課題名

C-3 東アジアにおける酸性雨原因物質排出制御手法の開発と環境への影響評価に関する研究

課題代表者名

畠山 史郎 (環境庁国立環境研究所大気圏環境部大気反応研究室)

研究期間

平成9−11年度

合計予算額

197,795千円(11年度 62,637千円)

研究体制

(1) 酸性雨原因物質の制御手法の開発に関する研究

 々睥臆分炭を対象とした簡易脱硫技術に関する研究

(通商産業省資源環境技術総合研究所、岐阜大学)

◆〇誓雨原因物質の排出制御技術の実用化に関する研究

(環境庁国立環境研究所、(社)国際善隣協会)

 民生用燃焼器具からの酸性雨原因物質の排出制御技術の実用化に関する研究

(厚生省国立公衆衛生院)

ぁ.丱ぅブリケット技術の現地化・広域普及のための共同研究

(環境庁国立環境研究所、埼玉大学)

(2) 酸性雨原因物質排出制御の実施に伴う環境影響評価に関する研究

 〇誓雨原因物質排出制御の実用化と健康影響・評価に関する研究

(厚生省国立公衆衛生院、佛教大学)

◆.皀妊訝楼茲砲ける室内外の環境汚染評価方法に関する共同研究

(環境庁国立環境研究所、埼玉大学)

 酸性雨による材料への影響を尺度とした環境影響評価手法の開発に関する研究

(環境庁国立環境研究所、(社)大気環境学会)

ぁ/∧被害に関連する酸性・酸化性物質の生成過程への影響評価に関する研究

(環境庁国立環境研究所)

研究概要

1.序

 21世紀には世界の酸性雨問題はアジア地域に集中するのではないかとの懸念がある。欧米の先進国や我が国とは異なり、東アジア地域では工業発展が続いているにも関わらず石炭から石油への燃料転換は進んでいないからである。特に中国においては年間13億トンにも及ぶ大量の石炭が消費されており、これに由来するSO2も年間1700万トンにものぼっている。SO2やこれから生成する酸性物質の影響は、国内の自然環境のみならず市民の健康や、文化財や人造建造物にも及び、さらには広く我が国を含む北東アジア全域にも影響を及ぼしているものと考えられている。更に言えば、中国における酸性雨原因物質の排出制御は中国国内の問題であるだけではなく、今や地球規模の気候変動の観点からも緊急の重要性を持っている。とりわけ一般家庭や中小の商工業における燃料の利用(いわゆる民生用の燃料利用)からの酸性雨原因物質の排出は、住民の健康に直接関係しているため非常に重要である。またこれからの排出量は全体の20%にも達していて、決して無視できるものではない。民生用燃料からの排出制御技術の普及は住民の健康を守るためにも至急にすすめなければならない。また住民の健康の改善は、大規模な排出制御技術の開発・普及を促すためにも強いモーティブフォースとなりうるものである。

 このような観点から、現在深刻な大気汚染の状況下にある中国重慶市をフィールドとして、大気汚染の現状、住民の健康の状況を明らかにして、公害対策の必要性を明確にするとともに、単なるハードの提供による公害対策支援ではなく、現地化・現地技術による普及が可能な公害対策技術を提供・援助して、自助努力による公害対策の展開が可能となるような技術・資金の援助に道筋をつけることが重要と考え、中国側の独自技術を有効に利用した共同研究が進められた。

 また同時に、酸性雨原因物質の制御手法が実施され、普及した際に環境にどのような影響が現れるかを明らかにし、対策技術や、改善された燃料の普及を図るため、住民に対する健康影響、文化財や建造物などの材料の腐食に関する研究、大気汚染が森林樹木に与える影響に関連する大気汚染物質の観測や反応の研究等が進められた。

 

2.研究目的

 本研究では主に中国を対象として、酸性雨原因物質の排出制御手法の開発と、その環境への影響を評価することを目的とした。具体的には以下の2つの目的のもとに研究を進めた。

(1)民生用の石炭燃料からの効果的な脱硫手法としてのバイオブリケット技術の普及、低含硫ブリケット製造のための乾式選炭技術の開発、および中小のボイラーや民生用の燃焼器具からの排出制御手法の開発に関する研究。この研究のため、石炭の使用量が多く、またすでに住民の健康被害や周辺の自然環境の悪化が指摘されている中国南西部の重慶市を主なフィールドとして研究を行った。

