課題名

C―6 流域の物質循環調査に基づいた酸性雨による生態系の酸性化および富栄養化の評価手法に関する研究

課題代表者名

新藤純子(独立行政法人農業環境技術研究所地球環境部生態システム研究グループ物質循環ユニット)

研究期間

平成14−16年度

合計予算額

63,762千円(うち16年度 20,790千円)

研究体制

(1)貧栄養流域における酸性物質の動態と収支の推定

  ・乗鞍共同試験地における物質循環評価と長野県の渓流水質分布に関する研究(信州大学)
  ・貧栄養流域の酸性物質の負荷と一酸化二窒素発生量の把握に関する研究(独立行政法人農業環境技術研究所)
  ・北海道白旗山流域における物質循環評価に関する研究(北海道大学)
  ・全国渓流水調査に基づく広域評価に関する研究(名古屋大学)
  ・貧栄養流域における調査、解析のとりまとめ(東京農工大学、平成14年度のみ)

(2)流域における窒素、イオウの循環プロセスの解明
  ・窒素の内部循環プロセスの解明(東京農工大学)
  ・イオウの土壌蓄積・循環プロセスの解明(独立行政法人森林総合研究所)
  ・植物の養分循環過程の定量化に関する研究(独立行政法人農業環境技術研究所)

(3)植生―土壌プロセスに基づく流域スケールの物質循環モデルの開発
  ・窒素循環モデルの開発と衛星データに基づいた広域化に関する研究(独立行政法人農業環境 技術研究所)
  ・東アジアの窒素発生量変化と負荷の推定に関する研究(東京大学)

研究概要

1.序(研究背景等)

 東アジアでは経済発展に伴うエネルギー需要の増大により、SO2やNOxなどの酸性物質排出が今後も増加すると考えられている。IIASA(国際応用システム分析研究所)の推計によると、2030年のSO2の発生量は1995年の1.34倍、NOxの発生量は1.51倍となる。特に排出源対策が困難なNOx排出量の増加は著しく、IPCCは今世紀末までに更に現在の5倍弱まで増加すると予測している。またこの地域では、人口も当分の間増加する傾向にあり、農業起源のアンモニアの発生も発展途上国を中心に急増すると予想される。これらの物質の排出量増大は、発生源近傍の環境汚染に加えて、自然生態系での物質循環に影響を及ぼし、土壌、地下水、渓流水などの酸性化と富栄養化の原因となることが懸念されている。
 窒素やイオウは生元素であり、大気からの負荷は植物や土壌微生物の代謝機構に取り込まれ生態系内を循環する。また、土壌の有機画分や無機画分との間で強い相互作用を生じる。大気からの酸性物質の負荷の影響が顕在化するかどうかは、窒素やイオウの生態系内での循環量と蓄積量、およびその安定性に依存すると考えられる。欧米では、本来は窒素制限下にある森林において、窒素が流域から大量に流出する窒素飽和現象が問題となったため、集中的な研究が実施され、窒素負荷量や森林の特性との関係が示されてきたが、そのメカニズムの解明には至っていない。わが国でも窒素飽和と見られるいくつかの生態系の存在が報告され、窒素流出の季節変化やそのメカニズムについての研究が行われているが、流域からの窒素流出が広域的に生じているかどうかを含めて全国的な傾向は把握されていない。東アジアに関しては、SO2やNOxの発生量はIIASAなどにより推定されているが、農業からの発生を含めた窒素の総負荷の実態についてもよくわからない状況である。
 東アジアにおける酸性物質の負荷の増大、特に窒素化合物の増大が予測される中、我が国および東アジアの生態系において、現在、酸性化や窒素飽和がどの程度起こっているのか、今後それらが大規模に起きる可能性があるのか、またどのような場所でその可能性が高いのかを明らかにすることが重要である。

