課題名

D-1 渤海・東シナ海における河川経由の環境負荷が海洋生態系に与える影響評価手法に関する研究

課題代表者名

渡辺 正孝(国立環境研究所水土壌圏環境部長)

研究期間

平成8−10年度

合計予算額

223,11210年度 73,726)千円

研究体制

(1) 河口域における流入負荷及びその循環の変動把握手法に関する研究

ヽね隆兮による生態系・物質循環機構の流入負荷への応答把握手法の開発に関する研究

(環境庁国立環境研究所)

河口域におけるセディメントトラップを用いた物質の沈降・分解過程の解析手法に関する研究

(水産庁西海区水産研究所)

3つ貘論冓の解析による渤海・東シナ海沿岸域における堆積物供給量の変化に関する研究

(通産省工業技術院地質調査所)

(2) 汚濁物質が海洋生態系・物質循環に与える潜在的影響の評価手法に関する研究

ヽね粒嵶ゼ存垣限峽呂鰺僂い娠濁負荷の海洋生態系への影響評価手法に関する研究

(環境庁国立環境研究所)

海洋生態系における微生物多様性解析手法の開発に関する研究(環境庁国立環境研究所)

H生物活動が沿岸域における陸起源有害金属元素の循環に与える影響に関する研究

(水産庁養殖研究所)

(3) 生態系モデルによる環境負荷の影響評価手法に関する総合的研究

±潦ぁε譽轡奮い寮限峽蓮κ質循環モデル開発に関する研究(環境庁国立環境研究所)

⌒潦ぁε譽轡奮い粒ね隆超データベース化と流動モデル開発に関する国際交流研究

(環境庁国立環境研究所)

渤海・東シナ海における河川経由の環境負荷予測に関する国際交流研究

(環境庁国立環境研究所)

 

研究概要

1.序

 陸域での人間活動(工業・産業、農業、水資源・電力開発、土地利用、都市化等々)により、リン、窒素等栄養塩、有機汚濁物質、重金属、有害化学物質(環境ホルモン物質を含む)など様々な物質が海域に負荷されてきた。それらの物質は海洋生物の中に取り込まれ、海洋生態系に人為的撹乱を与えていると考えられる。

 国連海洋法条約では排他的経済水域における環境保全と管理義務を沿岸国に定めている。また国連環境計画−北太平洋地城海行動計画(UNEP-NOWPAP)や北太平洋科学機構(PICES)により、北太平洋における海洋環境保全が強く求められている。

 日本を中心とするアジア・太平洋の海洋環境保全にとって最も影響を与えるものは、中国長江流域の経済開発に伴う東シナ海への環境負荷であると考えられている。東シナ海に接する我が国の海洋環境保全のためにも、長江流域の人間活動がその海洋環境に与える影響を予測・評価していくことが重要である。

 

2.研究目的

 東アジアの代表的な大陸棚である渤海・東シナ海は、生物生産および生物種多様性が高い海域である。長江河口域は豊富な漁業資源に恵まれ、また沖縄を中心とした海域にはサンゴ礁をはじめ野生生物の宝庫である。しかしながら、今後、長江流城を中心とする大陸の開発増大により、河川を通じて東シナ海へ流入する流砂、栄養塩類および有害化学物質などの環境負荷の量・質が大きく変化すると推定される。環境負荷の量・質的変化は、海洋生態系および生物多様性に大きな影響を与えることが危惧されている。そこで、本研究では河川経由の環境負荷が東シナ海、特に長江河口域の海洋生態系機能及び生物多様性に与える影響を評価する為の手法確立に資することを目的とした研究を行った。

 

