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[B−57 海水中微量元素である鉄濃度調節による海洋二酸化炭素吸収機能の強化と海洋生態系への影響に関する研究]

(3)鉄濃度調節が炭素循環に及ぼす影響に関する研究

独立行政法人国立環境研究所

 

 

  地球温暖化研究プロジェクト炭素循環研究チーム

野尻幸宏

  同

 

荒巻能史

  同

 

藤井賢彦(科学技術特別研究員)

  同

 

今井圭理(科学技術振興事業団研究員)

東京大学大学院農学生命科学研究科

 

武田重信

[平成13〜15年度合計予算額]

 平成13〜15年度合計予算額 50,686千円
 (うち、平成15年度予算額 16,870千円)

[要旨]

 栄養塩濃度が高いにも関わらずクロロフィル量が低い海域である北太平洋高緯度海域
で、温暖化対策の一つとして提案されている海洋表層への鉄濃度調節の実効性を確認するための
海洋中規模実験を行い、温暖化対策としての有効性の評価とそれが及ぼす環境影響評価を行うの
が本研究の目的である。海水中の鉄と炭酸物質等の測定、炭素およびその他成分に関する鉛直輸
送フラックス測定を2001年7-8月に水産庁「開洋丸」を利用して行われた実験で行った。鉄濃度調
節域観測では、pCO2の大きな変化が見られ、11日目には226μatmにまで低下した。実験期間の炭
素収支を推定した結果、13日間の植物プランクトン増殖による無機炭酸固定量は1.30molm-2であ
り、固定された二酸化炭素の75%が粒子状炭素として混合層内に留まっていた。このことは、鉄
濃度調節によって有機炭素に固定された二酸化炭素が必ずしも速やかな鉛直フラックスの増加に
つながらず、表層で分解が進むとpCO2が回復し、大気からの二酸化炭素吸収につながらないこと
になる。ただし、今回の実験で大きな増殖が見られた植物プランクトンが比較的大型の珪藻類で
あったことを考えると、観測終了後に有機炭素の大きな鉛直輸送が起こった可能性が示唆された。
 2002年は東西太平洋の対照点ということができるアラスカ湾海域で、日加共同実験として中規
模鉄濃度調節実験を行った。実験は、2002年7-8月にカナダ研究機関の研究船2隻と開洋丸を利用
して実施された。海水中の化学成分測定、炭素と生元素の鉛直輸送フラックス測定を、水産庁開
洋丸で実施した。濃度調節23日後の7月31日以前は、鉄濃度調節パッチ内外の沈降粒子量の差が
ほとんどなかったのに対し、それ以降8月4日までの観測最終期で、沈降粒子量が著しく増大し
た。沈降粒子増大は有機炭素の沈降増大を伴っていた。中規模鉄濃度調節実験で、植物プランク
トンブルームの終結から生成した粒子の沈降までの一連の現象を確認したはじめての実験であっ
た。しかしながら、固定された炭素の水柱での分解も有意に大きな量であった。

[キーワード]

 二酸化炭素、対策評価、海洋鉄濃度調節、炭素循環、植物プランクトン