「地球環境に関する援助機関ガイドライン」

 


79. 以上の報告書には、技術オプション、それを実施する場合の条件、所要コスト,実行可能な方法が示されている。国内のケース・スタディとアンケート用のTORは、モントリオール議定書に規定されている段階的削減活動に参加することを希望する国の実態を評価するガイドラインとしても利用できる。

80. 1987年のモントリオール議定書はオゾン層の減少を逆転させるには不十分だという科学的判断による懸念や政治的懸念が増加したため、1990年6月にロンドンで開かれた議定書当事国の第2回会議で再交渉が行なわれた。

81. その再交渉の成果としてもっとも重要なものは次のとおりである。
― オゾン減少物質としてメチルクロロホルムと四塩化炭素を削減品目に追加すること。
― 2000年までにODSをほぼ全廃することを目的とする削滅スケジュール (メチルクロロホルムは2005年までとする)。ただし一部の必要なハロンは除外する。
― HCFCを、ほかに代替品が存在しない場合にのみ使用できる一時的な代替物質として認める決議。この決議は2020年までに (遅くとも2040年までに)HCFCを削除することを要求している。また議定書はこれらの物質については今後も報告を継続し、調査することを求めている。
― 議定書の目標にしたがって開発途上国で実施する対策に融資するため当事国の決定にもとづく暫定多国間基金の創設。この基金は最初の3年間は1億6000万ドルとする。ただしインドと中国が加盟した場合には、8000万ドル増額する。より永続的な基金を創設するためには、ロンドン協定の施行が必要となろう。
― 中国とインドからのこの議定書を批准する用意があるという意思表示。この両国は開発途上国の中ではCFCとハロンの主要な生産・消費国である。
― 合計生産量が許容レベルを越えない場合には、当事国間で製造権を譲渡することができる。その結果、当事国は入手を保証されるので生産設備の操業を停止することができる。

ただし、開発途上国には10年間の猶予期間が与えられる。

援助機関のためのガイドライン

82. 開発途上国が1999年末までにODSを段階的に削減できるように支援する場合にも、議定書に署名している開発途上国にはこれらの目標は1999年までは適用されないので、生産と消費の目標を開発途上国に必ず達成させる必要はない。議定書に署名している開発途上国は生産と消費について報告し、ODSの取引規制に関する規定に従う義務がある。議定書に署名している当事国と非当事国との間では規制品目の取引は禁じられている。したがって、二国間援助機関がこの分野において援助を行なう際には、次のように開発途上国が将来を見越した行動を取れるように支援すべきである。
― 先進工業国では今後数年のうちに陳腐化すると予想される技術は徐々に切り捨てる;
― 先進工業国での新技術の開発により今後数年のうちにコスト効果が現れる対策ないしはそれを見込める対策を採用する。
― 義務を強制される前に対策を講ずる。

83. 援助機関が採用できる優先的対策としては、次の4つを上げることができる。

a) CFCの増産に対する資金援助の中止
この措置はCFCだけではなく、ハロン、四塩化炭素、メチルクロロホルムにも、要するに改定された議定書において規制されている物質すべてに適用すべきものである。ただしデータの報告だけを義務づけられているHCFCは除かれる。この議定書に署名した国は非署名国のCFC増産に協力してはならないという法的拘束を受ける。現在CFCを生産していることが判明している開発途上国はわずか7カ国であるが、メチルクロロホルムと四塩化炭素を含めるとその数はさらに増加するものと思われる。メチルクロロホルムと四塩化炭素の生産設備を確認することは、CFCやハロンの生産設備より困難である。したがって、化学プラントの建設、増設、修復に対する資金援助は、十分なチェックが必要である。

b) 規制物質の段階的削減に関する国および産業界の指定によるフィージビリティ・スタディに対する資金提供
暫定多国間基金融資メカニズムが実行する調査のような規制物質の生産、輔出入、使用、廃棄に関するフィージビリティ・スタディは、モントリオール議定書の実施の基礎になるものである。大規模な工業設備をもち、きわめて多種類の応用製品を生産している国の場合には、とくにそれが当てはまる。その種のフィージビリティ・スタディでは、規制物質の生産と使用を段階的に削減し、しかもその排出を減らすために、コスト効果があってすぐに採用できる方法を見つけ出す必要がある。さらに、さまざまな代替物質および/または代替技術が利用できる場合には、そこから採用すべき手段を選定しなければならない。最終的には、このフィージビリティ・スタディは、開発途上国が議定書事務局への報告および取引の規制 (とくに非当事国との間の取引の規制)という義務を履行する場合に役立つものでなければならない。このフィージビリティ・スタディのガイドラインとアンケート (一般向けと企業向け)は、UNEP、一部の援助機関、暫定多国間基金などによって作成されている。

c) 代替製品または代替技術を採用する場合に産業計画担当者に及ぼす影響
ここで重要なことは、すべての先進工業国ではすでにCFCやその他の規制物質からの撤退が始まっており、しかもそれが真剣に行なわれていることを、開発途上国の産業界のエンジニア、経営管理職、経営者に理解させることである。そのような物質に依存する技術はいずれは使用できなくなるのである。もう1つ指摘しておくべきことは、これらの物質の段階的削減は短期的にもコスト効果をもたらすものであること (とくにエアゾール製品については)、しかも切り替えの際に発生する問題も計画的に実施することにより少なくすることができることである。

規制物質の使用がとくに産業セクターにおいて計画または継続されている場合には、援助機関がそのプロジェクトをチェックしなければならない。その場合、溶剤や消火剤などのような小型の応用製品も見落としてはならない。代替製品がすでに使用可能な状態になっている場合には、資金利用者に対しては、規制物質を使用しないプロジェクトを実施するように説得すべきである。暫定多国間基金に問い合わせることは可能であるが、大規模な建設プロジェクトや修復プロジェクトの一部となっている特定プロジェクトの構成要素の評価はきわめて困難であることを念頭に入れておくべきである。

d) 規制物質の段階的削減を促進するための技術援助および資金援助の提供
この場合の援助方法はロンドン会議で規定が改定された。DACの二国間援助機関はモントリオール議定書にもとづく対応策に関連する投資や技術援助に資金を提供する用意があることを明言している。モントリオール議定書の再交渉にもとづいて、援助機関は暫定多国間基金を通じて暫定多国間基金融資メカニズムへの出資金の少なくとも80%を提供している。個々の援助機関の総出資金のうち最高20%までは二国間で融資できる。

