検討する必要があることを示した。2)ブチル系スズ化合物、フェニル系スズ化合物(TPhTを除く)は溶存態として存在する一方、疎水性の強いTPhTは懸濁態として存在することを明らかにした。3)未同定の有機スズ化合物を高濃度で検出し、これらがオクチル系スズ化合物であることを明らかにした。オクチル系スズ化合物はプラスチック安定剤に使用されており、有機スズ化合物の汚染源として従来の船底塗料だけでなく、プラスチック安定剤も考慮する必要があることを示した。また、化学物質による外洋汚染の監視手法としてイカ類を指標生物として用いることを検討した。その結果、スルメイカによるPCBsの蓄積器官は肝臓であり、同一採取地点における個体の成熟度による肝臓中のPCBs濃度に有意な差が無いことを明らかにした。更に、スルメイカの肝臓中に蓄積したα-HCHPCBsCl5-Cl9)の同族体蓄積濃度は、表層海水中濃度との間に有意な相関関係を示し、採取海域の汚染程度の推定が可能であることを明らかにした。

 

(2)底泥をめぐる食物連鎖による底泥堆積有害化学物質の底魚類への蓄積過程に関する研究

 _合域底層の食物連鎖の構造の解析

 海域に流入し、底泥に堆積した有害化学物質は、底層の食物連鎖を通じて高次の栄養段階の生物に移行・蓄積されると考えられる。本研究では、沖合域における底泥に連なる食物連鎖構造を解明し、有害化学物質の移行経路を明かにする目的で、日本海山陰沖合と日本海中央部の大和堆の底生生物群集を研究対象に設定し、底魚類、底生生物の胃内容物の分析と安定同位体比の分析により、構成種の食物段階を推定し、食物連鎖構造を推定した。沖合の両海域の底生生物群集の構成種はきわめて類似し、カレイ類、カジカ類、ゲンゲ類等の大型魚類、ズワイガニ、ホッコクアカエビ、トゲザコエビ等の大型甲殻類、エッチュウバイ、イカ類等の軟体動物などが優占種であった。底泥からデトライタスを経て、多毛類、クモヒトデ類、端脚類、小型エビ類、さらにハタハタ、カレイ類等の魚類やズワイガニ、ホッコクアカエビ等の大型甲殻類、エッチュウバイ等の大型巻貝類に至る食物連鎖構造が推定された。山陰沖合では、最も高次の栄養段階にあることが推定された生物は、甲殻類や魚類を摂食しているタナカゲンゲで、対象海域における食物連鎖の頂点に位置すると推定された。大和堆では最も高次の栄養段階にある魚類はセッパリカジカであったが、大型エビ類も高い栄養段階に位置していた。また、大和堆では、底泥には直接に連ならない中層の遊泳生物に連なる食物連鎖構造があることも明かになった。

 

◆…豕類、底生生物の底泥堆積有害化学物質蓄積に関する研究

 昨年度行った日本海沖合域の調査に続いて今年度は、日本海の中央部に位置する水深350400mの大和堆で底泥、ベントス、底魚類を採取し、それぞれのダイオキシン類(以下、Co-PCBs12成分を含む)及び有機スズ化合物濃度を測定した。昨年度、水深200500m前後の北陸・山陰沖で採取した試料についての結果も含めて日本海沖合域における底泥および底泥をめぐる食物連鎖網におけるダイオキシン類(及び有機スズ化合物)の動態について検討した。大和堆および北陸・山陰沖合域のいずれにおいてもTPTは底泥食物連鎖を通して濃縮される傾向が認められたが、TBTは食物連鎖を通して濃縮されなかった。特に大和堆から採取した試料でこの傾向が強く認められた。なお、TPTTBTに比べ食物連鎖を通して蓄積されやすい理由として、酵素による代謝のされ難さや排泄の速さなどが関係しているものと考えられるが、その詳細を本研究で明らかにすることはできなかった。食物連鎖の位置と関連すると言われる安定同位体比(δ15N)とTPT濃度とのあいだに相関が認められなかった。これは有害物質の蓄積は安定同位体(15N)の蓄積に比べ、同一栄養段階における種間差(薬物代謝酵素活性の違いなど)が大きいためではないかと考えられた。以上の傾向は、沿岸城(七尾湾)で認められたものと同様であった。

 大和堆の底泥からは、北陸・山陰沖に比べ約1/10のダイオキシン類しか検出されなかった。両海域で検出されたダイオキシン類は、その異性体組成から陸上で過去に使用された水田除草剤CNPPCPPCB製剤(カネクロール等)の影響が共通して窺えた。一方、生物中に蓄積されているダイオキシン類濃度の差は、両海域で小さかった。よって、生息海域の底泥中のダイオキシン類濃度が、生物の蓄積濃度に及ぼす影響は小さいものと判断できた。次に、これらの海域において底層食物連鎖における栄養段階とダイオキシン類蓄積濃度の関係について見たところ、海域や食物連鎖構造が異なっても、PCDDsPCDFsは栄養段階との明確な関係は見られず、Co-PCBsのみが栄養段階の上昇に伴って濃縮される傾向が確認された。さらに、底泥と生物中に蓄積されているダイオキシン類濃度を比較すると、北陸・山陰沖では海域や食物連鎖を構成する生物が異なっても、Co-PCBsが底泥に比べ生物で濃度が高く、PCDDsPCDFsでは濃度がほとんど変わらないか、反対に生物で低くなるといった傾向があった。しかし、底泥中濃度の低い大和堆では、全てのダイオキシン類で生物中の濃度が底泥よりも高くなっていた。この傾向は、沿岸域(七尾湾)で確認されたものと同様であり、底泥に対する生物でのダイオキシン類の蓄積率は常に一定では無いが、Co-PCBsが最も蓄積されやすいことが明らかとなった。

