今後の自動車排出ガス低減対策の
あり方について(第三次報告)



















平成10年12月14日

中央環境審議会大気部会
自動車排出ガス専門委員会


略 語 集

COP3【The 3rd Session of the Conference of the Parties to the United
Nations Framework Convention on Climate Change】
  :気候変動枠組条約第3回締約国会議(地球温暖化防止京都会議)

DBL【Diurnal Breathing Loss】
  :ダイアーナル・ブリージング・ロス(燃料蒸発ガスのうち、昼夜を含む長時間
   の駐車中に外気温を熱源として排出されるもの)

DPF【Diesel Particulate Filter】
  :ディーゼル排気微粒子除去フィルター(ディーゼルエンジンから排出される粒
   子状物質を捕集して燃焼させる装置)

EGR【Exhaust Gas Recirculation】
  :排気ガス再循環(窒素酸化物の発生を抑制するために吸気に排気ガスの一部を
   混合すること。燃焼温度が下がるために抑制効果が現れる)

HSL【Hot Soak Loss】
  :ホット・ソーク・ロス(燃料蒸発ガスのうち、走行直後の駐車時に自車両を熱
   源として排出されるもの)

JCAP【Japan Clean Air Program】
  :大気改善のための自動車・燃料等の技術開発プログラム(石油連盟と日本自動
   車工業会の共同研究・開発プログラム。平成8年度(1996年度)~平成13年度
   (2001年度))

JIS【Japanese Industrial Standards】
  :日本工業規格

LPG【Liquefied Petroleum Gas】
  :液化石油ガス(プロパン、ブタンなどの混合物で、常温加圧下で液化したもの)

OBD System【On-Board Diagnostic System】
  :車載診断システム(異常の有無を監視する車載の故障診断装置)

PRTR【Pollutant Release and Transfer Register】
  :環境汚染物質排出・移動登録(環境汚染のおそれのある化学物質の環境中への
   排出量又は廃棄物としての移動量を登録し公表する仕組み)

RL【Running Loss】
  :ランニング・ロス(燃料蒸発ガスのうち、走行中に自車両や道路からの輻射熱
   を熱源として排出されるもの)

RVP【Reid Vapor Pressure】
  :リード蒸気圧(ガソリンの蒸発性の指標)

SHED【Shield Housing for Evaporative Determinations】
  :エバポエミッション測定室、シェド(車両からの燃料蒸発ガスの量を測定する
   ための施設で、車両が入れられて温度管理が可能な密閉計測室)

SOF【Soluble Organic Fraction】
  :可溶有機成分(ディーゼルエンジンから排出される粒子状物質の一部)


参考資料:社団法人 自動車技術会「自動車用語和英辞典」(1997年)ほか






「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について」(第三次報告)
目次



1.はじめに … 1

2.大気環境の現状とディーゼル自動車の排出ガス低減対策の視点
(1)大気汚染とディーゼル自動車の排出ガス … 4
(2)ディーゼル自動車の排出ガス低減対策の基本的考え方 … 7

3.ディーゼル自動車の排出ガス低減対策
(1)検討の背景 … 9
(2)当面の排出ガス低減目標 -新短期目標-
  ①排出ガス試験方法 … 10
 ②燃料品質 … 10
  ③許容限度設定目標値及び達成時期 … 11
  ④使用過程における排出ガス低減装置の性能維持方策 … 12
  ⑤黒煙対策    … 13
  ⑥ブローバイガス対策 … 13
  ⑦排出ガス低減技術 … 14
(3)中長期的な排出ガス低減目標 -新長期目標-
  ①中長期的な排出ガス低減目標 … 16
  ②許容限度設定目標値及び達成時期の見極め … 17
  ③排出ガス試験方法の見直し … 18
(4)排出ガス削減効果 … 19

4.ガソリン自動車の燃料蒸発ガス試験に用いる燃料の蒸発性
(1)検討の背景 … 22
(2)試験燃料のRVP … 23
(3)市場に供給される燃料のRVPの低減等 … 24

5.今後の自動車排出ガス低減対策の考え方
(1)今後の検討方針 … 25
(2)関連の諸施策 … 28

別表1 ディーゼル自動車に係る許容限度設定目標値 … 31
別表2 ディーゼル自動車の耐久走行距離 … 32
中央環境審議会大気部会自動車排出ガス専門委員会及び同作業委員会名簿  …33





「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について」(第三次報告)

1.はじめに

(我が国の自動車排出ガス規制の経緯)
 我が国の自動車排出ガス規制は、昭和41年(1966年)のガソリンを燃料とする普通自動車及び小型自動車の一酸化炭素濃度規制により開始された。その後、軽自動車、液化石油ガス(以下「LPG」という。)を燃料とする自動車及び軽油を燃料とする自動車(以下「ディーゼル自動車」という。)が規制対象に追加され、また、規制対象物質も逐次追加された結果、現在では、ガソリン又はLPGを燃料とする自動車(以下「ガソリン・LPG自動車」という。)については一酸化炭素、炭化水素及び窒素酸化物が、ディーゼル自動車についてはこれら3物質に加えて粒子状物質及び粒子状物質のうちディーゼル黒煙が規制対象となっている。
 さらに、平成9年(1997年)3月の総理府令等の改正により、ガソリンを燃料とする二輪車が規制対象に追加された。これを受けて、平成10年(1998年)10月には第一種原動機付自転車及び軽二輪自動車の規制が開始され、また、平成11年(1999年)10月には第二種原動機付自転車及び小型二輪自動車の規制が開始されることとなっている。さらに、平成16年(2004年)には、軽油を燃料とする大型特殊自動車及び小型特殊自動車(以下「ディーゼル特殊自動車」という。)であって、定格出力19kW以上560kW未満のエンジンを搭載するものについても規制の開始が予定されている。
 また、平成7年(1995年)4月には大気汚染防止法が一部改正され、自動車燃料品質に係る許容限度がガソリン及び軽油について設定された。これに基づき平成8年(1996年)4月から自動車燃料品質規制が開始されている。燃料品質に係る規制値については、後述のとおり、平成9年から軽油中の硫黄含有率を0.2質量%から0.05質量%に低減しており、平成11年末にはガソリン中のベンゼン含有率を5体積%から1体積%に低減する予定である。

(中央環境審議会における審議経緯)
 近年の自動車排出ガス低減対策は、平成元年(1989年)12月の中央公害対策審議会答申「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について」(平成元年12月22日中公審第266号。以下「元年答申」という。)で示された目標に沿って推進されてきた。これにより、
  ・自動車排出ガスについて、ディーゼル自動車等から排出される窒素酸化物及び
粒子状物質等を短期及び長期の2段階の目標に沿って大幅に低減
  ・自動車燃料品質について、軽油中の硫黄分を短期及び長期の2段階に分けて約
10分の1レベル(0.5質量%→0.2質量%→0.05質量%)にまで低減
等の諸施策が平成11年(1999年)までにすべて実施されることとなっている。
 元年答申で示された目標について完全実施のめどが立ったことから、平成8年(1996年)5月、環境庁長官より中央環境審議会に対して「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について」(平成8年5月21日諮問第31号)が諮問され、中央環境審議会大気部会及び同部会に新たに設置された本自動車排出ガス専門委員会(以下「本委員会」という。)において審議が開始された。
 平成8年10月18日には、有害大気汚染物質対策の重要性・緊急性にかんがみ、自動車排出ガス低減対策として可能な限り早急に実施すべきものについて検討した本委員会の中間報告が大気部会に受理され、同日、中間答申「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について」(平成8年10月18日中環審第83号。以下「中間答申」という。)が取りまとめられた。同答申に基づき、
  ・二輪車について排出ガス規制の導入及び炭化水素等の排出削減
  ・ガソリン・LPG自動車について炭化水素等の排出削減
  ・自動車燃料品質についてガソリンの低ベンゼン化(5体積%→1体積%)
の諸施策が、排出ガス規制については平成10年末又は11年末、燃料品質規制については平成11年末を目途に行われることとなり、排出ガス規制については平成9年(1997年)3月に大気汚染防止法に基づく告示「自動車排出ガスの量の許容限度」(以下「許容限度」という。)の改正等、所要の措置が取られた。
 平成9年(1997年)11月21日には、ガソリン・LPG自動車及びディーゼル特殊自動車の排出ガス低減対策の強化について検討した本委員会の第二次報告が大気部会に受理され、同日、第二次答申「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について」(平成9年11月21日中環審第120号。以下「第二次答申」という。)が取りまとめられた。同答申に基づき、
  ・ガソリン・LPG自動車について、平成12年(2000年)から14年(2002年)にかけて
窒素酸化物と炭化水素の排出量削減に重点を置き対策を強化し(以下「ガソリン新短期目標」という。)、さらに平成17年(2005年)頃を目途に新短期目標の2分の1以下を目標に技術開発を進めること(以下「ガソリン新長期目標」という。)。
  ・ガソリン自動車の燃料蒸発ガス試験法を改定し、前項と同時に燃料蒸発ガス低減
対策を強化すること。
  ・ディーゼル特殊自動車の排出ガス規制を平成16年(2004年)から導入すること。
が予定されており、ガソリン新短期目標及びガソリン自動車の燃料蒸発ガスについては平成10年9月に許容限度の改正等、所要の措置が取られた。

