環境基本計画の進捗状況の第2回点検結果について(報告)

中環審第111号
平成9年6月9日

内閣総理大臣
     橋 本 龍太郎 殿

中央環境審議会会長
近 藤 次 郎


環境基本計画の進捗状況の第2回点検結果について(報告)

 環境基本計画の第4部「計画の効果的実施」の第5節「計画の進捗状況の点検及び見直し」の規定に基づき、当審議会は、環境基本計画策定後の施策の進捗状況等を点検し、今後の政策の方向について、別添のとおり結論を得たので報告する。
 点検に当たっては、国の施策の進捗状況のみならず、環境基本計画に沿って、地方公共団体、事業者、国民等の社会を構成する各主体が行っている取組について調査するとともに、国民各界各層に対する公開のヒアリング、郵便・FAX等による意見の受付を行った。
 本年は、国連環境開発特別総会、地球温暖化防止京都会議等の環境に関する国際会議が相次いで開催される重要な年であり、政府においては、本報告を踏まえ、地球温暖化対策を始め環境保全の取組を一層推進されることを強く期待する。


環境基本計画の進捗状況の第2回点検結果について

基本認識
 
(環境政策の節目の年)
 本年は、6月の国連環境開発特別総会、12月の気候変動枠組条約第3回締約国会議(地球温暖化防止京都会議)等、環境に関する重要な国際会議が相次いで開催される。これらの会議においては、人類の生存基盤の確保という視点から、環境政策に関する方向性が打ち出されることが期待されており、本年は、これら国際会議を契機とし、環境問題の解決に向けた大きな節目の年となり得ると考えられる。
 
(地球温暖化対策のあり方)
 しかしながら、こうした国際的議論における最重要テーマである地球温暖化問題に関しては、我が国では、地球温暖化防止行動計画の2000年目標の達成が非常に厳しい状況にある。また、我が国は、政府部内の作業が円滑に進まず、結果として、条約締約国会議事務局に対し、国別報告書を期限内に提出できなかった。この現状は、当審議会として重大な問題であると考える。
 
 地球温暖化防止京都会議に向け、我が国がリーダーシップを発揮し、積極的な姿勢を示すことが強く望まれる。その観点からも、地球温暖化防止行動計画の目標達成の新たな決意を示すとともに、一層の努力をすることが必要となっている。
 
 これらの状況も踏まえ、当審議会では、地球温暖化防止京都会議に向け、また、同会議の成果も踏まえ、地球温暖化対策の方針やあり方に関する集中審議を早急に行うこととする。
 
(環境行政のあり方)
 これまでの2回の点検を通じ、環境基本計画に沿って関係各省庁における様々な取組が個別にはかなり行われていることは評価できるが、これらの施策間の連携が十分に図られているとは言えないという点が明らかになった。これは地球温暖化対策や経済的措置の検討の分野などにおいて少なからず見受けられる。
 
 環境行政に最も期待されているのは、各省庁が行う環境の保全に関する施策を、環境基本計画に基づき、総合的かつ計画的に行われるようにすることである。そのためには、各省庁の施策間の連携が十分図られるよう論点を整理・分析するとともに、各種施策を統一的な方針に基づき体系化し、各省庁が十分な連携を図りつつ、政府が一体となって強力に推進することが必要であり、環境の保全に関する行政を総合的に推進することをその主たる任務とする環境庁に求められる役割は大きい。
 
 このため、当審議会としては、環境行政推進のための仕組みについて検討することとする。
 
 
全般的評価
 
(国の取組の進展)
 平成8年6月の第1回点検報告以降、国の取組として、法制度面で次のような進展が見られたことは、評価できる。
 
環境影響評価法
 環境影響評価制度の在り方について、平成9年2月、当審議会において、法制化に向けた答申を取りまとめ、内閣総理大臣に提出した。この答申を受けて、大規模な開発事業の実施に当たり、環境の保全について適正な配慮がなされることを確保するための環境影響評価法が、6月に成立した。  
南極地域の環境の保護に関する法律
 平成3年に採択された「環境保護に関する南極条約議定書」を受け、南極地域における各種行為制限や活動計画の確認等を内容とする法律が、5月に成立した。 
廃棄物の処理及び清掃に関する法律の改正案
 廃棄物の適正な処理を確保するため、廃棄物処理施設の設置許可の要件等の明確化、不法投棄の罰則強化等を内容とする改正案が、3月に閣議決定、国会に提出された。 
新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法
 新エネルギーの利用等を促進するため、基本的取組体制を明確化する基本方針の策定、事業者支援等を内容とする法律が、4月に成立した。
  
