第9回地球温暖化アジア太平洋地域セミナー
1999年7月12~15日 滋賀県彦根市



議長サマリー(仮訳)




1.1999年7月12~15日、滋賀県彦根市で、第9回地球温暖化アジア太平洋地域セミナーが開催された。本セミナーは、外務省、通商産業省、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局の協力を得て、環境庁、滋賀県、彦根市及び国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)が主催したものである。


Ⅰ.参加者

2.セミナーには、オーストラリア、バングラディッシュ、カナダ、中国、フィジー、インドネシア、日本、カザフスタン、キリバス、マレーシア、モンゴル、ミャンマー、ネパール、ニュージーランド、パキスタン、フィリピン、韓国、スリランカ、タイ、ツバル、米国、ウズベキスタン及びベトナムの23ヶ国の専門家が出席した。また、アジア開発銀行(ADB)、ESCAP、地球環境ファシリティ(GEF)、経済協力開発機構(OECD)、国連環境計画(UNEP)、及びUNFCCC事務局という6つの国際機関/政府間機関の代表者が参加した。すべての参加者は、気候変動に関するこの重要なセミナーの開催準備に当たった主催者の努力に謝意を示した。


Ⅱ.セミナーの主な目的

3.セミナーの主な目的は、以下のとおりであった。

(a) COP4及びその後の条約事務局主催の会議の成果のレビューを行うとともに、 これらが気候変動に関する地域協力に与える影響について検討すること。

(b) 気候変動に関する科学的知見、特に第3次評価報告書(TAR)や気候変動の地 域影響や土地、土地利用変化及び林業に関する特別報告書(LULUCF)を含む IPCCの最近の活動に関する情報交換を行うこと。

(c) アジア・太平洋地域各国における気候変動に対処するための具体的な対策の実施 状況を確認することを通じて、タイで開催した第8回セミナーで合意した行動、す なわち「アジア・太平洋地域において検討されるべきイニシアティブに係る提案」 のフォローアップを行うとともに、こうした対策のリストを作成することの意義・ 問題点に関して議論すること。

(d) アジア太平洋気候変動情報ネットワーク(APNET)の促進方策を議論すること。


Ⅲ.セミナーの議事

4.セミナーは、真鍋賢二国務大臣・環境庁長官の開会挨拶並びに國松善次滋賀県知事、中島一彦根市長、リザウル・カリムESCAP代表の歓迎挨拶で始まった。

5.セミナーでは、西岡秀三教授が議長に、テバオ・アウェリカ氏(キリバス環境社会開発省次官補)及びアトーロー・カーン・アフリディ氏(パキスタン環境地方振興省次官)が副議長に、ダンカン・マーシュ氏(米国国務省海洋・気候変動局地球変動課)がラポラツールに選出された。


Ⅳ.基調講演

6.COP4とその後の条約事務局主催の会議の成果及び今後さらに対処すべき課題に関する基調講演において、気候変動枠組条約事務局の科学・技術プログラム調整官であるタハル・ハジ・サドック氏は、条約の下での交渉の現状と今後の計画について概説した。氏は、COP4で採択されたブエノスアイレス行動計画を着実に実施することが重要であると強調した。同計画に従い、条約の締約国は、京都議定書の早期発効を促進するため、また、条約の更なる履行に向け、COP6で様々な事項について合意しなければならない。氏は、COP6の成果には技術的要素を強く含めなければならず、このため、政府の専門家や条約事務局からの技術的なインプットに対する要請がますます高まってくるだろう、と強調した。氏はまた、COP5はCOP6の成功に向けた踏み石となるものであり、政治的に受け入れることのできるCOP6の成果のパラメーターについて、閣僚間の合意が得られるのではないか、と言及した。こうしたことから、閣僚及び政府高官での政治的な対話の重要性について焦点が当てられた。

7.その後、国立環境研究所の社会環境システム部環境計画研究室長である原沢英夫氏が、「気候変動に関する科学的研究:IPCCの活動」と題する発表において、気候変動への対処に貢献している科学的組織である、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の現在の活動を紹介した。氏は、IPCCの活動の特徴として、対象とする分野が幅広いこと、世界各国からの数多くの科学者や専門家が関与していること、活動スケジュールが厳しいことを取り上げた。氏は、IPCCの活動はなおも広がりつつあり、この最大かつ多様な地域内の様々な課題に対応するため、アジア太平洋地域からさらに多くの科学者や専門家がIPCCの活動に参加すべきであることを強調した。

