課題名

B−54 アジア太平洋地域統合モデル(AIM)を基礎とした気候・経済発展統合政策の評価手法に関する途上国等共同研究

課題代表者名

甲斐沼美紀子(独立行政法人国立環境研究所社会環境システム研究領域統合評価モデル研究室

研究期間

平成14−16年度

合計予算額

546,570千円(うち16年度 106,863千円)

研究体制

(1)持続的発展に向けた地域詳細研究とモデルの普及

 |楼茱譽戰襪竜じ・経済発展政策の統合評価に関する研究

  ・国レベル及びアジア地域全体の気候・経済発展政策の統合化に関する研究

   (独立行政法人国立環境研究所、〈研究協力機関〉中国エネルギー研究所、インド経営大学院、ソウル大学、
    韓国環境研究所、中国科学院地理科学天然資源研究所、アジア工科大学、マレーシアプトラ大学、インド経
    営大学院ラックナウ校、インド螢螢▲ぅ▲鵐校唆函▲泪Ε薀福Ε▲競氷駑工科大学)

  ・アジア地域及び世界の気候・経済発展政策の統合評価に関する研究(京都大学)

 -1 中国におけるCDMの有効性と持続的発展への効果に関する国際交流研究

(中国エネルギー研 究所、環境省国立環境研究所)(平成12-14年度)

 -2 インドにおける温暖化対策と経済発展施策との統合評価に関する国際交流研究

(独立行政法人国立環境研究所)(平成15-16年度)

(2)統合評価モデル開発および統合政策評価フレームの構築に関する研究

  ・統合政策評価フレームの構築に関する研究

  (独立行政法人国立環境研究所、〈研究協力機関〉東京工業大学、中国エネルギー研究所、インド経営大学院)

  ・統合評価モデル開発に関する研究(京都大学)

(3)政策シナリオおよび国際比較に関する研究

  ・長期政策シナリオの推計及び国際比較に関する研究(独立行政法人国立環境研究所)

  ・アジア地域の温室効果ガス排出シナリオに関する研究

     ((社)システム総合研究所、蟯超研究センター、〈研究協力機関〉国際応用システム分析研究所)

(4)新排出シナリオに基づく新しい気候変動シナリオの推計に関する研究

   (国土交通省気象庁気象研究所)

研究概要

1.序(研究背景等)

 地球温暖化対策が動き始めているが、気候変動枠組条約の目標である気候安定化を達成するには、先進国のみならず発展途上国を含めて、今後一世紀にわたって温室効果ガスの一層の削減対策が求められている。このため、長期的な経済発展を維持し、国内の各種問題を解決しながら気候安定化をいかに総合的に達成していくかが、気候安定化政策推進の大きな鍵となってきている。特に、アジア地域の発展途上国は、高い経済成長のポテンシャルとともに公害などの深刻な国内問題を抱えており、気候政策だけでなく、気候政策と地域環境政策等の国内政策、あるいは気候政策と経済政策を同時に有機的に実施していくことが不可欠である。このような政策ニーズに対応するためには、新たな政策評価の枠組みと方法論が是非とも必要であり、これらを発展途上国に移転することが不可欠となってきている。このため、アジアの主要国の研究者と共同してモデル開発を進めるとともに、AIMトレーニングワークショップ(バンコク)、AIM国際シンポジウム(つくば)、温室効果ガス安定化ワークショップ(つくば)、AIM国際ワークショップ(つくば)などを通じてモデルや成果の普及を行った。研究成果はミレニアム・エコシステム・アセスメント、UNEP/GEO、エコアジアなどに提供した。また、EMF、ACROPOLISなどの国際モデル比較プロジェクトを通じてモデルの改良を検討した。

2.研究目的

 AIMモデルの開発はこれまで主に途上国を含めたアジアの温室効果ガス排出量の削減の可能性に研究の焦点をあててきたが、今後気候安定化政策を検討する上で、地域環境政策あるいは経済発展との統合政策を検討していくことは、アジアの途上国のみならず、わが国を含めた先進工業国の大きな政策課題となってきており、また、IPCCにおける新しい中心的な検討テーマでもある。本研究では、アジア地域の発展途上国の研究機関と協力して地域レベルの温室効果ガス削減及び適応方策について検討する。発展途上国においては温暖化対策の優先度が低いため、他の優先順位の高い国内政策と組み合わせて温暖化対策をデザインすることが重要である。このため、国別の対策シナリオ、先進国間の国際協調メカニズムを活用した対策シナリオ、南北間の国際協調メカニズムを通した対策シナリオ等を今後の社会経済の発展方向に沿って作成する。また、従来AIMモデルでは簡略な気候モデルを使用していたが、GCMとの結合を試みることも、本研究の大きな特徴である。本研究は、これまでに開発してきたAIMモデルを基礎にしつつも、海外の共同研究機関との密接な連携を維持しながら、新たなモデルを開発し、これらを統合化して各国に適用し、温暖化対策と地域環境対策の統合効果を分析することを目的とする。

