「歴史あるまちで」田辺市(和歌山県)
水環境保全への取組(現場取材&インタビュー)
田辺市 市民環境部 環境課 生活排水係 田中 義和さん
浄化槽市町村整備推進事業導入による地域のメリット
紀伊半島の南西側、和歌山県の南部に位置する田辺市。森林が9割近くを占める田辺市は、山間地域に世界遺産に登録された熊野古道と熊野本宮大社のほか著名な温泉地などを抱える場所として知られています。しかし、その一方で田辺市における生活排水処理人口の数値は、全国平均を大きく下回っており、その状況を打開すべく浄化槽の整備を進めています。
経済性・効率性の観点から個別浄化槽へ計画変更
田辺市の生活排水処理率が低いのは、特に市街地を形成する人口密集地域の公共下水道事業の整備が進んでいないためだと考えられます。現状の生活排水処理は個別浄化槽や農業等集落排水がその主力となっています。
現在の田辺市は、平成17年5月に、旧田辺市、龍神村、中辺路町、大塔村、本宮町の新設合併によって発足し、近畿で最大面積を誇る市となりましたが、それをきっかけに旧市町村時代の計画にとらわれない新しい生活排水計画策定に取り組むことになりました。その内容は、既成市街地の人口密集地や商業地域は公共下水道による整備として、それ以外の浄化槽が設置可能な地域は、旧市町村において集合排水による施設整備計画があった地域も経済性・効率性等の観点から個別浄化槽で整備するというものでした。
浄化槽市町村整備推進事業が実施された秋津川地区
写真提供:田辺市
手探りの状態で事業導入へ
「浄化槽市町村整備推進事業」の導入に向けて準備を始めたのは平成15年。まずは県内で唯一事業を実施していた高野町を視察することから始めました。その結果、本市ではまず、「農業集落排水処理施設整備事業」が計画されていた背後地の秋津川地区で実施することになりました。農業集落排水事業と個別浄化槽事業の事業費を比較したところ財政的な効果が見込まれたこと、また地区住民の方々に意向調査を行い、地元の合意が得られたことがその理由です。
しかし、事業の実施方法を詳しく解説したマニュアルが存在しない、市職員に浄化槽設備士がいないため、工事設計が出来ない等、事業導入までには様々な問題がありました。そこで、関係者組織も含めた浄化槽整備推進検討会を立ち上げ勉強会を行い、事業実施のために事業導入マニュアルをまとめることになりました。事業の方針決定に多大な時間を要しましたが、基本設計から実施設計、詳細設計に至るまで浄化槽整備に係わることは全て市の職員が実施しています。
浄化槽整備に係わる調査・測量や図面設計などは全て市の職員が行いました
写真提供:田辺市
事業の導入によって変わったこと
平成19年4月、いよいよ秋津川地区を対象に浄化槽市町村整備推進事業に着手しました。平成21年度までの3ヵ年で85基の浄化槽を整備することになっており、平成20年度末の時点で47基の整備が完了済みで、進捗率は約6割という状況です。
この秋津川地区の事業費は約7,960万円となっていますが、従来の農業集落排水処理施設事業を実施した場合の概算事業費が5億7,000万円であることを考えると、単純な比較はできないとはいえ、計画変更したことでかなりの財政的効果が発揮されたと考えています。
事業を実施する前の平成18年度に秋津川地区で住民の方々を対象にアンケートを行ったところ、皆さんから様々なご意見をいただきました。「以前から排水の問題は気になっていた」「市がこうして一押ししてくれて良かった」など、地域には水環境の改善に対するニーズがたくさんあるということを感じました。現時点では平成22年度以降、事業実施を予定している地域はありませんが、地域からの要望があり、概ね6割の合意が見込める地域については実施を検討していきたいと考えています。
今後の事業を進めるにあたっては、浄化槽の維持管理等の効率化を図ることが必要になります。そのためにも将来的にはPFI事業(※)での実施を視野に入れなければならない時期が来るだろうと考えています。
事業費比較(秋津川地区) | ||
概算事業費 (千円) |
対象 戸数 |
|
農業集落排水事業 | 570,000 | 148 |
個別浄化槽事業 | 107,547 | 153 |
浄化槽市町村整備推進事業 | 79,677 | 87 |
補助合併(H18までの補助事業補助総額) | 27,870 | 66 |
※農業集落排水処理施設の耐用年数を浄化槽の2倍として扱っても、2.6倍の経費がかかることになります。 資料提供:田辺市 |