公害防止計画の今後のあり方と公害の防止に関する事業に係る
国の財政上の特別措置に関する法律の延長について(意見具申)

平成12年12月1日

中央環境審議会


1.公害防止計画制度の意義と成果

 公害防止計画については、昭和45年の運用開始以来、現に公害が著しい地域等において、国、地方公共団体、事業者等が連携を図りながら、公害防止施策を総合的、計画的に講ずるための制度的枠組みとして用いられてきたところであり、そのような地域の大気、水質等の環境質の改善に相当の成果を収めてきた。
 制度開始以来の制度運営の状況を見ると、苫小牧地域等7地域において、また、市町村数では487市区町村のうち122市町村において、各種環境質の改善が総合的に進み、新たな公害防止計画の策定指示の対象とすることを要しないまでの改善を見ている。これを、「公害の防止に関する事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律」(昭和46年法律第70号)(以下「公害財特法」という。)の適用期間が再度延長された平成3年度以降について見た場合、浮遊粒子状物質に係る大気汚染や河川に係る水質汚濁、農用地土壌汚染について改善が進んだ結果、71市町村が策定指示の対象地域から除外されている。
 しかしながら、公害防止計画の策定指示の対象地域に含まれる地方公共団体は、平成12年度現在、なお365市区町村に達し、大都市部を中心とする都市交通公害や都市内河川、閉鎖性水域における水質の改善が見られないなど厳しい状況が続いている地域も多い。また、策定指示の対象地域外の市町村においても、一部に環境質の悪化が見られるものもある。さらに、土壌や地下水の難分解性有害物質による汚染等、将来の世代まで影響を残すような環境上の「負の遺産」の解消が重要であり、この点についての対策が喫緊の課題となってきている。これについて、汚染の状況を把握し、対策技術を確立し、汚染の除去等を推進していく必要がある。一方、国民の環境に対する関心は、一層の高まりを見せており、公害の解決は、国民が最低限求めていることである。
 公害対策の最も基本的な制度である公害防止計画制度については、運用開始以来30年が経過し以下のような課題もあるものの、上記のような公害の状況及び環境汚染についての対策の必要性等を踏まえ、今後ともその適切な運用、改善に努め、引き続き環境質の改善を図っていく必要がある。

2.公害防止計画制度の課題

 公害防止計画制度は、創設当時に見られた激甚な産業型公害の解決を念頭において創設された制度であるが、汚染物質の排出規制の強化や徹底、公害対策事業の集中的実施等が図られ、産業型公害から都市生活型公害への対処にしだいに重点を移しながら、引き続き公害対策の中心的な制度的仕組みとして用いられてきた。
 しかしながら、エンド・オブ・パイプ型の公害対策事業に即効的な効果を期待できた産業型公害から、不特定多数の者が介在する日常生活や通常の事業活動に起因し、それゆえに環境負荷のコントロールが極めて困難な都市生活型公害へと、公害の態様が大きく変化する中で、ほぼ制度創設当時の姿が維持され、運用されてきたこともあり、次のような問題点が生じている。

[1]原因者が比較的明確であり、エンド・オブ・パイプ型の対策が即効的な効果を期待できた産業型公害と異なり、不特定多数の者が介在する日常生活や通常の事業活動に起因する都市生活型公害においては、ソフト的対策等の幅広い政策手段が公害防止対策事業と有機的に連携する形で講じられること(ポリシーミックス)が必要であるが、現在の運用においては、このような点について十分な配慮が払われているとは言い難い状況にある。
[2]現在指定されている地方公共団体の多くは、制度開始後間もなく指定されたものが継続して指定されており、公害防止計画の対象となる地域の固定化が進んでいる。公害防止計画の策定指示の要件については、多岐にわたる要素を総合的に判断することが求められることから、これまで必ずしも明確に示されてきたとは言い難いが、国民に対するアカウンタビリティの必要性も踏まえ、客観的な指標等に基づき可能な限り明確にこれを示して対象地域の見直しを行うことが必要である。
[3]公害防止計画上、公害防止計画地域内で行われる事業が広く公害防止に資する施策とされてきた結果、当該地域の指定要因及び対策並びにその効果が必ずしも直線的に結ばれていない。課題を明確にして重点的、効果的な対策を講ずるという制度の趣旨を徹底することが必要である。

3.公害防止計画制度の見直しの方向性

 これらの問題については、次のような方向で改善を検討すべきである。

[1]策定指示の要件を明確化し、公表すること。なお、要件の明確化に際しては、一般的な対策のみでは十分な対応が図れない「著しい」公害を対象とするという公害防止計画の趣旨を踏まえ、真に対策を必要とする地域が対象となりうるようにすることを基本として検討を行うべきであると考えられる。
[2]公害防止計画制度をより課題に即し、課題を適切に解決しうるものにしていくため、策定指示に際して関係都道府県知事に示される計画の基本方針において、地域指定の要因となる課題を明確に示すとともに、関係都道府県においては、これを踏まえた現実に最大限達成可能な目標及び指定要因に対応する具体的な対策を記載した計画を策定すること。
[3]公害防止計画に掲げた目標を達成するために必要な、規制等の制度的対応や自主的取組を含む幅広い施策の連携や住民を含む各主体の適切な役割分担等により、施策パッケージを形成し、施策の相乗効果を発揮させるように努めること。
[4]計画期間中における適切な進行管理を実施するとともに、計画終了時点における施策効果と目標の達成状況の評価を実施すること。

 なお、地域の課題に対応する施策は、当該課題に係る環境基本計画の内容を踏まえて策定するものとする。

4.公害財特法の延長

 公害財特法は、地域の公害の解決のための対策メニューを提示しつつ、国の補助の嵩上げ及び地方財政措置を講ずることにより、公害防止計画の対象地域に対する直接的な財政支援効果を有するばかりでなく、公害防止対策事業の優先採択にも動機付けを与えており、これらを通じて、公害防止計画を推進するための原動力の一つとなっている。
 この公害財特法は、平成12年度末に適用期限が到来することとなっているが、これが失効した場合には、公害防止計画の実施に重大な支障が生ずることは明白であり、公害防止計画を適切に実施し、公害問題を解決するため、以上のような公害防止計画制度の改善に係る所要の見直しを行うこととした上で、その適用期限を延長することが是非とも必要である。
 なお、今後とも公害の態様の変化や環境施策の進展の状況に応じた適切な措置を講じていくべきであり、その施策のあり方について常に検討を加えて行く必要がある。

 以上について、当審議会として意見具申する。