(本報告の検討経緯及び概要)
 本委員会は、第二次答申で示された検討方針に沿って、業界団体ヒアリング、自動車製作者及び燃料生産者の現地調査並びに本委員会内に設置した作業委員会による自動車製作者ヒアリング等を含め25回にわたる審議を行い、ディーゼル自動車の排出ガス低減対策等について結果を得たので報告する。
 以下、2.でディーゼル自動車の排出ガス低減対策の視点について、3.でディーゼル自動車の具体的な排出ガス低減対策について、4.で第二次答申で継続検討事項となったガソリン自動車の燃料蒸発ガス試験に用いる燃料の蒸発性について述べる。5.(1)では、3.及び4.の具体的方策を踏まえ、ガソリン・LPG自動車、ディーゼル自動車、特殊自動車及び二輪車の排出ガス低減対策並びに燃料品質対策の強化、排出ガス試験方法の見直し等についての今後の検討方針をそれぞれ示す。5.(2)では、関連の諸施策について本委員会の見解を示す。



2.大気環境の現状とディーゼル自動車の排出ガス低減対策の視点

(1)大気汚染とディーゼル自動車の排出ガス
 本委員会の第二次報告では、大気環境の現状と大気汚染物質の生成機構及びそれに係わる自動車排出ガスについて、本委員会の基本的認識を述べた。ディーゼル自動車の排出ガス低減対策の推進に当たっても、同様の認識に立つとともに、加えて、
  ・ディーゼル自動車は我が国の窒素酸化物の主要な発生源のひとつであること
  ・ディーゼル自動車から排出される粒子状物質が道路沿道における浮遊粒子状物質   の相当の割合を占めること
を考慮する必要がある。
 以下、大気汚染物質ごとに、汚染の現状とディーゼル自動車の排出ガスとの関係を述べる。

① 二酸化窒素については、大都市地域を中心に環境基準の達成状況は依然として低い
水準で推移している。二酸化窒素には、
 ・自動車から直接排出されるもの
 ・船舶・航空機など、自動車以外の移動発生源から直接排出されるもの
 ・工場・事業場等の固定発生源から直接排出されるもの
 ・一酸化窒素とオゾンの反応や、光化学反応を介した一酸化窒素と炭化水素等の揮  発性有機化合物の反応により二次的に生成されるもの等がある。特に、冬期及び春期の昼間、二酸化窒素が高濃度になる時においても、一酸化窒素と炭化水素等との光化学反応を介して生成された二酸化窒素の割合が相当程度ある。
 このため、ディーゼル自動車については、直接排出の寄与が特に大きい窒素酸化物の低減が必要なことは言うまでもないが、二酸化窒素の二次的な生成の抑制の観点から、炭化水素の低減も必要である。

② 浮遊粒子状物質については、大都市地域を中心に環境基準の達成状況は依然として低い水準で推移しており、中でも道路沿道の自動車排出ガス測定局における状況は非常に厳しい。また、都心周辺部でも高濃度が測定されている。
 浮遊粒子状物質には、粒子として直接発生源から排出される一次粒子と、気体状の前駆物質が大気中で粒子化して生成する二次生成粒子がある。一次粒子には、
 ・ディーゼル自動車から排出される粒子状物質
 ・自動車走行に伴うタイヤ摩耗塵や道路堆積物
 ・船舶・航空機など、自動車以外の移動発生源から排出される粒子状物質
 ・工場・事業場等の固定発生源から排出されるばいじん、粉じん
 ・土壌や海塩など自然に起因する粒子
等がある。また、二次生成粒子の前駆物質は、自動車、固定発生源等の人為的発生源あるいは自然の発生源から排出された、気体状の窒素酸化物、硫黄酸化物、炭化水素等である。
 浮遊粒子状物質の発生源を解析した例は過去にもあるが、平成9年からディーゼル自動車の燃料である軽油の低硫黄化が実施されたことから、低硫黄化後の最新の状況を把握するため、平成9年度及び10年度に都心の道路沿道2か所及び後背地1か所で浮遊粒子状物質をそれぞれ数回採取して成分を分析し、主要な発生源の寄与を解析した。その結果、ディーゼル自動車の粒子状物質の濃度が浮遊粒子状物質全体の濃度に占める割合は、道路沿道で20%から48%であった。また、二次生成粒子が浮遊粒子状物質に占める割合は、道路沿道で23%から37%であった。さらに、ディーゼル自動車の粒子状物質が粒径2μm以下の微小粒子に占める割合は、道路沿道で26%から61%、また、二次生成粒子が微小粒子に占める割合は26%から44%であるとの結果が得られた。なお、ディーゼル自動車の粒子状物質及び二次生成粒子の大気中濃度は、いずれも道路沿道の方が後背地よりも多い傾向にあった。
 もとより、これらは調査地点数・回数ともに限られた調査の結果であり、今後一層のデータの蓄積が必要ではあるが、本調査結果からは、ディーゼル自動車の粒子状物質が道路沿道の粒子状物質に占める割合は大きいことが示唆される。また、窒素酸化物及び炭化水素が、前駆物質として、二次生成粒子の道路沿道での生成に大きく寄与していることも示唆される。
 このため、ディーゼル自動車については、粒子状物質の低減が必要なことは言うまでもないが、二次生成粒子の抑制の観点から、窒素酸化物及び炭化水素の低減も必要である。

③ 光化学オキシダントについては、環境基準はほとんど達成されていない。また、関東地域及び関西地域における高濃度の出現日数は大都市の外縁部で多くなっており、広域的な汚染傾向が認められている。光化学オキシダント濃度は、
 ・原因物質である窒素酸化物及び炭化水素の大気中濃度
 ・日射量、気温及び大気安定度等の気象条件
の影響を受ける。この中で、炭化水素は光化学オキシダントの生成速度や高濃度地域の発生分布にも関与している。
 このため、ディーゼル自動車については、光化学オキシダント対策の観点からも、窒素酸化物及び炭化水素の低減が必要である。

④ 一酸化炭素については、近年、すべての一般環境大気測定局及び自動車排出ガス測定局で環境基準を達成しており、良好な大気環境が維持されている。

⑤ 低濃度であっても長期間の曝露による健康への影響が懸念される有害大気汚染物質のうち自動車から排出される主なものとしては、アセトアルデヒド、1,3-ブタジエン、ベンゼン、ベンゾ[a]ピレン、ホルムアルデヒド等がある。これらの物質については、既に規制対象となっている炭化水素及び粒子状物質といった多成分混合物質の規制強化により排出低減が図られている。ディーゼル自動車についても、排出ガス中にこれらの物質が含まれていることから、中央環境審議会中間答申「今後の有害大気汚染物質対策のあり方について」(平成8年1月30日中環審第59号)で示されたとおり、炭化水素及び粒子状物質の低減により有害大気汚染物質の低減を図ることが適当である。

⑥ 酸性雨については、窒素酸化物、光化学オキシダント等が関与していることから、ディーゼル自動車についても、窒素酸化物及び炭化水素の低減が必要である。

 ①~⑥から、ディーゼル自動車の排出ガス低減の効果と必要性を、排出ガスの物質ごとに整理すると、以下のとおりである。
・ディーゼル自動車からの窒素酸化物の排出低減は、大気中の二酸化窒素、浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの濃度低減に効果があり、酸性雨対策にも資する。これらの効果、特に二酸化窒素対策の観点から、排出ガス対策の必要性は極めて大きい。
・ディーゼル自動車からの粒子状物質の排出低減は、大気中の浮遊粒子状物質の濃度低減、有害大気汚染物質の排出低減に効果があり、排出ガス対策の必要性は極めて大きい。
・ディーゼル自動車からの炭化水素の排出低減は、大気中の二酸化窒素、浮遊粒子状物質及び光化学オキシダントの濃度低減、有害大気汚染物質の排出低減に効果があり、酸性雨対策にも資することから、排出ガス対策の必要性は大きい。
・ディーゼル自動車からの一酸化炭素の排出低減は、大気中の一酸化炭素の濃度低減に効果がある。一酸化炭素の環境基準の達成状況は良好であるものの、大気環境の維持の観点から、排出ガス対策を行うことが望ましい。



(2)ディーゼル自動車の排出ガス低減対策の基本的考え方
 平成9年(1997年)12月に京都で開催された「気候変動枠組条約第3回締約国会議(地球温暖化防止京都会議、COP3)」で採択された京都議定書では、我が国の温室効果ガスの排出量を、2008年から2012年の5年間について1990年比で6%削減するとの削減目標が定められた。自動車からの二酸化炭素排出量は我が国の二酸化炭素排出量全体の約2割を占めているといわれ、自動車に対しては窒素酸化物等の大気汚染物質の一層の低減と同時に二酸化炭素排出低減という自動車技術上の二律背反的な課題が課せられている。
 こうした中で、ディーゼルエンジンは高い圧縮比が使われることから、原理的にガソリンエンジンに比べ高い熱効率を有し、燃費が良く二酸化炭素排出量が少ないという利点があり、将来的に地球温暖化問題に対する有効な対策技術のひとつとなる可能性が大きい。
 しかしながら、都市の大気汚染防止の観点から見ると、ディーゼルエンジンはガソリンエンジンと比較して窒素酸化物の排出量が多く、また、ガソリンエンジンではほとんど排出されない粒子状物質を排出するため、燃費性能の一層の向上を図りつつ窒素酸化物及び粒子状物質の排出量を大幅に低減することがディーゼルエンジンの最優先課題である。

