00/09/12
参考3
国連環境開発会議の成果の実施状況の10年レビューに向けた
地域メッセージ
(仮訳)

A. 現状と推移
1.1992年の国連環境開発会議は、持続可能な開発のための地球規模のパートナーシップを、最高レベルの政治的コミットメントをにより開始した画期的な出来事であった。それ以来、アジア・太平洋地域の各国政府は、それぞれの限界と制約の範囲内で、持続可能な開発の目標を達成するための国家戦略、行動計画及びプログラムを策定し実施してきた。国際機関、地域機関、準地域機関は、関係国の努力を支援するためのそれぞれ行動プログラムを発展させようと取り組んできた。
2.「共通だが差異のある責任」の原則は、環境と開発の分野における国際協力の土台として、また、持続可能な開発の実現と、アジェンダ21で定められた目標の達成のための新たな地球規模のパートナーシップを確立する主要な基礎として確認されるべきである。
3.特に、環境法及び政策の改定、環境面の遵守と執行の分野での機構強化、より大きな説明責任と透明性を有するための意思決定プロセスの改善、環境管理を統括する組織の能力向上に向けた活動、域内の各国による国別保全戦略と国別アジェンダ21の策定といった分野において、重要な成果が得られた。また、再植林への取組の強化、新たな保護地域の設定による生物多様性の保護活動の強化、河川再生プログラムの実施や沿岸部の修復の促進といった分野についても進展が見られた。更に、政策的なイニシアティブが採られたものとして、大気汚染及び水質汚濁の削減、様々な利害関係者の参加、とりわけビジネス分野、NGO、科学者や学術界、女性、青年の参加の促進、環境劣化を予防し、制御し、緩和する取組の追求が挙げられる。
4.しかしながら、明らかにされた状況は全て、各国の最大限の努力にもまして環境面でのネガティブな変化が引き続いていることを示している。地球環境の状況は劣化し続けている。今日の全体的な外観は、特に途上国及び最貧国にとって、1992年及び1997年時点におけるものよりも悪化している。
5.アジア・太平洋地域は、飛び抜けた環境悪化の事実の枚挙にいとまがない。例えば、同地域は、世界の乾燥地域、半乾燥地域、乾燥半湿潤地域のうち土壌劣化及び人為的理由による塩害の影響を受けている面積が最も大きい。また海洋に運搬される堆積物の総量、農業用の取水量も最大である。アジアの10の巨大都市における粒子状物質のレベルは世界平均の2倍である。河川中の大腸菌群数は世界平均の3倍であり、OECDガイドラインの10倍である。また摂取カロリーが先進国に比べなお3分の1も低い世界最大の貧困層を抱えている。
6.傾向からすれば、この地域の環境への圧力は更に危機的なレベルで、増大している。地域の人口は2025年までに48億人に、2050年までには53億人に到達する見込みである。2025年までには、更に11都市が巨大都市の域に達し、アジアの都市人口は25億人、すなわち世界の都市人口の半数を占めることとなる。水需要は5倍増が見込まれている。現在世界の20%超を占めているだけのエネルギー消費は30%以上に増加し、それに伴い大気汚染も進行するだろう。
7.これらの新たな進展は、一方で利益をもたらすが、他方で危険をももたらす。グローバリゼーションと貿易自由化により、持続可能な開発にとり新たな好機がもたらされているが、これらは同時に、産業規模の拡大や汚染をもたらす商品の消費が地域内外での自然資源の搾取や汚染を増加させるため、環境劣化を進行させ得る。グローバリゼーションと貿易自由化は、収入の増加と経済成長をゴールとするが、広い意味での成長というものに基礎を置かない限り、不平等性の拡大が生じ、またより深刻化し得る。情報技術は、飛躍的に成長しており、人々が問題を解決するための知識の利用を手助けするあらゆる可能性を有している。しかしながら、情報技術の発展と普及は不均等が甚だしく、大きな不平等を一国内及び国家間にもたらす。バイオテクノロジーは食料生産の増加への大きな潜在力を有する遺伝子組み換え作物の開発を可能にする。しかし同時に、これらの技術には、倫理的な問題はもとより、生態学的な影響、技術的また経済的な依存といった大きな危険性も伴っている。これらの中でも、文化的な面の損失は、その政治的また生態学的な影響故に、当然起こりうる危険であり、またその不可逆的性は潜在的な損失を更に大きくする。生物多様性条約バイオセイフティ議定書の批准は不可欠である。