(2)民生用の燃料使用に対する酸性雨原因物質の制御手法が実施され、普及した際に環境にどのような影響がみられるかを明らかにし、対策技術や、改善された燃料の普及を図るための研究。主に上記のフィールドにおいて、住民の健康への影響、室内大気や都市大気の環境に対する影響、植物への影響、文化財や建造物を構成する材料への影響などの観点から環境への影響を評価する研究を行った。

 

3.研究の内容・成果

(1)酸性雨原因物質の制御手法の開発に関する研究

 々睥臆分炭を対象とした簡易脱硫技術に関する研究

 発展途上国に適した簡易排煙脱硫法として、循環流動層を利用する排煙脱硫プロセスを提案し、実用化のための基礎研究を行った。高効率での排煙脱硫では微粉脱硫剤の使用が効果的である。しかし、微粉脱硫剤は脱硫効率は高い反面、脱硫装置から容易に飛び出してしまうため利用効率が低いのが欠点であった。本プロセスはこの欠点を改良するため、珪砂等の粗粉を流動媒体として循環流動層を形成させ、そこに微粉の水酸化カルシウム等の脱硫剤を吹き込むものである。微粉脱硫剤は粗粉と粒子群を形成するため装置内での滞留時間が大幅に向上し、脱硫剤の利用効率も上昇する。このプロセスの実用化のための研究を行った。ベンチスケール規模装置により実際の石炭ボイラーの排煙にSO2を混入した模擬排ガスにより脱硫実験を行った。珪砂の循環媒体中に、微粒子のCaOCa(OH)2及び水蒸気を連続供給し、反応温度は100130℃に設定した。微粒子脱硫剤の見掛けの装置内滞留時間が大幅に増加し反応時間が確保されるため、Ca/S=2で脱硫率98%を達成し、Ca/S1でも75%の脱硫率を確保することができた。脱硫率に最も大きな影響を与えるのは、水蒸気濃度であり飽和条件に近いほど高い脱硫率が得られた。また、脱硫剤の飛び出しに及ぼす操作条件を調べ、操作ガス流速を適切に選ぶことにより脱硫剤の飛び出しを制御可能なことが分かった。さらに、コールドモデルにより確認実験を行い2成分系の流動媒体とすることにより微粉の循環量を制御できることを確かめた。

 上記プロセスの支援研究として中国産石灰石7種類について、か焼後の化学組成、物理構造(細孔分布、空隙率、表面積)を測定した。化学組成は日本産の石灰石に比べCa含有率がやや低く純度は低い。しかし、か焼後の物理構造は純度が低く不純物を含むものの方が細孔径が大きく、また比表面積、空隙率も高くなる傾向となった。これらと脱硫性能(反応容量、反応速度)との関係を調べた。中国産石灰石の中の1種類はMgCO350%含むものがあり、か焼後の細孔の発達が良く高い脱硫性能を示した。他の6種類については日本産の石灰石と同程度の脱硫性能であった。

 実用化の見通しが得られたのでコスト試算を行った。その結果、本プロセスは既存の簡易脱硫法と比較して充分な競争力を持つと試算された。本研究成果を基に、中国側で実機による実証試験が認められ、より大きなスケールの装置での研究がスタートする予定である。

 

◆〇誓雨原因物質の排出制御技術の実用化に関する研究

 中国中央政府直轄最大都市重慶市では、高硫黄含有率(約26%)の石炭を民生ならびに産業用の主要な燃料として、年間約2,533万トン(1999年)が消費され、森林枯損、農業被害、建造物の腐食などの酸性雨被害が顕現化し、呼吸器系疾患による死亡率は中国全域の平均と比較して約3倍であるなど健康被害も顕著である。それらは小規模低層大気汚染(中小工場ボイラー、民生用炉)による石炭燃焼から放出される二酸化硫黄(SO2)と粉塵による影響が大きいと確認されている。このため、重慶市では、燃料使用量を低減すると共に、都市部におけるSO2と煙塵による小規模低層大気汚染からの酸性雨原因物質の排出抑制ならびに住民の健康保護対策が急務となっている。また、中国において、一般的に利用されている湿式選炭技術は、その立地に水資源が必要であり、設備コストがかさみ、高含水スラッジ、廃水処理施設など、プロセス上の複雑さ等の問題から、石炭の選炭率は20%しか達しておらず、大部分の石炭が未処理のまま市場に流通している。そのため自国産の低品位(高硫黄・高灰分)にエネルギー源を求めざるを得ない中国などの開発途上国では、石炭燃焼に起因する深刻な大気汚染が生じている。したがって、水資源を必要とせず、設備、ランニングコストなどの面から中国に適合する乾式選炭技術の普及は緊急かつ重要な課題であり、その開発と技術協力に関して、我が国の石炭関連産業にかける期待は極めて大きい。