2.研究目的

 本研究では、共同調査地を中心とした流域における物質循環調査、我が国の他の生態系を対象とした広域調査や内部循環メカニズムに関する研究、および東アジアに関する予備調査などによる実証的なデータに基づき、生態系の酸性化と窒素動態の変化を広域的に推定するための手法を開発することを目的とする。このため、3つのサブテーマにおいてそれぞれ以下の様な目的の研究を実施する(図1)。
 (1)貧栄養流域における酸性物質の動態と収支の推定
 貧栄養流域における、酸性降下物質の動態を定量的に明らかにすること、および渓流水水質の国内での現状を把握することを目的とする。長野県乗鞍の前川と北海道白旗山において継続的に、窒素負荷量、樹木の成長などによる流域内への蓄積量、河川への流出量などを観測して物質収支を明らかにし、これまでに同様の調査を行った他の流域と比較することにより、貧栄養流域での物質循環の特性を示す。また、全国規模の広域的な渓流水調査を実施し、我が国の生態系の酸性化と窒素レベルの実態、及びその要因について明らかにする。
 (2)流域における窒素、イオウの循環プロセスの解明
 生態系へ"外部"から酸性物質がインプットされることにより、生態系内での窒素とイオウの内部循環の速度や蓄積量およびその形態にどのような変化が引き起こされるのかを、異なる土壌や異なる窒素レベルの生態系における調査および実験的な手法により明らかにする。このため植物体中の窒素や土壌中のイオウの濃度、形態、同位体比等に関する調査や、土壌の無機化実験を行い、内部循環の各プロセスと環境条件との関係を解明する。
 (3)植生―土壌プロセスに基づく流域スケールの物質循環モデルの開発
 大気からの窒素負荷が森林生態系の物質循環に与える影響を広域的(全国スケール)に推定することを目的とする。このため、森林の物質循環や酸性物質の影響メカニズムに関する既存の研究成果及び本課題のサブテーマ1、2の結果を整理し、大気、植物、土壌の間の物質循環に基づいた簡易なモデルを作成する。広域的な適用のために、窒素負荷量分布の推定、衛星リモート・センシングデータに基づく森林バイオマス賦存量の推定に関する検討を行う。更に東アジア諸国の窒素負荷量の現状を統計データから推定し、東アジアを対象とした推定のための基礎データを得る。


3.研究の内容・成果

 (1)貧栄養流域における酸性物質の動態と収支の推定
[域の物質循環調査
 貧栄養調査地として長野県乗鞍岳東斜面の前川流域(標高1500〜3026m)と北海道札幌近郊の白旗 山(標高321m)を選定し3年間調査を行った。前川流域ではシラビソ林(SC、標高1,676m)、シラカバ 林(SD、標高1,583m)、ミズナラ林(SU、標高1,430m、通年観測)において物質循環調査(降水、土壌水、 リターフォール等の採取、温室効果ガスフラックスの測定)を行い、前川の上流・下流の2地点で 自動採水器により1日3回の採水と流量の計測を行った。白旗山では土壌、植生、温度条件がほぼ同 一である5つの小流域で、林内雨と渓流水を採取し、温室効果ガスフラックスを測定した。これら の地域の物質循環の特性を、これまでに同様の調査を実施してきた他の流域(茨城県観音台、八郷、 奥日光前白根、弓張峠、八王子FM多摩)におけるデータもあわせて解析することにより明らかに した。これらの流域の負荷量、流出量また渓流水濃度などを図2に示す。
 乗鞍前川流域では、窒素降下量、リターフォール量、土壌水や渓流水中の硝酸イオン濃度、一酸 化二窒素など温室効果ガスの放出量は、茨城県、奥日光、多摩地域の富栄養流域での値よりいずれ も低く、極めて貧栄養状態にあることがわかった。貧栄養ではあっても、降水が樹冠及び土壌A0 層を通過する際の濃度変動が大きく、ここで溶脱や微生物活動などが活発に起こっていることが示 された。また、河川の流出高は融雪、降雨により増加し、春から秋にかけて減少、冬季は安定した 基底流量となる。融雪時には流出高の緩やかな日変化がみられ、流出高の増加に伴い河川水のNa+、 K+、Mg2+、Ca2+、HCO3-、SO42-濃度とpHは低下するが、C1-、NO3-濃度は上昇する。一方、降雨時に は流出高は急激に増加し、河川水中のNa+、K+、Mg2+、Ca2+、HCO3-、SO42-濃度とpHの低下、NO3- 濃度の増加傾向がみられた。NO3-濃度は極めて低いが、我が国の他の流域と同様に、流出高と共 に増加するという特徴を示した。