84. 上記の分析にもとづき、DAC加盟国は援助機関が次のような援助を行なう必要があると考えている。
a) クロロフロロカーボンおよびその他の規制物質の生産に関わるすべての融資の中止
b) 規制物質の段階的削減に関する産業界の指定によるフィージビリティ・スタディに対する金融支援;
c) とくに規制物質の使用を計画または継続している産業セクターにおける援助プロジェクトに対するチェック:
d) 代替のためのインセンティブとしてとくに望ましい条件を備えている代替可能製品の追加コストに対する融資;および
e) モントリオール議定書に定められている規制物質の排出の減少および段階的削減を促進するための技術援助。

IV. 有害廃棄物

背景

85. 廃棄物とは、埋設、海洋投棄、焼却、地上投棄、その他のさまざまな方法で処分されるものである。有害廃棄物とは、毒性、腐食性、爆発性、可燃性があるため、適切に処理されない場合に生物および/または環境に損害を与える可能性のある廃棄物である。廃棄物にある種の物質 (例えば重金属)が含まれていると、取締当局からその廃棄物は有害になりうる可能性があると判定される。有害になりうる可能性をもつ廃棄物のリストがすでに多くの国で公表されている。1988年5月にOECD加盟国は44種類の廃棄物を有害廃棄物に指定することで合意した。このリストは、1989年3月22日に採択された「有害廃棄物の越境移動およびその処分の管理に関するバーゼル条約」に組み込まれている。ECもこのOECDリストの採択を進めているところである。

86. このように、生物および/または環境に損害を与える可能性を最小限に抑えるためには、有害廃棄物に対して十分な監視と管理が必要だという合意が世界的に存在している。また、廃棄物の発生を抑制するために、経済的インセンティブと規制措置を導入する必要があるという点についても、広く合意されている。有害廃棄物の監視とは、その廃棄物の所在をつねに (つまり揺り籠から墓場まで)確認できる状態にしておくことであり、さらにその廃棄物が取扱、貯蔵、および/または処分に適した設備に実質的に収容されたことを意味する。特殊なケースとして、ある種の化学製品 (例えば農薬)が間違って、あるいは不適切な使用や貯蔵のために「廃棄物」にされてしまうこともありうる。十分なモニタリング・システムが設置されている場合にのみ、有害廃棄物の完全な管理が実行可能になる (多くの国ではまだ実現していない)。この場合の管理とは、廃棄物の不適切な取扱いが行なわれる可能性を最小限に抑えられるように担当官庁が直ちに行動できることを意味する。事故が発生している場合の管理とは、担当官庁が、人命および/または環境に及んでいる危険を軽減するために、法的にも資金的にも直ちに行動できる能力をもっていることを意味する。

87. 有害廃棄物に関する既存のすべての監視および管理体制に共通する要素は次のとおりである。
a) 「廃棄物」と「有害廃棄物」の定義、および処理対象となる廃棄物とリサイクル、資源回収、再利用、または再生の対象となる「素材」との区別の規定。
b) 「有害廃棄物」にされる廃棄物質のリストの作成。
c) 有害廃棄物の源になりうる可能性のある源 (発生源)のリストの作成。
d) 監視および管理すべき各種有害廃棄物の数量評価。その結果は、有害と見なされる廃棄物のリストと現在の発生源にほぼ左右される。
e) 各種有害廃棄物の発生量に見合った取扱、貯蔵、処理 (TSD)設備の規定。
f) 監視計画の実行。これによって担当官庁は廃棄物を「揺り籠から墓場まで」、さらにはその先まで追跡することができる。
g) 事故、システムの故障、または人命および/または環境に脅威を与える恐れのある投棄された有害廃棄物の発見などによって発生する緊急事態にすばやくかつ適切に対応するための手段。
h) 有害廃棄物を監視・管理するために選択された体制に準拠した基準の設定に必要な資源、および違反している場合に規則を適用するために必要な資源。

88. 以上の8項目は、すべての有害廃棄物管理システムを効果的なものにするためには欠かせないものであるが、実際にはその形態はさまざまであり、国 (または地域)によっては若干修正した形で採用されている。各国がそれぞれに重視する項目を選択する際にはさまざまな要因が関係してくる。その要因は、コスト、地理的条件、産業構造、一般の理解度など、多様である。多くの先進工業国では、有害廃棄物の管理に支出される資源は金額にして人口1人あたり年間5ドルないし15ドルの範囲内におさまるようである。例えば、OECDのヨーロッパ加盟国では、年間約2400万トンの有害廃棄物が発生しているが、この廃棄物を適切に管理するためのコストは、1989年にはトンあたり平均約100ドルであり、今後は急速に増加するものと予想されている。

89. 開発途上国における有害廃棄物の発生率はほとんど判っていない。しかし、バーゼル条約で採択された有害廃棄物のリストを基礎にして考えるとかなり正確な推定が可能になる。それによると、開発途上国の年間国民総生産100万ドルあたり有害廃棄物の排出量は2.5トンないし4.5トンと推定される。したがって平均すると、国民総生産が年間10億ドルの国は年間約3万5000トンの有害廃棄物を処理しなければならないことになる。

90. おおまかに言えば、開発途上国の有害廃棄物発生源は主に次の3つである。
a) 外国企業が所有する企業、国営企業、または合弁企業、メッキ業者や金属加工業者などの小企業、ならびに地元の農家や家庭など、国内で発生する廃棄物;
b) 輪入される廃棄物;および
c) 下水処理施設でスラッジとして残る廃棄物。

91. UNEPの調査結果によると、開発途上国の廃棄物処理はさまざまな問題を抱えているという。例えば、熱帯の多雨地帯では頻繁に降る大量の雨に対処しなければならない。ゴミ捨て場の廃棄物からは大量の雨に混じって含有物がすぐにしみ出したり、廃棄物がそのままあふれて流れ出す恐れが多分にある。廃棄物が投棄前に前処理されることはほとんどないか、まったくないので、そのために上水が (地下水も表流水も)汚染され、それを近くの住民が利用する可能性がある。また、UNEPによると、開発途上国の工業生産設備はほとんどが人口密集地に集中している。有害廃棄物の投棄は一般的に工業地区の周辺に発生するものであり、そこは貧困地区とも接している。多くの開発途上国では有害廃棄物やその他の廃棄物が定期的に分別されることはない。開発途上国にはこうした危険が存在するため、土地利用計画を立案し、それを直ちに強制的に実行する必要があることは明らかである。