8.ESCAPの環境天然資源開発部環境課長であるリザウル・カリム氏は、「COP4の成果とアジア・太平洋地域の地域協力について」と題する発表において、気候変動は多くの主体と活動に関連のある非常に複雑な問題であり、社会的、経済的側面を含め、幅広い側面から検討されるべきであることを強調した。また、気候変動に関する地域ネットワークの強化の必要性を強調し、このための様々な地域的活動を紹介した。氏はまた、CSD9では、交通に関する議論を含め大気/エネルギーが分野別テーマとなっており、このためアジア太平洋地域から意見やインプットを提示する必要がある、と言及した。最後に、「アジア太平洋地域環境と開発に関する閣僚級会合」が、2000年に日本の福岡県北九州市で開催されること、また、これまでに何がなされ、今後何をする必要があるのかについて、政策決定者に明確なメッセージを送るための環境の状況報告書が作成されることについて、報告した。参加者は、本地域が広大で多様な地域であることを考慮し、準地域アプローチが適用されることが適切であろうということに留意した。


Ⅴ.クリーン開発メカニズム(CDM)とアジア・太平洋地域

9.気候変動枠組条約事務局のハジ・サドック氏は、CDMに関する最新の国際的な議論を紹介するとともに、CDMに関連して今後さらに議論すべき一連の問題について説明を行った。これに続き、経済協力開発機構(OECD)の気候変動プロジェクト管理官であるジェーン・エリス氏が、CDM事業の設計における技術的課題について発表を行った。エリス氏は、CDMの規則、方法及び指針について合意する前に解決する必要のある多くの技術的課題について概説した。これらの課題には、排出ベースライン、事業適格性の基準、モニタリング、報告、リーケージ、ゲーミング及びフリーライダーが含まれている。氏は、これらの課題は相互に関係しており、平行して議論が進められる必要があることを強調した。参加者は、CDMの様々な面について議論し、CDMの環境保全上の効果を高めるためには適正なベースラインの設定が極めて重要であることについて合意した。討論は、データ、モニタリング、報告、検証の要件及びそれらに要する費用の意味と、運営可能で実質的なCDMを完成させることの必要性とのバランスを図る必要がある、という点に集中した。

10.日本、中国、タイ、インドネシアの参加者により、AIJとCDMに関する経験や意見について発表があった。ADBの代表者からは、地域内の12カ国における能力開発のほかに、CDMによるものを含む支援プロジェクトのリストの作成を援助するためのGEFの資金によるALGASプロジェクトについて、詳細な発表があった。UNEPの代表者からもまた、CDMに関するUNEPの活動に関する発表と、ADB、UNEPなどの主催により1999年の9月末/10月初頭にタイのバンコクで開催されるCDMに関するアジア地域ワークショップについて報告があった。これらの発表に続き、多くの事項について熱心に議論がなされた。これらには、以下のような事項、すなわち、1)資金源の利用可能性を高める方法について研究する必要性、2)地域における技術能力の向上のため、多国間の及び多国籍企業とのジョイントベンチャーを対象としうる包括的なモデルを検討することが望ましいこと、3)民間部門の効果的な参加を確保するために与えることのできるインセンティブ、4)ホスト国の持続可能な開発に係る事業適格性の決定方法、5)事業ポートフォリオの開発の可能性及び意義、6 )CDMに吸収源を含めるかどうかについては、今なお条約交渉において議論中であるとの認識を踏まえた、地域内の国々による今後のCDMへの参加を広げるような吸収源活動の可能性、7)地域内のすべての国に対するCDMへの積極的な参加の意義、が含まれている。今後作成されるCDMの基準にしたがって、持続可能な開発という目的に合致した実施可能なCDM事業のポートフォリオを各国が開発することは、環境保全上効果的なCDMの実施の確保に資するものである、という意見が提出された。

11.参加者は、京都議定書の早期発効を促進するため、ブエノスアイレス行動計画で決定されたように、COP6で京都メカニズムを運用する規則を決定することが必要であることについて再確認した。参加者は、CDMは先進国から途上国への投資や技術移転を促進する機会を提供するものであることを認識した。さらに、AIJのパイロットフェーズから得られた経験や教訓は、CDMの設計に当たって非常に有用であることを認識した。

12.セミナーの参加者は、謝意をもって、参加者や様々な国際機関が示した問題や情報、見解は、CDMの設計のための更なる議論や、アジア・太平洋地域での実施に向けた準備に当たって、大いに示唆に富んでおり有用であることに留意した。