3.研究の内容・成果

(1)河口域における流入負荷及びその循環の変動把握手法に関する研究

 ヽね隆兮による生態系・物質循環機構の流入負荷への応答把握手法の開発に関する研究

  長江河川水の流入に伴う海洋環境及び生態系に与える影響を把握することを目的として、199710月および19985月の2回にわたり長江河口沖合での海洋調査を実施した。長江起源水は表層(10m以浅)を伝わり秋季には東経123°付近、春季には東経124°以東まで達し(30〓等塩分線)、また本海域に供給される栄養塩のN/P比は北緯31°30′東経122°30′(測点Cl)においてそれぞれ3247であり窒素過剰であった。植物プランクトンの現存量は秋季には長江起源水と外洋水のフロントで多かったが、春季にはフロントの内側で多かった。これは両季節共に東経123°付近で光制限条件から解放されたためであると考えられた。また植物プランクトンは秋季に珪藻類、春季に渦鞭毛藻類が卓越した。珪酸は両季節とも豊富に供給されており、優占種の決定はその他の要因(成層条件、N/P比など)によるものと考えられた。懸濁粒子に含まれる長江起源、特に人為起源元素の本海域への供給について検討したが、懸濁粒子中元素の殆どはプランクトン等の生物あるいは地殻起源のものであった。また底質からのリン供給の可能性について検討したところ、堆積物粒子に含まれるリンのうち617%が生物の利用可能な形態であり、また間隙水中の溶存態無機リン濃度は水塊中の濃度に比べて430倍高い濃度で蓄積していた。したがって特に冬季に著しい底質の再懸濁などによって本海域で欠乏しているリンが供給される可能性が示唆された。

 河口域におけるセディメントトラップを用いた物質の沈降・分解過程の解析手法に関する研究

  河川から供給される粒状物質により河口域には高濁度域が形成される。高濁度域ではさまざまな溶存物質(重金属・有害汚染物質等を含む)が粒状物に吸着・凝集し、河口域から沖合域にかけての海洋生態系に様々な影響を及ぼすことが予測される。その影響を把握するためには、これら粒状物質の河口域における挙動を把握する必要がある。このため1997年秋季及び1998年春季に長江河口域において、セディメントトラップを用いた沈降粒子のフラックスと粒子中の有機物の分解速度を測定する実験を実施し、物質の沈降・分解過程の解明を試みた。その結果、沈降粒子フラックスは水塊構造の影響を強く受ける事が示唆された。すなわち成層が発達している時には躍層の上・下層で粒子フラックスの量・質に大きな差が見られるのに対して、鉛直混合が始まると再懸濁により海底の堆積物が巻き上げられ、その影響が上層まで達することにより粒子フラックスの量・質が均一化する傾向にあった。成層時の上層では生物生産が比較的活発になり、沈降粒子の化学組成から秋季には主に珪藻が、春季にはそれ以外の渦鞭毛藻等が主体の植物プランクトン組成であることが示唆された。また、秋季と春季ではC/N比が大きく異なり、秋季が春季よりも生物活動の影響を強く受けた粒子の比率が高いことが示された。沈降粒子中の有機物の分解速度を直接法及び酸素法の2つの方法で測定した結果、直接法では酸素法に比べ分解速度を過大評価する可能性が示された。また、分解速度を測定する沈降粒子の採集期間は、出来るだけ短くする必要があることが示唆された。酸素法の結果より沈降粒子中の有機物の分解速度は、陸源粒子の多い粒子組成を反映して低い値を示した。

 3つ貘論冓の解析による渤海・東シナ海沿岸域における堆積物供給量の変化に関する研究

  沿岸域への堆積物供給の変化が沿岸環境に与える影響を評価するため、黄河と長江三角州の河口州においてオールコアボーリングを、また沿岸・陸棚域において海底表層堆積物を採取し、過去約1万年間と過去数十年の環境変化を記録した堆積物試料を分析した。ボーリング試料からは、黄河と長江ともに過去約千〜2千年間の土砂供給量が増加していることが示された。また海域試料からは過去60年間において顕著な海底堆積物の重金属汚染は見られなかったこと、渦鞭毛藻群集組成の解析から有害渦鞭毛藻が1970年頃から産出していることが確認された。

 

