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化学物質と環境円卓会議(第5回)議事録

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■日時:平成14年12月27日(金)13:30~16:00
■場所:主婦会館プラザエフ9階(東京都千代田区六番町15)
■出席者:(敬称略)
<学識経験者>
  北野 大 淑徳大学国際コミュニケーション学部教授
  原科 幸彦 東京工業大学工学部教授
  安井 至 東京大学生産技術研究所教授
  <市民>
  有田 芳子 全国消費者団体連絡会事務局
  後藤 敏彦 環境監査研究会代表幹事
  崎田 裕子 ジャーナリスト、環境カウンセラー
  角田 季美枝 バルディーズ研究会運営委員
  中下 裕子 ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議事務局長
  村田 幸雄 (財)世界自然保護基金ジャパンシニア・オフィサー
  <産業界>
  出光 保夫 日本石鹸洗剤工業会環境保全委員長
  河内 哲 (社)日本化学工業協会ICCA対策委員長
  瀬田 重敏 (社)日本化学工業協会広報委員長
  田中 康夫 日本レスポンシブル・ケア検証センター長
  原  洋一 (社)日本自動車工業会環境委員会副委員長 菅裕保代理
  横山 宏 (社)日本電機工業会地球環境委員会副委員長
  小林 珠江 日本チェーンストアー協会環境問題小委員会委員
  <行政>
  西郷 正道 農林水産省大臣官房技術総括審議官 大森昭彦代理
  片桐 佳典 神奈川県環境科学センター所長
  松田 勉 厚生労働省大臣官房審議官 鶴田康則代理
  仁坂 吉伸 経済産業省製造産業局次長
  南川 秀樹 環境省環境保健部長
   (欠席)  山元 重基 日本生活協同組合連合会環境事業推進室長
  司会(事務局)  安達一彦 環境省環境保健部環境安全課長
■資料:
○事務局が配布した資料
資料1  リスクコミュニケーションに関するOECDガイダンス文書(要約和訳) [PDF(175KB)]
○事務局が配布した参考資料
参考資料1  OECD Guidance Document on Risk Communication for Chemical Risk Management(原文) [PDF(428KB)]
参考資料2  第2回会合浦野資料 化学物質に関するリスクコミュニケーションについて [PDF(880KB)]
参考資料3  第2回会合神沼資料 化学物質と環境に関するリスクコミュニケーション [PDF(198KB)]
参考資料4  第2回会合宮本資料 [PDF(1,060KB)]
参考資料5  第4回化学物質と環境円卓会議議事録(メンバーのみ配布) [HTML]
○円卓会議メンバーが配布した資料
崎田資料 「化学物質と環境に関するリスクコミュニケーション事例」
~パートナーシップで創る、快適環境のくらしとまち~ [PDF(301KB)]
南川資料 化学物質と環境に関するリスクコミュニケーションの取組(環境省) [PDF(189KB)]


■議事録

(安達)只今より第5回化学物質と環境円卓会議を開催します。会議に先立ちまして、これまでの経緯を簡単に説明します。この化学物質と環境円卓会議は、小泉首相の提唱で始まった「21世紀環の国づくり会議」の報告書の中で、「化学物質による環境汚染に関する国民の不安を解消するためには、行政、産業、市民が情報を共有し、共通認識を持って合理的な行動がとれるような社会的枠組みを作ることが必要である」との提言を頂き、これを環境省なりに受け止めた結果として設立したものであり、昨年の12月に第1回会合を開催しました。
 第1回会合では、この会議設立の主旨を説明した後、メンバーにそれぞれの立場から化学物質と環境に関わるコメントを頂きました。なお、その際にこの会議においてメンバーは“さん”づけで呼ぶ、発言は組織・機関等を代表したものではないという2点について合意されました。第2回会合では、リスクコミュニケーションについて浦野紘平先生(横浜国立大学大学院)はじめ、3名の専門家に話を伺いました。本日の参考資料はこの会合で配布された資料です。その後、地域フォーラムを神奈川県と滋賀県で開催し、地域の方々のご意見等をうかがう機会を設けました。第3回会合では、会議の進め方、議題について議論しました。その際、地域フォーラム、インターネット等を通じて、一般の方からも本会議で話し合って欲しいテーマを集めました。非常に多種・多様な意見があったため、「化学物質管理」、「リスクコミュニケーション」、「予防原則・未然防止等の考え方」の3つのテーマに大くくりしてご議論するということになりました。このうち、度のテーマについて議論するかということについて、第3回では意見の一致を見なかったため、第4回会合の冒頭で最終的には多数決という形で「リスクコミュニケーション」について話し合いを持つことになりました。第4回会合では、個別の情報と集合としての情報について議論していただきました。以上、概要のみ申し述べました。
 本日の司会は安井さんにお願いしています。よろしくお願いします。

(安井)只今、安達さんから第1回~第4回までの経緯説明がありましたので、本日の位置付けが共通概念として持てたと仮定して進めさせていただきたいと思います。
 それでは、まず本日の資料の紹介と代理出席の確認を事務局にお願いしたいと思います。

(安達)では、出欠の確認をさせていただきます。本日は、山元さんが欠席です。また、菅さんの代理として原さんに、大森さんの代理として西郷さんに、鶴田さんの代理として松田さんに出席していただいています。
 続いて資料の確認ですが、まず議事次第、資料1が「化学物質によるリスク管理のためのリスクコミュニケーションに関するOECDガイダンス文書(和文要約版)」、メンバーからの配付資料として崎田さん資料南川さん資料、参考資料1としてOECDガイドラインの原文、参考資料として第2回会合の配付資料があります。なお、参考資料5の第4回議事録はメンバーのみの配布としていますが、環境省のWEBに掲載する予定です。

(安井)メンバーの方から提出された資料は、後で説明していただく時間をとりたいと思います。それでは議事に入ります。前回は集合としての情報と個々の事業者あるいは事業所に関わる個別の情報の提供方法や信頼性など、様々な問題がありますが、取り敢えず情報の整備、提供の仕方についてご意見があればお願いします。

(田中)必ずしも情報の整備についてではありませんが、前回環境報告書に関してメンバーの意見を聞くことができ、これから更に研究をしていかなければならない問題をいただいて大変有り難く思っています。その中で、我々が調査した結果を報告したいと思います。  
 まず、環境報告書には全くネガティブなデータがないということでしたが、様々な報告書を見るとかなりの情報が書かれていました。例えば、化学物質の排出量が増加した、廃棄物量が増加した、省エネの目標が達成できなかったことや苦情について報告書に書いている企業もありました。安全成績が悪化した、土壌汚染が基準を越えてしまい今後の対応等についても書かれており、全くネガティブデータがないという状況ではありませんでした。しかし、残念ながら全くネガティブ情報を載せていない企業もありましたので、今後もそのような点で改善が必要だと思っています。また、この会議で得られた意見は、日本化学工業協会(以下、日化協)内で行う実務担当者の会議で報告し、意見の反映を依頼しています。
 市民の意見が入っていないということでしたが、現在努力しているところで、報告書にアンケート票等を挟んで意見を頂くようにしています。例えば、内容が分かりにくいという意見を頂いたら、イラスト化などの工夫をしている報告書もありますので、我々の努力に関しても若干評価していただければと思います。

(後藤)私自身は環境報告書の内容はかなり信頼性が高いと思っています。ところが、一般的にはかなり疑いを持っている人もいます。特に、サラリーマン層の男性で環境に携わっていない方の信頼性が低いという調査結果があることを前回お話しました。私自信はネガティブ情報が載っていることも知っていますし、信頼性が高いと思っていますが、世の中一般に信頼性を高めていくためには、どういうことが必要なのかを考える必要があると感じています。

(安井)具体的な提案は?

(後藤)それは難しいですが、様々な取組の組み合わせの上で信頼性を高めていくということになると思います。もちろん、企業によっては第3者機関の認証を付けたり、監査法人に計算過程をチェックしてもらう、最近はステークホルダーダイアログを試みている企業もあるようです。まさにそれこそがリスクコミュニケーションだと思いますが、それを続けることが個別事業者にますます求められることだろうと思っています。

(河内)個別の事業所からの排出量などを報告する場合、説明の対象となる方は比較的地域住民に限られていますが、そういう方々を対象にして信頼を得るための方法であれば、工場の状況説明をして信頼を得るという方法あります。恐らく、どの企業も工場単位で報告書を作成して地域説明会を開いていると思います。ところが、マス情報、企業全体での状況等は1企業の努力では難しいため、どこかがまとめて報告する必要があり、そうなるとそれは行政が行うべき部分が多くなると思います。企業は団体としてデータを集約してまとめていますが、公表する対象が非常に幅広いため、どういう形で、どのように、誰に公表すべきか方法論を見いだせません。企業も取り組み、行政も取り組むという形で行う必要があるだろうし、NGO・NPOもそれぞれの立場で情報発信するという中で、お互いの信頼を作り上げていくことが必要だろうと思います。

(安井)これに対して、直接の意見があったらお願いします。

(中下)確かに企業の立場で努力する部分と行政、NGOの立場で努力する部分はあると思います。立場が違うからこそ情報の信頼性が高まってくるだろうと思います。一般的にどのようにすれば情報が信頼を持ちうるかを考えると、一つは情報を発信するメンバーに信頼性があるかどうかだと思います。例えば、企業から発信する情報であっても、発信元にNGOなりが参加するといったメンバーの中立性の担保が一つだと思います。次は、発信プロセスの透明性の確保です。どのようにして情報を入手し、どのように解析し、どのように発表しているかが透明であることです。3つ目が、そのようにして公表された情報であってもチェックできることです。我々NGOでも公表されたデータをチェックすることは必要だと思います。両方のデータが同等の精度を持っているかどうかをチェックできるシステムとして3つの要素は欠かせないと思います。このようなシステムは、行政も含めて整備していく必要があると思います。

(安井)今頂いた意見は、中立性の担保やプロセスの透明性は何とか出来るかもしれませんが、情報のチェックは個別情報かマス情報かで違ってくると思います。何か補足の意見はありますか?