 札幌近郊の白旗山流域でも、窒素降下量は少ないものの、5集水域間で窒素降下量には3倍、窒 素流出量には2倍の差異が認められた。また、窒素降下量とカラマツの生長量とには有意な正の相 関が存在し、窒素降下による施肥効果が示された。短期間(3週間)の窒素降下は、メタン吸収を抑制 し、一酸化二窒素発生を促進する効果がある事も分かった。白旗山の窒素降下量は乗鞍と同程度だ が、50cm土壌からの窒素流出量や渓流水濃度は乗鞍と比べてかなり大きい。カラマツのN/P比が 35〜71の範囲にありリン制限の閾値(N/P=11.)よりかなり高いことから、白旗山流域の生態系が極め て強いリン制限にあること、リン制限のために、比較的小さな窒素降下量に対しても、硝酸イオン 流出や一酸化二窒素の放出のような窒素流出が起きやすいことが示唆された。

∩換餬摸水調査
 2003年7月1日から10月11日の間に、沖縄と千葉県を除く全国1278の森林渓流において渓流水の採 取分析を行った。採取は渓流の上流に人為起源の負荷の無い地点を選定した。異常値を除く1,242 渓流のNO3'濃度は、5-20μMが全体の 約半数あり、平均濃度は26.2μM、中 央値は18.1μMであった。NO3-濃度の低い渓流は、北海道から東北に集中しており、濃度が高い渓流は、東京近郊、大阪近郊、瀬戸内、北九州でみられた(図3)。NO3-濃度と、pHとは無相関 で、欧米の様に窒素飽和がpHの低下 とA1の溶出を引き起こす現象は確認 できなかった。全国分布と比較する と、前川とFM多摩は、各々わが国の 最も貧栄養な流域と最も富栄養な流 域の一つと考えられ、白旗山は平均的 な濃度である。渓流水のNO3-濃度は、 気温とは正の、降水量とは負の相関関 係を示したが統計的には有意ではな かった。それらに対し、サブテーマ3 で推定した大気由来の窒素負荷量と 渓流水のNO3-濃度とには有意な正の 相関関係が認められた。約50年前に実 施された全国調査と比べると、溶存イ オンの中ではNO3-とNH4+のみが顕著 に増加し、またpHは多くの地域で低下していた。渓流水質は、気候や植生、母材などの要因にも影 響を受けるが、NO3-とNH4+に関しては大気汚染を通じた人間活動の影響を強く受けていることが判 明した。



 (2)流域における窒素、イオウの循環プロセスの解明
 |眩能朶張廛蹈札
 窒素負荷量の異なるいくつかの生態系において、土壌、植物体、落葉などを採取し、窒素、炭 素、リン、塩基類などの含有量の測定、渓流水のイオン濃度の測定、及び窒素の同位対比や土壌の 培養実験による無機化速度、硝化速度の測定を行い、これらに基づいて大気からの窒素の負荷と内 部循環過程との関係を検討した。比較対象としたのは主として、負荷量の非常に多い多摩丘陵と中 位の秩父のコナラ林とヒノキ林である。多摩丘陵は渓流からのNO3-流出量も非常に多く、窒素飽和 状態にあると考えられている。この他に関東周辺数地点でもデータをとり、また乗鞍調査地の土壌 についても培養実験を行った。
 多摩丘陵では他の地域と比較して、一次生産、リターフォール量、生葉ならびにリターフォール 中の窒素含量のいずれもが増大しており、その結果、森林のもっとも主要な窒素フローである内部 循環速度が秩父の2倍にまで上昇していることが判明した。落葉時に葉から樹体に窒素かが回収さ れる転流率は、窒素が豊富な多摩丘陵では秩父や八郷と比べて小さく、時期も遅いなど植物の生理 的な変化も見られた。また多摩丘陵の土壌は(NO3-+NO2-)含有量が乗鞍より大きいことに加えて、 培養実験による正味の硝化速度も大きい。特にC/N比が22.4である乗鞍のSC地点の土壌は、硝化速 度と共にN2O発生速度も極めて小さく、正味の硝化はC/N比が20以下になってから開始するという知 見に合致する結果であった。