3.研究の内容・成果

 (1)持続的発展に向けた地域詳細研究とモデルの普及
 |楼茱譽戰襪竜じ・経済発展政策の統合評価に関する研究
 グローバルな温暖化問題と地域の環境問題を統合して分析するために改良されたアジア太平洋地域統合モデル(AIM)の地域詳細モデルを適用して、アジア地域の温室効果ガス削減政策や地域環境政策との統合政策を評価した。アジア主要国(日本、中国、インド、韓国、タイ、インドネシア、ベトナムなど)のモデルの開発を行い、温室効果ガス削減のための対策シナリオが地域環境に及ぼす影響について分析した。
 まず、わが国については、CO2排出量の削減目標を達成するために必要となる温暖化対策税の税率や、そのときの経済影響を評価した。対象としたシナリオは、技術のシェアや効率が将来にわたり変化しないと想定した「技術一定ケース」、各主体が経済的に合理的な選択を行う「市場選択ケース」、炭素税によりにCO2排出量の削減を図る「炭素税ケース」、さらに炭素税を導入しその税収を温暖化対策として還流させる「補助金ケース」である。これらについてCO2排出量の推計を行った。図1は2012年までの推計である。2010年における二酸化炭素排出量(森林吸収除く)は1990年と比較して、3,000円/tCケース5.8%増、15,000円/tCケース3.8%増、30,000円/tCケースでは0.6%増と推計された。補助金ケースでは、2010年において1990年比2%減を達成するために必要な補助金額を推計した。炭素税の課税のみ(補助金還流なし)によって、このケースに相当する削減量を達成するためには、45,000円/tC程度の課税が必要と推計された。



 京都議定書の目標達成のための対策を実施すると経済影響が予想される。この経済影響が環境投資を活発化することでどの程度回復できるかを推計した。図2は、 京都議定書で定められたCO2削減とともに、廃棄物最終処分量の削減を達成する場合のGDPの変化を、対策の有無により比較したものである。対策を行わない場合は約1兆4千億円のGDPのが見込まれるが、環境投資・環境産業の育成や廃棄物処理技術の開発等によってGDPの回復が期待できる。



 日本を除くアジア地域ではCO2以外の温室効果ガス排出量の割合が大きいため、CH4、N20排出量を扱えるように拡張したモデルを適用し、CO2以外の温室効果ガスを含めた対策シナリオについて検討した。また、評価対象ガスを大気汚染物質であるSO2、NOxおよびPM1OをCO2排出量と同時に予測するモデルを適用し、温室効果ガス削減による大気汚染物質削減の副次的効果について国別に検討した。推計にあたっては、大規模発生源のデ一タを整備し、整備したデータを用いて将来の排出量の空間分布を求めた。図3はインドにおける2030年のCO2排出量の推計結果である。排出量の60%以上の大規模発生源を特定することができ、個別の対策効果を推計することができた。



 また、CO2削減率とそれぞれの大気汚染物質の削減率には高い相関関係が示され、地球温暖化対策がSO2やPM10などの大気汚染対策としても有効であることが明らかになった。これは石炭から天然ガスやLPGへのエネルギー転換が主たる要因である。
 さらに、エンドユースモデルを世界21地域に拡張し、地域別の限界削減費用を推計することにより、有効な削減技術について、地域別に集計した。これらのシミュレーション分析を通じて、アジア地域の温暖化対策と地域環境対策の統合政策について、中国、インド、韓国、タイ等の研究機関と共同して検討した。COP8のサイドイベントやAIM国際ワークショップを開催し、各国のシミュレーション結果を比較・検討した。

 -1 中国におけるCDMの有効性と持続的発展への効果に関する国際交流研究
 国連気候変動枠組条約の京都議定書の中で規定されたクリーン開発メカニズム(CDM)は、温室効果ガス排出を削減すると同時に発展途上国の環境維持開発を助成するプロジェクトへ投資するものである。本研究では、CDMプロジェクトの効果と波及効果を評価するためのモデルを開発した。本モデルを用いて、北京市の火力発電部門におけるCDMプロジェクトの実施状況と、地域環境への影響について研究した。
 北京市の全部門を対象として、SO2排出税やCO2対策税の効果を推計した。図4にSO2排出量の推計結果を示す。SO2排出税やSO2総量規制などのSO2対策を行った場合もCO2対策を行った場合もSO2排出量は削減された。SO2対策を想定した場合は、脱硫技術の導入によりSO2排出量は削減され、CO2対策の場合は、天然ガス利用の促進や新技術の導入で省エネ化が進み、SO2排出量は削減された。CO2対策の場合は2020年に参照ケースより約35%のSO2排出量が削減されることが示された。