 今後は、これらの法律の制定とその適正な運用により、環境への負荷低減の成果を挙げることが求められる。なお、第2回点検の重点審議項目ではない廃棄物・リサイクル対策については、第1回点検報告で示した課題のうち、残されたものもあり、今後、今回の法律の改正も踏まえ、廃棄物・リサイクルを一体としてとらえた総合的な対策の実施が必要である。
 
(重点審議項目における課題)
 第2回点検では、環境基本計画の主要項目については見直しまでに少なくとも1回は重点審議項目とするとの方針に基づき、以下の6項目を選定しこれらを中心に点検を行った。なお、平成9年1月のタンカー事故による重油流出を踏まえ、「海洋環境の保全」をその他として項目に加えた。点検の結果、地球温暖化対策の強力かつ効果的な推進を始め、地球温暖化問題や大気汚染問題を踏まえた都市構造や交通体系の総合的なあり方についての検討、里地を中心とした各省庁の施策の有機的連携など、それぞれの課題を指摘した(4ページ以降に重点審議項目ごとに記述。)。これらの課題の解決に向け、環境庁の総合調整により政府内の連携を一層図りつつ、政府一体となって対策を実施することが強く求められる。
 {1}地球温暖化対策
 {2}大気環境の保全
 {3}化学物質の環境リスク
 {4}自然と人間との共生
 {5}環境への負荷を低減していくための経済的措置
 {6}調査研究、監視・観測等の充実、適正な技術の振興
 {7}その他(海洋環境の保全)
 
(施策の効果)
 また、今回実施した省庁ごとの取組状況ヒアリングの結果を見ても、多くの施策が実施されている中で、依然としてその個別施策の効果が必ずしも明らかではなく、全体としての施策の評価が困難な状況にあるということが明白となった。このため、政府においては、引き続き、個別施策の効果の把握に努めるとともに環境基本計画の長期的な目標の達成状況や目標と施策との関係等を具体的に示す総合的な指標の開発等に努める必要がある。
 
(各主体の取組状況)
 なお、地球温暖化問題をはじめとする環境問題の解決に向け、地方公共団体、事業者、国民等の各主体の果たすべき役割は大きく、積極的な行動が期待されるところであるが、第2回点検により把握した各主体の取組等の状況は、概ね次のとおりである。
 
一部の都道府県等において地球温暖化対策、大気環境保全、経済的措置等の課題に率先的に取り組む例がみられ、市町村等への一層の拡がりが期待される。
事業者の環境保全に関する認識や取組は概ね前進しており、今後は環境保全上の実際の効果が問題となる。また、消費者の立場としての事業者の取組は遅れている。
国民の環境問題への関心は高く、特に地球レベルでの環境が悪化していると実感しているが、個人の環境保全活動の取組は必ずしも高いレベルとは言えない。個人ベースでは、自分からやらなくてはという取組への切迫感がなく、環境保全行動が国民の総意となっていない。
ブロック別ヒアリングや郵便等による国民の意見によれば、廃棄物・リサイクル対策、自然と人間との共生、環境教育などへの関心が高い。国から国民への情報提供や働きかけを求める意見もみられた。
 
