報道発表資料概要

「燃料電池活用戦略検討会」報告書について
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1.検討会の目的
 
  バイオマス資源を利用した燃料電池システムは、化石燃料利用型社会から将来の水素型社会への移行に向けて重要な役割を果たすとともに、地球温暖化防止及び循環型社会構築を加速する可能性を有するものとして注目されている。「燃料電池活用戦略検討会」は、環境省が平成12年度より神戸において実施した生ごみバイオマス化燃料電池発電設備による地球温暖化防止対策実施検証事業の成果を踏まえ、環境省における包括的な燃料電池活用戦略を検討し、今後の燃料電池の効果的な活用を促すことを目的として設置された。
 
  
2.検討会の経過
 
開催日 主な議題
第1回 平成14年9月24日(火) ・燃料電池開発・利用事例について
・燃料電池関連企業へのインタビュー調査内容について
・我が国におけるバイオマス資源の収支について
第2回 平成14年11月11日(月) ・燃料電池技術、メタン発酵技術の動向について
・企業へのインタビュー結果報告(東京ガス、トヨタ等)
・神戸生ごみバイオガス化燃料電池施設の評価について
第3回 平成15年1月15日(水) ・企業へのインタビュー結果報告(大阪ガス、松下電器等)
・神戸生ごみバイオガス化燃料電池施設の評価について
・燃料電池活用戦略(骨子案)について
第4回 平成15年3月19日(水) ・企業へのインタビュー結果報告(セイコーエプソン等)
・燃料電池活用戦略(案)について
 
 
3.検討会委員
  
 [※ 別添参照
 
  
4.検討会報告書の概要
  
(1)  燃料電池活用システムの開発及び利用の動向
  [1]  家庭用固体高分子形燃料電池の開発動向、課題、今後の方向性
      固体高分子形燃料電池は、他の燃料電池に比べ、作動温度が低く、小型化が可能であり、エネルギー密度が高いことから、家庭用、自動車用として現在最も注目されている燃料電池である。家庭用については、2004〜2005年度の限定市場導入を目指し、戸建住宅用(0.5〜1kW程度)をターゲットに電機メーカー等が開発競争を展開。都市ガスを改質する方式が主流。
  
   課題 今後の方向性
技術的事項 性能向上 ・電池スタック、改質器等、主要部品の効率向上技術の開発促進
・改質器の起動性・負荷追従性向上技術の開発促進
・改質器の省エネルギー型起動技術の開発促進
耐久性・信頼性向上 ・DSS※運転4万時間、連続運転9万時間の耐久性確保技術の開発促進
・加速耐久試験方法の確立、初期導入時のモニタリング実施
低コスト化 ・電極触媒に用いられる白金の担持量低減や白金代替触媒の開発促進
・革新的な低コスト化を実現する電解質膜の開発促進
・普及の初期段階において導入を促進する財政的支援制度の整備
その他 ・用途拡大に向けた100℃以上の高温作動膜の技術開発の促進
・公共施設、集合住宅等へのモデル事業としての導入補助制度の整備
・燃料電池コージェネのLCA的観点からの分析・評価 等
法制度的事項 電気事業法 ・保安規程届出・電気主任技術者選任・窒素パージの不要化検討
消防法 ・消防庁への設置届出の不要化、建築物からの隔離距離縮小検討
 ※ DSS(Daily Start-up & Shut-down):電気消費量の多い時間帯のみ運転する等、毎日、起動・停止すること。
  
  [2]  自動車用固体高分子形燃料電池の開発動向、課題、今後の方向性
   2002年12月には政府に燃料電池自動車が納車されるなど、限定市場導入が始まり、メーカーが開発競争を展開。水素供給は高圧タンク搭載方式が主流。
  