 

 東アジア海域における有害化学物質の分布と起源に関する研究

 東シナ海域および隣接する西日本の沿岸海域は、経済発展の著しい東アジア諸国からの環境汚染要因が日本に影響を与えるときの玄関口になると懸念されている地域である。したがって、この海域における有害化学物質の分布を把握し、起源を推定することは、我が国にとって極めて重要な研究課題である。しかしながら、この海域における実測データはまだ少なく、また既存の調査研究の成果であるデータの存在も十分知られていない。それゆえ、ただでさえ少ないデータは相互に比較検討される機会も乏しく、十分に活用されていない。そこで地理情報システムとデジタル地図データを用いて、各種の観測データや調査データの存在を公にすると同時に、それらを相互に関連づけて解析できる情報基盤を開発し、この上に東アジア地域の各種の有害物質とくに、重金属、難分解性の有機化合物(いわゆるPOPs)、内分泌撹乱物質などに関するデータを表示することを試みた。また、フィールド調査としてプラスチックの中間材料であるレジンペレットを取り上げた。これに関しては、インターネットを利用して日本全域からサンプルを集めるPDPlastic Debris)ウォッチヤーズと呼ぶネットワークづくりを試み、また韓国や中国の海岸の調査も行った。さらにレジンペレットの分析法として、溶出物を分析する化学的方法に加えて、近赤外光の反射を利用する方法、イオン照射による表面散乱を利用する方法などを検討した。

 

4.考察

 本研究は、東アジア海域において人為起源の有害化学物質がどのような経路で日本近海に負荷され、それがどのような過程で底泥に蓄積されて行くか明らかにし、底泥に蓄積された有害化学物質が、主として底魚にどのような食物連鎖を経由して蓄積して行くかを明らかにするとともに、これらの研究成果を関連情報とともにデータベース化することを目的とした。

 日本近海への有害化学物質の負荷の経路は、大きく分けて2つがあることが明らかとなった。一つは底泥に蓄積された有害化学物質があるときはゆっくり、また台風などにより急激な撹拌を受けるときは急速に底泥から海水へ回帰し、海流などにより輸送される。この場合の起源は海自身であるとも言える。しかし、これは対象となる有害化学物質が規制されかなり経過した後の話である。規制されて間もなくであったり、現在も使用されている地域周辺では、海洋への負荷は河川経由である。いま一つは大気経由である。台風などの発達した低気圧や黄砂時などに大気中の有害化学物質の濃度が顕著に高くなり、その後海水中の濃度もこれに呼応して高くなる。大気から海水へは、直接の交換の他、降雨や河川から負荷されるものもあり、その応答は複雑である。本研究では、こうした動態を時間的空間的に密な観測を行うことで再現できた。また、有機スズ化合物を指標に有害化学物質の沈降過程を検討した結果、ブチル系スズ化合物およびTPhTを除くフェニル系スズ化合物は溶存体で、疎水性の強いTPhTは懸濁体として存在することが明らかとされ、有害化学物質の海水からの除去過程の一端が明らかとされた。

 一方、底泥に蓄積された有害化学物質の底魚類への蓄積過程の研究では、山陰沖、大和堆における食物連鎖を明らかにすると共に、底泥および食物連鎖にかかわる生物中の有害化学物質の詳細な分析の結果、TPhTは食物連鎖を通して濃縮される傾向が強いもののTBTは食物連鎖を通じた濃縮はされなかった。さらにダイオキシン類ではCo-PCBsのみが栄養段階の上昇に伴って濃縮される傾向が確認されたが、PCDDsPCDFsは栄養段階との明確な関係はみられなかった。

 これらの研究成果はデータベース化され、Webサイトなどを通じて広く提供することにより、さらに深い解析への手がかりとする情報提供も開始された。

 本研究では、海水中、洋上大気中、海水中懸濁物、底泥、食物連鎖に関わる多様な生物中と様々な媒体中における有害化学物質を一連の流れとして捉えることにより、有害化学物質の大きな流れをある程度捉えることができた。ダイナミックな環境の動態を垣間見ることが出来、有害化学物質の汚染機構解明に足跡を記したが、より広範な機構解明には対象領域をさらに広げることが求められる。今後、さらに本研究の成果を発展させ、より深く環境を理解すべく研究を進めることが重要である。

 

5.研究者略歴

課題代表者:功刀正行

1947年生まれ、東京理科大学理学部卒業農学博士、現在、国立環境研究所地球環境研究グループ海洋研究チーム主任研究員

主要論文:M. Kunugi, A. Harashima, K. Fujimori and T. Nakano (1998) : Observation of time-space variation of hazardous chemicals in sea water using a ferry, Proceeding of meeting towards a cooperative marine environmental monitoring in the Asian marginal seas, Jan. 8-9, Japan, 3. 1-3. 4.