 
1.地球温暖化対策
 
<取組状況>
 地球温暖化防止京都会議において、先進国の2000年以降の温室効果ガスの排出量の数量化された抑制・削減目的等についての議定書又は他の法的文書を採択することを目指して、国際的交渉が進められており、平成9年3月のベルリンマンデートアドホックグループ会合では、今後、地球温暖化防止京都会議を目指して進められる本格的交渉の土台となる文書がまとめられた。
 我が国の二酸化炭素排出量の推移は、各年の気象等の影響による変動はあるものの、近年増加基調にあり、その傾向は国民のライフスタイルに密接に関連する民生、運輸部門においてより高い伸びを示している。地球温暖化防止行動計画に掲げた2000年目標の達成は、なお非常に厳しい状況にあるが、その達成に向けて各種の対策が実施された。例えば、「2000年に向けた総合的な省エネルギー対策」(平成9年4月)が取りまとめられたほか、環境問題への適切な対応を目標の一つとして掲げる「総合物流施策大綱」(平成9年4月)が閣議決定された。また、国民規模の啓発や国民参加の対策についても、「地球温暖化を防ぐ4つのチャレンジ」の推進、夏季・冬季の省エネルギー対策による広報の充実等、対策の強化が行われた。
 地球温暖化問題に主体的に取り組む地方公共団体が増えており、地球温暖化対策を盛り込んだ条例や計画の策定、庁舎内の省エネ等の率先実行的対策、各国の先進自治体との連携等が進められた。また、地球温暖化防止京都会議の成功に向けて、民間団体の活発な活動が進められている。さらに、事業者の自主的取組も行われている。
 
<今後の課題>
 地球温暖化防止京都会議において、地球温暖化防止上効果があり、公平で実行可能な国際約束を円滑に採択できるよう、国際合意の形成に向けて、我が国がリーダーシップを発揮すること。そのため、国際交渉の進展をにらみつつ、数量目的や、各国が対策努力を確実に行うことができるようなレビューメカニズム等の履行確保措置など国際約束の一層具体的な内容に関し、政府のこれまでの検討をさらに発展させること。
 地球温暖化防止行動計画の2000年目標の達成に向け、さらには、その後の一層厳しい対策実施に備え、産業部門はもとより、民生、運輸部門においても、地球温暖化対策をこれまで以上に強力かつ効果的に進めること。特に、「2000年に向けた総合的な省エネルギー対策」「総合物流施策大綱」に基づく施策を着実に具体化するとともに、国の率先実行計画の実施、地方公共団体のモデル的事業の推進、事業者の可能であれば数量目標の設定を含む自主的取組の推進等、各主体が自ら進んで温暖化対策上実効ある取組を進めること。また、規制的措置、経済的措置については、国民的な議論を深め、国民の理解と協力を得るように努めつつ、その拡充や導入について検討すること。
 地球温暖化対策のあり方については、実効性を高める等の観点から、検討を進め、地球温暖化防止京都会議以降できるだけ早い時期に、同会議で採択される議定書の内容も踏まえつつ、地球温暖化防止行動計画の改定の必要性も含め、結論を出すこと。
 地球温暖化防止京都会議の開催を契機に、地球温暖化の深刻さ、対策の緊急性などを国民共通の認識とするとともに、国民各界各層のそれぞれの立場で可能な最大限の取組が実施されるよう、関係省庁、地方公共団体、産業界、民間団体、学界、マスコミ等各方面が相互の連携を強化し、国民規模の普及啓発や国民参加の取組などを進めること。
 地球温暖化対策を今後長期的に進めていく上では、今後の成長に伴う温室効果ガス排出量の増大が見込まれる途上国における対策の実施が必要であり、我が国としても、既存のODAや、共同実施活動のみならず、途上国の対策を技術面、資金面等から促進するための、新たな国際的なメカニズムについて、積極的に検討すること。途上国における対策を進めていくに当たっては、当該国やその周辺地域における持続可能な開発に資する形で、地域の大気汚染や酸性雨の解決等のための途上国との総合的な環境協力の中に温暖化対策を位置づけていくことが有効であり、このような協力の推進方策についても検討すること。
 
