「平成12年度厚生科学研究(廃棄物処理分野)」に係る終了研究の事後評価結果について
平成12年度終了研究6件について企画委員会にて事後評価を実施しましたので、結果をつぎのとおり、発表します。
1,交付決定した研究
整理
No. |
研究者または
研究者の代表 |
所属機関 |
研 究 課 題 名 |
事 後 評 価(企画委員コメントをまとめたもの)
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1 |
古市 徹 |
北海道大学 |
ダイオキシン微生物処理技術の研究 |
廃棄物処理における微生物利用の可能性について検討が行われており、問題解決型研究として、十分に評価できるものと考えられる。ただし、ダイオキシンの微生物処理技術の基礎的知見は得られたが、塩素収支がとれておらず、実用化に向けてなお解決すべき課題は多いと判断される。安全性の確保を含め、実用的処理プロセス構築への展望がほしい。 |
2 |
森田 一洋 |
新日鐵化学(株) |
簡易ダイオキシン検出システムに関する研究 |
これまでにないユニークなDNX簡易測定法として評価でき、焼却施設の運転状態のモニタリング用として実用化が期待される。ただし、提案された計測法の原理や機構としては十分に解明されておらず、焼却炉の形式の違いについての検証がなく、また、サンプリングの仕方や焼却条件により結果が異なるのではないかという疑問が残る。実用化に向けて多くのサンプルに適用し、有効性を検討していく必要があろう。 |
3 |
大森 英昭 |
(財)日本環境整備教育センター |
膜処理法を導入した小型生活排水処理装置の実用化に関する研究 |
膜処理の効果を確認する成果をあげたことは評価できるが、テーマが多岐にわたっており、成果にばらつきがある。生物利用では運転条件による差異が生じるので、実用化のためには条件を明らかにする必要がある。また、膜のコストが高く、維持管理が困難という問題があり、政策に寄与する研究としては社会への導入についてのプロセスについても十分力を注ぐ必要がある。 |
4 |
山口 光恒 |
慶応義塾大学 |
産業廃棄物の減量化及びリサイクル推進手法としてのEPR(拡大生産者責任)政策の費用効果分析および国際貿易への影響 |
本研究は、拡大生産者責任のいくつかの論点についての非常に手堅い分析であり、そのベースとなる問題認識は適切で、分析結果も研究担当者の広い見識を反映した妥当なものと評価できる。今後の資源利用について重要な研究であるが、経済分析の方法論や基礎的データを用いた具体的検討、それらの不確かさの評価にまで言及してほしかった。EPR(拡大生産者責任)についての費用便益分析など先駆的な分野であるので、今後さらに新しい試みがなされることが期待される。 |
5 |
松島 肇 |
浜松医科大学 |
新課題医療廃棄物の処理システムの構築に関する研究 |
有害な医療廃棄物で一般の医療機関であまり注意を払っていない物質の調査として行政的ニーズに対応しており、成果が得られている。ただし、全体としての方向性が必ずしも明確と見言えず、他の廃棄物も含めて医療廃棄物の処理体系全体をどのようにしていくべきかを示してほしい。日本で実績のない海外で開発された技術の評価、塩素剤使用による副生成物など、今後の検討課題と思われる。一日も早く一般病院で消毒剤・PCR・TSEなどの処理が行われるように期待する。 |
6 |
田中 勝 |
岡山大学 |
廃棄物管理における化学物質リスクの早期警戒システムの開発 |
リスク評価の手法を整理し、確認的研究として計画に従った成果はあがったと認められる。また早期警戒システムの警報を出すためのセンシング等、パーツの開発がリーズナブルに進行したことや、US-EPA手法を得た化学物質のリスク評価の手がかりを得たことなど評価できるが、早期警戒システムの全体像が未だ不明確であり、手法の比較、総合化がなされておらず、今後の課題と思われる。 |
2,企画委員会委員名簿(50音順、敬称略)
氏名 |
所属 |
浅野 直人 |
福岡大学 法学部長 |
飯野 靖四 |
慶応大学 経済学部教授 |
市川 陽一 |
(財)電力中央研究所 狛江研究所大気科学部上席研究員 |
小林 康彦 |
(財)日本環境衛生センター 専務理事 |
寺嶋 均 |
(社)全国都市清掃会議 技術部長 |
中島 尚正 |
放送大学 教授 |
中杉 修身 |
国立環境研究所 化学物質環境リスク研究センター |
永田 勝也 |
早稲田大学 理工学部教授 |
花嶋 正孝 |
福岡県リサイクル総合研究センター 所長 |
平岡 正勝 |
立命館大学 エコテクノロジー研究センター長 |
藤田 賢二 |
(財)水道技術研究センター 会長 |
森田 恒幸 |
国立環境研究所 社会環境システム研究領域長 |
森田 昌敏 |
国立環境研究所 総括研究官 |
○研究目的、方法、結果と考察
1.古市 徹 : ダイオキシン微生物処理技術の研究
研究目的=
本研究の最終目標は、主に焼却施設で発生したダイオキシン類で汚染した土壌、地下水、そして不適正埋立処分場の浸出水を無害化処理するために、実用的な微生物処理技術を開発することである。これまで、我々の単離したダイオキシン類分解微生物を用い、基礎的な分解特性の把握を行い、さらに酵素・遺伝子解析を行い、好熱菌のプラスミド上に分解に関与する遺伝子が存在する可能性を示唆している。また実用的な処理技術への応用として、前処理としての土壌からのダイオキシン類の抽出技術、高塩素置換ダイオキシン類の紫外線(UV)参加処理の検討を行い微生物処理との組み合わせによる処理プロセスの構築が可能であることを示した。K汚泥(実働の最終処分場浸出水処理施設から採取)を用いたラボスケールでのバイオリアクター実験により、K汚泥が高い処理能力を有することを確かめた。さらに、K汚泥より高塩素置換ダイオキシン類を効率良く分解するAcremonium
sp.を単離することができた。しかし、実用的な処理プロセスを開発するためには、さらに詳細に分解機構を酵素・遺伝子レベルから解析する必要性が生じた。
そこで最終年度は、以下のことを目的に研究を行った。(1)実用的な処理プロセスを構築するためのダイオキシン類微生物分解特性の詳細把握及び酵素・遺伝子解析による分解機構の解明、(2)3年間の研究成果を踏まえてのダイオキシン類の液相処理を想定した具体的な処理プロセスの提案をすること。
研究方法=
(1)の目的に対しては、3種類の菌に対して検討を行った。(a)Bacillus