 CDMは鉄鋼部門における技術移転を促進する上で重要な役割を果たす可能性があるため、政策評価のためのボトムアップ・モデルを用いて鉄鋼産業におけるCDMの効果を推計し、先進技術の導入が二酸化炭素削だけ
でなく大気汚染物質の削減に有利であることを示した。さらに、トップダウン型マクロ経済モデルである応用一般均衡モデル(AIM/Material-China)にCDM導入に関するモジュールを追加し、中国の二酸化炭素削排出量と大気汚染物質排出量に与える影響を推計するとともに、経済への効果を鉄鋼部門及び発電部門を対象として定量的に評価した。CDM導入シナリオを現状推移シナリオと比較すると、2015年のこれらの部門の二酸化炭素排出量はそれぞれ3.8%、2.7%削減されるとともに、中国全体の二酸化炭素排出量も1.4%減少する。また、硫黄酸化物対策が中国経済に与える影響と、CDM導入による経済回復についても推計した。年1%の割合で硫黄酸化物排出量を削減する揚合、2005年から2015年にかけて、3%から10%のGDP損失が推計されるが、CDMを導入することによ
りO.1から0.3%のGDPが回復すると推計された。

 -2 インドにおけるCDMの有効性と持続的発展への効果に関する国際交流研究
 インドにおいて予想される経済成長、人口増大、エネルギー消費の拡大に対して、どのようなエネルギー政策をとるべきかを解析することは、インドのみならず世界における温室効果ガス排出を制御する上で重要な課題である。そこで、今後のインドの経済活動の変化が温室効果ガス排出に及ぼす因果関係を表現するためエンドユースモデルと応用一般均衡モデルであるAIM/CGE(Asia)モデルを適用した。インドはエネルギー消費に伴う二酸化炭素の排出のみならず、稲作や畜産などの農業生産や廃棄物処理により排出されるメタンや亜酸化窒素の排出量が多い。このため、非二酸化炭素ガスの主な排出源である農業部門や廃棄物部門をモデル要素に追加し、非二酸化炭素ガスに関する各排出源のデータ調査を行った。また、インドを対象に、市場の動向(自由化、国際化など)および自治のあり方(中央集権か地方分権か)の2つを軸にした4つの将来シナリオに基づいたメタンおよび亜酸化窒素の将来シナリオを構築した。メタンの主要な排出源は畜産業と米作で、2000年の排出シェアは全体の約65%を占める。一方、都市ゴミによる排出量は都市化に伴い将来増加すると予想される。亜酸化窒素は主に化学肥料の施肥(全体の約67%)と農業残渣の耕作地での焼却によるものである。これらの温室効果ガス排出量の削減ポテンシャルおよび限界削減費用を検討した。
 図5はインドのメタンの限界削減費用曲線を示す。低コストでの削減対策が期待できるオプションとしては、埋立地ガスの燃焼利用、計器用ガス低漏装置の導入などがあり、コストの高いものとしては、被覆処理池による糞尿発酵・ガス回収・発電、機械拡販による糞尿発酵・ガス回収・発電があげらえる。インドの温室効果ガス発生源は多様であることから、種々の対策オプション組み合わせることは、対策の実行可能性を高める上で有用である。



