戦略的環境アセスメント総合研究会報告書〜概要〜 |
第1章 SEAの意義と目的
(1) | 戦略的環境アセスメント(SEA)とは | ||
戦略的環境アセスメント(Strategic Environmental Assessment、以下「SEA」という。)とは、政策(policy)、計画(plan)、プログラム(program)の3つのPを対象とする環境アセスメント。事業に先立つ上位計画や政策などのレベルで、十分な環境情報のもとに環境への配慮を意思決定に統合(意思決定のグリーン化)するための仕組み。 | |||
(2) | SEAの意義 | ||
[1] | 環境に著しい影響を与える施策の策定・実施に当たって環境への配慮を意思決定に統合すること | ||
※ | 環境基本法でも第19条に規定。SEAは、同条の考え方に基づき、環境配慮が政策や計画等の策定に当たって適切に行われるようにするためのツール。 | ||
[2] | 事業の実施段階での環境アセスメントの限界を補うこと | ||
※ | SEAでは、事業の実施段階での環境アセスメントに比べてより早い段階から広範な環境保全対策を検討することが可能。また、計画等を対象とすることにより、当該地域の環境への累積的影響を評価したり、交通ネットワーク等を広域的視点から評価することができる。 | ||
(3) | 国際的動向 | ||
米国は既に1969年に導入。その他の先進国では1990年前後から急速にSEAの導入が進んでいる。EUの共通制度化が本年中に図られる予定であり、これにより主要先進国では数年以内に導入が図られることになる。 | |||
(4) | 我が国の動向 | ||
我が国では、環境影響評価法により港湾計画が制度化がされているほか、東京都や川崎市等において、「政策」や「計画」段階からの環境配慮について制度的な取組が進められている。 |
第2章 SEAの原則
(1) | 計画等を決定するための既存の手続とSEAとの関係 |
SEAの対象は「政策、計画、プログラム」と非常に広範であるが、前述の研究会では計画・プログラムを念頭に置いて検討した。 | |
(評価の統合について) | |
環境面、社会面や経済面に関する評価を一体として行う場合には、環境情報を有する機関や公衆、専門家の間での情報交流のベースを提供し、環境面からの評価の結果を意思決定のための情報として活用することを可能とすることが必要。このためSEAでは、環境面からの評価結果を記した文書を作成することが必要である。 | |
(手続の統合について) | |
環境面からの評価が科学的かつ客観的に行われるためには、環境情報を有する公衆や専門家、環境保全に責任を有する機関(部局)が適切に位置づけられた手続が必要。このため、SEAは環境面に焦点を絞った一定の独立した手続として設けられる必要がある。 | |
(意思決定への統合) | |
SEAは総合的な意思決定過程(mainstream)に環境情報を提供する一定の独立した手続として構成されるべきであるが、SEAの意義・最終目的は環境配慮の意思決定への組み込みにあり、SEA結果が意思決定(最終判断)に確実に反映されることが必要。同時にSEAの結果と他の政策決定要素についての検討が、計画等策定者において総合的に進められることが必要であり、そのポイントは、環境以外の要素も含めた事業の目的や制約条件の設定、即ち最も初期段階における統合。 | |
(2) | 評価の手続等に関する原則 |
政策や計画等の決定手続におけるSEAについては、評価の実施主体、専門家や公衆の関与、評価の審査等の手続に関する事業の実施段階での環境アセスメントの原則の多くが当てはまる。 | |
(評価の主体) | |
SEAは、計画等について最も知見を有し、また各方面から情報を収集できる計画の策定者が自ら行うもの。それは意思決定者の自主的環境配慮という環境アセスメント全般の大原則によるものであるとともに、計画策定段階において、環境配慮を意思決定に円滑に統合するために必要。ただし、これは十分な情報公開と第三者の関与によってはじめて妥当性が担保される。 | |
(公衆や専門家の関与及びその位置づけ) | |
