00/09/12
参考4
クリーンな環境のための北九州イニシアティブ
(仮訳)

はじめに
1. 人口増加、経済成長、所得や国家収入増加のための自然資源の度を超した利用、短期的な目標のための根強い圧力により、アジア・太平洋地域諸国の多くは都市部の大気質の悪化、水資源の質の劣化と量的減少、持続不可能な消費とライフスタイルによる廃棄物の過剰負荷、生物多様性の喪失、沿岸資源の減少、有害な化学物質や廃棄物への曝露などの厳しい環境へのストレスに直面している。人体への健康、各国経済、自然生態系への影響がすでに重大な段階へと達していることから、こうした問題のうちいくつかは早急に対処する必要が生じている。
2. 環境及び持続可能な開発に関する重要な問題点の総合的評価が、1985、1990、1995、2000年(案)それぞれの「アジア・太平洋地域の環境の状況報告」をベースとして、問題の大きさ、傾向の定量化、あり得べき環境と開発のシナリオに基づいた予測、ならびに地域及び準地域ベースでの影響評価と取りうるオプションについて、明瞭な焦点を当てながら行われた。なお、2001-2005年の環境上健全で持続可能な開発のための地域行動計画案におけるプログラム分野は、上記の評価のほか、1999年8月のブレーンストーミングワークショップ及び引き続いた準地域の検討会議の専門家による勧告をも基礎としたものである。
3. 地域行動計画の効率的かつ効果的な実施を促すために、同計画のうちいくつかの分野を強調し、実施のための優先メカニズムを整備するのが適当と考えられた。このような優先分野は、地域の環境と持続可能な重要事項評価において浮かびあがった主要な分野の中から、最も納得がいくよう選ばれるべきである。
4. 第4回アジア太平洋環境と開発に関する閣僚会議が開かれている北九州市は、かつての激甚な都市部の公害を克服した都市として名高い。また、北九州市はアジア・太平洋地域の多数の地方自治体を支援するための協力体制も有している。その環境改善における成功事例の経験はESCAP加盟国及び準加盟国・地域と分かち合い、さらには、当てはめうるものである。「クリーンな環境のための北九州イニシアティブ」は、北九州市当局との緊密な協力のもとでの北九州市での大臣会議の開催を記念し、大臣会議後のアジア・太平洋地域での環境と開発の分野での目にみえる進展に向け、その経験を通じて貢献しようとする北九州市の決意を十分に活用して作成された。
5. 北九州イニシアティブは北九州市の取組と経験から教訓を引き出し、それを地域の他の都市でも役立つと思われる有効な対策のメニューとして一つにまとめてることを試みたものである。北九州市の経験の他の自治体への適用を検討するため、北九州市の環境改善努力における成功をもたらした社会経済的、および技術的条件を考慮することが肝要である。またこのイニシアティブの適用にあたり、他地域の優良事例や成功取組も充分考慮に入れねばならないのは明らかである。
6. 北九州市の灰色の産業都市から緑あふれる街への転換は4つの時期を経て達成された。
(a)問題の発見と認識(1950-1967)
(b)環境対策の組織的な実施と環境管理システムの構築(1967-1980)
(c)より洗練された環境管理システムの実施(1980-1990)
(d)新たな挑戦(1990-現在)
21世紀における同様の努力では既存の優れた知識と技術、情報技術の革新において比較優位にあり、これらは全て比較的短時間で北九州市と同様の成功をもたらす可能性を有する。
7. 1985、1990、1995年の環境と開発に関する閣僚会議に採択されたものを含め、1992年の国連環境開発会議(UNCED)前後に採択された多くのイニシアティブの点から見ると、クリーンな環境を実現し、現行の開発の趨勢を持続可能な道のりに改めようとする意識の高まりと積極的な態度が人々の間に見られる。これは都市域の大気質、水質は人間の健康の維持にとって許容範囲内にあるべきであり、増え続ける都市廃棄物の脅威を地方自治体やコミュニティの管理能力の範囲内に抑えるべきことを意味するだろう。都市や周辺部での緑地の減少や、汚れた水域に対しては早急な修復対策を必要とする。また、地域行動計画で合意された国・地域、準地域レベルの行動の支援を得て、このイニシアティブにより限られた時間の枠内で実現できる最低限の目標の合意を得る必要がある。