◆.ぅウ循環プロセス
 イオウは土壌に比較的蓄積されや すい元素であり、イオウが土壌に蓄積 されると随伴する酸が消費されるの で、イオウの蓄積機構と安定性は生態 系の酸性化の評価に重要である。そこ で関東および中部地方の森林の83の 土壌試料(火山灰土壌:Andisolsと非 火山灰土壌:Inceptisols)を用いて イオウ蓄積実態調査を行った。また関 東の亜高山帯林から採取した InceptisolsおよびSpodosolの表層土 壌を用いて培養実験と同位体分析(δ 34Sの測定)に基づいてイオウの循環・ 蓄積過程を検討した。
 我が国の火山灰性土壌は非火山灰 性土壌や欧米の土壌に比べ、著しく大量のイオウを蓄積していること、蓄積イオウの主体は、有機 態イオウのうち分解されやすいと認識されているHI-reducible Sと、有機態イオウより滞留時間が短 い無機の吸着態硫酸イオンであることが明らかになった。HI-reducible Sの含有率は結晶質アルミニ ウム酸化物含有量と高い相関があること、また培養実験によりアルミニウム・鉄酸化物含有率の高 い土壌ではHl-reducible Sの無機化速度が低いことから、HI-reducible Sはアルミニウム・鉄酸化物と 共存することで分解しにくい性質を持っていることが明確になった。イオウは、「C-bondedイオウ →HI-reducible S→硫酸イオン」と循環するが、培養前後の各形態のイオウ含有量と各々のδ34Sの 測定から、生成されたHI-reducible Sは土壌のアルミニウム・鉄酸化物含有率が多ければ無機化せず に循環ループから外れ土壌に蓄積することが示された(図4)。以上よりイオウ循環プロセスを最 も強く制御する土壌要因は鉱物特性であり、アルミニウム・鉄酸化物を豊富に含有する火山灰性土 壌はイオウ蓄積能が非火山灰性土壌より高く、大量のイオウが大気から沈着し火山灰性土壌に蓄積 されている可能性が示された。



 (3)植生―土壌プロセスに基づく流域スケールの物質循環モデルの開発
[域窒素循環モデルの開発と広域推定
 森林生態系を対象に、大気からの窒素負荷と窒素循環過程に基づいて窒素流出を予測する基本モ デルを作成した。既存の研究や本課題の他のサブテーマから得られた知見に基づき、できるだけ少 数の過程と少数のパラメータのみを考慮し、大気、植物、土壌有機物の間の炭素のフローと、これ と連動した、窒素の内部循環を含むフローをモデル化した(図5)。植物の成長はロジスティック成長 曲線に従うが、温度と利用可能な窒素量に依存すること、窒素のインプットは、大気からの負荷と窒素固定(温度に依存)によること、窒素フローは炭素のフローと各要素のC/N比で決まることなどの仮定に基づいている。日本の平均的な条件をパラメータ値として用いてモデル特性を検討したところ、既存の研究結果から得られた窒素流出の特徴を定性的に表現す
ることができた。モデルにより窒素流出は土壌有機物としての蓄積・分解の速度に加えて森林の成育ステージ(バイオマス賦存量)に強く依存していることが推定された。



 全国推定のために、基本モデルを更に簡易化して現時点の窒素収支を推定する広域モデルを作成した。マイアミモデルにより
求めた純生産量(NPP)を極相におけるNPPと仮定し、また現在のバイオマス賦存量が衛星データから作成した積算NDVIに比例すると仮定して、植物の成長による窒素蓄積を見積もり、土壌中での脱窒や有機物への固定速度は気温と滞留時間とに依存すると仮定した。また、肥料使用量、肉類生産量などの統計データ及び土地利用分布に基づいてアンモニア発生量分布を求め、既存の窒素酸化物発生量分布も用いて、窒素負荷量分布を作成した。これをインプットとして全国スケールで窒素流出量を推定した。推定結果は、サブテーマ1で実施した全国渓流水調査によるNO3一濃度分布と比較的良く一致した(r=0.65、P<0.001、図6)。