 本研究では、上記のような環境問題を解決するために、バイオブリケット技術の実用化と静電気を利用した乾式選炭装置の開発を行ってきた。

 バイオブリケット技術に関しては、1995年度〜1996年度にかけて、重慶市における民生用石炭からの酸性雨原因物質の排出抑制対策技術として、現地実用化を目指した製造技術及び燃焼技術を確立し、現地への実証プラントを日中共同で建設した。本研究では、1997年度より現地実証プラントにおいて、これまでの研究の継続としてバイオブリケット技術の現地化を推進するために、燃焼時に硫黄固定、脱硝、脱塵が可能な重慶製のバイオブリケットを開発し、日中共同による特性評価研究を実施し、その高い環境効果並びに経済性効果が確認された。

 さらに、1997年度より新たに静電気を利用した乾式選炭装置を開発し、その選炭効果を国内で実験・評価した。また、硫黄分の高い低品位石炭が産出される重慶市南桐炭鉱に乾式選炭研究装置を導入し、技術移転をすると共に、日中共同による選炭実験を実施している。その結果、一般的な湿式選炭に比べて、脱硫率及び脱灰率ともにやや低いが、中国側の要求する数字に達しており、低コストが示され、また選炭特性パラメータの最適化によって向上することが可能である。

 

 民生用燃焼器具からの酸性雨原因物質の排出制御技術の実用化に関する研究

 中国西南部(重慶、成都)や中国の他の地域(北京、西安、長沙)あるいは日本国内で用いられている各種焜炉や燃料などを用いた燃焼実験を行い、いくつかの代表的な燃料についての排出係数を算出した。いずれの燃料でもガス状汚染物ではCOがもっとも排出量が多く(40-150mg/g-燃料)、NOxSO2は燃焼状況や含有量に応じた排出をしていた。SO2では、重慶産の練炭(硫黄含量;2.6%)の場合に、煙道濃度が200ppmを超える高濃度を示した。

 いくつかの代表的な燃料について、その低減化技術を検討した。ガス状汚染物の中でもっとも排出が問題となるCOでは、ディスク状の磁製板を1-2cmの空隙で練炭上に設置することで約50%の低減効果が上げられることが分かった。また、SO2では、.妊スク状に成型した生石灰を練炭上に置いた場合では、顕著な低減効果は認められなかったが、⇔馨の生石灰、Nって固めた粒状の紛状消石灰を燃焼中の練炭の約1cm上の金網の上に置いたときに、排出が40-55%に低減化する効果が認められた。さらにず猯舛望胆亞イ2-10%混入することで、元の10%以下のレベルにSO2を低減化することができた。すなわち練炭の燃焼焜炉の改善でCOの排出を約50%、製造過程を幾分変えることでSO2の排出を90%程度カットできることが判明した。

 