 
2.大気環境の保全
 
<取組状況>
 平成9年2月の第4回専門家会合において、「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク構想」の詳細が合意された。
 大気汚染対策は相当程度強力に推進されていると考えられるものの、汚染の状況は大都市地域を中心に依然として厳しい状況にある。
 低公害車の普及も芳しくない状況にある。
 有害大気汚染物質対策の推進に関する各種規定を盛り込んだ改正大気汚染防止法が平成9年4月より施行された。また、ベンゼン等3物質について環境基準が設定された。
 
<今後の課題>
 CFC等の回収・再利用・破壊の一層の促進のため、実効ある対策を展開すること。
 東アジア酸性雨モニタリングネットワークの構築のため、途上国における酸性雨モニタリング体制の整備に対する支援等を進めること。
 自動車排出ガスの単体規制を強化するとともに、自動車NOx法の特定地域内において、平成12年度までの計画目標の達成に向け、総合的な対策を進めること。
特に、低公害車の普及拡大のため、各種支援措置を充実するとともに、外国の先進的な取組も参考としつつ、制度的対応を視野に入れた総合的な施策を検討すること。また、率先実行計画に定められた導入目標の達成に向け、各省庁において低公害車導入計画を策定するなど計画的な導入を進めること。
 浮遊粒子状物質対策として、原因物質削減のための総合的な対策を確立すること。
 現在、未規制の特殊自動車や船舶からの排出ガスについて必要な対策を講ずること。
 有害大気汚染物質対策については、ベンゼン等の指定物質について、事業者の自主的な排出抑制を促す施策を講ずるほか、その他の有害大気汚染物質についても知見の収集に努めること。
 騒音環境基準の評価手法の見直し等を行うこと。
  自動車交通騒音の改善のため、自動車単体規制の強化及び総合的な道路交通騒音対策の推進を図るとともに、新たな騒音評価手法に基づく対策の着実な推進を図ること。
また、新幹線鉄道騒音について、第2次75ホン対策の達成状況を把握した上で、更に75デシベル対策の地域を拡大するとともに環境基準の達成に向けて対策に努めること。
 あわせて、今日の大気汚染問題の態様を踏まえ、都市構造や交通体系の総合的なあり方について、地球温暖化対策も含めた環境保全の観点から検討を行うこと。
 
 
3.化学物質の環境リスク
 
<取組状況>
 化学物質の総合的な環境リスク管理を行うための基礎となる環境リスク評価を一層推進するため、環境庁の体制整備を行った。
 環境汚染物質排出・移動登録(PRTR)の導入に関するOECDの勧告(平成8年2月)を踏まえ、環境庁では、PRTRシステムの導入に当たっての技術的課題について検討している。また、通商産業省では、事業者団体が実施した化学物質排出量調査結果を、化学品審議会リスク管理部会等で報告した。
 ダイオキシン対策について、環境庁では、「ダイオキシンリスク評価検討会」、「ダイオキシン排出抑制対策検討会」において、平成9年5月、ダイオキシン類の健康リスク評価指針値を示すとともに、規制的措置の導入を含めた排出抑制の推進方策等について取りまとめた。厚生省では、「ごみ処理に係るダイオキシン削減対策検討会」を開催し、当面のTDI(耐容一日摂取量)等を踏まえて、平成9年1月、「ごみ処理に係るダイオキシン類発生防止等ガイドライン」をとりまとめた。通商産業省では、産業界におけるダイオキシン類対策の検討を行っている。
 
<今後の課題>
 環境リスク管理施策の検討の基礎として環境リスクの評価を一層推進すること。
 化学物質対策を円滑に進めていくため、環境リスクについての国民、地方公共団体、事業者等関係者間の共通の理解の促進(リスクコミュニケーション)を図ること。
 PRTRについては、平成9〜10年度においてパイロット事業を実施し、その結果を踏まえ、我が国にふさわしいPRTRシステムについて検討を行い、平成11年2月にはOECDに取組状況を報告すること。
 PRTRに関連して一部の事業者団体が自主的に行っている化学物質排出量調査が、より関係者からのコンセンサスを得られ、かつ、他産業を含め幅広く取り組まれるものとなるよう支援していくこと。
関係省庁が連携し、ダイオキシン対策を推進すること。
環境庁の上記検討会での検討結果を踏まえ、ダイオキシン類の排出抑制対策を早急に講じていくこと。
平成9年1月厚生省の検討会がとりまとめたガイドラインを踏まえて、今後も地方公共団体に対し、ごみ処理に係るダイオキシン類の排出削減対策を指導すること。
通商産業省による産業界のダイオキシン排出問題についての検討を踏まえ、早急に産業界における対策を講じていくこと。
 PCBについては、環境リスク管理に係る関係者間の合意形成を図りつつ、処理促進のための具体的取組を進めること。
 
