課題名

O−1 アジアにおける水資源域の水質汚濁評価と有毒アオコ発生モニタリング手法の開発に関する研究

課題代表者名

彼谷邦光(独立行政法人国立環境研究所環境研究基盤技術ラボラトリー)

研究期間

平成13−15年度

合計予算額

128,318千円(うち15年度 40,068千円)

研究体制

(1)アジアにおける水資源域の水質汚濁の評価手法の開発に関する研究

  ̄濁負荷特性の変化が湖沼など水資源域水質に及ぼす影響の評価に関する研究

(独立行政法人港湾空港技術研究所、東海大学海洋学部、九州大学大学院工学研究科)

 ⊃物連鎖の強化による湖沼等水資源域の水質改善手法に関する研究研究

(独立行政法人港湾空港技術研究所、独立行政法人産業技術総合研究所、島根県保健環境科学研究所)

(2)アオコの発生診断手法と発生制御手法の開発に関する研究

 .▲コの発生診断手法の開発に関する研究

(独立行政法人国立環境研究所、筑波大学地球科学系、広島大学大学院工学研究科)

 ▲▲コの発生制御手法の開発に関する研究

(独立行政法人国立環境研究所)

(3)アオコ等有毒藻類及び毒素のモニタリング手法の開発に関する研究

 .▲コ等有毒藻類のモニタリング手法の開発に関する研究

(独立行政法人国立環境研究所)

 毒物質のモニタリング手法の開発に関する研究

(独立行政法人国立環境研究所)

研究概要

1.序(研究背景等)

 アジアの湖沼は、貴重な飲料水源としてのみならず、生活の維持に不可欠な漁場としても重要な割
を有している場合が多い。しかし、近年、これら湖沼に生活排水や肥料分を含んだ農業排水が流入す
ることによって富栄養化が進行し、有毒アオコの発生が拡大しており、健康面だけでなく経済的にも
大きな被害が生じている。有毒藻類の中には、ヒトや哺乳動物だけでなく水生生物に対しても毒性を
示すものがり、魚種の減少に一因の可能性が指摘されている。現在、有毒藻類の監視の手法が先進諸
国で検討されているが、未知毒素の種類、量ともに多いアジアの有毒アオコに適用できる方法はまだ
確立されていない。このような現状から、アジアの実態に合った淡水資源の管理手法の開発の必要性
が望まれている。

2.研究目的

 これまで、中国とタイに設定したモデル湖沼である槙池とバンプラー水源の有機汚濁等の水質の実態、有
毒藻類のと毒素についての調査などアジアの水資源域の実態調査を重点的に行った。また、国内のモデル
水源とした宍道湖ではNakata et a1.(2000)のモデルをベースとして植物プランクトンの優占群落の変動を
再現する低次生態系モデルを開発した。また、アオコ発生要因として溶存有機物(DOM)の存在は極めて
重要であることが明らかにした。さらに。有毒藻類の駆除剤となり得る物質を自然界から探索を行った。
微細藻類毒のモニタリング手法の開発ではミクロシスチン毒素生合成遺伝子クラスターの一部を標的に
したPCR反応による検出法の確立を試みた。また、毒素を直接定量する分析法の開発を進めた。
本年度はサブ課題(1)では、流域からの負荷変動や環境条件の変動に対する湖沼水質・生態系の応答
を、時間のスケールに応じて解析手法を使い分けることにより、解析する。また、宍道湖を対象とし
て、主要な漁業対象種である二枚貝(ヤマトシジミ)を中心とした物質循環機構を調べるとともに大型
生物を通した物質循環の健全化を図る環境浄化手法の可能性を検討する。サブ課題(2)では、アオ
コが優占する環境要因を統計的に解析してアオコが発生する湖沼環境を評価する。また、開発したア
オコを選択的に駆除するアミノ酸の実用性を隔離水界を用いて検討する。サブ課題(3)ではアオコ
毒素の中で最も有名な毒素として知られるミクロシスチンを生産するMicrocystis属のラン藻を対象
に、培養株及び環境水サンプル双方から、ミクロシスチン生合成遺伝子の特異的検出を可能とする
PCR法に基づいた実験システムを開発する。また、各菌株におけるこの毒素遺伝子の存在と毒素生産
能との相関を見ることによって、本検出法の有効性を評価する。Microcystis各株の系統的類縁関係を
調べ、毒素遺伝子の存在や毒素遺伝子の近縁性と照らし合わせて、有毒アオコの水域環境中における
遺伝的な挙動についての基礎知見を得る。有毒アオコの菌株のアオコ毒素遺伝子の配列を多くの株に
っいて比較解析することによって、同遺伝子の遺伝的多様性の時空間的ダイナミクスについて知見を
得ることを目指す。また、毒素のモニタリング手法の開発では、ミクロシスチン分析のネックになっ
ている前処理を改善するために分子鋳型を用いた新たな前処理法の開発を行うことなどを目的とし
た。