 ディーゼルエンジンで窒素酸化物及び粒子状物質の低減が困難な技術的理由は、具体的には以下のとおりである。
  ・ディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物と粒子状物質の量は、原理的に、一方を低減すれば他方が増大する、いわゆるトレードオフの関係にある。
  ・ディーゼルエンジンは、常に酸素が過剰な状態で運転されるために排気中に残存
酸素が多く、従来型のガソリンエンジンで広く使用されている三元触媒の使用は原理的に不可能である。
 ・筒内直接噴射ガソリンエンジン等のガソリン希薄燃焼方式エンジン(ガソリンリーンバーンエンジン)用の窒素酸化物還元触媒は、排気中の硫黄の量、排気温度等が異なるディーゼルエンジンにはそのまま使用できないため、ディーゼルエンジン用の窒素酸化物還元触媒の実用化には、性能、耐久性等の面から、相当の研究・開発とそのための時間が必要である。
  ・ディーゼルエンジンの燃料である軽油は、硫黄分がガソリンに比べて多いため、気ガス中の硫黄酸化物により触媒、排気ガス再循環(EGR)システム等の排出ガス低減装置が劣化しやすい。
 これらの技術的課題を解決するためには、自動車構造対策及び燃料品質対策の両面からの取組が必要不可欠である。現在実施中の元年答申に基づくディーゼル長期規制においても、燃料品質対策として軽油中の硫黄分を0.05%に低減することにより、自動車構造対策としては酸化触媒の実用化、EGR量の増量、EGRシステムの採用車種の大型車への拡大等が可能となり、元年当時と比較して窒素酸化物で車種により3~6割、粒子状物質で6割以上という大幅な排出ガス低減が可能となった。
 今後とも車両側と燃料側の両面から一層の技術開発を推進し、自動車構造対策としては窒素酸化物還元触媒などの新技術の実用化、燃料品質対策としては軽油中の硫黄分の一層の低減等の品質改善を図ることにより、上記の技術的課題を解決し、将来においては、ディーゼルエンジンが排出ガスのクリーンでかつ二酸化炭素排出量も少ない高効率熱機関へと発展し、地球温暖化問題への有効な対策技術のひとつとなることが望まれる。

 ディーゼル自動車の排出ガス低減に当たっては、2.(1)に述べた大気汚染物質とディーゼル自動車の排出ガスとの関係を考慮した場合、まずは窒素酸化物及び粒子状物質の低減対策を一層強力に推進するとともに、大気汚染物質の二次生成の抑制及び有害大気汚染物質対策の観点から炭化水素についても低減を図る必要がある。また、一酸化炭素については、近年、良好な大気環境が維持されているが、その維持のため、可能な範囲において低減を図ることが適当である。
このうち、粒子状物質については、浮遊粒子状物質の環境基準の達成状況が依然として低い水準で推移していることに加え、発がん性、気管支ぜん息、花粉症等の健康影響との関連が懸念されていること、また、浮遊粒子状物質の中でもより粒径の小さい粒子(微小粒子)の大気環境濃度と健康影響との関連性が新たに着目されてきている中、ディーゼル自動車から排出される粒子状物質はその大半が微小粒子であることも念頭に置きつつ、低減対策の推進を図る必要がある。

 本委員会は、このような基本的認識の下、内外における自動車排出ガス低減技術の開発状況及び今後の発展の可能性を見極め、また、対策の実施に必要な費用も把握しつつ検討を行い、3.に示すとおりディーゼル自動車の排出ガス低減対策を推進する必要があるとの結論を得た。



3.ディーゼル自動車の排出ガス低減対策

(1)検討の背景
 ディーゼル自動車の排出ガス低減対策は、
  ・エンジン本体の改良、触媒等の排気後処理装置の改良などによる自動車構造対策
  ・燃料及び潤滑油の品質改善、新燃料の導入等による燃料品質対策
に大別される。
 自動車構造対策としては、元年答申に基づく長期規制では、140MPaに達する燃料の高圧噴射が実現し、燃料と空気との混合が促進されることにより粒子状物質の低減が可能となっている。更には、電子制御による燃料噴射率等の精密な制御、EGR、中間冷却ターボ過給等との組合せにより、窒素酸化物と粒子状物質の低減の両立が図られている。また、排気後処理装置については、酸化触媒が乗用車等で採用されつつあり、粒子状物質中の可溶有機成分(SOF)、炭化水素及び一酸化炭素の低減に加え、炭化水素中の有害大気汚染物質等の浄化にも効果が得られている。また、都市内路線バス等の一部限定的な車両では、粒子状物質の低減に効果的なディーゼル排気微粒子除去フィルター(DPF)が試験的に使用されつつある。
 燃料品質対策としては、2.(2)で述べたとおり元年答申に基づき軽油中の硫黄の低減が図られ、その効果が現れつつあるところである。具体的には、粒子状物質のうち硫酸塩(サルフェート)の生成が抑制され粒子状物質の排出量が低減したほか、EGRに伴うピストンリング、シリンダライナ等の腐食や摩耗の問題が軽減され、乗用車から重量車までの幅広い車種にEGRの採用が可能となった。さらに、炭化水素及びSOFの低減に有効な酸化触媒の使用の可能性が与えられ、乗用車等で酸化触媒が実用化されつつある。

 本委員会では、これらの状況を踏まえ、2.(2)で述べた基本的考え方を念頭に置きつつ、ディーゼル自動車の排出ガスの低減について技術的な検討を行った。
 その結果、大気汚染対策の緊急性と中長期的な技術革新の必要性の双方の見地から、今後のディーゼル自動車の排出ガスの低減に当たっては、
  ・早急に実施すべき当面の低減目標(以下「新短期目標」という。)
  ・必要な研究・開発を行った上で中長期的に実施すべき低減目標(以下「新長期目標」という。)
の二段階に分けて対策を推進することが適当であるとの結論を得た。
 以下、3.(2)で新短期目標について、3.(3)で新長期目標について、3.(4)でこれらの対策による排出ガス削減効果について述べる。
(2)当面の排出ガス低減目標 -新短期目標-

 ①排出ガス試験方法
 排出ガス試験方法については、測定時の精度や再現性に優れ、かつ自動車の使用実態を反映した適切なものである必要がある。現行の10・15モード及びディーゼル13モードの設定の際に行った走行実態調査から10年以上が経過し、道路の混雑率や高速道路の整備状況、自動車のエンジン出力等に変化が見られることから、自動車の走行実態に変化が生じている可能性がある。このため、改めて走行実態調査を行い、諸外国で進行中の試験方法の改訂作業の状況も参考としつつ、試験方法の見直しについて必要性も含め検討することが適当である。
 しかしながら、新短期目標の実施に当たっては、走行実態調査、試験方法の見直し及び自動車製作者の対応にそれぞれ数年を要すること、将来実用化が期待される窒素酸化物還元触媒、DPF等の排気後処理装置の特性評価を十分に行う必要があること等を考慮し、現行の試験方法により排出ガス低減対策を進めることが適当である。
 コールドスタート時(冷始動時)には、ガソリン・LPG自動車は、始動性及び始動直後の運転性確保の観点から燃料を増量して濃い混合気を供給しており、また触媒が低温では活性化状態にないため、排出ガスの量が大幅に増加する。このため、ガソリン・LPG自動車については11モードによる規制を実施し、コールドスタート時の排出ガスの低減を図っている。一方、ディーゼル自動車は、コールドスタート時には圧縮着火が確実に起こるようグロープラグ(予熱栓)等の着火補助装置が備えられているので、着火不良等による未燃燃料の排出による炭化水素の増加は少ない。窒素酸化物についても、現時点では触媒による窒素酸化物の浄化を行っていないため、ホットスタート時(暖機始動時)と比較して排出量が大幅に増加することはない。このため、ディーゼル自動車については、当面はホットスタートである10・15モード又はディーゼル13モードにより排出ガスの低減を図ることとする。また、今後のディーゼル自動車のコールドスタート時の排出ガス対策については、新長期目標に適合すべく開発される低減技術について低温時の排出ガス特性を見極めた上で、規制の必要性を判断し、上記の排出ガ ス試験方法の見直しと併せて検討することが適当である。