 
4.自然と人間との共生
    −里地等の身近な自然の保全施策を中心として−
 
<取組状況>
 環境庁では、地域における環境保全活動を推進するため、自然の回復・維持や湧水の保全、環境学習等の環境の保全やその適正な利用を行う複数の事業を、地域住民等の参加を得て総合的・計画的に展開するモデル事業や、多様な生きものが生息する身近な自然を回復・整備し、生物生息地のネットワーク化を図るための自然共生型地域づくり事業を平成9年度から実施することとした。また、水辺地や里山林などの里地の自然地域において、希少種の生息・生育地の保全・修復のための技術的手法の検討、及び市民の協力のもとに生息・生育環境の保全・整備を推進するためのモデル事業を、平成8年度より埼玉県大宮市で開始した。さらに、ハードと、情報整備、人材養成等のソフトが一体となった重点的、総合的な自然学習・体験の場の整備を計画的に推進した。
 農林水産省では、ため池、湖沼等を中心とした多種多様な野生生物が生息可能な空間の保全・回復、多様な生物相と豊かな環境に恵まれた農村の形成等を行う農村自然環境整備事業を実施している。
 建設省では、河川環境の保全・創出等により、良好な水辺空間の形成を図っている。
 
<今後の課題>
 これまで里地等に関しては特別の政策的な手当が行われていないが、人間の働きかけを通じて形成された二次的自然を中心としている地域は、環境保全能力の発揮が期待される場として、また生物多様性確保の観点から動物が往き来できるコリドー(生態的回廊)の役割が期待される場として、さらに自然との節度あるふれあいや環境教育等の場として、非常に重要であることを認識すること。
 上記認識を基に、次のような施策を推進すること。
里地等については、環境保全及び自然との共生の観点から、地域ごとの計画の策定を推進すること。この場合、国土の生物地理区分や区分ごとの生物多様性の保全のあり方についての検討の結果も踏まえ、国が地域計画策定のガイドラインを示す必要がある。
関係省庁が一体となって効率的な施策を実現する観点から、里地等において、関係省庁が連携して事業を実施・推進することを検討すること。
里地は、野生生物の生息地としても重要であることから、特に、農林業被害との調整が必要なシカ、サル等について、調査に基づく適正な保護管理を進めること。
里地における森林は、その保全活動を通じて市民参加、環境教育等の場としての役割も果たすものであり、その積極的な保全等を図ること。
 里地等において施策を講ずる際に、地域住民や土地の所有者等の協力が不可欠である。このため、これらの地域の有する意義を改めて明確にし、特に地域住民等が誇りを持って率先的な取組が行えるよう配慮すること。
 
 
5.環境への負荷を低減していくための経済的措置

<取組状況>
 環境庁において、環境負荷低減のための税・課徴金等の経済的措置について基本的な考え方を示すとともに、経済的措置の効果・影響や環境負荷低減のための税・課徴金に関する様々な論点についての考え方を整理した報告書を、平成8年6月に取りまとめた。また、二酸化炭素の排出抑制のための経済的措置に関して、経済的措置の持つ二酸化炭素排出抑制効果やその経済に与える影響等についての経済学的な視点からの調査結果等の報告書を、平成8年7月に取りまとめた。これらを具体的な議論の材料として公表し、国民各界各層との意見交換を進めつつあるところである。
 通商産業省において、気候変動問題に対する今後の取組の在り方の基本的な方向性について検討を行い、その過程で経済的措置の在り方についても検討を行った(平成9年3月)。
 運輸省において、地球温暖化問題への対応方策について検討を行い、その一つとして経済的措置のあり方についても検討を行った(平成9年4月)。
 これまで、関係各省庁において検討が進められてきているものの、必ずしも、個別の議論がかみ合って進められてきていると考えられず、また、国民の議論も大きな盛り上がりを見せていない状況である。
 