(南川)信頼関係の構築が必要な場合は二つあると思います。一つは環境報告書や環境会計といった日常的な活動に関する問題について、いかに周囲の理解を得ていくかです。もう一つは、もう少し問題が具体化して、個別の揉め事等についてどのように結論づけていくかです。前者に関しては、国際的にも勉強の会合があって、その場である程度国際的な相場観も出てきますし、それを国内にフィードバックして各国が対応し、できるだけ広めていくことも出来ます。どちらかと言うと、制度論というよりは普及・広報等によって相場観を作り、その中である種の暗黙の了解によりルールを作るという方法が一般的だと感じます。後者に関しては、ごみ処理施設の立地問題や公害健康被害の扱いなどがあります。例えば、公害健康被害に代表される水俣の問題は、事業者、市民ともに不信感の塊になってしまい、結局は皆が裁判で疲れ果てて、裁判の続行が不可能になったため、最後は政治的解決で取り敢えず幕を下ろしました。現在揉めている大気汚染に絡む補償の場合、結局は沿道周辺の大気汚染と健康調査の結果は固有名詞を除いて全て公表するため、粛々と調査を進め、因果関係について様々な方に判断してもらうという手法を取っています。また、ゴミ処理施設の問題はもっと難しく、公的には国と自治体が一緒に行うことになっていますが、実際は自治体が主体で許認可を行っています。その際、住民投票等を行いますが、ごみ処理施設の周辺住民を対象にすれば圧倒的に反対になりますし、全県民を対象にすれば結論が変わります。これについては、アセスメントを行う等のルール作りを行っていますが、最後は首尾一貫した姿勢やデータ公開により必要性を理解してもらう形で進めるしかないと思っています。制度としてやることと個別の信頼性を確保するためにやることは、別の判断が入って結論が出ることだと思います。後者については、法律的な手当も当然必要になってくると感じています。

(角田)環境報告書の情報の信頼性についてですが、読み手の方が情報を信頼するには、自分が知りたいことがわかる、他の事業所と比較ができる、年次的に対策が進んでいる事が分かる、正直に報告している等さまざまな要素があります。一つは、情報を公開する段階で、法律や公的なガイドライン、制度で数字自体が一律な形で出されていることが分かれば信頼が高まります。昔は自治体に報告しているから公表していると言っていた企業が、今は自主的に環境報告書へ大気、水質、土壌の汚染状況や県条例や自主的基準も含めて比較できるように書いてあるということで、読み手の信頼が高まるような努力はされています。しかし、比較できるようなデータの出し方をしているのは極々先進的な企業だけなので、もっと多くの企業に客観的に比較できる方法で情報を公開して欲しいと思います。
 また、環境省では事業者の環境パフォーマンス指標等を検討されていますが、パフォーマンスの出し方を統一できるような制度にすることが情報の信頼性の大きな進展につながると思います。
 また、業界団体の役割もあると思います。昔、カナダの化学工業会がフォーマットを揃えて工業会加盟の中小企業の環境パフォーマンスを他社と比較できる形にまとめた報告書を公表していました。化学業界では大きな企業は自分たちで報告書を作成し、工場レベルのサイトレポートも公開していますが、必ずしもすべての企業が環境報告書を出せるとは限りません。業界団体で例えば有害大気の進捗状況などを把握しているのであれば、そのデータをもとに業界団体としてもう少し具体的な報告ができるのではないかと思っています。是非検討していただきたいと思います。

(河内)PRTR関連のデータは、業界としてまとめて厚い報告書を公表しています。個々の企業名等も載せた、更に具体的な公表を求めていらっしゃるのでしょうか?何の目的でデータ開示を求めているかがもう少し明確になれば、それなりの対応は出来ると思います。
 また、先程から報告書に掲載されている数値の信頼性の話が出ていますが、データを一番良く理解している従業員が全て見ています。内部告発が当たり前になっているので、虚偽の報告は出来ません。世の中どんどん変わっているので、そのような時代認識もしていただきたいと思います。

(片桐)今、個々の企業名も含めたデータの公表という意見が出ました。確かに業界団体としてもそのような公表は行っていかなければならないと思いますが、逆にNGOの方々はどのようにデータを捉えていくのでしょうか?住民に啓蒙する等の活動を進めていく上で、住民団体の皆さんも何らかの活動をしていくことが必要だと思います。行政も、行政として出来る限りのことはしていかなければならないと思いますが、それぞれの立場から様々なトライをしていく必要があると思います。

(角田)例えばここに出席されている方の企業では、自社で立派な環境報告書やサイトレポートを作成されていると思いますが、住民の立場からすると環境報告書を作成していないい企業は一体何をしているのかわかりません。もちろんNGOがそれを個々の企業に求めていきますし、コミュニケーションしていきます。しかし、業界団体がまとめた情報は信頼性のある情報として見ることができるので、その中から自宅近くにある企業のデータを見ることができれば参考になると思います。
 また、従業員が数値を見ていると言われましたが、私は企業が出す情報が全く信用できないと言っているわけではありません。ただ、出す情報が企業によってバラバラで、それぞれの計算根拠で書かれているため、読む側からすると使えない情報になっています。そうすると、やはり情報自体がある程度統一した計算根拠、対象範囲で出ているということが情報の信頼性を確保することになるのではないかと申し上げたわけでございます。

(田中)会場の入り口に日化協の資料を置いていますが、PRTRの対象物質の大気、土壌への排出を掲載していますので見ていただきたいと思います。中小企業の問題は、我々のようにレスポンシブル・ケアに取り組んでいる者にとっても重要な問題で、支援をしていく必要があると思います。しかし、日本の環境を考えると除外してもよいレベルの排出量までは集計しなくてもよいと思います。もし、小さな事業所から排出が多ければ業界団体が支援していかなければならないと思いますが。

(中下)先程、企業が虚偽のデータを出すということはないという話がありましたが、東電や日ハム、三菱自動車のリコール問題など毎年のように立て続けに事件が起こっています。それについてはどう考えていますか?なぜ、そのような問題が起きたと考えていますか?

(河内)それは、企業モラルの問題だと思います。世の中から犯罪を無くすことが出来ないように、そのような問題が100%起こらない社会にすることは難しいと思います。

(中下)だからこそ、チェックシステムが必要なんです。自分たちの主観的努力だけではクリアできない問題があるのではないかと申し上げているのです。

(河内)だから、日化協でも第3者の監査システムを作ろうとしています。努力をしていないわけではなく、ベースとして時代が変化しているということです。

(安井)特に、化学工場からの大気への放出は、実を言うと一番のリスクを社員が背負っています。東電や日本ハムの場合、社員が被害者になりませんが、化学企業の場合は社員が被害者になり得ます。その差があると思います。

(後藤)田中さんへの反論になりますが、PRTRの議論の際に、中小企業からの排出は1事業所当たりで言うと大企業よりも小さいのは確かですが、会社数が圧倒的に多いため、総排出量は結構多いという話が前回浦野さんからあったと思います。しかし、中小企業が環境報告書の作成や第3者監査の必要性を自覚して実施するのは無理です。環境省の昨年の調査で、環境報告書を公開しているのは約580で、サイトレポートを含めるともっと大きな数になります。今年は900~1000社が公開すると言われていますが、日本には企業が何十万社とあります。もちろん全ての企業が化学物質を扱っているわけではありませんが。そのような企業が、どのような形で社会とリスクコミュニケーションを行っていくかを考えると、個々の企業が自主責任で行っていくというのが本来の自由主義の考え方ではあります。しかし、日本の場合は形を作らないとなかなか入れません。全ての企業が自覚を待って、それぞれの自己責任で行うことは中小企業にとって難しいようです。現在環境省でエコアクション21の改訂を行っていますが、これも一つの形です。それらを活用し、中小企業が情報整備し、場合によっては何らかの形で公表していく。業界団体の方々が独自のものを作ってそれを推進していくという形にしないと、中小企業には難しいと思います。

(安井)例えば、日化協の加盟企業で、日本全体の排出の何割を占めているのですか?

