課題名

C−3 東アジアにおける民生用燃料からの酸性雨原因物質排出対策技術の開発と様々な環境への影響評価とその手法に関する研究

課題代表者名

畠山史郎(独立行政法人国立環境研究所大気圏環境研究領域大気反応研究室)

研究期間

平成14−16年度

合計予算額

206,241千円(うち16年度 44,717千円)

研究体制

(1)乾式選炭技術の開発・実用化に関する研究

   ・乾式先端技術の応用に関する研究(独立行政法人国立環境研究所)
   ・乾式先端装置の基本性能に関する研究(埼玉大学)
   ・乾式先端装置の現地化に関する研究(ユニレックス株式会社)
   <研究協力機関>北海道立工業試験場、中国重慶市南桐炭鉱選炭工場

(2)バイオブリケット技術の民間移転と普及方策に関する研究

 .丱ぅブリケットの民間技術移転と普及・啓発方策に関する研究
   ・バイオブリケット技術の普及方策に関する研究(独立行政法人国立環境研究所)
   ・バイオブリケット技術の民間移転に関する研究(埼玉大学)
   ・材料腐食から評価する対策技術に関する研究(大気環境学会(平成12年〜15年度)

 ▲丱ぅブリケットの普及による健康影響に関する研究    
   ・バイオブリケット技術の普及方策に関する研究(独立行政法人国立環境研究所)
   ・健康影響に関する研究(京都大学)
   ・疫学的研究(佛教大学)
   <研究協力機関>(中国重慶医科大学)

 D禪害燃料の開発に関する先導的研究
   ・燃焼由来エアロゾルに関する研究(独立行政法人国立環境研究所)
   ・ディーゼルエンジン排気中のエアロゾルの分析に関する研究(埼玉大学)
   ・バイオディーセル燃料合成法に関する研究(大阪府立大学)

研究概要

1.序(研究背景等)

 中国のエネルギーの約75%を占める石炭の需要は、将来的に増加する傾向があるが、地方の中小炭鉱には、適切な石炭クリーン化技術がないため、採炭される高硫黄分の低品位石炭は未処理のまま市場に流通しており、その多くは、民生用や中小規模ボイラー等の低い煙源の施設にて燃焼に供されている。その結果、中国各地、特に西南地区および東北地区の都市部では、高硫黄分の低品位石炭の燃焼に起因する大量の二酸化硫黄(SO2)及び粉塵が放出されており、大気汚染や酸性雨が顕在
化し、それらによる生態系の破壊、農林業の経済的損失、建造物の腐食、健康被害等が発生している。これらの問題は、中国国内だけでなく日本を含む東アジア地域の酸性雨越境汚染の一因となっている。このように深刻な大気汚染や酸性雨被害を防止するためには、低品位石炭をクリーン化する技術が必要となる。石炭クリーン化による脱硫及び脱塵対策は、酸性雨原因物質の排出抑制、SO2排出総量規制等の環境政策支援並びに住民の健康保護の観点から最も重要な課題であり、早急な対応が迫られている。石炭クリーン化技術の中でも比較的低コストで実現可能な乾式選炭技術は開発途上国向けの環境調和型の石炭利用技術として重要視されている。現在、中国側から乾式選炭の実用化研究について強い要請がある。また、これまでに、中国への適正化研究の実績があるバイオブリケット(BB)化技術を広域に普及させるため、その使用によって住民の健康被害、建造物・材料の腐食による経済的損失などがいかに改善されるか、またバイオブリケット使用後の廃棄物がどのように有効利用できるかを研究し、ブリケット利用の促進を図る必要がある。
 一方、ディーゼルエンジンは燃費は良いとはいうものの、化石燃料である軽油を燃焼するため、大気中にCO2を大量に放出するという問題点がある。また、ディーゼル排ガスは、微小粒子の主な発生源であり、発ガン性物質である多環芳香族化合物やニトロアレンなどが多く含まれている。ディーゼルエンジンの利点を生かすため、ディーゼル燃料の改善を図る必要があり、これまで使われている化石燃料から、再生可能な循環型のバイオマスを原料とするディーゼル燃料(BDF)に転換するため、その製造法を開発し、普及を図ることは特に経済発展の著しい途上国にとって必要である。

