別紙1  京都会議を受けた環境庁の当面の取組方針

平成10年1月12日
環境庁地球温暖化対策推進本部

 環境庁は、京都議定書で定められた我が国の目標の達成を目指し、以下に掲げるところにより、引き続き全庁を挙げた取組を行うとともに、政府全体の取組の強化のために総合調整を進めることとする。
 また、特に重要な事項に取り組むため、地球温暖化対策推進本部事務局に地球温暖化防止推進プロジェクトチームを設ける。

[1] 国内対応措置の推進

1.国内対策推進の法制的基盤等の整備
(1)京都議定書の締結に関する国会の承認を求めるための作業に関し、専門の知見を活かして外務省に積極的に協力する。
(2)京都議定書により我が国に課せられた法的拘束力のある目標を、6種の温室効果ガスの排出抑制・削減、二酸化炭素の吸収の増大、他の国からの削減量の購入などにより確実に達成するため、各界各層の自主的かつ広範な取組、規制や経済的措置、公共事業などの政府による施策などを公平かつ効率的に組み合わせて実行する包括的な法的仕組みを設けるための準備作業を、中央環境審議会の審議を踏まえつつ、鋭意進める。
(3)京都議定書への包括的な法的仕組みづくりと並行して、2008年〜2012年の期間中に温室効果ガス排出量の1990年度比6%削減を達成するための、技術面、実態面の検討を進め、速やかに地球温暖化防止行動計画の見直しに着手し、新たな計画の策定の基礎を固める。
(4)温室効果ガスの排出の増加を極力早急に防ぐことにより将来の対策に伴う費用や社会的な摩擦を軽減するため直ちに行うべき法的対応については、温室効果ガスの排出を削減させるため必要な措置について法制化を念頭に対策の具体化を急ぐとともに、省エネルギー法の抜本的改正に政府一体となって取り組む。
なお、温暖化防止とも密接な関連を有するリサイクルの推進に関しても、物質循環型の経済社会システムづくりを進めるべく、総合法制の検討を進める。

2.直ちに実行し得る対策の積極的な実施
法制度の整備によらず対応可能な対策は直ちに実施する。
現在講じられている予算措置による温暖化防止を直接の目的とした既存施策の徹底を図るほか、他目的の施策の一環であって温暖化防止を直接の目的としないものの温暖化防止にも資する施策について、吸収源の増加に係る施策を含め、幅広く充実強化を図る。また、関係省庁、地方公共団体、民間団体、環境保全型事業を行う事業者との連携を図る。
<施策の例>
地球温暖化防止地域推進モデル事業費補助による地方の事業の支援
地球温暖化対策普及促進マニュアル整備事業(新エネ、地域自然エネ、新技術の活用等)
公害防止計画の策定及び実施
政府における率先実行計画の取組の強化及び地方公共団体における率先実行計画の策定及び推進に対する支援
低公害車普及推進事業費補助等
光害対策モデル計画策定事業
オゾン層保護対策としての特定フロンの回収・破壊の推進
廃棄物の発生量の減量(リデュース)、リユース、リサイクル及び適切な最終処分に関する諸対策の実施
国立公園等における環境共生推進特別整備事業(ソーラーシステム導入等)
井戸・湧水復活再生事業
環境事業団によるフロン等防止施設(排出抑制装置、回収再利用装置等)の設置に対する融資事業
政府全体の環境保全予算の見積方針の調整に際しての地球温暖化対策への配慮の強化
 
3.国民各界各層の理解の増進及び自主的な地球温暖化防止行動の促進
(1)地球温暖化について、国民各界各層の理解を深め、自主的な取組を拡大するため、京都議定書の国内普及を図るとともに、国民生活に伴う二酸化炭素の排出抑制対策を「周知」「啓発」から「対話」「参加・行動」に重点を置いて進める。具体的には、地方公共団体とも連携して、地方・地域での活動強化のための情報提供、参加・行動を促すための「エコライフ100万人の誓い」などの継続的実施と行動の効果についての国民へのフィードバック、集中的な情報発信、地球温暖化防止大会(仮称)の実施等に着手する。
<施策の例>
地球温暖化防止京都議定書の国内普及
対話促進
国民会議、各都道府県等の地球温暖化防止会議の結成。産業界、民間団体、大学等のキーパーソンへの情報提供や対話の場の提供。キーパーソンデータベース作成、情報資料作成
参加・行動促進
「エコライフ100万人の誓い」、環境家計簿や「アルコロジー運動」を奨める「4つのチャレンジ」運動、国立公園内のマイカー規制の継続的実施及び発展。「こどもエコクラブ」の一層の拡大に加え、あらゆる年齢層の環境保全活動への参加促進による連帯意識の醸成
地方公共団体、学校等の実施する研修会、セミナー等の地球温暖化防止実践活動の幅広い展開に必要な、講師データベース、テキスト、カリキュラム、講師派遣システム等の作成・整備
顕彰
事業者の自主行動計画、低CO2排出型製品の販売、低CO2排出型技術開発等を対象に、環境保全功労者として表彰
温暖化防止体験発表全国弁論大会の開催。地球温暖化防止推進月間の創設、モデル地域温暖化防止大会の実施
 