midousuji菌(好熱菌)、(b)Bacillus subtiles、(c)Acremonium sp.(K汚泥から単離された菌)である。
(a)Bacillus midousuji菌に対する研究
(a-1)分解代謝生成物に関する検討を行うために、無塩素置換のダイオキシン(DD)の微生物分解実験を行った。25mLの培地に菌液250μLを加え、25μLのDD基質溶液(1mg/mL)を添加し、65℃で3時間反応を行った。反応終了後、DD、中性条件下での酢酸エチルエステル抽出物(中性画分)、塩酸でpH2付近に調整された条件下での酢酸エチルエステル抽出物(酸性画分)についてGC/MSを用いて分析した。また、中間生成物の1つして知られているカテコールの分解実験も行った。
(a-2)文献によりダイオキシン分解遺伝子の1つして報告のあるBphCの塩基配列より、PCR増幅プライマーを作成し、94℃
5分、94℃ 30秒、55℃ 60秒、72℃ 90秒、72℃ 7分(下線部は40サイクル)で増幅させた。その遺伝子増幅物の塩基配列を決定した。
(b)Bacillus subtilesに対する研究
Bacillus subtilesを20時間、LB培地で前培養後、遠心した(10000rpm,10min)。遠心後、上清は捨て、沈殿物の洗浄のため生理食塩水を入れ再度懸濁させ遠心分離した。洗浄した休止菌体をPAS培地20mLによく懸濁し、10ppm分の2,3,7-TCDFを加え、2,3,7-TCDDの分解及び、分解代謝生成物の確認を行った。
(c)Acremonium sp.(K汚泥から単離された菌)に対する研究
(c-1)Acremonium sp.のベンゼン環の酸化活性を持つ酵素の単離を目的として、DDと類似した化合物であるレサズリンを用いて、その脱色による吸光度を指標として酵素活性の測定を行った。酵素の精製は、10LのAcremonium
sp.の培養液から菌体を遠心分離で集菌した後、50mM酢酸緩衝液(pH4.5)で洗浄した。湿潤菌体をフレンチプレスで破砕し、遠心分離により沈殿を得た。細胞破砕物からなる沈殿物で酵素活性が見られたことから、0.1%トリトンX-100を加え、酵素を可溶化し、遠心分離にて不溶物を除いた上清をDEAE-Toyopearlにアプライし、塩濃度0~1Mまで0.25Mづつ増加させて吸着画分したものを溶出した。そのうち酵素活性が検出されたものを集めて、限外ろ過で濃縮し、トヨパールHW-55カラムでゲルろ過を行った。抽出された酵素をnative
PAGEとSDS-PAGEにより単一タンパク質であることの確認と分子量の決定を行った。
(c-2)抽出された酵素を用いて、DD及び無塩素置換のジベンゾフラン(DF)の分解の確認を行った。
(2)の目的に対しては、これまでのAcremonium sp.に対して得られたダイオキシン類分解の基本特性を計算条件として用いて、ダイオキシン類を高濃度に含む汚染廃水の微生物処理とN町で保管されている4,000m3の汚染土壌の微生物処理を念頭に、プロセスの実用化の検討を行った。具体的には、入力条件としての廃水中ダイオキシン類濃度、汚染土壌中ダイオキシン類濃度と処理(浄化)目標値を設定し、実際のプラントの規模、操作条件、コストなどに関する実行可能性を検討した。
結果と考察=
(a)Bacillus midousuji菌に対する研究
まず、DDが分解された際の中間生成物の1つとして報告のあるカテコールについて検討したところ、Bacillus
midousujiによるDDの分解過程でカテコールのピークが確認されなかったこと、さらに同菌によりカテコールは分解されなかった。また中性画分と酸性画分についてのマスフラグメントパターンでは、コントロール系で見られないピークが検出された。以上のことから、Bacillus
midousujiによるDDの分解代謝経路は、既報のカテコールを経由する代謝経路ではなくて、新規の代謝経路である可能性が示唆された。
Bacillus midousujiより得られたPCR増幅物の塩基配列より、ダイオキシン分解する遺伝子のとして報告のあるBphCが存在することが示唆された。さらに、分解遺伝子として報告のあるBphAとBphCの塩基配列には相同性の高い部分があることが文献調査により確かめられたことにより、Bacillusu
midousujiには、ダイオキシン分解遺伝子であるBphCとBphA両方が存在する可能性が示唆された。
(b)Bacillus subtilesに対する研究
Bacillus subtilesによる2,3,7-TCDDの分解を確認したところ、72時間で約80%の分解が確認された。さらに分解代謝物として、ジクロロ安息香酸、モノクロロ安息香酸、ベンズアルデヒド及びベンジルアルコールも確認された。以上の結果より、2,3,7-TCDDの分解経路として、2つのベンゼン環の間の炭素-酸素結合の部分の分解により、ジクロロ安息香酸、モノクロロ安息香酸が生成される経路が予想された。
(c)Acremonium sp.(K汚泥から単離された菌)に対する研究
実験方法で述べた手順により抽出酵素についてNative PAGEにより単一なタンパク質であることが確認され、SDS-PAGEによる抽出酵素の移動度と標準タンパク質のそれから、分子量は61,000と推定された。また、抽出酵素によるDDとDFの分解実験を行った結果、DDは44%、DFは85%分解されることが確認され、本抽出酵素がダイオキシン類のベンゼン環の分解に寄与する酵素であることが確認された。
(2)のプロセスの実用化に関する検討(実行可能性調査)については、高濃度のダイオキシン類を含む汚染廃水に対しては、<1>焼却灰などが埋め立てられている不適正な最終処分場を対象とした場合(BOD、COD、窒素類を同時に除去する必要がある場合)と<2>ダイオキシン類のみ対象とした場合に分けて検討した。<1>の場合は、既存の技術である浸出処理技術にAcremonium槽と後処理プロセスを追加することで処理プロセスの構築が可能であり、<2>の場合についてもAcremonium槽を用いた処理プロセスの提案を行った。次に、N町の保管土壌に対して検討を行った結果、まずエタノールで抽出を行い、紫外線(UV)照射によりダイオキシン類濃度を低減化させた後、Acremonium
sp.槽によるバッチ槽によりダイオキシン類を80pg-TEQ/g程度にまで分解するプロセスを提案した。この場合、エタノールの循環使用を考慮した場合、4,000m3の土壌を約4年間で処理可能なプロセスを構築することが可能であることを示した。
結論=