(田中)個々の物質で違うと思いますが、出荷金額で見ると8割くらいをカバーしています。企業数は圧倒的に中小企業が多いので、中小企業の総排出量が大企業のそれを上回るようであれば、新たに考えていかなければならない問題です。近々、第1回のPRTRデータが公表されるので、その中から新しい研究課題を見つけていきたいと思います。

(崎田)情報そのものとコミュニケーションそれぞれについて、信頼感を醸成することは必要だと思います。私は後者について意見を述べながら、前者にどのようなフィードバックをかければ、前者、後者共に上手くいくのかのヒントになればと思い、情報提供させていただきます。本日提出した資料で最終的に申し上げたいのは、事業者の排出と市民の生活の両方が環境浄化能力を超えてしまったという共通認識の上で、皆がどのように取り組むかを考えるには、情報の提供やコミュニケーションが非常に大事になるということです。いわゆる相互交流です。これを行うには、ともにパートナーシップ型の組織作りやきっかけ作り、全国レベルでも地域レベルでもそうですが、事業者の方と市民と行政が皆で智恵を出し合いながら状況を作ることがとても必要だと感じています。これを進めるには、多くの生活者の意識を高めていくような普及啓発や子ども達への環境学習を増やしていくこと、それを行う人材を確保することが非常に重要だと思います。これは、南川さんが提出された資料の裏面にある図とほぼ同じ事になります。この図にあることをどのように現実で進めるかが今問われていることではないかと思います。
 私がこのような話をするようになったきっかけとして、一般消費者の認識で私が一番納得したデータをp2に転載しました。「3.生活者の現状認識を理解する上での参考資料」として、「生活者の環境意識と行動」調査の結果を載せています。ここで、最初に関心のある環境項目を20挙げて聞いていますが、「ダイオキシン・環境ホルモン等有害化学物質による汚染」が61%で、30代の既婚女性が多く選択していました。やはり、妊娠、出産、育児、家事を通じて関心が高くなっていると思います。これに対して、意味を知っている環境用語を聞いたところ、省エネ、リサイクル、ダイオキシン、環境ホルモン等言葉そのものを知っていると回答した人は非常に多かったのですが、最近の企業の環境活動に関連する環境アセスメント、環境ラベル、環境報告書に対する知識は非常に低く、環境家計簿、グリーンコンシューマー、3Rといった消費者の意識行動につながる用語の知識度は更に低くなっていました。実際にどんな行動をしているかという問いに対して、電気を消す、ゴミを分別するといった回答は多かったのですが、環境配慮商品をチェックするといったことはあまりされていません。現実の企業活動や消費者が取るべき行動についての知識・情報が非常に少ないため不安感が非常に強くなっていると思います。ですから、ここに的確な情報やお互いの気持ちを交流させて納得するようなコミュニケーションが非常に必要だと感じています。
 次のページに「情報共有とコミュニケーションのための場作り、仕掛け作り、事例」として、1997年に環境ホルモン問題が非常に取り上げられたときの事例をご紹介します。1年間連続で様々な立場の方に学習会に参加してもらった結果として、違う立場や違う視点で関わっている人々から多様な意見を伺う、また一方通行ではなく質疑応答の時間をとるコミュニケーションが大変役に立っているということが分かりました。また、参加者と学習会企画側の共通認識として、影響評価の定まっていない物質の場合は、自分たちが積極的に学び、情報入手して考え、判断するという場を持っていくことが必要であるということも結果としてはっきり出てきました。それで、自分たちの生活の中で化学物質とどのように暮らしていけばよいのか自分で考えていこうという意見が大変強く出てきました。
 その結果として、もう一つ強く出てきたのが、4に挙げています産業活動の担い手である事業者の方と生活者とがもっとコミュニケーションをしていかなければならないのではないかという意見です。その団体は、次の年に1年間企業と市民のコミュニケーションに的を絞ってこのような連続の勉強会を開催しています。物作りの担い手と使い手がコミュニケーションをしていくと、現実の生活や現実の地域をどうするかという動きが起こってきました。更に、そのような動きを応援するような仕組みを作ろうと発展していきます。大元に的確な情報とコミュニケーションがあれば、多くの市民が自分たちで考え、自分たちの暮らしを作っていこう、企業の方とコミュニケーションしていこうという雰囲気が生まれてきたのです。
 次のページに事例2として、「『暮らしや町の化学物質情報』の住民に分かりやすい発信・共有と、環境学習」と書きました。先程、大きな意味で情報交流ができたときに、現実の地域社会や暮らし、事業者との信頼関係にどのように活かすかがとても重要になってくると申し上げましたが、地域社会では様々な取組がなされています。例えば、いま化学物質に限らず様々な人々がコミュニケーションするパートナーシップ型のネットワーク、地域ネットワークを作ろうという動きが各地で強くなっています。ここでご紹介するのは、そのような流れの中で化学物質情報をできるだけたくさん流し、コミュニケーションしていこうというモデル事業で、新宿の環境情報ネットワークと東京都の有害化学物質対策課、新宿区環境保全課が今取り組んでいる事例です。このネットワークでは、この1年間、内容として1~6の勉強会や地域活動に必ず環境省が開発したエコプラントゲームを実施することとしています。ネットワークの運営側には企業、市民、行政がいるので、みんなで考えていく、それを当たり前のように話し合える雰囲気が生まれてきます。今後はこのようなコミュニケーションの方法を区内全域の学校の先生を対象に、指導者研修のような形も加えて情報発信することに取り組んでいます。
 化学物質に限らず、企業、消費者、行政がコミュニケーションしていこうという動きはここ数年で大変強くなっていますので、そのような所に積極的に情報を流していくということも非常に重要だと思います。また、PRTRにより都道府県や市町村の取組も増えてきました。今までの情報では分かりづらい、足りないという現実もあるので、今までの流れから発想を転換して、一緒に情報を流していく方法を考える時期に来ているのではないかと思います。
 最初にお話ししたことを最後のページにまとめておきました。今、現実の社会がかなり動き始めているので、皆で情報を共有することで信頼感を高め、情報そのものの信頼性も高めていくことが新しい仕掛けの中で生まれていく時期に来ているのではないかと感じています。

(安井)例えば、環境ホルモン、ダイオキシンの環境情報は陳腐化するのが非常に早くて、2002年の間にも我々が持っている環境ホルモンの情報は何倍にも増えています。特に有害性の情報ができあがりつつある状況なので、継続的に情報を出さないと、すぐに情報そのものが陳腐化してしまいます。残念ながら、メディアが流している情報は最新のものではないので、この辺りをどうするかが問題です。行政がやるべきなのか、我々のような専門家という中立な立場の人間がすべきなのか非常に難しいところだと思います。ご指摘ありがとうございます。

(有田)私は神奈川県に住んでいまして、角田さんも一緒にPRTRのパイロット事業の時から行政の方と一緒に市民とワークショップをしてきた中で、崎田さんのまとめに近いところがあると思いました。ただ、リスクコミュニケーションについて、このような場で共通認識ができればよいという思いもありますが、まだリスクコミュニケーション自体の理解がずれていると思います。リスクコミュニケーションをしたら企業に騙されるのではないかと思っている方もいると思いますし、リスクコミュニケーションはものごとを決めるためのものではないと発言される人もいます。そこで、リスクコミュニケーションがこれからの世の中に必要だということが共通認識になっているかどうかを伺いたいと思います。私は必要だと思っています。例えば私が所属しているある生協から、来年の始めから連続講座で化学物質を取り上げるため講師を紹介して欲しいとの依頼を受けました。以前はレスポンシブル・ケアの事務局の方にお願いしましたし、今回はある企業の化学物質担当者にお願いして学習会を行います。もちろん、講師の方はマイナス情報を流しながら企業が起こしてきた様々な事故のことを反省しつつ、化学物質の現状についてお話をしてくださる、リスクコミュニケーションとはどのようなものかを理解した上で話をしてくださるという信頼関係の上でお願いしていす。リスクコミュニケーションは必要ないと思っているメンバーはいないと思っていますが、どのように考えていらっしゃるのか一度聞いてみたいなと思っています。判断はコーディネーターにお任せします。

(安井)化学物質は何万種類もあって、既存化学物質についても全ての毒性情報が分かっているわけではないという状況です。結局はこの辺で良いのではないかという点を皆で相談して決めるしかないと思います。絶対的事実が分かっていれば、「こうだ!」と突っ張ればよい話ですが、人によっては絶対的事実が3割しか分かっていないと言う方もいます。私の個人的意見では、危険な化学物質については、全体の7~8割分かってきているのではないかと感じていますが、その辺の感じ方が皆さん違うのではないかと思います。