92. 有害廃棄物のある場所から流れ出る雨水は広範な土地を汚染する可能性がある。農業に対する依存度が高い地域でそれが発生すると、広大な土地が利用不可能となり、壊滅的な打撃を与える恐れがある。

93. 開発途上国では、有害廃棄物の発生源を規制する国家機関はまだ十分に整備されていないし、また強い権限ももっていない。そうした有害廃棄物の処理にはつねに危険ないしは重大な危険が伴う。このように、多くの開発途上国の政府は、今後は放置されたままのゴミ捨て場と取り組んで、それを改善する必要性に迫られる可能性が十分にある。この仕事には技術的な専門知識とかなりの資金が必要になるだろう。改善措置が取られない場合には、人命や環境に重大な損害を与える恐れがある。

94. 先進工業国から開発途上国への技術移転は廃棄物の管理の必要性や管理方法の選択にも影響を及ぼす。1970年代や1980年代に、最終的には受入国の管理に委ねられた建設資金な主に利用した産業は、化学工業、エネルギー産業、金属工業、建材工業、それと若干金額は少ないが繊維産業、製紙工業、鉱業、食品加工業および廃棄物処理産業などであった。これらの産業は有害廃棄物を排出する可能性が高く、開発途上国では多くの場合、ほとんどの有害廃棄物を発生させるこれらの産業を事実上、国が管理しているようである。

95. 技術を管理下におくのが国家であろうと、あるいは地元企業や国外の投資家であろうと、開発途上国で有害廃棄物を発生させるような事業の拡大や新規投資を行なう場合には、有害廃棄物の適切な管理能力にも留意する必要がある。一般的には、外国投資家と受入国との間で契約に伴う義務が定められるのが普通である。外国投資家の事業活動によって有害廃棄物が発生するような場合には、外国投資家が自国で行なうのと同様にその廃棄物を処理する義務が課せられる場合がある。事実、一部の多国籍化学企業はすでにそうした責任を前提にしている。そのような場合には、そうした処理を行なうという契約が可能になる。その場合には、契約義務の中に監査の実施を含むこと、しかも有害廃棄物は自国の場合と同様に適切に処理することが前提条件となる。さらに、廃棄物に対して特殊な処理が必要な場合には、外国投資家がそうした処理に同意する場合もある。人命や環境を最低の対策費で守れるような特殊な対策やそれに必要なコストについてアドバイスを提供できる専門家を利用することもできる。

96. したがって、開発途上国における主要な経済問題は、専門家や資金を利用できる範囲内で有害廃棄物の監視と管理を行なう手段を実行に移す方法だということになる。とくに「予測と防止を重視する」戦略の場合には、管理体制をある程度強化する必要があるが、その場合には利用できる資源が少ないことも考慮しながら進めていく必要がある。最終的には、これまで規制を受けてこなかった場所に対しては定期的な監視が必要であり、また廃棄物を規制する改善措置を計画する必要もある。

援助機関のためのガイドライン

97. 管理手法の効果を上げるためには、種類や量を含めて、有害廃棄物を発生させる可能性のある事業の評価が不可欠である。この評価は、有害廃棄物の発生量を減少させ、最終的には最小限にまで抑える対策を講ずる場合や、そうした有害廃棄物のリサイクルや再利用を促進する場合にも利用できる。公害防止技術や資源回収方法を導入することにより、廃棄物管理の分野における援助機関の投資利益率を最大化できる場合もある。したがって、廃棄物の管理や処理に要するコストの見積もりは、環境影響評価の際にプロジェクト評価全体の中で行なうべきである。

98. 多くの開発途上国においては、有害廃棄物に対して適切に対応するためには、上級専門職の採用と訓練が不可欠である。彼らに要求されることは、廃棄物管理に関して国が直面している問題点を確認し、さらに国が抱えている多くの問題や優先すべき課題を考慮しながら適切な政策について助言し、それを実行することである。この仕事には各種の資源や資金が必要であるが、開発途上国の中でそれに投入できるだけの準備ができている国はほとんどない。1つの方法として、管理職員の訓練・雇用に当てる資金を、処理を必要とする廃棄物を発生させる投資に結び付けるという策がある。また、二国間ないし多国間機関がある事業に資金援助する際に、そのような策や訓練に協力してほしいという要望が出てくる場合がある。企業が支援する非政府機関も、そうした訓練の実施に寄与できる場合がある。

99. 開発途上国からは有害廃棄物の管理システムの一部を実行するために援助を求めてくるケースがあるが、多くの場合そのシステムは必要な行政的規定や法的規定、技術、インフラストラクチャー、支援サービスなどによって構成されている。援助機関が重視する援助規定は、十分な支援体制と支援サービスが整っていること、ならびに技術が発生する廃棄物の処理に適していることだと思われる。例えば、現在のセメントキルンを改良して液状廃棄物を削減できるようにすれば、特別な焼却炉を建設するのと同じ効果を上げられる可能性があり、しかもコストは多分かなり少なくてすむ筈である。

100. 廃棄物管理のためばかりでなく、有害物質による事故発生を少なくするためにも、有害廃棄物を排出する可能性のある企業を検査できる検査官の養成や訓練は不可欠の要素である。この点については、UNEPの「現地の緊急事態の確認と対応」 (APELL)が援助機関にとって有効なモデルになるものと思われる。

101. 農業からは監視や管理がとくに難しい有害廃棄物が発生する。援助機関の立場からは、農業セクターについては投資面を重視した監査や適切な廃棄物管理手法が価値のあるものと考えられる可能性が十分にある。その点では、農薬や肥料の使用から発生する廃棄物は有害廃棄物であり、農民はあまり費用をかけないで自分でその廃棄物を適切にしかも簡単に処理できなければならない。特別な収集システムを装備した車両を農場に持ち込んで、農薬や肥料、その他の農業廃棄物を回収し、それを処理センターで再利用、リサイクル、処理するという方法はかなり有効と思われる。実際には廃棄物の発生を削減するためには、農薬や肥料を自由に使用することを奨励する農法は見直しを行ない、もう一度組み立て直す必要がある。例えば、農業用プラスチックは除草剤への依存を終わらせることができ、さらにもう一度ポリエチレン樹脂に戻してプラスチック製品に再利用することができる。複合型の害虫病原菌防除システムを利用すれば、農業から有害廃棄物の発生を長期的に減らすことができる。