(1)Bacillus midousujiのプラスミド上にBphAとBphCの遺伝子が存在することを確かめた。
(2)分解経路として、これまでに報告のない新規分解経路の可能性が示唆された。
(3)Bacillus subtilesにより2,3,7-TCDDが80%分解され、さらに分解代謝生成物としてジクロロ安息香酸、モノクロロ安息香酸が検出された。
(4)Acremonium sp.から、ベンゼン環の酸化活性を有する酵素の精製ができ、その抽出酵素により、DDとDFが分解されることを確かめた。
(5) 不適正最終処分場のダイオキシン類汚染水を対象に、2つのケース、(1)BOD、COD、窒素濃度が高い場合と(2)BOD、COD、窒素成分の濃度が低く処理の必要の無い場合を想定して処理プロセスの提案を行った。その結果、(1)の場合は、既存の浸出水処理プロセスが応用でき、
i)酸化槽-硝化槽-脱窒槽によるBOD、窒素成分の処理
ii)Acremonium槽によるダイオキシン類の処理
iii)過剰培地の後処理
により、ダイオキシン類を低レベルにまで処理可能であることを示した。一方、上記(2)の場合についても、上記ii)とiii)の処理プロセスにより対応可能であることを示した。
(6) 焼却場由来の高濃度汚染土壌を対象とした場合には、
i)エタノールによる液相抽出でダイオキシン類を抽出
ii)UV処理で高塩素置換ダイオキシン類を低塩素化
iii)Acremonium槽での微生物分解
iv)過剰培地とエタノールの後処理
からなる処理プロセスを提案し、例えば、N町の4000m3の汚染土壌を約4年間で処理できる可能性を示すことができた。

2.森田
一洋 : 簡易ダイオキシン検出システムに関する研究
研究の目的=
本研究では、廃棄物焼却に伴うダイオキシン発生量と相関の高い代替指標を見出し、その代替指標を常時監視することで、ダイオキシン発生の増減をモニタリングできる装置の開発を目的とする。
安価に簡便に測定できる手法を開発することで、例えば、資金を投入してでも通常の測定をやるべきかどうかを判断するための予備検査として利用される、日常的な発生状況(トレンド)を監視できる、などが期待できる。
研究方法=
ごみ焼却炉煙道ガスのダイオキシン類濃度を簡便に測定する方法として、次の3つの方法を比較した。
1)蛍光法:副生するクロロフェノールと会合する金属錯体の蛍光強度変化を検出
2)吸光度法:副生するオイル成分を抽出・濃縮して吸光度を検出
3)色差法:発生する浮遊粉塵の色差を検出(不完全燃焼の割合が高いと色が濃い)
結果と考察=
数カ所の自治体及び一部の小型焼却炉メーカ、産廃処理業者の協力を得て、実際の煙道ガスをJIS法と上記の方法とで比較した。
(1)蛍光法
1)
8-オキシキノリンアルミニウムのクロロホルム溶液はクロロフェノール類が混在すると、発光強度が増大する現象を示すことがわかった。
2)
クロロフェノール類のみ特徴的に現れ、フェノール類やクロロベンゼン類では同様の現象は示さない。
3)
しかしながら、蛍光強度変化が小さく、また、時間とともに蛍光が消光するという問題点もわかった。
4)
8-オキシキノリンアルミニウムの溶解度が低く、溶剤もクロロホルムにしか溶解しなかった。
5)
実際の煙道ガスでは濃縮しないと検出限界以下となり、濃縮すると副生タールの影響で消光してしまう結果となった。
6) クロロフェノールとダイオキシンの相関はダイオキシンが10ng-TEQ/Nm3という高濃度領域でしか相関がとれず、ダイオキシン特措法規制以後の低濃度では、クロロフェノール類は代替指標として不適切ではないかと思われる。
(2)吸光度法
1)
煙道ガスの抽出液を濃縮すると、着色してくることがわかった。
2)
抽出液のGC-MS測定の結果から、多種類の縮合多環芳香族化合物が検出された。
3)
照射波長に拘わらず、吸光度とダイオキシン類濃度の間にはよい相関が得られた。
4)
ただし、着色成分もまた微量なため、抽出溶液の濃縮工程を省くことができないことがわかった。
(3)色差法
1)
飛灰の色とダイオキシン濃度とはよい相関があることがわかった。
2)
飛灰の色(色差)は未燃有機物量に比例していることがわかった。
3)
色差は水分の影響を強く受け、水分が多いほど色差も大きく表示されることがわかった。
4)
電気集塵機ないし、バグフィルターを備えた焼却炉の煙道ガスを一定量ろ過した後のろ紙の色差はJIS法で測定したダイオキシン濃度とよい相関があった。
5)
ただし、小型焼却炉においては色差とダイオキシン濃度には相関が得られなかった。
6)
小型焼却炉では集塵機にサイクロンが使用されており、紙などの軽い灰は炭化した状態で煙道を通過することがあり、それらが色差を大きくする原因になっている。
結論=
ダイオキシン類の簡便な検出方法としていくつかの方法を検証した。
その中で、代替指標からダイオキシン類濃度を推定しようとの試みに関して次のことがわかった。
1) 1ng-TEQ/Nm3前後の低濃度領域のダイオキシン発生レベルでは、クロロフェノール類との相関が高いとはいえず、クロロフェノールを代替指標としてモニタリングすることは適切ではないと思われる。
2)
金属錯体を用いて蛍光強度変化を観察する方法は、検出限界の問題があり、1000倍程度の濃縮が必要であること、発光強度の経時劣化があること、などのため、クロロフェノールのモニタリングには利用できないと考えられる。また、煙道ガスの抽出液を濃縮すると、着色が認められるとともに、発光も検出できなかった。
3)
吸光度法は煙道ガスの抽出液を濃縮することで、紫外線の吸光度に変化が現れることを利用する方法である。都市ゴミ焼却炉でのダイオキシンモニタリングへの応用が可能であると考えられる。
4)
ただし、抽出液を濃縮しなければならず、現場で実際に使用できる方法とは言い難い。5)
色差法は都市ゴミ焼却炉の煙道ガスを一定量通過させたろ紙の着色度(色差)と煙道ガス中のダイオキシン濃度とは焼却炉を特定すると、よい相関を示した。
6)
飛灰についても色差と飛灰中ダイオキシン濃度とはよい相関が得られた。色差は測定対象物中の未燃物量に比例している。
7)
今回測定したストーカ炉/電気集塵機、バグフィルター、流動床炉/バグフィルターについては色差法が適用可能と見られる結果が得られた。
8)
小型焼却炉では集塵機がサイクロン程度なので、粉塵量が多く、色差との相関は見られなかった。
以上のことから、都市ゴミ焼却炉の煙道ガスを対象とした浮遊未燃物測定機を設計・試作し、平成13年度以降に、実用化検討を行なうこととした。