 (2)統合評価モデル開発および統合政策評価フレームの構築に関する研究
 本研究の目的は、アジア太平洋地域において排出される温室効果ガスを予測するとともに、発展途上国において削減対策を推進するためのインセンティブを明らかにするための統合評価モデルの開発と、開発したモデルをもとにした政策評価の枠組みを構築することである。これまで開発してきた主要なモデルは々餤擇喘楼茱譽戰襪任硫梗叱果削減方策や大気汚染対策の評価を行う地域版統合政策評価モデル(AIM/Enduse及びAIM/Local)と大気汚染物質の濃度分布を推計するモデル(AIM/Air)、∪こΔ砲ける温室効果ガス削減技術の評価を行う世界多地域多部門技術選択モデル(AIM/Enduse(Global))、アジア太平洋地域各国のエネルギーの消費量と大気環境に負荷を与えるガスの排出量を推計する地域環境シナリオ分析モデル(AIM/Trend)、っ楼茣超シナリオ分析モデルとの連携をとりながらアジア各国の貿易を考慮してアジア各国の経済影響を推計する応用一般均衡モデル(AIM/CGE)、シ从儚萋阿環境に及ぼす影響の将来推計を行う環境経済・物質収支統合モデル(AIM/Material)、γ狼絏甲伐修留洞舛鯢床舛垢襪燭瓩離皀妊襦AIM/lmpact)である。さらに、統合政策分析用モデルとして、上記の各モデルとリンクしたモデルの開発を行い、環境政策の評価を行った。
 地域詳細モデルのうち、限界削減費用を推計するモジュールのインタフェースを図6に示す。本モジュールを用いて、大気汚染も含めた対策の費用と効果を詳細に評価することが可能となった。また、図7に示す影響モデルから、適応策や温暖化影響も踏まえた気候政策の検討が可能となった、つまり、これらのモデル群を用いることで、気候変動政策、地域的な環境対策、経済影響を踏まえた様々な統合政策の検討
が可能となる。





 また、これらのモデルを基礎に、様々な政策に対応するためのモジュールの開発も実施した。こうしたモデルの枠組みは、今後環境問題が深刻化することが懸念されている発展途上国においても有効な政策支援ツールとなることから、トレーニングワークショップを実施し、中国、インド、タイを中心にモデルの普及と人材育成を行った。

 (3)政策シナリオおよび国際比較に関する研究
 本研究では、IPCCで議論されているSRESシ ナリオおよび気候安定化シナリオ、ミレニアム・エコシステム・アセスメントで提案されている生態系シナリオ、ACROPOLIS(Assessing Climate Response Options: POLIcy Simulations)で検討されているエネルギー政策シナリオを検討するとともに、アジア太平洋地域への温暖化の影響を評価した。将来の気候変化の程度の見積もりには、温室効果ガス排出量の見込みに関する不確実性が含まれるが、これには、排出の推計手法に起因する不確実性に加え、人間が今後どのような社会・経済・科学技術等の発展の道筋を選択していくかに大きく依存する。そこで、シナリオに より、将来に起こりえそうな社会経済の様態を網羅的に取り扱い、シナリオに基づいたモデル解析によって、将来起こりうる社会像の道筋を定量的に示す。本研究では、まず、SRESによる対策なしのシナリオに加え、O2濃度の安定化という条件を与えた対策シナリオ(Post-SRESシナリオ)を作成し、世界の9つのチームが推計した結果について比較・分析を行った。
 想定する社会経済の発展の方向によってCO2排出量および安定化のための対策費用は大きく異なる。図9に、大気中のCO2濃度を550ppmに安定化させるための費用をGDP減少率によって示す。国内 総生産(GDP)の減少に繋がるとの懸念から、温暖化対策の強化を嫌う向きがあるが、発展シナリオの選び方によっては、逆にプラスになりうる場合があることが示された。



 TGCIA(Task Group on Scenarios for Climate lmpact Assessment)において、気候影響と適応に関する研究をSRESシナリオと組み合わせて推進することが提案された。これを受けて、AIM-SSG(安定化シナリオジェネレーター)を用いて大気中の二酸化炭素濃度安定化シナリオの評価に向けた2100年から2300年までの二酸化炭素排出シナリオを作成した(図9)。また、モデル及びシナリオにおいて排出量が大きく異なるSO2についても同様の超長期排出シナリオを作成した。大気中CO2濃度安定化は2150年を目標としているが、濃度の安定化が達成された後も、CO2を長期にわたって削減する必要があることがわかる。



 IPCC第四次評価報告書の作成に貢献するために、第三次評価報告書以降の排出シナリオの世界中の研究者による研究成果を収集し、温室効果ガス排出シナリオデータベースを更新した。また、アジア地域を対象として、人口、GDPなどの駆動力やエネルギー消費量、環境影響などについて推計し、その結果をUNEP/GEO3に提供した。GEO3で想定したシナリオは、市場優先シナリオ、政策優先シナリオ、安全優先シナリオ、持続可能性優先シナリオである。市場優先シナリオは、政策的・市場的失敗がなければこのまま続くであろうが、政治的・市場的問題が生じれば、地域が孤立化し安全優先シナリオへと進む可能性が大きい。政策優先シナリオは二酸化炭素排出量などの環境指標から見れば均衡のとれたシナリオであるが、局所レベルでの環境に大きな影響を与える可能性がある。持続可能性優先シナリオは、地域の経済発展が環境保護と地域的公平性に向かっているので、在来型ほど経済成長は大きくないが、安定したシナリオといえる。図10に今後30年間のCO2排出量の変化率の予測を南アジア、東南アジア、東アジア、中央アジア、オセアニアの地域別に示す。国別の値は地域別の変化量に占める割合を示す。市場優先シナリオでは、高成長の仮定により、CO2排出量が増加するが、政策優先シナリオでは、省エネ技術の導入によりCO2排出量の削減が進むと推定される。一方安全優先シナリオでは、省エネ技術への転換が進まないまま、人口が増えると予想されるため、CO2排出量が大幅に増える。経済発展と環境保全の両立を目指した持続可能性優先シナリオでは、二酸化炭素排出量は対策シナリオよりは増えるが、ある程度抑制できると期待される。