   課題 今後の方向性
技術的事項 性能向上 ・電池スタック等の効率向上技術、小型化・軽量化技術の開発促進
・航続距離500km以上走行が可能な圧縮水素タンクの技術開発の促進
・振動に耐えうる部材の開発促進
・寒冷地で燃料電池から生じる水の凍結を防ぐ技術の開発促進
・燃料電池始動直後の暖房機能の開始を早める技術開発の促進 等
耐久性・信頼性向上 ・5,000時間(バス・トラックは1〜2万時間)の耐久性確保のための技術開発促進
低コスト化 (家庭用燃料電池と同様)
その他 ・路線バスやごみ収集車等へのモデル事業としての財政的支援制度の整備
・燃料電池自動車のLCA的観点からの分析・評価
法制度的事項 高圧ガス保安法 ・水素燃料用容器の例示基準化に必要なデータ取得項目の明確化
・水素供給スタンド設置に関する保安距離等の見直し検討 等
道路運送車両法 ・車両適合基準策定による型式認定制度の整備
道路法 ・完成車輸送車両の水底トンネル等の通行制限の見直し検討
建築基準法 ・水素供給スタンドの建設可能な用途地域の見直し検討 等
消防法 ・水素供給スタンドとガソリンスタンドの併設への基準見直し検討 等

  [3]  その他の燃料電池の開発・利用動向、今後の方向性

りん酸形燃料電池 溶融炭酸塩形燃料電池 固体酸化物形燃料電池 ダイレクトメタノール形燃料電池
・商用化段階
・オンサイト分散電源
・セル及び触媒の交換費用を含むメンテナンスコストの高さ等に問題があり、高コスト構造を打破する技術開発が課題。
・研究開発〜実証段階
・分散電源、大容量発電
・耐食性が強く熱変形しない構造部材の開発等が課題。
・研究開発〜実証段階
・小型〜大容量発電
・各構成要素の耐久性向上、材料・製造コストの低減が課題。
・低温条件に適した電解質材料、高性能電極の開発も課題。
・研究開発〜実証段階
・ノートパソコン等の携帯機器用超小型燃料電池の開発が急速に進行中。
・メタノールを透過させない高分子膜の開発等が課題。
  
(2)  我が国におけるバイオマス資源の利用可能性
   我が国に輸入されるバイオマス資源約1.1億tは、国内調達を含め我が国に導入されるバイオマス資源総量約2.1億tの5割程度に相当し、また、化石燃料輸入量約4.7億tの2割以上に相当する。これらのうち人体や家畜のエネルギー源となる部分以外は、大半が廃棄物として水域の汚濁物質となるか焼却処分されている。これらの膨大なバイオマス資源は、国内調達分については農地や大気に還元することが自然の循環に適うが、輸入分については農地に還元すると余剰な栄養分となるため、可能な限りエネルギーとして利用していくことが望ましい。
   廃棄物系バイオマス資源のうち、特に量の多い家畜糞尿、下水汚泥、食品系廃棄物をメタン発酵し、燃料電池への活用を想定した場合、温室効果ガス排出削減効果は1,293 ktCO2と推計される。
  
(3)  燃料電池によるバイオマス資源の利用の現状、可能性及び課題
   帯広畜産大学が乳牛の糞尿を利用した実験を実施中。家畜糞尿は肥料としての農地還元が限界にきている地域もあり、エネルギー利用等への多様化が必要。
   下水汚泥は、横浜市、苫小牧市等の事例がある。既存インフラがあり、新たな収集システムを必要としないため、集中型システムとしての可能性を有している。
   食品系廃棄物は、環境省の神戸での実証実験事例等がある。現状では9割が焼却・埋立処分されているが、単位あたりバイオガス発生量が多く、利用価値が高い。
   その他、ビール会社による有機系工場排水利用、液晶ディスプレイ生産工場での廃メタノール利用の事例がある。廃棄物処理費の削減効果が期待できる。
    

