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[キーワード]LRT導入効果、交通機関選択、文献調査、外出頻度、現地アンケート調査

[H-051 環境負荷低減に向けた公共交通を主体としたパッケージ型交通施策に関する提言]

(3)LRT導入による効果検証に関する研究

  1) LRT導入が交通行動や社会経済ならびに周辺環境に及ぼす影響に関する文献調査

  2) LRT導入の有無による交通機関選択時の意識に関する都市間比較

  3) 中心市街地における商業活動の経年的推移に関する分析

  4) LRT導入が高齢者の外出行動に及ぼした影響に関する分析

  5) LRT導入前後における交通機関選択時の意識変化に関する研究

  6) LRTに対する総支払意思額とその構成に関する研究

   (1)~(6) [PDF](186KB)

以下、1)~6)について同様の研究メンバー、予算で得られた成果であるため、研究メンバー・予 算・要旨については、下記に統一して記す。

  岡山大学大学院・環境学研究科

谷口 守・松中亮治

  和歌山工業高等専門学校

伊藤 雅

  [平成17~19年度合計予算額] 14,170千円(うち、平成19年度予算額 4,420千円)

[要旨]

  本研究では、まず、平成17年度において、LRT導入による市民の交通行動や社会経済、環境面への影響に関する事前・事後評価文献の整理をした。その結果、事後評価では、自動車利用から公共交通利用への転換、NOxなどの大気汚染物質の削減に関して、LRT導入等の都市内交通施策による効果が定量的に把握されている一方、中心市街地の魅力は増大したとしているものの、LRT導入による影響を定量的に示すまでには至っていないことを、また、事前評価では、各種法令に従い、LRT導入が自動車交通量や周辺への環境に及ぼす影響について定量的に評価され、費用便益分析を基本としたプロジェクト評価が実施されていることなどを明らかにした。そして、LRTが導入され、既に都市内交通機関として住民の間に定着しているフランスのストラスブールとLRTの導入が予定されていたミュールーズを対象として、現地アンケート調査を実施し、LRT導入の有無による住民の交通機関選択時の意識の違いについて分析した。その結果、LRT整備をはじめとする一連の都市内公共交通施策の実施の有無が、人々の交通機関選択時の意識に大きな影響を及ぼしており、特に、交通施策が実施された都市に居住している住民については、施策の実施により、交通機関選択に対する意識そのものが変化した可能性があり、仮に提供される交通サービスレベルが同じであっても、交通機関選択の際に、より公共交通を選択する傾向にあることを明らかにした。
  続く平成18年度においては、上述のフランス・ストラスブールを対象として、LRT導入が中心市街地における商業活動に及ぼす影響を明らかにするため、LRT導入以降の中心市街地の商店の経年的な推移を詳細に分析した。その結果、LRT駅周辺には、LRT開業以降空き店舗となった商店がほとんどみられず、逆に、空き店舗に商店が立地する場合が多いことや、 LRTの開業時期と商店の変化は密接に関連していると考えられることなどから、LRTの導入が、中心市街地の商業活動の活性化・活発化に寄与した可能性は高いといえることを示した。そして、平成17年度に実施した現地アンケート調査結果を用いて、両都市の高齢者の交通行動に関するデータを比較し、高齢者の外出行動について分析した。その結果、ストラスブール市内における一連の都市交通施策の実施は、自動車を利用した外出頻度を減少させるだけでなく、公共交通や徒歩・自転車による外出頻度を増加させ、結果的に全体の外出頻度の増加につながっていることなどを明らかにした。
  最後に、平成19年度においては、2006年にLRTが導入されたフランスのミュールーズと日本の富山を対象として現地アンケート調査を実施し、LRT導入前後における住民の交通機関選択時の意識の変化について分析した。その結果、LRT導入前後において、両都市の住民とも交通機関選択に対する意識が変化しており、提供される交通サービスレベルが同じであっても、交通機関選択の際に、より公共交通を選択する傾向に変化したことを明らかにした。さらに、現地アンケート調査の結果を用いて、両都市住民のLRTに対する総支払意思額を推定するとともに、その構成を明らかにした。その結果、運賃支払額以外の価値の総額(一月当たり)が運賃支払額の約2~10倍となるなど、LRTの公共交通機関としての利用価値だけでなく、LRT導入が都市空間に及ぼす影響やLRTそのものの存在価値などについても非常に大きく評価されていることを定量的に明らかにした。