B. アジア・太平洋地域の実情より生じた優先事項
8.環境に関するアジア・太平洋地域の優先事項は、同地域の重要課題に焦点を当てており、すなわち以下のものである。(a)環境の質と人間の健康。すなわち、大気及び水の質、廃棄物、有害化学物質、及び国境を越える問題。(b)生物多様性。すなわち、生態系(沿岸及び海洋、河川、湿地、草原、森林及び山地、貴重な生息地)の保全、脅威にさらされ絶滅に瀕している種の保護、及びバイオセイフティ、(c)海洋及び沿岸の環境。すなわち陸域及び海域に起因する汚染、国際水域、珊瑚礁、島嶼及び観光。(d)淡水資源。すなわち保全と統合された管理。(e)砂漠化と土地荒廃。すなわちテーマ別プログラムネットワークの支援。(f)環境と経済。すなわち環境政策と経済政策の統合、経済的措置の利用、グローバリゼーション、貿易と環境の問題。(g)気候変動。とりわけ小島嶼開発途上国、沿岸低地域及び壊れやすい山岳生態系の脆弱性。及び(h)持続可能なエネルギー開発。
9.持続可能な開発への途は、開発途上国における貧困及び文盲問題により大きく妨げられており、そのことから貧困の削減はこれらの国にとって持続可能な開発を実現するための鍵であることが認識されるべきである。それにも拘わらず貧困層の人口は増え続けており、また最貧国と先進国の差は縮まるどころか広がるばかりである。この点において、貧困の軽減と文盲の一掃に向けた開発途上国の努力に全面的な支援を与えることが国際社会にとり必要とされている。
10.経済成長と環境の劣化のデカップリング(分離)への道を拓くために、とりわけ以下の行動に取り組む必要がある。
(a)市場メカニズムを効果的に活用し、地球環境問題に関連するビジネスや雇用の機会を増やす。
(b)経済的措置、規制的措置、普及啓発、教育を含む適切なポリシーミックスの実施を通じて生産・消費パターンをより持続可能なものとするよう移行させる。
(c)より多くの科学的なデータやより掘り下げた評価が必要な分野を特定し、諸問題に取り組むため、情報技術のような最近の技術の進歩の最善の利用を確保し、これらの分野における諸問題を解決する上で利用できる革新的な技術を開発する。
11.「地球規模のパートナーシップ」の精神に基づき、先進国はなるべく早期にGNPの0.7%をODAに充当するという目標を達成するとのリオ会議でのコミットを尊重するべきである。また、先進国から開発途上国への「新たな追加的な資金源」の提供が呼びかけられている。また、先進国はアジェンダ21を踏まえ、好意的な条件で環境上健全な技術とノウハウを途上国に移転するよう努めなければならない。
12.市民社会と民間部門の一層の参加により追加的な資金源を確保しうる。市民社会は環境管理及び説明責任の向上にとり重要なパートナーとなる。ビジネス部門は、開発のための有力な触媒役となり、また、環境効率性の追求において重要なパートナーとなる。
13.地域的、準地域的協力は資源の活用、環境に配慮した技術やノウハウの移転を大きく容易にする。地域的、準地域的協力の強化は、国家の能力向上プロセスを高める活動にとってとりわけ重要である。
14.経済的発展、社会開発及び環境保護は、持続可能な開発にむけた相互依存的かつ総合補強的な要素である。再発防止策を含め、アジアにおける金融危機から回復しつつある国々を支援する緊急の行動が必要である。アジア金融危機は、グローバリゼーションがもたらし続けた相互依存の結果により生じる脆弱性を露呈した。グローバリゼーションの影響を継続して監視し、評価する必要があり、また各国は、好機を活用し、ネガティブな影響を和らげるような能力を培うべく支援を受けるべきである。このことは、すなわち、貿易と環境政策とは相互支持的であり持続可能な開発を推進すること、また環境目的の貿易措置は、国際貿易における恣意的あるいは正当化できない措置または偽装された障壁の手段として用いられないことを確実なものとすることである。