ぁ.丱ぅブリケット技術の現地化・広域普及のための共同研究

 本研究では、農作物、植物、食品製造廃棄物などのバイオマスの燃焼特性やバイオブリケットの耐圧強度やその汚染物質排出抑制効果などによりバイオブリケットの製造技術の適正化を検討し、次の(I)〜(IV)の結果を得た。(I)バイオマス燃焼からのHClSO21kg当たりの排出量はそれぞれ35912521764mgの範囲であった。特に、食品製造廃棄物の燃焼による大気汚染物質の発生は多くなかった。(II)バイオブリケットの耐圧強度は石炭の種類、バイオマスの添加量、バイオマス中のリグニン含有量によって異なるが、25%農林産廃棄物添加のいずれのダブレット及びバイオブリケットも40kg以上の耐圧強度に達していた。ブリケットの強度増大のための粘結剤(バインダー)として役立たせることができるバイオマスのリグニン含有量は12.133.3%の範囲であった。(III)バイオブリケット燃焼によるHClSO2とダスト排出への低減率は2661%8288%5583%の範囲であった。バイオブリケット化は石炭燃焼排気の大気エアロゾルの酸性度及び大気エアロゾルヘの寄与を低減させると推定された。(IV)バイオマス添加による燃焼灰中には植物生長に有効なCaMgKなどの栄養塩類が多く含まれ、また、消石灰の過剰分による残存アルカリもあるため、重度酸性雨地域においてバイオブリケット燃焼灰を農林地へ散布すれば酸性士壌の中和並びに栄養塩類の補給が可能となり、廃棄物を発生させないゼロエミッションの環境保全対策が実施可能と推定される。

 

(2)酸性雨原因物質排出制御の実施に伴う環境影響評価に関する研究

 〇誓雨原因物質排出制御の実用化と健康影響・評価に関する研究

 酸性雨原因物質の排出抑制のため、重慶市においてバイオブリケットが実用化されるが、その効果を評価するために、地域や家庭の大気環境、室内環境の改善状況を評価および、住民の健康状況の改善を評価し、バイオブリケット普及に資することを目的とした。

 対象地域の南岸区龍井村、北陪同興村の室内外の汚染物質の測定では、二酸化硫黄、粒子状物質濃度が著しく高く、しかもいずれも室内濃度が室外濃度よりも高かった。粒子状物質のイオン濃度はSO42-NH4+の濃度が著しく高く、酸性度が高いことが示唆された。以上より、重慶市の住民の大気汚染物質の曝露は調理用石炭による屋内汚染からの寄与も大きく、バイオブリケット使用による対策が急務であると思われた。バイオブリケット導入による汚染物質の低減効率の計算や低減効果の評価を行いSO2の低減率は85%と有効であったが、塩化水素はバイオマスの種類によって低減効果はばらつきがあった。またバイオブリケット使用により、屋内のSO2濃度は5.08mg/m3から0.79mg/m3に低下し有効性が確かめられた。

 健康調査は上記龍井村の89世帯をバイオブリケット使用群、同興村の110世帯を従来の石炭を使用する対照群として、バイオブリケット使用前(平成103月)と使用9ヶ月後(平成1012月)の2回行った。鼻咽喉検診では、特に屋内にいる時間が長い成人女性において陽性所見数はバイオ使用群では著しく減少したのに比較して、対照群では一部を除きほとんど変化がなかった。肺機能検査では特に変化は認められなかった。

 バイオブリケット使用により、屋内空気の汚染状況は著明に改善し、成人女性の鼻咽喉の炎症所見は著明に改善したが、子供は改善傾向が認められたものの、有意差はなかった。また肺機能も変化がなかった。これは観察期間が9ヶ月と短かったたことが大きな要因と考えられる。以上より短期間の観察とはいえ、バイオブリケット使用により、屋内汚染、炎症所見は改善することが明らかであり、バイオブリケット普及のために健康影響の改善も十分な動機付けとなると思われる。

 

◆.皀妊訝楼茲砲ける室内外の環境汚染評価方法に関する共同研究

 本研究では、フッ化水素ガスの発生装置により低濃度HFガス発生の安定性を調べた。また、従来の濃縮IC法と簡易法(パッシブサンプラー)により石炭及びバイオブリケット燃焼により排出された汚染物質の濃度を検討したところ、二つの方法が良く一致しており、IC法の代わりとして、簡易法は汚染物質を測定できることを示した。また、固定吸着剤(カートリッジ)を用い、石炭燃焼に伴い排出されたアルデヒド類を捕集し、それらの濃度をHPLC-UVで分析した。

 実験室でバイオブリケットによる汚染物質の低減効果を検討した。さらに、重慶において原炭とバイオブリケット燃焼排気ガス中の汚染物質濃度の測定により推定されたSO2NO2の個人暴露量はそれぞれ原炭燃焼時の37.01mg/day0.34mg/day、バイオブリケット燃焼時は15.66mg/day0.23mg/dayであり、バイオブリケット化により大きく低減できることを明らかにした。

