課題名

A-5 紫外線増加が生物に与える影響の評価

課題代表者名

田口 哲(水産総合研究センター北海道区水産研究所亜寒帯海洋環境部)

研究期間

平成11−13年度

合計予算額

62,934 千円(うち13年度 16,304千円)

研究体制

(1)紫外線増加が陸上植物に及ぼす影響の生化学的研究

 〇膤粟増加が森林生態系に及ぼす影響の解明に関する研究

(森林総合研究所、茨城大学、千葉大学、信州大学、神戸女子学院)

 ∋膤粟増加が野菜類の生育・収量及び品質に及ぼす影響の評価に関する研究

(農業技術研究機構近畿中国四国農業研究センター、(研究協力機関)島根大学)

(2)増加による海洋生物における紫外線吸収物質と遺伝子損傷の評価方法に関する研究

 〇膤粟増加が海洋生態系の紫外線吸収物質に及ぼす影響の評価に関する研究

(水産総合研究センター北海道区水産研究所、広島大学)

 ∋膤粟増加が植物プランクトンの遺伝子損傷に与える影響の評価に関する研究

(水産総合研究センター北海道区水産研究所、創価大学)

(3)紫外線による遺伝子損傷蓄積量の評価方法に関する研究

(国立環境研究所、北海道東海大学)

研究概要

1.序(研究背景等)

オゾン層の破壊は、対流圏における有機ハロゲン化合物の濃度の減少が1995年頃から確認され、成層圏での濃度も現在最大値に達したものの、緩やかな減少に転じ始めと考えられるが、今後少なくとも20年間は継続すると予想される。その結果、南極上空のオゾンホールの面積、出現期間、オゾン破壊量等は、拡大を続けている。さらに、1990年代には、北極上空にもオゾンホールが形成されたことが確認された。オゾンホールが拡大すると地球上に到達する紫外線、特に280-320 nmUV-Bの増加が促進される。このように増加しているUV-Bの影響は人類を含む地球上の生物全てに対して危惧されている。このUV-Bの生物に対するもっとも明らかな影響は、となりあったピリミジンの二量体を形成するDNA損傷である。さらに植物では、光合成系IIの中核や光合成酵素活性や光合成色素合成不活性化を引き起こす。しかし、その一方、通常の状態では、それらの遺伝子損傷は速やかに光回復酵素によって修復される。また、動物では、初期胚形成や幼体期に異常を引き起こす。このように、UV-Bの生物に対する影響は様々である。

1998年のIゾン層破壊の科学アセスメント謔驍A成層圏を取り巻く状況は、オゾン層破壊が顕著化していなかった1980年以前と比較して、大きく変化している。そのため、たとえ成層圏ハロゲン濃度が1980年の濃度まで減少してもオゾン層は1980年以前の状況に戻らない可能性が指摘されている。このように、一度破壊が始まってしまったオゾン層の破壊の修復は、ままならない状況下にある。しかし、地球上の生物への影響は確実に進行している。現在進行しているこの影響を科学的に正確に、評価しなくてはならない。

当研究では、紫外線増加に対する抵抗性と遺伝子損傷蓄積量を用いて、陸上及び海洋生物に対するUV-Bの影響のより普遍的な評価方法の確立を図るために、基礎的な研究を行う。この普遍的な評価方法が確立されると、今後の紫外線増加による生物に対する影響の予測に大いに貢献できる。

 

2.研究目的

特に紫外線に対して感受性の高い植物生態系と海洋生態系を研究対象とし、それらの紫外線による損傷と修復機構が陸上植物と海洋生物との間で異なることを明らかにするとともに、紫外線に対する防御機構と遺伝子損傷蓄積機構を解明するための方法を確立し、陸上及び海洋生物に対するUV-Bの影響のより普遍的な評価方法の確立を図ることを目的とする。以下の5つのサブテーマからなる研究を行うものである。