2.研究目的

 サブテーマ(1)では、水資源を必要とせず、設備、ランニングコストなどの面から低品位切込炭から効果的に脱灰及び脱硫できる静電気型乾式選炭技術開発を目的としている。石炭・灰分の電気特性、電界中での粒子挙動、石炭中の水分の選炭特性への影響等を把握するとともに静電気型乾式選炭試験装置の選炭精度向上に向け、従来とは異なる新しい形状の電極等を試作し、それらを用いて選炭試験を行うことで静電気選炭装置の設計、製作のためのデータを収集する。
 サブテーマ(2)では、日本国内および現地において、低品位炭・廃棄BBを作製し、実験室レベルの燃焼試験や、実機燃焼試験、BB化による粉塵低減率と硫黄固定率の比較評価、ならびにBBガス燃料化の転換特性評価などを行い、その有用性および環境改善効果を明らかにする。また中国西南地域重慶市、東北地域鞍山市、内陸部地域新彊ウイグル自治区ウルムチ市、北部一般都市大同市を調査対象地域とし、石炭生産地の原料、入手ルート、輸送手段や製造コスト、地域特徴など因子に
ついての普及可能性調査を重点に置き、石炭燃焼による深刻な大気汚染対策として、現地低品位や廃棄石炭ならびに廃棄バイオマスを利用した環境調和型BB技術に関する開発実験と適正調査を実施する。さらに、将来の技術導入可能性について検討し、枯渇性資源である石炭(低品位や廃棄石炭を含む)と循環性資源である農林業廃棄物(バイオマス)の総合利用に関するシステムを構築することを目的としている。これに乾式選炭技術を組み合わせて、途上国のニーズに適合した要素技術に関する研究開発を行う。また、バイオブリケットの燃焼灰が強いアルカリ性と豊富な栄養塩を有することに着目し、廃棄物となる燃焼灰を、酸性化した土壌の改良材として利用する技術を開発すること、材料暴露試験により材料に対する酸性雨の影響を数値化し、材料劣化による経済的損失を評価し、中国東北部の鞍山および西南部の重慶を中心とした中国の環境改善を促進すること、さ
らにはバイオブリケット利用を普及促進させるための動機付けの一つとして、健康の改善について定量的に評価することなども目的とした。
 サブテーマ(3)では、ディーゼル車で問題となっている粒子状物質の排出抑制を考慮し、廃食用油とアルコールからバイオディーゼル燃料(BDF)を製造するプロセスへの超音波照射の有効性を確認するとともに、代替ディーゼル燃料として植物由来の油、廃棄食用油からの再生油を燃料としたときの燃料の相違と、負荷の変化に伴う排ガス組成の違いに関する基礎的調査を行うことを目的とした。

3.研究の内容・成果

 (1)乾式選炭技術の開発・実用化に関する研究
 選炭装置の設計等に係る基本データ収集のため、石炭及び灰分成分の電気的特性を調べた。また、数種の石炭サンプルについて粒径、密度、炭種及び水分の選炭特性への影響について調べた。さらに重慶市南桐炭坑において、複合電極及び二段式選炭装置を用いた選炭試験を行った。 試験の結果、電気的特性としては、各成分の理論最大帯電量及び比誘電率を求めることができた。その結果からパイライトの比誘電率は石炭に比べ約5倍大きく、帯電しやすいことがわかった。これらのことは高圧電界下での落下試験においてパイライトの移動距離が大きいことと一致し、電界強度をコントロールすることで比較的容易に石炭とパイライトを分離できることが示唆された。また、石炭中の水分値は選炭特性に、大きな石炭については、粒径及び密度の帯電量への影響についても試験を行った。粒径については、帯電量は粒径から算出される粒子表面積と比例関係にあり、粒径の増大とともに単位重量当たりの帯電量が減少し、静電気選別への適合性が低下することが確認された。密度については、密度の増大とともに単位重量当たりの帯電量は増加しており、廃石含量の多い高密度の試料と、石炭分が多い低密度の試料では、前者の方が帯電量は大きく、その値は最大で約3倍であることがわかった。また、石炭中の水分の選炭特性への影響について、東林炭の場合は1%程度の水分を含む試料の分散特性が良いことがわかった。さらに重慶市南桐炭鉱で従来と異なる新しい電極(複合電極)と二段式装置を用いた選炭試験を行い、複合電極については、電極電圧をコントロールすることで従来電極と比較して脱灰効率と脱硫率はそれぞれ11%及び4%改善することがわかった。