3.研究の内容・成果

 (1)アジアにおける水資源域の水質汚濁評価手法の開発に関する研究
  ̄濁負荷特性の変化が湖沼など水資源域水質に及ぼす影響の評価に関する研究
 宍道湖・中海水系を対象とし、時間スケールに応じた複数の解析手法を用いて、外部負荷の変動や
環境条件の変動に対する湖沼水質・生態系の応答を調べた。
まず、過去20年間にわたって蓄積された宍道湖水質データを、原単位解析を基礎とした負荷量のデー
タとともに解析した。リンの外部負荷は顕著に減少傾向にあり、COD、窒素についてもやや減少傾
向にあった。同じ期間の湖沼水質は、宍道湖・中海共に、COD・TN・TP・クロロフィルのいず
れの指標についても明確な変化を示しておらず、むしろ気象の影響を大きく受けて変動している事が
見いだされた。
湖沼など、閉鎖性水域の重要な内部負荷である栄養塩の溶出に対して、連続培養系を用いた室内実験
を行い、無酸素の条件のもとで、流速が溶出速度に及ぼす影響を検討し、あわせてその機構を説明する
モデルを構築した。また、リンと流速の関係を説明するための数理モデルを構築し、定量的に実験結果
を説明することができた。
負荷の変動や環境条件の変化が水質や生態系に与える影響を解析するためのツールとして、低次生態
系モデルを開発した,植物プランクトンについては、宍道湖では藍藻類、中海では珪藻類が優占して
いる様子がうまく表現でき、塩分環境の違いによる植物プランクトンの優占種の違いを再現できた。
また、二枚貝(宍道湖ではヤマトシジミ、中海ではホトトギス貝が対象)の寄与については、それら
が植物プランクトンを捕食する作用や取り上げの作用によって水質に影響していることが示された。

 ⊃物連鎖の強化による湖沼等水資源域の水質改善手法に関する研究
 宍道湖における自然浄化は、ヤマトシジミを中心とした物質循環によって成り立っていると考えら
れているが、ヤマトシジミの生息する沿岸部と、その餌となる植物プランクトンが多い沖合い部の物
理的水塊交換機構については不明である。本研究においては、まずこの物理的交換機構と水塊構造の
関連性を、予備的に冬季現地観測によって調べるとともに、表面熱交換によって誘導される流れの構
造を数値解析によって調べた。その結果、シジミの活性が低い冬季においても、沿岸に低クロロフィ
ル濃度の水域が形成され、二枚貝の浄化効果が見られた。また、夏季の典型的な風と水表面熱フラッ
クスを駆動力として与えた湖水流動に関する数値解析によって、過去に調査された現地水質構造が再
現され、熱収支の重要性が明らかになった。
2001年度から継続して調査を行うことにより、2001年10月から2003年3月までの長期間の漁獲状況を
まとめることができた。汽水性魚種や沿岸性海産魚は春季に宍道湖水域に侵入し、初冬に中海・境水
道・美保湾に降下する一方、汽水性年魚のワカサギ・シラウオは秋季に急速に成長し、侵入漁のいな
い冬季から春季にかけて産卵する、という魚種の移動形態を確認することができた。宍道湖では、ほ
ぼ例年のように、夏季にコノシロの大量死が起きている。湖水の貧酸素化が原因ではないかと考えら
れていたが、本調査により大量死は貧酸素でないときにも起きていること、生殖腺湿重量の変化から
判断してコノシロの大量死が産卵の終期におきており産卵を行う大型魚の斃死割合が高いことから、
産卵による体力損耗が斃死に関係すると推察された、