102. 上記のような分析にもとづいて、DAC加盟国は次のような作業に進むことで合意している。
a) 廃棄物規制のためのプロジェクトの環境影響評価の規定作成および発生する廃棄物を回避し、取扱い、処理する際に必要なコストの見積もりのためのプロジェクト・デザインの規定作成。
b) 公害防止技術の移転および資源回収方法や廃棄物削減技術の導入の促進。
c) 有害廃棄物の管理について国が直面している特殊な問題を確認し、他の優先課題を考慮しながら実行政策を立案できる開発途上国の上級政策担当職員の募集、訓練、および雇用に対する援助。
d) 有害廃棄物を排出する企業を検査し、さらに有害廃棄物による事故の発生を減らすこともできる検査官の訓練に対する援助。
e) 支援体制と関連サービスを整備し、廃棄物の管理の要求に適した技術を採用できるようにする援助。
f) 農業から有害廃棄物の発生を減らすために複合型の害虫病原菌防除システムの採用を促進する投資や支援プログラムを実行するための適切な廃棄物管理手法の特別検査と作成に対する援助。
g) 開発途上国への有害廃棄物の輪出を減らすための事前通知承認手続きを導入するための規定の作成に協力する援助。
h) 有害廃棄物の所在や開発途上国への輪出を完全にしかも正確に確認できる追跡・通知システムの構築に対する援助。
i) 地域または国の養成機関、訓練機関および協力協定を支援するための関連する国連およびその他の機関との協力。

V. 生物学的多様性
背景

103. 生物学的多様性の喪失は地球的な関心を呼んでいる問題である。種が失われるだけではなく、現在残っている種が希少になりつつあり遺伝変異性要素を失いつつある。野性種は地球上の生物学的多様性の基となっている。しかしながら、私たちの農業システムが地球の人口を支えることが出来るのは栽培種によってである。したがって自然保護のための努力は、野性種および栽培種の両有機体に対して行なわれなければならない。

104. 自然位置保護 (In-situ conservation)は、生物学的多様性を保護する際の基本必要事項であり、自然外位置保護 (Ex-situ conservation)が重要な補助対策を構成している。生物学的多様性の保護は、しばしば法的な生息地保護の観点から考えられている。自然保護区域が生物学的多様性の保護には必須のものであるが、今そうした区域は十分ではない。自然保護区域は世界の地表面積のたった4.8パーセントであり (もっとも楽観的な推測にしても最終トータルで10パーセントにしか過ぎない)、ほとんどの生物学的多様性資源は、いつも厳重な保護区域外で見出だされるものとなろう。保護されていない地表における生物学的多様性を維持する努力は、人口や土地利用の圧迫が強まり、新しい保護区域を創る機会が減少するにつれてますます重要なものとなろう。

105. 豊かな遺伝学的多様性を通して、さまざまなソサイエティー (生物の社会集団)は、未来の経済的、生態的変化に適応するためのより多くの選択を持っている。さまざまな種および生態系は、進化する能力、そして、害虫や予知し得ぬ気象状況、その他の環境要因に適応する多くの能力を持っている。生物学的多様性の保護が持続的農業開発に必須のものであるということが分かる。

106. しかしながら、生物学的多様性を保護するという問題は、今日では生物学的多様性に関する問題のひとつの側面に過ぎない。バイオテクノロジーを通して、野性および栽培種の遺伝子は、農業、食品技術、薬品および産業にとって経済面でより価値あるものになりつつある。遺伝子に関しても重要な問題が持ち上がっており、特に目立つのが経済は豊かであるが遺伝子に関して貧しい北の先進国の利益と、経済は貧しいが遺伝子に関しては豊かな南の開発途上国の利益に対する権利の問題であり、遺伝資源およびこうした資源から出来る農業及び産業製品に対する権利の問題である。

107. 生物学的多様性は、現在色々な面で脅かされている。生物学的多様性は、人間の土地利用のさまざまなかたちによって環境が変形させられている居住地域にもかなり存在している。したがって、保護戦略は自然地保存にのみ向けられるべきではない。また、農業および植林が自然生息地の残りの地域を侵食している。都市化、観光事業、採鉱、その他の産業活動、そして汚染もまた土壌および海域の生物学的多様性の消失に一役買っているのである。工業国におけるそうした多様性消滅への主な脅威は、汚染産業、農業、下水、自動車等によるものである。開発途上国においては、貧困と限られた資源基盤の統計学上の窮迫は、苛酷な環境悪化の原因になることが頻繁である。しかしながら、貧困の問題を減らそうと努めるだけでは不十分である。開発活動による環境影響、および経済近代化への努力による環境影響が入念に分析されるべきである。それは、以下のような活動が開発途上国における生物学的多様性の喪失の要因となっている為である。エネルギープロジェクト、採鉱、木材伐り出し、道路工事、工業、そして農業の近代化などである。

108. 農業における生物学的多様性の現在または将来の潜在的な価値は、現在の世界の農場におけるそれよりはるかに幅広いものがある。ほとんどの伝統的な作物および家畜種は野性種を持っており、多くの近親種は近代的植物育種で、幅広く使われている。加えてその他多くの種が現在初期栽培化されているかまた、その潜在的商品価値が調査されている。さらに近代的バイオテクノロジーの進歩と共にすべての種が、作物や家畜の改善のための遺伝子素材の潜在的ドナーになっている。

109. 近代農業の強化によって、ますます作物や家畜種を限定する特殊化、集中化がなされるに至った。品種改良戦略、特に作物の場合、概してより画一的な変種を生みやすく、短期間で成功した変種は栽培種の多様性の豊かさに取って代わり広い地域で採用されるかもしれないが、農業システムの長期的持続性の問題を起こすだろう。したがって、特別な保護対策が採られない場合、こうした多様性は失われることになろう。食品安全性のための生物学的多様性の重要性は、害虫、異常気象状況、その他の環境要因への適応性を含めて分析されて然るべきである。

