目次に戻る
T 環境科学から見た地球温暖化防止の必要性

1 地球温暖化による温度の変化とその意味

 現在進行している地球の気候状況の変化(過去100年間で0.3から0.6oCの上昇)は、自然変動だけでは説明できず、識別できるほどに人間活動による影響が現れてきている。すなわち、人間の生産・消費活動の拡大による二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素、フロンなどの温室効果ガスの排出の急激な増加、吸収源の森林の喪失などによって、地球温暖化が進行しつつあるということに関する科学的不確実さは、かなりの程度除去されてきている。
 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)によれば、このまま温室効果ガスの排出量が増加すれば、2100年には、地球全体で温度が2oC上昇すると予測されている。この場合、高緯度地方では、4oC〜6oCの上昇となる。
 この「2100年には2oC上昇する」ということは、環境科学上、次の3つの意味も持つ。

2 地球温暖化による影響

 近年、海面が10〜25cm上昇(過去100年間)、低緯度地方の降雨量の増加、米国の90年代の降水量の増加(特に豪雨が増加し、中程度の雨が少なくなった)、氷河後退、雪氷減少、アフリカの干ばつの拡大等の気候状況の変化が観測されている。
 今後、地球温暖化が進行した場合、以下のような様々な影響が予測されている。これらはほとんどが人類や生態系にとって悪い影響となるものであり、これまでと全く異なる世界が出現する可能性がある。この場合、生活していく上でぎりぎりの自然条件の下にいる人々にとってより大きな影響があり、そうでない地域の人々との貧富の差が拡大し、アフリカ等においては環境難民が増加することも考えられ、政治不安や国際的な緊張関係をもたらすおそれもある。

3 環境科学から見た温室効果ガスの濃度と排出量の関係

 1992年に採択された「気候変動に関する国際連合枠組条約」(以下「気候変動枠組条約」という。)第2条では、究極的な目的として、「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすことにならない水準において大気中の温室効果ガス濃度を安定化させる」ことを掲げている。
 二酸化炭素排出量の増加を放置していれば、海面の上昇による国土の喪失、気候の攪乱による貧富の差の拡大、マラリアなどの感染症の増加など、全世界を混乱に陥れる事態を招きかねない。二酸化炭素濃度を現在のレベルで安定化するためには、その排出を直ちに50%〜70%削減し、さらに削減を強化していく必要がある。しかし、これは直ちに実現することは困難である。
 そこで、IPCCにおいては、ひとつのケースとして、二酸化炭素濃度を550ppm(産業革命前の濃度の約2倍)で安定化するシナリオを描いている。これを達成するためには、現在から2100年までに排出されると想定される二酸化炭素の世界排出総量(1兆5000億トン:何も対策をしないケース)を2分の1に抑制しなければならない。仮に安全排出コリドーの考え方を用いて検討すると(途上国は2050年以降排出を安定化すると仮定)、先進国は全体として2020年に1990年比20%以上の削減が必要になる。今後の排出シナリオはともかく、先進国がリードして、早急に削減を開始していく必要がある。