(2)アオコの発生診断と発生制御手法の開発に関する研究
 .▲コの発生診断手法の開発に関する研究
 アオコ発生診断手法として、水サンプル中の溶存有機物(DOM)濃度を変動させ得る紫外線(UV)照射
前処理を組み込んだ新しいタイプの藻類増殖能(AGP)試験を開発した、藻類増殖制限物質(窒素、リン、
鉄)の決定やDOMの存在が藻類増殖能に及ぼす影響を明白に評価することができた。霞ヶ浦湖水にこの
AGP試験法を適用したところ、鉄の利用性がDOMの存在によって顕著に低下することを明らかにした。
アオコが優占する湖沼における溶存有機物(DOM)特性を評価した。アオコがマット状に存在したデンチ
ー湖および力丸ダム湖では親水性酸が各々56.1%と66.8%とDOMとして圧倒的に優占していた。一方、天
然水中の主要なDOMと報告されているフミン物質は各々14.3%と11.0%と低い値を示した。デンチー湖の
溶存鉄濃度および存在形態を検討したところ、溶存鉄濃度はアオコが発生しない霞ヶ浦よりも7-10倍
も高いが、生物利用可能鉄濃度はほぼ同じ値であった。つまり、デンチー湖ではアオコを形成する藍
藻類は鉄制限状態にあるが、充分な溶存鉄の供給源が存在しているためマット状の優占状態を維持で
きると推察された。
 広範囲な地域におけるアオコ発生状況を簡便かつ安価可能性を検討するために、リモートセンシン
グ技術を利用したアオコ発生状況の連続モニタリングの可能性を検討した。過去にアオコが大発生し
た霞ヶ浦を対象としてランドサット5TMデータとグランドツルースデータ(実測データ)を用いて衛星
データの大気補正および回帰分析による水質推定モデル(懸濁物質とクロロフィルa)を構築した。

▲▲コの発生制御手法の開発に関する研究
 平成13年度から14年度にかけて、熱帯・亜熱帯地域で発生するアオコの優占種であるミクロキステ
スの増殖を選択的に阻害する物質を酵母抽出物から単離した。増殖阻害物質はNMR(核磁気共鳴)
やMS(質量分析計)を用いてこれらの増殖阻害物質の構造を解析した。また、タイの自然発生Anabaena
spiroidesからMicrocystis aeruginosaの増殖を阻害するペプチドを単離した。解析の結果、本物質
はこれまで報告されていないリポペプチドの一種であり、スピロイデシン(spiroidesin)と命名した。
有毒アオコであるMicrocystis aeruginosaを選択的に駆除するための隔離水界実験を中国科学院水生
生物研究所と共同で中国雲南省昆明市郊外の槙池(Dianchi Lake)に接した隔離水界実験施設施設(10m
x10mx1.5m(深さ)3基を用いて行った。隔離水界には槙池のアオコを含む湖水と水生植物種子な
どを含む湖の底質を10〜15cmの厚さになるように入れた。隔離水界はリジン、リジン+マロン酸処理
区およびコントロールとした。リジン処理区、リジン+マロン酸処理区では、リジン(10g/m2)また
はリジン+マロン酸(10g/m2+10g/m2)散布語3日目でアオコは完全に沈殿し、隔離水界の底が見
えるもでになった。3週間後、リジン処理区では水面にヒシが繁茂し、水中にはエビモが繁茂し始め
た。しかし、Microcystisの増殖が再び起こり始めた。一方、リジン+マロン酸処理区では、水中に
アオコ増殖抑制物質を産生するホザキノフサモが繁茂し、アオコの発生は観察されなかった。また、
pHは実験開始直後の9.2から3週問後には7.8まで低下した。この低下はアオコの炭素源である炭酸
水素イオン濃度が低下し、大型藻類の炭素源である二酸化炭素濃度が上昇していることを意味してい
る。これらの結果から、リジン+マロン酸処理は長期間にわたってアオコの発生を制御できる方法で
あると考えられた。

