地球環境戦略研究機関の設立について

○ 地球環境戦略研究機関の設立の目的
○ 地球環境戦略研究機関の機能と役割
○ 戦略研究のテーマの例
(参考)世界の主要な環境政策研究機関の政策提案(例)
○ 内外からの設立の支持表明
○ 地球環境戦略研究機関設立の手順
○ 協力・連携を図る主な外国の機関
○ 研究体制等の特徴


平成9年4月
環 境 庁

地球環境戦略研究機関の設立の目的 

地球環境対策の利害対立を超えて

 地球環境問題は、今や警告の段階を経て、具体的な取組の段階に至っていますが、具体的な取組や対策に向けては、国や地域、あるいは社会セクターの間で利害対立が生じつつあります。

新たな文明の基本的枠組の創造が必要

 また、地球環境の中で生きている人類にとって根源的な課題は、地球環境の危機の背景となっている現在の物質文明の価値体系を問い直し、新たな文明の基本的枠組(パラダイム)を創造し、これに即した社会経済の仕組みの形成を図っていくことです。

利害を超えた立場で、戦略づくりを行い、政策等に具体化

 「地球環境戦略研究機関」は、このような国や社会セクター間の利害を超えた立場で、世界の英知を結集して、新たな地球文明のパラダイムの創造、あるいは新しい政策手法の開発や具体的な地域の環境対策の戦略づくりを行い、これを各国の政府・自治体・国際機関等の政策や企業等の行動に具体化するという政策的・実践的な役割を果たすことを目的としています。

特に、アジア太平洋地域の持続可能な開発を目指す

 また、アジア太平洋地域は、今後の地球環境に大きなかかわりを有することから、「地球環境戦略研究機関」は、特にこの地域の持続可能な開発の実現を目指すこととしています。

 地球環境保全への我が国の顔の見える新たな貢献策

 このように、「地球環境戦略研究機関」は、地球環境の保全に向けて、これまでの資金、技術による世界への貢献だけでなく、戦略づくり・政策づくりという我が国の顔のみえる貢献を果たすものです。
 1997年には、地球サミット5年後の国連環境特別総会の開催、地球温暖化防止条約の第3回締約国会議の京都開催等が予定されており、「地球環境戦略研究機関」の設立は、我が国の大きな貢献となります。

 国際的な地球環境戦略研究ネットワークの構築

 ヨーロッパ、北米には既にいくつかの環境政策研究所があり、地球環境戦略研究機関は、アジア太平洋地域の中核的機関となるとともに、南北アメリカ、ヨーロッパ・アフリカとの国際ネットワークの構築を図っていきます。


地球環境戦略研究機関の機能と役割

 地球環境戦略研究機関は、以下の機能・役割を果たします。
 
 世界の第一線の研究者のみならず、内外の行政官、産業人、NG0等の参加の下に、新たな地球文明の基本的枠組づくり、新しい政策手法の開発、具体的地域の環境対策の戦略づくり等の研究を実施します。
 
 これらの戦略研究は、日本の政府・自治体・大学のみならず、日中友好環境保全センターをはじめとするアジア太平洋地域の環境研究研修機関や、欧米等の環境政策研究所等との積極的な協力・連携を図って実施します。
 
 
 これらの戦略研究の成果を、政府・自治体・国際機関の政策、企業・NG0等の行動に具体化します。
 
 これらの戦略研究の成果は、例えば、
○「エコアジア」(アジア太平洋地域の各国の環境大臣、アジア開発銀行等の関係国際機関の定期会合)
○「地球環境行動会議」(世界の政治・経済等の有力者からなる会合)の枠組を活用して具体化したり、世界に発信します。
 
 
 持続可能な開発の人材の国際的な研修プログラムの下で、戦略研究への参加を通じて実践家等のトレーニングを行います。
 
 現在、国際的には「環境と開発に関するリーダー研修プログラム」が進められていますが、このプログラムとの連携を図っていきます。また、アジア太平洋地域の若手の政策研究者の戦略研究への参加を通じたトレーニングも行っていきます。
 
 
 地球環境、特にアジア太平洋地域の持続可能な開発に関連する政策的・実践的な情報のセンターとなります。


戦略研究のテーマの例

 地球環境戦略研究機関は、世界の第一線の研究者、内外の行政官、産業人、NG0等の参加の下に、例えば、次のような研究を行います。
 具体的には、今年中に中長期的な研究プログラムが策定されます。