ロール状のろ紙に煙道ガスを通過させ、一定時間吸引→色差測定を繰り返すことができる装置を製作する。これによって、連続的にモニタリングすることができるようになる。

3.大森 英昭 : 膜処理法を導入した小型生活排水処理装置の実用化に関する研究
研究目的=
小型合併処理浄化槽は、下水道と同等の処理性能を有する生活排水の処理施設として開発・実用化され、急速に普及しつつあるが、水環境の保全に対する社会的要請の高まりから、今まで以上に高度な処理性能を有することが求められてきている。しかしながらその一方、単独処理浄化槽の設置基数が浄化槽全体の約85%を占めているのが現状である。また、病原性大腸菌O-157やクリプトスポリジウム等経口摂取によって下痢症等を引き起こす感染性微生物が大きな社会問題となっており、浄化槽放流水の衛生学的な安全性を確保する方策の確立が求められている。本研究は、このような社会背景に対して、水処理技術として、近年、著しく技術革新が行われている膜分離技術に焦点を当てて、これを活用した小型合併処理浄化槽の汚水処理技術を研究・開発することを目的とした。
研究方法=
し尿処理等の各種汚水処理に関する膜分離技術及び申請者らがこれまでに行った研究の成果を踏まえて、生活排水の処理への膜分離技術の適用可能性について研究し、必要となる技術の研究開発を行った。具体的な研究課題は以下のとおりである。(1)既設単独処理浄化槽の膜分離型への改造方法に関する研究。膜分離型小型合併処理浄化槽の実排水を用いた実証試験を行った。また、既設単独処理浄化槽に膜分離装置を付加し合併処理化する手法について、その適用可能性を検討した。(2)膜と担持微生物のハイブリッドによる硝化・脱窒反応の高度化。膜を設置した好気反応槽内に適切な多孔質担体を投入しこれに微生物を担持させ、この担体内で好気・嫌気環境を共存させることにより、1つの好気反応槽内で硝化・脱窒反応を行う装置を開発した。(3)メッシュろ過による汚泥濃縮に関する研究。中・小規模浄化槽における簡易な汚泥濃縮に対応できる方法として、重力濃縮とメッシュろ過を併用する回分式の汚泥濃縮法の処理特性について実験的検討を行った。(4)超音波膜処理による小型水処理装置の開発。超音波を適応した膜分離型小型排水処理プロセスの実用化を目的に、実際に浄化槽に適応されている平膜及び中空糸精密ろ過膜を用いて、超音波の特性評価の観点からろ過性能を検討し、その洗浄機能について実験を行った。(5)膜分離活性汚泥法における膜目詰まり予測。ARモデル及び物理モデルを用いて、逐次データを取得しながらモデルパラメータを修正し、その時点での最適な圧力上昇の予測を行う手法について検討した。また、気泡による膜面堆積物のはく離のメカニズムを明らかにするため、気泡の膜面通過時におけるせん断応力を定量的に示し考察を行った。(6)浸漬型膜分離活性汚泥法における微生物生態系を利用した汚泥管理。浸漬型膜分離活性汚泥法における積極的な微生物生態系の制御法の確立をはかることを目的として、実排水を利用したパイロットプラント実験において、膜汚染制御に有効に機能すると考えられる有用微生物群の探索を行った。また、微小後生動物の変動、膜間差圧及び処理水質の変化等について検討した。(7)膜分離型小型合併処理浄化槽の維持管理方法に関する研究。膜分離型小型合併処理浄化槽の処理機能を適正に発揮させるための運転管理条件として、運転開始時点に添加する汚泥の種類、活性汚泥のろ過特性を把握する手法及び膜モジュールの維持管理に不可欠な薬品洗浄に用いる塩素の影響について検討した。
結果と考察=
上記研究課題については、それぞれ以下のとおりである。
(1)膜分離型小型合併処理浄化槽は3ヶ月に1回の維持管理、6ヶ月に1回の薬品洗浄と清掃を実施することによって、安定した処理機能が維持できることが確認された。また、既設単独処理浄化槽に膜分離装置を付加した装置が適用できることを明らかにした。改造にあたっては、事前の調査を十分に行い工事費用を明らかにするとともに、既設単独処理浄化槽を補強する場合の条件を明確にする必要があった。(2)微生物を担持させた担体を用いた流動層型反応装置に平膜を組み込んだ装置では、これまでの浄化槽と比べ装置の小型化が可能であること、硝化・脱窒が可能であることが示された。しかし、比較的増殖速度が遅い後生動物がリアクター内に保持され、その捕食によって担体内微生物濃度の低下が見られた。(3)メッシュろ過法を回分式活性汚泥法と組み合わせた場合には、安定した活性汚泥の分離が可能で、高度処理に対応する処理システムとなり得ることが示された。このシステムにおける処理特性は、ろ過分離の安定性に依存しているが、汚泥の沈降性が必ずしも指標とはならないことが示された。(4)限外ろ過膜(平膜)及び精密ろ過膜(中空糸膜)のいずれも、28kHzの超音波照射による洗浄効果があることが明らかとなった。さらに水洗浄を効率よく行うことで、適切な洗浄効果が発揮できた。一方、超音波照射によるポリエチレン製膜の劣化は少なく、実用化が可能であることが示された。(5)膜ろ過抵抗および混合液粘度を予測した結果、菌体合成に対するポリマーの割合および膜面からの付着汚泥のはく離速度が明らかとなるとともに、ろ過抵抗の上昇傾向や膜の洗浄時期の推定が可能となった。また、気泡による膜面堆積物のはく離のメカニズムが明らかとなった。(6)膜分離活性汚泥法では、窒素除去に有用な硝化細菌を蓄積していることが実証された。また、ファウリング進行期においては、膜面に棲息する貧毛類が付着汚泥量を減少させる効果があり、ファウリング進行の抑制に効果があることが確認された。(7)膜分離小型合併処理浄化槽の種汚泥として、活性汚泥以外に合併処理浄化槽や産業排水処理施設の余剰汚泥脱水ケーキが使用可能であった。一方、膜の薬品洗浄においては使用した塩素の中和が必要であり、中和することによって、硝化・脱窒性能に対する塩素の影響も小さかった。また、現場において簡易に活性汚泥の透過特性を把握する方法として、ろ過試験が有効であることが明らかとなった。
結論=