(2)バイオブリケット技術の民間移転と普及方策に関する研究
 .丱ぅブリケットの民間技術移転と普及・啓発方策に関する研究
 低品位炭・廃棄BBの開発実験 硫黄酸化物排出量より計算したBBの硫黄固定率は、94%であり、廃棄石炭の燃焼排出硫黄に対しても、効率良く固定でき、燃焼排ガス中かつ粒子状物質中の硫黄排出抑制効果を有していることを明らかにし、廃棄BBの有用性が確認できた。
 低品位炭・廃棄石炭BB利用によるガス燃料化転換の可能性 BBの熱分解・ガス化における硫黄固定率について実験した結果、BBの熱分解・ガス化における総硫黄固定率は、いずれのバイオマス添加割合においても約50-70%となり、後段で行われるガス精製プロセスでの処理量の大幅低減が可能であるといえる。廃棄石炭利用BBのガス化で得られるガスは、廃棄石炭、バイオマス単独ガス化で得られるガスとほぼ同様な組成(H2、CO、CO2の他に微量の低級炭化水素)であり、ガス低位発熱量
約2,300kcal/N?となり、中カロリーガスとして利用できることが分かった。
 現地ボイラーでの実機燃焼特性評価 4種類のBBを用いた燃焼試験の結果から、旧型の性能の良くないボイラーでも、その粉塵低減率と硫黄固定率はそれぞれ約70%と80%であり、実験室レベルの燃焼実験とほぼ同程度で、環境改善効果や実用性が明らかにされた。
 BB技術現地化への普及可能性 BBの事業計画を策定したところ、1ton当たりのBB製造コストの試算では、それぞれ重慶250元(3,600円/ton相当)、鞍山190元(2,800円/ton相当)、ウルムチ150元(2,200円/ton相当)、大同130元(1,900円/ton相当)となっており、地域的価格の格差が見られたが、投資回収期間は10年間と仮定する場合、年産総量10万トン以上であれば収益が可能と試算されている。なお、環境モデル地域における環境保護局の環境保護基金の一部を補償金・優遇策として活用
すれば、BB普及推進はさらに見込まれ、従来の石炭利用に比べ、粉塵排出量、SO2排出量の削減による環境改善が明らかと予測されている。一方、一般都市では、国内外民聞企業の参画による事業展開も可能となっている。
 BB燃焼灰の有効利用 人工的に酸性化させた土壌に燃焼灰を5w%添加し、グロースチャンバーを用い、人工酸性雨を給水源とするハツカダイコンの栽培試験を行った。ポット下部より採取した溶出液のpHは燃焼灰を添加することにより上昇し、燃焼灰による酸性土壌の中和効果が確認され、有害成分であるアルミニウムの濃度も減少していた。また、栽培後の植物体の重量は生重量、乾燥重量ともに増加し、植物生長の促進効果も確認された。燃焼灰中に残存する硫黄固定剤由来のカルシウム化合物は土壌中和剤として作用し、土壌を植物生長により好適なpH域に矯正でき、またアルミニウムイオンの溶出を抑制する効果が明らかにされた。また植物体中のカルシウム含有量も高くなっていたことから、燃焼灰添加により栄養元素であるカルシウムが効果的に供給されていると推定された。また、粘土を原料とし、低品位石炭を燃料とする焼成煉瓦の製造は大気汚染と生態系の破壊を導くため、都市近郊で制限されている。そのため、これまでの煉瓦に替わる建材として燃焼灰を原料とする無焼成煉瓦を試作し、その強度、利用中における有害重金属の溶出を調べ、一部の金属については溶出抑制手法を検討する必要があるものの、焼成煉瓦に匹敵する強度が得られることを示した。
 水生植物の活用方策 バイオマス資源の有効活用および燃焼灰の土壌改良材としての有用性を高めるため、水生植物のバイオマス資源としての利用評価を行った。ヨシ、ガマ、ホテイアオイなどの水生植物から調製されたBBの耐圧強度は十分な値を有していることが確認された。また、水生植物由来のリン、カリウムは大部分が燃焼灰中に残存しており、この燃焼灰は酸性土壌の中和剤ならびに肥料としての利用可能性が高いことが確認された。
 酸性雨による材料腐食の評価 中国東北部の鞍山および西南部の重慶を中心に材料暴露試験を実施し、材料に及ぼす酸性大気汚染の影響を数値化し、バイオブリケットの普及・啓発による環境改善の進捗状況を評価し、酸性大気汚染による送電鉄塔からの亜鉛溶出の経済損失を試算した。重慶市内では、1997年以降、燃料の天然ガスへの転換によって、大気中のSO2濃度は減少したが、一方、降水中のE.C.、SO42-2には1997年以降も目立った変化がなく、中国南西部全体では、SO2の排出量は変
化していない。重慶における電力鉄塔からの亜鉛溶出量と経済損失は、送電鉄塔からの亜鉛の溶出量は714kg、その年間損失額は2,744万円と推定された。