 ②燃料品質
 燃料の品質については、その改善自体が排出ガス低減に資する場合と、自動車側の要素技術と相まって排出ガス低減効果が得られる場合があり、いずれの場合も燃料の品質が自動車排出ガス低減対策の基礎となる。
 しかしながら、ディーゼル自動車の燃料である軽油については、我が国が原油の相当部分を依存している中東原油には硫黄分が多いことから、更なる低硫黄化のためには、実用に耐える超深度脱硫システム等の技術革新が必要とされる。また、国内の精油所においては、硫黄分を0.2質量%以下から0.05質量%以下とする平成9年(1997年)の規制強化への対応のため、脱硫設備の新増設、脱水素反応及び水素化脱硫の運転プロセスの変更、通油量・反応圧力などの運転条件の変更等を実施したところであり、更なる低硫黄化には設備用地の確保を含め相当の時間と費用が必要である。このため、長期的には低硫黄化が必要であるものの、当面は硫黄分低減は低減技術、対応期間、費用のいずれの面からも困難な状況にある。
 また、その他の重要な燃料の品質項目としては、セタン価、蒸留性状、芳香族含有率、密度等があげられる。これらの品質項目は燃焼ひいては排出ガス特性に影響を及ぼし、その改善が排出ガス低減に資することがこれまでの研究により知られている。しかしながら、各品質項目を種々に変化させた燃料を自動車側の各種技術と組み合わせて使用した場合の排出ガスに与える定量的な効果については、必ずしも明らかではなく、それらの自動車側の技術との相乗的な効果に関しては一層の研究が必要な段階にある。
 以上のことから、本委員会では、当面のディーゼル自動車の排出ガス低減対策の強化に当たっては、これまでの燃料品質対策の成果を最大限に利用して、現状の軽油の品質を前提に自動車側で可能な限りの対策を講じることが適当であるとの結論を得た。
 なお、燃料生産者においては、現状の精製プロセスにおいても設備改修の機会をとらえ、また流通を工夫すること等により、可能な範囲で市場の軽油の硫黄分の実勢を低減するよう努力することが望まれる。

 ③許容限度設定目標値及び達成時期
 現状の軽油品質を前提に、3.(2)⑦で述べる自動車の構造上の対策による排出ガス低減対策について、各車種ごとに技術的な検討を行った結果、窒素酸化物、粒子状物質、炭化水素及び一酸化炭素について、別表1に示す許容限度設定目標値に沿って低減を図ることが適当であるとの結論を得た。
 自動車の排出ガスの量は、一般に、自動車の重量と排気量の比が大幅に変わらない範囲において、自動車の重量の増大に応じて増加する傾向がある。一方、重量が小さく当初より排出ガス量の少ない車両についても、できる限り排出ガスの量を低減する必要がある。このため、ディーゼル乗用車の低減目標を設定するに当たっては、より軽量の乗用車ほど一層の排出ガス低減が可能なことから、等価慣性重量別に1,250kg以下のものと1,250kg超えのものの2つに区分して目標値を設定している。また、将来的には、より大幅な排出ガス浄化が可能な排気後処理装置等の技術開発を進め、できるだけ早期に1,250kg超えのものの排出ガスの量を1,250kg以下のものと同レベルにまで低減する必要がある。
 別表1に示す許容限度設定目標値は、乗用車及び軽量車(トラック・バスのうち車両総重量が1,700kg以下のもの)については、設計、開発、生産準備等を効率的に行うことにより、平成14年(2002年)末までに達成を図ることが適当である。中量車(トラック・バスのうち車両総重量が1,700kgを超え2,500kg以下のもの)及び重量車(トラック・バスのうち車両総重量が2,500kgを超えるもの)のうち車両総重量12,000kg以下のものについては、平成15年(2003年)末までに達成を図ることが適当である。重量車のうち車両総重量12,000kg超えのものについては、平成11年(1999年)に元年答申に基づく長期規制が予定されていることから、長期規制対応後、直ちに設計、開発、生産準備等を効率的に行い、平成16年(2004年)末までに達成を図ることが適当である。
 なお、本報告に基づき実施される規制のうちディーゼル乗用車及び軽量車に係るものについては、対象となる車種・型式が多岐にわたるのみならず、騒音規制法に基づく自動車騒音規制の強化(乗用車:平成10年規制、軽量車:平成11年規制)、平成10年に改正されたエネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)に基づく燃費対策等、各種対策の大幅な強化もその前後の短期間に集中すると考えられる。更にはこれに先立ちガソリン・LPG乗用車及び軽量車の排出ガス規制の強化も予定されている。このため、ディーゼル乗用車及び軽量車に係る排出ガス規制の実施に当たっては、開発及び生産準備の工数上、対応に困難が予想されることから、規制への対応が円滑に進められるよう配慮が必要である。

 ④使用過程における排出ガス低減装置の性能維持方策
 新短期目標の達成には、3.(2)⑦で述べるとおり、酸化触媒、燃料噴射の一層の高圧化、冷却EGR、中間冷却ターボ過給等の新たな排出ガス低減技術が必要と考えられるが、これらが十分な耐久性を有していない場合、使用過程でその性能が劣化し、排出ガス量が増大することが懸念される。このため、各車種ごとに平均使用年数、その間の走行距離等の使用実態を考慮の上、耐久走行距離を大幅に延長することが必要である。したがって、自動車製作者にあっては、新短期目標の達成に当たり、生産段階において別表2に示す距離の耐久走行後においても良好な排出ガス性能の確保を図ることが適当である。
 さらに、自動車製作者にあっては、断線等による排出ガス低減装置の機能不良を監視する車載診断システム(OBDシステム)を生産段階において装備することとし、使用者にあっては、OBDシステムを用いて排出ガス低減装置の適正な稼働を常時確認して、必要に応じ点検・整備を行うことが適当である。OBDシステムの装備は、新短期目標の達成と同時期とすることが適当である。なお、触媒等の排出ガス低減装置の性能劣化を監視する、更に高度なOBDシステムについては、本報告に基づき新たに導入される排出ガス低減装置の性能劣化に係る特性等について調査した上で、導入の必要性を改めて検討することとする。
 また、国においては、使用過程車に対し、その使用実態に応じた適切な点検・整備の励行を図るとともに、従来から実施している道路運送車両法に基づく自動車の検査(いわゆる「車検」)及び街頭での取締り(いわゆる「街頭検査」)により排出ガス低減装置に係る整備不良や不正改造の排除を図ることが必要である。

 ⑤黒煙対策
 ディーゼル黒煙については、現在、3モード全負荷試験による規制と無負荷急加速試験による規制が行われており、元年答申に基づき平成9年から平成11年にかけて、汚染度40%から25%への規制強化が実施されているところである。
 黒煙の排出に関し技術的な検討を行った結果、一層の黒煙の低減を進めるためには、これら2種類の試験方法のうち、3モード全負荷試験について、その測定点に最大出力時の回転数の30%回転数又は毎分800回転のうちいずれか高回転の方を測定点に追加した4モード全負荷試験を新たに導入することにより、急発進時等に過剰に排出される黒煙の発生を抑制することが適当であるとの結論を得た。本対策の実施は、新短期目標の達成と同時期とすることが適当である。

 ⑥ブローバイガス対策
 ガソリン・LPG自動車の場合には、エンジン内で混合気を圧縮する結果、ブローバイガス(ピストンリングの隙間よりクランクケースに漏れ出るガス。空気、未燃焼の燃料、燃焼後の排気ガスから成り、炭化水素等を含む。)がクランク・ケース内に漏れやすく、昭和45年(1970年)からブローバイガス規制が行われている。
 一方のディーゼル自動車については、ガソリン・LPG自動車に比べるとブローバイガス中に含まれる炭化水素等の排出物が少ないと考えられることから、従来は規制の対象外とされている。
 しかしながら、重量車以外の車種の多くについては、既にブローバイガスをエンジンに還流させるブローバイガス還元装置が装着されていることから、重量車も含めた全車種について、新短期目標の達成時期と同時期に対策を実施することが適当である。なお、重量車及び過給機付車両については、今後、ブローバイガス還元装置及び過給機の技術開発を進め、装置の耐久信頼性を確保する必要がある。