膜分離型小型合併処理浄化槽は飛躍的な処理の高度化がはかれるとともに、施設の小型化が可能となる。微生物の完全な除去により、従来型の塩素消毒を用いずに衛生的な処理水を確保することができるため、処理水の循環利用等の新たな可能性が生じる。また、膜分離装置を付加することにより既設単独処理浄化槽の合併処理化が可能となる。この方法は、特に戸建て住宅において、敷地の制限により既設の単独処理浄化槽を撤去して新たに小型合併処理浄化槽を設置することが困難な場合に有効である。膜分離型小型合併処理浄化槽では、膜の透過水量を安定して確保するため、運転開始直前に種汚泥の添加すること、膜の閉塞を予測するとともに定期的な膜の薬品洗浄を実施することが必要である。種汚泥については、これまで用いられていた活性汚泥に加え、運搬が容易な脱水汚泥が、使用できることが明らかとなった。一方、膜の閉塞による透過水量の変化の予測をするための手法として、カルマンフィルターを用いたARモデルにおける自己回帰パラメータの推定法が示された。また、超音波を用いた膜の洗浄方法を開発した。これは、膜の閉塞を防止するとともに、現在行われている塩素を用いた薬品洗浄の代替方法として期待できるものである。さらに、孔径の大きい膜を用いた汚泥濃縮装置や、反応槽内に硝化細菌及び脱窒細菌を高濃度に保持できる担体を投入した好気性条件下における窒素除去装置を開発することにより、膜分離活性汚泥法における処理の効率化が可能となった。

4.山口 光恒 : 産業廃棄物の減量化及びリサイクル推進手法としてのEPR(拡大生産者責任)政策の費用効果分析および国際貿易への影響
研究目的=
世界的に脚光を浴びている拡大生産者責任(EPR)政策が、従来の廃棄物政策に比べて環境効果・経済効率ともに優れたものであるのか、また、仮にそうだとしてもこの推進が自由貿易を標榜するWTO(世界貿易機関)の各条項(GATTおよびTBT協定)と両立可能かどうかを明らかにすることである。初年度はOECDで進行中のEPR論議に焦点を当て、日本が主張すべき点を具体的に纏めた。2年目は貿易と環境に関するWTO条項と環境保護の関係を整理すると共に、ケーススタディを基にして、EPR政策を具現化した日本の家電リサイクル法のガット適法性を検討し、特に問題はないとの結論を得た。
3年目は、容器包装リサイクル法、家電リサイクル法を中心に、法律の費用便益分析を検討することを目的とした。また、この分析を通じて、データの整備とその公開、更に環境価値の金銭評価の重要性を指摘した。また、家電を中心に、リサイクル率の持つ意味の解明をはかった。
研究方法=
1998年に本研究を開始した当時、EPR(拡大生産者責任)と言う言葉が人口に膾炙して居らず、日本国内はいうに及ばず、議論の舞台であるOECDにおいてさえも、言葉の意味を巡っても混乱が生じていた。例えばPPP(汚染者支払いの原則)とEPRの関係や処理費用支払時期(先払いか後払いか)の問題はその典型である。こうした中で、先ずはEPRの正確な理解につとめた。EPRと自由貿易については過去の事例を基に、環境政策立案に際してどこまで貿易への障害を考慮すべきかの研究を行った。特にEUの廃電気電子機器指令案を巡る事例はEPR政策と貿易障害の唯一の例なので、時間を割いて研究した。費用便益分析に関しては、はじめに政府の容器包装リサイクル法費用便益分析(厚生省の資料に基づく通産省の分析、官庁名は当時のもの)を検討し、改善点を指摘した。次いでEUの廃電気電子機器指令案の分析を試みたが、どうしても十分なデータ及び文献が収集できず(この両方とも公表されたものは極めて少ない)、不十分なものとなった。その中で排出量と回収量については前者については日本、後者についてはEUの資料を入手できたので、それらを使って日本・EUのリサイクル義務率と実質リサイクル率を比較し、妥当性を検討した。また、この議論と通じて処理費用支払時期問題に新たな視点を提供した。
(尚、本研究は人や動物に対する実験は一切行わず、また、人権問題とも無関係のため、倫理面の問題と特にはない)。
結果と考察=
1998年当時OECDで検討されていた加盟国に対するガイダンスマニュアルには種々問題があると考えたので、日本として主張すべき点をまとめ、学会誌に発表しOECD事務局に意見を申し入れた。筆者が主張した6点のうち、EPRの責任の主体を制御可能性を有するものとすること、EPRの実施に際しては対象製品の性状の差(例えば耐久消費財か否かというような点)を十分考慮し、実施方法についても法律による強制、自主協定など国情や文化の相違を配慮して各国が最も自国にあった方法を選択できるようにすることの2点はマニュアルに取り入れられている。反対にマニュアルに取り入れられなかったのは、EPR実施に伴う地方税還元問題、それに生産者と消費者の「負担」の考え方である。EPR導入により自治体は対象物の処理に費消していた金額が不要になると共に、生産者に新たな出費をもたらす。もし自治体がこの不要になった分を住民に地方税軽減など何らかの形で還元しなければ、社会的には処理費用の二重支払いとなる。この点についてはOECDの担当者に直接申し入れたが、容れられなかった。また、生産者と消費者の最終負担割合は当該財の需要と供給の価格弾力性に依存するので、処理費用を価格に上乗せする場合も廃棄時に消費者が支払う場合も両者の最終負担は変わらない。この点もマニュアルに取り入れられていない。未だに日本では価格上乗せのみがEPRであり、廃棄時消費者支払い方式は消費者「負担」なのでEPRではないとの誤解が横行している状況に鑑みこの点残念である。
EPRと貿易の関係で特に重要なのは、日本で進められているEPRに基づく廃棄物政策とガット(あるいはTBT協定)の整合性の問題である。現にEUの廃電気電子指令案は日・米の政府と業界の双方から貿易への悪影響を理由に様々なクレームを受け、リサイクル率の引き下げなど多くの点で原案の見直しが行われている。日本についてはどうか。家電リサイクル法を例にとって検討する。先ずガット3条(内国民待遇)であるが、輸入業者にとり自社製品をテークバック・リサイクルする義務を負うことは、国内メーカーとの比較では不利に働く。しかし日本の家電リサイクル法は指定法人を設けることでこの問題を回避している。自社がリサイクル工場を建設しなくても指定法人が代行してくれる。問題は、輸入品だから(慣れていない)と言うことで指定法人のリサイクル料金が高く設定される場合である。しかしこれはマニュアルも指摘するように、国内の中小企業にも当てはまる。あるいは代金が高くなる原因はそもそもリサイクルされにくい設計や材質を使っているためかも知れない。この差別は輸入品だからではなく、別の理由によるもので、これをもってガット3条違反とはならないと考えられる。TBT協定ではどうか。この協定ではたとえ内国民待遇と認められても、環境保護目的達成のために不必要な貿易障害とみなされれば違反となる。この法律により廃家電の5割から6割が再資源化されると言うプラスがあるが(従来は1割以下)貿易への悪影響はどの程度か。EUの指令草案と比較する限り対象製品が少なく、義務リサイクル率も十分な根拠を基に決められているので、貿易制限的に働く余地は少ないと思われる。問題は今後対象製品が拡大し、ものによっては輸入品と国産品の処理費用に大幅な差が出たり、あるいは規制内容がリサイクルコンテントや有害物質使用禁止などに及んだ場合である。こうした場合にはそれによる環境保護のプラスと貿易へのマイナス効果を個別の事情に照らして判断することになる。