(2)汚濁物質が海洋生態系・物質循環に与える潜在的影響の評価手法に関する研究

 ヽね粒嵶ゼ存垣限峽呂鰺僂い娠濁負荷の海洋生態系への影響評価手法に関する研究

  長江河口域への汚濁負荷に対する河口域生態系への影響評価の為に、波高の高い海域に設置可能な隔離生態実験系(浮遊式海洋メゾコズム)の開発及び長江河口域に構築したメゾコズム生態系へのリン及び油負荷実験を行った。浮遊式のメゾコズム開発では生態系維持に必要な水塊の混合条件を、蛍光色素を用いて調べた。その結果、波高が3060cm程度の海域にメゾコズムを構築した場合、メゾコズム自体の動きが十分な水塊混合を確保することが明かとなった。長江河口域における汚濁負荷実験では、生物生産の制限栄養塩であるリンを添加し、生態系の応答及び生態系物質循環について検討した。秋季及び春季の実験共に、リン添加(N/P元素比を8に調整)のみで、植物プランクトンブルームが容易に引き起された。ブルームを形成した植物プランクトンは、珪藻(秋季)及び渦鞭毛藻(春季)であった。両季節とも珪酸は豊富に存在し、優占種の決定因子は珪酸塩濃度以外にあると考えられた。粒子態有機炭素量としての生物量は季節に関わらず約1mg/l増加し、初期生物量の2倍であった。したがって本海域へのリン負荷は急激な生物量増大を招くと考えられた。また捕食者によるブルーム制御機能は相対的に珪藻ブルームに対して高く、渦鞭毛藻に対しては低いことが明かとなった。油濁汚染実験では、船舶燃料油水溶性画分をメゾコズムに添加し、生態系への影響を観測した。観察された生物種のうち、特に繊毛虫類及び夜光虫が油添加後に個体数が大幅に減少し、添加油に敏感に影響を受けていたことが示された。また植物プランクトンの光合成活性も大きく減少したことが示され、船舶油流出事故は河口域の生物生産に直接の影響を与えることが示唆された。

 

 海洋生態系における微生物多様性解析手法の開発に関する研究

  中国の長江では、流域開発を目的として中流域に世界最大級の三峡ダムが建設されており、河口域の東シナ海では、将来的に長江からの流入水の量的、質的変化が予想され、生態系への影響が危惧されている。本研究では、海洋生態系で重要な位置を占める微生物相の多様性を解明することを目的とし、細菌については培養を伴う従前法および分子生物学的手法を用いて、微細藻類については予備培養法と組み合わせた顕微鏡による形態観察とフローサイトメトリー(FCM)法により解析を行った。

  東シナ海における調査サイトごとの塩分濃度の鉛直分布より、長江流入水の影響は河口から約200km沖合のC3サイトまで及んでいることが明らかとなった。全細菌数とSiO2NO3DIP各濃度の相関性から、沿岸域では従属栄養細菌、沖合域低栄養性の細菌が多く存在していることが示唆され、生息する細菌の性質が異なるものと考えられた。

  真正細菌の16S rDNAを標的としたPCR-RFLPにより、Cl(長江河口から100km沖)、C3200km沖)、C5300km沖)サイトそれぞれの表層、中層、底層の細菌相を比較したところ、各サイトごとに細菌相が異なり、C1サイトは長江からの流入水の影響で異質の細菌相を示し、さらに表層の細菌相は中層、底層とは異なることが示唆された。

  C1サイト表層試料を、Marine Agar 2216を用いて培養した結果、Large colony group(コロニー径4-6mm)とTiny colony group1mm以下)の細菌が観察され、後者は表層で多く認められた。Biologおよび16S rDNA配列による解析の結果、Large colony groupでは、Alteromonas macleodiiRoseobacter gallaeciensisが優占種であり、Tiny colony groupのほとんどは光合成能を有するRoseobacter litoralisであったことから、表層に多く存在したものと考えられた。

