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平成9年度化学物質関連の調査・研究等の概要

 

4.外因性内分泌攪乱化学物質問題への環境庁の対応方針について
−環境ホルモン戦略計画SPEED'98−

 

はじめに

I 外因性内分泌攪乱化学物質問題について
  1.外因性内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)とは何か
  2.ホルモンについて
  3.化学物質がホルモン作用を攪乱するメカニズムについて
  4.人や野生動物に対する影響に関する報告書について
  5.内分泌攪乱作用をもつと疑われる約70の化学物質について
  6.世界の取り組みの動向について

II 本問題に対する環境庁の対応方針について
  1.基本的な考え方
  2.具体的な対応方針


はじめに

 人や野生動物の内分泌作用を攪乱し、生殖機能阻害、悪性腫瘍等を引き起こす可能性のある外因性内分泌攪乱化学物質(いわゆる環境ホルモン)による環境汚染は、科学的には未解明な点が多く残されているものの、それが生物生存の基本的条件に関わるものであり、世代を越えた深刻な影響をもたらすおそれがあることから環境保全上の重要課題である。

 環境庁においては、1997年3月に「外因性内分泌攪乱化学物質問題に関する研究班」(座長:鈴木継美元国立環境研究所所長)を設置し、これまでの内外の文献及び我が国における環境モニタリング調査の結果等に基づき、現状における科学的な知見を整理するとともに、今後重点的に進めるべき調査・研究課題などについて検討を行い、同年7月に中間報告書をとりまとめて公表したところである。

 それ以降も、環境庁では、外国の研究者の招聘などを通じて国内の研究活動を支援してきたほか、経済協力開発機構(OECD)によるスクリーニング試験法の開発に関する専門家会合に我が国研究者を派遣するなど国際的な活動にも積極的に参加してきた。また、1998年度以降、総合的な調査・研究を進めるべくその計画の具体化を急いできた。

 本文書はこうした経過の上に立って、現時点での外因性内分泌攪乱化学物質問題についての環境庁の基本的な考え方及びそれに基づき今後進めていくべき具体的な対応方針を取りまとめるとともに、そうした対応方針を定めるに当たって判断根拠とした科学的知見の概要を収録したものである。なお、とりまとめに当たっては、「外因性内分泌攪乱化学物質問題に関する研究班」班員から専門的な観点からの意見及び助言をいただいた。

 環境庁としては、引き続き専門家のご指導をいただきつつ、この対応方針に基づき各種の調査・研究を鋭意進め、また、早急に行政的な措置のあり方について検討を深めていくとともに、国民の本問題への正しい理解を助けるため、今後得られる新たな科学的知見や有用な情報を適時・的確に提供していくこととしている。

1998年5月 環境庁環境保健部環境安全課

外因性内分泌攪乱化学物質問題に関する研究班班員

鈴木継美(元国立環境研究所所長(座長))
井口泰泉(横浜市立大学理学部教授)
井上 達(国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験所研究センター毒性部長)
大島康行((財)自然環境研究センター理事長)
門上希和夫(北九州市環境科学研究所アクア研究センター水質環境係長)
香山不二雄(自治医科大学衛生学助教授)
森 千里(京都大学医学部生体構造医学助教授)
森田昌敏(国立環境研究所地域環境研究グループ統括研究官)
山口直人(国立がんセンター研究情報部長)
米元純三(国立環境研究所地域環境研究グループ総合研究官)

 

I 外因性内分泌攪乱化学物質問題について

1.外因性内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)とは何か

(1)外因性内分泌攪乱化学物質問題

  『外因性内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)』とは、“動物の生体内に取り込まれた場合に、本来、その生体内で営まれている正常なホルモン作用に影響を与える外因性の物質”を意味する。近年、内分泌学を始めとする医学、野生動物に関する科学、環境科学等の研究者・専門家によって、環境中に存在するいくつかの化学物質が、動物の体内のホルモン作用を攪乱することを通じて、生殖機能を阻害したり、悪性腫瘍を引き起こすなどの悪影響を及ぼしている可能性があるとの指摘がなされている。これが『外因性内分泌攪乱化学物質*問題』と呼ばれ ているものであり、環境保全行政上の新たで重要な課題の一つである。

(2)注目されてきたエストロジェン様物質

  人間の体内でホルモンを分泌する内分泌器官はいくつかあり、分泌されるホルモンも多種多様である。主なものとして、男性の精巣などから分泌されるアンドロジェン(男性ホルモン)、女性の卵巣などから分泌されるエストロジェン(女性ホルモン)、副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモン、成長ホルモン、膵臓のランゲルハンス島から分泌されるインシュリンなどを挙げることができる。また、人間と他の脊椎動物(ほ乳類、鳥類、は虫類、両生類、魚類)の内分泌器官の種類、ホルモンの化学的構造−とりわけステロイドホルモン*1−はかなり共通したものであるとされている(表−1及び図−1)。

  内分泌攪乱化学物質問題*2はこれまで主にエストロジェンの正常な作用に影響を与える物質を中心に研究が進められてきた。それは、1930年代に初めてつくられた合成エストロジェン(DES:ジエチルスチルベステロール)が、1960〜1970年代に流産の防止等の目的で医療面で多用された結果、胎児期に曝露された女性の生殖器に遅発性のがん等が発生したことが確認されていること、世界各地で観察された野生動物の生殖行動や生殖器の異常が、DDTなどのエストロジェン類似作用をもつと推定される環境汚染物質によるものではないかとの指摘が90年代に入って相次いでなされたこと、さらに1991年には米国の研究者によって、乳がん細胞を増殖させる実験中に試験器具から溶出したノニルフェノールが、弱いエストロジェン類似作用をもっており乳がん細胞の増殖を促進すると指摘されたことなどによる。

  しかし、専門家が指摘するホルモン作用攪乱のメカニズムを考えれば、それが単にエストロジェン類似作用をする化学物質の安全性議論にとどまるものではないと考えられる。すなわち、他のホルモンの作用を攪乱する物質の存在も当然考えられる。また、正常なホルモン作用が攪乱されるメカニズムも多様であることが科学的にも推論される。