EPR政策の経済分析に関しては、通産省(当時)の容器包装リサイクル法に関する費用便益分析を検証した結果、節約される資源価格や不必要となる処分費用の計算に値上がりを見込んでいないこと、環境汚染回避の便益が含まれていないことなど改善すべき点があるものの、今後の研究の第1歩として評価すべきであると指摘した。なお、廃棄物問題全般に関して言えることであるが、特にEPRについては自治体と民間の比較が必須であるにも拘わらず、自治体のデータが整備されていない。国主導のもとでの自治体のデータ整備・公表の必要性を強調した。なお、環境汚染についてはそもそも金銭換算の方法論が確立していないが、これがないと費用便益分析は不可能である。廃棄物問題は温暖化等と異なり、世代間の問題や先進国と途上国の人命の価値の差の問題もないので、先ず廃棄物問題に関して、不完全であっても環境の価値計測手法確立の研究を先行させることが必要である。我が国でEPR論議をする際見落とされていたのがリサイクル義務率(リサイクル重量/回収重量)と実質リサイクル率(リサイクル重量/排出重量)の関係である。日本ではリサイクル義務率については十分な根拠があるが回収量/排出量の検証がない。EUでは前者は根拠が明確でない(というより根拠となる資料を入手できず)反面後者については実験プロジェクトを通して十分な準備をしている。EUはリサイクル率(逆有償も対象)で日本は再商品化率(逆有償を含まず)なので厳密な比較は出来ないが、表面的なリサイクル義務率はEUの方が高く、実質リサイクル率は日本の方が高い。このあたり素材構成やリサイクル技術の進歩なども勘案しながら、どの水準が最適か、あるいは費用効果的かは今後の研究課題である。
結論=
2001年3月に公表されたEPRに関する加盟国政府に対するOECDのガイダンスマニュアルは、EPR政策を推進しようという政府に有益な指針となる。とはいえ、本研究で指摘した問題点があるのは事実である。OECD自身もマニュアルは論議の出発点であると位置づけており、今後マニュアルの更なる改善に努めることが必要である。その際ここで指摘した問題点は参考となるはずである。貿易問題では、今後廃棄物と温暖化の両面で環境規制強化が予想され、これと共に貿易との両立が大きな課題になる。この分野では必ずしも先例は多くないので、ここで研究したケースや内容に照らしつつ、個々に判断していくことになる。経済分析であるが、容器包装リサイクル法の分析の結果この法律の費用が便益を上回る結果となっている。しかしこれは法律の完全施行前のデータで、且つ処分費用の上昇や環境汚染軽減を勘案していない。こうした点の見直しを先ず行う必要がある。それと並んで4月に施行される家電につき、ある程度のデータが揃った段階で費用便益分析を行ってみたい。もう1点、リサイクル率についてはリサイクル義務率と実質リサイクル率の両方につき、環境効果、経済効率、実現可能性、貿易への影響等の観点から既存のそれを検討し、それを通して今後新たな法制定の際の参考にする事が望ましい。

5.松島 肇 : 新課題医療廃棄物の処理システムの構築に関する研究
研究目的=
新課題医療廃棄物には、毎日、多量に排出される有害性廃棄物である消毒剤、遺伝子増幅(PCR)などで多量に複製されたDNAを含み、発がん性・遺伝毒性などの可能性のある廃棄物(PCR廃棄物)、狂牛病、クロイツフェルト・ヤコブ病などの原因物質と考えられている伝達性海綿状脳症(TSE)病原体(プリオン蛋白)汚染物(TSE廃棄物)などの細胞毒性廃棄物があり、それらの処理方法の構築は緊急の課題である。そこで、細胞毒性廃棄物の安全な処理法の確立を目指し、消毒剤は、医療機関などで多用されている活性汚泥法による毒性評価を通して、その適用を探る。PCR廃棄物は酸化剤など、およびTSE廃棄物はアルカリ剤などによる不活化法を確立して、それらの実用化処理装置を模索する。医療機関に対する細胞毒性廃棄物の処理に関するアンケート調査結果から、それらの実態と問題点を具体的に提示する。最終的には、それらの適正な処理システムを構築することを目的としている。
平成12年度は、活性汚泥に対して毒性の強いクロルヘキシジンなどの医療系廃水処理施設における挙動などを明らかにした。PCR廃棄物については、医療機関内での不活化を目的として化学的処理を行う実験データを集積した。TSE廃棄物については、医療機関内で安全かつ容易に無害化する処理技術を検索し、加圧式アルカリ加水分解装置がTSE廃棄物処理に応用できる可能性が強く示唆されたので、同装置の処理有効性を検討している。
研究方法=
浜松医科大学医療系廃水処理施設に流入する原水、活性汚泥処理水(生物処理水)、砂濾過・活性炭吸着処理水(最終処理水)中の消毒剤クロルヘキシジン、トリクロサンなどをガスクロマトグラフ/マススペクトロメーター(GC/MS)によるセレクティドイオンモニタリングなどを用いて定量した。その分析結果から、医療系廃水処理施設における消毒剤の挙動を明らかにして、活性汚泥に対する阻害作用について検討した。
PCR廃棄物については、市販の強電解水生成装置を用い、有効塩素濃度を300ppm、pH7になるように電解水を調整した。また、さらにそれらを希釈したものを用いた。次亜塩素酸ナトリウムを用いる不活化実験も行った。増幅DNAの組み換えと、生細胞への影響については、細菌16SリボソームRNAコード領域のユニバーサル配列のPCRプライマーとする遺伝子増幅を想定し、そのオリゴマーDNAを用いて正常ラット線維芽細胞に取り込ませて、細胞増殖性を観察した。
TSE廃棄物については、TSE病原体に対する加圧式アルカリ加水分解装置の処理有効性を確認することを目的として、同装置により処理したTSE病原体の感染価をバイオアッセイによって評価する実験を開始した。バイオアッセイの最終判定には最低600日間のインキュベート期間を必要とする。
結果と考察=