  C1サイト表層試料のうち、培養で得られたコロニーは全菌数の約7%であったため、次いで、真正細菌16S rDNAPCRによるライブラリー化および塩基配列解析を行った結果、α-、γ-proteobacteriaC/F/Bgroupを中心とした多様な構成が見いだされ、特にAlteromonas macleodiiRosebacter gallaeciensisの近縁種は培養法でも多く見いだされたことから、本海域の優占種である可能性が示唆された。また、本手法では、培養法では得られなかった新奇な細菌群や、培養困難な細菌群の存在も認められた。今後、本研究で得られた塩基配列を基に各菌群に特異的なプローブを作り、現存量、存在比等の微生物多様性変遷を定量的に解析する事が可能となった。

  FCM法による解析では、前方散乱光(FSC)および側方散乱光(SSC)が小さくオレンジ蛍光(FL2)が相対的に高い粒子群と、前方散乱光(FSC)および側方散乱光(SSC)が比較的大きく、赤色蛍光(FL3)が相対的に高い粒子群の2つのことなる粒子群が認められ、これらの粒子は各々、フィコビリン色素を持つ原核のシアノバクテリアとクロロフィルしか持たない真核の微細藻類であると思われた。シアノバクテリアは河口より離れたサイトで多くB3あるいはB5では10,000 cells/ml認められたが、河口に近いAlおよびBlサイトでは真核藻類が優占するなど、長江沿岸域から外海にかけて、棲息する微生物の相が異なることが示された。予備培養法では少なくとも4綱に所属する4種類のピコ植物プランクトンを検出できた。これらの種は広範囲に生息するのが認められ、調査海域における基礎生産者としての重要性が示唆された。

 H生物活動が沿岸域における陸起源有害金属元素の循環に与える影響に関する研究

  19985月に東シナ海長江沖に隔離生態系(メゾコズム)を設置しメゾコズム内での(Cd)、コバルト(Co)、銅(Cu)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、モリブテン(Mo)、ニッケル(Ni)、鉛(Pb)、バナジウム(V)、亜鉛(Zn)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)の濃度を測定した。リン酸塩を添加し生物活動を助長したメゾコズム中ではCuNiAsの濃度が時間とともに減少する傾向がみられたが、MnPbZnSbの濃度は反対に増加する傾向がみられた。形態別のAsの分析においては、海水中のAs(V) 濃度が急激に減少し、As(III) 濃度が徐々に増加する傾向が明らかとなった。その他、MoCdVCoの濃度はメゾコズム中ではほとんど変化がなかった。植物プランクトンの組成、昨年度行った微生物活動の結果から考察するとリン酸塩を添加したメゾコズム内での一部の有害金属の濃度変動は生物活動が関与していることが示唆された。特に、植物プランクトンが増殖を始める時期には、微生物よりも植物プランクトンが微量金属濃度に大きな影響を及ぼしているようであり、またプランクトン種の相違によりその影響の度合いが異なっているようであった。さらに、メゾコズムの北に長江からの影響を調査するために定点を設け、海水を採取し上記有害金属の濃度を測定した。カドミウム濃度範囲はCd0.1から0.4nMの範囲、Co1から13nMの範囲、Cu9.1から17.3nMの範囲、Fe21から2631nMの範囲、Mn18から93nMの範囲、Mo3から8nMの範囲、Ni1.5から11.8nMの範囲、Pb0.0から1.4nMの範囲、V11から19nMの範囲、Zn38から90nMの範囲、As22.0から25.9nMの範囲、Sb1.19から2.07nMの範囲であった。これら観測点での金属の濃度はPbZn以外は他の沿岸域と比較してほぼ同程度であり、この時期、陸からの強い影響を受けているようには思われなかった。

 