  事実、ごく最近では、米国環境保護庁の研究者らによって、アンドロジェン作用を抑制する物質や、甲状腺ホルモン作用又は副腎皮質ホルモン作用を攪乱する物質がいくつかあると指摘されている。

*1 エストロジェン、アンドロジェン及び副腎皮質ホルモンがこれに該当する。
*2 本書では以下「外因性」を省略して単に「内分泌攪乱化学物質」と称することとする。

 

2. ホルモンについて

(1)ホルモンのはたらき

  ホルモンは、内分泌腺*3から血流に直接分泌されるものであり、その名前は「刺激する」という意味のギリシャ語に由来する。ホルモンは、動物の発生過程での組織の分化、その成長、生殖機能の発達、恒常性等を調節する重要な役割を果たしており、それぞれの種類に応じて異なった器官・組織に作用し、それぞれ特徴的な働きをしている。また、動物が発生し、成長し、生殖活動を行うといった多くの段階で、ホルモンが動物体に及ぼす働き、強さは異なってくる。その語源が示すように、ホルモンは必要な時々や場面に応じて内分泌器官から分泌され、血液等を介して作用すべき組織細胞に達する。あるものは活性化され、細胞核の中にある遺伝子を構成するDNAに直接・間接に指令を送って、動物体内に必要な蛋白質を必要な量だけ生成させ、役目を終えれば分解・消滅する。ホルモンが正常に機能するためのプロセスは極めて複雑であり、これまでに指摘されている内分泌攪乱化学物質がこうした一連のプロセスのどの段階に障害をもたらすかはいまだ科学的には十分判明していない。(BOXI参照)

*3 消化酵素のように分泌管を経由して放出される外分泌に対して、管を経ずに直接血流に放出されるホルモンの分泌などを内分泌という。

(2)ホルモンが機能する仕組み

 ホルモンの種類は、その化学的構造等から、おおまかにステロイドホルモン、アミノ酸誘導体ホルモン*4及びペプチドホルモン*5等に分類される。これらのホルモンはそのままの状態であるいは血液中の蛋白質と結合した状態で血液中を移動し、作用を及ぼすべき体内の組織や器官の細胞に到達すると、その細胞(核)内(上記3種のうちの前2者の場合)あるいは細胞表面(ペプチドホルモンの場合)に存在するレセプターと呼ばれる部位と結合して活性化し、DNAに働きかけて固有の目的を果たす(図―2)。ホルモンの血液中の濃度レベルは極めて低くng/ml〜pg/ml程度(1ミリリットルの血液中に10億分の1グラムから1兆分の1グラムのオーダーで含まれる状態)であるとされる。

  各種の内分泌腺は、通常はフィードバック機構によって一定の安定した状態に調節されている。例えば視床下部は下垂体前葉でのホルモン合成と分泌を調節し、下垂体ホルモンが各種の内分泌腺の作用を調節しているとされ、あるホルモンのレベルが上昇するとフィードバック機構によって当該ホルモンの産生やレセプターの働きが抑制される仕組みが備わっている。この調節機構により一定の恒常性が保たれている。なお、ホルモンは、気候等の環境要因や行動及び情動などによっても影響を受けるとされる。

  ホルモンが体内で過剰につくられたり、不足したりするとそれぞれに対応して病的な症状が引き起こされる。ホルモンの過不足によって起こりうる病気を表−1に示す。

*4 甲状腺ホルモン、副腎髄質ホルモン等がこれに含まれる。
*5 下垂体から分泌される成長ホルモン等の様々なホルモンが該当する。

 

BOX I ホルモンが作用するプロセスとそれが攪乱される可能性
 
  ホルモンが体内で作用するためには大きく分けると次の5つのプロセスが必要となる。
 

 1)

内分泌腺においてホルモンが合成される。
 

 2)

ホルモンは内分泌腺に貯蔵され、必要な時や場合に応じて放出される。
 

 3)

放出されたホルモンは血中を輸送され、目的臓器の細胞に到達するか又は肝臓、腎臓で分解される。
 

 4)

ホルモンが細胞にあるレセプターを認識しそれと結合して活性化される。
 

 5)

その後、DNAに働きかけ機能蛋白の産生や細胞分裂の調整を指示するシグナルを発生させる。
このようなホルモンの一連の作用段階のいずれかに内分泌攪乱化学物質が作用するとすれば、正常なホルモン作用に障害をもたらす可能性があると見られている。1997年7月に公表された環境庁の研究班の中間報告に示されたとおり、これまでの内外の研究結果からは、内分泌攪乱作用を有するのではないかと考えられる化学物質が約70報告されている。この大部分はレセプターに結合してホルモンの作用を攪乱するとされる。すなわち上記の4)の段階で障害を及ぼすと考えられている。しかしこれ以外にも、例えば、ダイオキシン類や有機スズ化合物等は5)の段階に障害を与えるとの指摘もなされており、また、スチレンは脳の下垂体におけるホルモン合成を阻害しフィードバック機構を攪乱する、すなわち1)から3)の段階に障害を与えるものと考えられているなど複雑である。

 

3.化学物質がホルモン作用を攪乱するメカニズムについて

(1)内分泌攪乱化学物質の作用メカニズム

  内分泌攪乱化学物質が動物体内に進入した後、どのような過程を経て正常なホルモン作用を攪乱するのか、あるいは天然のホルモン作用に比べてどの程度の強さで作用するものか等の詳細については必ずしも明らかにされていないが、これまでの内外の研究報告を踏まえれば大方以下のように説明することができる。