(仁坂)今日の話の中で、特に中下さんと河内さんの議論を聞いていますと、リスクコミュニケーションにはレイヤーがたくさんあるのではないかと感じました。リスクコミュニケーションは、リスクが様々です。例えば角田さんは分かりやすい形で情報を整理して出すようにとの事でしたが、我々行政の立場から言いますと、その情報がどうして必要なのかという議論が一番始めにされるべきだと思います。我々は色々な規制法を持っていますし、化審法のような最後の砦というべき法律も持っています。また、PRTRのように集計情報だけではなく、個々の情報を実際に公表できる法律も持っています。しかし、環境報告書には、それら法規制を100倍くらい越えたことが書いてあると思います。なぜ、そのような事をしているかというと、自分たちが良い企業であると言いたいからだろうと思います。リスクは様々です。絶対に守らなければならないリスクが一つあり、それについて規制の体系があり、情報公開の体系があり、更に企業が守っているかを監視するという意味で、市民の方々が目を光らせています。嘘をつくとすぐばれるし、行政がインチキするとすぐ怒られる。これは非常によい状況だと思います。このようなレベルの情報であれば、制度を作って統一的な手法で誰でも見ることができ、それについて様々な人が議論すればよいと思います。これが第1のレイヤーのリスクコミュニケーションだろうと思います。
 その次のリスクコミュニケーションですが、企業が出す環境報告書には、市民社会の中で受け入れられるような自己主張していくという要素がたくさん入っています。どうしたら受け入れられるかについては、様々なコンサルタントや監査法人があり、手法もたくさんあります。これらが皆パフォーマンスを巡って競争すればよいと思うのです。報告書を作るからには受け入れられた方がよいし、どのようにするかは企業が決めればよい、企業の間違いを見つける方も見つける腕の良い人ということで尊敬されればいいし、それを専門に商売する人が出てきてもいいと思います。それは、行政が方針を決める話ではなく、マーケットでそれぞれのパフォーマンスを競って、認められるところへどんどん寄っていく。例えば、A社の環境報告書の作り方、リスク開示の方法が大変立派なら、その企業は人気が出て、あの企業の言うことだったら間違いないと思われるのであれば、企業の人たちはみなそっちの方に寄っていくだろうと思います。従って、リスクとリスクコミュニケーションの在り方を1対1で決めるのではなく、リスクの種別によって最も良い方法があるだろうと思います。基本的には正直にと差し支えない情報は全て開示し、大いに議論することが必要です。悪いことをしない、安全な方向へできるだけ持っていく事が一番の前提だろうと思います。

(村田)有田さんの問いに対して、我々が今までここで行ってきたリスクコミュニケーションでは△だと思います。前々回、あんこと皮の話をしましたが、今までここで議論してきたリスクコミュニケーションは皮の部分で、中のあんこが見えない。一般的に化学物質のリスク評価には3つのステップがあると思います。まず、どんなリスクがあるのか。調べるリスクを明確にすることです。次のステップでは、実際のリスク評価をする。科学的なプロセスですが、どれだけのハザードがある物質にどれだけ暴露しているかです。最後のステップが、どのように管理するかです。以上のステップを経て、最終的にこの化学物質は我々の社会でこのように管理していきますという答えが出ると思います。ここで今まで行ってきたリスクコミュニケーションは、その結果をどうコミュニケーションするかということだけのように受け取れます。もっと広義に、それぞれのステップでコミュニケーションしながら、最終的に社会でどのように管理すべきなのかを決めることができたら○だと思います。今言ったのは、単に一つの化学物質のプロセスですが、これを工場という場面に置き換えることもできると思います。通常、工場でのコミュニケーションは工場の管理方法を伝えるという方法ですが、更に上のステップを目指して、今工場でどのような物を作り、どのような状況にあるのか、それぞれのプロセスで開示できない情報はあると思いますが、その中で意志決定し、合意を作りながら、最終的にその地域におけるリスク管理の方法を決めるようなコミュニケーションの方法であれば、本当のリスクコミュニケーションだろうと私は思います。

(安井)今恐らく重要なご指摘を頂いたと思います。最初に3つのステップにわけて、それぞれのステップにおいてコミュニケーションが必要だということでしたが、2番目のリスク評価はかなりピュアにサイエンスです。このような場でもコミュニケーションが必要だという意味だと理解すればよろしいですか?

(村田)そうです。

(後藤)仁坂さんと村田さんの話しに関連しますが、私は日本社会の中で大前提としての認識がまだ欠如していると感じています。というのは、リオ宣言の第10原則で、環境問題の解決は市民が意志決定に参加することで最もよく解決されると書いてあります。日本の高度成長を演出した政官財のトライアングルの中には、市民が欠如しています。政官財のトライアングルは、色々な意味で今崩れつつあるので、ここで市民の参加によって最もよく解決されるという社会システムを作るには、リスクコミュニケーションは必須のものなのです。それは、村田さんの仰った3つのステップも含めて、全ての場所に市民参加がなければ、最もよく解決されないというのが世界的な合意で、そこの合意が日本の社会でまだまだ欠如しているのが一つの大きな問題だろうと思っています。

(瀬田)有田さんのご質問は、多分企業に向けられたものだろうと思います。確かにリスクコミュニケーションを敢えてここで話題に出させていただいたように、まだリスクコミュニケーションの姿を理解できていないと思います。浦野さんのご指摘によって、随分新しい概念が入ってきましたし、それに合わせてリスクコミュニケーションというものを我々の環境報告書も含め、市民の方々、住民の方々、あるいはもっと広く消費者の方々に対して広く語りかけていく、受け入れていく、要望に応えていくということが今ようやく始まったという事だろうと思います。ここ何年かの環境報告書をご覧頂ければ分かると思いますが、着実に進歩していると思います。リスクコミュニケーションの世界でも、世の中はどんどん進歩していますので、今多くの会社は一生懸命フォローしていこうとしていると思います。従って、最初のご質問にあったリスクコミュニケーションを重要に思っているかどうかという質問に対してのお答えですが、リスクコミュニケーションを抜いた事業活動はあり得ないと全部の企業が認識していると思います。ただ、何人かの方からご指摘がありましたように、会社による遅れや進み、大手企業か中小企業かという違いがありますので、全て一律の答えとしてだすことはできませんが、いずれにしても私は着実に進歩していると思っています。

(有田)どの段階でもリスクコミュニケーションが必要だと村田さんが仰いましたが、私もそうだと思っています。食品の安全性の分野でもそうですが、色々なところでリスクコミュニケーションが必要だと言われてきています。一番進んでいるのが化学工業協会の企業の方で必要性を感じているだろうという理解はしていますが、それ以外の業種の方がなかなか進んでいないようです。以前、たまたま全国の自治体の方にお話しする機会がありましたが、そこで自治体ではリスクコミュニケーションが必要ないと思っている方が多いのではないかと感じましたので、この円卓会議から発信して認識が広がればよいと思っています。

(中下)リスクコミュニケーションは何のためにするのかということですが、先程安井さんが仰ったように、分かっていないことが多すぎるからです。化審法の改正問題に少し関わらせていただきましたが、そこで分かったことは既存化学物質が2万種あり、毒性チェックされているのが191物質に過ぎないということでした。安井さんは7割くらい分かっていると仰いましたが、私はほとんど分かってないと思っています。

(安井)物質数で7割ではなく、リスクが高い物質のうちの7割という意味です。

(中下)それでも私はまだまだ分かっているものの方が少ないと思っています。そのような中で、リスクを削減するためには、コミュニケーションし、自分で情報をキャッチして、自分なりにリスク削減策を講じていく。これが一人ひとり、あるいは次世代を守っていくために必要なことだろうと思いますし、そのためにリスクコミュニケーションが必要だろうと思います。次に、コミュニケーションしたからといってリスク削減策がとれるかという問題ですが、自分が選択できるリスクはいいです。でも、工場からの排出のように大気や水から入ってくるリスクは国が規制しなければどうにもならないと思います。規制等のような次の行動に結びついていくものでなければ、充分ではないと思います。リスクコミュニケーションだけやっていればよいということには決してならないと思います。そこで、後藤さんが先程仰ったように、リオ宣言の第10原則で情報をもとに徹底的なリスクコミュニケーションをした上で、どういう方策を採っていくのが一番望ましいのか、ここに予防原則とは何か、未然防止とは何かという事が今後の課題として関わってくる事だと思いますが、そういう観点を入れて、行政はこうやっていきましょう、国民はこうやってきましょう、企業はこうやっていきましょうという事を合意してやっていく必要があるのではないかと思います。そういう意味で、リスクコミュニケーションは第1歩であり、これだけで終わる訳ではなく、次のアクションを模索する過程であるということを、是非この場で共通認識として得たいと思っています。

(安井)ご意見の最後にありましたリスク削減策をとれるのではないかという点について、行政側からご意見はありますか?