 ⑦排出ガス低減技術
 ディーゼルエンジンは燃料噴射と燃焼室の方式により直接噴射式と副室式に分類される。直接噴射式は副室式と比較すると熱効率が高く燃費には優れるものの、窒素酸化物を排出しやすいという課題が過去にはあったが、噴射の高圧化及び電子制御化によりその状況は大幅に改善され、一層の排出ガス低減が可能になりつつある。このため、元年答申に基づく長期規制から、直接噴射式にも副室式と同一の規制値が適用されている。一方の副室式は、燃費が直接噴射式に劣るため、直接噴射式に対する優位は失われつつある。このような状況の中、小型ディーゼルエンジンにおいても、直接噴射式が実用化されつつあり、今後は全車種で直接噴射式が基本となると考えられる。
 今後のディーゼルエンジンの排出ガス低減技術としては、燃料噴射の一層の高圧化及び燃焼室形状の最適化による燃料の微粒子化及び空気との混合促進による粒子状物質の排出低減とともに、電子制御による燃料噴射率の制御の一層の精緻化、EGRガスの冷却及び増量等の対策によって窒素酸化物の排出低減が可能である。中間冷却ターボ過給については、現時点では低速時の応答性が不十分で我が国の大都市域での使用には適さない場合があるものの、粒子状物質と窒素酸化物の両者の低減に加え、燃費改善効果も期待できることから、低速時の応答性の改善を図り、これまで採用例の少ないダンプ型車両等へも適用を拡大することが望ましい。
 排気後処理装置については、酸化触媒の浄化率及び耐久性の向上を図り、乗用車等以外の車種も含めディーゼル自動車全般に採用することにより、粒子状物質中のSOF、炭化水素及び一酸化炭素の低減に加え有害大気汚染物質の低減が可能である。
 また、窒素酸化物を低減する窒素酸化物還元触媒については、3.(3)で述べるとおり、新長期目標への有力な対応技術として開発が強く期待されているものの、現時点では性能、耐久性等に問題があり、新短期目標の時点での実用化の目途は立っていない。しかしながら、乗用車等にあっては、高負荷での運転頻度が低いなど使用条件がトラック・バスに比べて緩やかで、総走行距離も短いことから、今後の技術開発の進捗によって可能な場合には、新長期目標への対応に先立って先行的・試行的に窒素酸化物還元触媒を採用することが期待される。
 なお、DPFについては、開発着手後相当の時間が経過したにもかかわらず、捕捉した粒子状物質を燃焼させてフィルターを再生する技術に関し、制御の難しさ、燃費の悪化、耐久信頼性の向上など未解決の課題が多い。このため、新短期目標の実施の時点では、都市内路線バスなど一部限定的な車両にのみ実用化が可能と考えられるが、その他の車種についても早期の実用化が待たれる技術であり、適用可能な車種から順次採用拡大を図ることが望ましい。
 以上に掲げた要素技術等の組合せにより、新短期目標は達成可能であると考えられ、自動車製作者等においては、要素技術の開発促進と、それらを組み合わせた排出ガス低減システム全体の高度化を推進する必要がある。その際、実際の走行時のいかなる条件においても最大限の排出ガス低減効果の確保に留意することが肝要であり、安全上必要な車両性能確保のために最小限の範囲で排出ガス低減システムの機能を低下あるいは停止させる場合を除き、排出ガス試験の測定モード以外の走行条件においても各種排出ガス低減システムはモード運転時と基本的に同等の機能を発揮することが必要である。



(3)中長期的な排出ガス低減目標 -新長期目標-

 ①中長期的な排出ガス低減目標
 3.(2)では、現時点の排出ガス低減技術の開発状況及びそれから予測した将来見通しに基づき、各車種それぞれについて、当面達成可能な最も厳しいレベルの低減目標を示した。しかし、将来にわたっても引き続き交通量等の伸びが予想されている中で、二酸化窒素、浮遊粒子状物質、光化学オキシダント等による大気汚染を防止していくためには、なお一層のディーゼル自動車の排出ガス低減対策が必要である。加えて、ディーゼル自動車から排出される粒子状物質による健康影響が懸念されていることから、将来的には一層の低減が必要と考えられる。
 そのため、長期的な排出ガス低減にかかわる諸取組を不断に進めることが肝要であり、浄化率及び耐久性に優れる酸化触媒や窒素酸化物還元触媒、耐久性・信頼性に優れる幅広い車種に適用可能なDPF、予混合圧縮着火燃焼法、水噴射等の革新的なディーゼル自動車の排出ガス低減技術の実用化を念頭に技術開発を進めることが適当である。その場合の開発目標は、各車種とも、平成19年(2007年)頃を目途に、3.(2)に示した新たな目標値から更に2分の1程度とすることが適当である。
 この目標は、非常に高い目標であり、その達成のためには、エンジンの燃焼技術、排気後処理技術及び燃料・潤滑油品質対策の三つの技術的側面からの総合的な検討とそれに基づく技術開発等を進めることが必要不可欠である。
 燃料品質項目のうち、硫黄については、その量を低減することにより、触媒で硫酸塩(サルフェート)が生成しにくくなり粒子状物質が低減すると同時に、浄化率の高い酸化触媒の適用が可能となること、窒素酸化物還元触媒の硫黄被毒による劣化が生じにくくなること、EGRのガス量の増大を図ったシステムを使用した場合の硫酸によるエンジン各部の腐食・摩耗が抑制されること等の排出ガス低減システム全体としての性能向上を引き出す効果がある。このため、新長期目標の実施に当たっては、一層の硫黄分低減について検討する必要がある。その際、硫黄の低減に伴う軽油の潤滑性低下等の問題にも留意することが必要である。
 硫黄以外の品質項目、すなわち、セタン価、蒸留性状、芳香族含有率、密度等の燃料品質項目も、3.(2)で述べたとおり、排出ガス特性を左右する重要な因子であり、これらの品質を改善することにより、今後進展するエンジン燃焼技術や排気後処理技術とあいまって、全体としてさらに大幅な排出ガスの低減が図られる可能性がある。しかしながら、これらの項目の複合的な影響及びその自動車技術との最適な組合せ等についての知見は必ずしも十分ではなく、また、品質項目の変更は我が国の輸入する原油の種類、石油精製設備全体のあり方、軽油・灯油などの各石油製品の需給バランスにも影響することから、今後、より詳細な研究を通じこれら品質項目の改善効果を明確にした上で、中長期的な対策の必要性について検討を行う必要がある。
 以上のことをそれぞれの技術開発の主体が認識した上で、以下に示したところに則り研究・技術開発を進め、平成13年度(2001年度)までに平成19年(2007年)頃における具体的な目標値、燃料品質等を見極めるための知見を収集する必要がある。

 ア.自動車製作者及び触媒等の自動車部品の製作者(以下「自動車製作者等」という。)
にあっては、革新的なディーゼル自動車の排出ガス低減技術の実用化のための技術開発を進める必要がある。この場合、燃料・潤滑油品質については、ウ.で述べる自動車製作者等と燃料生産者の共同研究である「大気改善のための自動車・燃料等の技術開発プログラム」(JCAP)や欧米における同様のプログラム等の成果を利用しつつ、技術開発を行う必要がある。その上で、技術成立のため、あるいは性能の向上のために燃料品質の改善が不可欠であるならば、その改善の内容を具体的に示す必要がある。

 イ.燃料生産者にあっては、海外の燃料品質対策の動向も把握しつつ、軽油中の硫黄
分を一層低減するための精製技術の研究・開発を進めること及びセタン価、蒸留性状、芳香族含有率、密度等に関し、品質改善のための精製技術の研究を進めることが必要である。

 ウ.自動車製作者等及び燃料生産者にあっては、ア.及びイ.の他、自動車技術の改
善と燃料品質の改善の種々の組合せによる排出ガス低減効果についてJCAP等で協調して研究を進め、知見の集積に努めることが必要である。その際、費用対効果の把握にも協調して取り組むことが望まれる。この場合、特に、硫黄分については、酸化触媒や窒素酸化物還元触媒の浄化率及び耐久性等に対する影響について研究を進めることが必要である。

 ②許容限度設定目標値及び達成時期の見極め
 具体的な許容限度設定目標値、達成時期等については、上記の技術開発の状況と費用対効果を把握した上で、軽油中の硫黄分等、必要な燃料品質対策と併せ、また、新たな排出ガス測定方法が設定される場合にはそれに基づき、改めて設定することが適当である。この場合、自動車製作者、燃料生産者それぞれの開発・投資期間等を考慮すると、平成14年度(2002年度)末を目途に決定することが適当である。
 ③排出ガス試験方法の見直し
 排出ガス試験方法については、3.(2)①で述べたとおり、改めて走行実態調査を行い、試験方法の見直しについて必要性も含め検討することが適当である。試験方法を見直す際には、各国・地域独自の試験方法見直しの動向を参考にするとともに、国際的に進行している大型車の排出ガス試験方法の国際基準調和活動に積極的に参画し、我が国の環境保全上支障がない範囲において、可能な限り国際調和を図ることが肝要である。
 ディーゼル自動車の排出ガス試験方法の見直しに当たっては、将来の技術の進展を予測して、窒素酸化物還元触媒、DPF等の新たな排出ガス低減装置の評価に適した試験方法となるよう留意するとともに、コールドスタート時の排出ガス低減を適切に行うための測定方法に関し調査研究を進めることが必要である。特に、現在ディーゼル13モードを適用している大型車の試験方法については、コールドスタート時の暖機過程を再現でき、より新技術の評価に適しているとされる過渡運転の試験方法(いわゆる「トランジェントモード」)の導入を検討する必要がある。その際、現在定常運転のモードにしか対応できない部分希釈・フィルター捕集法による粒子状物質の計測法を過渡運転のモードに適用できるよう研究・開発を進めていく必要がある。
 また、炭化水素については、現在、炭化水素総体の規制値が設定されているが、効果的に大気環境の改善を図るには、有害性や光化学反応性が高い成分をより的確に低減することが重要であることから、非メタン炭化水素又は非メタン有機ガス(非メタン炭化水素にケトン、アルデヒド等の含酸素有機化合物を加えたもの)による規制の導入について、今後、その必要性も含めて検討することが適当である。
 黒煙の測定法については、新短期目標に基づく規制の時点では、4モード全負荷試験及び無負荷急加速試験が行われることとなるが、粒子状物質の対策強化に伴い黒煙のレベルも目に見えないレベルにまで低減することが期待され、測定精度上の問題が生じる可能性もあることから、黒煙の測定法及び黒煙規制のあり方についても、併せて検討することが適当である。