浜松医科大学医療系廃水処理施設における原水、生物処理水、最終処理水中の消毒剤クロルヘキシジン、トリクロサン、第四級アンモニウム塩などはほぼ同様な挙動を示しているので、クロルヘキシジンを例として述べる。原水中の濃度は35-169μg/l、平均91μg/lであった。生物処理水、最終処理水中の濃度はそれぞれ6-33、2-10μg/l、平均16、4μg/lであった。原水中のクロルヘキシジン濃度に対する生物処理水中の除去率は67-89%、平均82%であり、最終処理水では90-97%、平均95%であった。これらの結果から、医療系廃水中のクロルヘキシジン、トリクロサン、第四級アンモニウム塩などは活性汚泥処理によって充分除去されることが明らかになり、原水中のそれらの消毒剤濃度では活性汚泥処理に影響を与えないことが裏付けられたことになる。また、砂濾過および活性炭吸着処理によっても相当程度除去されることが明らかになった。
PCR廃棄物について、次亜塩素酸を用いたPCRの増幅産物DNAの不活化には有効塩素濃度で100ppmを必要とした。電解水では有効塩素濃度26ppmで不活化することが可能であった。この結果の相違はpHを中性域に維持できる電解水の性質によるものと考えられる。また、このDNAはこれらの有効塩素によってそのリン酸結合が切断されたり、五単糖が塩素化されるというよりは、塩基のアミノ基が塩素化される反応であると考えられる。また、線維芽細胞にPCRオリゴマーDNAを添加すると細胞の増殖性が増す成績が得られた。
TSE廃棄物について、TSE病原体に対する加圧式アルカリ加水分解装置の処理有効性を確認するため、TSE病原体の感染価をバイオアッセイによって評価中であり、現在、観察期間は350日を経過しているが、いずれの実験群マウスにもTSE疾患特有の症状は認められていない。同装置はオートクレーブ処理とアルカリ処理を併用した処理原理を用いているため、TSE病原体に対する両法の不活化能力について調査した結果、両法ともTSE病原体の感染価を5-6桁程度破壊することができる反面、2-4桁程度の感染価が残存することが判明した。一方、オートクレーブ処理とアルカリ処理を組み合わせた加熱アルカリ処理はTSE病原体の感染価をバイオアッセイにおける検出限界以下まで完全に不活化できることが判明した。本研究において、TSE病原体に対する加圧式アルカリ加水分解装置の処理有効性が確認されれば、本装置を使用して医療機関内でTSE廃棄物を安全かつ安価に処理することが可能となる。現在進めているバイオアッセイの判定には、実験の性質上、相当の期間を要するが、TSE病原体に対する処理有効性が確認できれば、TSE廃棄物処理に関して非常に有益かつ新たな選択肢が加わることになる。
医療機関などにおける消毒剤処理については、活性汚泥法への応用が可能であり、下水道に放流する場合も原水貯留槽を設けて消毒剤濃度を均一化すれば適用できることが明らかになった。PCR廃棄物については、感染性廃棄物に準じて取扱い、次亜塩素酸処理することが推奨される。TSE廃棄物についても感染性廃棄物に準じて取扱い、加圧式アルカリ加水分解装置の処理有効性が判明次第、医療機関内でのTSE廃棄物処理システムの構築に関する提言を行う。
結論=
医療系廃水処理施設内におけるクロルヘキシジンなどの消毒剤の挙動から、活性汚泥処理によって充分除去されることが明らかになり、医療機関などで多用されている活性汚泥に対して阻害作用を与えないことが裏付けられた。
PCR廃棄物について、PCRの増幅産物DNAの不活化には次亜塩素酸など塩素による処理方法が有効であると判明した。また、DNAが細胞内に取り込まれて、細胞増殖性に影響を与えることが観察された。
TSE廃棄物の新処理技術として、アルカリ剤による加水分解が有効であり、加圧式アルカリ加水分解装置が応用できる可能性が強く示唆され、その処理有効性が確認され次第、具体的に提言する。
医療機関などにおいて安全かつ容易に無害化できる方法として、消毒剤は活性汚泥法などで処理し、PCR廃棄物、TSE廃棄物は感染性廃棄物に準じて取扱い、前者は次亜塩素酸処理を提案し、後者はアルカリ剤処理を推奨することになる。

6.田中 勝 : 廃棄物管理における化学物質リスクの早期警戒システムの開発
研究目的=
1.優先管理・監視化学物質の選定に関する研究:マテリアルフロー(MF)およびサブスタンスフロー(SF)からみた廃棄物のリスク評価・管理モデルの開発および廃棄物管理における化学物質リスクの早期警戒システムの開発において有害化学物質の優先順位付け手法の開発を行う。2.バイオアッセイを用いた化学物質群のモニタリング手法の開発:廃棄物分野に存在する有害化学物質群を、総合的に監視するバイオアッセイ法として細菌試験系の適用性と標準化・簡易化の検討、また魚類を用いた最終処分場浸出水モニタリング系の開発を行う。3.化学物質リスクの特定・評価手法の開発:バイオアッセイにより検知された有害化学物質群を特定し、危険度を評価する手法を検討する。4.廃棄物管理における化学物質リスクの早期警戒システムの構築:バイオアッセイを用いた「早期警戒システム」について予防原則に基づく概念設計を行う。
研究方法=
1.US-EPAの手法を元に、PRTRパイロット事業対象物質の178物質を対象として、暴露の可能性および毒性、環境中の存在、化学物質の生産および利用程度、廃棄物行政における重要性より、各基準に25点ずつ、総100点として点数を付けた。2.吸着樹脂で濃縮した浸出水をAmes試験に供した。umu試験s-galactosidase活性の測定に発色基質と発光基質を適用した。また、MRL試験系をマイクロプレート上に作成し、測定を吸光・蛍光・発光測定用のマイクロリーダーで行った。都市ごみ焼却施設焼却灰ならびに最終処分場浸出水の抽出濃縮物について小核試験及びSCG試験を行った。ヒメダカを用いた孵化阻害、致死毒性試験、内分泌撹乱性試験を最終処分場浸出水原水等に適用した。シャトルベクターを約350コピー組み込んだトランスジェニックゼブラフィッシュ系統にB[a]P、MeIQx、ならびに樹脂(C18)で濃縮した最終処分場浸出水を曝露させ、突然変異頻度や形態異常等を調べた。3.DDVPならびに浸出水に、オゾンを導入し、一定時間ごとに試水を採取し、DOC等とTIG-1細胞を用いた細胞毒性試験を行った。定期的に採取した最終処分場浸出水原水等について、ヒメダカを用いた試験、遺伝子毒性試験ならびにヒト由来細胞を用いた試験を同時に適用し、これら試験法バッテリーによる結果のスコアリングによる総合化を検討した。焼却飛灰を混合した試料をJcl-Wistar系ラットに与え、対照群同士、飛灰群同士を交配させ、受胎率、体重変化等を観察した。4.廃棄物処理施設から排出される未規制の有害物質について既存資料をレビューした。また、環境管理におけるバイオアッセイ等の混合毒性パラメータと予防原則の位置付けについて欧米を中心に文献をレビューした。
研究結果=