東アジアの食料生産による窒素負荷量の推移
 東アジアでは、特に中国と東南アジアのいくつかの国で窒素負荷量の変化が最も著しいと予想され、これらの地域では農業が窒素負荷の重要な起源であると考えられるので、東アジア13カ国を対象に食料生産の推移を統計データに基づいて検討した。1960年代から現在まで穀物生産量の増加は人口増加を上まわり、現在一人当たりの穀物は概ね十分な量が生産されるに至っているが、このため窒素肥料の使用量は著しく増加した。現在、中国における負荷がこの地域の全負荷量の70%以上
を占めること、単位面積当たりの負荷(全負荷及び大気からのアンモニアと窒素酸化物の負荷)は韓国で日本の2倍程度であり、またベトナムなど東南アジアの国で近年の負荷の増大が著しいことが示された。今後の窒素負荷の変化を支配する要因として、肉類の消費量(生産量)の動向が重要であると考えられた。

4.考察

 3年間の継続観測の結果、乗鞍岳東斜面の前川流域は、窒素負荷量が小さく、土壌や渓流水のNO3-濃度、また林床からのN2O発生量も非常に小さく、極めて貧栄養な流域であることがわかった(図2)。 渓流水NO3-濃度は低いが、融雪や降雨による流出高の増加に対応して上昇し、これに伴ってpHの低 下が観測された(同様の変化は、濃度レベルは全く異なるが、富栄養流域の多摩でも見られ、高流 出時にpH6.2まで低下した)。また林床からのN2Oも融雪期や落葉期に発生が増加するなど、水文や 生物活動にともなって変化することが明らかとなった。北海道白旗山では窒素負荷量は乗鞍と同程 度に小さいが、渓流水中の硝酸濃度は比較的高く、全国調査の結果と比較すると全国平均と同程度 であった。白旗山では大気から負荷される窒素のほとんど全てが流出している計算となる。この原 因として、白旗山が強いリン制限にあるためと考えられた。白旗山のカラマツの生葉のN/P比は 35〜71と、欧米の既存の値と比較して非常に大きく、リン制限の閾値11を大きく超えている。白旗 山は淡色黒ボク土でA1-腐食複合体やアロフェンなどに富み、リン酸固定能が高い。リン制限のた め窒素が有効に使われず、NO3-やN2Oとして系外へ放出されやすいと考えられる。乗鞍のカラマツ 生葉のN/P比は7〜9で閾値より小さく窒素が制限要因であると考えられた。
 全国渓流水調査により同じ時期に同一の方法(地点選定法、採取・分析法)で全国比較可能なデ ータが得られ、これらは我が国の自然流域の水質の実態を示すものである。NO3-濃度は、O〜300μM 以上の広い濃度範囲に分布し、明確な空間分布を示した(図3)。NO3-濃度が各地点の上流域の大 気からの窒素負荷量の推定分布と最も良く対応していたこと、また50年前の全国の河川水の濃度と 比較して、NO3-とNH4+濃度が上昇しpHが低下していたことは、自然流域において大気からの負荷が 長期的に流域の窒素循環に影響を与えてきたことを示唆している。この間硫黄の負荷も増大した が、渓流水濃度は50年前よりむしろ低下し、その原因については今後更なる検討を要する。 窒素の内部循環と流出過程への窒素負荷量の影響機構に関しては、土壌や植物の分析、培養実験 などによりかなり明らかとなった。即ち、慢性的な窒素の負荷は植物による窒素吸収、落葉による 窒素還元量を増加させ内部循環を促進させ、土壌の窒素含有量を高める。また窒素の無機化、硝化 により生じる渓流へのNO3-流出や林床からのN2O発生は土壌のC/Nと関係があることが示された。 乗鞍SC地点は特に土壌CNが大きく、硝化速度が極めて小さい。もちろん上に述べたリン制限の様 に、個々の地点では特有の土壌条件などによりプロセスはより複雑であろう。
 イオウの循環蓄積過程に関しては、_罎国の火山灰土壌に欧米の土壌と比較して数倍の大量の イオウが蓄積されていること、△海譴泙琶解しやすいと認識されていたHI-reducibleイオウが最も 卓越しており、結晶質アルミニウム・鉄酸化物の存在により安定化していること、B腟つ醒絅ぅ ウに起因する酸は大量に火山灰性土壌で消費されてきた可能性があることなど新しい知見が得ら れ、イオウ循環のスキームを提案した。これまで中和機構として主に硫酸イオンの吸着が評価され てきたが、より多くのイオウが有機物として土壌に蓄積し安定化していることがわかった。この過 程が大気からの酸性物質の中和にどの程度寄与するのかについてはイオウ循環の時間スケールや 蓄積可能な総イオウ量などに関して、更に検討が必要と考えられる。
 上記で明らかになった過程を参考にして、窒素負荷の影響を広域的に推定する簡易なモデルを作 成し、全国の渓流水NO3-濃度分布をある程度再現することが出来た。このモデルで考慮しているの は、|眩任粒杏瑤らの負荷、⊃∧による内部循環及びE攵軛罎任陵機物の生成・分解及び脱 窒である。,和腟いらの負荷と窒素固定であり、大気からの負荷は、統計データに基づいた発生 量分布と当方的な拡散・減衰に基づいた沈着を仮定している。△任蓮⇒用可能な窒素とバイオマ ス賦存量に依存した植物成長による窒素吸収と落葉としての還元をNDVIや気象データなどに基づ いて広域的に推定した。の土壌中での過程は個々にモデル化はしないで、一括して気温のみに依 存する一次反応を仮定した。有機物分解・生成過程に関して何段階かの中間体を考慮した複雑なモ デルは多数存在するが、適切なパラメータを得ることは特に広城を対象とした場合困難である。 からのいずれも非常に簡易なモデル化であり、大きな不確定性を含んでいるが、それにもかかわ らずNO33-濃度分布が概ね再現されたことは、大気からの長期的な窒素負荷が我が国の自然流域の NO3-濃度を決定する重要な要因であることを示していると考えられる。イオウも流域の酸性化を評 価するために重要な要素であるが、循環速度などに関するパラメータ化が現時点では困難であり、 モデル化は行わなかった。今後の課題としたい。