▲丱ぅブリケットの普及による健康影響に関する研究
 民生用として効果的と期待されるBB製造技術の民間移転と普及が重要であるが、BB利用を普及促進させるための動機付けの一つとして、健康の改善についても定量的なものとして示す必要がある。本研究はこの目的のために、重慶近郊の南川市、遼寧省鞍山市を対象地域とした。南川地区の18ヶ月のブリケット使用後の血液検査ではBB使用群のDNA損傷の軽減、抗酸化機能の亢進、非特異的免疫機能の亢進などが有意に認められた。また鞍山市の調査では短期間(1週間)の健康影響調査から鼻咽喉系の急性炎症症状が、原炭を使用した場合よりも有意に少ない、または改善することが明らかとなった。また長期間(18か月)の健康影響調査では、BBの使用により咳、疲、鼻水の耳鼻咽喉系自覚症状について有意に改善されることが示された。また環境調査でバイオブリケット使用家庭では、二酸化硫黄の改善が著しく、フッ化物の排出も減少していることが確かめられた。

(3)低公害燃料の開発に関する先導的研究
 超音波特殊反応場を利用して、〆合・反応プロセス:20kHz油―アルコール混合(umサイズの微小油滴の生成)、∧離プロセス:1.5〜2.4MHz有機物混合水溶液からの有機物の濃縮分離(霧の生成)、BDF燃焼実験による大気汚染物質の排出、の3つのBDF製造プロセスを検討した。プッシュ・プル型振動子を用いて、エステル化反応の超音波による促進作用を検討した。今回、作成した装置は反応部がガラス製であるため、外部からの観察が可能で混合の状態が極めてよく分かった。またこの超音波照射装置で実験を行うと、反応後の生成BDFとグリセリンはほぼ瞬時に分離し、従来、攪拌法で作られていたものより優れたBDFが得られた。一方、100%BDFを燃料としてバスを運行し、その排ガスを測定した。粒子状物質(68%削減)および多環芳香族炭化水素の排出(85%削減)が大幅に減少し、BDFはクリーンなしかも地球温暖化防止にも貢献する燃料であることが分かった。
 また、小型ディーゼル発電機を用いて、ディーゼル排気ガスを希釈捕集できる装置を設置し、廃食油、菜種油を原料とするバイオディーゼル燃料と石油系ディーゼル燃料を用いてディーゼルエンジンを稼動させた際に排出される粒子中の炭素成分に注目し、燃料の相違と負荷の変化に伴う排ガス組成に関する基礎的調査を行った。石油系ディーゼル燃料とバイオディーゼル燃料それぞれを用いた場合の炭素成分の排出挙動はほぼ同様であったが、負荷の増加に伴う石油系ディーゼル燃料からの元素状炭素の排出濃度増加が著しかった。また、有機炭素の排出はバイオディーゼル燃料の方が数倍多くなっており、超微小粒子の発生が懸念された。また、走査型電子顕微鏡ならびに走査型粒径分析装置による観察結果から、石油系ディーゼル燃料由来に比較してバイオディーゼル燃料の方がより小さな微粒子、超微粒子を発生している可能性が示唆された。