(2)以上のような政府施策に加え、各方面の自主的活動に対して積極的な支援を行う。
<施策の例>
環境保全型の事業活動を行う者等による「レスCO2運動」の支援
グリーン購入運動への参加と支援
自治体、町内会等による日常生活の環境負荷を低減する取組への支援

[2] ポスト京都会議の国際検討の推進

1.吸収源に関する科学的知見の向上と国際制度上の判断への貢献
「ネットアプローチ」に関して、吸収源の取扱いを巡る様々な課題を包括的、総合的に検討した上で、法的拘束力のある数量目標に「抜け穴」とならず、温暖化防止に意義ある形で吸収量を算入することについての国際的合意が形成されることによって、各国の吸収源の増大の対策が促進されるよう、各国の対策を促すため、地球環境研究総合推進費やその他の環境庁の調査研究費等を活用し、関係省庁とも連携しつつ、以下の取組を行う。なお、我が国において取り得る緑化の推進等吸収源対策の推進方策及びそれによる追加的な吸収量についても併せて検討を進める。
(1)IPCC(気候変動に関する政府間パネル)による吸収源に関する測定・推計手法等についての検討作業の促進に努めるとともに、我が国において、従来からの森林分野のみならず農業土壌分野も加え、この分野における調査研究の一層の強化及びその成果の整理を図り、IPCCにおける検討作業に積極的に貢献をする。
(2)伐採後の木材の温室効果ガス目録上の取扱いや人為的な吸収の定義の問題等土地利用変化及び林業分野における吸収・排出に係る行政的な判断を要する課題に関する検討を推進するため、SBSTA(科学上及び技術上の助言に関する補助機関)に専門グループを設置することを提案し、積極的にその活動に貢献するとともに、本分野に関する我が国の知見、IPCC等により取りまとめられた世界の知見を早急に活用するよう働きかける。

2.排出量取引制度等の具体化
(1)排出量取引については、各国間での評価等について不均衡が生じないような適切なルール等について国際的な合意を図るべく、COP3議長国として積極的に貢献するため、斯界の権威者の参画の下、国際制度の仕組み、国内制度との関係、市場メカニズムの創設の可能性などの制度的検討を行い、その成果をCOP4に活かす。
(2)先進国、途上国がそれぞれメリットを得る形で協力しつつ、途上国における排出削減のプロジェクトを推進する「クリーン開発メカニズム」及び、先進国間で各国が協力して排出削減のプロジェクトを行い、その排出削減量を当該国間で分け合う「共同実施」については、これらのプロジェクト・ベースの排出削減量の移転に関する具体的な仕組みなど国際制度のあり方を斯界の権威者の参画の下で検討し、その成果をCOP4に活かすとともに、以下のような、共同実施活動段階からの移行に伴う各種の問題の早急な解決を図る。
{1}潜在的な温暖化対策海外プロジェクトの検討
民間企業等が行う温室効果ガスの排出抑制・削減に資する海外プロジェクト・フィージビリティスタディの実施
{2}共同実施活動プロジェクトの排出抑制効果の検証
プロジェクトが的確に実施され、国際的な経験に資し、削減量の国際移転につなげられるようにするため、排出抑制・削減効果の検証、条約事務局への報告等の仕組みを実際のプロジェクトの評価等を通じて実施。
{3}共同実施制度の施行準備
国内制度検討、国内関係団体、企業等の海外プロジェクトへの参加、支援のための普及啓発
 