新たな地球文明の基本的枠組づくり







文明の興亡と環境変化との関わり
古今東西の自然との共生思想・環境観
近代科学技術の再構築、資源有限下における経済学の再構築
世代間・地域間の公平性、国際環境法
地球環境倫理・環境教育
革新的な政策手法づくり
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 国家間、社会セクター間等で利害が生ずる問題について、関係者・研究者の参加の下に政策手法を提案し、合意形成に資する。例えば、
東アジアの酸性雨防止条約の提案
  東アジアの酸性雨防止のため、関係国の研究者・行政官等の参加の下に、汚染物質長距離越境移動モデルを開発し、酸性雨防止条約を提案する。
 
アジア地域国際リサイクルシステムの提案
  工業化の進むアジア地域の資源の効率的利用のため、国境を超えたリサイクルの具体的仕組を提案し、産業界等の合意形成に資する。
 
 「二酸化炭素排出」と「森林造成」の国際的取引の提案 
  排出された二酸化炭素の相当分を吸収する森林を他国において造成することにより、全体としての二酸化炭素を増加させない仕組を具体的に提案し、国際的な合意形成に資する。
「アジア太平洋地域持続可能な開発長期展望」の策定
  アジア太平洋地域の環境と開発の長期展望を策定し、関係国の環境大臣等の定期会合である「エコアジア」において合意・実施する。
地域の環境対策の戦略づくり
 アジア太平洋(日本国内を含む。)の個々の地域の具体的環境対策について、世界の英知を結集して、その戦略づくりを行い、具体的な取組に結びつける役割を果たします。その際、日本のODAで支援している日中友好環境保全センター等と共同で戦略づくりを行うことが効果的です。例えば、
中国内陸部の大気汚染対策の戦略づくりを日中友好環境保全センターと共同で実施し、先進国からの技術導入等に結びつける。
 
 

(参考)世界の主要な環境政策研究機関の政策提案(例)

世界資源研究所(WRI、米国の民間研究所)
国際応用システム分析研究所(IIASA、非政府間国際機関)
国際環境開発研究所(IIED、英国の民間研究所)
世界開発経済研究所(WIDER、フィンランド、国連大学の研究所)

内外からの設立の支持表明

 地球環境戦略研究機関は、次のような経過で提案され、内外からその設立が支持され
ています。

 「地球環境戦略研究機関」設立の提案
 世界の政治・経済等の有力者による1994年の「地球環境東京会議」の「東京宣言1994」において、「持続可能な開発のための国際的・学際的な政策研究、教育・訓練機関の日本設立」が提案されました。

 「地球環境戦略研究機関」は、1995年1月に村山総理に提出されました総理の私的諮問機関「21世紀地球環境懇話会」(座長:近藤次郎中央環境審議会会長)の報告において、その設立が提言されました。

 これらを受け、環境庁では、「総合的な環境研究・教育体制懇談会」(会長:加藤一郎成城学園名誉学園長)を設置し、「地球環境戦略研究機関」の性格、機能、設置形態、規模、研究体制等について検討をいただき、昨年4月に最終報告がまとめられました。

 国際的な設立支持表明
 昨年4月に東京で開催されました「地球環境戦略研究東京国際ワークショップ」(議長:近藤次郎中央環境審議会会長)におきましては、参加したストックホルム環境研究所(SEI)、国際開発研究センター(IDRC)、世界資源研究所(WRI)、国際環境アカデミー(IAE)等の環境政策研究所の所長等は、アジア太平洋地域の持続可能な開発のため、戦略研究機関の早期設立 を支持する声明をまとめました。

 昨年5月に開催されました「アジア太平洋環境会議(エコアジア)96」(議長:岩垂環境庁長官(当時))におきましては、参加したアジア太平洋地域の各国の環境大臣、関係国際機関幹部等は、戦略研究機関が「エコアジア」のシンクタンクにもなるものであり、早期の設立について協力する旨の議長サマリーを採択しました。
 これらのほか、昨年3月のブラジルにおける国連持続可能開発委員会非公式大臣会議、同じく5月の先進7ヶ国環境大臣会議等の場においても、各国の環境大臣等から強い関心が示されています。また、今年2月にワシントンで開催された日米コモンアジェンダ会合におきましても、日本側から戦略研究機関の準備状況が報告されています。4月の国連持続可能開発委員会の場での我が国政府の議場配布テキストでも紹介されています。

 国内自治体からの誘致要望等
 国内の26の自治体からは、戦略研究機関の熱心な誘致要望が寄せられましたが、これは、単に「箱物」の誘致というものではなく、戦略研究機関と自治体の環境政策、自治体の環境国際協力との連携という観点からの誘致要望です。

 また、国内の大学、企業等も強い関心を持ち、この機関に参加したい、協力関係を持っていきたい等の打診も多く寄せられています。

地球環境戦略研究機関設立の手順


◇国内立地場所の選定
 戦略研究機関の設置場所は、先駆的な環境政策・環境国際協力を行っている自治体と協力して設立するため、全国26箇所の要望の中から、学識者による「地球環境戦略研究機関設置場所選定委員会」(委員長:近藤次郎中央環境審議会会長)において昨年11月に5箇所に絞り込まれ、委員による5箇所の現地調査を行ったうえで、1月31日に委員による投票で、神奈川県(湘南国際村)に最終決定されました。