(4)排出ガス削減効果
 環境庁の試算によると、平成6年度(1994年度)の全国の自動車からの大気汚染物質の総排出量は、窒素酸化物が約55万トン、粒子状物質が約6万トン、炭化水素が約25万トンと推定される(特殊自動車及び二輪車を除く。)。このうちディーゼル自動車の総排出量とその割合は、窒素酸化物が約41万トンで約75%、粒子状物質が約6万トンで約100%、炭化水素が約14万トンで約56%である。
 以下、ディーゼル自動車については本報告の3.(2)で示した新短期目標及び3.(3)で示した新長期目標、ガソリン・LPG自動車については第二次答申で示された新短期目標及び新長期目標に基づく対策による効果を種々の仮定の下に試算した。

 (自動車からの総排出量の削減)
 ① 自動車保有台数や交通量等が平成6年度と同じと仮定し、対象となるディーゼル
自動車がすべてディーゼル新短期目標に基づく規制の適合車に代替した場合、平成6年度と比較して、自動車からの総排出量は、
   ・窒素酸化物で約42%(約55万トン→約32万トン)
   ・粒子状物質で約75%(約6万トン→約1.5万トン)
   ・炭化水素で約36%(約25万トン→約16万トン)
削減される。
 ガソリン新短期目標による削減効果と併せて試算すると、平成6年度と比較して、自動車からの総排出量は、
   ・窒素酸化物で約56%(約55万トン→約24万トン)
   ・炭化水素で約68%(約25万トン→約8万トン)
削減される。

 ② 自動車保有台数や交通量等が平成6年度と同じと仮定し、対象となる車両がすべ
てディーゼル新長期目標及びガソリン新長期目標に基づく規制の適合車に代替した場合、平成6年度と比較して、自動車からの総排出量は、
   ・窒素酸化物で約78%(約55万トン→約12万トン)
   ・粒子状物質で約88%(約6万トン→約0.7万トン)
   ・炭化水素で約84%(約25万トン→約4万トン)
削減される。

 ③ 自動車保有台数及び交通量の伸び、車種構成の変化並びにガソリン及びディーゼル新長期目標までの各規制の適合車の普及率を推計した場合、平成6年度と比較して、平成22年度(2010年度)の自動車からの総排出量は、
   ・窒素酸化物で約44%(約55万トン→約31万トン)
   ・粒子状物質で約67%(約6万トン→約2万トン)
   ・炭化水素で約52%(約25万トン→約12万トン)
削減される。

 (二酸化窒素濃度の低減)
④ 関東地域の自動車排出ガス測定局のうち3局について、自動車排出ガスを削減した場合の道路沿道の二酸化窒素濃度をその2次生成も含めてモデル計算し、本報告及び第二次答申に基づく対策による環境改善効果を推定した。推定の前提となる気象条件等は、関東地域全域で二酸化窒素が高濃度だった平成6年12月24日のデータを使用し、当日高濃度が観測された測定局を選んだ。

 ア. 交通量、車種構成、ガソリン自動車及び固定発生源からの排出量などが平成6年度と同一と仮定して、走行するディーゼル自動車がすべてディーゼル新短期目標に基づく規制の適合車に代替した場合、道路沿道の二酸化窒素濃度について、
 ・日平均値で12%から28%
 ・日最高値で13%から28%
の環境改善効果が見込まれるとの試算結果が得られた。

   イ. 自動車交通量の伸び、車種構成の変化並びにガソリン及びディーゼル新長期目標までの各規制の適合車の普及率を推計し、平成22年(2010年)の道路沿道の二酸化窒素濃度を試算した。固定発生源からの排出量等は平成6年度と同一と仮定し、低公害車の普及、物流対策、人流対策、交通流対策、局地汚染対策などの諸施策の効果は見込んでいない。その結果、道路沿道の二酸化窒素濃度について、
 ・日平均値で11%から32%
 ・日最高値で13%から35%
の環境改善効果が見込まれるとの試算結果が得られた。

 ウ. なお、窒素酸化物については、
上記ア.の場合で、 
 ・日平均値で19%から39%
 ・日最高値で13%から34%
上記イ.の場合で、
 ・日平均値で20%から45%
 ・日最高値で14%から59%
のように、二酸化窒素の削減率より大きくなっている。

 このように、各種自動車排出ガス規制は、局地大気汚染の改善効果もあることがわかる。また、本モデル計算は関東地域の自動車排出ガス測定局で行ったものだが、他の大都市圏の道路沿道においても二酸化窒素の削減効果は期待できるものと思われる。しかし、いずれの場合も依然として二酸化窒素の環境基準値を超過している地点が残る結果となっており、環境基準達成のためには、自動車排出ガス規制の一層の強化に加え、5.(2)に述べる低公害車の普及促進や各種自動車交通環境対策などの諸施策の推進が必要なことが示唆される。

 以上は、限られた知見に基づき、幾つかの仮定の下で試算を行ったものであることに留意する必要がある。特に、自動車以外の移動発生源、工場・事業場等の固定発生源、各種自然発生源等から排出される粒子状物質、炭化水素等の排出量目録(インベントリー)の精度は未だ十分ではなく、また大気中での二酸化窒素や二次生成粒子等の汚染物質の2次的な生成機構も十分解明されていないのが現状である。今後、これらを含め、各種対策による大気環境の改善効果についてより定量的に評価するため、所要の知見を蓄積するとともに、総合的な対策のあり方について検討することが必要である。



4.ガソリン自動車の燃料蒸発ガス試験に用いる燃料の蒸発性

(1)検討の背景
 ガソリンは、沸点範囲が30~200℃程度の蒸発性の高い液状の石油製品で、その成分は炭素数4から12程度までの炭化水素の混合物である。このため、ガソリン自動車では、燃料貯蔵・供給系統のガソリンが大気中に蒸発しやすく、その蒸発量は気温又はエンジン温度等の上昇に伴い増加する。蒸発した燃料の一部は自動車から大気へ放出されており、燃料蒸発ガスと呼ばれている。ガソリンの蒸発性の指標としては、リード蒸気圧(RVP)があり、RVPが高いほどガソリンが蒸発しやすい。
 燃料蒸発ガスは、
  ・自動車の走行中に自車両や道路からの輻射熱を熱源として排出されるもの(RL)
  ・走行直後の駐車時に自車両を熱源として排出されるもの(HSL)
  ・昼夜を含む長時間の駐車中に外気温を熱源として排出されるもの(DBL)
があげられるほか、給油の際にも発生する。
 燃料蒸発ガス低減対策は、自動車の構造上の対策により排出を抑制するものと、燃料品質上の対策により排出を抑制するものとに分けられる。
 我が国では、自動車について、昭和47年(1972年)からエンジン、キャニスタ等大気開口部から排出される燃料蒸発ガスを捕捉する方法(トラップ法)によりHSL規制(許容限度2.0g/test)を行ってきたところであるが、その他のDBL、RL及び給油時の排出の規制は行われていない。
 燃料品質対策としては、ガソリン中のブタン(C4H10)等の低減によるRVPの低減があげられ、最近その重要性が指摘されているところであるが、我が国においては、現在JIS規格が規定されているのみで、規制は行われていない。
 一方、諸外国においては、走行中、駐車時又は給油時の燃料蒸発ガスの排出を抑制するため、自動車、燃料両面で新たな規制が既に導入され、又は今後導入される方向で検討されている。
 第二次答申においては、HSLに加え、DBLを抑制するため、新たな試験方法を採用することが必要であるとして、ガソリン乗用車及びガソリン軽量車(トラック・バスのうち車両総重量が1,700kg以下のもの)については平成12年(2000年)から、ガソリン中量車(トラック・バスのうち車両総重量が1,700kgを超え3,500kg以下のもの)及びガソリン重量車(トラック・バスのうち車両総重量が3,500kgを超えるもの)については平成13年(2001年)から、ガソリン軽貨物車については平成14年(2002年)から、それぞれ適用すべきこととされた。
 新たな試験方法については、同答申において、

  ①25±5℃の室内温度下において、11モードで走行した後、10・15モードで3回繰り返して走行してから、
  ②HSLについて、27±4℃の室内温度下において、1時間の間にSHED施設内
で発生する炭化水素の質量を測定し、
③DBLについて、24時間の間にSHED施設内で発生する炭化水素の質量の計測
を行うこととし、この場合における室内温度は、測定開始時を20℃とし、35℃ま
で上昇させた後、測定開始から24時間経過した時点において20℃とすること。
が示された。
 ただし、第二次答申では、試験に使用する燃料のRVPの値は試験結果に多大な影響を及ぼすことから、現在のJIS規格(44~78kPa)より範囲を狭めて規定することが適当であり、今後1年程度を目途に決定することとするとされた。
 本委員会では、第二次答申を踏まえ、試験燃料のRVPの値について技術的な検討を行った結果、以下の結論を得た。