環境面からの情報は、国、地方公共団体のほか、当該地域の住民をはじめ、環境の保全に関する調査研究を行っている専門家等によって広範に保有されている。このためSEAでは広範な公衆や専門家の関与が必要である。 公衆の関与は、個々の計画等に係る政府の意思決定そのものに公衆が参加するためのものではなく、公衆が意見を述べ、それに対応して計画等の策定者が環境配慮を行う過程を通じて、計画等に係る意思決定に反映させるべき環境情報の形成に公衆が参加するものとして位置づけることが適当。 | |
(評価の審査) | |
SEAでは、当該評価が科学的かつ客観的なものであるかの妥当性を確保する観点から審査のプロセスを設け、計画等の策定者による評価のほか、審査を行う主体として環境の保全に責任を有する機関(部局)が関与できることが必要である。 | |
(3) | スコーピング及び評価に関する原則 |
(複数案の比較による評価と検討すべき案の範囲) | |
SEAは、上記・早期の段階で、幅広い実行可能な選択肢の中から環境の観点も踏まえて望ましい案を選択するための手続であり、複数案の比較評価は不可欠。 この際、検討すべき案の範囲は、原則として、実行可能な範囲内で採りうる案をカバーした上で、特に重要な案について検討することが必要。また、原則として立地についての複数案を評価することが適当。 | |
(評価の視点) | |
環境保全面からの評価に当たっては、環境基本計画等で望ましい環境像や環境保全対策の基本方向が示されていることが望ましい。逆にSEAは、環境基本計画を達成するための各種計画等との調整ツールとしての機能が期待される。また、より広域的な視点から、環境の改善効果も含めて、複数の事業の累積的な影響を評価することが期待される。 | |
(スコーピング) | |
SEAでは、スコーピングは、単なる手法や項目の検討から「検討範囲の設定」及び「問題の絞り込み」という性格等が強まるため、事業の実施段階での環境アセスメント以上に重要。このため、この段階で計画等の目的や制約条件を明確化し、SEA全体の検討範囲を明らかにすることが必要。また、全ての環境影響を検討する必要はなく、スコーピングで計画の決定内容に影響を与え得るような重要な環境項目等を選定することが必要。 その手続においても、環境影響評価法と同様、地方公共団体、公衆、専門家からの意見を幅広く聴くことが必要。 |
第3章 SEA導入に当たっての留意点
(1) | 弾力的な対応 |
SEAを、どのような事項に関し、どのようなタイミングで、どのような手続を経て行うかは、対象とする計画等の内容やその立案プロセス等に即して、弾力的に対応することが重要である。 | |
(2) | 前提としての不確実性 |
SEAは事業と比して抽象的な計画等を対象とするため、環境影響の予測結果等には不確実性が伴うが、不確実性を過大に考える必要はない。それを前提に、スコーピングや複数案の比較評価等を活用し、計画等に適した評価を行えばよい。 | |
(3) | 評価文書の分かりやすさ |
評価文書には、科学的な環境情報の交流のベースとしての機能のほか、意思決定の際に勘案すべき情報を提供する機能がある。このため、評価文書は、分かりやすく記載するよう努めることが必要である。 | |
(4) | 事業の実施段階での環境アセスメント等との重複の回避 |
SEAを行った後に事業の実施段階での環境アセスメントを行う際には、評価の重複を避けるため、SEAの結果を適切に活用することが重要である。 |
第4章 今後の方向
(1) | まずできるところから取り組むこと |
我が国では、現状では本格的なSEAの実施事例はまだまだ少ない。このため、当面はまずできるところから取り組み、具体的事例を積み重ねることが必要である。 | |
(2) | 環境影響評価法の活用 |
環境影響評価法で導入されたスコーピング手続を活用することによりSEAに期待される役割の一定部分は実現できる。そのような努力がなされることが期待される。 | |
(3) | 地方公共団体の役割の重要性 |
地域の環境保全に責任を持つと共に、各種の計画等の策定主体となることが多い地方公共団体が先導的にSEAに取り組むことが期待される。 | |
(4) | 評価のためのガイドラインの整備 |
具体的事例を積み重ねていくために、各主体の参考となるガイドラインを提示し、SEAの実施を促すことが求められる。 | |
(5) | 「政策」に対するSEAの検討 |
以上は、計画・プログラムを念頭に検討を行ったが、環境に著しい影響を与えるおそれがあると考えられる「政策」に対する環境アセスメントについても今後検討を行うことが必要である。 |