  すでに述べたとおり、体内の内分泌腺で合成されたステロイドホルモンは標的臓器に到達すると、レセプターに結合し、DNA(遺伝子)に働きかけ機能蛋白を合成することによって機能を発揮する。ホルモンの種類によって結合するレセプターが決まっていることから、ホルモンとレセプターの関係は鍵と鍵穴の関係に例えられる。内分泌攪乱化学物質の作用メカニズムとしては、本来ホルモンが結合すべきレセプターに化学物質が結合することによって、遺伝子が誤った指令を受けるという観点から研究が進められてきた。内分泌攪乱化学物質がレセプターに結合して生じる反応には、本来のホルモンと類似の作用がもたらされる場合と、逆に作用が阻害される場合等がある。しばしば議論されるPCBやDDT、ノニルフェノール、ビスフ ェノールAなどの化学物質のエストロジェン類似作用は前者の例であり、化学物質がエストロジェンレセプターに結合することによってエストロジェンと類似の反応がもたらされる。後者の例としては、DDE (DDTの代謝物)やビンクロゾリン(農薬)などがあり、これらはアンドロジェンレセプターに結合し、アンドロジェンの作用を阻害する(抗アンドロジェン作用)ことが知られている(図―3)

  また、最近では、ホルモンレセプターに直接結合するのではなく、細胞内のシグナル伝達経路に影響を及ぼすことによって遺伝子を活性化し機能蛋白の産生等をもたらす化学物質の存在も指摘されるようになった。例えば、ダイオキシンはエストロジェンレセプターやアンドロジェンレセプターには直接結合しないが、ある種の細胞内蛋白質に結合することにより遺伝子を活性化し間接的にエストロジェン作用に影響を与えるとされている。
  ちなみに内分泌系の医療用薬剤は、ホルモンレセプターに影響を及ぼすことによって作用を発揮するが、その中には本来のホルモンの作用を増強する物質も存在する。例えば、DESはエストロジェンレセプターに結合し、エストロジェンのシグナルを遺伝子に与え続ける結果、がん化、あるいは妊娠中であれば胎児の奇形等がもたらされることになる。

 

(2)植物エストロジェン

  内分泌攪乱化学物質問題を取り扱う場合に注意すべき問題として植物エストロジェンがある。人工の化学物質以外にも、植物が作り出す天然の物質の中にエストロジェン類似作用をもつ物質(Phytoestrogen)が少なくとも20種類知られている。これらが動物に摂取されると、エストロジェンの生合成や代謝に影響を及ぼし、エストロジェン類似作用と抗エストロジェン作用を及ぼす可能性があることが知られている。植物エストロジェンは、有機塩素化合物などでエストロジェン類似作用を有するとされる化学物質に比べてはるかに多くの量が食事などから摂取されている。植物エストロジェンの人の体内での吸収・代謝機構や健康への影響、内分泌攪乱化学物質と共存した場合にどのような複合影響を及ぼすものであるか等については近時急速に研究が進められつつある。こうしたことから、今後、内分泌攪乱化学物質による影響を検討する場合には、植物エストロジェンについても併せて検討していく必要がある。

 

4.人や野生動物に対する影響に関する報告等について

(1)人や野生動物への影響に関する報告

ア)野生動物への影響に関する報告

  これまでに魚類、は虫類、鳥類といった野生動物の生殖機能異常、生殖行動異常、雄の雌性化の他、孵化能力の低下等が多く報告されている。こうした報告は90年代に入ってから急激に増加している。その直接の原因が作用メカニズムまで遡って逐一明らかにされているものではないが、異常が認められた生物の生息環境中に存在するDDTや界面活性剤の分解生成物であるノニルフェノール等の化学物質への曝露との関係が強く疑われている状況にある。

  内分泌攪乱化学物質による野生動物への影響を指摘する報告の中から主なものをまとめて表−2に示した。ここで見られるように、異常の報告があった野生動物の多くは、水生生物であったり、水辺で生息しているものであるが、中には陸生の鳥類なども含まれている。

イ)人の健康への影響に関する報告

  エストロジェン作用を攪乱する化学物質による人の健康影響に関する議論の原点は、かつて多用された合成エストロジェン(DES)が乳がんなどの悪性腫瘍等を引き起こすという医学的に確かな知見にある。こうした観点から、ダイオキシンを赤毛ザルに実験的に126pg/kg/day程度曝露すると子宮内膜症が発生するという1993年の米国の研究者の報告は、現在も類似の実験がさらに進められているところであるが、ダイオキシンのエストロジェン攪乱作用との関係において注目していく必要がある。

  一方、過去50年間において、人の精子産出量が減少しているという1992年のデンマークの研究者による報告が出されて以来、我が国を含めていくつかの研究チームが精子数の変化に関する研究を進めつつある。現時点では精子の増減傾向について最終的な結論を導くまでにはいたっておらず、また、その直接の原因物質を確定しうる段階ではない。しかし、例えば、フタル酸エステル類を多量(0.3 g/dayのレベル)に投与したマウスやラットでは、精巣停留が生ずるとの報告、ビスフェノールA等を飲み水に加えて(1μg/lのレベル)曝露したラットの雄の子供に精子数の減少等の生殖機能障害が見られたとの報告もあり、今後研究が急がれる分野の一つである。

  また、前立腺がんや精巣がん等の発生、精巣停留等の男性性器の異常の増加についても内分泌攪乱化学物質との関連で科学的議論が進められており、同様に研究を深めるべき課題である。さらにイタリアのセベソの工場事故によって高濃度のダイオキシンに曝露された地区では、その後一時期、出生する子供に女性が多くなったとの報告がある。これを含め、現在、内分泌攪乱化学物質への曝露によって性比が変化する可能性についても研究が進められつつあり、これも留意すべき点である。

ウ)その他の補足すべき事項

  内分泌攪乱化学物質と人や野生動物への影響との関係については、これまでエストロジェン様の作用を報ずる研究が多かったが、最近ではアンドロジェンの作用を阻害する物質、甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモン等の他の種類のホルモン作用を攪乱する物質に関する報告もなされ始めている。例えば、PCB、ダイオキシン等は甲状腺ホルモンの作用を攪乱するとの報告がある。こうした分野の研究報告にも引き続き留意していく必要がある。

 

