中央環境審議会においては、COP3後直ちに国内の地球温暖化防止対策の検討に入る予定である。その際の検討事項については、次のようなことが考えられる。
1 温室効果ガス排出削減の基本的考え方
条約・議定書によって国として対外的に約束した温室効果ガスの削減目標の的確・円滑な実施の確保はもとより、長期的・継続的な温室効果ガスの排出削減等のため、これまでの対策をも踏まえ、以下の基本的考え方に則った地球温暖化防止のための法制度が必要ではないか。
イ また、それぞれの主体が、負担する温室効果ガスの排出削減義務を公平なものであると認識しなければ対策は進まない。特に、国民に取り組みを求める場合には、産業等の他のセクターが適正な負担をしていることの理解が不可欠ではないか。
イ このためには、機器等の排出原単位を改善する技術等に着目する手法のみならず、2010年、2020年、2030年といった21世紀の社会経済の姿、その時点での各主体の位置づけ等を描き、長期的・継続的な排出削減を実現していくための手法の内容、実施スケジュール等を示す法制度が必要ではないか。
(都道府県計画等)
イ 地球温暖化防止計画の実効性を確保するため、特に、政策や事業の主体として国と並んで大きな役割を果たしている地方公共団体の役割を地球温暖化防止のために活用するべく、また、地域住民の取組の枠組みを提供するべく、国の法制度において、
(地球温暖化防止計画等の策定手続き・点検)
ウ 計画の策定に当たっては、本審議会又は都道府県環境審議会等が大枠を提示し、これに対し、国民又は住民、事業者、民間団体、地方自治体等から、長期的な社会経済のビジョンや自らの数量目標・取組等に関し、幅広く提案を受け、本審議会又は都道府県環境審議会等が計画案をまとめて公表し、参加型の透明性の高い方法を採る必要があるのではないか。
エ 計画の策定等は、「Plan,Do,Check,Action」の考え方に基づくこととし、計画に盛り込まれた各施策については、実施状況等を一元的に点検する仕組みが必要ではないか。
(国・地方公共団体の自主的取組)
イ 国及び地方公共団体は、率先して、事業者・消費者としての自らの活動に関して地球温暖化防止のための計画を策定し、実行することが適切ではないか。
(事業者の自主的取組の法的仕組み)
ウ 事業者が自ら温室効果ガスの排出量の目標等を設定して取組を行う「自主的取組」は重要な手法になるが、自主的取組を法律上の措置として位置づけ、事業者自らが監査するとともに、その内容を認定された専門家たる第三者が審査したり、内容を社会一般に情報開示するといった透明性を確保する法的仕組みが必要ではないか。
エ また、温室効果ガスを直接・間接に排出する機器等についても、製造又は輸入する者が、自ら当該機器等の製造・使用・リサイクル等に伴う温室効果ガス排出量を把握・評価し、その内容を認定された専門家たる第三者が審査したり、内容を情報開示してユーザーの商品選択に資するといった法的仕組みが必要ではないか。
(国民の自主的取組の環境整備)
オ 国民が温室効果ガスの排出削減に自主的・積極的に取り組むことができるよう、例えば、環境情報拠点の設置、伝達する環境情報の整備、それを扱う人材の育成等の制度上の環境整備をすべきではないか。その際、地域の環境保全と関連づけて整備することが有効ではないか。また、特に、こども、青年等の未来世代の参加手法が必要ではないか。
カ 行動様式の変革のため、営業時間、販売方法等に関して事業者の自主的取組、地方公共団体の長と事業者との間の「自主協定」、法律又は条例による措置等によって個々人の消費生活習慣などの変更をもたらす基盤整備を行うこととし、その際、消費者等の関係者の意見・提案等を十分反映することができる手続きが必要ではないか。
(温室効果ガス排出削減のための装置等の段階的な普及措置)
キ 太陽光発電装置、太陽熱温水器、コジェネレーション、断熱(断熱材、ペアガラス等)等の業務施設、住宅等への普及促進及び業務施設等における、冷暖房・給湯用等のエネルギーの石油・石炭から天然ガスへの転換の促進については、第1段階として、その導入指針を政府が策定し、これに基づき知事等が規模等の一定の要件を満たす施設を設置する者に対して法律に基づく指導・助言・勧告を行うことにより導入普及を図るとともに、第2段階として、必要に応じて、規模等の一定の要件を満たす新規の施設等への設置を義務化するといった方法を採用すべきではないか。