4.考察

 中国のエネルギーの約75%を占める石炭の需要は、将来的に増加する傾向があり、中国に代表されるように、石炭燃焼に伴う地球規模の大気汚染は極めて深刻な問題となっている。現在、中国で、最も多く使用される石炭は硫黄分が多く、発熱量も4,000kcal/kgと低く、灰分も多い低品位の切込み炭であり、適切な石炭クリーン化技術がないため、高硫黄分の低品位石炭の燃焼に起因する大量の二酸化硫黄(SO2)及び粉塵が放出されており、これが生態系の破壊、建造物等の被害に止まらず、農林業の大きな経済損失をもたらし、健康被害等が発生している。そのため、高硫黄分の石炭燃焼からの酸性雨原因物質排出の総量規制のための総合的な対策技術は必要不可欠である。しかし、我が国で普及している高度な排煙脱硫技術のように、ランニングコストの負担が大きい技術は発展途上国においては現段階では定着しにくい技術である。発展途上国に供与すべき環境対策技術は高効率にこだわるよりは低コストを旨とすべきである。この観点から、BB技術や乾式選炭技術は中国のニーズに合った技術の総合評価で高いポイントを得ている。乾式選炭技術に関する研究では、石炭及び灰分の電気特性等を調べ、特に石炭については粒径及び密度の電気特性への影響について検討し、選炭装置における粒子挙動に係る理論的な裏付けがとれた。それらのことは今後の装置製作に寄与するものと期待できる。また、水分の選炭特性への影響についても調べ、効率的な選炭システムの構築に向けた基礎データが得られた。また、中国重慶市南桐炭鉱で試作機の試験を行い、今後の装置製作に向けたデータを得ることができた。本研究では、重慶市南桐炭鉱の石炭にターゲットを絞り、選炭特性の把握及び選炭システムの構築に向けた各種データ収集に取り組んできた。石炭は、産地により物性が著しく異なるため当該技術を適用するためには、産地ごとの選炭特性の把握が必要になる。今後は、様々な石炭への適用に向けて研究開発を進めていきたいと考えている。
 一方、BB技術の普及を図るには、住民がバイオブリケットを使用するインセンティブを高めていく必要がある。このような目的から、BBの利用による周辺大気汚染の低減効果を明らかにし、中国向けの製造設備のスケールアッププロセスを提案し、経済性評価を行った。また、BB燃焼灰の有効利用法の検討、健康影響の評価、材料腐食の評価などからインセンティブを高める方策を検討した。中国では、西南地域で産出している石炭の硫黄分が高いにもかかわらず、発熱量に比例して価格も250元程度(3,600円/ton相当)で比較的高い。一方、内陸部、北部、東北部では、品質上で灰分の多いものが採掘されていることから、発熱量の低い石炭がより低価格、130-190元(1,900-2,800円/ton相当)の範囲で取引・流通されて利用している。その地域格差も反映しているが、エネルギー分野の計画経済の影響により、石炭の流通地域も限られている。そのため、40-60元(600-900円/ton相当)の廃棄石炭や100-150元の低品位炭の生焚きを禁止し、そのクリーン燃料化は大きな課題となっており、本研究では、低品位炭・廃棄BBの開発と利用性能評価に着目した。
 西南地域、東北地域、内陸部地域、北部一般都市における調査では、BB技術の普及方策に関する研究調査を実施した。廃棄石炭BBの燃焼性向上、粉塵排出低減、硫黄固定・脱硝などの効果を明らかにしたと同時に、経済性と市場性を評価し、その生産コストは1トンあたり130〜250元(1,900〜3,600円/ton相当)の範囲と試算され、市販高品位石炭燃料に匹敵するものとなっている。しかし、バイオマスの種類とその分布は、地域別特性があり、また輸送コストも大きな割合を占めていることが明らかにされた。従って、この成果を踏まえ、今後、このBB技術移転と普及・啓発方策についてさらなる検討をし、そのモデル構想の実現によって、中国酸性雨汚染地域における大気汚染の改善に役立つことが期待される。
 BB化の副原料として養分含有量の高い水生植物を利用することで、その燃焼灰を効果的に酸性化土壌の中和剤や肥料として利用できることが示唆された。また、重金属などの有害成分の影響は小さく、土壌改良材として利用しても土壌環境を悪化させる可能性は低いと推定された。さらに、BB燃焼灰から調製された無焼成煉瓦からのクロム(Cr(VI))溶出については、リグニン等の添加材による溶出抑制効果が観測されているため、今後更なる検討を行うことで、BB燃焼灰の無焼成煉瓦への適用可能性が判断し得るものと推定された。
 重慶市内では、1997年以降、燃料を天然ガスへ転換し、汚染源の工場を市外に移動させることによって、市内の大気中のSO2濃度は減少したが、一方、中国南西部全体では、依然として、燃料の主役は石炭であり、降水中のSO42-には変化がなく、SO2の排出量はまだそれほど大きくは変化していないことが分かった。健康影響の調査は重慶市と鞍山市で行ったが、鞍山市は重慶市と異なり、冬の寒さが厳しいために一般家庭では、石炭コンロは暖房用に作られており、煙突が備えられている。普段はコンロの上を塞ぐ形ではやかんがかけてある。当初は煙突があるために室内の汚染はそれほどひどくはないのではないかと予想されたが、調理時にはやはり室内の汚染物質濃度が高く、特に台所の調理時のPPAH濃度は重慶市とほとんど変わらなかった。調理時には鍋を掛け替えたり、やかんを下ろしたりして、コンロをふさぐものがなくなるために室内の汚染物質濃度があがり、それが特に女性の呼吸器系症状に関係していたと思われる。バイオブリケット使用によるこれら汚染物質濃度の改善が、自覚症状の改善やピークフロー値の改善傾向につながったものと思われた。このような健康の改善がみられることを住民に周知することは、住民のバイオブリケツト利用への動機付けにつながるものである。
 ディーゼル排ガスの最も深刻な問題は粒子状物質汚染であり、粒子状物質中の微小粒子や超微小粒子は呼吸器内の奥深く進入し、呼吸器系疾患などの原因となっている。そのため、ディーゼル車で問題となっている粒子状物質の排出抑制を考慮し、代替ディーゼル燃料として植物由来の油、廃棄食用油からの再生油を燃料とする研究が進められている。最近、バイオディーゼル燃料は、再生可能エネルギーであり、硫黄が含まれていないなどの点から、有力な代替ディーゼル燃料として注目されている。また、地球温暖化防止の観点からも、バイオ燃料の普及は効果的な対策技術であると考えられ、今後の研究の進展を図る必要があろう。