Ⅵ.IPCC特別報告書:「気候変動の地域影響:脆弱性の評価」及び「土地利用、土地利用変化及び林業」

13.インド工科大学のムラリ・ラル博士は、「将来の気候変動シナリオと温帯・熱帯アジアにおける影響」と題する発表において、地球における月間最高平均気温が1998年又は1997年に記録されたこと、及び地球温暖化の影響は明確に観測されたことをセミナーに報告した。様々な地球循環モデル(GCMs)により計算された季節ごとの気温と降水量の変化、及び温帯アジアと熱帯アジアにおいて予測される各種の影響が報告された。適応には将来予測と計画が必要であり、予想される気候の変化に備えるためのシステムづくりに失敗すると低い適応費用の機会を逸失することになることが、強調された。この意味で、地域レベル及び国レベルでの気候変動シナリオについての精度の高いモデルの開発が必要であることに焦点が当てられた。こうしたモデルは、地方レベルでの適応手法の計画策定を可能にするものである。2ヵ所のデータ供給センター(DDCs)がイギリスとドイツで立ち上げられたが、そこでは、ウェッブサイトで利用可能な形で、7つの最新のGCMsにより得られたデータが提供されている。また、IPCCの気候影響評価グループ(TGCIA)により、2ヵ所の追加的なミラーウェッ ブサイトをオーストラリアとインドに設置すべきであるとの提案がなされている。地域内の各国は、各国それぞれの気候変動シナリオの開発のため、これらのウェッブサイトにアクセスできることが示唆された。
14.日本の国立環境研究所(NIES)の研究管理官である山形与志樹博士は、植林、再植林、森林減少の異なる定義が京都議定書3条3項における炭素吸収源の取扱いに関する地球規模の影響に与える意味について強調しつつ、土地、土地利用変化、林業に関するIPCC特別報告書(LULUCF)の作成に向けた現在の議論に関する情報を提供した。氏はまた、プロジェクトベースの活動に係る事項について言及した。科学的不確実性を少なくするため、条約と京都議定書の究極の目的を考慮し、LULUCFの活動に関する議論を続けるべきであることが強調された。

15.参加者は、IPCCによる政策関連の作業を評価するとともに、様々な特別報告を 通じたこの作業の重要性について再確認した。


Ⅶ.アジア・太平洋地域における地球温暖化対策の実施状況:アジア・太平洋地域におけるイニシアティブの活動のフォローアップ

16.参加者は、非附属書Ⅰ締約国による第1回国別報告書の準備及び関連する活動に関して、条約事務局実施プログラム計画官のジョージ・マンフル氏による概説に留意した。氏は、現時点ではこの地域の非附属書Ⅰ締約国から条約事務局へ3つの第1回国別報告書が提出されている一方、非常に多くの報告書が1999年及び2000年に提出される予定であると述べた。報告書に正確な情報を記載すること、及び様々な省庁の代表者が構成する国内の気候変動委員会のように、制度面での調整を確立/強化することが重要であることを強調した。条約事務局は、温室効果ガスの排出・吸収量の算定のため、排出源や活動データに関する一連のワークショップを開催する予定であること、またアジアにおけるワークショップは翌年に開催予定であることを参加者に報告した。

17.気候変動に対処するための多くの政策と行動が、バングラディッシュ、フィジー、日本、カザフスタン、キリバス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、韓国、ウズベキスタン及びベトナムの参加者から報告された。これらの政策と行動は、各国の固有の状況や優先度に焦点を当てて展開されており、多岐にわたっている。政策と行動には、1)法や規制の制定、2)投資に係る公的融資や低減税率、エネルギー価格政策のような経済的インセンティブの設定、3)政府と民間主体間の自主的合意の開始、4)エネルギーサービス会社の支援、5)公共交通機関利用の向上、6)国民の意識向上、7)部門及び/または専門をまたがる委員会の強化、8)集中訓練コースの設定、9)代替燃料自動車の導入、10)一般的な及び/または部門別のプログラムの開発、が含まれている。また、地域内の多くの国が、社会、経済及び環境政策において、既に気候変動を考慮に組み込んでいることが留意された。参加者は、これらの発表で提供された詳細な情報に謝意を示した。