 さらに、アジア地域の対策時におけるエネルギー供給技術のシナリオを検討するとともに、簡易気候モデルを用いて様々なシナリオ下における気候変動とその影響を定量化した。また、EMF(Energy Modeling Forum)、ACROPOLISなどのモデル比較プロジェクトを通じてモデルを検証した。EMFでは気候安定化制約を課したときのCO2以外の温室効果ガスを含めたマルチガスへの対策について、経済モデルによる削減潜在性と経済影響に関する検討を行った。ACROPOLISでは最終需要モデルを用いてエネルギー効率の改善や地球温暖化対策と地域環境対策の統合政策の影響などについて検討した。

(4) 新排出シナリオに基づく新しい気候変動シナリオの推計に関する研究
 排出シナリオとして与えられているエーロゾルの効果について、複数の温暖化実験の結果を相互比較することによって調査検討を行った。エーロゾルは、発生源近くに濃度が大きい非一様性の分布を持つにもかかわらず、エーロゾルの地球温暖化に及ぼす効果は局在化せず、むしろ地球規模の温暖化パターン全体を弱める効果が最も卓越することが分かった。
 また、IPCCからは、各研究機関の気候モデルで計算された放射強制力の提出も要請を求められている。この要請にこたえるため、成層圏調節を含んだ放射強制力の計算を行った。1990年における産業革命以降の放射強制力の変化は、従来の方法では2.4W/屐∪層圏補正は-0.2W/屬鳩彁擦気譴拭
 IPCCの第四次評価報告書作成に向け、21世紀のシナリオ実験を行うためのエーロゾル排出シナリオから大気濃度のシナリオの作成を行った。大気濃度シナリオの作成には気象研究所で開発された大気化学輸送モデルMASINGARを用いた。大気・海洋モデルによるシミュレーショシで得られた三次元大気場ヘナッジングしつつ、移流計算には三次元のセミ・ラグランジュ方を用い、エーロゾルの発生、移流、乱流拡散、積雲対流による輸送、重力沈降、慣性沈着、湿性沈着を考慮してエーロゾルの三次元分布を計算した。排出シナリオとしてIPCC第三次評価報告書で用いられたSRESの6シナリオ(A1B、A1T、A1FI、A2、B1、B2)すべてについて濃度計算を行った。その結果、
全てのシナリオに対し温暖化予測実験が行えるようになった。また、IPCC-TARで公開された大気中のエーロゾル濃度のA2、B2シナリオの気中積分値と比較した結果、計算されたエーロゾルの濃度の大気化学輸送モデル依存性がかなり大きいことが分かった。
 さらに、これらのエーロゾル濃度シナリオを用いて温暖化予測実験を行った。図11に全球平均の地上気温と降水量の経年変化を示す。図11(a)は全球年平均地上気温の20世紀の気候再現実験(20C3M)における1961-1990年の平均からの変化(□)である。図ll(b)は、図11(a)と同様な条件で推定した全球年平均降水量の変化(%)である。予測結果の不確実性を評価するため、結合モデルによる20世紀の気候再現実験(20C3M)とSRESシナリオのうちのA1B、A2、B2については5メンバーのアンサンブル実験も行っており、その個々のメンバーについても細線で示している。温室効果気体の増加に伴い、それぞれのシナリオにおいて地上気温、降水量ともに増加している。年々変動およびアンサンブルメンバー間のばらつきについては、降水量に対してのほうが気温に対してよりも大きくなっている。1961-1990年の平均に対する2071-2100年における平均気温の昇温量は、A1B、A1T、A1FI、A2、B1、B2の各シナリオに対してそれぞれ2.4□、2.1□、3.2□、2.7□、1.7□、2.0□となった。