(1)紫外線増加が陸上植物に及ぼす影響の生化学的研究

外線増加が森林生態系に及ぼす影響の解明に関する研究

オゾン層破壊のシナリオに伴う妥当な紫外線増加量が森林の樹木や生態系に与えられた場合の影響を見積るため、3年間樹木へUV-B照射実験を行い、標高の高い山岳地で行う気象観測から得られる紫外線環境と合せて考案することを目的とする。そのため樹木幼苗の生育量に対するUV-B照度の影響を明らかにする。また、現在の太陽紫外線放射量では樹木の生育を促進する可能性があるので、亜高山の森林のUV-B遮断実験を行い、その可能性の検討を行うことを目的とする。さらに紫外線による樹木影響に関するハザードマップの精度向上のため、高度別の紫外線強度及び分光特性を測定を行うことを目的とする。また、樹木に対するUV-B照度の影響を定量的に評価するためにDNA損傷の割合を正確に定量的に測定する方法を確立することを目的とする。

∋膤粟増加が野菜類の生育・収量及び品質に及ぼす影響の評価に関する研究

 UV-B放射量の増加の影響はUV-B放射量以外の環境要因によって変化する。屋外では季節や年により栽培機関の微気候が異なることにより、UV-B放射量の増加の作物への影響は一様でない。そのため作物のUV-B放射量の増加に対する感受性の評価は数年にわたる圃場実験によるのが望ましい。そこで、カリフラワーやホウレン草等を供試し、圃場での繰り返し実験により、収量への影響を評価することを目的とする。また、UV-B放射量の増加に対する感受性における品種間差の評価方法を確立するため、UV-B放射量の増加が乾物増加量や葉内の紫外線吸収物質や抗酸化能に及ぼす影響を評価する方法の検討することを目的とした。

(2)紫外線増加による海洋生物における紫外線吸収物質と遺伝子損傷の評価方法に関する研究

〇膤粟増加が海洋生態系の紫外線吸収物質に及ぼす影響の評価に関する研究

 オゾン層の破壊に伴うUV-B放射量の増加は海洋生態系を構成する生物の生き残りに影響を与えるばかりでなく、海洋の生物生産構造を攪乱し、最終的には漁獲量にも重大な影響を与えることが危惧されている。海洋生態系を構成する動物プランクトン、底性生物および魚類の卵の孵化率、発生段階ごとの生残率に対するUV-B放射量の影響を明らかにすることを目的とする。またそれらと紫外線吸収物質量との関係を明らかにし、さらにDNA損傷量との関係を明らかにして、UV-B放射量増加の及ぼす影響の評価方法の確立を図ることを目的とする。

紫外線増加が植物プランクトンの遺伝子損傷に与える影響の評価に関する研究

UV-B放射量の増加の植物プランクトンに対する影響には、DNA上の隣り合ったピリミジンの間にシクロブタンピリミジン二量体を形成する結果起こる光合成・成長阻害がある。そのため、植物プランクトン細胞からのDNA抽出方法の確立を図ることを目的とする。さらに、植物プランクトンはUV-B照射によりDNA損傷を受けるだけではなく、細胞内に紫外線吸収物質を生産することにより、自らをUV-B照射の影響を防御する機能を有している。植物プランクトンの紫外線吸収物質はマイコスポリン様アミノ酸である。そのため、マイコスポリン様アミノ酸をよく生産する種の探索を行い、UV-B照射実験を行い、同定・定量する方法を確立することを目的とする。さらに、マイコスポリン様アミノ酸の生産と紫外線放射量と波長組成との関係を明らかにすることを目的とする

(3)紫外線による遺伝子損傷蓄積量の評価方法に関する研究

近年オゾン層破壊によって増加した紫外線がどのような影響を植物に与えるかについて生理・生化学的に研究されている。その結果、紫外線は直接遺伝子に損傷を与えることが明らかにされてきた。また、紫外線によって活性酸素分子種が生成し、動物においては活性酸素によってDNAが損傷を受け8-Hydroxy-2'-deoxyguanosine8-OHdG)が生成する事が示されているが、植物に紫外線を照射したときに 8-OHdG が生成するかどうかについてはほとんど研究されていない。一方、太陽光の紫外線を浴び続けた植物は、紫外線照射量が閾値を超えると遺伝子損傷を修復しきれず、突然変異として後代に伝わると予想されるが、オゾン層破壊によりどの程度突然変異が起こり、そのうちどの程度が次世代に伝わるのかも未知である。これを調べるためには、植物の紫外線による突然変異の蓄積量および次世代への伝達量を定量的に調べる方法を開発する必要がある。本研究は植物の遺伝子損傷修復機構及び紫外線量と突然変異の定量的関係を明らかにする目的で、遺伝子損傷が突然変異として子孫にどの程度伝わるのかをモニターするための植物を作製することを目的とする。また、紫外線照射した植物で 8-OHdG が蓄積するかどうかを調べる。