18.地域内のいくつかの地域別、国別プロジェクトが、気候変動に対処するためのインベントリーや政策措置に多くの成果をあげている。同時に、多くの参加者が、人材や資金、情報、技術の情報や移転、温室効果ガス排出係数などの技術データ、特に農業分野における排出係数が不足していることに焦点を当てた。こうした点から、参加者を資格認定できる訓練課程を開発した南太平洋諸島気候変動支援計画(PICCAP)の独自性が留意された。

19.地球環境ファシリティー(GEF)事務局の調整官であるアバニ・ヴァイシュ氏は、GEFによる一般的な能力開発の取組、特にアジア太平洋地域における能力開発の取組について概説した。これらの取組は、GEFの実施機関を通じて、各国ごとのプロジェクトや、GEF実施機関による地域規模/地球規模のプロジェクトとして実施されている。能力開発は、独立したGEFプロジェクト、及びイネーブリング・アクティビティ(enabling activities)を通じてなされる。参加者は、気候変動に対処するため、特に資金援助と技術移転の努力を通じた国際機関と附属書Ⅱ締約国からの支援を強化することが必要であることを強調した。

20.気候変動に対処することのみを目的としたプロジェクトの実施は、途上国においては実際には容易に正当化され得ないことを念頭において、参加者は以下のことを認識した。すなわち、

(a) 各国の状況や持続可能な開発のための戦略を考慮しつつ、優先すべき分野や政策を明確 に特定することは、国の努力や資源を集中させることに寄与するため、気候変動に 対処する上で、効果的かつ有益であること。

(b) 具体的な活動やプロジェクトを計画し実施することは、科学的分析、技術的なニ ーズ、技術的選択肢について集中した議論を行う組織/委員会の設置などを通じた 能力開発など、様々な追加的便益が得られること。

(c) 持続可能な開発という国の目標に沿った具体的な行動/プロジェクトのリストは、 先進国の政府、民間部門、多国間組織、二国間組織による技術移転や投資を促進す ること、及びそれは、おそらくCDMを通じて強化されること。

それゆえ、このような優先付けを行うことを地域内の国々に奨励する。これらの優先付けは、必ずしもすべてが網羅的なものである必要はなく、必要に応じて変更拡大されうるものである。


Ⅷ.電子情報ネットワーク

21.参加者は、情報の普及、特に、科学的、技術的な情報の普及の重要性及び必要性について繰り返し言及した。また、条約事務局のマンフル氏による、利用しやすいキットを用いたCC:インフォ/ウェブサイトの構築方法に関する、詳細で具体的な説明に感謝した。
22.参加者は、過去数年のセミナーで議論し、特にタイでの第8回セミナーで合意されたゲートウェイ・ウェッブサイト(APNET)を、日本の環境庁が早期に構築したことについて謝意を表明した。環境庁が行った研究に基づき、国内及び各国間の情報交換を促進するための今後の活動、特に、APNETの将来の活動について議論した。参加者は、気候変動に関する各国のウェッブサイトの構築、及び関連する情報の作成、普及、更新を行うための能力開発の必要性を強調した。参加者は、そのための支援を強化するための方策を検討した。参加者は、気候変動枠組条約事務局によるCCインフォ・ウェッブ・イニシアティブ、UNEPのアジア太平洋地域環境評価プログラム(EAP-AP)やGEF、環境庁、JICAの役割及び現在の活動に留意し、不要な重複を避け、効果的に地域内の途上国支援を行うため、それぞれの活動を調整することが重要であると強調した。


Ⅸ.地方自治体による対策

23.参加者は、コミュニティベースの活動に関する滋賀県、彦根市および北九州市の発表に感謝した。参加者は、地方自治体は市民のライフスタイルを変える可能性を有していること、また、「環境にやさしい」製品の購入や環境保全に関する意識向上のためのキャンペーンを通じて、生産/消費パターンを変える可能性を有していることを認識した。地方自治体による様々な国際協力のイニシアティブが既にあること、また、こうした行動は政府や民間主体の支援によってさらに促進されるべきであることが留意された。

24.セミナーの主要な成果は、本年9月に日本の札幌市で開催されるエコ・アジア’99で報告すべきことが勧奨された。このセミナーの議長サマリーは、また、できる限り広範に配布されるべきである。

25.参加者は、2000年夏に、第10回地球温暖化アジア太平洋地域セミナーが開催されるよう引き続いて努力するよう促すとともに、地域内の具体的な努力を促進する上で、本セミナーがより対策の実施を志向したものになることへの期待を表明した。



                     

1999年7月15日 日本国滋賀県彦根市


西 岡  秀 三
議 長
                   第9回地球温暖化アジア太平洋地域セミナー