(3)生態系モデルによる環境負荷の影響評価手法に関する総合的研究

 ±潦ぁε譽轡奮い寮限峽蓮κ質循環モデル開発に関する研究

  長江河口域で行った海洋メゾコズム実験結果を基に生態系システムの解析を行なった。珪藻を中心とし、渦鞭毛藻を含めた植物プランクトン群集とカイ脚類との捕食に基づく光合成ループとバクテリア、ピコプランクトン群集と微小動物プランクトンとの捕食に基づくバクテリアループが物質循環としての主要経路であることが判明した。海洋生態系は、窒素・リン・シリカを基本とする物質循環系として物質保存則に基づき記述することができる。珪藻類としては、N, P, Si、を必要とする珪藻類 (Skeletomema, Thalassiosira), N, P, のみを必要とする渦鞭毛藻類 (Ceratium, Prorocentrum, Gyrodinium) 及びピコプランクトンを考慮する。動物プランクトン種としてはカイ脚類 (Paracalanus, Oithona) 及び微小動物プランクトン (Oikopleura) を考慮する。さらにバクテリアや溶存態物質として無機態N, P, C, Siを考慮する必要がある。そられすべての要素を海洋システムモデルとして統合した。

  海洋メゾコズムは直径3m、高さ5mであるため、鉛直方向にも沈降効果や鉛直混合等を考慮する必要がある。このため鉛直一次元物質保存式をコントロール・ボリュームであるメゾコズムに対し記述した。独立変数としてはPo4-PNo3-NNH4-NSi、珪藻細胞数、渦鞭毛藻細胞数、ピコプランクトン細胞数、バクテリア細胞数、珪藻・鞭毛藻・ピコプランクトン細胞内NP含有量、珪藻細胞内Si含有量とをとり、それぞれの保存式を求めた。

  生物生産の高い長江河口域で行なった海洋メゾコズム実験結果を生態系システムモデルを用いて検証を行なった。珪藻、渦鞭毛藻及びピコプランクトンの増殖過程はDroop式による増殖速度及びMichaelis-Menten式による栄養塩摂取により、よく再現されることが判明した。それらの増殖パラメーターは報告されている値をもとに修正を加えた。バクテリア増殖モデルは13C同位体による有機炭素摂取速度との比較を行ない、実測値をよく説明できる結果を得た。生態系システムモデルは長江河口域での海洋メゾコズム実験結果を良く再現している。動物プランクトンの増殖に関するモデル化は組み込むことができなかったが、微小動物プランクトン及びメソ動物プランクトンによる捕食は光合成経路及びバクテリア経路とも良く再現することができた。この結果長江河口域での環境変化に対する生態系遷移を予測するための基礎モデルが確立した。

 ⌒潦ぁε譽轡奮い粒ね隆超データベース化と流動モデル開発に関する国際交流研究

  渤海・東シナ海の流動は黒潮、潮汐、河川からの淡水流入、風・気象条件により影響を受け抜雑な流況を呈する。過去に多くの数値モデルによる解析が試みられたが、十分な検証に基づく解析は少なかった。そこで本研究ではBlumberg and Mellorにより開発されたPrinceton Ocean ModelPOM)を用いて渤海・東シナ海の潮汐流についての解析を行った。計算領域は177°E131°E24°N41.5°Nで、グリッドは0.25°×0.25°、鉛直方向に11層とした。Smagorinskyの水平渦拡散係数は0.1、Δt=45秒とした。境界条件として(K1O1)と(M2)を与え、さらに黒潮の流れに起因する平均的水位を与えた。黒潮による平均流量は30Sv.とした。100日シュミレーションの計算結果は、沿岸潮汐観測点81カ所での実測データによる調和定数の振幅、位相について比紋を行い良好な一致を得た。また計算された黒潮は、過去の観測結果の平均値とよく合致した。対馬海峡においては九州側で東シナ海から日本海に入る流れが、韓国側では日本海から東シナ海への流れが計算された。台湾暖流が東シナ海の南部の流況を支配していることが計算結果から再現された。

  長江の流れに含まれる大量の流砂は大部分が河口域に沈降する。しかし潮流と風波の影響によって、流砂は再浮上し移送過程を通じて複雑な堆積形状をもたらす。本研究では長江河口域での流砂分布及び堆積した海底形状について、長江からの流砂供給、淡水供給を境界条件として水平2次元数値モデルを用いた解析を行った。モデル計算結果は、潮流および濁度の1ヶ月間連続観測値を用いて検証し、よい再現性を確認した。