 

3.研究の内容・成果

(1)紫外線増加が陸上植物に及ぼす影響の生化学的研究

〇膤粟増加が森林生態系に及ぼす影響の解明に関する研究

人工気象室内に設置した紫外線照射装置を用いて、適度のUV-B放射量を付加すると樹木苗の成長の増加が、多数の樹種で確認された。このことから、紫外線増加による将来の予想強度が樹木に対する阻害要因になる程度まで増加するか否かによって、紫外線影響が自然条件下で発現するかどうかを見極める必要がある。乗鞍岳を中心に行った高山帯での紫外線観測によって得られた夏季の全天UV-B放射量の日積算値は、著しく増加していることが定量的に確認できた。当研究のこれまでの照射実験の結果から、UV-B照射量に対する樹木の生育量はある適値を示す逆のUの字の形をしていることが明らかとなった。このことは、UV-B照射量が低地より高い高山でさえ、平均的な夏季の日のUV-B日積算値は樹木の生育に対して促進的に作用することを意味する。一方、夏の晴天に恵まれた日のような瞬間的に強いUV-Bに樹木が照射されると生育は阻害的に作用することになる。この減少は、自然光型人工気象内で行われた紫外線の照射実験の結果と同様の結果であることが確認された。すなわち、相対的に日積算日射量に占めるUV-B日積算照射量の割合が増加すると樹木苗に相対成長量は著しく減少する傾向を示した。またUV-B日積算照射量の割合が少なくなると若干の成長阻害を示す傾向にあった。標高800 mの自然条件で実際に生育しているヒノキの実生苗を使ってUV-B放射量遮断実験を行った結果、この3年間の研究期間では年間の生育量を測定して現存量の推移を見積もるまでにいたっていないが、目視では紫外線遮断下の生育実験では成長阻害が認められた。紫外線による樹木に対する影響のハザードマップの精度向上のため行った高度別の紫外線強度及び分光特性の測定結果から、高度による紫外線放射量の減衰を連続分光で確認できたので、日積算日射量に対するUV-B日積算照射量の割合を考慮する必要性が明らかとなった。さらに樹木の組織から抽出されるDNAUV-B損傷の度合いは、DNAの収量とは別に組織麻砕の度合いによって著しく異なることが明らかとなった。このことは樹種や組織の種類によっても異なる。従って、DNA損傷を正しく評価するためには、材料ごとにそれを代表する損傷値が得られるよう抽出法を決める必要があることが明らかとなった

∋膤粟増加が野菜類の生育・収量及び品質に及ぼす影響の評価に関する研究

屋外では季節や年次により栽培機関の微気象が異なることにより、UV-B照射量の増加のみかけの影響が一様でないため、UV-B放射量の増加が作物の収量に及ぼす影響の評価は数年にわたる圃場実験によるのが望ましいとの指摘があったが、当研究で3年間の実験を行った結果、カリフラワーとホウレン草の収量に対してはUV-B照射量の増加は影響を与えなかったことが明らかとなった。また、UV-B照射量は増加に対する感受性における品種間差を明らかにする評価方法を確立するために、カリフウラワー、ブロッコリー及びホウレン草を用いて乾物増加量や、紫外線吸収物質含量や抗酸化能を測定した。その結果、カリフラワーでは収穫部位である花蕾の色の異なる品種の違いによりUV-B照射量が増加すると乾物増加量の減少の割合や有意な減少が生じる頻度が高くなることを明らかにした。また、紫外線吸収物質含量に対する影響については、白色花蕾の品種と比較すると有色花蕾の品種において、UV-B照射量が増加すると増加の割合が大きかったことが明らかとなった。紫外線吸収物質含量は植物の表皮細胞で顕著であり、葉内細胞ではほとんど生じないことを考慮して今後さらに検討すると、UV-B照射量による紫外線吸収物質含量増加の品種間差をより明確にできる可能性がある。また、過剰なUV-B照射量の葉内細胞への透過は、一度は抗酸化物質生産を促進させたが、ある程度を越えると葉内細胞に深刻な損傷を与え、抗酸化物質生産を抑制したと考えられ、各品種で見られた照射実験の結果の違いは反応間値の違いによると考えられた。以上のことから、乾物増加量、紫外線吸収物質及び抗酸化能は、UV-B放射量の増加が作物に与える影響を評価するのには適していることが明らかとなった。