4.考察

 日本、中国、インド、韓国、タイ、マレーシアなどに地域詳細モデルを適用し、温室効果ガス削減効果について分析した。日本についてはトップダウンモデルとボトムアップモデルを組み合わせて、京都議定書の目標達成のためのコスト分析を行い、炭素税を補助金として還元した場合に多くの部門で生産活動を回復させることが可能となるなどの推計結果が得られた。また、アジア主要国の2010年における二酸化炭素削減の可能性について分析した。今後は、日本、中国、インド等だけでなく、インドネシア、バングラディシュ、パキスタン、スリランカなどのアジア地域の発展途上国において、引き続きデータの収集・整理を行い、さらにモデルの更新を図っていく予定である。
 本研究においては、AIMモデルを基礎として、二酸化炭素削減対策を今後一層推進するために、地域環境政策、資本投資などとの統合政策の効果を推計するためのモデル開発に取り組んできた。特に、対象ガスを二酸化炭素のみならず大気汚染物質に拡張するとともに、その影響を評価するためのモジュールや、地域を詳細に取り扱うモデルを開発、統合することで、発展途上国を対象とした地球温暖化対策の評価がより具体的に行うことが可能となった,
 IPCCの第4次報告書に向けて気候安定化に関する新シナリオの検討を進めるとともに、ミレニアム・エコシステム・アセスメントに対して定量的な生態系シナリオ作成に協力した。また、日本でEMFワークショップを開催し、世界約30名の第一線で活躍する研究者らが気候安定化シナリオ構築に関する最新知見を交換した。EMFやACROPOLISに参加して対策シナリオのモデル比較検討を行った。また、UNEP/GO3の技術レポートが完成しアジアのシナリオの普及に努めた。
 また、気象研究所で開発された大気化学輸送モデルMASINGARを用いて、6つのSRES排出シナリオに対するエーロゾルの大気中濃度シナリオの作成が行われ、気象研究所で開発された大気海洋結合モデルを用いた21世紀の地球温暖化予測が行われた。
 AIMモデル開発に関連して博士号を取得したアジアの若手研究者3名がIPCC第4次報告書の主執筆者に選ばれるなど途上国の人材育成に貢献しており、今後、途上国研究者からのモデル改良や新たなモデル開発が期待できる。



図11 (a)全球年平均地上気温の20世紀の気候再現実験(20C3M)における1961-1990年の平均
からの変化(℃)。(b)(a)と同様で全球年平均降水量の変化(%)。アンサンブル実験を行っ
ているものについては個々のメンバーを細線で示した。(a)には比較のためJones et al.
(2001)の観測による結果も黒線で示している。