(2)試験燃料のRVP
 DBL及びHSLの測定結果は、いずれも温度条件及び試験燃料のRVPの値の組合せの影響を受ける。特にDBLの測定では、第二次答申で決定された温度条件(最高温度35℃、気温の日較差15℃)の下では、24時間の計測を行うため、RVPの値によって燃料タンク内で蒸発する燃料の量が大きく異なる。
 現行の試験方法では、JIS規格に適合する燃料を使用してHSLを測定することとされている。一方、新たな試験方法はDBLを追加しており、RVPの値が極めて低いものを使用すれば、燃料蒸発ガス対策が不十分な車両でも試験に合格することが考えられるため、試験燃料のRVPについて適切な値を設定する必要がある。また、試験方法については、我が国の環境保全上支障がない範囲において可能な限り国際調和を図ることが肝要であることから、諸外国の試験燃料のRVPの値も参考とする必要がある。
 これらを念頭に置きつつ技術的な検討を行った結果、以下の理由から、試験燃料のRVPの値は56kPa以上60kPa以下とすることが適当であるとの結論を得た。
  ① DBLの試験における温度が最高気温35℃及び気温の日較差15℃という極めて
厳しい条件の下で、RVPの値が56kPa以上60kPa以下の燃料で試験を実施することにより、キャニスタの吸着能力の増強等の対策が必要となり、これらによって燃料蒸発ガスの排出が効果的に抑制されること。
  ② 試験燃料のRVPを56kPa以上60kPa以下とすれば、国際的な調和も概ね図ることができること。
  ③ 試験燃料の調整・調達を考慮すると、RVPの値の幅が4kPa程度必要であること。

(3)市場に供給される燃料のRVPの低減等
 燃料蒸発ガスの抑制対策としては、自動車構造上の対策だけでなく、燃料の蒸発性を抑えることも有効である。
 当面の燃料蒸発ガス低減対策としては、新たな試験方法の導入に伴い平成12年(2000年)10月以降、自動車構造上の対策が講じられる。一方、我が国で夏期に市場に供給されている燃料の中には蒸発性が高いものも含まれることから、これについても燃料生産者の自主的な取組により対策を講じることが強く望まれる。
 具体的には、平成13年(2001年)夏以降、燃料生産者の自主的な対策として、現行の石油精製設備で対応が可能な限り蒸発性を抑制することとし、
  ①夏期にはRVPの値が72kPaを超える蒸発性の高い燃料の市場への供給を停止するとともに、
  ②燃料全般について可能な限りRVPを低減すること。
が強く望まれる。
 なお、第二次答申では中長期的な燃料蒸発ガス低減のための課題が示されており、それに沿って、DBLの測定時間の延長、RLの測定の導入等について今後とも検討するとともに、夏期に供給される市場の燃料のRVPを一層低減することについても引き続き検討を進める必要がある。



5.今後の自動車排出ガス低減対策の考え方

(1)今後の検討方針
 本委員会は、第二次答申で示された検討方針に沿って自動車排出ガス低減対策全般にわたって検討を行い、本報告を取りまとめた。第二次答申及び本委員会第二次報告の検討課題のうち、結論が得られたものは以下のとおりである。

 ・ディーゼル自動車については、元年答申に示された目標達成後の新たな排出ガス低減目標を検討し、当面の目標(新短期目標)及び中長期的な目標(新長期目標)の二段階に分けて策定した。新短期目標の実施に際しては、黒煙測定方法の一部を見直すとともに、ブローバイガス低減対策を導入することとした。また、新長期目標の実施に際しての、自動車構造対策及び燃料品質対策の検討の方向性並びに自動車排出ガス試験方法の見直しの方向性を示した。

 ・ガソリン自動車については、第二次答申に基づく燃料蒸発ガス低減対策に係る試験燃料のRVPを決定した。また、市場に供給される燃料については、当面の対策として、燃料生産者の自主的取組によるRVPの低減の方向性を示した。

 本報告に基づく対策を進めることにより、ディーゼル自動車単体からの窒素酸化物、粒子状物質、炭化水素及び一酸化炭素の排出量並びにガソリン自動車単体から燃料蒸発ガスとして排出される炭化水素の排出量は相当程度低減することが期待される。
 しかしながら、本委員会の第二次報告で指摘したとおり、自動車保有台数や交通量等の伸びが将来においても予測されることから、今後とも自動車環境対策の一層の推進が必要であり、本委員会としても、引き続き自動車排出ガス低減対策のあり方全般について検討することとしている。なお、その場合には、大気汚染状況の監視を継続しつつ、大気汚染物質の生成メカニズムの一層の解明と、自動車排出ガス低減対策による環境改善効果の把握が行われることが重要である。
 本委員会としては、具体的には以下の事項について検討を行うこととしている。

(短期的な課題)
① 二輪車については、中間答申で示された低減目標への対応状況、技術開発の進展の可能性及び各種対策の効果を見極め、必要に応じて新たな低減目標について検討する。その際、燃料蒸発ガス規制の導入及びコールドスタート要件の見直し等を含め検討する。
② ディーゼル特殊自動車のうち定格出力が19kW以上560kW未満のものから排出される黒煙の測定方法及び許容限度設定目標値については、第二次答申で示された目標の達成時期に併せて試験が実施できるよう、早急に検討を進める。

③ 特殊自動車のうち、現在排出ガス低減目標が設定されていない、ディーゼル特殊自動車であって定格出力が19kW未満のもの及び560kW以上のもの並びにガソリン・LPG特殊自動車について、大気汚染状況、排出寄与率の推移、排出ガス低減技術の開発状況等を見極めつつ、必要に応じて排出ガス規制の導入について検討する。

(中長期的な課題)
④ ガソリン・LPG自動車については、第二次答申に基づき平成12年(2000年)から14年(2002年)にかけて実施される次期規制(以下「ガソリン新短期規制」という。)への対応状況、技術開発の進展の可能性及び各種対策の効果を見極め、同じく第二次答申に基づき平成17年(2005年)頃を目途に予定されている次々期の規制(以下「ガソリン新長期規制」という。)の具体的な目標値、達成時期等を設定する。その際、目標値は、試験方法が見直される場合にはそれに基づき設定することとし、また、4.(3)で報告したとおり、燃料蒸発ガス対策に係る試験方法についてDBLの延長、RLの導入等を検討する。

⑤ ディーゼル自動車については、本報告の新短期目標に基づき平成14年(2002年)から16年(2004年)にかけて実施される次期規制(以下「ディーゼル新短期規制」という。)への対応状況、技術開発の進展の可能性及び各種対策の効果を見極め、本報告の新長期目標に基づき平成19年(2007年)頃を目途に予定されている次々期の規制(以下「ディーゼル新長期規制」という。)の具体的な目標値、達成時期等を設定する。その際、目標値は、排出ガス試験方法が見直される場合にはそれに基づき設定することとし、また、3.(2)①及び3.(3)③で報告したとおり、コールドスタート時の排出ガス低減についても検討する。

⑥ 燃料・潤滑油品質については、国、自動車製作者、燃料生産者等がそれぞれ協力して自動車技術の改善と燃料品質の改善の種々の組合せによる排出ガス低減効果についての研究を推進し、その結果を踏まえて、ガソリン新長期規制及びディーゼル新長期規制に必要な燃料・潤滑油品質対策のあり方を検討する。現時点で明確な検討課題は、4.(3)及び3.(3)①で報告したとおり、ガソリンについては夏期に市場に供給される燃料のRVPの一層の低減、軽油については硫黄分の一層の低減及びセタン価、蒸留性状、芳香族含有率、密度等の諸品質項目のあり方である。

⑦ ガソリン・LPG自動車及びディーゼル自動車の排出ガス試験方法については、走行実態調査など所要の調査を行い、その結果を踏まえ、試験方法の見直しについて必要性も含め検討する。
 その際、第二次報告で指摘したとおり、コールドスタート時の排出ガス低減対策、寒冷地における冬期の一酸化炭素低減対策、トラック・バスの試験車重量やエアコンディショナーの使用等が排出ガスに及ぼす影響、パワーエンリッチメントの実態、新たに導入される排出ガス低減装置の特性等も踏まえた上で、排出ガス性能の適切な評価方法について検討する。
 また、ガソリン又はディーゼル13モードを現在適用している大型車の試験方法については、トランジェントモードの導入についても検討を行う。
 さらに、ディーゼル自動車の粒子状物質については、過渡運転にも対応できる部分希釈・フィルター捕集法による粒子状物質の測定法の開発も進めるべきである。また、黒煙測定法のあり方についても併せて検討する。

⑧ ディーゼル特殊自動車のうち定格出力が19kW以上560kW未満のものについては、第二次答申に基づき平成16年(2004年)から開始される規制への対応状況、技術開発の進展の可能性及び各種対策の効果を見極め、必要に応じて新たな低減目標について検討する。