(3)アオコ等有毒藻類及び毒素のモニタリング手法の開発に関する研究
 .▲コ等有毒藻類のモニタリング手法の開発に関する研究
 有毒藻類のモニタリング手法の開発として、主に有毒ラン藻Microcystis属を対象に研究を進めた。
Microcystisはミクロシスチン毒素を生産するが、毒素を生産しない株も存在するため、同毒素の生合
成遺伝子を標的とした有毒株の検出・識別PCRシステムの構築を試みた。本遺伝子の部分領域を増幅
するプライマーを設計し、本邦及びタイ・中国からの分離株についてPCR実験を行った結果、有毒株
からは当該遺伝子の増幅が確認されたが、無毒株からは検出されなかった。以上の結果より、今回開
発したPCRシステムは、有毒Microcystisを検出する強力なツールとなることが示された。さらに湖沼
より採取した混在サンプルについても本法が有効であることを確認した。cpcBA遺伝子座をマーカー
とした各株の系統解析を行った結果、分離地とMicrocystisの類縁性に相関が見られない例が散見され
たことから、有毒アオコの移動が地球規模で起こっている可能性が指摘された。さらにミクロシスチ
ン生合成遺伝子配列の系統解析を行い、cpcBA遺伝子座の解析結果と比較したところ、同毒素生合成
遺伝子が異なる個体問を水平伝播することが示唆された。このことから、有毒アオコのモニタリング
に際して、毒素生合成遺伝子自体をマーカーとする解析の重要性が示唆された。分離株の毒素生合成
遺伝子を比較解析した結果から、水域環境において株間での同遺伝子の組み換えが起こっていること
を見出した。この知見は、遺伝子のシャフリングによってMicrocystisが多様な毒素を作りだすポテン
シャルを有することを意味する重要な発見である。ミクロシスチン毒素を生産する別のラン藻
Planktothrix属についてもミクロシスチン生合成遺伝子を標的にした同属特異的プライマーを設計し、
PCR検出システムを構築した。しかしながら、本属については無毒・有毒全ての株から同遺伝子が検
出された。この結果は、無毒株についても毒素生産のポテンシャルを有する可能性を示唆するもので
あり、Planktothrixのモニタリングには見かけの毒性にとらわれずに注意する必要性が指摘された。

 毒物質のモニタリング手法の開発に関する研究
 平成13年度〜14年度にかけて、ノーマルミクロシスチンを選択的にモニタリングする手法を開発し
た。ノーマルミクロシスチンを構成するMdhaおよびDhaだけがグルタチオン(GSH)と反応することか
ら、GSH−ノーマルミクロシスチン縮合物を合成し、この縮合物にトリニトロベンゼンスルフォン酸
(TNB)をさらに縮合させた。TNB−GSH−ミクロシスチンを比色法で計ることにより全ノーマルミクロ
シスチン量を算出することができることを明らかにし、この縮合物を塩酸・メタノールで加水分解す
ることによって生成するTNB−グルタミン酸ジメチルを液体クロマトグラフィー(LC)/紫外線検出器
(UV)、LC/質量分析計(MS)で測定することにより、全ノーマルミクロシスチン量を求めることが
できた。また、GSH―ノーマルミクロシスチン縮合物を合成し、この縮合物を薄層クロマトグラフィー
で展開し、ニンヒドリンで遊離アミノ基を発色させて検出することにより、分析機器のない開発途上
国や有毒アオコ発生現場で簡単にミクロシスチンを検出することができることを明らかにした。15年
度は粒子径均一ポリマーを用いて,代表的な藍藻毒(アオコ毒),ミクロシスチン類(Microcystin,
MC)に対して選択的な分子認識能を示す分離媒体の調製を試みた.調製したポリマー粒子には, MC
の特徴的な疎水部位(Adda部位)の構造類似物質あるいは構造の一部分を添加物として加えることに
より,架橋ポリマー構造のミクロポアに相当する分子空隙を制御し,MCを選択的に認識する部位を構
築した。調製したポリマー粒子を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて評価した結果,ポリ
マー粒子の調製時に用いた添加物の構造が実際のAdda部位の構造に近くなるにしたがって, MC-LR,
MC-RRなどのMC類の保持に増加の傾向が見られ,用いた添加物によってAdda部位を選択的に認識す
る部位が構築されていることが示唆された。また,メタクリル酸やビニルピリジンなどの機能性モノ
マーを用いて調製したポリマー粒子の評価では,MCの環状ペプチド部位の特定のカルボキシル基やグ
アニジル基を識別することが可能であることがわかり,約70種ともいわれるMC同族体の選択的な分離
の可能性が示された。
 さらに,Adda部位に対する分子認識能の発現と環状ペプチド部位に対する識別能を組み合わせて用
いることによって,これまで困難であるとされてきたミクロシスチンの一括分離の可能性が示唆され
た。

