報道発表資料



地方環境事務所将来ビジョン
〜国と地方との新たな協働関係を切り拓く核として〜

平成17年9月
環境省



1.背景

(環境問題の変容と社会の変容)

(政策手法の変化と期待される国の役割)

2.地方環境事務所の機能

 上記の役割を果たすため、地方環境事務所は、次のような機能を発揮することが求められる。

(1)「機動的できめ細かな現場部隊」として

 産廃不法投棄対策など国の関与の強化が求められている分野では、機動的に現場に赴き、事案の実態を迅速かつ的確に把握、分析し、問題解決に向けて地方公共団体や関係者への適切な助言を行う等により、国としての責任を果たす必要がある。とりわけ、災害により発生した廃棄物の処理や、有害物質漏出等の事故時における初動など、緊急時の対応が迅速かつ効果的に行われるよう、環境省としてあらゆる手段を用いて地域を支援する、そのための窓口として機能しなくてはならない。
 国立公園管理や外来生物対策など、全国各地で国自らが地域の実情に応じたきめ細かな施策を展開することが必要な分野では、現地の実態調査、地方公共団体等からの情報の収集等により、地域の自然的社会的条件を十分に踏まえるとともに、地域の様々な主体との連携・協働の下に取組を進める必要がある。
 地方環境事務所は、環境省の現場部隊として、こうした要請に着実に応える。

(2)「地域環境力の活性化・支援拠点」として

 地球温暖化対策など、日常生活や地域社会における足元からの自発的な取組が重要な分野では、国、地方公共団体、事業者、地域住民等が一体となって、環境教育、人材育成等を通じた地域での環境保全活動の積極的展開を図り、地域の自然環境、経済活動、技術、人材など様々な資源や強みを知恵と工夫により活用し、ライフスタイルや経済社会システムの変革へとつなげていくことが求められる。
 このため、地方環境事務所が、積極的に関係主体とのコミュニケーションを図り、地域でのパートナーシップ構築の手助けをすることで、地域環境力(=地域において、あらゆる主体が自発的積極的に地域の環境問題へ対応する基盤・ポテンシャル)の活性化と展開を推し進める。

(3)「地域の環境データバンク」として

 環境省では、これまでも、環境総合データベース等各種のデータベースを整備してきているが、十分に活用されていないといった指摘もある。集積した情報・データは、分析し、分かりやすく公表した上で、地域での環境保全活動の推進や本省での施策立案に活かしていくことが必要である。
 このため、本省各担当部局を含め、必要な環境情報について戦略的に収集、整理し、施策・取組の基盤となる環境統計等の形で発信できるような体制を構築し、その中で地方環境事務所は地域の環境データバンクとして、地域での環境保全活動の推進や本省の政策立案を支える。

3.個別分野での展開方針

 個別分野においては、府省間配置転換等による体制の充実・強化も念頭に置きながら、当面5年程度を想定し、次のような展開を図る。

(1)廃棄物・リサイクル対策

 環境省では、不法投棄対策の当面の目標として「5年以内に早期対応により大規模事案(5000トンを超えるもの)をゼロとする」ことを掲げ、総合的な対策として、16年6月には「不法投棄撲滅アクションプラン」を公表した。これを受けた国の役割を十全に発揮していくため、地方環境事務所は、特に以下の点について取組を進める。