1.フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)が総100点に対して最高点の83.3点となった。以下、ベンゼン、鉛及びその化合物、カドミウム及びその化合物、テトラクロロエチレン、フタル酸ジ-n-ブチル、クロロホルム、2-クロロ-4,6-ビス(エチルアミノ)-1,3,5-トリアジン、1,1,1-トリクロロエタン、2,6-ジ-t-ブチルー4-メチルフェノール
; BHTが上位10位に挙げられた。2.いずれの浸出水、処理水からもAmes変異原性は認められなかった。試料を500倍以上に濃縮した検液で変異原性が認められなければ、がんの可能性は極めて低いと考えられた。umu試験のs-galactosidase活性の測定はGalacton-starが?40倍程度感度が高いことがわかった。マイクロプレート法では試験官法と比較して、試験系の感度が約10倍程度向上しており、これは主に用いた機器による生物発光に対する光学検出系の感度に起因するものと考えられた。焼却灰試料による金魚の末梢血および鰓の小核誘発頻度では、飛灰に比べ底灰が高く、浸出水では処理工程を経るに従い低下する傾向が観察された。SCG試験でも底灰がより高いDNA損傷性を示す傾向がみられ、浸出水では原水で処理水に比べてわずかに高いDNA損傷性がみられた。ヒメダカの孵化阻害試験では40%以上の濃度で増加に従う孵化率の低下が見られた。成魚致死毒性試験では、浸出水原水濃度80%以上において、稚魚致死毒性試験では、20%で大きな致死影響が見られ、処理後放流水では致死影響は見られなかった。浸出水原水および処理後放流水においてVTGが検出された。トランスジェニック魚では、浸出水濃縮液に対して濃度が濃くなるほど孵化が遅くなったが、突然変異頻度は顕著な増加はなかった。また、浸出水濃度が高くなるにつれ、形態異常を持つ稚魚が増加した。3.有機物の酸化分解を3段階からなる反応として、用量作用曲線より定式化し、総括の毒性の時間変化を推算して、実測された細胞毒性変化と比較した。umu試験とヒト乳癌由来細胞増殖活性試験、基礎細胞毒性試験、ヒメダカ試験系において、毒性の大きさにより0または1点の点数化を行い、それらの合計をその試料の危険度を表すスコアとした。1%および5%濃度の焼却灰混合飼料を摂取したラットは受胎するまでの日数が長くなった。また、受胎前および妊娠途中からの焼却灰混合飼料摂取により受胎率または出産率の低下が示された。4.廃棄物処理施設から排出される未規制の物質59物質を都市ごみ焼却施設で調べた例では、一部の有害物質(Hg及びフッ化水素)で海外の規制値レベルに近いまたは超えるものが見られた。また、最近欧州を中心に環境化学物質管理における「予防原則(precautionary
principle)」が議論されており、多数の未知または未規制物質に迅速に対応しうる戦略の礎となり、混合毒性パラメータ(mixed
toxicity parameter)は、化学分析を行う以前に測るべきサンプルと化学物質を絞込んだり、予期していない有害物質の存在をカバーしたり、リスクコミュニケーションの機能が期待されている。
考察=
1.上位10位までのほとんどの化合物質は、Quantity/Prevalenceスコアが高いのが特徴であり、量的に多く製造される化合物質は、同時に多くの廃棄物処理施設で取り扱われていることを示し、環境中での存在量のスコアも高くなることが予測される。2.バイオセンサーの開発課題である、試料前処理の簡略化、試験菌株の調製の簡略化、対照試験と用量作用試験の簡略化、変異誘発時間の短縮、エンドポイント測定の高感度・迅速化、ならびに光学測定装置系の簡略化において、細菌試験で発光基質の利用やマイクロプレートリーダー型の発光検出系の利用が感度の向上をもたらし、発光による毒性の評価と光学検出系の利用が有利であることが示された。魚類を用いた最終処分場浸出水モニタリング系では、総合的なリスクの検知ツールとして、魚類を位置づける場合においても、複数の異なった指標(場合によっては細菌系や細胞系)を併用することが望ましいことが示された。3.DDVPまた最終処分場浸出水をオゾン処理した場合の細胞毒性の経時的な削減過程を比較的な簡易なモデルで記述し、ある毒性削減という目標値を設定したときに、必要な処理系の選定、運転条件等の設定が可能となった。また、今回行った試験法バッテリーを用いたスコアリングでは、監視しようとする場に合わせた、スコアを割り当てる応答の大きさ、総合化のための各試験法の重みづけや省力化のための試験法最小セットの選定が課題となる。ラットを用いた試験系では結果の判定を迅速化するため、血中のホルモン濃度や酵素活性の測定等のマーカーの利用が課題である。4.混合毒性パラメータを用いた計測結果を、「禁止」を前提とした厳しい「基準」に用いるよりも、予防原則に従った「アクション」の発動を決める「トリガー」として意味付け、「早期警戒システム」というモデルを考えた。
結論=
178種の化学物質を暴露の可能性および毒性、環境中の存在、化学物質の生産および利用程度、また廃棄物行政における重要性において点数化し、総合化して順位付けた。フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)が83.3点と最高点となり、ベンゼン、鉛及びその化合物、カドミウム及びその化合物、テトラクロロエチレンが続いた。バイオアッセイを用いた、化学物質群のモニタリング手法、化学物質リスクの特定・評価手法、廃棄物管理における化学物質リスクの早期警戒システムを検討した。細菌試験系で発光基質の利用や発光検出系の改善が感度の向上をもたらし、バイオセンサーにおいて有利であることが示された。魚類を用いた試験系では試料によって各種の毒性応答が一致しない事例が示され、複数の異なった指標を併用することが望ましいことが示された。最終処分場浸出水をオゾン処理した場合の細胞毒性の経時的な削減過程を比較的な簡易なモデルで記述した。魚類等の試験法バッテリーを用いた試験結果のスコアリングを試みた。また、ラットを用いた試験系で焼却灰が受胎するまでの日数、受胎率または出産率等に影響することが示された。さらに、混合毒性パラメータを用いた最終処分場浸出水等の計測結果を予防原則に従った「アクション」の発動を決める「トリガー」として意味付ける「早期警戒システム」の概念を示した。今後は、現場での試験の検証を通して、試験結果の大きさと対策レベルの対応付け、また、応答に関与する毒性物質の絞込むロジックの構築、現場管理ツールとしての手法のさらなる簡易化、システム化が課題となる。