<今後の課題>
 人間の活動による環境への負荷をどうやって抑制していくかという観点から、政策のベストミックスの中で環境負荷低減のための経済的措置をいかに活用していくかが大きな検討課題の一つである。そのため、環境政策の幅広い分野にわたりそれぞれの適用分野に応じて、各省庁間の論点の整理・分析をもとに共通の土台に立った議論を行い、我が国の経済に与える影響等も踏まえ、経済的措置の活用の考え方や選択肢を示すとともに、国民的な議論を喚起することが不可欠であり、早急にそのための体制の整備を行うこと。
 
 
6.調査研究、監視・観測等の充実、適正な技術の振興
 
<取組状況>
 環境庁においては、平成8年4月より、「今後の環境研究・環境技術のあり方に関する検討会」を開催し、21世紀を見通した環境研究・環境技術の重要課題等について検討を行っている。
 
 「地球環境保全調査研究等総合推進計画」に基づき、政府一体となって、学際的、国際的な観点から調査研究、監視・観測及び技術開発を総合的に推進している。
 国立機関公害防止等試験研究費や地球環境研究総合推進費等により、引き続き、総合的な調査研究を推進するとともに、平成9年度から未来環境創造型基礎研究を実施することとした。
 平成8年8月に打ち上げられた地球観測衛星「みどり」に搭載された観測センサーの他、静止気象衛星、航空機、船舶等を利用し、オゾン層及びその破壊関連物質、温室効果ガス、熱帯雨林の減少等に関する監視・観測を実施している。
 
<今後の課題>
 IPCC等の活動へ貢献するとともに、国際的な研究計画との連携を確保しつつ、我が国の独創性を示しうる研究を育成・推進するなど、地球温暖化の現象解明、影響の評価及び対策の立案に資する調査研究・技術開発を積極的に推進すること。
 今後、著しい経済発展が予想されるアジア太平洋地域における地球環境研究を積極的に推進すること。
 環境研究に関与している様々な主体の活動を活性化させ、効率や生産性の向上を図るため、情報通信ネットワークの整備、研究者・研究機関等の組織化を図ること。
 地方公共団体の環境研究機関を中心に、地域に根ざした取組を推進すること。
 優れた成果を発信し、我が国の地位に応じた役割を果たすため、我が国の得意な分野に重点的に取り組むこと。また、研究交流や開発途上国に対する研究支援、技術移転を進めるとともに、地球環境戦略研究機関を早急に設置すること。
 科学技術基本計画にも対応し、環境研究・環境技術に充当される資金の拡充を図ること。特に、次世代の環境研究・環境技術の基礎となる研究を重点的かつ競争的に行うための経費を充実すること。
 人的資源の拡充のため、研究者、研究支援者を確保するとともに海外からの人材確保についても考慮する必要がある。また、広い視野をもったプロジェクトマネージャーの育成を図ること。
 環境研究・環境技術の体系的な評価のあり方について検討を行うとともに、成果の普及に努めること。
 環境研究・環境技術の振興を総合的、計画的に行うため、国としての総合的な計画を策定すること。
 
 
7.その他(海洋環境の保全)
 
<今後の課題>
 平成9年1月のタンカー事故による重油流出により、日本海の海洋環境に深刻な影響が生じた。今後、こうした汚染を防止し、海洋環境を保全するため、平時より、海洋環境保全に係わる人材の育成や技術の向上を図るとともに、総合的計画的なモニタリングを進めるなど対策の基礎となる科学的知見の充実を図ること。また、国際的な協力も不可欠であり、北西太平洋地域海行動計画等の枠組みを活用した取組を進めること。