5.研究者略歴

課題代表者:新藤純子
    1951年生まれ、東京教育大学理学部卒業、工学博士、現在、農業環境技術研究所主任
    研究官

主要参画研究者
(1) :戸田任重
    1954年生まれ、東京教育大学理学部卒業、理学博士、現在、信州大学理学部教授
(2) :楊宗興
    1957年生まれ、東京農工大学農学部卒業、理学博士、現在、東京農工大学農学部助教授
(3)  Э憩純子(同上)
   ◆Ю酖臟酣
    1953年生まれ、東京水産大学水産学部海洋環境工学科卒業、工学博士、東京大学工学部助
    手、現在、東京大学農学生命科学研究科助教授

6.成果発表状況(本研究課題に係る論文発表状況。査読のあるものに限る。投稿中は除く。)
 (1) H.Toda, Y.Uemura, T.Okino, T.Kawanishiand H.Kawashima: Water Science and Technology 46,
  431-435 (2002)
  "Use of nitrogen stable isotope ratio of periphyton for monitoring nitrogen sources in a river system"
 (2) 川島博之、新藤純子:環境科学会誌,15,pp.281-286(2002)
  「酸性雨と地球規模の窒素循環」
 (3) 川島博之:環境科学会誌,15,299-303(2002)
  「21世紀における水環境問題と窒素」
 (4) K. Okamoto and H. Kawashima : RISK ANALYSIS 記記, edited by C. A. Brebbia, (Southampton: WIT
  Press, U.K., ISBN: 1-85312-915-1), 551-560 (2002)
  "Role of satellite remote sensing in monitoring system for environmental disasters related to water resources"
 (5) H.Toda, Y.Uemura, T.Okino, T.Kawanishiand H.Kawashima: Water Science and Technology 46,
  431-435 (2002)
  "Use of nitrogen stable isotope ratio of periphyton for monitoring nitrogen sources in a river system"
 (6) K. Suzuki: Bulletin of Glaciological Research, 20, 15-20 (2003)
  "Chemical property of snow meltwater in a snowy temperate area"
 (7) K. Suzuki: Hydrorogical Processes, 17, 2795-2810 (2003)
  "Chemistry of stream water in a snowy temperate watershed"
 (8) Nakahara, O., Yamagami, T., Koide, T., Sakai, K. and Hatano, R.: Soil Science and Plant
  Nutrition, 49, 741-746(2003)
  "Spatial variation of nitrogen deposition over five adjacent catchments in Larch forest"
 (9) 苗村晶彦、藤田俊忠、倉田 斉、土器屋由紀子、揚 宗興:自然環境研究、16,1-6(2003)
  「秩父多摩甲斐山岳域における森林渓流水質の標高別分布」
 (10) 谷川東子、高橋正通、今矢明宏、稲垣善之、石塚和裕:土壌肥料学雑誌、74,2,149-155(2003)
  「アンディソルとインセプティソルにおける硫酸イオンの断面分布と現存量―吸着態および
  溶存態硫酸イオンについて―」
 (11) H.Kawashima, J.Shindo, K.Okamoto and K.Ohga : APHW2003: Proceedings of the First
  International Conference on Hydrology and Water Resources in Asia Pacific Region, edited by K.
  Takara and T. Kojima, held in Kyoto on 13-15 March 2003
(Tokyo: The Asia Pacific Association
  of Hydrology and Water Resources (APHW)), 473-475 (2003)
  "Food Production and Environment in Major River Basins in Asia"
 (12) K.Okamoto, J.Shindo and H.Kawashima : River Basin Management II, edited by C. A. Brebbia,
  Southampton: WIT Press, U.K., ISBN: 1-85312-966-6), 423-429 (2003)
  "Land-use, water resources and nitrogen load in major river basins in Asia"