(2)科学的な知見の不十分性

  以上述べてきたように、内分泌攪乱化学物質問題に関しては、人や野生動物への影響を示唆する科学的報告が多くなされているものの、報告された異常と原因物質との因果関係、そうした異常が発生するメカニズム等に関してはいまだ十分には明らかにされていない状況にある。しかし、環境中には、人及び動物のホルモン作用を攪乱しうる化学物質がいくつか存在することは、かなり確実であるといえる。今後は、本問題の環境保全上の重要性を十分考慮しつつ、指摘されている人や野生動物の異常を検証するために、報告の例数を増やすこと、統計的な解析を深めること、環境汚染状況や環境汚染を通じた人や野生動物への摂取量の把握、影響が発現する作用メカニズムの解明等のための調査・研究を一層深めていくことが求められている。また、現在までに指摘されている約70の物質を含めて、より幅広い範囲の化学物質について、それが内分泌攪乱作用を有するか否か、どの程度の作用力を持つものであるか等を明らかにする必要がある。そしてこのスクリーニング試験方法を、国際的に協力しつつ早期に確立していくことが重要となっている(BOX II参照)

 

   BOX II スクリーニング試験法について

  スクリーニング試験法とは、化学物質が内分泌攪乱作用を有するか否かをふるいにかけ(screening)、さらにどの程度の作用力を持つものであるかを調べる(testing)手法のことである。世界でいくつかのモデルが提案されているが、いずれも段階的にスクリーニングを進めるという点では共通している。例えば、エストロジェン類似作用を有するか否かを判定する具体的な方法として、まず、 i)既存の情報を収集・ 分析し、続いて、 ii)構造活性相関*6 や乳がん細胞あるいは形質転換酵母*7 を使用した(in vitro)試験を実施し、さらにiii)卵巣を除去するなどの処置を加えた実験動物を使用した(invivo)試験を行い、最終的には、 iv)無処置の動物を用いた生活史全般にわたる影響を分析するといった一連のプロセスが考えられている。
  なお、OECDでは国際的に統一されたスクリーニング試験方法のあり方を定めることを目指して、専門家による作業グル−プを設置し、1998年3月から検討が開始された。我が国もこうした国際的な取組に積極的な貢献を果たしてゆくこととしている。また、多数の化学物質について迅速・効率的にスクリーニング試験を実施するには、国際的な協力と分担が必要となるものとも考えられ、国内における試験設備の整備も視野に入れていくことが重要である。

*6 類似の構造を持つ化学物質は、類似の生物学的作用を生じるという知見を利用して、化学物質の構造などの情報をコンピューターで解析する手法であり、既存化学物質の優先順位を決めたり、毒性を予測するのに応用されている。
*7 バイオテクノロジー技術を利用して、DNAの中にエストロジェンレセプターの遺伝子などを組み込んだ酵母のことで、エストロジェン活性の評価にも使用される。

 

(3)人や野生動物への影響を検討するに当たって考慮すべき事項

  内分泌攪乱化学物質による人や野生動物への影響の発生可能性及びその防止対策を検討するに当たっては、環境媒体の汚染を通じて人や野生動物が当該化学物質に曝露する可能性やその攪乱作用の強さ等を考慮した環境リスク評価を鋭意進め、それに基づく的確な環境リスク管理を行うことが重要と考えられる。なお、環境基本法及び環境基本計画の記述から明らかなように野生動物への影響を防止すること自体が環境保全上の重要な目的であり、その観点から本問 題への取組を進める必要がある。この場合、本問題の特徴を踏まえ、以下の点に留意することが必要である。

1)

これまで指摘されている野生動物への影響が人にどの程度当てはまるかを検討する場合、脊椎動物のホルモン作用が共通性をもっていることに留意する必要がある。また逆に、内分泌攪乱化学物質に対する野生動物の感受性がその種類等によって相当程度異なる可能性があることに留意する必要もある。

2)

これまで報告がなされた野生動物への影響についての研究結果によれば、その多くは水生生物であるか、水域と接して生息するは虫類、鳥類等に関するものであることから、影響の発生機構を明らかにし、環境リスクを評価しようとする場合、水域の環境汚染に特に着目する必要がある。

3)

環境中に排出された内分泌攪乱化学物質のその後の環境中での挙動については不明な点が多く、また、環境中で化学的に変化して内分泌攪乱作用があるとされる物質となる可能性も指摘されていることに留意する必要がある。また、環境中には複数の内分泌攪乱化学物質が共存している場合も少なくないと考えられることから、環境リスク評価を進めるに当たっては、こうした複合影響にも十分留意することが重要である。

4)

現在までに指摘されている内分泌攪乱化学物質の作用の強さは一律でなく、例えば、エストロジェン類似作用を持つとされるノニルフェノールは、エストロジェンの100万分の1程度の作用力しか持たないとの米国環境保護庁の報告もある。従って、ホルモン攪乱作用のメカニズムと同時にその作用の強さをできるだけ明らかにする努力を重ねつつ、環境リスク評価を進めることが重要である。

5)

ホルモンが生体内でかなり低い濃度で作用を及ぼすとされていることを踏まえ、環境中に存在する汚染物質としての内分泌攪乱化学物質が環境中で難分解性であり、しかも食物連鎖を通じて体内に高濃度で蓄積するものである場合、あるいは代謝が遅く体外に排泄されにくいものである場合等においては、環境リスク管理上特に留意する必要がある。

6)

これまで多く報告されているエストロジェン作用を攪乱する化学物質は、その影響が特に生殖機能の阻害をもたらすと見られ、また、胎児や乳幼児により深刻な影響をもたらすおそれがあり、しかも、胎児期の曝露による影響が成長した後に発現する(遅発性)可能性も指摘されている。従って、本問題の検討に当たっては、世代を越えた長期的な影響の発生を未然に防止する観点から環境リスク評価及び環境リスク管理のあり方を検討していくことが重要である。

 

5.内分泌攪乱作用をもつと疑われる約70の化学物質について

  環境庁では1997年3月に専門家からなる「外因性内分泌攪乱化学物質問題に関する研究班」を設置し、内外の科学的文献等のレビュー結果及び今後の課題をとりまとめた中間報告を同年7月に公表した。この中間報告の中では、これまでの内外の文献において内分泌攪乱作用をもつと疑われている物質(群)が約70あるとしている。中間報告でも述べられているように、こうした物質は今後の調査・研究の過程でさらに増えていくことが予想され、また、今後の調査・研究の推進によって攪乱作用の強弱あるいは有無が一層明らかにされていくものと期待される。