 

 酸性雨による材料への影響を尺度とした環境影響評価手法の開発に関する研究

 1)東アジア地域での大気環境下での材料暴露調査   大気汚染レベルおよび気象条件の異なる日本(13地点)、中国(8地点)および韓国(2地点)において、青銅、銅、炭素鋼、大理石、杉、檜、漆の暴露試験を実施し、同時に気象要素、乾性降下物、湿性降下物等の環境因子を測定した。銅は東アジア地域において長期間の暴露試験にも直線性を示し、複合汚染指標として有効であった。重慶での銅の腐食速度は、1993年から屋内暴露ではSO2ガス濃度の低下とともに減少する傾向にあり、屋外暴露では雨水中の硫酸イオン濃度の変化と同じ挙動を示した。日本では屋外・屋内暴露ともほぼ一定であったが、韓国の大田では屋外・屋内暴露とも腐食量は増加傾向にあった。薄膜X線回折による腐食生成物の分析の結果、中国の重慶の試料からは、屋外・屋内暴露ともCu2O、塩基性硫酸銅(Brochantite)の強いピークが検出された。一方、日本の都市型汚染地域の雨を遮断した屋内暴露では、さらに水に溶けやすい塩基性硝酸銅も検出された。銅の腐食量には、S量、C1量、硝酸塩の沈着が大きく寄与していることがわかった。

 2)人工酸性雨および酸性ガスによる腐食試験   人工酸性雨には、重慶と大阪との雨が調製され、降水プログラムに従って繰り返し噴霧された。腐食加速試験による銅表面には、両方の雨とも、Cu2Oの強いピークを認めたが、塩基性硫酸銅、塩基性硝酸銅は共に検出されなかった。腐食量はpH値の低下とともに大きく増加した。また、SO2+NO2+O3によるガス腐食試験(RH90%、暴露期間:5days)では、銅表面にCu2Oと塩基性硝酸銅を生成した。O3による腐食の促進効果は大きかった。

 3)歴史的建造物の環境汚染履歴調査   50300年を経た建造物から銅試料を採取した。北九州や堺市のように工業地帯に隣接した地域から採取された試料には、SO2が高濃度であった時代に形成したと思われる塩基性硫酸銅(Antlerite)が検出された。300年前の試料は、緻密な塩基性硫酸銅(Brochantite)の層で覆われていた。

4)環境評価手法の検討   多変量解析によって、物的影響関数を定め、物的影響のモデル化を図り、地域環境特性、汚染物質特性、時間特性を考慮した環境評価手法を検討した。

 

ぁ/∧被害に関連する酸性・酸化性物質の生成過程への影響評価に関する研究

 酸性雨の森林植物への影響に関しては、その被害を受けているのではないかと考えられる地域で、被害の原因となりうる化学的・地球科学的現象とその変化を把握しておく必要がある。森林に被害を与えうる様々な要因のうち、大気化学的な見地からは、酸性雨と酸化性大気汚染物質が重要である。本研究では(1)大陸からの酸性物質輸送の影響を受けているのではないかと危惧される伯耆大山の山頂に到達する気塊の流跡線を計算してその通過地域を分類し、特に冬季には60%以上が大山と中国上海または韓国ソウル付近を結ぶ2本の直線によって構成される扇形の狭い領域を通過してきた気塊が大山山頂に到達していることを見いだした。また(2)強酸化性大気汚染物質として、植物に被害を与える可能性の高い、ガス状の過酸化水素の濃度を国立環境研究所の林内で測定し、その濃度変化に与える様々な気象要素・大気化学的要素の影響を解析した。さらに(3)ガス状の有機過酸化物の生成過程を明らかにすることを目的として、植物起源の天然炭化水素およびその類似化合物とオゾンの反応について、大型の光化学反応チャンバーを用いた実験室的な研究を行い、生成する過酸化物等の収率と、原料炭化水素の構造との関係を調べて、反応機構を推定した。

 