  1950年初期から1980年初期にかけての中国における有機塩素系農薬使用により長江河口域での海洋環境は汚染されていたと考えられる。しかし1980年代初期においてDDTBHC等の使用禁止後、それらの濃度は減少し、堆積物中のDDTBHC濃度はそれぞれ0.250.31ng/g及び0.350.47ng/g程度にまで減少した。これらの値は世界の他の河口域での値と比較しても特に高い値とは言えない。これは長江上流域からの流砂量が非常に多いこと、長江河口域での堆積速度が高いことに起因する。堆積物コアーはDDTBHC等汚染物質の過去の汚染を記録しているが、コアーの深い(年代の古い)部分ではDDTBHCとも高い濃度を示すが、コアーの浅い(年代の新しい)部分では低い濃度を示す。このことから長江河口域においてはDDTBHC負荷は近年減少してきていることが示唆された。

 渤海・東シナ海における河川経由の環境負荷予測に関する国際交流研究

  NOAAAVHRR画像データを用いて199710月に行った長江河口域でのメゾコズム実験期間での海域環境把握と長江河口域での環境負荷の推定を濁度について行った。1997106日から1020日までの15画像を用いて雲の影響を除去しコンポジット画像を求めた。Split-window channelアルゴリズムを用いて海水温(multi-channel sea surface temperatureMUSST)を求め、実測値との比較により10日間でのコンポジット画像の適用可能性を検証した。1997107日及び1016日のsea surface temperatureの予測値と実測値との差は長江河口域においてほとんどの地点で0.5℃以内(最大の相異も1℃以内)であった。このことから得られたコンポジット画像は、東シナ海全域の海域環境を再現しており雲の影響を除去するのに有効であることが判明した。

  ランドサット衛星画像TMデータを用いた長江河口域における生態系観測を試みた。観測項目としてCh1.a、浮遊粒子、表面水温(SST)を選択し、19971013日のTMデータによってそれらの推定を行った。TM可視バンドを用いてCh1.aと浮遊粒子の推定を、そしてTMバンド6を用いてSSTを推定した。大気による吸収、散乱と太陽光による閃光の影響を受けているTM可視光の大気補正に6Sコードを適用した。より広域のデータを用いた相関関係を求めるために、1997109日のSea WIFSデータから得たChl.a値を用いた。この結果、相関式としてlog (Ch1-a)=0.7524.79 log(TMl/TM2) を得た。同様に浮遊粒子についてはlog(S)=2.7+log R(660TM4) が得られた。SSTについてはTMバンド6を用いて求めた値とSplitWindow法によりNOAAデータから得られた値を19971013日について求め比較した。この結果両者の差は0.386℃と小さく良好な結果が得られた。

 

4.考察

 経済発展の著しい長江流域からは大量の環境負荷物質が長江河口域及び東シナ海に流入している。一方で、東シナ海は豊富な水産資源に恵まれた海域であり、我が国の漁業資源確保にとっても重要である。したがって日本がイニシアチブをとって総合的な海洋環境管理を行う必要がある海域と言える。しかしながら本海域の海洋環墳及び海洋生態系に関する我が国の知見は極めて少なく、更に知見を充実させていく必要がある。こうした要求に対して、3年間の本研究プロジェクトを通じて日中間の国際共同研究基盤を確立できたことは非常に大きな成果である。

 本研究プロジェクトでは、各サブテーマが密接に連携をとりながら実施することができた。東海特定海区における調査からは、この海域が長江起源の淡水と外洋水が混ざり合う場であり、河川から流入する汚濁物質が海洋生態系物質循環過程に取り込まれる場として重要であることが明かとなった。また調査と同じ時期に観測した衛星データを用い、更に広範囲な生態系観測に発展させた。隔離生態実験系(メゾコズム)によるリン負荷実験からは、リン供給量が本海域の生物生産を決定する因子であることが示された。海洋調査及びメゾコズム実験で得られた知見は、河口域生態系モデルの開発において重要な役割を果たした。また調査海域における懸濁粒子及び堆積物中の重金属あるいは農薬等の有害化学物質は、濃度で評価する限りにおいては汚染状況下にはないことが示されたが、河川からの大量の海砂供給によって、汚染が見かけ上低く見積もられる可能性が指摘された。