4.考察

 (1)水域の水質や生態系に及ぼす汚濁負荷の影響を評価するためには、外部負荷のみならず内部負
荷の変動を解析する必要がある。今回、今までほとんど試みられていなかった、流動が栄養塩の溶出
速度に及ぼす影響について実験的・解析的に調べた。リンと窒素では巻き上げが生じる大きな流速に
対して異なる特性を示した。これは、巻き上げられた粒子への吸着過程の違いによるものと考えられ
る。そのため、精度良い内部負荷の推定のためには、単なる堆積物内部の過程のみならす、大規模な
巻き上げを生じる湖沼流動の影響と、粒子への吸着過程のモデル化が必要となる。さらに、内部負荷
は水質と相互作用を持ちながら変動し、外部負荷の変動を緩衝し、負荷削減策の効果を遅らせる効果
を持つ。そのため、外部負荷の変動が生態系に及ぼす影響を見積もるためには、水質と内部負荷ある
いは堆積物の過程をいかにうまく結合してモデル化するかが課題である。
 閉鎖性水域の熱環境の変動は、様々な時聞的・空間的スケールで、水域における特定の魚種の優占
化など、生態系の変化を生じている。微妙なバランスの上に成立している生態系において、熱環境の
変動の影響は大きい。特にヤマトシジミが生息する湖沼浅水域は、水温環境が変動しやすく、生物代
謝にも影響を及ぼしやすい。さらに、熱が駆動する流動は、異なる栄養段階の生物間の食物連鎖を促
進し、物質循環を健全化して湖沼の自然浄化機構を支える効果を持つことがわかった。今後、植物プ
ランクトンの種構成や、さらには有毒化に対しても、外部からの栄養塩負荷特性ばかりでなく、熱環
境の影響を評価することが重要であると考えられる。

(2)本研究で開発した新しいタイプの藻類増殖能(AGP)試験法と競合的吸着濃縮ボルタンメトリー法
により、アオコの発生・優占に溶存鉄の濃度と存在形態が非常に重要であることが明らかとなった。
これらの手法を、アオコが発生している水域や発生していない水域に適用することで、アオコが発生
している要因、あるいは増殖制限物質を特定することが可能となった。
本研究では溶存有機物(DOM)の特性を評価するための樹脂分画手法も開発した。この手法により湖水中
のフミン物質の存在濃度が定量できる。フミン物質は鉄と錯体を形成する代表的なDOMであり、本分画
手法による情報は、対象湖沼における鉄の利用性と供給能を評価する際に重要となる。
リモートセンシング技術を利用した水質推定モデルは、グランドツルースデータ(実測データ)の充
実に比例して、広範囲におけるアオコ発生状況の把握にその有効性を発揮すると期待される。
 ヒトの必須アミノ酸であるリジンが有毒アオコの一種ミクロキステスの増殖を阻害する活性を持つ
ことは意外であった。また、ミクロキステス以外の生物に対して全く毒性を示さず、バクテリアや原
生動物の増殖を促進するという結果はアオコがバクテリアや原生動物によって素早く分解・除去され
ることを示唆しており、実用性のある物質と評価している。増殖阻害物質の探索の継続によって、さ
らに効果的な物質の発見につとめたい。
 これまで天然のアオコ増殖阻害物質を探索してきた。生態系においては微細藻類もアレロパシー
(Allelopathy)物質を放出して、アオコを含む他種生物の増殖を阻害していることが明らかとなった。
本成果から、リジンの場合と同様にアオコの増殖を生態系のシステムを用いて抑制することは可能で
あるとの確信を得た。スピロイデシンはリジンに比べて構造が複雑であり、大量
に得ることは不可能であろうが、生産者であるAnabaena spiroidesの細胞の利用を考えれば可能性は
ある。また、選択性の高いこれらの増殖抑制物質の利用は生態系の撹乱ではなく、撹乱された生態系
の復元と位置づけるべきでると考える。
 リジンとマロン酸をアオコ(Microcystis)に散布すると2〜3日以内にアオコが沈殿死滅する。ア
オコが水面から除去されたことにより、アオコに代わって珪藻類が優占種となった。沈殿したアオコ
の分解にともなって、動物プランクトンのミジンコが一時的に増殖するが、散布後3週間後にはコン
トロールと同じ程度になった。散布したリジンおよびマロン酸は散布後2主観で完全に消失した。ア
オコの毒素であるミクロシスチンは散布後28日目に散布前の1/4に減少した。
隔離水界の底質に含まれていたホザキノフサモ、エビモ、ヒシなどの大型水生植物がアオコに代わっ
て繁茂した。特に、ホザキノフサモはアオコの増殖阻害物質を産生することが知られていること、散
布後の隔離水界のpHが7.8まで低下していることなどから、アオコが再発生しにくい水質となること
が明らかになった。リジンとマロン酸の散布が小規模の水域のアオコ駆除に有効な手法となることを
本隔離水界実験で明らかとなった。