110. 生物学的多様性は、自然位置または自然外位置対策によって保護されるべきである。栽培種に対する自然位置保護とは、自然なかたちの持続的進化適応を可能にする農業生態系内の保護を意味している。自然外位置対策によって保護される生体材料は進化し続けることはなく、文化的重要性、つまり現場の知識や管理技術も失われるかもしれない。現在の問題の視点から見て、特に関心が持たれているのは品種改良であり、現代生物学の可能性は、主にその生息地を守ることによって保護がなされねばならない未開発種の野性同類種 (wild relatives)にある。

111. 遺伝子銀行 (種子銀行)が今までのところ遺伝形質の自然外位置保護のための主要な保護対策をなしている。遺伝子銀行はすべての作物保護ニーズをカバーすることは出来ないが、多くの遺伝子豊富な地域の進行性遺伝子浸食に対処するため持続、開発されるべきである。開発途上国には国または地域の遺伝子銀行がほとんどない。さらにその不十分な能力のため、多くの遺伝子銀行は、家庭作物の多様性やその地域内のこうした作物の野性同類種の開発や、保護の十分な安全性を制限されている。

112. 従来の植物育種およびバイオテクノロジーにおける作物遺伝子資源の商業化は、所有権の問題を生んでいる。遺伝子銀行は、政府所有下にある国または地域の施設である。しかし、遺伝子銀行の多くは、FAOあるいはCGIARの賛助のもとにある国際的なものである。国際遺伝子銀行のネットワークによって集められた作物多様性の膨大なストックの所有権に対するジェネラル・アクセスおよび所有権の問題は、現在多くの国際フォーラムで討議中である。

113. 遺伝子銀行は、作物多様性保護のすべてのニーズをカバー出来ないため、遺伝子銀行を補助する資源基盤保護政策の必要性がある。栽培種は、また、自然位置が保たれねばならないが、増加する人口のニーズを充たすため、農業が集約化されるなかではそれは難しい問題となっている。自然位置保護では生物多様性は、地元レベルで管理されている。そうした管理を成功させるには、自然資源の管理および収穫で女性が果たす特別な役割に注目し、地元民を活発に参入させることである。作物の遺伝子多様性の自然位置保護のための関連戦略には、生物学的多様性の枠組みで経済インセンティブの多様な形がどのように機能しているかをよく見極めることが含まれていると思われる。そのような戦略にはまた作物の進化に貢献する野性種の生息地保護も含まれている。そうした地域の多くは今や脅かされており、自然資源管理統括プログラムで取り扱われる必要があり、そのプログラムでは、遺伝子資源に重要な関心が寄せられていなければならない。

114. 世界の生物学的多様性のほとんどが南の開発途上国に見出だされている。北の工業諸国は、植物育種を南からの遺伝子流道に依存させている。種子産業の商業化および遺伝子資源の特許への関わりと共に、遺伝子資源の所有権に関する問題が紛争のもとになってきている。知的所有権などの問題に関する粉争も、急速に拡大するバイオテクノロジー産業によって深刻化する可能性がある。多くの開発途上国が恐れていることは、彼らの遺伝子資源を守る努力が、自分達自身の社会よりむしろ北の新しいバイオテクノロジーを基盤にした産業に利益をもたらすのではないかということである。この新産業革命は、新しいバイオテクノロジー製品の開発を通して、第三世界の伝統的な輪出商品を変えてしまうかもしれないし、開発途上国の経済を衰微させることさえあるかもしれない。こうした問題に関しての国際的な討議の多くが以下の二つのテーマに集中している。それは知的財産権と遺伝子資源のテーマである。

115. 国際遺伝子銀行に貯蔵されている遺伝子資源は、最近まで共通財産と見做されていた。バイオテクノロジー製品やその製法に対する一層重要なマーケットが出現したことは、特許や植物育種者権利というかたちで個人の財産権を広げる刺激を与え、また隔離および変更のさまざまな階段における遺伝形質にも刺激を与えている。特許は、すでに欧米の植物や合衆国の動物に対しては認められている。特許の国際的調整化は、ECCやGATTで今実施されており、生物学的多様性やバイオテクノロジーなどの問題と結びついた重要な処理作業がいま「植物新変種保護のための国際ユニオン」や「世界知的所有権機関」 (WIPO)のもとで進行中である。調整化特許の出現は、国際遺伝子銀行にとって重要な意味合いをもつかもしれない。

116. GATT交渉が出し得る結論は以下の内容になると思われる。すべての国が、その植物に認められた特許、植物の遺伝子的発現、あるいは植物から生まれた化学製品の開発などを尊重する義務を負うことといった内容である。生物学的多様性がどのようにしてバイオテクノロジーの問題と結びついているかという疑問は、1992年の「環境と開発に関する国連会議」の準備過程において開発途上国と工業諸国とのあいだで取り交わされる主要な討議である。

117. 植物遺伝子資源は、人類の共通財産であり、遺伝子資源へのアクセスはすべてのユーザーに与えられねばならず、したがって国は、現在および未来の発生 (generations)に関するユーザー利益のためにその資源を守る義務を負う、といったFAOの立場に反対して国家主権の原則が提起されている。

118. 上記の分析が提示するように、生物学的多様性を保護する戦略は、開発途上国のみならず工業国内の経済政策にとっても意味を持っている。貿易政策もまた知的財産権に関する論争に影響されている。

119. 数多くの国際機関、条約、そして協議などが生物学的多様性を支持している。この分野における複製を回避し、国際協力を高めるため、UNEPの第14回理事会は、"好ましきこと"についての決定および包括的協議 (umbrella convention)の可能なかたちを採択した。

120. 新しい国際合法手段は未だ準備中であるが、以下の点については、すでに合意が成立している。
a) 新しい国際合法手段は、協議が支持した枠組みで具体的な問題に関する議定書を合法的に履行させることによって開発されるべきである。
b) 生物学的多様性の全体幅は、地上および水中生態系の異種、そしてすべての生物地理学的地域に対して、種内および種問レベルで取り扱われるべきであり、開発途上国がこうした問題を取り扱う手助けをし、その協議義務を充たすための適切な融資メカニズムをそこに伴う。
c) 生物学的多様性および気候変化に関する国際的提案合法手段 (そして森林に関する国際的手段)のあいだには調整が必要とされる。
  そして、
d) 生物学的多様性に害を及ぼす行動を他国では控えるという原則が含まれるべきである。