(1)増加による海洋生物における紫外線吸収物質と遺伝子損傷の評価方法に関する研究

〇膤粟増加が海洋生態系の紫外線吸収物質に及ぼす影響の評価に関する研究

海洋生態系の中で従属栄養者として重要な動物プランクトン、底性生物及び魚類を用いて、それらの卵の孵化率と幼生の生残率に対するUV-B照射量増加の影響は増大することを明らかにした。しかし、そのなかで海洋の極表層に棲息するニューストン性の動物プランクトンのカイアシ類は、水柱を日周鉛直移動する種類と比較すると、非常に高いUV-B照射量下でも卵の孵化は可能であることを明らかにした。それらの成体には紫外線吸収物質であるマイコスポリン様アミノ酸と活性酸素を沈静化させる作用を有するカロチノイド色素が高濃度で含まれていることを明らかにした。そのマイコスポリン様アミノ酸には、パリシン、シノリン、ポルファイラ-334、マイコスポリン・グリシンの4種類が検出された。UV-B放射量の増加に対する適応戦略として、ニューストン性カイアシ類は、これらの物質をこれらの物質を生産する植物プランクトンを摂飼することにより、自らの体内に蓄積するようになったものと考えられる。他の動物プランクトンやイトマキヒトデのような底性生物、及びヒラメやマダイのような魚類の卵の発生、孵化、形態形成に及ぼすUV-B照射量の増加の影響は増大し、また孵化が行われた場合でも、その形態は奇形を呈する割合が高いことが明らかとなった。仔魚に及ぼすUV-B照射量の増加の影響は生残率のみならず、DNA損傷量でも定量化することが出来ることが明らかとなった。

∋膤粟増加が植物プランクトンの遺伝子損傷に与える影響の評価に関する研究

海洋生態系の中で独立栄養者である植物プランクトンに対する紫外線増加の影響を評価するために、DNA損傷と紫外線吸収物質の誘発を用いる方法を確立するためにDNA抽出に容易な種と、紫外線吸収物質含量の多い種の探索を行い、バプト藻のPleurochrysis carteraeと渦鞭毛藻のScrippsiella sweeneyaeを用いて実験を行った。前者を用いて、細胞DNA含量と細胞周期との関係を明らかにする12時間明暗周期の実験を行った。UV-B照射を遮断した光合成有効光子量(PAR)だけの照射下では、細胞密度は変化しないが、細胞体積と細胞内DNA含量は増加した明期後半は、細胞周期のS期あるいはG2期に相当し、UV-B照射によるチミンダイマーの形成は細胞周期のG1期に生じていることが示唆された。このことから、細胞密度、細胞体積及び細胞DNA含量の変化を測定することにより、UV-B放射量の増加の影響を評価できることが明かとなった。人工紫外線照射実験を後者の種を使って行ったが、細胞の成長速度はほぼ同じであるようなUV-A照射量とPARに対するUV-B照射量の比で表す紫外線相対強度と紫外線組成の人工紫外線照射量で行った。紫外線吸収物質のマイコスポリン様アミノ酸の含量の多い後者の種から、シノリン、パリシン、ポルファイラ-334のマイコスポリン様アミノ酸が同定・定量することができた。また310 nm360 nmに吸収極大を持つマイコスポリン様アミノ酸が検出されたが、それぞれM-310M-360と命名した。シノリンとパリシンとポルファイラ-334の細胞内合計含量は、紫外線波長組成に関係なく、紫外線相対強度の増加とともに増加した。しかし、それぞれの相対出現頻度は、紫外線相対強度によって異なった。この5種類のなかでM-360の誘発量が紫外線相対強度の増加に対して最も高くなる応答を示し、ポルファイラ-334の誘発量が最も小さくなる応答を示した。