5.研究者略歴

課題代表者:彼谷邦光
    1944年生まれ、東北大学農学部卒業、農学博士、現在、環境省独立行政法人国立
    研究所・環境研究基盤技術ラボラトリー長、
    主要論文:
      1) Kaya, K. and Sano, T.(1998) A photodetoxification mechanism of the cyanobacterial
       hepatotoxin microcystin-LR by ultraviolet irradiation. Chem. Res. Toxicol., 11, 159-163
     2) Kaya, K. and Sano,T.(1999)Total microcystin determination using
       erythro-2-methyl-3-(methoxy-d3)一4-phenylbutyric acid (MMPB-d3) as the internal
       standard, Analytica Chimica Acta,386,107-112
     3) Kaya, K., Sano, T., Inoue, H., and Takagi, H.(2001)Selective determination of total
       normal microcystin by colometry, LC/UV detection and/or LC/MS, Analytica 
       Chimica Acta, 450,73-80

主要参画研究者
(1):中村由行
    1955年生まれ、東京大学工学部卒業、工学博士、現在、港湾空港技術研究所沿岸生態研究室長
    主要論文:
     1)Y. Nakamura and F. Kerciku:(2000)Effects on filter-feeding bivalves on the distribution
       of water quality and nutrient cycling in a eutrophic coastal lagoon.
       J.MarineSystems, VoL.26,209-221
     2) Y. Nakamura and H.G. Stefan: (1994) Effect of flow velocity on sediment
       oxygen demand:Theory. J. Environmental Engineering, ASCE, Vo1.120, 996-1016
     3) T. Inoue, Y. Nakamura, and Y. Adachi: (2000) Non-steady variatidns of SOD and
       phosphate release rate due to changes in the quality of the overlying water.
       Water Science and Technology VoL.42,265-272

  :中村由行
     (1),離汽屮董璽淆緝充圓貌韻

(2) Ш0羮詫
    1956生まれ、テキサス大学大学院工学研究科博士課程終了、Ph. D.
    現在、独立行政法人国立環境研究所・水土壌圏環境研究領域・湖沼環境研究室長
    主要論文:
     1) Imai, A., Fukushima, T. and Matsushige, K. (1999). Effects of iron limitation
      and aquatic humic substances on the growth of Microcystis aeruginosa.
      Can. J. Fish. Aquat. Sci. 56, 1929-1937.
     2) Imai, A., Fukushima, T., Matushige, K. and Kim, Y. H. (2001). Fractionation and
      characterization of dissolved organic matter in a sha1low eutrophic lake. Water
      Res. 35, 4019-4028.
     3) Imai, A., Matsushige, K. and Nagai, T. (2003).  Trihalomethane formation
      potential of dissolved organic matter in a shallow eutrophic lake. Water Res.
      (in press).

  ◆彼谷邦光
    課題代表者に同じ

(3) С洌翳験

    1951年生まれ、日本女子大学大学院家政学研究科修士課程修了、現在、独立行政法人国立環
   境研究所生物圏環境領域系統・多様性研究室長
   主要論文:
    1) Kasai F, Waiser MJ, Robarts RD, Arts MT: Size dependent UVR sensitivity in
      Redberry Lake phytoplankton communities. Verh. Internat. Verein. Limnol., 27,
      2018-2023, 2000
    2) Arts MT, Roharts RD, Kasai F, Waiser MJ, Tumber VP, Plante AJ, Rai }{&De Lange
      HJ:The attenuation of ultraviolet radiation in high DOC waters of wetlands and
      lakes on the northern Great Plains, Limnol. Oceanogr. 45, 292-299, 2000
    3) Kasai F: Shifts in herbicide tolerance in paddy field periphyton following
      herbicide application. Chemosphere, 38, 919-931, 1999

  ◆彼谷邦光
   題代表者に同じ