121. 9ヶ国で現在進行中である資金面のニーズの目録を含む地方研究が有用な情報を提供すべきである。UNEPガイドライン基本に関する国家地方研究のUNEPプログラムに対するサポートについては、DACメンバーによって考慮かなされるべきである。

122. 提案生物学的多様性会議に関する討議の中心問題は、以下の事項と関連がある。栽培種の関連重要性、資源の持続利用のための適正インセンティブ、保護対策への融資、テクノロジーの譲渡、および遺伝子資源の所有権などである。

123. 開発面から見て生物学的多様性協議プロセスに関連した多くの問題は、以下の事項に関係している。

a) 協議のもとの活動が標準開発活動と区別される範囲。
b) 開発途上国が援助を要求する協議のもとで課せられる自らの義務。
c) 現行の二か国間および多数国間融資活動の基金メカニズムに対する関係。
d) 基金メカニズムのなかでの世界銀行、UNEPそしてUNDPに導かれた地球環境施設に可能な役割。
e) モントリオール議定書基金メカニズムのなかでの生物学的多様性協議のメカニズムに適している要素。
f) 提案森林協議あるいはその契約そして気候変化協議など、それらのもとのすべての基金メカニズムに対して、生物学的多様性協議のための基金メカニズムが持っている関係。

124. かなりの数に昇る二国間ドナー、国連の機関、そしてその他機関は、生物学的多様性を扱う特定プログラムあるいはセクターのプログラムを通して開発途上国に技術的、経済的援助を提供している。国内外のNGOもまた生物学的多様性に関する主要プログラムに融資している。UNEPの研究が評価するところでは、開発途上国への生物学的多様性の保護あるいは利用を活動の主要目的に挙げているドナーの総援助額は、現在少なくとも年間2億ドルと見られている。生物学的多様性から間接的利益を得る関連活動に関する経費は、もっと大きい。にもかかわらず開発援助機関にサポートされているそれ以外の活動は、生物学的多様性を減少させる影響を持っているかもしれないと認識されて然るべきである。

125. 生物学的多様性は、ほとんどのDACメンバー諸国の場合、その支援プログラム内でプライオリティーが当てられてきたという部門ではない。しかしながら、米国、北欧諸国、ドイツ、オランダそして英国などからの援助は、異なった方法で生物学的多様性保護への重要な貢献をしている。ほとんどの二国間活動は、資金援助というよりは技術援助から成り立っているように思われる。例えば研究、訓練および教育、調査および目録作り、保護区域管理、そして国家保護戦略などがある。

126. 国連ファミリー、国際開発銀行、そしてCGIARなどを含む多数国間機関は現在、年間約7千5百万ドルを生物学的多様性関連プロジェクトに費やしている。開発銀行は今まで少量の財源のみを生物学的多様性保護をその主要目的にしている活動に当ててきたに過ぎない。このことは、間違いなく生物学的多様性保護活動からの融資の見返りが低いことを国家レベルで認識していることを反映している。しかしながら、最近銀行は、生物学的多様性問題にますます関心を払っている。生物学的多様性は、地球環境施設による支援が確認されている4部門のうちのひとつである。地球環境施設の活動は、UNEP,UNDP、そして世界銀行による3者の合意を通して今実施されている。

127. 特にFAO,UNEP,UNDPなどの国連機関には主要な生物学的多様性プログラムがある。1985年、FAOは森林遺伝子資源プログラムに約70万ドルをかけ、また1986年の熱帯森林生態系保護プログラムには約4千140万ドルをかけた。そして1989年のFAO,UNEP,UNDPは、三者の遺伝植物形質プログラムに約100万ドルをかけている。FAOプログラム内には植物遺伝子資源の自然外位置保護に関する特別専門知識がある。13箇所の農業リサーチセンターを含めてのCGIARは、「植物遺伝子資源国際委員会」 (IBPGR)とともに、主に遺伝子銀行を通して自然外位置保護に関する主要プログラムを持っている。UNDPは、1988年に約3億万ドルを環境経費に割り当てた。そのうちの940万ドルが生物学的多様性、植物資源保護、そして野生動物管理のために使われた。さらに環境経費に含まれるものは、森林および土壌管理保護に対する援助で、それは生物学的多様性と密接に関連している。その他、国際組織では国際熱帯木材機関や共同事務局が生物学的多様性への技術保護に対するもっともささやかな融資を行なっている。

ドナーのためのガイドライン

128. 保護対策は、雨林のような生物学的多様性の豊富な地域にのみ重要なのではない。乾燥地域あるいは気候穏やかな地域における生物学的資源は、わずかなものであるが、こうした地域は、農業、動物育種、あるいは地域森林などの持続性に欠かせない特有の風土を持っていることが頻繁にある。地方の地域社会、特に中心をより離れた遠方の地域社会はその場の生態系で見出だされる生物学的多様性に非常に依存している。こうした生物学的多様性の保護は、その地元の地域社会にとっては、地球規模の多様性の重要性とは無関係に非常に重要である。さらに、地元地域社会は、消滅の危機にあるその場の生態系や、その地域社会および地域社会以外め世界の生態系損失に関する知識を持っている。

129. ドナーは、いろいろな方法で生物学的多様性保護を進めることが可能と思われる。ドナー戦略は、開発支援のさまざまなレベルに対して確立されるべきである。その支援に含まれるのは、政策改善、開発途上国における制度的能力の向上、国家保護戦略、そしてフィールド活動などである。開発援助の保護対策を統括するドナー能力を強化することもまた重要である。