 今後の検討課題の一つとして、河口から外洋への汚濁物質の汚濁・汚染物質の輸送・循環過程の把握を行うことが挙げられる。本研究プロジェクトでの調査は、非常に限定された海域であったために、河口から外洋までの物質の連続的な輸送過程の把握には至らなかった。今後、更に日中間の海洋環境保全に関する相互理解を深め、詳細な調査を共同実施していくことが重要である。

 

5.研究者略歴

課題代表者:渡辺正孝

1945年生まれ、マサチューセッツ工科大学卒業、Ph. D.

現在、国立環境研究所水土壌圏環境部長

主要論文:

Watanabe, M., Kohata, K. and Kimura, T. 1991. Diel vertical migration and nocturnal uptake of nutrients by Chattonella antiquea under stable stratification. Limnol. Oceanogr., 36, 593-602.

Watanabe. M., Kohata K., Kimura T., Takamatsu T., Yamaguchi S,, Ioriya T. 1995.Generation of a Chattonella antique bloom by imposing a shallow nutricline in a mesocosm. Limnol. Oceanogr., 40, 1447-1460.

Amano, K., Watanabe, M., Kohata, K. and Harada, S. 1998. Condition necessary for Chattonella antiqua red tide outbreaks. Limnol. Oceanogr., 43, 117-128.

 

サブテーマ代表者

(1) 村上正吾

1954年生まれ、京都大学工学部卒業、工学博士

現在、国立環境研究所水土壌圏環境部水環境工学研究室長

主要論文:

S. Murakami, T. Tsujimoto, T. Kurashige and Y. Wada. 1996. Evaluation of inflow Rate of fine sediment from mountain slope into dam reservoir, Proc. Of Int. Conf. On Reservoir Sedimentation, 1.2, 1077-1086.

村上正吾、辻本哲郎、中川博次、K. S. Makhanu. 1996. 降雨による裸地斜面の土壌侵食に関する基礎的研究、水工学論文集. 40, 855-862.

T. Tsujimoto, T. Kitamura, and S. Murakami, 1996. Basic morphological process Due to deposition of suspended sediment affected by vegetation, Proc. Of 2nd IAHR Int. Symp. On Habitat Hydraulics, 395-405.

◆Р村和麿

1967年生まれ、東京水産大学水産学部卒業

現在、西海区水産研究所東シナ海海洋環境部生物環境研究室研究員

主要論文:

岡村和麿、井関和夫、清本容子、星加 章、谷本照巳。1997。春季の東シナ海陸棚縁辺部における広域濁度分布。海の研究、66号、361-369.

Okamura, K., K. Iseki, Y. Kiyomoto, A. Hoshika and T. Tanimoto. 1997. Spring turbidity distribution on the outer shelf and the slope in the East China Sea. Proceedings of the CREAMS’97 Sympo., 259-262.

Iseki, K., K. Okamura and Y. Kiyomoto. 1999. Particle distributions and transport processes from the shelf to the Okinawa Trough in the East China Sea. Proceedings of an international workshop on sediment transport and storage in coastal sea-ocean system., 13-17.

:斎藤文紀

1958年生まれ、京都大学理学部卒業、理学博士

現在、地質調査所海洋地質部海洋堆積研究室主任研究官

主要論文:

Saito, Y., 1996. Grain-size and sediment-color variations of Pleistocene slope sediments off New Jersey. Proc. Ocean. Drill. Program, Scientific Results, 150, 229-239.

Saito, Y., 1994. Shelf sequence and characteristic bounding surfaces in a wave-dominated setting: Latest Pleistocene-Holocene examples from Northeast Japan. Marine Geology. 120, 105-127.

Saito, Y., Nishimura, A. and Matsumoto, E., 1989. Transgressive sand sheet covering the shelf and upper slope off Sendai, Northeast Japan. Marine Geolog. 89, 245-258.