(3)その他、議定書の実施状況のレビューに関するガイドラインの策定や議定書上の義務が遵守されているかどうか、及び不遵守の場合にどのような対処をすべきか等に関する適切な手続の決定等、条約の早期実施に向けて今後詰めるべき課題の検討を進め、国際的な合意形成に資する。

3.開発途上国における取組の強化への支援及び途上国を含めた国際的な対策の準備への貢献
(1)京都会議で残された最重要課題の一つである途上国による取組の強化の実現に向け、途上国が強く求めている技術移転の促進の観点から、昨年6月の国連環境開発特別総会で総理が提唱した「グリーンイニシアチブ」を具体化していく。このため、途上国における円滑な自助努力の発揮に力点を置き、従来の支援策を充実するほか、これに加え、以下の取組を行うことなどにより、情報交換、地域プログラムの検討、情報等の普及のための重層的なネットワークを構築するとともに、我が国のイニシアチブで国際的な新委員会を設け、未来の豊かな地球づくりに向けて人類の力を結集するための基盤づくりを進める。
{1}国内版「クリーン開発メカニズム」にもつながる「温暖化対策情報センター(仮称)」の設置、
{2}将来の地球像検討委員会(仮称:新ブルントラント委員会)の設置
(2)京都会議において、我が国が提唱したODAを中心とした温暖化対策途上国支援を一層強化するための「京都イニシアティブ」に掲げた、「人づくり」への協力(平成10年度から5年間で、3000人の人材育成を行う)、最優遇条件(金利0.75%、償還期間40年)による円借款、我が国の技術・経験(ノウハウ)の活用・移転、の3本柱を中心に、政策対話を進めつつ、温暖化対策に係る国際協力を積極的に取り組んでいく。

4.COP4を目指した環境外交の展開
COP4以降における検討課題とされた課題について国際的合意が形成されるよう、国際的提案を行い、各国に働きかけるなど、積極的な環境外交を展開する。開発途上国との政策対話を重点的に実施していくため、従来の対策に加え、以下のような国際会議を我が国の主催により開催する。
{1}エコアジア会議の有効活用(アジア太平洋地域の環境大臣との政策対話)
{2}COP4での主要議題を討議するため、COP4に向けて途上国も含めた主要国の閣僚レベルでの会合の開催を検討。
 
(注)大木環境庁長官が今後COP4開催までの間COPの議長を務める。

[3] 対策推進の科学的な基盤の強化

1.地球環境戦略研究機関における研究の推進
地球環境戦略研究機関において、特にアジア太平洋地域で持続可能な開発を具体化するための長期的政策方針等についての研究に着手する。

2.地球環境研究総合推進費の活用
地球環境研究総合推進費を活用し、温暖化メカニズムの一層の解明、温暖化予測の一層の精度向上、新規の対策の開発等に関する研究を強化し、京都会議以降の全世界的な対策の強化に貢献する。

3.地球温暖化の悪影響の把握
地球温暖化の悪影響を最小限に防ぐため、適切な温暖化シナリオの下、生態系、水資源、農産物、各産業、人の健康等への地域別の悪影響について定量的な予測・評価手法を逐次整備するとともに、早期警戒に役立つ監視体制のあり方を検討する。


別紙2  地球温暖化防止推進プロジェクトチームの設置について

平成10年1月12日
地球温暖化対策推進本部

 地球温暖化防止京都会議で採択された京都議定書において、我が国は2010年頃までに温室効果ガス排出量を1990年レベルに比して6%削減することが決定された。京都議定書への加入については、同議定書がその具体的実施の枠組みについて、次回締約国会議以降のプロセスに多くの検討課題を残しているため、これらについての国際的な調整状況を踏まえる必要がある。しかしながら、我が国では、1996年のCO2排出量が90年レベルに比して約10%増加している実態に鑑み、目標の確実かつ効率的な達成を担保するためには、当面可能なことから、温室効果ガスの排出削減に取り組むことが急務である。

 このため、環境庁として、国際的検討の状況を踏まえつつ京都議定書に対応した総合的な温暖化対策のあり方について引き続き検討を進めていくとともに、温室効果ガスの排出削減のために早急に取るべき施策について検討し、必要なものについては法制化を念頭に置きつつ、その具体化を図る予定である。

 以上を踏まえ、温室効果ガスの排出削減のために早急に取るべき施策の具体化を中心として地球温暖化防止のための国内対策について全庁一丸となって取り組むため、地球温暖化対策推進本部に、地球温暖化防止推進プロジェクトチームを設置することとする。