T. Niki, M. Kunugi, and A. Otsuki (in press) : DMSP-lyase activity in five marine phytoplankton species : its potential importance in DMS production, Marine Biology.

功刀正行(1999):海の限界、水谷 広編地球の限界(日科技連出版社)117-128.

 

サブテーマ代表者

(1) Ц刀正行(同上)

   ◆Ю極寨道

1967年生まれ、東北大学農学部卒業、現在水産庁西海区水産研究所海洋環境部研究員

主要論文:Y. Kiyomoto, K. Iseki and K. Okamura (1997) : Seasonal variations of biogenic and lithogenic silica and the composition of particulate matter in the East China Sea. Proceedings of the CREAMS' 97 international symposium, 263-265.

K. Iseki and Y. Kiyomoto (1997) : Distribution and settling of Japanese anchovy (Engraulis japonics) eggs at the spawing ground off Changjiang River in the East China Sea. Fish. Oceanoge., 6, 205-210.

Y. Kiyomoto, K. Iseki and K. Okamura (1999) : Variability of chlurophyll and suspended particulate matter distributions in the East China Sea using ocean color satellite imagery and shipboard measurements. In : Land-Sea Link in Asea, 96.

   :田尾博明

1957年生まれ、東京大学大学院理学系研究科化学専門修士課程修了、現在、工業技術院資源環境技術総合研究所水圏環境保全部水質計測研究室長。

主要論文:H. Tao, T. Murakami, M. Tominaga, and A. Miyazaki (1998) : Mercury Speciation in Natural Gas Condensate by GC-ICP-MS, J. Anal. At. Spectrom. , 13, 1085-1093.

H. Tao, R. B. Rajendran, C. R. Quetel, T. Nakazato, M. Tominaga, and A. Miyazaki (1999) : Tin Speciation in the Femtogram Range in Open Ocean Seawater by GC-ICP-MS Using a Shield Torch at Normal Plasma Conditions, Anal. Chem., 71, 4208-4215.

田尾博明、R. B. Rajendran、長縄竜一、中里哲也、宮崎章、功刀正行、原島省(1999:瀬戸内海における有機スズ化合物の分布と起源、環境化学、9, 661-671.

(2) 南 卓志

1946年生まれ、京都大学大学院農学研究科博士課程修了、現在、水産庁日本海区水産研究所国際海洋資源研究官

主要論文:南卓志(1984):イシガレイの初期生活史、日本水産学会誌、50, 551-560.

Minami, T. and M. Tanaka (1992) : Life history cycles in flatfishes from the northwestern Pacific, with particular reference to their early life histories. Netherl ands J. Sea Res., 29, 35-48.

渡辺研一・南 卓志・飯泉 仁・今村茂生(1996):北海道厚岸湖における魚類の胃内容物から見た種間関係、北海道区水産研究所報告、60, 239-276.

   ◆Ь山次朗

1952年生まれ、九州大学大学院農学研究科博士課程修了、現在、水産庁瀬戸内海区水産研究所環境保全部水質化学研究室長

主要論文:Jiro Koyama and Ryosuke Kuroshima (1998) : Toxicity of dibenzothio-phene and its distribution in the easternc oast of Japan and northwester coast of the ROPME Sea Area, In "Offshore Environment of the ROPME Sea Area after the War-Related Oill Spill", eds. by A. Otsuki et al., Terra Sci. Publ. Com. , 245-256.

小山次朗(1998):海産魚介類を用いた生態毒性試験、環境毒性学会誌、1, 15-25、上野大介・高橋真・田辺信介・池田久美子・小山次朗(1999):イガイ移植実験における有機塩素化合物の蓄積挙動、環境化学、9, 369-378.

   :神沼二眞

1940年生まれ、米国ハワイ大学大学院物理天文学科博士課程修了物理学Ph. D、現在、厚生省国立医薬品食品衛生研究所化学物質情報部長

主要論文:T. Kaminuma, T. Igarashi, T. Nakano, and J. Miwa (1998) : A Computer System That Links Gene Expression to Spatial Organization of Caenorhabditis elegans, Information Processing in Cells and Tissues, R. C. Paton and M. Holcombe, ed., Plenum Publishing Company, pp. 243-252.

Takai-Igarashi T, Nadaoka Y, and Kaminuma T (1998) : A database for cell signaling networks. J. Comp. Biol., 5 (4), 747-754.

Kaminuma, T., Takai-Igarashi, T., Nakano, T., and Nakata, K (2000) : Modeling of signaling pathways for endocrine disruptors, Bio Systems, 55, 21-31.