 なお、以上の課題についての検討及び対策の実施に当たっては、自動車が国際的に流通する商品であって排出ガス低減対策にも内外で共通の要素が多いことにかんがみ、我が国の環境保全上支障がない範囲において、可能な限り基準等の国際調和を図ることが肝要である。この場合、必要に応じて測定機器・設備の仕様の調和から始め、次いで試験条件・試験方法についての調和、更には規制レベル・規制時期等の調和といった段階的なプロセスを経ることも考慮しつつ、可能な範囲で国際調和を図るべきである。これにより、
  ・自動車製作者においては、研究・開発の効率化、部品の共用化による開発・生産ストの削減
  ・自動車使用者においては購入価格の低減
などのメリットが得られることとなる。

 最後に、大気環境の維持・改善を図るためには、以上の自動車単体からの排出ガス低減対策の推進のみならず、総合交通対策、固定発生源対策を含めた各種対策を、その費用対効果も把握しつつ、総合的に推進することが重要であることを指摘しておきたい。
(2)関連の諸施策
 本報告で示した対策と相補う施策として、低公害車の普及促進や各種自動車交通環境対策等、以下の関連諸施策が今後行われることが望まれる。

(低公害車の普及促進)
 低公害車の普及に係る税制優遇、補助、「国の事業者・消費者としての環境保全に向けた取組の率先実行のための行動計画」等の既存の諸施策を引き続き推進するとともに、低公害車の大量普及のための制度的方策を検討する等、低公害車の大量普及に向けた社会環境づくりを推進する必要がある。
 また、乗用車、軽貨物車及びトラック・バスのうち車両総重量3,500kg以下のものについては、第二次答申に基づき「低公害車排出ガス技術指針(平成7年6月大気保全局長通知)」を改定し「低公害車等排出ガス技術指針」を策定したところであるが、本報告でディーゼル新短期目標を示したことに伴い、トラック・バスのうち3,500kg超えのものについても同指針を見直す必要がある。さらに、同指針の見直しに伴い、自動車の低公害性の評価手法及び表示手法を確立する等、低公害な自動車の普及促進のための所要の措置を早急に講じる必要がある。

(各種自動車交通環境対策の推進)
 第二次答申や本報告に基づく対策により自動車1台当たりの排出ガスの量は今後大幅に低減することとなる。しかしながら、過去に見られたような交通量等の大幅な伸びが続く場合には、自動車総体としての排出ガス削減効果が減少すると見込まれるので、以下の各種自動車交通環境対策を推進する必要がある。
 第二次答申で示されたとおり、物流(貨物輸送)及び人流(旅客輸送)の効率化を図ることによる自動車走行量の抑制、交通流の円滑化等を一層強力に推進するとともに、アイドリングストップなどの普及啓発活動を推進することによる、自動車の運転・使用又は交通機関の利用の際の自動車排出ガスの排出を抑制するための国民一人一人の努力を促す幅広い取組の推進や、地方自治体の自動車公害防止計画策定などの地域レベルでの総合的な施策の推進を図ることが必要である。さらに、このような種々の対策の推進に当たっては、適切な経済的手法の活用についても検討を進める必要がある。

(使用過程の排出ガス性能維持方策)
 第二次答申で示されたとおり、ガソリン・LPG自動車及びディーゼル自動車等の使用過程車全般について、今後とも、点検・整備の励行、車検及び街頭検査時における排出ガス低減装置の機能確認等により、使用過程において良好な排出ガス性能を維持させることが重要である。また、通常の使用過程において排出ガス低減装置の性能維持の状況を把握するため、抜取り検査(サーベイランス)の導入等の方策について、必要性も含め検討することが望ましい。

(コスト負担等)
 今回の報告に基づき排出ガス低減対策を推進していく過程では、車両価格、燃料価格、エンジン耐久性、燃費、維持費等への影響が考えられるが、これらは自動車の利用に係る費用として自動車・燃料の生産者、使用者等のそれぞれが応分に負担する必要がある。
 なお、最新規制適合車への移行や燃料の品質改善を円滑に推進するためには、金融・税制面における配慮も必要であることを指摘しておきたい。

(未規制排出源の排出実態調査及び対策)
 第二次答申で示されたとおり、各種未規制の排出源について排出実態の調査及び対策の必要性の検討を進めるとともに、対策実施のための制度のあり方について検討する必要がある。

(地球温暖化対策)
 第二次答申で示されたとおり、低排出ガス技術と低燃費技術とが両立する方向への技術開発が必要である。
 また、平成9年(1997年)12月のCOP3で採択された京都議定書では、二酸化炭素に加え、他の温室効果ガス5種類についても排出削減が求められていることを踏まえ、自動車から排出される温室効果ガスのうち、二酸化炭素以外のメタン及び一酸化二窒素について、今後、排出実態の把握及び生成メカニズムの解明を行うほか、窒素酸化物、炭化水素等と併せて排出低減技術等について調査研究し、排出抑制を図ることが強く望まれる。

(有害大気汚染物質対策)
 本報告でも述べたとおり、自動車から排出されるベンゼン等の有害大気汚染物質については、既に規制対象となっている炭化水素及び粒子状物質といった多成分混合物質の規制強化により、その排出低減が図られているところである。
 一方、有害化学物質対策の新しい手法であるPRTR(環境汚染物質排出・移動登録)の制度化が我が国でも現在検討されている。これは、事業者の報告等に基づき、工場・事業場等からの有害化学物質の排出量を把握し、化学物質による環境への負荷の低減に資することを目的とするもので、これまでパイロット事業等が進められてきている。有害化学物質の環境中への排出量を総体として把握するには、工場・事業場等からの排出量の把握に加え、自動車を含むその他の発生源からの排出量を把握する必要がある。
 自動車からの有害大気汚染物質の排出量については、一部の物質を除き測定法は確立しておらず、測定例もごく僅かで精度の良い排出原単位が存在しない状態にあるが、今後、測定法の開発及び測定精度の向上を図り、データを蓄積して排出原単位の整備を進めることにより、自動車からの排出量把握のための基盤を整備することが望まれる。





ディーゼヮゥ動車に係わる許容限度設定目標値(新短期目標)


ディーゼル自動車の耐久走行距離
自 動 車 の 種 別 耐久走行距離
軽油を燃料とする普通自動車及び小型自動車であって、専
ら乗用の用に供する乗車定員10人以下のもの(二輪自動車を
除く。)及び車両総重量が3,500kg以下のもの(専ら乗用の用
に供する乗車定員十人以下のもの及び二輪自動車を除く。)
80,000km
軽油を燃料とする普通自動車及び小型自動車であって、車
両総重量が3,500kgを超え8,000kg以下のもの(専ら乗用の用
に供する乗車定員10人以下のもの及び二輪自動車を除く。)
250,000km
軽油を燃料とする普通自動車及び小型自動車であって、車
両総重量が8,000kgを超え12,000kg以下のもの(専ら乗用の
用に供する乗車定員10人以下のもの及び二輪自動車を除く。
450,000km
軽油を燃料とする普通自動車及び小型自動車であって、車
両総重量が12,000kgを超えるもの(専ら乗用の用に供する乗
車定員10人以下のもの及び二輪自動車を除く。)
650,000km

軽油を燃料とする普通自動車及び小型自動車であって専ら乗用の用に供する乗車定員10人以下のもの(二輪自動車を除く。)

自 動 車 の 種 別 許容限度設定目標値(平均値) 測定の
方 法
窒素酸化物 炭化水素 一酸化炭素 粒子状物質
等価慣性重量が1,250kg以下のもの 0.28g/km 0.12g/km 0.63g/km 0.052g/km 10・15
モード
等価慣性重量が1,250kgを超えるもの 0.30g/km 0.12g/km 0.63g/km 0.056g/km 10・15
モード



軽油を燃料とする普通自動車及び小型自動車(専ら乗用の用に供する乗車定員10人以下のもの及び二輪自動車を除く 。)
自 動 車 の 種 別 許容限度設定目標値(平均値) 測定の
方 法
窒素酸化物 炭化水素 一酸化炭素 粒子状物質
車両総重量が1,700kg以下のもの 0.28g/km 0.12g/km 0.63g/km 0.052g/km 10・15
モード
車両総重量が1,700kgを超え2,500kg以
下のもの
0.49g/km 0.12g/km 0.63g/km 0.06 g/km 10・15
車両総重量が2,500kgを超えるもの 3.38g/kWh 0.87g/kWh 2.22g/kWh 0.18g/kWh ディーゼル
13モード




中央環境審議会大気部会自動車排出ガス専門委員会及び同作業委員会名簿
区 別 氏 名 所  属 作 業
委員会
委 員 長
特別委員
池上 詢 京都大学大学院教授
委員 松下 秀鶴 静岡県立大学名誉教授
専門委員 阿部 次雄 交通安全公害研究所交通公害部長
指宿 堯嗣 資源環境技術総合研究所大気圏環境保全部長
河野 通方 東京大学大学院教授
坂本 和彦 埼玉大学大学院教授
大聖 泰弘 早稲田大学理工学部教授
長江 啓泰 日本大学理工学部教授
福間 康浩 (財)日本自動車研究所理事
御園生 誠 東京大学大学院教授
村田 隆裕 科学警察研究所交通部長