  ここでは、それらの物質の用途や法令に基づく規制の状況等についてまとめた。なお、これまでの規制措置及び環境モニタリングは内分泌攪乱作用という観点が特別に考慮されたものではないことから、今後は科学的知見の向上を図りつつ再度検討を加える必要がある。

(1)環境保全に関する法令上の規制等の状況

  これらの物質の化学構造は様々であり、用途及び生産・使用の状況においても大きな差異がある。これら物質の40種類以上は農薬の有効成分であるが、DDT、2,4,5-T、アルドリン、ディルドリン、エンドリン、クロルデン等、環境残留性も強く有害性が大きい農薬は1970年代に既に生産・使用が中止され、現在では「農薬取締法」上の登録がないものである。また、トキサフェン、マイレックス等の数種類の農薬はこれまで我が国での使用実績はない。

  一方、PCBのほかDDT、HCB、クロルデン等は「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づき、第一種特定化学物質に指定されており、試験・研究目的等の特別の場合を除き、生産・使用及び輸入が原則禁止されている。有機スズ化合物であるTPT、TBTは1990年に同法により第一種又は第二種特定化学物質に指定されて以降、船底塗料、漁網防汚剤といった開放系での使用が大幅に減少している。

  ダイオキシン類及びフラン類は、我が国では一括してダイオキシン類として「大気汚染防止法」及び「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」においてゴミ焼却施設等の主要な発生源が規制対象とされている。

  プラスチックの原料であるビスフェノールA、プラスチックの可塑剤等に使用されるフタル酸エステル類の一部の物質、界面活性剤であるノニルフェノールエトキシレート(分解によりノニルフェノールを生じる)等はその生産量が年間数万トンから数十万トンと他の物質に比べて多いものとなっている。なお、ビスフェノールAについては食品衛生法において食品容器からの溶出基準が定められている。

 内分泌攪乱作用を有すると疑われる重金属、カドミウム、鉛、水銀は「水質汚濁防止法」、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に基づき規制対象とされているほか、カドミウム、鉛は「大気汚染防止法」上の規制対象物質である。

  こうした法令に基づく規制、生産規模、使用等の状況を表−3に一括して示した。

 

(2)環境汚染状況のモニタリング

  環境庁では1974年から継続して「化学物質環境汚染実態調査」を実施しており、その結果を公表(通称「黒本」)している。本調査は、一般環境(大気、水質、底質、生物等)中の化学物質の汚染状況をモニタリングするものである。本調査において、環境汚染性が問題となる有害な化学物質の中から優先順位の高いものについて実施してきた。そのほかにも、環境庁が自らもしくは地方公共団体において種々の環境モニタリングが行われてきている。この中で、内分泌攪乱化学物質とされる物質のうち47物質については、これまで毎年度継続的にもしくは特定年度に調査が行われたことがあり、その結果24物質が検出されたことがある。その結果については昨年7月に環境庁が公表した中間報告に記載されており、詳細は中間報告に譲るが、例えば、PCBについてみれば、使用が中止されてから20年以上を経た現在でも環境残留性が強く、生物への濃縮度が高いという特性から、底質、生物体中の濃度レベルは容易に改善されていないことがわかっている。また、DDTについては、水質では現在は検出されないが、底質では横這いの傾向をたどっていると考えられる。さらに、フタル酸エステル類のうち内分泌攪乱作用が疑われる5種についてはこれまでの継続的な調査の結果、水及び底質の多くの検体から検出されている。

  なお、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ビスフェノールA、スチレンの2量体及び3量体といった負荷量が少なくないと考えられる物質や、これまで調査の対象とされてこなかった一部の物質に関しては、今後、測定方法の整備を進めつつデータの大幅な蓄積を図る必要 がある。

  一方、環境庁では、規制対象となっている一部の物質を除き、生産・使用量等の発生源情報及び環境への排出経路、排出量等に関して十分な情報をもっていない。このため、今後はこうした環境負荷量に関連する情報を収集するための努力を鋭意進めていく必要がある。

 

6. 世界の取組の動向について

  内分泌攪乱化学物質問題に関しては、コルボーンらが1991年7月に環境ホルモン問題についてのウィングスプレッド宣言を発し、この分野での研究促進を訴え、1996年には「奪われし未来」を世に出したのを契機として本問題への国際的な関心が高まってきた。1997年5月に米国マイアミで開催された8か国環境大臣会合においては、子供の環境保健という議題の中で議論され宣言が発せられた。この宣言においては、「内分泌攪乱化学物質は、“子供の健康へのさしせまった脅威である”という認識のもと、科学的な知見の国際的な評価や、優先順位を付けた研究協力の推進を強調し、内分泌攪乱化学物質の主要な発生源や環境中の運命が特定された場合のリスク管理や予防戦略を協力的に進め、国民に対する情報の提供を促進する」との趣旨が述べられている。

  1997年11月にまとめられた経済協力開発機構(OECD)の報告によれば、この時点で、特別に内分泌攪乱化学物質の作用に着目して法令に基づき環境への排出等を規制している国はないものの、米国、英国を始め各国で本問題への取組が進められている。また、OECDでは本年3月から世界の専門家による作業グループを設け、内分泌攪乱化学物質のスクリーニング試験のガイドラインの国際的な統一を図ることを目指して活動が開始された。こうした取組状況は概ね以下のとおりである。

(1) 諸外国の取組

ア)米国の取組

  米国においては、1996年8月に修正食品品質保護法(Food Quality Protection Act)及び修正飲料水安全法(Safe Drinking Water ActAmendments)が制定され、これに基づき米国環境保護庁は、2年以内に農薬やその他の化学物質で、エストロジェン又はその他の内分泌攪乱作用のある化学物質のスクリーニングプログラムを開発し、3年以内にこれを実施することとなった。スクリーニングプログラムは本年8月に草案がとりまとめられる予定である。なお、米国の科学アカデミー(NAS)は内分泌攪乱化学物質問題に関する報告書を1998年中にとりまとめる予定で現在作業が進められている。