(関係機関との連携)
[1] 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号。以下「廃棄物処理法」という。)に基づく緊急時の立入検査等の権限を適時適切に行使するため、都道府県廃棄物担当部局や都道府県警、関係地方支分部局等と連携し、日常的な情報交換を行うとともに、環境省不法投棄ホットラインへの対応など不法投棄防止のための監視・調査活動を行う。
(不正輸出入への厳格な対応)
[2] 本年4月に我が国で開催された3Rイニシアティブ閣僚会議を受け、環境上適正に管理された国際的な資源循環の確保が世界の課題となっている。不適正な廃棄物の輸出入が行われないよう、廃棄物の輸出確認及び輸入許可に係る審査や事前相談等において的確・厳格な対応を行うとともに、改正廃棄物処理法で罰則が強化された廃棄物の不正輸出について、立入検査等を迅速かつ的確に行い、税関等と連携して取締りを強化する。
(循環型社会の形成に向けた地域の取組の支援)
[3] 我が国を循環型社会に変革していくためには、国民一人ひとりがごみ問題に関心を持ち、環境への負荷の少ない製品やサービスを選択したり、ごみ減量化・リサイクルのための分別収集に一層協力する等、ライフスタイルを見直していくことが不可欠である。地方環境事務所では、循環型社会の形成に向けた国民一人ひとりの取組の全国的な展開を図るため、地域の取組に対する支援を積極的に行うとともに、普及啓発事業等を展開する。
(国と地方が一体となった循環型社会形成)
[4] 広域的・総合的に循環型社会の形成を図るための新たな制度として、本年度から廃棄物の3Rに係る戦略的な目標を定め、これを実現するための政策パッケージに掲げる事業を国と地方が一体となって推進する「循環型社会形成推進交付金制度」を創設した。「循環型社会形成推進地域計画」を取りまとめる地域の協議会には国として地方環境事務所が参加し、全国的、広域的な見地から支援、助言を行う。さらに、18年度以降、汚水処理施設整備交付金の交付申請に係る地域窓口となる予定である。
 また、循環型社会の形成に向けた適正なリサイクルの確保を図るため、個別リサイクル法に基づく事業者の監督措置を適切に実施するとともに、廃棄物処理法に基づく再生利用認定制度及び広域認定制度等に係る事前相談及び現地確認等を行い、本省での審査事務等を補完する。

(2)地球温暖化対策

 地方環境事務所は、京都議定書目標達成計画の実施のため、地域からの発想で、地域の実情にあった取組を推進する拠点として、次のような業務に対応していく。

(国民運動の展開に向けた普及啓発・広報)
[1] 国民の間で地球温暖化に対する関心は高まっているものの、その防止に向けた具体的な行動にまでは至っていない現状を脱するため、「国民運動」を展開していくことが課題である。その起爆剤として、地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号。以下「温暖化対策推進法」という。)に基づく都道府県地球温暖化防止活動推進センター(本年9月1日現在39道府県)が行う普及啓発・広報事業の支援や関係地方支分部局や地方公共団体、3,500人の地球温暖化防止活動推進員、地球温暖化対策地域協議会、地域の事業者、住民等と連携したイベントの企画・実施、研修等、地域レベルでの様々な普及啓発・広報活動を推進する。
(石油特別会計を活用した事業の実施)
[2] 普及啓発・広報に限らず、石油特別会計を活用して、モデル的なものを含め、地域で省エネ・代エネに取り組む自治体等を積極的に支援する。補助事業等の実施に際し、要望に関するヒアリング、申請書の審査、交付決定、現地調査等の執行関係事務を行うほか、地域プロジェクトの発掘や形成に取り組む。
(「地域エネルギー・温暖化対策推進会議」の活用等)
[3] 「地域エネルギー・温暖化対策推進会議」を活用し、関係地方支分部局と協力して地方公共団体と連携しながら、地球温暖化対策の地域での取組をバックアップする。
 また、地方公共団体による温暖化対策推進法に基づく地域推進計画や実行計画の策定・改訂を支援する。

(3)自然環境保全

国立公園等、全国的な観点から重要な保護地域について保全管理水準を向上させると同時に、里地里山地域や都市地域も含めた各地方ブロック全体の生物多様性の保全を図り、自然の質を高めていくための施策を展開する。