4.考察

 欧米諸国では、酸性雨問題はかなり沈静化の方向に向かっている。これは、石炭から石油への燃料転換によって酸性雨問題を解決してきたからで、これら先進各国と異なり、中国では今後も相当の長期にわたって石炭をエネルギーとせざるを得ないと思われる。このような国々や地域における、石炭燃料利用に関する公害対策技術を本気で考えねばならない時期である。中国の国内問題としての大気汚染問題に解決の糸口がつかめれば、それはとりもなおさず我が国や、中国の周辺の諸国にとっても大きな環境問題の解決の道が開かれたことになる。アジア地域における酸性雨原因物質の放出は、さらには太平洋を越え、広く地球規模の環境問題、気候変動問題にもつながっている。また将来の石油枯渇を見据えたとき、石炭燃焼に対する公害対策技術は未来技術であるともいえる。

 発展途上国に対する環境保全のための援助は従来、ともすると、大型・高額の装置を提供するという形で行われることが多かった。しかし、装置のメンテナンスを続けるための技術力と、装置を恒常的に稼働させるための経済力がないと、せっかくの高効率機器の導入も、実効的な働きをしていない場合が少なくない。発展途上の国々に供与すべき酸性雨原因物質排出対策技術は、脱硫率が多少低くてもコストが低いこと、小規模装置への対応が可能であること、維持・管理の容易な設備であること、そして現地の技術を応用して普及が図れることなどに配慮する必要がある。

 本研究課題において、中小ボイラーに適した脱硫技術や、民生用のコンロの特性の改良などが図られたこと、さらに小規模な一般民生用燃料使用に対して利用可能な簡易脱硫技術(バイオブリケット)が開発され、その現地化・広域普及の可能性が明らかにされたことは中国のみならず、燃料として石炭を利用している発展途上国にとっても有意義なことである。本研究課題に基づくテストプラントが重慶に建設されたのに続いて、そこで製造されたバイオブリケットの性状・成分分析を行い、硫黄固定効率やエネルギー効率を評価して、従来の重慶市販豆炭と比較し、バイオブリケットの優れた特性を明らかにすることができた。ブリケットに強度を与えるためのバインダーとしてのバイオマスの特性や、室内の汚染状況を広域で簡便に測定するための手法についても研究が行われた。バイオブリケットによる発生源対策は現地技術によっても十分普及・発展が可能な技術であり、遼寧省鞍山市には本格的な商用工場も建設された。今後さらに多くの都市においてこの技術が広まっていくものと期待される。

 一方同時に、今後生産されるブリケットの質的向上を図る必要もある。ブリケット使用に適さない中大型燃焼装置等への利用を考える上でも、簡便かつ効果的な選炭を行うことによって、燃焼に使われる石炭の質を向上させることは不可欠な処理といえよう。従来法の、汚染排水を伴うという欠点を避けることのできる乾式選炭として、静電気セパレーター方式による乾式選炭を実用化するための研究を日中共同で行い、広い粒度範囲の粉炭に適用することができることが分かった。硫黄分の高い低品位石炭が産出される重慶市南桐炭鉱に乾式選炭研究装置を導入し、技術移転をすると共に、日中共同による選炭実験を実施した結果、一般的な湿式選炭に比べて、脱硫率及び脱灰率ともにまだやや低いが、中国側の要求する数字に達しており、選炭特性パラメータの最適化によって向上が可能であることが示された。コストが低いことからも、今後の普及に十分期待できる。

 汚染ガス排出制御技術が普及したとき、周辺の環境にどのような好影響を及ぼすかは対策技術の有効性を判断する上で非常に重要である。人間の健康や、植物、材料への被害が目に見えて低減されるようであれば、対策技術の導入に強いモーティブフォースとなるからである。

 バイオブリケット使用により、屋内のSO2濃度は5.08mg/m3から0.79mg/m3に低下し、有効性が確かめられた。また、健康調査は重慶市南岸区龍井村の89世帯をバイオブリケット使用群、同興村の110世帯を従来の石炭を使用する対照群として、バイオブリケット使用前(平成103月)と使用9ヶ月後(平成1012月)の2回行った。鼻咽喉検診では、特に屋内にいる時間が長い成人女性において陽性所見数はバイオ使用群では著しく減少したのに比較して、対照群では一部を除きほとんど変化がなかった。バイオブリケット使用により、屋内汚染、炎症所見は改善することが明らかであり、バイオブリケット普及のために健康影響の改善も十分な動機付けとなると思われる。