(3) 紫外線による遺伝子損傷蓄積量の評価方法に関する研究

オゾン層破壊による太陽光紫外線の増加が植物の遺伝子に与える影響を評価するためのマーカー遺伝子の探索を行い、大腸菌の Cytosine deaminase (codA) 遺伝子が有効であることを確認した。この遺伝子を植物体内で恒常的に発現する Califlower mosaic virus 35S プロモータの下流に配置し、アグロバクテリウムを介してシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana L. cv. Columbia)に導入し、5-Fluorocytocine (5-FC) 感受性の形質転換体を得た。形質転換体 400 個体に 2 ヶ月 UV-B 照射したものと、照射しなかった個体から、採取した種子を採取し、5-FC 抵抗性の個体数を調べたところ、非照射区の種子から10,000個体あたり1.7 個体、0.2 W/m2照射区から10,000個体あたり2個体の 5-FC 抵抗性系統が選抜された。現在これらの個体のcodA に変異が入っているか検討中である。

キュウリ子葉に紫外線 UV-C254 nm)および UV-B (280320 nm)を時間別(024時間)、強度別に照射し、照射した植物体からDNAを抽出し、酵素的に分解後、電気化学検出器を接続した高速液体クロマトグラフ装置で8-OHdGの定量を行った。同時に活性酸素種の一種である過酸化水素の蓄積量も調べた。その結果、UV-B 及びUV-C のどちらを照射しても、キュウリ子葉に過酸化水素と 8-OHdG の蓄積が見られた。また、これらの蓄積は照射量に依存していた。

 

4.考察

(1) UV-B照射量増加に対する樹木苗の相対成長率は、ある適値を示す逆のU字型の反応を示すことが新しく明らかになり、価値がある。このことはUV-B照射量が低地より高い高山でさえ、平均的な夏季の日のUV-B日積算値は、樹木の生育に対して促進的に作用し、夏の晴天に恵まれた日には瞬間的に強いUV-B日積算値に照射されると生育に阻害的に作用することを示唆する。このことは、標高800 mの太陽紫外線下で生育しているヒノキを使って行ったUV-B遮断実験で生長阻害が見られたことによっても検証された。また、この減少は、3年間行ってきた自然光型人工気象内で行われた紫外線照射実験の結果とも一致する。今までのハザードマップの作成には、紫外線放射量だけが使われていたが、日射量に対するUV-B放射量の割合を考慮する必要があることが示された。またDNA損傷を正しく評価するためには材料ごとにそれを代表する損傷値が得られるよう抽出方法を確立する必要があることが示された。

(1)◆.リフラワーやホウレン草の収量には、UV-B照射量の増加は影響を与えないことが3年間の実験で確認された。しかし、UV-B照射量が増加すると、乾物増加量の減少、紫外線吸収物質含量の増加、また抗酸化物質の生産を増加させたり、抑制したりすることが明かとなり、これらの方法を用いるとUV-B放射量の増加による品種間の影響の違いをより正確に評価できる可能性が示唆されたことは価値がある。

(2) ヽね瞭以プランクトンや魚類の卵稚仔はUV-B照射に対して一般に臆弱であるが、海洋極表層に棲息するニューストン性のカイアシ類の孵化は高いUV-B照射量でも、ほとんど阻害されなかった。それらの成体は日周鉛直移動を行うカイアシ類よりはるかに高い紫外線吸収物質であるマイコスポリン様アミノ酸と活性酸素沈静作用のあるカロチノイド色素を含有していた。すなわち、ニューストン性カイアシ類は紫外線吸収物質を食物連鎖を介して摂取し、体内に蓄積して、紫外線に対する適応戦略として利用しているものと考えられる。ヒラメの卵の孵化率とDNA損傷量との関係を新しく明らかにすることができたことは、大変価値がある。当実験からヒラメの卵は現在の太陽紫外線放射量でも、発生の阻害を受ける可能性が高いことが示され、特に、浮遊性魚卵を産出する多くの魚種にとって、今後の紫外線の増大は資源変動を考える上でも重要な要因となることが示唆された。