イ)英国の取組

  1998年1月に英国環境省の外庁である環境庁が国民に対して、優先的に取り組むべき研究分野等を提示するとともに、産業界が内分泌攪乱化学物質とされる化学物質の環境への排出を抑制し、代替品の導入等に取り組むことを提案し、広く国民に対して意見を求めている。意見提出の締め切りは本年4月末とされており、それを踏まえ今後の行政的な対応について検討を進めるものとみられる。また、英国環境省においてもプライオリティリストの作成や海洋環境への影響等に関する調査研究などが進められている。

 

(2) 国際機関等における取組

ア)経済協力開発機構(OECD)の取組

  OECDでは1996年11月に、内分泌攪乱化学物質についてスクリーニング手法を含めたテストガイドラインの開発に着手することを決めた。

  1998年3月に専門家による第1回作業グループ会合を開催し、国際的に統一のとれたスクリーニング試験のガイドラインを採択すべく活動を開始した。この会議には19カ国・地域から45人の専門家が出席し、今後の活動の枠組みが決められた。なお、この会合には我が国から4名の専門家が参加している。

イ)化学物質に関する政府間フォーラム(IFCS)

  1997年2月にオタワで開催されたIFCS(Intergovernmental Forum on Chemical Safety)においても内分泌攪乱化学物質問題が議論され、この問題の重要性を確認するとともに、今後の対応として科学的知見が不足しているため、調査研究と各国・国際機関の情報交換を積極的に進めることをIOMC(International Organizationfor Management of Chemical Safety:化学物質の健全管理のための組織間プログラム)を通じて関係機関に働きかけていくことが勧告された。

  1998年3月には、IFCSの勧告を踏まえ、国際的な取組の調整を図るとともに、内分泌攪乱化学物質に関する研究状況の情報収集とその評価を行うことを目的としたIPCS/OECD*8合同会議が開催され、2000年の春を目途に報告書を作成することが定められた。

*8 IPCS: International Programme on Chemical Safety;国際化学物質安全性計画

ウ)残留性有機汚染物質に関する法的文書の採択のための国際交渉の開始

 1995年11月に採択された「陸上活動からの海洋環境の保護に関する世界行動計画」において、12種類の残留性有機汚染物質(POPs: PersistentOrganic Pollutants)*9の環境負荷抑制のための法的な拘束力を持つ文書を採択することについて国際的な合意がなされている。現在検討対象とされている12物質は、いずれも内分泌攪乱化学物質と指摘されているものである。この法的拘束力を持つ文書を作成し採択するための交渉会議は国連環境計画(UNEP)の主導により本年6月から開始される予定である。これは先進国のみならず全世界的なレベルでの本問題への対応の枠組みとして重要なものになると考えられる。

*9 PCB、DDT、アルドリン、ディルドリン、エンドリン、クロルデン、ヘプタクロル、ヘキサクロロベンゼン、マイレックス、トキサフェン、ダイオキシン類及びフラン類の12物質(群)

エ)その他

  現在UNEP主導で採択のための国際交渉が進められている「有害な化学物質及び農薬の国際貿易における事前通報・合意(Prior Informed Consent:PIC)手続きに関する条約」は、有害な化学物質及び農薬の輸出に当たって、あらかじめ輸出国側が輸入国の了承をとりつけることを義務づけるなどにより、有害な化学物質の国際流通を環境保全上適正に管理することを目指すものである。現時点で事前通報合意手続きの対象として提案されている物質には内分泌攪乱化学物質と指摘されているものが含まれており、本条約を早期に採択することは、本問題への国際的な対応を進める上でも重要な要素であると考えられる。

 

II 本問題に対する環境庁の対応方針について

1.基本的な考え方

  内分泌攪乱化学物質問題については、科学研究の分野においてはいまだ緒についたばかりであり、科学的には不明な点が多々残されている。しかし、これまでの科学的知見が指し示すように、人間及び生態系に取り返しのつかない重大な影響を及ぼす危険性をはらんだ問題である。本問題への対応に当たっては、後世代に安全な環境を確保することをめざし、我々がおかれている環境がもたらす様々な経路を通じたリスクを総合的に評価し、それに基づいて有効な対策を策定することが基本となる。このため、一方では、学際的なフォーラムの下で科学的研究を加速的に推進しつつ、行政部局においては、今後急速に増すであろう新しい科学的知見に基づいて、行政的手段を遅滞なく講じうる体制を早期に準備することが必要となる。そして、本問題の特質を考慮すれば以下の点が特に重要な考え方となる。

 

◆行政機関−学術研究機関−民間団体の連携の下に調査・研究を推進すること

  試験研究機関及び大学などにおける基礎的・応用的研究の円滑な推進を支援しつつ、行政判断に必要な環境汚染の状況や発生源に係るデータや情報の収集のための調査を迅速に進め、調査・研究成果が遅滞なく行政措置に反映されるよう努めること。このために環境庁は、地域環境管理者である地方公共団体の環境部局と連携しつつ、民間を含めた研究活動と行政機関との間の人的・組織的なネットワークの構築・強化に努めること。また、民間企業・団体に対して、保有する化学品や発生源等に係る有用なデータ・情報の積極的な提供を呼びかけ、調査への協力を求めていくこと。

◆国際的な調査研究協力及び情報ネットワークを強化すること

  本問題の解決には、多くの分野での調査・研究が一層強化・充実される必要があること等に鑑み、また、各国の協力・協調が不可欠であるとの国際的な認識を踏まえ、調査・研究分野の協力・交流を含めて二国間又は多国間の、あるいは国際機関を通じた国際協力体制を強化しつつ、行政的措置の検討を進めること。

  加えて、先進国等では既に生産、使用が中止された残留性及び生物濃縮性が高い農薬等の化学物質が現在でも一部の途上国において使用されていることから、様々な経路を通じて我が国の環境を汚染する可能性が否定できないことを考慮し、これら諸国への情報提供等を積極的に進め、その環境保全のための努力を支援すること。