 9年度 「地球環境戦略研究機関設立準備機構」での設立準備

 4月21日に「(財)地球環境戦略研究機関設立準備機構」が設置されました。設立準備機構は、地球環境戦略研究機関の設立母体となるもので、国と神奈川県が協力して戦略研究機関設立のための準備を行います。
 この設立準備機構における準備事業のため、環境庁と神奈川県は、9年度予算に約4億円の準備経費を計上しています。また、企業、NGO等幅広い方々には、設立準備機構・戦略研究機関の会員になっていただき、戦略研究の成果等を広く普及してい
きます。

 設立準備の第1は、国際的な「地球環境戦略研究機関設立憲章(規約)」の採択です。アジア太平洋を中心とする各国の環境省等、関係国際機関、世界の環境政策研究所等の各機関との間に、戦略機関の目的、事業、組織、各機関との協力、法人格(日本の財団法人)等について合意し、設立憲章(規約)として採択・署名します。
 第2に、戦略研究機関での中長期的な研究内容を明らかにし、内外の研究スタッフを確保することです。このため、5つ程度の大きなテーマで国際的なスコーピング・ワークショップを連続的に開催します。

 10年度 国際的な設立憲章(規約)に基づく地球環境戦略研究機関の発足

 10年度に、この国際的な設立憲章(規約)に基づく機関(法人格は日本の財団法人)として、地球環境戦略研究機関が湘南国際村に発足します。戦略研究機関の建物ができるまでは、「湘南国際村センター」のスペースを活用して研究等を実施します。
 10年度には、40人程度の研究者等で年間10億円程度の規模で立ち上がり、約10年後には、200人、年間40~50億円程度の規模になるという計画です。
 資金は、国の資金が中心になり、神奈川県の資金、企業等の会費収入、外国の機関の資金等を充てていきます。

 研究・運営の実績、国際動向等を踏まえ、条約に基づく国際機関に移行

 将来的には、設立憲章に基づく戦略研究機関の実績等を踏まえ、職員の外交特権等が付与される条約に基づく国際機関に移行することを目指します。


協力・連携を図る主な外国の機関(例)


 国内の研究者、大学、行政、企業、NGO等のみならず、次のような外国の機関と協力し、共同の研究、人材の交流等において連携するとともに、戦略研究の成果の具体化を図ります。これらの機関には、戦略研究機関の設立憲章(規約)に署名してもらい、確固たる協力関係を構築していくこととしています。
 
中国  日中友好環境保全センター(政府機関、日本の援助で設置)
タイ  環境研究研修センター(政府機関、日本の援助で設置)
インドネシア  環境管理センター(政府機関、日本の援助で設置)
インド  タタ・エネルギー研究所(民間機関)
米国  世界資源研究所(WRI、民間機関)
 ワールドウォッチ研究所(WWI、民間機関)
 ハワイ東西センター(政府機関)
カナダ  国際開発研究センター(IDRC、政府の援助機関)
 国際持続可能開発研究所(IISD、民間機関)
英国  国際環境開発研究所(IIED、民間機関)
 王立国際問題研究所(チャタムハウス、公立機関)
ドイツ  ブッパータール気候・環境・エネルギー研究所(公立機関)
 ポツダム気候影響研究所(政府機関)
 ベルリン社会科学研究センター(WZB、公立機関)
オーストリア  国際応用システム分析研究所(IIASA、非政府間国際機関)
スイス  国際環境アカデミー(IAE、公立機関)
 国際自然保護連合(IUCN、非政府間国際機関)
スウェーデン  ストックホルム環境研究所(SEI、公立機関)
フィンランド  国際開発経済研究所(WEIDER、国連大学の機関)
ハンガリー  中東欧地域環境センター(REC、非政府間国際機関)
コスタリカ  アースカウンシル研究所(民間機関)
 
アジア太平洋地域を中心とする各国の環境省等の政府機関
国連環境計画(UNEP)、国連開発計画(UNDP)世界銀行、アジア開発銀行、経済協力開発機構(OECD)、国連大学(UNU)等の国際機関
アジア太平洋地域の環境研究・教育を行っている大学



研究体制等の特徴


○研究体制

 戦略研究機関の研究体制は、以下のような特徴があります。 ○運営体制
 
 国際的な協力の下で設立されます戦略研究機関の運営体制は、以下のような特徴があります。なお、将来、設立条約に基づく国際機関になった場合にも、同様の運営体制を前提とします。