 (13) K.Okamoto, J.Shindo and H.Kawashima : Water Resources Management II, edited by C. A.
  Brebbia
, (Southampton: WIT Press, U.K., ISBN: 1-85312-967-4), 279-287 (2003)
  "Estimation of available water resources and potential irrigation land area in Asia"
 (14) K.Okamoto and H.Kawashima : Proceedings of SPIE: Remote Sensing for Agriculture, Ecosystems,
  and Hydrology IV, edited by M. Owe, G. D'Urso and L. Toulios, (Bellingham: SPIE-The
  International Society for Optical Engineering, WA, U.S.A., ISBN: 0-8194-4661-0), 4879, 391-399 (2003)
  "Evaluation of change in rice cropping in the marginal zone"
 (15) J.Shindo, K.Okamoto, H.Toda and H.Kawashima : Ecosystems and Sustainable Development,
  Advances in Ecological Sciences 18, 49-58 (2003)
  "Estimation of the environmental effects of excess nitrogen caused by intensive agriculture in East
  Asia based on global nitrogen balance"
 (16) K.Okamoto, J.Shindo, and H.Kawashima: River Basin Management II, edited by C. A. Brebbia,
  (Southampton: WIT Press, U.K., ISBN: 1-85312-966-6), 423-429 (2003)
  "Land-use, water resources and nitrogen load in major river basins in Asia"
 (17) J.Shindo, K.Okamoto and H.Kawashima: Ecological Modelling 169, 197-212 (2003)
  "A model based estimation of nitrogen flow in the food production-supply system and its
  environmental effects in East Asia"
 (18) K.Okamoto, J.Shindo, and H.Kawashima : Ecological Sciences 19: Ecosystems and Sustainable
  Development IV, edited by E. Tiezzi, C. A. Brebbia and J-L. Uso, (Southampton: WIT Press, U.K..
  ISBN: 1-85312-974-X), 2, 1057-1065 (2003)
  "Sustainable rice cropping and water resources in Asia"
 (19) K.Okamoto, T.Sakamoto, J.Shindo, H.Toda, and H.Kawashima : Scales and Dynamics in
  Observing the Environment, edited by P. Aplin and P. M. Mather, (Nottingham: Remote Sensing
  and Photogrammetry Society, ISBN: 0 946226 32 6), CD-ROM (2003)
  "Detecting land-cover change using standardized multitemporal Landsat TM data"
 (20) 岡本勝男、川島博之:システム農学,19,3,46-52(2003).
  「衛星リモート・センシングを用いたアジアの食料生産予測の現状と将来」
 (21) 石塚直樹、斎藤元也、村上拓彦、小川茂男、岡本勝男:日本リモートセンシング学会誌,23,
  5,458-472(2003)
  「RADARSATデータによる水稲作付面積算出手法の開発」
 (22) Morishita T, Hatano R, Nagata O, Sakai K, Koide T and Nakahara O: Soil Science and Plant
  Nutrition, 50, 1187-1194 (2004)
  "Effect of nitrogen deposition on CH4 uptake in forest soils in Hokkaido, Japan"
 (23) S. Zhou, H. Narita, K. Suzuki, and M. Nakawo: Bulletin of Glaciological Research, 21, 23-29