5.研究者略歴

課題代表者:畠山史郎
        1951年生まれ、東京大学理学部卒業、理学博士、現在、独立行政法人国立環境研究所
        大気圏環境研究領域大気反応研究室長
        主要論文:畠山史郎:酸性雨、日本評論社、2003
           S. Gao, K. Sakameto, X. Dong, W. Wang, K. Murano, S. Hatakeyama, Q. Wang: J.
            Jpn. Atmos. Environ.
,36,78-87(2001)
            " Studies on emission control for precursors causing acid rain(IV)Studies on
            biomass for production of bio-briquette in Chongqing, China"
           S. Gao, K. Sakamoto, D. Zhao, D. Zhang, X. Dong, and S. Hatakeyama: Water, Air,
            and Soil Pollution
, 130,247-252,2001
            " Studies on atmospheric pollution, acid rain and emission control for their
            precursors in Chongqing, China"

主要参画研究者
(1) :畠山史郎 (同上)
(2)  畠山史郎 (同上)
    ◆内山巌雄
      1946年生まれ、東京大学医学部卒業、医学博士、国立公衆衛生院労働衛生学部部長を経
      て、現在、京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻教授
      主要論文:溝口次夫、内山巌雄他:環境衛生工学研究、15,3,7-ll(2001)
             「エアロゾルパッシブサンプラーの開発と実用化に関する研究」
             岩井和郎、内山巌雄:大気環境学会誌、35,(4),229-241(2000)
             「ディーゼル排出粒子による人肺癌リスク試算(予測)」
             後藤純雄、内山巌雄他:室内空気学会,Vo1.1,No.1,51-55(1998)「室内空気浮遊粒
             子中のPAH測定へのPAS-2000の適用」
(3) :畠山史郎(課題代表者に同じ)