(南川)私たちは企業から色々な環境報告書を頂いておりまして、これについて原則として環境省のHPからリンクして引き出せるようにしています。毎年リンクする企業の数はどんどん増えていますし、アクセス件数も増えていると聞いています。関心をもって見る方が増えているようですし、私自身もできるだけ見るようにしています。内容も分かりやすくなっており、私のように文化系の人間でも理解できるという感じがしています。実際企業の方と話をする機会がありますが、企業で担当されている方からは、辛辣であってもいいので、読んだら意見を返して欲しいという意見も聞きます。せっかく環境報告書を作成したので、一般の方も含めて反応を寄せていただきたいという意見がありました。
 先程の村田さんのご意見にあった第2ステップの比較的純粋に科学に属する部分のコミュニケーションに関連してですが、ここではできるだけ情報を充分に出す、内外の情報に充分アクセスできるようにするしかないと思っています。今年も環境ホルモンの国際シンポジウムを公開で行いましたが、内外の新しい情報について、私どももその場で初めて聞くような情報を最先端の研究者に報告していただきました。研究機関だけではなく企業の方からもたくさん報告を頂きました。また、それについて傍聴の方から自由に質問、議論していただきました。これはリスクコミュニケーションの一つとして、難しい問題を分かりやすく多くの人に知ってもらう手段になっていると思います。これだけサッカーが日本で普及したのもトヨタカップがあったからだと思いますし、経費は高くつきますが、あのような最先端の知見が日本に集まるような会議は是非継続していきたいと思っています。
 規制については、先程仁坂さんが仰ったように化審法やPRTR法など色々な法律がありますし、実際の排出段階になれば大気汚染防止法、水質汚濁防止法、農薬取締法、薬事法などがあります。そのような段階での問題に対応するのは役所の責任だと思っていますので、きちんと対応していきたいと思っています。

(安井)今、行政の規制は、リスクがかなり低いレベルでかけていると私は理解しています。かなり低くても、局所的に起こる問題には規制がかかっていると思います。ダイオキシンのように、全ての国民がうっすらリスクを背負っている問題は難しいですが、それでもリスクは、損失余命で1日くらいという計算になります。このレベルのリスクを規制するのは難しいと思いますが、それでも一応法律はできました。

(崎田)先程の内分泌かく乱化学物質の会議で、私は初日にあったリスクコミュニケーションのシンポジウムに参加させていただきました。その後の色々な最先端の研究発表も生で聞きましたが、我々が生活の中でどうしていけば良いのかという情報を頂きたいというのが正直なところです。非常に科学的な実験から小児科医の臨床につなぐような色々な新しい事例が発表されましたが、今後きちんと情報を出さないと逆に不安がる方もいるかもしれません。どのような研究結果をもとにどのような議論があったのか、産業界は最低限どのような対策を取っているのか関心を持ったら入手でき、我々が毎日の生活の中で何に気を付ければ良いのかコミュニケーションできる情報を内分泌かく乱化学物質の会議のような場だけではなくて、色々な地域、あるいは国で情報を率直に交流できる場所を確保できるということがコミュニケーションの場の確保ということではないかと思いました。

(小林)暮らしの中でどのように考えたらよいのかという情報を産業界等から発信すれば、そこから一般の消費者は考えていけるというお話でした。しかし、一つの商品を我々量販店で売っている場合、消費者の方から、「我々が然るべきところで研究した結果、この商品には環境ホルモンあるいは発がん性物質等々が入っているというデータが出たので撤去すべきだ」という情報が入ってきます。当然、そのような情報を頂ければ、メーカーに確認してデータを頂くことになります。最終的には企業がどうするべきかを戦略的に決めるべきなのでしょうが、はっきり言って本当に分からないんです。この商品にはこういう意見もあり、一方ではこういう意見もありますという情報をそのまま出すということが、本当に混乱を招かないのか私は心配しました。どちらが本当に正しいのか、あるいは正しい、正しくないが今の段階で判断できないのかが分からない情報に非常に頻繁に遭遇します。それを市民の方が参加した中で、コミュニケーションして発信していくことが本当にプラスなのか、今の段階で私自身が答えを見いだせません。非常に後ろ向きな発言かもしれませんが、あまりにも影響が大きすぎるが故に分からない情報も含めて全ての情報をオープンにすることが混乱を招くことも一方ではあると我々売っている側は感じています。

(片桐)この会議は、化学物質のリスクを低減するためにどうすればよいかを話し合っていく場だろうと思います。それではどんなリスクコミュニケーションがあるのか。今まで色々なお話が出ていますが、リスクコミュニケーションには色々な形がある中で、工場と周辺住民だけではなく、もっと広い意味で環境リスクを低減するためのリスクコミュニケーションを行うには、どのような場面でどのようなことが必要なのかを整理する必要があるのではないかと思います。その場面場面によって出せる情報、出せない情報含め、かなり様子が変わってくるだろうと思います。リスクコミュニケーションを議論するのであれば、その前提に戻って整理した方がいいと思います。

(原科)リスクコミュニケーションの色々な考え方に議論が集中していると思います。小林さんの発言にあったように、不明確な情報を公開することに抵抗はあります。しかし、リスクコミュニケーションの場では、むしろそのような事実関係の情報を一種の予防措置的な考え方で公開していくというスタンスが必要だと思います。情報をオープンにすることで混乱が生じないように、それに加えて混乱が生じない情報を更に出していく、あるいは集めていかなければならないと思います。これまで日本は、情報を公開すると混乱するから公開しない方がよいとしてきました。ところが、後で更なる混乱を招くということをたくさん経験してきました。先進的な企業は新しい環境報告書を出しているという話でしたが、社会全体はそうでもありません。社会全体でそういう方向に進むためにはどうすればよいかということも我々は考えなければならないと思います。

(小林)私が申し上げたのは、そういう情報を隠すという訳ではなく、小売業がそういう商品を売りながら中途半端な情報を提供してしまうと混乱が生じるということです。提供してもらった情報は公開されているものです。全く議論にならずに、一部関心の高い方から「売るな!」という極端な情報が来てしまうと、現実にその商品を撤去するかという時に相反する情報なので、小売りという立場ではなく、公の場で予防的見地での方向性が見いだせれば、それにどう対応していくかは企業が決めることだと思います。ただ、議論をする場を商品の流通というところで提供するのはふさわしくないと私は思っています。

(原科)議論する場、つまりコミュニケーションですから、情報を提供するだけではなくて、双方向の議論ができる場をどうやって作るかという問題です。それは今仰ったように企業ではなく別の場でやってもらえないかということですか?

(小林)そうです。

(有田)色々な場所でのリスクコミュニケーションにも関連していますが、以前浦野さんと宮本さんに講演していただいたとき、国際的な場では科学的な様々な知見に基づいて議論されているが、国内ではそれがないという話をされていました。例えば、河川の水質のことを考えたら合成洗剤を使用するのはダメだということで石鹸運動が起きました。どちらを取るかは小売業で判断するのは難しいと思いますが、こういう風に言われていますという経営判断で責任が持てると思います。本当にリスクが高いというのであれば、国が規制をかければいい話ですが、そこがはっきりしていない部分は、消費者も学習しながら選択していかなければならないし、小売業もそれがマイナスだと思えば店頭に商品を置かなければよいのです。そうすることで企業としてのアピールができるわけですから。リスクコミュニケーションの一つの段階として、小売業から消費者に情報を発信することは重要だと思っています。最新の知見については、両極端の意見を持った学者が議論して、ある程度の折り合いがついた時点で市民も参加して議論できる場があれば、市民がどう判断すべきかがある程度分かってくるのではないかと思います。ですから、小売業が店頭に商品を置くか置かないかという議論から少し離れて、私はリスクコミュニケーションを議論してもらいたいと思います。

(中下)今、流通段階から末端消費者まで含めて情報が流れるシステムがありません。MSDSにしても私たち消費者のところまで情報がこないので、小売業にそのような問い合わせや意見が行くのだろうと思います。小林さんの仰ることはよく分かりますが、小売り段階でも小売業者としての責任はあると思います。どういう物を売っているか、安全な物を作っているかというところでもリスクコミュニケーションは必要だと思います。その前提の情報開示が不十分だということが、小売業者で混乱が生じる原因ではないでしょうか。OECDの勧告にあったような、末端消費者まで行き渡るような形でのリスク情報が整備されていないのです。今後リスクコミュニケーションを円滑にしていくためには、共有し得る情報が末端消費者まで入る、製造業者が持っている製品の成分や毒性情報が末端消費者まで入るようなシステムが整備されるべきだと思います。その上で、出すべき情報は、混乱を招くからという理由で情報を隠すのではなく、全ての情報を出して、客観的なデータに基づいて議論を重ねていかないと、リスクコミュニケーションの意味がなくなると思います。

(後藤)小林さんがご苦労されているということは重々承知した上で申し上げますと、やはり小売りがどのような商品を選択するかは、小売業における企業の社会的説明責任(Cooperate Social Responsibility)の一つだろうと思います。不確実性の中で、それが経営判断だろうと私は感じています。
 先程、瀬田さんから環境報告書について不十分なところがあるだろうという意見がありましたが、私自身はそうは考えていません。発行企業数が約500~1000社というのは、国内の全企業数に比べて非常に少ないので、どのように普及していくかという問題は先程申し上げましたが、現在の報告書でもし問題があるとすれば、経営者の顔が見えないところです。企業の動向は、特に大きな企業は国家を越えて国際的に動いているため、そこの意志決定が社会に大きな影響を与えるわけです。その意志決定の一番の責任は経営者にあります。しかし、報告書をよく読んでみると、ほとんどの報告書が経営者の顔写真を載せていますが、書かれてある文言はどう考えても部下が書いているものがかなりあります。中には経営者が自分の言葉で書いていると推測できるものもありますが。信頼性の話に戻りますと、経営者の顔が見える、写真が載っているという訳ではなく、顔が見える報告書は信頼性を高めるだろうなと感じています。小林さんの話に戻りますと、不確実性の中で大変苦労するけれども意志決定していかなければならないということが社会的説明責任の一つだろうと思います。

