報道発表資料本文

(別添)

平成16年5月27日

科学技術振興調整費 緊急研究開発等「高病原性鳥インフルエンザ対策に関する緊急調査研究」の研究成果について

研究代表者:(独)農業・生物系特定産業技術研究機構
動物衛生研究所



1.経緯

 2004年1月に79年ぶりに日本で発生した高病原性鳥インフルエンザに緊急に対処するため、科学技術振興調整費を活用した「高病原性鳥インフルエンザ対策に関する緊急調査研究」(平成16年1月総合科学技術会議により指定)を開始した。
 この指定により農林水産省、文部科学省、厚生労働省、環境省との協力のもと、ゲノム疫学研究、ウイルスの病原性解析、ヒトへの感染予防対策等の研究調査に連 携して取り組んできたところである。
 平成16年3月に開催された研究運営委員会で成果の中間報告をしたところであるが、今回、主要な研究成果が取りまとめられたので報告する。



2.緊急研究の主要な成果

(1)ゲノム疫学研究

成果の要約:
 日本の分離ウイルス全て及び韓国の分離ウイルスは遺伝的に極めて近縁な同一遺伝子型で、タイやベトナム分離ウイルスとは遺伝的に異なる型であることが明らかになった。野鳥のウイルス検査を実施したところ全て陰性であった。

1)日本および近隣アジア国で分離された高病原性鳥インフルエンザウイルスについて遺伝子の解析をしたところ、日本および韓国の分離ウイルスは互いの遺伝子が99%以上一致し、同一遺伝子型の極めて近縁なウイルスであった。一方、タイやベトナム分離ウイルスは日本の分離ウイルスと一部の遺伝子が異なっており、異なる遺伝子型であった。

2)高病原性鳥インフルエンザの発生地域(山口県、大分県、京都府)周辺の野生鳥類から検体を採取し、ウイルス分離ならびに血清抗体調査を実施したところ、各々の現地調査で得られた野鳥個体合計292羽、水鳥及びカラスの糞合計577検体の全てが高病原性鳥インフルエンザウイルス陰性であった。

3)韓国の高病原性鳥インフルエンザ発生地から日本に渡ってくる可能性のある渡り鳥として9目20科67種の絞り込みを行った。


(2)ウイルスの病原性解析

成果の要約:
 日本の分離ウイルスは鶏に感染すれば100%死亡させる毒力をもっていた。カラス、ムクドリ、カモ、インコについてはウイルスに高感受性であることが明らかになった。また、マウスへの毒力は香港でヒトから分離された株と比較して低いが、中枢神経でも増殖することが示された。

1)日本で鶏から分離されたウイルス3株とカラスから分離されたウイルス1株は、いずれの分離ウイルスも鶏の静脈内接種試験で8羽全てを1日以内に死亡させる高病原性を示した。経鼻接種ではわずかなウイルスでも感染が成立し、接種鶏は3日以内、同居鶏も4日以内に全羽死亡した。ウイルス抗原は全身の臓器で認められた。マウスへの毒力は1997年に香港でヒトから分離されたH5N1ウイルス株と比較して低いが、肺以外に中枢神経でも増殖することが示された。死亡カラスでは、全身の臓器に病変とウイルス抗原が認められた。

2)山口県の分離ウイルス(山口株)をムクドリ、カモ、インコ、ミニブタに経鼻接種したところ、ミニブタ以外では全身からウイルスが分離された。山口株はインコに対して致死的な病原性を示すが、カモでは全身感染後に回復した。また、山口株を接種したミニブタからはウイルスおよび抗体が全く検出されなかった。このことから山口株は、鳥類においては全身感染するが病原性は鳥種により異なること、さらにミニブタには感染しないことが示された。



(3)ヒトへのウイルス感染予防対策

成果の要約:
 日本の分離ウイルスを弱毒化して、ワクチン候補株を作製した。ウイルス検査法としてRT-PCR検査系の構築および高感度簡易遺伝子検出キットの開発に成功した。また、臨床的早期診断のための「診断基準案」と「治療予防マニュアル案」の策定を行った。

1)今回日本で流行したウイルスのHA開裂配列をリバース・ジェネティクスを用いて弱毒化して、ワクチン候補株を作製した。

2)ウイルス遺伝子検出系として、ベトナムの患者検体を用いてRT-PCR検査系の構築および高感度簡易遺伝子検出キット(H5-LAMP法)の開発に成功した。

3)ヒトのインフルエンザA(H5N1)感染症例の文献的な検討と、併せて行ったベトナム実地調査の結果から得られたその臨床像を分析して臨床的早期診断のための「診断基準案」と「治療予防マニュアル案」の策定を行った。本症は一般的な急性呼吸器感染症と臨床像のみからの鑑別は困難なことから、鳥との接触歴やA型インフルエンザ迅速診断キットを併用して疑い例を絞り込み、ウイルス分離などの確定診断をするのが現実的である。





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