  (2004)
  "An estimate of spatial ratios for preferential water flow in a melting snowpack"
 (24) 鈴木啓助・久保池大輔・倉元隆之:日本水文科学会誌、34,29-36(2004)
  「森林源流域における流出高の日変動と蒸発散量の関係」
 (25) 稲冨素子・戸田任重・小泉博:システム農学、20,2,176-184(2004)
  「人為的な窒素負荷が冷温帯林の土壌呼吸に及ぼす影響」
 (26) 鈴木啓助:地球環境、9,51-62(2004)
  「渓流水の酸性化をもたらす融雪水」
 (27) 戸田任重・推名未季枝・平林明・新藤純子・川島博之・沖野外輝夫:地球環境、9,1,41-48(2004)
  「千曲川における窒素化合物の由来」
 (28) 楊 宗興、木平英一、武重祐史:地球環境,9,29-40(2004)
  「渓流水のNO3濃度と森林の窒素飽和」
 (29) Naemura, A., Yoshikawa, T., Yoh, M., Ogura, N. and Y. Dokiya: Natural Environmental Science
  Research, 17, 23-27, (2004)
  "Dissolved inorganic and organic nitrogen in throughfall and stemflow of coniferous trees in
  nitrogen saturated forest"
 (30) 谷川東子、高橋正通、今矢明宏:環境科学会誌、17,3,211-215(2004)
  「森林土壌における硫黄化合物の蓄積実態」
 (31) 谷川東子、高橋正通、今矢明宏:地球環境、9,1,19-28(2004)
  「森林生態系における硫黄の循環と土壌の硫黄集積機構の意義」
 (32) 小島千穂、川島博之、新藤純子、岡本勝男、戸田任重、茅原一之:環境科学会誌 17,15-24 (2004)
  「ベトナムにおける食料生産と窒素フロー」
 (33) 新藤純子:地球環境,9,3-10(2004)
  「人間活動に伴う窒素負荷の増大と生態系影響」
  新藤純子・岡本勝男・郭一令・戸田任重・川西琢也・田中恒夫・川島博之:地球環境、9,1,93-99 (2004)
  「流域窒素循環モデルを用いた東アジアの窒素負荷の現状と環境影響の評価」
 (34) Suzuki, K.: Bulletin of Glaciological Research, 22, 57-61(2005)
  "Effect of winter warming on the stream water acidification"
 (35) J. Shindo, K. Okamoto and H. Kawashima: Ecosystems and Sustainable Development (edited by
  Tiezzi, E. et al.) , WIT Transactions on Ecology and the Environment, Vol. 81, 2005 WIT press,
  ISBN: 1-84564-013-6, 115-123 (2005)
  "A model based estimation of the effect of population concentration of the urban areas in eastern
  Asia in terms of nitrogen pollution"
 (36) K.Okamoto, J. Shindo and H. Kawashima: Ecosystems and Sustainable Development (edited by
  Tiezzi, E. et al.) , WIT Transactions on Ecology and the Environment, Vol. 81, 2005 WIT press,
  ISBN: 1-84564-013-6, 553-561 (2005)
  "Analysis of rapid land-use/land-cover change in Northeastern China using Landsat TM/ETM+ data"
 (37) Koide, T., Sakai, K., Kawahara, S., Usui, Y., Nakahara, O. And Hatano, R.: Phyton Annales Rei
  Botanicae (2005)
  "Susceptible response to nitrogen loading in a P-limited Larch Forest Ecosystem in Sapporo, Japan"
  (in press)
 (38) Konohira E. and Yoshioka T.: Ecological Research 20,3 (2005)
  "Dissolved organic carbon and nitrate concentrations in stream -A useful index indicating carbon
  and nitrogen availability in catchments", (in press)
 (39) 新藤純子・木平英一・吉岡崇仁・岡本勝男・川島博之:環境科学会誌,18,455-463(2005)
  「我が国の窒素負荷量分布と全国渓流水水質の推定」