 一方、材料の腐食から見ると、高汚染地域では金属製や大理石製の文化財、建造物、材料の腐食が激しく、経済的な損失もまた無視できないものである。ただ、人工酸性雨暴露の実験と、自然条件における長期暴露の実験では、腐食物質として生成する金属塩の種類が異なり、データの解析等には注意が必要である。またNOx系の汚染物質の放出が、今後増加すると懸念されるが、これによる大気の酸化能力の増進は、酸化性物質の大気中濃度の増加をもたらすものと予想され、これによる植物への影響が今後増えるものと予想される。関東地方で見られる森林衰退が、このような光化学大気汚染の結果であるとすれば、今後中国等では硫黄酸化物とこのような光化学大気汚染の複合した汚染の影響を受け、現在以上の深刻な被害を被るようになるおそれがある。大気環境を監視し続けるとともに、有効な対策技術の導入を広い地域に進めていく必要があるものと思われる。

 

5.研究者略歴

課題代表者:畠山史郎

1951年生まれ、東京大学理学部卒業、理学博士、現在国立環境研究大気圏環境部

大気反応研究室長

主要論文:S. Hatakeyama : IGACtivities (Newsletter of the International Global Atmospheric Chemistry Project), No. 20, 11-14 (2000)

"PEACAMPOT and PEACAMPOT II campaigns"

S. Hatakeyama, T. Imamura, and N. Washida : Bull. Chem. Soc. Jpn., 72, 1497-1500 (1999).

"Enhanced formation of ozone by the addition of chloropicrin (trichloronitromethane) to propene/NO/air/photoirradiation systems"

S. Hatakeyama, et al.,: J. Aerosol Res. Jpn., 12, 91-95 (1997).

"SO2 and Sulfate Aerosols over the Seas between Japan and the Asian Continent."

サブテーマ代表者

(1) Ь觚与夫

1944年生まれ、九州大学工学部卒業、前資源環境技術総合研究所統括研究調査官

主要論文:Kido, N., Y. Suzuki, S. Matsuda, J. He and C. Li : "The joint Research on Application of Simplified Desulfurization Technology to Stoker Boilers in China", Proc. 4th Int. Symp. of ETERNET-APR, AEI IV. 1- 5 (1998).

城戸伸夫、「開発途上国向け脱硫技術(1)−脱硫技術の開発と普及」、環境管理、

31, No. 5, pp. 592 (1995).

松田、鈴木、城戸他、微粉炭燃焼における乾式炉内脱硫技術に関する研究、資源と環境、4, No. 6, pp. 451 (1995)

   ◆畠山史郎(課題代表者に同じ)

   :渡辺征夫

1944年生まれ、東北大学理学部卒業、理学博士、現在、国立公衆衛生院 地域環境衛生学部環境評価室長

主要論文:汝宜紅、姚家奕、徐傑、渡辺征夫、田中勝:環境技術、29, 60-68 (2000)

「中国における鉄道客車ごみの排出特性及びその低減化対策」

渡辺征夫、竹澤一郎、田子博:分析化学、47, 63-68 (1998).

I. Watanabe, M. Nakanishi, J. Tomita, S. Hatakeyama, K. Murano, H. Mukai and H. Bandou : Environmental Pollution, 102 (Sl), 253-261 (1989).

"Atmospheric peroxyacyl nitrates in urban/remote sites and the lower troposphere around Japan"

   ぁ畠山史郎(課題代表者に同じ)

 

(2) 内山巌雄

1946年生まれ、東京大学医学部卒業、医学博士、現在国立公衆衛生院労働衛生学部部長

主要論文:Honda Y, Uchiyaa I : Global Environ. Res. 2, 105-110 (1998).

"Daily Mortality and Meteorological Factors in Japan"

Murayama R. Uchiyama I. : Risk Research and Management in Asia Perspective, 535-540 (1998).

"Empirical Study on Perceived Environmental Risks of the Tokyo Metropolitan Residents"

Honda Y, Uchiyama I. : 日生気誌34, 81-87 (1997).

"Relationship between Ambient Temperature and Mortality in Okinawa Japan"

   ◆畠山史郎(課題代表者に同じ)

   :畠山史郎(課題代表者に同じ)

   ぁ畠山史郎(課題代表者に同じ)