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日本政府代表演説(仮訳)

国務大臣・環境庁長官 川口 順子
第4回アジア太平洋環境と開発に関する閣僚会議
2000年9月4日(月)
日本国北九州市

はじめに
 新たな千年紀が始まる大きな節目の年である2000年に、アジア太平洋地域の環境及び開発担当大臣の出席を得て、ここ日本の北九州市において、閣僚会議が開催されましたことは私の大きな喜びであります。
 「リオ+10」を2年後に控えたこの時期に5年に1度の閣僚会議が開催されることは、アジア太平洋地域の連帯を高め、地域協力を促進させる上で意義あることと考えます。
21世紀の新たな発展モデルの構築に向けて
 私たちのアジア太平洋地域は、多くの人口を抱え、文化的、自然的、経済的観点から極めて多様な地域特性を有しています。この地域では、人口増加と貧困、さらには急激な経済成長と都市への人口集中などにより、地域の環境は依然悪化を続けています。また、大気や水などの環境に対する汚染物質の排出が今後急激に増大することが予想され、これにより地球環境に対して大きな負荷を与えることが懸念されています。
 こうした地域特性と環境の状況にあるアジア太平洋地域は、世界の環境保全を図る上で決定的に重要な位置を占めていると言えます。すなわち、アジア太平洋地域が環境保全と持続可能な開発に成功しなければ、世界の環境が悪影響を受け、地球環境の保全が危うくなるのです。
 アジア太平洋地域は発展への高いポテンシャルを秘めています。1980年代から90年代にかけて、多くの国々が高い成長率で経済を拡大させてきたのはその一つの表れです。それにも拘わらず、アジア太平洋地域では貧困は引き続き重大な問題であり、環境問題はかえって深刻化しています。
 21世紀の入口にさしかかっている今、アジア太平洋地域はより公正な社会、発展の果実をその構成員が公平に享受することができる社会、そして環境面から持続可能な社会の実現を目指し、新たな発展のモデルを模索するとともに、そのための政策の策定と実施の両面で世界をリードしていくことが極めて重要です。
「リオ+10」を2年後に控えたこの時期に、改めて、持続可能な社会のあり方と21世紀の新たな発展のモデルについて高い見地から議論を行い、新たな哲学(ビジョン)を創り出すとともに、これを実現するための政策の基本的方向性を明らかにすることが必要であると考えます。
 このような新たな発展は、様々な社会構成員の政策決定と実施への全面的な参加により、ライフスタイルや生産パターンを変更し、土地、水、森林などの資源へのアクセスを改善することによって初めて可能となります。このために、意識啓発や教育、訓練、能力育成、情報の共有、エンパワーメントなど様々な取組を抜本的に強化する必要があります。そして、政府、社会を構成する各セクター及び利害関係者間の力強いパートナーシップを形成し、相互に活動の効果を高め合うようにしていくことが重要です。
 更に重要なことは、これらの取組の必要性についての認識が各国の政策決定の中枢にいる人々に共有されることです。そうすることによって、アジア太平洋地域から新たな変革の流れをつくり上げることが可能になります。
 私は昨日開かれたエコアジア2000において、こうした考えを示し、新たな発展のモデルを構築するために高い見地から議論を行う有識者会議の設置を提案いたしました。この有識者会議はアジア太平洋地域が目指す公平で環境上持続可能な社会のあり方を明らかにするものであり、それによって、地域が共通の目標に向かって努力を集中させることが出来るのです。出席された各国大臣は今後エコアジアのガイダンスの下にこの提案を具体化することに支持を表明されました。
 こうした変革のための取組を進めるに当たって、情報通信技術の革新やグローバリゼーションの進展に伴って急激に変化しつつある社会経済状況や、現在及び将来の環境状況に的確に対応した新たな政策の策定が不可欠であります。
 そして、こうした新たな政策の策定を支援するため、アジア太平洋地域の環境の現状と傾向について統合的なモニタリングと評価を行う体制を構築するとともに、革新的な環境政策・戦略の研究を行いたいと考えています。
 また、97年の国連環境開発特別総会で我が国が提唱した「21世紀に向けた環境開発支援構想(ISD)」に基づく政府開発援助を更に進めるとともに、開発途上国における環境と開発の政策統合を効果的に支援するための戦略づくりを行う考えであります。
環境分野での国内重点施策
 我が国は、環境上健全で持続可能な発展のために、特に、循環型社会の実現と地球温暖化対策の拡充に重点を置いて、各種施策を実施しています。