燃料電池によるバイオマス資源利用にあたっての課題として以下の点が挙げられる。

分野 課題
技術的課題 ・固体高分子形、溶融炭酸塩形等とメタン発酵を組合せた実証実験の推進
・周辺機器の性能向上に関する技術開発の促進
・オンサイト型実証実験の推進(バイオマス資源の収集が不要)
・バイオマス資源の効率的な分別・収集技術等の開発・導入の促進
・効率的な残渣処理技術、排水処理技術等の開発・導入の促進
・消化液の液肥としての活用技術の研究開発(農村地域等に限定される)
・廃メタノール等に関する情報整備、改質用触媒の低コスト化 等
費用面の課題 ・燃料電池のイニシャル・メンテナンスコストの低減に資する技術開発の促進
・オンサイト型実証実験の推進(バイオマス資源の収集が不要)
・バイオマス資源の低コストの分別・収集技術等の開発・導入の促進
・低コストの残渣処理技術、排水処理技術等の開発・導入の促進
熱及び電気の需要と供給のマッチング ・低温水の有効活用が可能な家庭や商業施設への導入促進
・大容量発電に適した溶融炭酸塩形燃料電池等の技術開発の促進
法制度的課題 ・系統連系及び逆潮流関連手続きの短縮化
・消防法におけるタンクの保管量及び建築物からの距離の緩和
・残渣や排水の処理等を行う管理運営主体の体制整備
     
(4)  バイオマス資源利用による燃料電池活用システムの要件と方向性
  [1]  オンサイト熱電併給型システム:生ごみ収集・分別の困難さ、売電単価の安さ、熱利用のしやすさ等を考慮すると、まとまった量の生ごみが発生し、かつ電力・熱の需要もある集合住宅、ホテル等を拠点とし、その発生源単位でメタン発酵・燃料電池施設を導入することが想定される。ただし、ディスポーザー等により発生源において生ごみが自動的に分別前処理されるような技術・システムが採り入れられること、生ごみの量や質の変動に対して安定を図るため都市ガスとの系統連系を行うこと等が前提となる。
  [2]  自治体ごみ処理施設併設型システム:従来のごみ処理の流れを大きく変えることなく、バイオマス資源を利用できる。この場合、ゴミ処理施設として事業収支が取れれば良い。ただし、バイオマス資源の収集・分別のコスト・エネルギー消費を生じさせない工夫や新たな技術の導入が前提となる。
  [3]  その他のシステム:酪農系の施設(家畜糞尿利用)、工場・下水処理場系の施設(有機系の産業廃棄物、下水汚泥等利用)等を拠点としたシステムが想定される。また、バイオマス資源の利用拡大の観点から、バイオエタノールやメタノールの製造等にかかる技術開発を促進することも重要となる。
 
(5)  燃料電池活用システムモデル事業
   

「(4)」における要件と方向性をふまえると、以下のモデル事業が有望である。

事業 想定される施設 意義及び留意事項
[1]生ごみを利用したオンサイト熱電併給型システムの構築 ディスポーザシステム等を有する新築集合住宅、ホテル、病院、コンビニエンスストア、スーパー等 ・生ごみが自動的に分別される技術等を備えた施設を対象にオンサイト型システムを導入することで、新たに収集体制を構築することなく生ごみを有効利用でき、民生部門からのCO2排出を削減できる。
・当面(2003〜2004年度)はエンジン、タービン等との組合せにより集合住宅・業務系施設での生ごみメタン発酵に習熟し、燃料電池の技術成熟度に応じて燃料電池との組合せに移行する。
・都市ガスとの系統連系により、熱電併給の安定性を確保する。
・下水道の受入基準を満たす排水処理を行うことが前提となる。
[2]自治体ごみ処理施設併設型システムの構築 自治体のごみ処理施設 ・自治体の既存システムを利用して、生ごみ等の有効利用・熱電供給を行うことにより、CO2排出を削減できる。
・1)効率的かつ低コストな生ごみ分別機器の開発への補助を行う、2)事業系可燃ごみや事業者の持ち込みごみを処理費用を設定して受け入れる、3)生ごみのみを分別するよう指導する、等の方策により、収集・分別の高コスト化を防ぐ。
 ※ モデル事業の実施にあたっては、見学者への普及啓発等も併せて行う。



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