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アナゴ

Conger myriaster (Brevoort)

ウナギ目 アナゴ科 (マアナゴ)


1.アナゴとは?

 アナゴ類は、ウナギやハモ、ウツボなどと同じウナギ目という大きなグループに属し、その中でさらにアナゴ科というグループにまとめられています。アナゴ科にはマアナゴ、クロアナゴ、ハナアナゴなど15属27種(世界に32属、約150種)が含まれていますが、中でもマアナゴは瀬戸内海でも多く漁獲されており、水産上重要種に位置付けられています。

写真:アナゴ

 アナゴ科の魚の多くはいずれも色形が似ているため、まとめてアナゴと呼ばれているようです。ところが、チンアナゴ類と呼ばれる一部の種類は形態・生態的にも特異で、熱帯から温帯域の砂地に垂直な穴を掘り、そこから体を半分ほど出して直立し、潮の流れに向かって頭を曲げ、流れてくる餌を捕らえています。集団でいるため、遠目に見ると庭園の草がなびいているように見えることからガーデンイールとも呼ばれており、その姿形やカラフルな体色からダイバーなどに人気があります。ただ、とても臆病なので、水族館では水槽にマジックミラーシートを張るなどの工夫をして展示しています。チンアナゴ類は、残念ながら瀬戸内海には住んでいないようです。

2.形態

 アナゴ類の体はウナギと同様に細長い円筒形で、腹びれがなく、背・尻びれと尾びれが連続しています。体表には鱗(うろこ)がなく、ぬるぬるしています。体色は背面から側面にかけて暗褐色、灰褐色などの暗めの色で、基本的に模様は乏しいものの、マアナゴのように体側に白点が並ぶなど種によって特徴が見られます。なお、チンアナゴ類は体が非常に細長く、縞や点など模様も多彩で、他のアナゴ類と大きく異なります。
 ウナギとよく似てはいるものの、細かく見るとやはり異なっているところがあります。ここでは代表的なマアナゴを例にウナギとの違いについて見てみましょう。マアナゴとウナギは次のような箇所に違いが見られます(下表)。

マアナゴとウナギの違い
部位 マアナゴ ウナギ
口の形状 上あごが出る 下あごが出る
眼の大きさ 大きい 小さい
胸びれ後端と背びれ前端の位置 ほぼ同位 かなり開く
尾びれの形状 尖っている 丸い
体色 頭部と体側に白点が並ぶ 模様はない

 実物を並べて比較すると案外見分けがつきやすいものですが、店頭で加工前のものを目にすることの方が意外に難しいかも知れません。

3.生態

 アナゴ類の多くは沿岸から内湾の水深100m以浅に見られ、昼間は岩などの物陰に隠れたり、砂や泥の中にもぐって身をひそめたりしていますが、夜になると活動を始め、餌を求めて海底付近を這(は)うように泳ぎ回ります。
 餌となる生物はゴカイなどの多毛類、エビ・カニなどの甲殻類、イカ・タコなどの頭足類、魚類など多種多様な生物を捕食しています。中でもマアナゴの摂餌生態については各地で研究されていて、胃内容物の種類や季節変化なども詳しく調べられており、成長に伴って餌生物が多様化及び大型化し、主な対象種が変化していくことも知られています。

グラフ:餌の摂餌量率とマアナゴ全長

4.分布

 アナゴ科の魚は世界の熱帯から温帯域にかけて広く分布しています。日本では、種類によっても異なりますが、多くは南日本を中心に分布しており、近隣の朝鮮半島や東シナ海にも見られます。なお、アナゴ科魚類の中でも特異な存在であるチンアナゴ類は、駿河湾や高知県などにも見られますが、その多くは琉球列島やフィリピンなど熱帯域に分布しています。
 瀬戸内海にも多くのアナゴ類が生息していますが、代表的なマアナゴも瀬戸内海に特に多く、全域に分布しています。
 瀬戸内海は岩礁から砂泥域まで海底地形の変化に富んでおり、平均水深は約37m、動物だけでも約3,000種が生息する生物の宝庫で、隠れ家が多い、浅い、餌生物が多いなど、アナゴ類にとっては生息に適した条件が良く揃っていると言えるでしょう。

5.謎に包まれた生活史

 アナゴ類は身近な魚であるにもかかわらず、その一生については不明な点が多く残されています。最もよく研究されているマアナゴを例に見てみましょう。
 マアナゴは春季にレプトケファルスと呼ばれる特異な形をした仔魚が沿岸域に出現し、変態後甲殻類や魚類などの動物を捕食しながら成長します。オスよりもメスの方が寿命が長く、成長が良いと言われ、オスは40cm前後、メスは7年で90cm前後に達します。3〜5年で成熟すると考えられていますが、産卵直前のメスや産卵された卵はまだ見つかっていません。また、レプトケファルスの初期のものも駿河湾で1個体が記録されているのみで、産卵場や初期生態については、未だに分かっていません。最近の研究で、仔魚の日齢(生まれてからの日数)や各地の出現時期の違いなどから、マアナゴはウナギと同じように南の方へ産卵回遊を行い、そこでふ化したレプトケファルスが黒潮系水で日本沿岸へ運ばれて来るのではないかと推定されるようになってきました。また、これまで産卵は一生に一度と考えられていましたが、生殖腺の研究の結果、複数回行われている可能性もあるようです。さらに、ホルモン投与により人工的に成熟させた個体を用いて人工授精を行い、卵の形態や卵発生、ふ化仔魚についての記録も得られています。これらの研究成果により、謎であったマアナゴの初期生態も少しずつその輪郭が見え始めてきましたが、解明には今しばらく時間が掛かりそうです。
 このように、最も身近でよく研究されているマアナゴでさえ、その一生は全てが明らかになっているわけではありません。従ってアナゴ類の生態は、良い研究対象であるとも言えるでしょう。