ク 分散型電源(コジェネレーション等)の普及など温室効果ガス排出削減の取組が既存の規制によって妨げられている場合には、その規制を改める必要があるのではないか。
(電力供給における温室効果ガス排出削減)
ケ 電力供給面について、温暖化防止の観点からは、太陽光、風力、原子力などの温室効果ガスの発生量の少ない電源、化石燃料の中でも二酸化炭素の排出の少ない天然ガス等への転換による電力供給について、国民の合意を得つつ、検討すべきではないか。
(環境規制の段階的な導入)
コ 自動車、電気製品、工場の汎用機器等からの直接・間接の温室効果ガスの排出は、全体の排出量のかなりの部分を占める。自動車の排ガス・騒音の単体規制の経験に学び、機器等の種類、型式ごとに政府が長期的な基準・スケジュールを設定し、規制を段階的に行うことが有効ではないか。
サ 工場・事業場からの温室効果ガスの排出の削減は、第1段階は、上述(4)ウの法律に基づく「自主的取組」により取組を進めるとともに、第2段階として、必要に応じて、温室効果ガスの排出に関する規制措置を導入するという段階的な方法を採用すべきではないか。その際、あらかじめ、政府が長期的な基準や、規制導入時期等のスケジュールを制度上設定しておくと、工場・事業場の対応もしやすくなり、有効ではないか。
(経済的措置の導入)
シ 長期的にライフスタイル等を変革し、また、市場競争を促進することによって温室効果ガスの排出削減を図るため、経済的な負担の段階的な導入及びその導入の方針やスケジュールも制度上明らかにしておくと効果的ではないか。その際、温室効果ガス排出量に着目して負担することとし、既存の関係税制との調整も検討すべきではないか。また、得られた財源については、これを用いて各種施策の取組等に対して経済的な助成を行うことも有効ではないか。
なお、炭素税については、低い税率でも地球温暖化防止対策の補助金として効率的に使用することにより効果がある、炭素に課税することによるアナウンスメント効果も大きな効力を発揮する等の意見がある一方、短期的な二酸化炭素の削減効果が小さい、効果を得ようとすれば経済への影響が大きい、あるいは、一定量以上の二酸化炭素の排出者に対する高額の課徴金の方が効果がある等の意見があり、炭素税に関する国民の理解を促進するため、各界を交えた幅広い視野からの意見交換を行い、議論を深めていく必要があるのではないか。
(事業等の実施)
ス 温室効果ガス排出の少ない都市・地域構造、交通体系等の形成のための各種事業・システムの導入・普及については、計画的手法のみならず、これらの事業を効果的に推進することができる支援措置が必要ではないか。
(政策策定・実施に際しての配慮)
セ 国の施策の策定、実施に際して、温室効果ガスの排出に影響があるものについては、温室効果ガスの排出削減に配慮することを規定する必要があるのではないか。
(既存の法律の改正)
ソ 既存の法律に基づく法的措置が温室効果ガス排出削減に有効に機能する場合には、法目的等に「温室効果ガス排出削減」を加え、所要の地球温暖化防止のための措置を整備すること等の当該法律の改正規定を、この法律で一括して行う方法も有効ではないか。
(地域における取組)
タ 温室効果ガス排出削減の実効性を高めるためには、地域における取組が極めて重要であり、法制度上、地方公共団体の役割を積極的に位置づけるとともに、国としても支援措置を講じる必要があるのではないか。
(手続きの透明性)
チ 法律に基づいて事業者等が行うべき排出削減の指針、基準等を設ける場合には、対象、内容等について広く意見を聴く等の透明性の高い方法を採る必要があるのではないか。
(環境変化の監視等)
イ 地球温暖化の被害を極小化するため、環境変化の常時監視、被害の予兆の早期発見、対策実施への結びつけ等に関する体制整備等について規定することが必要ではないか。
(共同実施)
イ 「共同実施」についても、議定書に規定される事項を法律にも規定することを検討する必要があるのではないか。特に、共同実施のモニタリングの進め方、共同実施による削減量の算定に関する規定、国際的な報告に関する規定、共同実施を行う主体に対する助成等の規定が必要ではないか。
(開発途上地域への支援)
ウ 開発途上地域の温室効果ガス排出抑制等に関して、政策立案、環境教育、調査研究、技術、資金等の協力についての具体的手法、そのための体制等に関する規定が必要ではないか。
また、地方公共団体レベルの国際協力は効果的であり、それを可能にするよう法的に位置づけることが必要ではないか。