<照会先> |
1.検討会の目的
昨年10月、福岡県筑紫野市の安定型最終処分場において、送水槽内で作業をしていた作業員3名が、硫化水素中毒と疑われる症状により死亡する事故が発生。その後、同処分場内部(ボーリング孔)から15,000ppmの硫化水素ガスを検出。
また、同月に硫化水素臭がするとの住民の苦情があった滋賀県栗東町の安定型最終処分場においても、その後処分場内部(ボーリング孔)から15,200ppm(その後最高で22,000ppm)を検出。
これらの事例を踏まえ、厚生省において安定型最終処分場について全国的な状況を把握するとともに、安定型最終処分場における硫化水素発生の原因究明、必要な当面の対策の検討を行うため、専門家からなる検討会(座長:花嶋正孝福岡大学教授)を設置した。
2.硫化水素発生事例
1)福岡県の事例
3)全国調査結果
廃棄物処理法に基づく設置許可を得ている安定型最終処分場について、硫化水素は低濃度で悪臭が認められ、通常悪臭問題としてあらわれることから、硫化水素が発生している事例を把握するため、悪臭の有無の調査を行った。
回答施設数 | 1474 |
悪臭が認められ た施設数 |
11 (約1%) |
周辺環境に影響が生じている事例はまれであるが、悪臭が認められ、硫化水素が発生している処分場が数は少ないものの、福岡、滋賀以外にも存在している状況である。
3.硫化水素の発生原因について
福岡県、滋賀県の事例及び文献等から、現段階で考えられる硫化水素発生の基本的なメカニズムを整理した。なお詳細な研究や調査を行い知見の集積を図っていかなければ十分な証明は困難ではあるが、可能な範囲で推論すると、以下の条件下においては、嫌気性環境下で硫酸塩還元菌が硫酸塩を還元することにより硫化水素が発生するものと考えられる。さらに、これらの反応が急激に生ずれば、硫化水素の発生も急激になり、場合によっては高濃度となることもあると考えられる。
(1)硫酸イオンが高濃度で存在すること
硫酸イオンは、自然の土壌によっても供給されるが、高濃度のケースでは、CaSO4などの硫酸塩を含む廃棄物(廃石膏ボードなど)もその供給源となりうる。
(2)有機物(硫酸塩還元菌の炭素源)が存在すること
硫酸イオンだけでは硫化水素が硫酸塩還元菌により発生することはなく、炭素源となる有機物が必要である。有機物は自然の土壌等自然界によっても供給されるが、付着・混入した有機性の廃棄物によっても供給される。
(3)嫌気性の環境であること(酸素が存在しない)
酸化還元電位がマイナスの値となる嫌気性の環境下では、硫化水素が硫酸塩還元菌により発生する。
(4)埋立層内に水がたまっていたり、たまりやすい状況があること
埋立層内に水のたまる場所があると、嫌気性環境が一層促進。
(5)硫酸塩還元菌が存在していること
4.当面の対策について
安定型最終処分場への埋立処分に対しては、平成10年6月(ただし、従来から、工作物の新築、改築又は除去に伴って生じた安定型産業廃棄物の埋立処分の用に供されている安定型最終処分場への埋立処分等に対しては平成11年6月)から、安定型産業廃棄物以外の廃棄物の付着・混入防止措置(工作物の新築、改築又は除去に伴って生じた安定型産業廃棄物については、混合して排出されたものについて、風力、磁力等を用いる方法により選別し、安定型産業廃棄物の熱しゃく減量を5%以下とする方法による措置等)を講ずることが義務づけられていることに加えて、最終処分場の維持管理基準においても、安定型産業廃棄物以外の廃棄物の混入を防ぐための展開検査、埋め立てられた廃棄物の浸透水の検査及び処分場周縁2カ所以上から採取した地下水の検査が適宜義務づけられており、これらが守られている限り安定型最終処分場から硫化水素が発生する可能性は極めて低いと考えられる。
しかしながら、それ以前に処分が行われている処分場については、全国調査結果からも明らかなように、数は少ないものの硫化水素が発生しているケースが認められる。一般的には、降雨の後の気温上昇は、高濃度硫化水素の発生を促進する可能性が高いので、こうした時期には、処分場地表及び敷地境界線における検知管による硫化水素濃度の測定を行うなどの監視を強化することが適切である。問題が生じた場合には個々のケースに配慮しつつ、必要に応じて次のいずれかのあるいは組み合わせた対策を講ずる必要がある。
5.今後の課題について