6.レプトケファルス

 先ほども述べましたが、アナゴ類の特徴として、「レプトケファルス」と呼ばれる特異な形をした仔魚期を有することが挙げられます。レプトケファルスとは「小さな頭」という意味を示しますが、その名の通り頭は小さく、体は透明で平たいリボン状をしています。

写真:全長20cmほどの若魚写真:全長20cmほどの若魚

アナゴ類の特徴的な仔魚 「レプトケファルス」

上:マアナゴ  下:クロアナゴ

 大きさは種類によって様々ですが、マアナゴやクロアナゴなどでは最大で13cm前後になり、全体の形が柳の葉に似ていることから「葉形仔魚」とも呼ばれています。あまりに親と姿形がかけ離れており、昔は別の種類の魚として名前が付けられていたほどです。また、各地でも様々な呼び名があり、瀬戸内地方ではハナタレ、東海地方ではベロ、四国ではノレソレなどと言われているようです。
 このレプトケファルスは形が特殊なだけでなく、その変態過程も実に興味深いものです。変態とはここでは親と大きく異なる形の仔魚が、姿を変えて親に近い形になることを指しますが、レプトケファルスの場合、変態が始まると何と体の長さが20〜50%近く短くなり、透明だった体内に血管が見え始め、それまで平たかった体が円筒形になってくるという驚くべき変化が見られます。やがて色が付いて変態が終わるころには、小さいですがほぼ親と同じ形になり、その後食欲も旺盛になって大きく成長していきます。この変態は水温の上昇がきっかけとなっていることが分かり、最近では水族館で水温を低くして変態を遅らせ、マアナゴをレプトケファルスのまま展示することにも成功しています。

写真:マアナゴの変態過程(望岡:2001より)

マアナゴの変態過程 (望岡:2001より)

上から 3番目:変態直前 4番目:変態前期 5〜7番目:変態後期 一番下:変態完了


 さらに、これまで餌を食べないと言われていたレプトケファルスも、近年の研究で尾虫類という動物プランクトンが作る膜状の構造物や糞粒などを食べていることが分かってきました。また、その特異な形も海中でふわふわと良く浮いて、潮流などに運ばれやすくするための工夫ではないかと考えられています。このように、今まで未解明であった部分が徐々に分かってきましたが、まだまだ謎は多いようです。

 

7.アナゴ類の利用

 アナゴ類は一般的に延縄、籠(かご)網、底曳網、釣り等で漁獲されますが、その多くは食用にされないか、利用されても練り製品の原料にされるくらいです。利用価値が高いのはマアナゴやクロアナゴくらいで、特にマアナゴはさっぱりとした味がウナギにも劣らず美味で、天ぷら、蒲焼き、すし種、吸い物、丼などいろいろな形で賞味されます。
 東京湾産は「江戸前のアナゴ」として知られますが、瀬戸内海産は特に美味とされ、漁獲量も多く珍重されています。

図:1997年のアナゴ類全国海区別漁獲量(反田:2001より)

1997年のアナゴ類全国海区別漁獲量(反田:2001より)

 また、前にも説明したレプトケファルスは春先にシラス網などで大量に混獲されることがあります。一般には食用にしませんが、高知県などではこれを「のれそれ」と称して、生のまま酢醤油や酢味噌で賞味します。最近では流通手段が発達し、珍味として他県へも出回っているようです。
 アナゴ類は多く漁獲されていますが、場所によっては漁獲量が減少しているところもあるようです。ウナギと同様に養殖技術が確立されていないアナゴ類の資源を守るには、乱獲を避けるための工夫が必要です。瀬戸内海でも網目を大きくする、漁法を変更するなど、小さなものまで獲ってしまわないような方法を採り入れるようにしています。かけがえのない海の幸、これからも大事にしていきたいですね。

 

【参考文献】

1) 浅野博利:アナゴ科.岡村 収・尼岡邦夫編,日本の海水魚,山と渓谷社,東京,84-88(1997).
2) 波戸岡清峰・塚本勝巳:ウナギ目.日高敏隆監修,日本動物大百科−6.魚類,平凡社,東京,16-23(1998).
3) 小坂淳夫編:瀬戸内海の環境,恒星社厚生閣,東京,342(1985).
4) 落合 明・田中 克:新版魚類学(下).恒星社厚生閣,東京,571-583(1986).
5) 千田哲資・南 卓志・木下 泉編著:稚魚の自然史.北海道大学図書刊行会,北海道,85-98(2001).
6) 望岡典隆:マアナゴの初期生態.月刊海洋,Vol33,No.8,536-539(2001).
7) 鍋島靖信:マアナゴの成長と食性.月刊海洋,Vol33,No.8,544-550(2001).
8) 反田 寛:瀬戸内海東部におけるマアナゴ漁業と資源管理.月刊海洋,Vol33,No.8,571-574(2001).


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