130. 政策開発/生物学的多様性を保護し管理するための開発プログラムでは、人間の地域社会の場の経済開発と脅威に曝されている人間と無関係な動物相および植物相のあいだのバランスが守られる必要性が反映されていなければならない。生物学的多様性の保護と両立した政策活動を促進するために、ドナーは活動には以下の事項が含まれるべきである。
a) 生物学的多様性の保護に重要な政策例えば、国土保有、森林、居住、人口、自然資源管理、農業、エネルギー、雇用発生、そして地方開発などの調査である。
b) 生物学的資源および生物学的多様性を持続するためのマクロ経済政策改善/国土利用とその保有政策および国家所得勘定における資本蓄積として、生物学的資源に金銭的価値を置く経済政策などがそこに含まれる。自然資源保護利益は、コスト利益分析で量化することは困難である。なぜなら、そうした保護利益というものは、大体非経済的なものであり拡散的であり、また将来の生産に対して生ずるものであるためである。生物学的資源に適用される不適切な値引き率やメソッドは、そうした資源を保護というよりは破壊に至らしめるものである。
c) 生物学的資源および生物学的多様性の現実的価値評価/ 森林、湿地、海洋システム、そして農業種の遺伝子学的多様性などの直接、間接の価値を量化する努力は、多くの開発途上国でいまなされており、それはドナー支援を受けるに値するものである。フィールド・調査では、例えば観光事業によって生ずる商業的な収穫や商業サービスなどの価値を評価することに加えて、市場を通さないでしばしば直接消費される猟鳥獣類や非木材製品に評価を与えることが出来る。流域保護、土壌保全、そして気候規則化などの生態系機能の間接的価値は、より量化が困難であるが、おおよその評価でさえ現行の事実評価より正確である (ほとんどの場合ゼロである)。食品安全性のための農業生物学的多様性が持っている重要性には、プライオリティーがもっと与えられるべきであり、分析がもっとなされるべきである。そうした評価は、生物学的多様性保護を支持する経済政策改善に対して重要なデータを提供する。
d) 非政府組織は非政府自然資源組織を援助するために、注目する必要のある保護政策問題を規定し、保護政策における持続性を打ち立てる時主要な役割を演じる。そうした活動は、以下のことをなす時に大事である。提唱、一般の認識の向上、調査、地元プロジェクトの支援および実施、そして管理責任の地元地域社会への返還などである。

131. 制度的能力の強化/ 地元の能力を開発するための援助は以下め団体の利益となるべきである。開発途上国の環境および自然資源機関 (農業および沿岸資源のための機関を含む)、大学およびその他訓練施設、そして国および地方レベルの非政府組織などである。ドナー活動は、時には以下のものを含むことがある。

a) 自然資源管理機関、調査施設、そして受入れ国の非政治組織などへの適切な支援。
b) 保護政策およびプログラム実施に対する支持者を増やすために一般人、学生、そして意志決定者への効果的環境教育および効果的一般認識向上プログラム。
c) 現行あるいは新規プログラムに対する一歩進んだ支援、生態系を扱うカリキュラムの改善、自然資源管理、そして社会および経済問題との結合。
d) 大学と政策立案者、地元地域社会の両者のあいだのより強固な連結への支援。
e) 国および地域調査施設開発、ドナー諸国の施設との調査協力、そして関連バイオテクノロジーに関する協力イニシアチブなどを通して地元の調査能力向上を支援。
 そして、
f) 地元ユーザーグループの資源管理能力への支援。

132. 国家保護戦略/ 保護活動の効果を増す戦略は、外部機関および外部親組織ら必要とされる資金、技術面の援助を以て開発途上国の施設によって開発されるべきである。最初からそのプロセスは、オープンであるべきであり、明確な目標とともに他機関の参加を得るべきである。生物学的多様性戦略においては、他の補助イニシアチブ、プラン、そしてプログラムなど (熱帯森林行動プログラム、保護戦略、環境行動計画、UNCEDのための国家レポートその他)との調整がなされるべきである。

133. 以上のような戦略を支援するためのドナー活動

a) 生態学的天然資源目録および調査を通しての評価/ 至急行動区域の選択は以下の3つの要素に重きが置かれている。生物学的特徴、現在および将来の脅威の重大性そして社会、経済、制度各面の要因に照らしての保護機会の度合。
b) 種の分布、自然生息地、人間の土地利用そして住民の文化的特色などに関するデータが盛られた情報交換センター。そうしたセンターは、それらが独立機関あるいは関連大学、政府機関など何れにしろ、直接政策立案プロセスに結合されていなければならず、自由にアクセスが可能でなければならない。
c) 以上の戦略実施援助に関するドナーコミュニケーションおよびドナーコーディネーション。

134. フィールド活動/ 生物学的多様性を保護するフィールド活動は、以下の事項を含むことがある。

a) 公園および保護区域の設立および管理/ 今後5年から10年にかけての活動が、独特で特色のある現在保護がなされていない生息地を保護するうえに非常に重要である。ほとんどの国々で比較的保護されてこなかった沿岸、および海洋の生態系に特別な関心が向けられるべきである。保護区域を確立することは、それに対する割り当て地のみならず、区域を十分に利用し維持させるための法、政府、融資などの面の必要事項に向けて、ドナーが支援する必要がある。
b) 周囲の地域との物理的、社会的、経済的関係および地元住民や外部組織の参加などに正当な関心を盛った緩衝地帯管理および生態系の再生/ プロジェクトの長期実行可能性に非常に重要である要因のいくつかは、計画過程において扱われるべきである。そうした要因とはすなわち土地保有と伝統土地権、人口力学、社会的文化的要素、そして地元地域社会に対する経済利益などである。生態学的再生のための必要事項を緩衝地帯における住民の経済的ニーズに結びつけることが、核心保護区域における生物学的多様性を十分に保護するための唯一の方法であるかもしれない。だが、もし地元地域社会がそうしたプログラムやプロジェクトの計画作りや実施に効果的に参加しない場合はそれは保証の限りではない。
c) 生物学的多様性資源の持続的利用のための資源管理/ 地元地域社会や資源ユーザーの直接的な経済利益を提供するためになされる。非木材森林製品および伝統的漁業地域に対する地元権利の確認は、マーケテイングプログラムおよびクレジットプログラムとともに持続管理および増加収入の基盤を提供する。
d) 作物不足のリスクを減らし、特定環境状況に適応した新たな変種の開発に向けた農林水産のための遺伝子資源保護/ 野性、また農業生態系内 (以上、自然位置)、または庭園、果樹園、種収集、実験室 (以上、自然外位置)において、野性植物あるいは栽培植物、または動物遺伝形質などの維持は、基本遺伝子貯蔵を管理するためには共に欠かすことのできない戦略である。森林においては、単一栽培のための外来種の利用、あるいは依存、そして固有樹木種の育材価値などがもっと組織的に分析されるべきである。
e) 自然位置保護にとって代わるものとしてではなく、補助としての種銀行への支援。
f) 国の生物相の審査目録および熱帯の組織的調査への支援/ 3千万から5千万のあいだとされる種の数のうち、確認されている世界の種は、200万種以下である。
g) 適用保護調査/ 社会、経済、生物学の面からの調査。特に急を要するのは熱帯森林、沿岸湿地、そして海洋システムなどの生態学的過程を明らかにするフィールド研究であり、それは生物学的生産性の傾向、人間の活動がもたらす崩壊に対する回復度、そして現在および将来に可能とされる経済的、社会的価値などすべてを決定するための研究である。フィールドレベルの社会経済調査ではまた生物学的資源が如何に食物、健康、そして地方の人々の生活や資源管理の伝統的システムなどに貢献しているかを記録文書化することが必要とされる。また、フィールドレベルの社会政策調査では、特定の政策が導入管理システムおよび固有管理システムの両者に如何に影響を及ぼすかを記録文書化する必要もある。
h) 生物学的多様性の長期維持に向けた重要なステップとしての人口プランニング・サービス。