C. 持続可能な開発を実現するためのアジア・太平洋地域のための手段
15.アジア・太平洋地域の国々は、環境上健全で持続可能な開発を推進し、アジェンダ21の実施を一層深めることを目的としている全ての世界的イニシァティブや活動を支持することに留意する。これらの世界的イニシァティブや活動は、以下を含む取組の実施に役立ってきた。
(a)地域の環境問題の状況や動向をその根本的要因とともにとりまとめ2000年の環境の状況についての総合的評価
(b)2001-2005年環境上健全で持続可能な開発のための地域行動計画。この計画は、国家レベル、準地域レベル、地域レベルでの行動の枠組みを提供する。
(c)2000年8月31日から9月5日までのアジア太平洋地域の環境と開発に関する閣僚会議の開催及び当該会議において採択される宣言。この宣言は、環境に配慮した持続可能な開発の実現を目指す国々の決意を反映する。宣言において世界的、地球的、また準地域的な取組が必要とされる個々の関心分野を特定する。
(d)アジェンダ21の地域的実施プロセスを進展させリオ+10の準備のための内容面でのインプットに貢献するため、とりわけ女性の知識と管理能力に注意を払いつつ様々な利害関係者との協議を通じた地域の知的ポテンシャルの幅広い活用。
(e)環境問題に取り組むにあたり教育の重要性が認められるべきである。また教育のニーズに対応することは大変重要である。特に貧困に打ちひしがれた地域の女性とってはそうである、というのは彼女らが環境保全にあたり活動的な主体の一つだからである。
16.アジア太平洋地域の各国は、環境と持続可能な開発に関連する国際的な法的文書や協定の継続中あるいは計画中の交渉に迅速な解決を得るため、地域レベルでの共同した努力を強化すべく取り組んでいる。同地域は、例えば、国境を越えた保護地域や越境汚染モニタリングの設立、提案中である遺伝資源と生物資源へのアクセスに関するASEAN枠組議定書のありうべくは地域全体での実施、及び提案中の森林火災に関する協定といった新たな環境イニシアティブを追求するだろう。域内の各国は、持続可能な開発に関する国際協定の策定及び実施のプロセスが明瞭かつ効率的であることを確保し、遵守を促し、実のある成果を見込むため、環境関連の国際協定に基づく活動及び国際機関によりなされる活動の相乗効果を高めることに取り組む。さらに、日中韓三カ国環境大臣会合、中央アジアの環境と開発に関する国家間協力及びASEAN環境大臣会合のような地域的、準地域的な相互環境対話は、前述した取組を一層進める効果的な方策であることが特記されるべきである。環境の状況に関する報告書作成の難しさに鑑み、状況のモニタリング、データ収集、原因結果を判明させるための分析、及び全世界的アセスメント及び政策展開のための情報共有を目的とするより良いメカニズムを作り上げることが必要である。そうしたメカニズムの一例として、改良し拡充された東アジア酸性雨モニタリング・ネットワークが挙げられる。

D. 21世紀の持続可能な開発に向けた決意
17.アジア太平洋地域は、ダイナミックかつ活気に満ちた経済に下支えされ、また持続可能な開発に向けた国家レベルの一体性、地域レベルの連携、世界レベルでのパートナーシップの基礎を創り出すように、勇気づけられた人々に支えられるような、止まることなく環境の改善が図られる将来像を展望する。この点において、本地域の政府と人々は自らが以下の三つの分野の上に築かれる持続可能な将来の設計者となるようコミットする。
環境:すべての人に活力を与えるサービスを供給すること、そのサービスとは、安全な水、清浄な空気、肥沃な土地、豊かな森林と海洋生態系、そして全てに亘る生態学的安定性などである。
経済:貧困の悪循環に終止符を打つこと。国家レベル、地域レベル、世界レベルで資源及びその恵沢の公平な分配を実現すること。市場を環境管理の手だてに変革させること。
力づけ:すべての人々と関係者を意思決定プロセスに関与させること。地方自治体、市民社会及び民間部門を強化すること。持続可能な開発に向けた国家的、地域的、世界的行動に向けた実効ある政治的意思を醸成すること。
18.このビジョンを行動に移す際、地域内の各国は、セクター、国、世代にまたがる長期的な取組の枠組のなかでなすべきことを実施するにあたり、リーダーシップを十分発揮することとなろう。

E. 「リオ+10」の開催地
19.アジア・太平洋地域の各国は、地球規模の問題の認識向上の重要性に鑑み、リオ+10のアジア・太平洋地域での開催は同地域及び世界での持続可能な開発の実現への原動力をもたらすという信念を強調し、またリオ+10をホストするというインドネシア共和国の寛大な申し出を全面的に支持する。