(現地管理体制の充実)
[1] 国立公園、自然環境保全地域、国指定鳥獣保護区等の保全管理水準を高めるため、それらの保護地域の管理を担う自然保護官の増員、効果的な配置、業務遂行能力の計画的な向上を図ること等により、現地管理体制を充実・強化する。これにより、現場感覚に根ざした施策を企画立案し、効果的な対策を迅速かつ的確に実施する。
 また、アクティブ・レンジャーの効果的な運用、グリーンワーカー事業の活用、自然公園指導員、パークボランティア等の地域のボランティアとの緊密な連携を図ることによって、より効率的・効果的な現地管理を進める。
(新たな観点からの国立公園づくり等の推進)
[2] 地方公共団体を始めとする関係行政機関、学識者、地域住民、公園利用者等、多様な主体と連携・協力して、公園の整備・運営を進め、総合的に国立公園の質の向上を図るとともに、景観法(平成16年法律第110号)制定を受け、国立公園の景観等の資質のレベルアップを進める。
 また、本年度から国立公園の施設整備に係る補助事業は廃止され、国と地方の役割分担が整理されたことに伴い、登山道等の整備、適切な維持管理を実施することにより、安全・快適に自然と親しめる国立公園づくりを進める。
 さらに、失われた自然を再生するための自然再生事業を主体的に実施するとともに、各地の自然再生協議会に積極的に参画するなど、自然再生に関する施策を総合的に推進する。
 世界自然遺産地域、ラムサール条約登録湿地など、国際的にも評価される保護地域においては、高水準の保全管理と利用の適正化に向けた取り組みを推進する。
(野生鳥獣の管理、希少野生動植物の保護、外来生物対策等)
[3] 鳥獣の保護及び狩猟の適正化に関する法律(平成14年法律第88号)に基づき適切に野生鳥獣の保護管理を進めるとともに、特に、都道府県境を越えて広域に移動するクマ、カワウ等については、都道府県等の実施する保護管理事業との調整・連携を図り効果的に保護管理を推進する。
 また、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4年法律第75号)に基づく飼育、繁殖させた個体の野生復帰を含む希少野生動植物種の保護増殖事業、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号)に基づく外来生物の水際規制、侵入状況の調査・モニタリングや防除事業、遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(平成15年法律第97号)に基づく遺伝子組換え生物等の使用及び生物多様性への影響の監視を推進する。
 さらに、動物の愛護及び管理に関する法律(昭和48年法律第105号)に基づく動物の愛護と適正な飼養に関する普及啓発等を推進する。

(4)公害・化学物質対策

 公害問題は時代とともに変遷し、生活排水や自動車排出ガス問題のように、市民の生活が原因の一端となる形で、より複雑化している。こうした状況下では「リスク」と「参加」がキーワードとなり、従来の規制的手法では手の届かないところで、地域が抱える環境リスクについての理解の増進、自発的取組の支援が重要となる。

(水・土壌環境分野の取組)
[1] 水環境については、内湾、湖沼等の閉鎖性水域における生活環境項目の達成率が十分ではない。そのため、従来から、生活排水対策として地域の活動への表彰等の普及啓発活動を行っているが、加えて、住民参加による水質浄化活動等の推進など、地域の水環境保全活動の活性化を促していく。
 土壌環境については、地方公共団体との連携により土壌汚染対策法(平成14年法律第53号)等の適切な施行を図るとともに、土壌環境のモニタリングを推進する。また、広報活動等を通じて土壌汚染に関する理解を地域レベルで深める。
(大気環境分野の取組)
[2] 大気環境についても、自動車交通の集中、増大等に伴って、特に大都市地域における大気汚染は厳しい状況にあり、低公害車の普及促進、次世代低公害車(燃料電池自動車等)の国民の認知度の向上や関係者からの情報収集等に努める必要がある。また、特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律(平成17年法律第51号)に基づくオフロード特殊自動車の使用者に対する立入検査等について、関係地方支分部局との連携の下、現地で着実に執行する。
 また、アスベストの飛散予防措置の徹底を図るため、日常から関係機関との連携を深め、アスベストの使用・発生等に関する情報共有を進める。
(地方公共団体等との連携)
[3] 本年に入り、法の基準値を超える有害物質を含んだ排水の流出及び県・市への報告データ改ざんといった問題が発覚していること、アスベストの大気環境中への飛散に伴う国民への健康被害について懸念が高まっていること、近年、悪臭・騒音など生活公害への苦情件数が増加する傾向にあることから、各種公害規制法における立入検査等の権限実施に備え、また、地方公共団体において適切に権限が実施されるよう、日常から地方公共団体等との連携を深める。
 さらに、本年4月に公表した「今後の水俣病対策について」に基づく取組を環境省として進めていくに当たり、国立水俣病総合研究センター(熊本県水俣市)との連携を確保する。
(化学物質リスクへの対処)
[4] 16年度から、一定の用途に用いられ環境中への放出可能性が極めて低い新規化学物質の製造・輸入について、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(昭和48年法律第117号)に基づく審査の特例制度が導入された。適切な環境汚染防止措置が講じられることを、届出書類に基づき製造・輸入前に確認し、立入検査等により事後監視することを前提とする本制度の厳格な運用のため、確認後の事後監視を滞りなく実施する。
 また、化学物質に関しては、不正確な情報に基づく不安を解消することが必要とされており、最新の知見を地域において継続的に広め、化学物質の健康や動植物への影響等について正しい理解を深めるため「リスクコミュニケーション」を推進し、地域レベルで安全・安心な社会づくりを進めていく。