8. クリーンな環境のための北九州イニシアティブは、人間の健康と環境の質に関する地域行動計画プログラム分野の優先的実施の支援を意図している。その目的は、大気汚染・水質汚濁の規制、あらゆる廃棄物の最小化、その他の悪化しつつある都市環境問題の軽減に狙いを定めたローカルイニシアティブを主なものとして、アジア・太平洋地域の都市地域の環境の改善において、与えられた時間の枠の中で、目に見える進展を成し遂げることである。このイニシアティブへの参加は、ESCAP加盟国、準加盟国・地域の地方自治体、その他の団体に限られる。

I.政策と行動
A.北九州市の経験から導かれる政策ガイダンス
9. アジア・太平洋地域の開発途上国は経済成長と環境保護における複合的課題に直面している。また、新たな産業面での課題にも直面している。各国は、既に多くの都市部で深刻である大気汚染や水質汚濁の制御、環境上の損害の軽減、新たな環境技術の開発、環境効率の改善を通じクリーンな産業発展を成し遂げなければならない。地方自治体は都市自治体も含め、環境汚染の軽減や環境改善のための修復対策の実施において積極的な役割を果たすことができる。というのは、多くの場合、地方自治体は土地利用、交通、建築、廃棄物管理そしてしばしばエネルギー供給と管理に関して権限を有するためである。また、都市行政は多様な政策手段と係せて、日々のコミュニケーション、キャンペーン、情報の普及により、市民や企業に自主的取組を奨励することができる。
a)ローカルイニシアティブを強化するため
(i)地元活動に根ざした環境問題の解決のため地方自治体のイニシアティブを強化する。
(ii)地方自治体によるイニシアティブは純粋な地方の問題に単純に限ることを確認する。ローカルイニシアティブは地球規模の環境問題の解決の鍵ともなる。
(iii)法制上、人材、財政、技術能力などの面について地方自治体の環境管理能力を改善する。
(iv)国が、ローカルイニシアティブを支援し、地方自治体の問題解決能力の向上、情報の提供などを目的として、適切な制度的な枠組を確立することを各国政府に奨励する。
b)パートナーシップを拡充するため
(i)地方自治体、市民、地方組織と私企業間の対話、諮問や合意形成を推進する。
(ii)地方自治体と国との協力を一歩進める。
(iii)企業と家庭の意識を高める。
(iv)しばしば公害の加害者と被害者間の対話として見られがちな企業と市民との対話において地方自治体が仲介者の役割を演じることを奨励する。
(v)家庭や企業とのコミュニケーションを改善する。
(vi)全ての利害関係者間での情報交換を促進する。
c)地方レベルでの環境管理能力を強化するため
(i)達成すべきわかりやすい目標を見いだし、可能な対策リストを明らかにし、それら対策の優先順位づけを行う。地方環境管理計画は環境管理対策の全体像を描くために策定される。
(ii)地方の状況と現実を反映した環境基準と目標を地方自治体が設定できる柔軟性を適宜、確保する。これにより、すぐにでも評価できる目標に向けた規制の強化を容易くする。
(iii)地方環境政策の科学的根拠づけを強化し、最も優れた科学的データ、技術に裏づけられた環境管理を促進する。
(iv)地方の科学研究機関と大学の役割を強める。
(v)地方自治体の環境モニタリングの能力を強化する。
(vi)国および地方自治体の法令に基づいた基準の実施を強化する。
(vii)データベースを改善し、定期的な報告や統計の出版を奨励する。
d)環境技術基盤の改善のため
(i)問題解決に適した技術の評価を実施する。
(ii)地方の技術開発能力、特にその地方に最適な技術開発能力を育成する。
(iii)持続可能な開発の目標を実施するにあたり、より有効であるクリーナープロダクション(CP)技術と終端処理技術の適切な組み合わせを確保し、CPの移転技術を奨励する。
(iv)環境技術と環境産業の発展を促進する。
(v)環境産業の発展に基づいた新たな発展モデルを創り出す。
(vi)再使用とリサイクルを通してより有効に資源を活用する“資源循環型社会”を創り出す。
e)公的機関、民間部内の環境への投資を促すため
(i)環境を改善するため公共投資を促進する。(例えば、下水道システム、廃棄物処理場および処分場)
(ii)汚染者負担の原則に則して、汚染の管理と環境の改善を旨とした民間投資を奨励する。
(iii)環境管理と汚染基準を遵守するにあたり中小企業のニーズと資金的制約に対応する。
f)環境情報と環境教育を促進するため
(i)環境教育とキャンペーンのため、地方の組織の役割を拡大する。
(ii)情報開示による行政の透明化を確保する。
(iii)高度な情報とコミュニケーション技術をより良く活用する。
g)ローカルイニシアティブに基づいた国際環境協力を強化するため
(i)都市間の協力の強化