(崎田)私は非常に身近な視点でお話ししたいと思います。今の生活者には、あまりにも普段の生活の中で、化学物質と商品と暮らしに関するリスクや地域の事業者が抱えているリスクを共有するという感覚が少なすぎると思います。色々な情報が普段からあれば、何か新しいことが起きたときに驚かない、冷静に考えることができると思います。基本的な普段の情報の中に化学物質がもっと当たり前のように入ってくるという場の確保が大切だと思います。
 先程商品への表示の話しも出ましたが、環境省で取り組んでいる国連の動き(化学品の分類及び表示に関する世界システム:GHS)等もあるようなので、そのような情報を皆で共有できれば、また世界的に取り組むことができればいいと思います。海外に輸出する企業は同じようなマークを付けた方が世界に通用しますし、そうなれば国内だけの企業も同じマークを採用することが考えられます。それらの物を活用しながら皆でプラスの方向へ進むことができればよいと思います。

(有田)実は、私も生活協同組合で商品を扱っています。PRTRの冊子を見た消費者が1時間くらい電話をかけてきて、洗剤のことについてさんざん説明をしたことがありました。小林さんも毎日同じ状況なのだろうと思います。今の状況で言えば、ハザード情報の手前にある情報をたまたま見た消費者が判断に困って色々言ってくるのは仕方がないと思います。ただ、合成洗剤だけでなく、他にも使い方を誤れば危ない物はたくさんありますので、「その辺についてはどのように考えられますか?ただし、石鹸運動は頑張ってください。」と言ってその電話は終わらせました。そのような判断も含め、なかなか難しい問題だと思います。小林さん気持ちは充分理解していましたが、それでも努力して情報を開示し、質問に答えていただきたいと思いました。

(出光)化学物質と環境という場合に、今日もサイトの議論、国の議論、あるいは地球環境の議論がありました。また、中下さんが仰ったのは未来の話ですが、サイトはほとんどの場合現状が問われます。皆さん色々な立場で意見を仰っていますが、幅広いリスクを管理しようと思っても、現状は難しいと思います。
 先程仁坂さんが仰ったように、ミニマムの管理は法律遵守で行っています。そこに足りないのはどこかという議論はありますが、少なくともトレンドで表示しているところがほとんどです。私たちがこれまで行ってきた努力や活動をある意味証明できていると思います。ただ、私はこの会議が重要だと思っているのは、それでも企業に足りないことについて、特にNGOサイドから発言していただけるか、またそれを自分たちの活動にフィードバックできるかということです。
 もう一つ業界の話がありましたが、業界は基本的に自主活動です。参加している企業、参加していない企業を全て総括的に、例えば日化協で把握できるかというとそれは難しいです。会員各社に情報を流すことができても、会員になっていない企業にどこまで情報提供できるかは難しい話で、業界で把握できる相手先は制限されます。何もしないということはありませんが、このような会議で出た意見でも反映できることとできないことがあります。ただし、有田さんの仰るように、この会議を通して出た意見を自分たちの活動にどのように反映するかは皆さん考えていますし、業界でもそういう情報を流しているということです。

(後藤)今のことに関連しますが、確かに業界団体に入るかは自主的な判断だろうと思います。しかし、今色々な形でグリーン購入が進みつつあります。私は大企業の方にグリーン購入を進めていただいて、インフルエンスを強めていただきたいと思っています。そういう社会的な責任を果たさない企業、つまりフリーライダーは排除されていくということを産業界全体がもっと積極的にやればいいと思います。それが中小企業から情報が出てくる一つの大きな要素になるだろうと私は思っています。

(出光)そういう部分は確かにあると思います。ところが、リサイクル法一つ取ってみても、実際にはフリーライダーは減っていません。必ずしもグリーン購入と一緒できるわけではありませんが、中小企業の意識を変えるのはかなり難しい気がします。

(横山)グリーン購入の話が出ましたので、今どのような事を進めているかを紹介したいと思います。化学物質が製品の中に入っているかについて、企業、取引先、一般からの問い合わせが非常にたくさんあります。取引先に関係する問い合わせだけでも、ちょっとした部品の工場で年間300件くらいあり、担当者は毎日答えを書いているという状況です。そのうち約1割がヨーロッパからの問い合わせです。
 セットメーカーは、どのような化学物質が製品に入っているかが部品に関係しますので、部品メーカーに問い合わせを出します。比較的まとまった情報が入ってくるので、来た答えをまとめて出すだけですが、輸入している、中小メーカーから買っている、海外から買っているといった場合、これも末端まで問い合わせてどんな化学物質が入っているかを調べて回答することになります。問い合わせもメール、電話、ファックスなど色々な形があるため、大変な作業量になっているのが現状です。
 後藤さんはもっと厳しくやらなければと仰っていましたが、一番苦労して一番まじめにやっている企業に情報が集まらないと、そこが排除されるということになるのはマズイと思います。従って、何らかのルールでどこまでやればよいかのコミュニケーションが必要ではないかと思っています。

(田中)リスクコミュニケーションはまだ始まったばかりです。我々も何に留意して進めていくべきか浦野さんも話も聞きましたが、最初からハードルを高くすると、大企業しかついていけなくなると思います。やはり、ハードルを低くして、なるべく多くの企業が参加できるよう、皆さんのご理解が必要ではないかと思います。また、ハザードとリスクの違い、つまり危ない物があるという事と危ない結果が生じるということの違いの認識とリスクゼロを目指すかどうかも含めて、把握率なども考えていただきたいと思います。全てのリスクをゼロにすることは到底できないことも考えていただきたいと思います。

(中下)横山さんのご発言に対して、まじめにやっている企業が不利になるということは、システムそのものに問題があるのではないでしょうか。その点について、リスクコミュニケーションの場で、この程度の事で勘弁してくださいという解決をするのではなく、もう少し遡って、情報がきちんと流れないようになっているという状況が問題だということを指摘していただきたいと思います。むしろ行政の責任です。正直者がバカを見ないシステムは国の責任で、行政の責任で整えるもので、末端の国民に対してこの程度で勘弁してくださいというレベルの問題ではないのではないかという事を申し上げたいですし、是非ご検討いただきたいと思います。

(安井)田中さんの話の中にありました、リスクゼロを目指すのではないという点についての合意は何となくあったと思います。しかし、限りなくゼロを目指すべきかについては合意ができていませんし、これから議論していく意義はあると思います。

(仁坂)行政がやることは結構重いものがあります。情熱を持ってやらなければならないというのは勿論ですが、同時にとても権力的です。システムを作ったら確かに便利にはなります。しかし、一番始めに申し上げたように、ルールを作れば自分でなかなか管理できない中小企業の人も少し毒性がある物質について計量し、全てデータを出さなければなりません。「そんなことやってられるか!」という意見も一方ではあるわけです。地球環境問題に関して言えば、先程崎田さんが仰った環境家計簿を各企業に課して、一番パフォーマンスがよかった企業を評価し、悪かった企業には石でもぶつけてやるかという風になれば良くなるかもしれません。しかし、副作用もたくさんあります。ですから、どのレベルまでやるかは行政が謙抑的に望むべき事だと思います。あとは、市民社会の中で受け入れられるかどうかの問題です。日本ハムは製品自体に危険はありませんでしたが、「けしからん企業だ」という社会的評価を受け、不買運動が起こり、一部のスーパーでは商品を撤去してしまいました。このような状況になっては大変だとどの企業も思い始めています。それは、消費者の方々の活動やNPOの活動が後押ししているんだと思います。それだけで100点満点の企業ができるわけではありませんが、だからといって行政がルールを作るのは行き過ぎだと思います。

(中下)私は規制をしてほしいと申し上げたわけではありません。これからの化学物質は管理の時代です。規制では間に合いません。もちろん規制しなければならない部分もありますが。毒性が高い物質、リスクの高い物質については規制が必要ですが、それでだけでは間に合わないんです。だから管理が必要で、そのためには情報を如何にして上手く整備して、一人一人がリスク削減策をとれる、小売業としてのリスク削減策をとれる、国民もリスク削減策をとれるというシステムを整備して、正直者がバカを見ないようにしなければならないということです。情報社会というのは正直者がバカを見るという事が一方にありますが、そういう事を避けるためにシステムを整備するのは行政の責任です。先程、日本ハムの話で消費者が力を持ってきているということでしたが、それはいいことです。あの時、日本ハムだけが大きく取り上げられ、責められ、不買運動も起きましたが、日本ハムだけの問題だったのでしょうか。そういうシステムが整っていなかったということを考えると、行政も責任を感じなければならない問題だと思います。我々市民も力を持ってきましたし、見る目も持ってきました。だからNGOも育ってきて監視をしています。行政の目が届かないところもありますし、企業もモラルが高いところがあれば低いところもあります。東京電力や日本ハムのように日本を代表するような企業が犯罪者と同じように扱われているということが問題です。だからNGOが必要で、我々がそういう一定の厳しい意見を申し上げています。逆にこういう意見を申し上げないと我々の存在価値はないのです。そのように企業や行政を厳しくチェックして、それぞれの緊張関係の中でバランスを取っていくということがこれからの管理型社会において必要で、そのためには我々が欠かせない存在であるという認識を産業界も行政も持っていただきたいと思います。