(2)◆ヽね凌∧プランクトンである渦鞭毛藻の紫外線吸収物質であるマイコスポリン様アミノ酸含量は紫外線波長組成に関係なく、紫外線相対強度の増加とともに増加させて、さらに、紫外線相対強度が変化する環境下では、それぞれのマイコスポリン様アミノ酸組成を変化させ紫外線から自らの細胞を防御していることが示唆された。海産植物プランクトンであるハプト藻の細胞DNA含量は細胞周期に依存しており、特にUV-B照射によるチミンダイマーの形成は、細胞周期のG1期に相当することが新しく明らかとなった。このことから、細胞密度、細胞容積及び細胞DNA含量を測定することにより、UV-B照射量の増加の影響を評価できることが示唆された。

(3) 本研究は紫外線による遺伝子の突然変異を検出するための植物を育種する目的で、大腸菌の codA をマーカーとしてシロイヌナズナに導入した。その結果、5-FC を含む培地での生育状態から、マーカー遺伝子のcodAに変異が入ったと思われる個体を選抜でるようになった。しかし、変異の頻度が低いために、統計的な解析ができるだけの変異体を選抜できなかった。そのためには、葉の生育ではなく、根の生育などを指標とする、より簡便な選抜法を検討する必要がある。

 また、新しい DNA 損傷物質である 8-OHdG UV-B 照射によって植物体内に生成することを示した。同時に細胞内の過酸化水素濃度が照射量依存的に上昇したことから、植物は UV-B 照射を受けると細胞内で過酸化水素が生成し、その作用で DNA が酸化されて8-OHdGが生成するものと考えられる。

 

極表層に棲息するニューストン性のカイアシ類の孵化は高いUV-B照射量でも、ほとんど阻害されなかった。それらの成体は日周鉛直移動を行うカイアシ類よりはるかに高い紫外線吸収物質であるマイコスポリン様アミノ酸と活性酸素沈静作用のあるカロチノイド色素を含有していた。すなわち、ニューストン性カイアシ類は紫外線吸収物質を食物連鎖を介して摂取し、体内に蓄積して、紫外線に対する適応戦略として利用しているものと考えられる。ヒラメの卵の孵化率とDNA損傷量との関係を新しく明らかにすることができたことは、大変価値がある。当実験からヒラメの卵は現在の太陽紫外線放射量でも、発生の阻害を受ける可能性が高いことが示され、特に、浮遊性魚卵を産出する多くの魚種にとって、今後の紫外線の増大は資源変動を考える上でも重要な要因となることが示唆された。

(2)◆ヽね凌∧プランクトンである渦鞭毛藻の紫外線吸収物質であるマイコスポリン様アミノ酸含量は紫外線波長組成に関係なく、紫外線相対強度の増加とともに増加させて、さらに、紫外線相対強度が変化する環境下では、それぞれのマイコスポリン様アミノ酸組成を変化させ紫外線から自らの細胞を防御していることが示唆された。海産植物プランクトンであるハプト藻の細胞DNA含量は細胞周期に依存しており、特にUV-B照射によるチミンダイマーの形成は、細胞周期のG1期に相当することが新しく明らかとなった。このことから、細胞密度、細胞容積及び細胞DNA含量を測定することにより、UV-B照射量の増加の影響を評価できることが示唆された。

(3) 本研究は紫外線による遺伝子の突然変異を検出するための植物を育種する目的で、大腸菌の codA をマーカーとしてシロイヌナズナに導入した。その結果、5-FC を含む培地での生育状態から、マーカー遺伝子のcodAに変異が入ったと思われる個体を選抜でるようになった。しかし、変異の頻度が低いために、統計的な解析ができるだけの変異体を選抜できなかった。そのためには、葉の生育ではなく、根の生育などを指標とする、より簡便な選抜法を検討する必要がある。

 また、新しい DNA 損傷物質である 8-OHdG UV-B 照射によって植物体内に生成することを示した。同時に細胞内の過酸化水素濃度が照射量依存的に上昇したことから、植物は UV-B 照射を受けると細胞内で過酸化水素が生成し、その作用で DNA が酸化されて8-OHdGが生成するものと考えられる。

 

5.研究者略歴

課題代表者:田口 哲

1944年生まれ、北海道大学大学院水産学研究科修了。カナダ国立ベッドフォード海洋研究所特別研究員、テキサスA&M大学海洋学科助手、ハワイ大学海洋学科助教授、北海道区水産研究所海洋部生物環境研究室長、現在、創価大学工学部教授、北海道区水産研究所非常勤研究員、ハワイ大学海洋生物研究所客員教授