(5)環境教育・環境保全活動の推進/環境情報の整理・発信

 地域ぐるみで環境問題に取り組むには、その地域で活動する人づくりが重要である。人と人がつながって、点が線になり、面になる。人の動きが活発になり、情報が飛び交う。人と情報の円滑な流通のため、以下に取り組んでいく。

(地域での環境教育・環境保全活動の推進)
[1] 環境の保全のための意欲の増進及び環境教育の推進に関する法律(平成15年法律第130号)の基本方針に基づき、地域の様々な主体と連携し家庭、学校、職場等あらゆる場における環境教育・環境保全活動を推進する。
(環境パートナーシップ・ネットワークの形成)
[2] 現在、地方環境パートナーシップオフィスを整備中であり、18年度までに全国各ブロックパートナーシップに基づく民間の環境保全活動を支援するための拠点が誕生する。地球環境パートナーシッププラザ(東京)と十分連携を取りながら、地方環境パートナーシップオフィスにおいて、地域の様々な団体との意見交換会やワークショップの開催、HPによる情報提供等を積極的に行い、NGO/NPO、企業、行政など地域の様々な主体による情報の交換、交流の促進、ネットワークの形成を図り、環境教育・環境保全活動の推進に役立てる。
(環境情報の収集・整理・発信)
[3] 地域の環境保全活動の推進はもちろんのこと、本省における環境保全施策の企画立案に活用するため、環境情報の収集、整理、発信等を行う体制を本省各担当部局と一体となって整備した上で、地域における環境情報の収集、整理を行い、環境統計等の形で分かりやすく発信していく。自然環境分野においては、全国各地を対象に動植物の状況等に関する基礎的な情報の収集、整理、発信等を行っている生物多様性センター(山梨県富士吉田市)との十分な連携を図る。

4.横断的事項

(1)人材の育成

 地方環境事務所の職員は、地域における環境省の「顔」である。地域で総合的、一体的に環境行政を行い得る立場から、地域のために、関係自治体、地域住民等と手を携えて活動するとの明確な意識を持つことが求められることはもちろん、委任された法律権限の執行等、国として責任を持った判断と行動を実行するため、関係分野の専門知識の習得、現場での経験が不可欠である。
 地方環境事務所の今後の業務展開に際しての基盤でもある「人材の育成」のため、本省は、新たな施策等について事務所に対する情報提供を適切に行うとともに、権限執行等に際してのマニュアルを整備し、環境調査研修所(埼玉県所沢市)における各種研修に加え、本省担当課での実務研修の機会を確保する。また、日々の業務についても十分に本省がバックアップしていく必要がある。

(2)関係主体との連携

 その地域に固有の資源を活かしながら、どのような形で持続可能な地域をつくっていくか、地方環境事務所が、地方公共団体、民間団体等関係主体との間でネットワークを構築し、ともに模索していく中で、国と地方の新たな協働関係が築かれていく。その際、地域に密着した研究活動を続ける学識者等、「地域のブレーン」とのつながりを大切にしていくことが重要である。
 環境政策は政府横断的であり、地方においても同じである。地方レベルでは、現に関係地方支分部局が連絡調整を行う会議等の場が存在し、地方環境事務所の前身たる2事務所もテーマに応じて開催、参画しているが、他省と肩を並べる地方支分部局となり、「環境」をテーマとした地域レベルでのより一層の連携が期待される。

(3)情報発信力の強化

 ネットワークを構築し、双方向でのコミュニケーションを活発化させるためには、地方環境事務所側からの情報発信・広報が欠かせない。ニューズレターの発行やホームページの充実、ブロック別のシンポジウムの開催等により地域への話題提供を積極的に行っていかなければならない。地域の独自性を活かすことはもちろんのこと、本省との連携を確保し、また、幅広い分野を対象とする地方支分部局となったことを踏まえ、効果的・効率的な情報発信・広報を心がける。


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