(ii)技術とノウハウのパッケージ、優良取組、成功した都市の発展モデルを他国の自治体へと移転することを奨励する。
(iii)地方自治体による国際協力イニシアティブへの財政的支援を確保する。
(iv)国レベルの国際協力スキームとローカルイニシアティブを結びつける。(例:政府開発援助)。
(v)私企業の参加を奨励する。
(vi)都市間のネットワークと協力チャンネル間のリンクを強化する。

B.提案される対策
10. アジア・太平洋地域の地方自治体が上記の活動を促進する対策を採るよう推奨するため、以下の支援策が提案される。
(a)ESCAP加盟国、準加盟国・地域の自治体の参加を得た「クリーンな環境のための北九州イニシアティブネットワーク」の設立。このネットワークは、、アジア・太平洋地域での北九州イニシアティブの実施にあたり地方自治体間の協力を強化するため、下記の方策を通じた常設のフォーラムとしての主要な機能を持つべきである。
(i)定量的指標を備えた、統合的かつ持続可能な都市開発計画や戦略の実行と準備の支援
(ii)実施状況の定期的モニタリング(定量的指標に関して)
(iii)参加地方自治体間での情報の交換と経験の共有の促進
(iv)技術、ノウハウパッケージ、グッドプラクティスや持続可能な開発に向けた地方自治体の成功モデル移転のためのたたき台の供給
(v)地方自治体の国際協力イニシアティブへの国内及び国外の資金支援の関連づけ、媒介、及び促し
(vi)参加地方自治体における環境行政分野の職員のための研修の促進
(vii)交換留学などによる、都市間協力での環境教育プログラムの促進
(viii)インフラ整備と環境の質の向上プログラムへの私企業の参加奨励
(b)国からの支援:北九州イニシアティブは当初、地方自治体や、NGO、民間企業、また一般市民の参加を得て、地元レベルにより実行される予定だが、国の関与も必要不可欠である。適切な位置づけにもとづいた北九州イニシアティブへの国の支援は全国レベルでの持続可能な発展を成し遂げるための社会経済上、技術上の条件整備、法制度の整備、また二国間援助の活用において特に重要となる。
(c)学術界との連携の強化:地方の環境行政のための科学的な基盤強化に伴う、早急な人材発展に加え、持続可能な開発に対する地方レベルの政策形成を支援における学術界により果たされている重要な役割を考えれば、学術界との連携はもっと強化されるべきである。北九州イニシアティブネットワークと共同して実施される予定の異なる都市における北九州イニシアティブの実施に向けた都市特有のアプローチについてのケース・スタディは、ネットワークの活動の価値を高めるだろう。
(d)既存の国際イニシアティブとの協調:相乗効果と相互利益のあるパートナーシップの観点で、関連分野の既存の国際イニシアティブならびに特に人間居住管理のための自治体地域ネットワーク(CITYNET)・及び国際環境自治体評議会(ICLEI)との連携を強化するべきである。さらに、北九州イニシアティブの実施は、ASEAN環境高級事務レベル会合(ASOEN)、南アジア環境協力プログラム(SACEP)、南太平洋地域環境協力(SPREP)、北東アジア準地域環境協力プログラム(NEASPEC)など準地域環境協力プログラムの議題の中で適切にハイライトされるべきである。
11. 技術移転はひとつの国から他の国へと経験を複製する場合に重要な要素であることにより、北九州イニシアティブネットワークは環境上適正な技術に関する情報を提供するための情報交換の機能を発揮できるようにすべきである。同ネットワークは、アジア・太平洋技術移転センター(APCTT)、国連環境計画・国際環境技術センター(UNEP/IETC)、UNDPの都市環境技術イニシアティブ、国立のクリーナー・プロダクションセンター、UNEPの環境技術アセスメント、及び国連工業開発機関(UNIDO)などの既存の国際イニシアティブと充分調整されるべきである。科学コミュニティとの協力もまた技術情報を地方自治体が取り扱う能力を拡大することとなるだろう。
12. 北九州イニシアティブの実施において、資金源は主に国内の全ての利用可能なものが活用されるべきである。しかしながら、上記のパラグラフ10(a)-(d)に褐げられている支援策を通じ、付加的な財源を活用しうることが期待される。ESCAP加盟国、準加盟国・地域が地域行動計画(RAP)中の環境の質と人の健康に関する最重要優先分野に最大限努力を傾けるという決意は、北九州イニシアティブの実施について外部のドナーの関心を呼び寄せることは確かである。

C.行動分野、目標と指標