5.研究者略歴

課題代表者:甲斐沼美紀子
    1950年生まれ、京都大学工学部卒業、工学博士、現在、独立行政法人国立環境研究所社会
    環境システム研究領域統合評価モデル研究室長 主要参画研究者
 (1) Ч暖緇柁紀子(同上)
      松岡譲
     1950年生まれ、京都大学工学部卒業、工学博士、現在、京都大学大学院地球環境学堂教授
   -1:Hougwei Yang
     1966年生まれ、Tsinghua University卒業、工学博士、現在、中国エネルギー研究所エネ
     ルギー助教授
   -2:Rajesh Nair
     1974年生まれ、Indian Institute of Management, Ahmedabad卒業、PHD、現在、独立行政
     法人国立環境研究所ポスドクフェロー
 (2):甲斐沼美紀子(課題代表者に同じ)
     松岡譲(同上)
     増井利彦
     1970生まれ、大阪大学工学部卒業、工学博士、現在、独立行政法人国立環境研究所社会環
     境システム研究領域統合評価モデル研究室主任研究員
 (3):甲斐沼美紀子(課題代表者に同じ)
     森田恒幸
     1950年生まれ、東京工業大学工学部卒業、工学博士、国立環境研究所社会環境システム研
     究領域前領域長(2003年9月4日逝去)
     藤野純一
     1972年生まれ、東京大学工学部卒業、工学博士、現在、独立行政法人国立環境研究所社会
     環境システム研究領域統合評価モデル研究室主任研究員
 (4):野田 彰
     1949年生まれ、東京大学理学系大学院博士課程単位取得、理学博士、現在、国土交通省気
     象庁気象研究所気候研究部長
     楠 昌司
     1955年生まれ、東京大学理学系大学院博士課程修了、理学博士、現在、国土交通省気象庁
     気象研究所気候研究部第四研究室 室長 6.成果発表状況(本研究課題に係る論文発表状況。
     査読のあるものに限る。投稿中は除く。)
 (1) M. E.Schlesinger, S.Malyshev, E.V.Rozanov, F. Yang, N.G.Andronova, B.D.Vries, A.Grubler,
K.Jiang, T.Masui, and T.Morita: Technological Forecasting and Social Change, 65, 167-193 (2000)
"Geographical Distributions of Temperature Change for Scenarios of Greenhouse Gas and Sulfur
Dioxide Emissions"
 (2) K.Jiang, T.Masui, T.Morita, and Y.Matsuoka: Technological Forecasting and Social Change, 63,
207-229 (2000)
"Long-term GHG Emission Scenarios for Asia-Pacific and the World"
 (3) T.Kram, T.Morita, K.Riahi, R.A.Roehrl, S.V.Rooijen, A.Sankovski, and B.D.Vries: Technological
Forecasting and Social Change, 63, 335-371 (2000)
"Global and Regional Greenhouse Gas Emissions Scenarios"
 (4) T.Morita, N.Nakicenovic, and J.Robinson: Environmental Economics and Policy Studies, 3, 2,
65-88 (2000)
"Overview of Mitigation Scenarios for Global Climate Stabilization Based on New IPCC Emission
Scenarios (SRES)
 (5) K.Yamaji, J.Fujino, and K. Osada: Environmental Economics and Policy Studies, 3, 2, 159-171
(2000)
"Global Energy System to Maintain Atmospheric CO2 concentration at 550 ppm"
 (6) K.Jiang, T.Morita, T.Masui, and Y.Matsuoka: Environmental Economics and Policy Studies, 3, 2,
239-254 (2000)
"Global Long-term Greenhouse Gas Mitigation Scenarios based on AIM"
 (7)  A.Rana and T.Morita: Environmental Economics and Policy Studies, 3, 2, 267-289 (2000)
"Scenarios for Greenhouse Gas Emissions: A Review of Modeling of Strategies and Policies in
Integrated Assessment Models"
 (8) T.Morita: The Sustainable Future of the Global System III, F.Lo et al. (eds), United Nations
University (2000)
"Global Modeling and Future Scenario for Climate Stabilization based on SRES World - A
Comparative Analysis on Development Paths and Climate Policies -"
 (9) N.Nakicenovic, J.Alcamo, G.Davis, B.De Vries, J. Fehhann, S. Graffin, K. Gregory, A. Grubler,
T.Y.Jung, and T.Morita: A Special Report of Working Group III of the Intergovernmental Panel on
Climate Change, N. Nakicenovic et al (eds), Cambridge University Press (2000)
"Special Report on Emissions Scenarios"
 (10)島田幸司、溝口真吾、松岡譲、日比野剛:環境システム研究論文集、28、77-84(2000)
「地球温暖化対策が地域大気環境に及ぼす影響について」
 (11)松岡譲、川口洋平:環境システム研究論文集、28、411-420(2000)
「温室効果ガス排出に伴う気温・海水位上昇の簡易推計モデルについて」
 (12)松岡譲、川口洋平:環境システム研究論文集、28、421-428(2000)
「気候安定化と21世紀中の温室効果ガス排出量の関わりについて」
 (13)増井利彦、松岡譲、森田恒幸:土木学会環境システム研究論文集、28、467-475(2000)
「環境と経済を統合した応用一般均衡モデルによる環境政策の効果分析」
 (14) H.Yamamoto, K.Yamaji, and J.Fujino: Applied Energy, 66, 325-337 (2000)
"Scenarios Analysis of Bioenergy resources and CO2 Emissions with a Global Land Use and Energy
Model"
 (15) T.Morita and J.Robinson: Climate Change 2001 Mitigation, 115-166 (2001)
"Greenhouse Gas Emission Mitigation Scenarios and Implications"
 (16) U.Cubasch, G.A.Meehl, G.J.Boer, R.J.Stouffer, M.Dix, A.Noda, C.A.Senior, S.Raper, and
K.S.Yap: Climate Change 2001: The Scientific Basis, Contribution of Working Group I to the