(2) Ц凝通仄

1963年生まれ、東京大学工学部卒業、工学博士

現在、国立環境研究所地球環境研究グループ海洋チーム主任研究員

主要論文

Harada., S. and A. Ichikawa, 1994. Performance of the drainage infiltration strata: Statistical and numerical analyses. Water. Sci. Tech. 29, 255-265.

Harada., S., M. Watanabe, K. Kohata, T. Ioria, M. Kunugi, T. Kimura, S. Fujimori, H. Koshikawa and K. Saito, 1996. Analyses of planktonic Ecosystem structure in coastal seas using a large-scale stratified mesocosm: A new approach to understanding the effects of physicsl, biochemical and ecological factors on phytoplankton species succession. Wat. Sci. Tech. 34, 7-8, 219-226.

Wang., X., S. Harada, M. Watanabe H. Koshikawa, K. Sato and T. Kimura. 1996. Determination of bioconcentration potential of tetrachloroetylene in marine alga by 13C. Chemosphere, 33, 5, 865-877.

◆渡辺 信

1948年生まれ、東北大学理学部卒業、理学博士

現在、国立環境研究所生物圏環境部長

主要論文:

Watanabe M. and M., Sawaguchi T. 1995. Cryopreservation of a water-bloom forming cyanobacterium, Microcystis aeruginosa f.aeruginosa Phycol. Res. 43, 111-116.

Watanabe, M. M., Zhang, X. and Kaya, K. 1996. Fate of toxic cyclic Heptapeptides, microcystins, in toxic cyanobacteria upon grazing by The mixotrophic flagellate Poterioochromonas malhamensis (Ochromonadales, Chrysophyceae). Phycologia, 35, 203-206.

渡辺 信. 1995。シアノバクテリアに関する歴史的考察。Microbiol. Cult. Col1., 11, 105-119

:高柳和史

1953年生まれ、オールドトミニオン大学卒業、Ph. D.

現在、養殖研究所 飼育環境技術部 環境制御研究室長

主要論文:

Takayanagl, K., D. Cossa and J.-M. Martin, 1996. Antimony cycling in the western Mediterranean. Mar. Chem., 54: 303-312.

Takayanagi, K. and D. Cossa, 1997. Vertical distributions of Sb(III) and Sb(V) in Pavin Lake, France. Wat. Res., 31: 671-674.

Takayanagi, K. and H. Yamada, 1999. Effects of benthic flux on short term variations of nutrients in Aburatsubo Bay. J. Oceanogr., 55: 462-469.

 

(3) 渡辺正孝(同上)

DOU Xiping

1961年生まれ、Hohai大学卒業、Ph. D.

現在、国立環境研究所エコフロンティアフェロー

主要論文:

DOU, X., 1995. Mathematical modeling of suspended sediment transport under the actions of both tidal currents and waves. Proc. Of the 17th Conference on Ocean Engineering, Tainan.

DOU, X., 1995, A model of quadrilateral isoparameter elements in 2-D tidal currents modeling. The Ocean Engineering. 13(2).

DOU, X., 1995.The application of grid generation to tidecurrents modeling. Jour. Of NHRI.

WANG Quan

1970年生まれ、Hangzhou大学卒業、Ph. D.

現在、国立環境研究所エコフロンティアフェロー

主要論文:

wang, Q., Yang, z., xia. L., and zhang, x., 1998. study on NPP model at watershed scale calculating intercept photosynthesis radiation (IPR) in the ED watershed. Acta Phtoecologia Sinca, accepted.

Wang, Q., Yang, Z., xia., L., and Zhang, X., 1998. Study on NPP model at watershed scale calculating water modification coefficient f(w) in the ED watershed, Acta Phtoecologia Sinca, accepted.

Wang, Q., Yang, Z., Xia. L., and zhang, X., 1998. Study on NPP model at watershed scale calculating ED watershed as an example. Acta Phtoecologia Sinca, accepted.