(1) |
現行の化学物質審査規制法では、化学物質による環境汚染を通じた人の健康被害を防止するため、新たな工業用化学物質の有害性を事前に審査し、ポリ塩化ビフェニル(PCB)やトリクロロエチレンのように、環境中で分解しにくく(難分解性)、継続して摂取すると人への毒性(長期毒性)のある化学物質について、その有害性の程度に応じた製造・輸入などの規制を行っている。
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(2) |
一方、欧米においては、人の健康への影響と並んで動植物への影響にも着目するとともに、化学物質の環境中への放出可能性を考慮した審査・規制を行うことが主流となっている。また、平成14年1月には、OECDから我が国に対し、こうした点を反映させ適切な制度改正を行うべき旨が勧告されている。
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(3) |
このような状況の下、関係審議会(産業構造審議会、厚生科学審議会、中央環境審議会)において今後の審査・規制制度の在り方についての審議が行われた。その結果、現行の制度を見直し、化学物質の動植物への影響に着目した審査・規制制度を導入するとともに、環境中への放出可能性を考慮した、一層効果的かつ効率的な措置等を講じることが必要であるとの結論が得られた。これを踏まえ、以下のとおり化学物質審査規制法を改正することが必要である。
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(1) |
環境中の動植物への影響に着目した審査・規制制度の導入 |
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現行制度は、欧米とは異なり、人の健康被害の防止のみを目的としており、環境中の動植物への被害を防止するものとはなっていない。また、OECDから、生態系保全の観点からの措置を講じるべきとの勧告がなされている。
このため、生態系への影響を考慮する観点から動植物への毒性を化学物質の審査項目に新たに加える。この審査の結果、難分解性があり、かつ、動植物への毒性があると判定された化学物質については、製造・輸入事業者に製造・輸入実績数量の届出を求めるなどの監視措置を講じ、必要な場合には製造・輸入数量の制限などを行うことができる制度を新たに設けることとする。 |
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(第2条、第4条、第25条の2〜4、第30条関係)
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(2) |
難分解・高蓄積性の既存化学物質に関する規制の導入 |
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現在は、難分解性があり、かつ、生物の体内に蓄積しやすい(高蓄積性)ものの、人や動植物への毒性が不明な既存化学物質について、統計調査による製造・輸入実績の把握や行政指導により環境中への放出の抑制を図っている。しかし、将来生じうる被害の未然防止を一層進める観点から、これらの既存化学物質を法的に管理する枠組が必要である。
このため、毒性の有無が明らかでない段階において、事業者に対してそれらの製造・輸入実績数量の届出義務を課するとともに、開放系用途の使用の削減を指導・助言し、必要に応じて毒性の調査を求める制度を新たに設けることとする。 |
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(第2条、第5条の3〜5関係、第30条関係)
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(3) |
環境中への放出可能性に着目した審査制度の導入 |
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我が国においては、原則的に化学物質の環境中への放出可能性にかかわらず事前審査を義務づけているが、OECD勧告を踏まえ、この点に着目した一層効果的・効率的な審査制度とする必要がある。
このため、以下の措置を新たに講じることとする。 |
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[1] |
全量が他の化学物質に変化する中間物や閉鎖系の工程でのみ用いられるものなど、環境中への放出可能性が極めて低いと見込まれる化学物質については、現行の事前審査に代えて、そうした状況を事前確認・事後監視することを前提として、製造・輸入ができることとすること。 |
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[2] |
高蓄積性がないと判定された化学物質については、製造・輸入数量が一定数量以下と少ないことを事前確認・事後監視することを前提として、毒性試験を行わずにその数量までの製造・輸入ができることとすること。 |
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(第3条、第4条の2、第5条、第32条、第33条関係)
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(4) |
事業者が入手した有害性情報の報告の義務付け |
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現行制度では、製造・輸入事業者は、新規化学物質の審査時以外には試験データ等の有害性情報を国に報告することは求められていない。したがって、製造・輸入事業者が新たに入手した有害性情報を国が行う化学物質の有害性の審査や点検に活用できる枠組が必要である。
このため、化学物質の製造・輸入事業者が化学物質の有害性情報を入手した場合には、国へ報告することを義務付けることとする。 |
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(第31条の2関係) |
化学物質の管理の一層の充実が求められている国際的動向等にかんがみ、新規化学物質の審査及び規制を効果的かつ効率的に行い、化学物質による環境の汚染をより確実に防止することは喫緊の課題であり、早急な対応が必要である。