Third Assessment Report of the Intergovernmental Panel on Climate Change, J.T.Houghton et al.
(eds.), Cambridge University Press (2001)
"Projections of future climate change"
 (17) Y.Matsuoka and K.Takahashi: Global Environmental Research, 5, 1, 25-32 (2001)
"Global environment research in the field of Human Dimensions - Needs of integrated assessment
models -"
 (18) H.Yamamoto, J.Fujino, and K.Yamaji: Biomass and Bioenergy, 21, 185-203 (2001)
"Evaluation of bioenergy potential with a multi-regional global-land-use-and-energy model"
 (19) M.Kainuma, Y.Matsuoka, and T.Morita: Operatoinal Research Society of India, 38, 1, 109-125
(2001)
"CO2 Emission Forecast in Japan by AIM/End-use Model"
 (20) 松岡譲、島田幸司、溝口慎吾:土木学会論文集、685/VII-20,135-146(2001)
「地球温暖化対策の副次的効果に関する研究」
 (21) 入江康子、小林由典、森田恒幸:環境経済・政策学会年報、第6号、114-130(2001)
「環境クズネッツ曲線を用いた低公害型経済発展の政策分析―SO2の長期時系列データによる
実証とモデルによるシミュレーション分析」
 (22) H.Yang, Y.Matsuoka, and T.Matsuo: Journal of Global Environment Engineering, 7, 47-61 (2001)
"Sulphur dioxide emissions and country-level distribution in China"
 (23) S.You, K.Takahashi, and Y.Matsuoka: Environmental Economics and Policy Studies, 4, 1, 45-65
(2001)
"Investment as an Adaptation Strategy to Climate Change: Case Study of Flood Damage in China"
 (24) 増井利彦・松岡譲・森田恒幸:環境経済・政策学会年報第6号、69-82(2001)
「応用一般均衡モデルを用いた地球温暖化・廃棄物対策の経済影響」
 (25) R.Swart, J.Mitchell, T.Morita, and S.Raper: Global Environmental Change , 12, 3, 155-165 (2002)
"Stabilisation scenarios for climate impact assessment"
 (26) R.Nair, P.R Shukla, A.Garg, M.Kapshe, and A.Rana: Mitigation and Adaptation Strategies for
Global Change. Kluwer Academic Publishers. 8, 1, 53-69 (2003)
"Analysis of Long-term Energy and Carbon Emission Scenarios for India"
 (27) A.Garg, P.R Shukla, D.Ghosh, M.Kapshe, and R.Nair: Mitigation and Adaptation Strategies for
Global Change. Kluwer Academic Publishers, 8, 1, 71-92 (2003).
"Future GHG and Local Emissions for India: Policy Links and Disjoints"
 (28) A.Rana: Review of Urban and Regional Development Studies, 15, 1, 45-54 (2003)
"Evaluation of a renewable technology scenario in India for economic and CO2 mitigation effects"
 (29) D.Gielen, J.Fujino, S.Hashimoto, and Y.Moriguchi : Biomass and Bioenergy, 25, 177-195 (2003)
"Modeling of Global Biomass Policies"
 (30) K.Tokimatsu, J.Fujino, S.Konishi, Y.Ogawa and K.Yamaji : Energy Policy, 31, 775-797 (2003)
"Role of Nuclear Fusion in Future Energy Systems and the Environment under Future Uncertainties"
 (31) 増井利彦、松岡譲、甲斐沼美紀子:環境経済・政策学会年報、第9号、57-67(2004)
「日本を対象とした経済モデルによる炭素税導入の影響分析」
 (32) 日比野剛、松岡譲、甲斐沼美紀子:環境経済・政策学会年報、第9号、68-79(2004)
「技術選択モデルによる京都議定書達成に要する炭素税と政策分析」
 (33) 西本裕美、松岡譲、藤野純一、甲斐沼美紀子:環境経済・政策学会年報、第9号、80-92(2004)
「京都議定書が世界経済及び日本経済に及ぼす影響の評価」
 (34) M.Kainuma, Y. Matsuoka, T. Morita, T. Masui, T, and K. Takahashi : Energy Economics, No.26,
709-719 (2004)
"Analysis of global warming stabilization scenarios : the Asian-Pacific Integrated Model"
 (35) T. Masui: European Journal of Operational Research,l66, 3, 843-855 (in press)
"Policy Evaluations under Environmental Constraints Using a Computable General Equilibrium
Model"
 (36) Y. Wan, H. Yang, and T. Masui: Reviews on Environmental Health, 20, 2 (in press)
" Air Pollution-Induced Health Impacts on the National Economy of China: Demonstration of a
Computable General Equilibrium Approach"
 (37) T.Masui, G.Hibino, J.Fujino, Y.Matsuoka, and M.Kainuma: Environmental Economics and Policy
Studies (accepted)
"C02 Reduction Potential and Economic Impacts in Japan: Application of AIM"
 (38) T.Hanaoka, R.Kawase, Y.Matsuoka, and M.Kainuma: Environmental Economics and Policy Studies
(accepted)
"Development of a support tool for greenhouse gas emissions control policy to help mitigate the
impact of global warming"