 従来の大量生産、大量消費、大量廃棄型の生産・消費パターンやライフスタイルを早急に見直し、生産から流通、消費、廃棄に至る物質の効率的な利用やリサイクルを進めることにより、資源の消費が抑制され、環境への負荷が少ない「循環型社会」を形成することが急務であります。この課題に対応するため、本年5月に、循環型社会形成推進基本法が制定され、5つの個別法が一体的に整備されました。
 京都議定書を2002年までに発効させることが我が国の基本的方針であります。各国による京都議定書の締結が可能となるよう、本年11月にオランダで開催される第6回締約国会議において、京都メカニズム、遵守、吸収源に関する具体的なルールについて合意することが不可欠であります。
 また、今後の国際交渉の進展も踏まえながら、我が国自らが温室効果ガスの6%削減という京都議定書の目標を達成するために、温室効果ガスの排出・吸収量のモニタリング体制の整備や着実な削減等に関する計画づくりを含めて、国内制度の構築に全力で取り組む所存です。
 現在策定作業中の新環境基本計画の中に、循環型社会の形成と地球温暖化対策の拡充を明確に位置付け、政府、自治体、企業、民間団体、国民が一体となって取組みを推進することとしています。
アジア太平洋地域との共生に向けたこれまでの取組
 アジア太平洋地域の環境保全と持続可能な開発を促進するためには、各国間の密接な協力が不可欠であります。我が国は地域内及び準地域内の協力を促進するために、これまで様々な取り組みを行ってきました。そのいくつかを紹介したいと思います。
 第1は、閣僚級による環境政策対話の場としてのエコアジアの継続的な開催です。昨日開催した第9回目のエコアジアの概要はお手元に配布しております議長サマリーのとおりです。また、エコアジアの長期展望プロジェクトにより環境政策オプションの提示などが行われています。
 第2は、準地域協力推進のための取組です。昨年、中国及び韓国とともに3ヶ国の環境大臣会合を発足させ、毎年率直な意見交換を行い、環境問題について認識の共有を図るとともに、具体的な協力プロジェクトを形成、推進することとしました。また、越境環境問題への地域の画期的取組である「東アジア酸性雨ネットワーク」の活動に積極的に参画しています。
 第3は、地球環境問題について研究協力の推進を目的としたアジア太平洋地球変動研究ネットワークへの積極的な参画です。現在20ヶ国が参加し、昨年には、我が国に常設事務局が開設されました。
 第4は、地球温暖化への対処能力向上を目的とした地球温暖化アジア太平洋地域セミナーの継続的な開催です。今年は、マレイシア政府、ESCAPとの共催でマレイシアのペナン島で開催し、主要な交渉課題であるCDM(クリーン開発メカニズム)や技術移転に関する理解が進む等、多くの成果を得たところです。
 最後は、子どもたちによる自主的な環境保全活動への参加を促進させる我が国の「こどもエコクラブ」のような取組のアジア太平洋地域への普及促進です。アジア太平洋地域において環境保全活動に関わる子どもたちを日本に招待して、これまで3回国際会議を開き、子どもたちの環境保全活動の促進に努めたところであり、本年も会議の開催を予定しています。
大臣会議に期待する成果
 「リオ+10」の準備が本格化するこの時期にアジア太平洋地域の大臣が集い、地域の持続可能な開発に向けた強い意志を閣僚宣言と地域メッセージの形で力強く訴えることは、大変重要であります。特に「リオ+10」は、未来志向の課題の下に21世紀の経済、社会、環境面の課題に取り組む機会とするべきです。そして、これを契機に、アジア太平洋地域が一体となって「リオ+10」の準備に取り組む機運を醸成し、地域の連帯を高めることが必要であると考えます。
 「リオ+10」の開催地にインドネシアが立候補しております。地域の連帯を高め、各国の準備作業を加速させるためにも、アジア太平洋地域での開催が望ましいと考えます。この会議でインドネシアの立候補を支持することが適当と考えます。
 この会議には都市環境の改善を目的とした「北九州イニシアティブ」が提案されています。このイニシアティブに基づき、アジア太平洋地域の都市の環境問題が公害克服と環境再生の実績を有する北九州市の協力を得て、改善されることを期待しております。各国代表のご協力と各国の都市がこのイニシアティブに係る都市ネットワークに参加されることを強く希望します。
結び
 環境庁は発足30年目に当たる来年1月に環境省に昇格します。これは、地球環境保全を含む環境問題の重要性と環境行政を一層充実させる必要性が広く国内で認識されたことを示すものであります。
 私は環境行政を担当する国務大臣として、このことを重く受け止めるとともに、地球環境の保全とそのための国際協力の推進に尚一層の努力を傾け、施策の充実を図りたいと考えております。
 最後に、この会議が実りあるものとなり、アジア太平洋地域の環境保全と持続可能な開発に向けた力強い歩みが始まることを期待して、私の演説を終わります。
 ご静聴ありがうございました。