13.多くの政策と構想の目標が地域行動計画中の環境の質と人の健康分野においてすでに提案されている。北九州イニシアティブは、地方自治体、民間企業、NGOその他の市民団体、また市民個々人の密接な協力と共同作業により、地方レベルでの地域行動計画の効果的な実施を呼びかけているものである。
14.北九州イニシアティブの実施に際して達成の度合をモニターするため、定量的目標が測定可能な指標として、いくつかの行動分野について定められうる。これらの目標を達成するため、イニシアティブの主な着目点たるべき政策・行動目標を定める必要がある。指標は、定期的なレビューと調整が可能とするため政策の成功・効果度を測るように意図されたものである。指標は、まず、地方レベルで測定され、次に国及び地域レベルに合わせて集約されるものである。また、詳細な測定と集約の手法は引きつづき検討を行い今後定められる。行動分野と指標の例をいくつか次に示す。これらの例は、今後の地方自治体の検討を経て、さらに改善されよう。
行動分野:拡充した統合都市計画戦略
指標
(i)拡充された統合都市計画・戦略・方策の採択
(ii)包括的土地利用計画がカバーする率
(iii)緑地帯や緑地の比率
(iv)上水道や衛生サービスの普及率
(v)インフラ整備における私企業の参加の程度
行動分野:WHO基準又は存在する場合は地方の基準に適合に向けた大気質の改善
指標
(i)各種燃料の消費(有鉛、高硫黄含有ガソリンVS圧縮天然ガス(CNG)または液化石油ガス(LPG)など)
(ii)汚染源による大気汚染負荷とその軽減
公共交通機関利用者自家用車の割合
大気汚染軽減のため新交通制御システムを採用している都市の数
行動分野:WHO基準又は存在する場合は地方の基準に適合に向けた水質の改善
指標
(i)地域の下水処理システムで除去された生物化学的酸素要求量(BOD)の割合
(ii)基準の適合の程度
行動分野:最低限の衛生基準に見合うための廃棄物処理と一人あたりのごみ排出量の減少
指標
(i)安全に回収・処理・処分・リサイクルされた固形、及び生物系医療廃棄物の割合
(ii)廃棄物最少化技術の利用による廃棄物の減少
(iii)地方の産業により唱えられた、自主的な汚染減少の取組の数
(iv)クリーナープロダクション(CP)のアプローチや対応策を取り入れた地方の産業の数
能力開発、意識の啓発、利害関係者の参加
指標
(i)地方環境行政局にいる適切な訓練を積んだ職員の数
(ii)キャンペーンの数と環境教育意識啓発プログラムに参加している市民の割合
(iii)利害関係者の参加によって実施されている事業の数

II.検討すべき事項
15.都市環境の改善のために必要な政策と行動についての、前述の検討結果に基づき、大臣は次の行動を勧告することができる。
(a)ESCAP加盟国、準加盟国・地域の地方自治体に対し、「クリーンな環境のための北九州イニシアティブ」としてこの文書中に提案されている政策と行動の実施を奨励する。
(b)「クリーンな環境のための北九州イニシアティブネットワーク」の設立を承認し、ESCAP加盟国、準加盟国・地域の地方自治体とその他の関係団体を同ネットワークに参加するよう招請する。
(c)このネットワークの第一の目的が、アジア・太平洋地域における「クリーンな環境のための北九州イニシアティブ」の実施に際してESCAP加盟国、準加盟国・地域の地方自治体間の協力を強化するための場を提供することであることに同意する。
(d)北九州イニシアティブネットワークの第一回会合を、北九州市及び関係機関の協力のもと、ESCAPが主催することに同意する。同会合では、ネットワークの運営方針を定めるとともに、北九州イニシアティブについての閣僚会議の成果を受けて特定された目標と定期的な評価に取り組むための事業を開発することにする。
(e)北九州イニシアティブを実施している地方自治体を支持するため2001-2005年環境上健全で持続可能な開発のための地域行動計画に含まれる多岐にわたる問題の中で、とりわけ都市環境改善に関する最も重要な優先事項のひとつに対処することを通じてESCAP加盟国、準加盟国・地域が確固たる集中した努力を行うことを奨励する。
(f)クリーンな環境のための北九州イニシアティブを実施するための適切な資金援助を提供することを援助コミュニティに求める。
(g)関心を有する他の自治体と経験を共有することへの一貫した関心、また、とりわけ、アジア・太平洋地域の都市の環境改善のための当イニシアティブへの参加を快く引き受けたことに対して、北九州市当局に深い感謝を表明する。