(仁坂)中下さんのご意見はその通りだと思います。現実の問題を言うと、システムをどのように作るかという問題が生じます。ですから、そのテクニックの話を私は申し上げたわけです。行政がシステムを作ると権利義務を縛ることになるので、そこまでする必要があるのかという気もします。このような場で中下さんに演説してもらい、理解を得た上で行うのが今の相場とも考えています。
 それからもう一つ、規制についてです。従来の規制は安全か安全でないかを役所が決めてダメな物を規制してきました。次も規制ですが、PRTRやMSDSはダメだと言っているわけではなく、排出した量を報告してもらうものです。これも規制で、対象事業者には大変負担です。しかし、今まで一つのシステムで、つまり安全規制的なシステムで守っていた安全管理をもう少し社会の中に出し、皆が見えるようにして、何か変だと思う物質については意見を出してもらうという制度を作ってきました。これも規制なので、導入するか否かについて色々な議論があったのも事実です。

(原科)PRTRは規制という側面がありますが、主旨は中下さんが仰ったようなキツイ規制ではなくて、枠組み規制です。情報公開の制度を作ることによって、自主的対応を促進することを狙っています。環境アセスメントもそうです。これもある種の規制ですが、事業者の自主的な環境配慮の促進を目的としています。確かに、権力的な面はありますが、いわゆる環境規制とは少し違うと考えるべきです。そういうシステムを作るべきだと中下さんは仰ったのではないでしょうか。

(中下)その通りです。

(原科)そういう意味では、NGOの皆さんが監視役として頑張るのはいいのですが、もう少し中立的な組織として審査をする機関も必要だと思います。先程小林さんもそのような議論する場を作って頂きたいとのことでしたが、その役割を担う第3者的機関が日本にはあまりありません。そのような第3者的機関を作ることもシステムです。規制的な面もありますが、主旨としてはそこが新しい情報を伝える。その情報は安井さんが言われたように、現在不確実なことがたくさんありますので、どの程度分かっているかを国民が理解するための、そのような事を促進するような機関が必要だと思います。その在り方としては、中下さんが最初に仰ったような中立性、透明性、後で検証できるという要件を満たすことだと思います。これは、第3者機関に共通して言えます。アセスメントの審査会もそのような感じがしますし、色々な面で類似性があると思います。そのようなことを一つ考えてみてはいかがでしょうか。

(中下)原科さんの意見に全く賛成です。今度食品安全委員会ができますが、やはり化学物質の安全委員会のように横断的な第3者機関がこれから必要になるのではないかと思います。ここに関係している行政庁の方々がそれぞれの縦割りでチェックされるのも大事なことですが、このような国民的な議論をリスクコミュニケーションを重ねながらやっていく場として、化学物質安全委員会や安全庁といったような横断的な第3者組織が必要ではないかと思います。

(後藤)原科さんの意見に賛成ですが、それを行政が行うということになっています。ますます行政が肥大することには賛成できません。第3者機関というのは、環境問題は市民が意志決定に参加することにより最もよく解決されるというリオ原則を実現するようなものでなければならない。そうすると、今は審議会や他の委員会の委員を全て行政が選んでいるので、ここに市民の自主的な参加が確保されているケースは極めて少ないわけです。ですから、そのような制度を作ることには賛成ですが、過去の日本のパターンのような第3者機関もどきを作るということになりかねないということについては充分注意をする必要があると思います。

(崎田)先程から双方向コミュニケーションの場が必要だとお話しましたが、私も第3者機関という意味でお話ししていました。やはり行政が作ってくれる機関ではなく、市民参加というよりは市民と企業と行政が一緒になって作る場という意味で、費用負担から情報負担までどのように進めるかを皆で話し合えるような機関があってもいいと感じます。
 先程来からの企業の監視役というお話ですが、それに関して私なりの意見があります。今の産業界の方が相手にしている大量生産の消費者は、私たち一般消費者です。一般消費者に流す情報と熱心に問題意識を持って取り組んでいる人が要求する情報に差があると思います。自分の事業活動にそれらの声を取り入れ、どのようにしてこの不況下を生き抜いていくかという経営判断が一番大変なんだと私は思っています。では、そのような情報を消費者やNGOと共有しながら、私たちがどのように暮らしを変えていけば産業界も変わるのか、そのような活動をしながら正直者がバカを見ない社会を作るためにはどのような仕組みがあれば良いのかを提案できるような話し合いの場が今本当に必要なのではないかと思います。例えば、総合的な廃棄物の循環型社会づくりというときに、拡大生産者責任(EPR Expended Producer Responsibility)をはっきり取り入れながら決めていますが、企業がどんどん変わっていく中で、消費者はどのように理解し、コスト負担についてどのように話し合っていくか、今その時期に来ていると思います。これからは企業が産業界全体で何かをするのではなくて、一つ一つの企業がどのように取り組むかが大きく影響する新しいEPRになるような局面が今来ています。そのような時代の中で、本気になって冷静に議論し、今この時代を皆で乗り切って、この21世紀を強い日本というか元気な日本にしていくためにどうすれば良いかを本気で話し合わなければならない時期だと思っています。

(南川)崎田さんが仰った通りの感じがします。行政機構の肥大化につながるような委員会方針がいいとは私は決して思っていません。今、役所がどのようにすればふさわしい役割を果たすかをもっとしっかり考えた方が良いと思います。それから、求められているのはリスクコミュニケーションをどのように設定して、如何に上手く円滑に運ぶかという場作りだと思いますし、それについては色々な形がありますが、我々としても一生懸命考えていきたいと思います。

(原科)行政機構の肥大化というと国民がそうだと思うんですが、日本の行政機構がそれほど肥大化しているかという出発点を考え直した方が良いと思います。監視のために行政は必要です。前にも申し上げましたが、日本は人口当たりの公務員の数は国と自治体合わせて35~36人くらいです。しかし、アメリカやイギリスは80人くらいいます。日本の2倍以上の人が遵法のためにチェックしているのです。だから、日本の行政機構は肥大ではないのです。ちゃんと働いてくれれば良いだけの話なのです。働きが悪いから国民が怒っているのかもしれませんが。これは肥大だから問題だというわけではないと思います。
 むしろ、行政の責任でやればよいというので若干気になったこととして、このような例があります。国際協力銀行はご存じですよね?ここは海外経済協力基金と日本輸出入銀行が3年前に合体して巨大銀行になりました。今、年間2兆円の融資です。この金額は世界銀行よりも多い。世界銀行本体の融資は1兆少しですから。ものすごいお金を融資している。そこで、環境社会配慮ということで、アセスメントをきちっとやらないと融資しないということを決め、新環境ガイドラインが4月からスタートしました。そのガイドラインを守るためにはチェックが必要ですが、そのための機関をどうするかという時に、やはり機構の肥大という話が出ました。これは産業界の方から出た意見です。世界銀行は専門家3人からなるInspiration Panelを持っていますが、国際協力銀行にも同じようなPanelを作ろうということになりました。しかし、産業界の方はコストがもったいないから3人ではなく1人でいいと仰るのです。そのコストは2兆円からすると微々たるものです。しかし、それを肥大だという言い方をすると、それが果たす機能を考えれば良いのです。
 私も行政が委員会のメンバーを全て決めるのはおかしいと思います。しかし、その組織をサポートするには公共性を行使すべきです。ただ、人選をどうするかについてはその組織を作るときに行政、市民、NGOあるいは専門家が協働し、オープンな過程で作っていけばその危険性は減ります。その組織の作り方が大変重要で、判断する情報提供のための事務局は公共の資源を使わないとサポートできません。その上手い組み合わせを考えれば良いと思います。そのための第3者機関が日本には必要だと思います。ちなみに、米国では連邦機関を全てチェックする機関があり、そこに公務員も使っていますので無駄なことではないと思います。日本ではそのような感覚があまりにも少なすぎますが、これは国民には非常に必要な事だと思います。ですから、行政機構の肥大化という点だけが問題になると大事なことを見失ってしまう危険性があるので申し上げておきます。

