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[G―2 砂漠化指標による砂漠化の評価とモニタリングに関する総合的研究]

(1) 砂漠化の評価およびモニタリングに関する研究

独立行政法人国立環境研究所

 

 

  国際室

 

清水英幸

  環境研究基盤技術ラボラトリー 環境生物資源研究室

戸部和夫

東京大学大学院農学生命科学研究科

 

恒川篤史

(財)地球・人聞環境フォーラム

 

地崎 剛・邱 国玉・安 萍

(株)パスコ

 

洲濱智幸

パシフィックコンサルタンツ(株)環境事業本部地球環境部

 

梶井公美子・安部和子

 <研究協力者> 独立行政法人農業環境技術研究所

大黒俊哉・大倉利明

            筑波大学農林学系

 

石 敏俊

            京都大学大学院地球環境学堂

 

小崎 隆

            東京都立大学大学院理学研究科

 

篠田雅人

[平成13〜15年度合計予算額]

 平成l3〜15年度合計予算額 87,710千円
 (うち、平成15年度予算額 29,396千円)
 上記の予算額には、間接経費 20,618千円(6,784千円)を含む

[要旨]

  世界的な問題となっている砂漠化に対処するためには、科学的な砂漠化評価手法の開発が不可
欠である。本研究では、砂漠化対処条約に資する成果を提示することを目的に、様々な角度から
砂漠化評価に関する研究を推進した。
 砂漠化対処に関する国家行動計画に資するため、既存の砂漠化の評価手法の問題点・課題をふ
まえ、行政単位レベルにおける望ましい砂漠化評価システムの枠組の検討、指標の選定・体系化、
具体的な評価手法の検討を行った。評価の空間的な単位は、政策決定者が砂漠化対策に予算・人
等のリソースを投入する際の基礎的な単位となる可能性が高い行政単位とし、評価システムの枠
組は、背景情報、砂漠化の要因、現状、影響、対策等の視点を含む総合的なものとした。指標の
選定・体系化を行い、実際のデータを用いた試行を通じて具体的な評価手法等を検討し、行政単
位における砂漠化評価システムを構築・提示した。
 広域レベルの砂漠化評価手法として、衛星データや気象データを用いて、砂漠化の植生荒廃プ
ロセスを統一的な基準で評価する手法を開発した。すなわち生物生産力(NPP)を指標として、現状
のNPPを潜在的なNPPと比較し、砂漠化地域を抽出する方法(潜在―現状比較法)、および過去
からのNPPのトレンドを分析し、NPPの低下してきた地域として砂漠化地域を抽出する方法(ト
レンド法)を試みた。前者については、広域的なNPPを推定するモデルを開発し、中国およびカ
ザフスタンにおいて観測されたフィールドデータを用いて2000年・2001年のアジアにおける現
状NPP地図を作製した。また気候的な潜在NPPを推定するモデルを用いて、2000年・2001年の
気候的潜在NPP地図を作製した。現状NPPを潜在NPPと比較する手法を改良し、より正確な2000
年・2001年のアジアにおける植生荒廃地の分布を示すことができた。後者については、光合成有
効放射吸収率(FPAR)、葉面積指数(LAI)、4種類の気候データ(純放射、日最低気温、日平均気
温、飽差)および土地被覆図を用いた生産効率モデルにより、1982年から1999年までの全球陸域
NPPを推定した。1982〜1990年の9年間と1991〜1999年の9年間についてそれぞれ平均NPPを
計算し、両者を比較することによって生物生産力の減少地域を抽出した。その結果、GLASODで
報告されているのと同様、中国北東部から黄土高原にかけて、モンゴル中緯度地域、ロシアとカ
ザフスタンの国境周辺、インド北西部などでNPPの減少が認められた。さらにカザフスタン中央
部、バルハシ湖北部などGLASODで報告されていない地域でもNPPの減少が認められた。
 村落レベルの砂漠化を評価するため、土地荒廃→生物生産力の減少→人間生活への影響という、
一連の砂漠化プロセスをシミュレートする砂漠化統合モデルを開発した。サブテーマ4で収集し
た中国内蒙古自治区ジュンガル旗のゲチェンヤン村での調査データおよびサブテーマ1で収集し
た内蒙古武川県の4村落での調査データを用いて、生物生産力モデル(EPICモデル)、農家経済モ
デル(線形計画モデル)、需給評価モデルという3タイプのモデルを連動させたモデルを開発し、
各モデルの改良・試行を行った。このモデルによって、退耕還林還草政策等の実施による土地荒
廃防止の効果をシミュレーションした。ゲチェンヤン村では、この政策を実施せず、すべての傾
斜地を畑にした場合に比べ、退耕還林還草政策の導入によって土壌侵食量が大幅に減少する。し
かし同時に農家所得も緩やかに減少する。傾斜畑をすべて草地とすると、土壌侵食量は348tか
ら40tまで減少できると予測された。また、退耕還林還草政策の導入手段として補助金を付加す
る場合、畝(0.67ha)当たり160元以上の補助金を付加すると、傾斜畑の栽培中止が増え、土壌侵
食量が減り始め、同時に農家所得も減少することなく、土壌侵食を抑制できることが推測された。
一方、武川県でも同様に補助金の導入によって退耕還林還草が進むと予測されたが、その金額は
60元となりゲチャンヤン村よりも低かった。また将来、このような対策を取らない場合、土壌侵
食にともなう作物生産力の減少によって現状の人口ですら維持できなくなる可能性が示唆された。

[キーワード]

 砂漠化対処条約、指標と評価、生物生産力、モデル、モニタリング