135. ドナー能力の向上/ ドナー機関はまた自身の能力を強化すべきである。それは保護ニーズを評価したり、生物学的多様性の維持を計画開発目標に統合する効果的戦略の改訂をしたりするためである。こうした方向における各ステップは以下の事項を含む事がある。
a) 他のプライオリティーとの初期競合を減らす手段としての生物学的多様性の関連活動を活発にするための融資。
b) 生物学的多様性へのプロジェクトの環境影響評価指定ガイドライン (支援機関の為のガイドラインに関するDACシリーズの一部としてその中に含まれることがある)。
c) 革新的融資/例えば、自然保護プログラムおよび団体、特に非政府組織などの諸機関への長期的、安定的援助を提供するための自然保護債務スワップ、基金、債券、および、てこ作用メカニズムなどがある。また、循環コストの再生などを行なう。
d) 機関政府、地域戦略、国家戦略、そして環境影響評価必要事項などの決定の際に参考ポイントとして有用である生物学的多様性保護に関する戦略説明。
e) スタッフ・トレーニングや保護スペシャリスト、政策アナライザーなどの募集を通して、ドナー機関内の循環科学および自然資源保護の専門知識を増やす。
f) 生物学的多様性の保護のための孤立したプロジェクトよりも、むしろ戦略的プロジェクトに焦点を与えることによって、環境プロジェクトに持続性および長期的見通しを提供するメカニズム。
g) 農業、森林、沿岸資源、そしてその他のセクタープログラム (地方開発エネルギー、教育および民間企業開発などを含む)における生物学的多様性維持の調整/諮問委員会、セクター調査、あるいはその他メカニズムは、開発援助プログラムにおいて保護問題および保護機会を確認する手助けを行なう。

136. DACメンバーは、政策改善、固有制度能力強化、そして国家自然保護戦略などを通して生物学的多様性保護の奨励に合意する。上記分析に基づいてDACメンバーは、以下の事項を通して開発途上国の援助に合意する。

a) 生物学的多様性保護に重要な政策の調査。セクター政策も含まれる。
b) 生物学的資源を維持するためのマクロ経済政策改善。
c) 生物学的資源および生物学的多様性の現実的評価を確立するための努力。生態系機能の間接的価値評価も含まれる。
d) 環境資源および自然資源機関、大学、訓練施設、そして非政府組織の制度能力の強化
e) 生物学的多様性保護プログラムの計画作り、およびその実施における地元ユーザーグループやその組織の参加促進強化。
f) 生態学目標・調査、至急注目地域の確認などにより生物学的資源の評価をする。そうした確認は、生物学的特色、脅威の重大性、そして社会的、経済的、制度的要因に基づいた保護機会などを参考にしている。
g) 政策立案プロセスに直結したインフォーメーション・センター。

137. DACメンバーは、以下の事項を通してフィールド活動支持に努める。

a) 自然保護区域の確立、および管理に対する支援。
b) 緩衝地帯管理、生態学的再生などの改善に対する支援。
c) 地域社会に向けた直接経済利益 (非木材森林製品、および観光産業など)のために、生物学的資源を持続的に産出するより優れた管理に対する支援。
d) 自然位置、および自然外位置対策による農、林、水、産における遺伝子資源保護に対する支援。
e) 種銀行、目録作り、適用社会経済調査に対する支援。
  そして、
f) 自然資源保護プログラムに統合された住民サービスおよび計画作りに対する支援。

138. DACメンバーは、またその開発目標の中で生物学的多様性を維持する際の保護ニーズや創案戦略などを評価するため、自身の能力を以下の事項を通して強化することに合意する。

a) 生物学的多様性保護に関するドナー戦略説明。
b) 生物学的多様性に関連した活動への融資。
c) 生物学的多様性への影響を計るための開発プロジェクト評価。
d) 保護のための革新的融資機会。
e) 環境科学および自然資源保護における支援機関の専門知識。
f) 環境プログラムの持続性に長期見通しを提供するメカニズム。
g) 諮問機関、セクター調査、そして環境影響評価などを通したその他関係セクターと関連すると共に、農業、森林、沿岸の各資源にも関連した開発援助セクタープログラムにおいて生物学的多様性の統合を行なう。

付表

頭語表

 APELL  地元レベルにおける緊急事態に対する認識および準備
 ASEAN  東南アジア諸国連合
 CFC   クロロ過フッ化炭素
 CGIAR  国際農業諮問調査グループ
 CZMS  沿岸地帯管理サブグループ
 DAC   開発援助委員会
 ECE   欧州経済委員会
 EEC   欧州経済共同体
 EIA   環境影響評価
 FAO   国際連合食糧農業機関
 GATT  関税及び貿易に関する一般協定
 HCFC   水素クロロ過フッ化炭素
 IBPGR   植物遺伝子資源国際委員会
 ILC   国際法委員会
 INC   気候変動枠組み条約に関する政府間交渉委員会
 IPCC   気候変動に関する政府間パネル
 ITTO   国際熱帯森林地組織
 IUCN   自然および自然資源保護国際同盟
 IUFRO   森林調査組織国際ユニオン
 NGO   非政府組織
 ODA   英国海外開発行政
 ODS   オゾン破壊物質
 OECD   経済協力開発機構
 TFAP   熱帯森林行動計画
 TSD   処理、保管、廃棄処分
 UNCED   環境と開発に関する国連会議
 UNDP   国連開発計画
 UNEP   国連環境計画
 UNGA   国連総会
 USEPA   国連環境保護機関
 WIPO   世界知的所有権機関
 WHO   世界保健機構
 WMO   世界気象機構
 WRI   世界資源協会

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