◆化学物質による汚染の防止対策の再点検を進めること

 環境庁及び地方公共団体環境部局は、環境汚染防止の観点からこれまで進められてきた各種の化学物質の汚染防止対策及び環境モニタリング体制について、今日直面している内分泌攪乱化学物質問題の特質に照らして再点検しつつ実施面での充実を期するほか、現行の汚染対策の枠組みでは不十分と認められた事項については適切な改善・強化を図るべく検討を進めること。

◆関係する行政分野との密接な連携を確保すること

 環境庁は、各種の環境媒体の汚染を通じて人や生態系にもたらされる環境リスクを管理する観点から本問題への対応を主体的に進めてゆく義務を負っているが、食品、飲料水等の安全性の確保、化学品の安全な使用等、環境リスクの管理に密接に関連する分野の行政を担当する省庁との連携を密にし、相互間の情報交換を促進するともに、施策間の調整を図るための努力を一層進める必要があること。

 

2. 具体的な対応方針

(1)環境汚染の状況、野生動物等への影響に係る実態調査の推進

ア)

内分泌攪乱化学物質による環境汚染の状況と環境への負荷源及び負荷量を把握するとともに、環境を経由して人や野生動物にもたらされる曝露量を推定し、実際的な環境リスクの評価を行うための基礎的なデータ・情報を整備する。

イ)

また、我が国に生息もしくは渡来、回遊する野生動物(とりわけ水生生物もしくは水辺の生物)を対象として、生殖機能、生殖行動等に係る異常の発生実態と体内の汚染状況や血液中のビテロジェニン*10濃度等を全国的に調査し、異常発生と汚染との因果関係を推定する。

ウ)

さらに、いくつかの指標を選定して定期的に観測する「健康影響サーベイランス手法」を用いて、人の健康への影響を継続的に調査する。
なお、これらの調査の実施に当たっては、地方公共団体環境部局のほか、高い専門性を有する医療関係団体や野生生物保護関係団体、環境NGO等の協力を得る。
また、民間企業・団体が有する関連データや情報の積極的な提供等を求める。

*10ほ乳類以外の脊椎動物の肝臓で合成される卵黄前駆蛋白で、体内におけるエストロジェンの影響を計る指標となる。

 

ア)環境汚染状況及び環境への負荷源の把握

i)

環境汚染調査:内分泌攪乱作用が疑われる物質の中から優先的に調査すべき物質(優先物質)をリスト化(指摘されている約70物質等を想定)し、一般環境(大気、水質、底質、生物等)の汚染状況を全国規模で調査する。また、河川水の自然由来及び人工物であるエストロジェン類似物質の測定を進める。

ii)

環境への負荷源及び負荷量調査:優先物質の生産・使用量、環境への負荷源や負荷量、環境中での分解、合成等に関する調査を実施する。

iii)

曝露経路調査:環境中での優先物質の挙動を把握するための調査等を進め、1)、2)の調査結果と併せて解析し、人や野生動物への曝露経路及び曝露量を把握する。

イ)野生動物への影響実態調査の推進

i)

野生動物影響実態調査:優先物質による野生動物の汚染状況を全国的な規模で調査し、併せて各種の方法により、当該生物の生殖機能等における異常の発生を把握する。

ii)

野生動物汚染経路等調査:優先物質の環境汚染を通じた野生動物への移行経路等についても、ア)3)調査と一体的に進める。

iii)

野生動物監視システムの構築:野生動物の代表指標を選定し、生殖機能異常等に関して経年的な変化を把握するための監視システムを構築する。

ウ)健康影響サーベイランスの実施

i)

精子調査:成人男子の精子数及び遺体等から得られる精巣中の精子の形成状況を調査し、これと優先物質等の曝露量との関係において分析・評価する。

ii)

臍帯調査:大学研究室の協力を得て胎児期の曝露の指標として臍帯中の優先物質等の濃度を測定する。

iii)

サーベイランス:医療機関等の協力を得つつ、内分泌攪乱化学物質による影響を把握する上で有用な情報の提供を継続的に受け、その集計・解析を鋭意進める。

 

(2)試験研究及び技術開発の推進

  国立環境研究所において関連研究施設の整備を含めた研究体制の充実を図り、また、国立試験研究機関の公害防止関連の一括計上研究費等を通じて、以下に掲げるような試験研究及び技術開発を鋭意進めることとする。それによって得られた成果を、例えば(1)に示した各種調査の手法に取り入れることにより、あるいは、行政的な取組に当たっての判断材料として活用する。さらに、環境庁は、大学その他の学術研究機関の関連する研究活動を支援する。

ア)試験研究の推進

 試験研究の中でも優先順位が高い課題として考えられるのは次のとおり。

i)

細胞レベルや動物実験による作用メカニズムの解明

ii)

胎児期の曝露による影響発現の解明

iii)

野生動物への曝露と影響の程度を計るためのバイオマーカーの開発・実用化

iv)

人への曝露と影響の程度を計るためのバイオマーカーの開発・実用化

v)

内分泌攪乱化学物質の複合影響の解明

vi)

植物エストロジェンの作用の解明

vii)

汚染された環境の改善・修復等の二次的予防に係る技術の開発

イ)試験法・検査法の開発・実用化

 化学物質が内分泌攪乱作用を有するか否かの判定を行うための試験方法等を、国際的な協力の下に開発・実用化するもので、以下のような研究項目が含まれうる。

i)

構造活性相関による解析手法の開発

ii)

試験細胞により内分泌攪乱作用を判定するスクリーニング手法の開発・実用化

iii)

動物実験により内分泌攪乱作用を判定するスクリーニング手法の開発・実用化

iv)

化学品の多世代影響を把握するための試験方法の開発・実用化

v)

内分泌攪乱化学物質の複合影響の解明

vi)

内分泌攪乱化学物質の高感度分析法等の計測技術の開発・実用化

 

(3)環境リスク評価、環境リスク管理及び情報提供の推進

ア)

上記の(1)(2)に示した調査・研究の成果を踏まえ、内分泌攪乱作用をもつ物質について、優先順位の高いものから環境リスク評価を実施するとともに、

イ)