 

主要論文:

 Sugawara, T., K. Hamasaki, T. Kikuchi, T. Toda, and S. Taguchi: Response of natural phytoplankton assemblages to solar ultra- violet radiation (UVB) in the coastal water, Japan. Hydrobiologia (in press)

 Taira, H., K. Yabe and S. Taguchi 2001. Absorption characteristics of ultraviolet radiation absorbing compounds of marine dinoflagellate Scrippsiella sweeneyae. Photomedicine and Photobiology 23: 47-51.

 Ichikawa, T. and S. Taguchi 2001. Influence of UVB radiation on growth, carbon/chlorophyll a ratio, and chlorophyll a specific absorption coefficient of marine diatom Thalassiosira weisflogii. Verhandlungen of International Association of Theoretical and Applied Limnology 27: 3343-3348.

 

サブテーマ代表者

(1) А_野 通明

1962年生まれ、千葉大学大学院自然科学研究科修了・学術博士、現在農林水産省森林総合研究所森林災害研究室主任研究官

主要論文:

 _野通明:森林植生をめぐる紫外線環境について(IGEシリーズ:紫外線と植物)79-94(1999)

 岡野通明:紫外線が増加すると……、森林の環境100不思議、()日本林業技術協会編、p58-59(1999)

 青島史子、岡野通明、今久、吉武孝:標高の異なる2点でのB領域紫外線量の観測、日林論、p1057-1058(1999)

(1)◆А(涜次〃

1960年生まれ、東京農工大学農学部卒業、中国農業試験場地球基盤研究部気象資源研究室

主要論文:

 ‥鎮翆卩掘∧涜次〃髻長嶺孝行、石川孝博、澤 嘉弘、柴田 均(2002):高等植物におけるUV-B照射量の増加にともなう遮蔽化合物の蓄積、日本植物生理学会2002年度年会及び第42回シンポジウム講演要旨集pp.202.

 ∧涜次〃(2001)UV-B増加が、ホウレン草およびカリフラワーの葉身抽出液の吸光度及び抗酸化能に及ぼす影響、日本作物学会記事第70号別2 pp.177178.

 J涜次〃(2000)UV-B増加による葉内紫外線吸収物質含量増加におけるホウレンソウとブロッコリ等との違い、日本作物学会中国支部研究収録 41910.

(2) А‐紂/唇

1950年生まれ、東北大学大学院農業研究科博士課程中退、広島大学生物生産学部教授

主要論文:

 Lacuna, D. G. and S. Uye (2001): Effect of mid-ultraviolet (UVB) radiation on the physiology of the planktonic copepod Acartia omorii and the potential role of photoreactivation. J. Plankton Res., 23: 143-155.

 Lacuna, D. G. and S. Uye (2000): Effect of UVB radiation on the survival, feeding, and egg production of the brackish-water copepod, Sinocalanus tenellus, with notes on photoreactivation.  Hydrobiologia, 434: 73-79.

(2)◆田口 哲(同上)

(3): 中嶋 信美

1963年生まれ、名古屋大学大学院農業研究科修了、国立環境研究所地域環境研究グループ新生生物評価研究チーム主任研究員

主要論文:

 Takahashi, T., Nakajima, N., Saji, H. and Kondo, N. (2002): Diurnal Change of cucumber CPD photolyase gene (CsPHR) expression and its physiological roles in growth under UV-B irradiation. Plant Cell Physiol.43: 342-349.

 Matsuyama, T., M. Tamaoki, N. Nakajima, N. Aono, A. Kubo, S. Moriya, T. Ichihara, O. Suzuki and Saji, H. (2002): cDNA microarray assessment for ozone-stressed Arabidopsis thaliana. Environ. Pollut. 117:191-194.   

 Nakajima, N., Takahashi, S., Tamaoki, M., Kubo, A., Aono, M. and Saji, H. (2001): Effects of UV-B radiation on seedlings of two Solidago virgaurea populations from the Mt. Hakusan area of Japan. J. Jpn, Soc. Atmos. Environ. 36: 301-307.