(西郷)役所も少し変わってきたという例をご紹介したいと思います。BSE問題や食品表示の偽装問題、はたまた食品中のダイオキシンや米のカドミウム等色々な問題がここ1、2年でどんどん出てきて、私どもの危機管理体制が全く不全だったということを痛感しました。余計なことは公表しないというのが今までの役所のスタイルで、特に当省は生産者の方ばかり向いて風評被害などを気にしていたわけです。しかし、結局こうした対応では、生産者の利益も損ねてしまい、誰も幸せではないということに気が付きました。それで、今は得られた情報を迅速に分かりやすく公表することにしています。しかし、それを本当に良いリスクコミュニケーションにしていくためには、もっと努力が必要と考えています。例えば、環境がキレイであったとしても魚からダイオキシンは必ず検出されます。これと上手く付き合って行かなければならないし、そのために一生の間にどれくらい魚を食べても大丈夫かを考えて下さいということを国民に問いかけてみたところ怒られるかなと思ったらそうではありませんでした。という風なことで、少しずつよいコミュニケーションにしていきたいと今思っています。それから、組織としてこの一年の間に消費者に重点を置くようにかわりました。
 農水省の外局である食糧庁が7月になくなり、代わって消費・安全局(仮称)ができることになりました。そこで、食品安全委員会が方針を決める農水省所管分の施策を進めることになります。また、審議会の構成ですが、一部公募制を始めています。例えば、食料・農業・農村政策審議会は、過去一定のバランスを考えて委員を選んでいたという事があったかもしれません。しかし、それでは問題だという認識が生まれ、一部ではありますが公募にしました。結構手が挙がりまして、選考は色々な方にお願いしましたが、ここでは、役所も少しずつ変わってきているという例としてご報告したいと思います。

(安井)今日はリスクコミュニケーションについて色々お話を頂きましたが、私がメモを取りながらまだ議論が足りない点を申し上げたいと思います。例えば、製品に含まれる化学物質のリスクとサイトから排出される化学物質のリスクの区別の議論がされていない。いささか専門的になるかもしれませんが、リスク全体の中で化学物質の持っているリスクとそうではないバックグラウンドリスクの認識をどう持つかの議論が行われていない。中性洗剤のようなありがちなリスクと極めて特異で専門的なリスクの議論が行われていない。リスク管理を本来すべきですが、情報が不完全であるとハザードのレベル、要するに危険な物は使わない管理がいいという発想になることについてちゃんと議論されていないように思います。第3者的機関を作る話について若干議論されましたが、多分もっと議論が必要でしょう。あとは、次の大きな話題になると思って今回は指摘していませんが、予防原則(Precautionary Principle)や未然防止についてはこれから議論が必要だと思います。以上の議論がまだ行われていないという気がいたしました。私としては、次回の議題はリスクコミュニケーションを継続するのが妥当かと思いますが、それについてご議論いただきたいと思います。

(瀬田)先程からのリスクの問題で、一つ大事な議題としてリスクの比較があります。他の事象と比べてどれくらい危険なのか、比較した上で大丈夫という結論に至ってもそれが受け入れられないことがあると思います。先程、安井さんも損失余命で比較していましたが、そのようなプレゼンテーション方法について議論することも必要なのではないかと思います。つまり、リスクの客観的尺度や基準についてどこかで議論していただきたいというのが一つあります。
 それから、前回も議論に上がった環境教育についてです。安井さんのホームページに鶴見の学校の話が出ていましたが、実態以上に環境問題について恐いという印象を持っているのではないかと思いました。また、少なくとも安井さんが説明することでだいぶん印象が変わったと感じるところがあります。従って、環境認識というものを若いうちからどのような形で行うべきかについて議論するのもリスクコミュニケーションの大事な側面ではないかと思いますがいかがでしょうか。

(中下)リスクについてもう少し勉強するというのであれば、リスクコミュニケーションだけではなく、今後考えなければならない管理のあり方についての共通認識も必要だと思います。安井さんの問題提起は、管理の時にも関わってくる事だと思いますので取り上げることには賛成です。しかし、瀬田さんのご意見の中にあったリスク比較は、確か以前の浦野さんのお話に、あまりかけ離れたリスクの比較をしてもリスクコミュニケーションの場では受け入れられないということが一方ではあったと思います。この辺についても考え方が色々違うのであれば、違う立場の方やリスクについての考え方について学習をした上で議論を進めた方が良いかと思いました。

(有田)議論が残されている視点で言えば安井さんの提案はそうだと思いますが、何となくイメージがわきません。製品のリスクとサイトのリスクはそれぞれ議論の仕方が違うというのは分かります。しかし、この場で今後その議論をすべきなのかは疑問です。例えば、リスクとハザードの違いについては議論した方が良いと思いますが、製品については個別で対応が困ることもあるかもしれません。この場で議論した方が良いのでしょうか?

(原)私はケミカルメーカーではなく、ケミカル製品を使う立場で出ています。今、安井さんが仰ったように、製品のリスクは段階的に色々あるのかと思います。化学物質がどのような構造でどのような危険があるかを分かって売る場合と分からないで売る場合とでは、きちっと段階を考えないと一概に規制や管理を行うのはなかなか難しい問題があるのではないかと。安井さんが仰ったような、項目を絞って議論を進めるという方法に私は賛成です。

(河内)企業が今までどのような場を作って、どのような手段でコミュニケーションをしてきたかについては随分説明してきましたし、それに対して色々な意見も頂きました。しかし、正直言ってリスクコミュニケーションという企業の活動は歴史もそんなにないですし、まだまだ模索の状態だと思います。だけれども、これから取り組もうとしていることについてはご説明しました。例えば、今日の資料で自治体のためのリスクコミュニケーションマニュアルがあります。では、それぞれの立場でリスクコミュニケーションとして具体的に何をやろうとしているのか。企業はある見方をされた場しか設定できません。それに対して、崎田さんの言われた場は、色々な意見が聞けるというか、フリーな場になると思いました。そのような場を設定していただきたいというご意見は非常に有り難いと思いましたが、NGO・NPOや一般の市民という立場は、受け手という立場だけではなくコミュニケーションの発信もする必要があると思います。その方法について崎田さんは一つ例を挙げられましたが、日本全体としてどういうことを目指そうとしているのか、どうあるべきかについての考えがNGO・NPOからも発信していただきたいと思います。リスクコミュニケーションは色々な立場の人が目的を持ってするので、全体の中でどこかが抜けている、お互いに何をしていこうと思っているという共通認識を持つ必要があるのではないかと感じています。

(村田)河内さんや片桐さんのご発言に、「リスクコミュニケーションには色々な場がある」とありました。その辺を整理することを今後検討するテーマのリストの中に入れても良いと思います。

(崎田)既に出た意見ではありますが、産業界の方たちとのパートナーシップ型の第3者的な場づくりや、そのようなコミュニケーションについてのもう少しきちんとした話し合いを深めていくことがまず一つ。それをベースに、環境学習や普及啓発などの活動は既に色々な事がありますし、広めることは当然のことなので、それに関して現在の情報整理や情報収集を並行して進めてはいかがでしょうか。

(安井)全体としては、もう少しリスクコミュニケーションについて議論しようということでよろしいでしょうか。

(南川)ハザードとリスクについての話が出ましたが、OECDで化学物質ワーキンググループがあり、色々な国際的ミーティングが開かれています。リスクというのはハザードと暴露の二つの要素から大きさが決まるというのは合意されていると思うので、敢えてハザードという言葉は出さずに、リスクの中味あるいはリスクはハザードと暴露時間で表されるということを認識するということでよろしいのではないかと思います。

(安井)私が申し上げたのは、本来はリスクで管理すべきなのですが、暴露側が不確実である故にハザードが少しでもあればダメという管理を求めるという意味でハザード管理と申し上げました。

(南川)分かりました。

(安井)だいたい合意が得られたようですので、少なくとも次回はリスクコミュニケーションを題材に取り上げたいと思います。どなたかから話を聞きたいという提案もあり得るかと思いますので、それについては事務局側でメンバーの皆さんからの提案を調整して頂きたいと思います。

(田中)リスクコミュニケーションの重要な要素にマスメディアの問題があります。皆さんの同意が得られるのであれば、マスメディアの考えを聞いてみてはどうかと思います。

(安井)個人的には、メディアを呼んでもあまり意味がないと思います。と言うのは、メディアはメディアの役割を忠実に果たすからです。リスクコミュニケーションのためにメディアが存在しているわけではないので、メディアから発信された情報を受け取る側がどのように受け取るかについて議論すべきだと思っています。

(原科)メディアにどのように情報提供するかというメディア対応も重要だと思います。

(田中)それで結構です。

(安井)次回については事務局に調整をお願いすることとします。あと1分ありますが、最後にどなたか一言ありましたらどうぞ。

(崎田)先程言い間違えたことがありました。私も環境NGO活動をいっぱいやっています。今、環境活動をしている人々には、地域に広げるような視点で動いている団体もあれば、政策提言をしていく団体もあります。それぞれが個性を持って活動しているので、色々なタイプの市民が環境活動を起こしているという全体の状況を把握しながら、この議論がきちんと進んでいけばよいという意味で発言しました。

(安井)それでは、時間になりましたので本日は終了させていただきたいと思います。長時間ありがとうございました。