それに基づき、環境リスク管理のための必要な対策を推進する。

ウ)

また、地方公共団体環境部局等と協力しつつ、新たな科学的な知見、環境リスク評価の結果等の情報を広く公表し、国民の正しい理解を助ける。

 

ア)環境リスク評価の推進

  環境汚染状況、環境負荷源情報、人や野生動物への曝露経路及び曝露量の推定結果に基づき、また、内分泌攪乱作用に関する科学的知見を踏まえ、環境リスク評価を推進する。

イ)環境リスク管理の推進

i)

現行法令に基づく措置の再点検:現行の環境汚染防止のための法令等により使用が制限されてきた化学物質の管理を徹底することはもとより、内分泌攪乱化学物質対策としての十分性の再点検を行い、また、環境リスク評価の結果を踏まえ、事業活動及び消費活動による環境負荷量の低減を図るための必要な措置を社会経済的な観点も含めて検討・実施する。

ii)

PCB等の処理及びダイオキシン対策の推進:使用が中止された後保管されているPCB等の適正処理の促進、ダイオキシン対策5カ年計画の着実な推進を図ることとする。

iii)

環境汚染物質排出・移動登録(PRTR)の導入:環境汚染のおそれのある化学物質の環境中への排出量又は廃棄物としての移動量を登録し公表する仕組みであるPRTR制度の導入に向けて努力を進める。

ウ)継続的な情報の公表・提供を推進

  調査研究により得られた新たな情報を適時・的確に公表するほか、本問題に関する正しい理解を促進するため、地方公共団体、大学研究室や関係学会、環境NGO等の協力を得つつ、パ ンフレットの刊行、講演会やシンポジウムの開催に努める。

BOX III PRTRについて

  PRTR(Pollutant Release and Transfer Register:環境汚染物質排出・移動登録)とは、環境汚染のおそれのある化学物質の環境中への排出量又は廃棄物としての移動量を、事業者からの報告等に基づき登録し公表する仕組みである。PRTRは、環境保全を担当する行政機関が化学物質による環境リスクの管理を適切に進める上で必要なばかりでなく、化学物質を生産・使用する事業者に環境への排出抑制を促し、消費者(市民)への意識啓発にも役立つものとして、国際的にも化学物質対策の重要な手段となっている。
  すでに米国、カナダ、英国、オランダでは法律に根拠を持ったPRTRが導入されており、1996年には経済協力開発機構(OECD)が加盟各国にPRTRの導入に向けて取り組むよう勧告している。環境庁では、1997年6月から神奈川県及び愛知県の一部地域でパイロット事業を実施し、現在その中間報告を公表している。環境庁では広く国民の意見を聞いた上で、このパイロット事業の最終評価結果を8月にもとりまとめ、PRTRの導入に向けて引き続き努力することとしている。
  こうした仕組みは、内分泌攪乱化学物質の環境への負荷量を的確に把握し、その変動に対応した行政的措置を速やかにとる上でも不可欠なものである。

 

(4)国際的なネットワーク強化のための努力

  OECD等国際機関の活動の積極的な支援及び国際共同調査・研究、国際シンポジウムの開催等を進めるとともに、途上国への関連する情報の提供等にも努める。

  1997年5月の8か国環境大臣会合において合意された子供の環境保健に関する宣言を踏まえ、また、OECDで進められつつあるテストガイドラインの作成を積極的に支援するなど国際的な連携・協力の下に調査研究を進めていく。また、本分野で積極的な取組を進めている国々との共同調査研究、国際シンポジウムの開催等を進め、データの比較評価を行ったり人的交流を深めることとする。また、途上国への関連する情報の提供等にも努めることとする。さらに、残留性有機汚染物質(POPs)に関する国際取り決め文書及び有害な化学物質及び農薬の国際貿易における事前通報・合意(PIC)手続に関する条約の採択に努力するほか、その地球規模でのモニタリング活動に積極的に貢献する。

※以上の対応方針は、現時点における科学的な知見その他の情報に基づいて判断されたものであるが、今後の調査・研究の進展等によって新たな知見が得られた場合等においては、環境庁はそれらを踏まえてこの方針がより適切なものとなるよう必要な見直しを行うこととしている。

 

○本文書を作成するにあたって参考とした文献

・環境庁「外因性内分泌攪乱化学物質問題に関する研究班中間報告書」(1997年7月)

・環境庁「化学物質と環境」(各年度)

・US EPA:Special Report on environmentalendocrine disruption:An effects assessment andanalysis(February 1997)

・UK Environment Agency:Consultative Report:Endocrine-disrupting substances in theenvironment:What should be done?(January 1998)

・Arfini G et al.:Impaired dopaminergicmodulation of pituitary secretion in workersoccupationally exposed to styrene:furtherevidence from PRL response to TRH stimulation,J Occup Med(1987)29:826-830

・Soto AM et al.:p-Nonyl-phenol:an estrogenic xenobiotic released from"modified"polystyrene,Environ Health Perspect(1991)92:167-173

・Carlsen E,Skakkebaek NE et al.:Evidence for decreasing quality of semen during past 50years,BMJ(1992)305:609-613

・Rier SE et al.Endometriosis in rhesusmonkeys(Macaca mulatta) following chronicexposure to 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin,FundamAppl Toxicol(1993)21:433-441

・Kelce et al:Environmental hormone disruptors:evidence that vinclozolin developmentaltoxicity is mediated by antiandrogenicmetabolites,Toxicol Appl Pharmacol(1994)126:276-285

・Kelce et al.:Persistent DDT metabolitep,p'-DDE is a potent androgen recepterantagonist,Nature(1995)375:581-585

・Mocarelli P et al.:Change in sex ratio withexposure to dioxin,Lancet(1996)348:409

・Matthiesen P et al.:Critical appraisal ofthe evidence for tributyltin-mediatedendocrine disruption in mollusks,EnvironToxicol Chem(1998)17:37-43

・Davis et al.:Reduced ratio of male to femalebirths in several industrial Countries,JAMA(1998)279:1018-1023



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