キャンプ・コートニー水域のヒジキに係る補完的調査結果について
(評価書)

平成14年6月
 
 
 
環  境  省
厚生労働省
外  務  省
防衛施設庁

  1. 経  緯
     
     本調査は、昨年7月までに米側によりキャンプ・コートニー水域で実施された海水、土壌、海岸砂、海底堆積物、海藻(ヒジキ)について調査した環境調査の結果を踏まえ、日本側が同水域に生育するヒジキについて補完的に実施したものである。調査は3月9〜29日にかけて那覇防衛施設局が(財)沖縄県環境科学センターに委託し実施したもので、試料の採取は3月11・12日の二日間に行われた。
     調査データは、その後、米側が実施した調査結果と併せて、環境分科委員会のうち関連する日本側委員らによりヒジキの食品としての安全性等について検討が行われてきた。
     本評価書は、その検討の結果をとりまとめたものである。
     
     
  2. 結  果
     
     キャンプ・コートニー水域(キャンプ・コートニーの陸岸から500mの範囲)においてA、B、Cブロック(ただしCブロックは射撃用鉛散弾到達範囲外)、水域外(クレー射撃場跡地から約1.3km)においてDブロックの調査区域を設定(図―1参照)し、各ブロックにおいてヒジキの可食部を採取し、簡単な水洗いをした後、鉛含有量を分析した。
     なお、鉛の分析方法は、食品衛生法「食品、添加物の規格基準」(昭和34年12月28日厚生省告示第370号D各条清涼飲料水の成分規格)に基づき実施した。
     結果は以下の通りであった。
     
    Aブロック  22サンプル  鉛含有量:0.24〜0.12ppm  平均0.15ppm
    Bブロック 10サンプル  鉛含有量:0.17〜0.06ppm  平均0.12ppm
    Cブロック 5サンプル  鉛含有量:検出されず
    Dブロック 5サンプル  鉛含有量:検出されず  
     (定量下限値0.05ppm、サンプルは生ヒジキ(水分量約89%)を使用)
     
     
  3. 考  察
     
    (1)一般的考察
     ヒジキ(Hizikia fusiformis)は日本各地や中国で古くから食用にされていて、仮根を残して夏季に脱落する多年草であり、仮根からの発芽及び受精卵からの発芽によって増殖する。仮根は年々周囲に伸張し、7〜8年間生育する。発芽は秋で、秋〜冬に成長を続け、春になって急速に成長し、60cm〜1mに達する。
     ヒジキは太平洋側では北海道南部から沖縄まで、日本海側では福井以南から長崎、韓国沿岸、中国沿岸に分布する。外洋に面した潮間帯の岩盤上に生育し、平均水面〜−60cm程度に生育する。(『海藻資源増殖学』より)
     海藻の一般として、仮根は岩盤に固着する機能が大きく、栄養塩の吸収等は葉体全体で行う。
     ヒジキには渋味成分があり、そのままでは食用にせず、煮沸後に乾燥して干しヒジキに加工し、醤油、砂糖、大豆、油揚等と共に調理する。カルシウム、鉄分、マグネシウム等が豊富に含まれている。(『海藻の本』)
    我が国のヒジキの漁獲量は平成8年〜12年の5年平均で約8,400トン(平成12年は7,247トン、沖縄での漁獲量は66トン。『漁業・養殖業生産統計年報』)と言われている。
    一方、コンブ、ワカメ、ノリ等を含めた我が国の海藻類の生産量は天然・養殖を合わせて約65万トン(平成12年度)である。因みに「国民栄養調査」では、一人一日海藻摂取量は5.5g/人/日とされており、これから海藻の年間摂取量を推定すると約30万トンとなる。これらの統計量から日本人が摂取するヒジキ消費の海藻全体に占める割合は、通常は1%〜3%程度と考えられる。
     
    (2)調査結果に関する考察
     今回の結果に関し、a.食品衛生上の安全性、b.A,Bブロックのヒジキから鉛が検出されたメカニズムについて以下考察する。
     
     食品としての安全性
       93年FAO/WHO合同食品規格委員会が示した暫定耐容週間摂取量25μg/体重kg/週に基づき食品としての安全性につき検討を加える。
     日本人一人当たりの海藻摂取量は、食生活によって幅があるものの、平成12年度国民栄養調査では全国平均で一日当たり5.5gであった。今回ヒジキから検出された鉛は最大で0.24ppmであったので、食される海藻が全てヒジキと仮定すると、このヒジキからの鉛の摂取量は一日当たり1.32μgとなる。さらに厚生労働省の推定により他の食品からの過去10年間の平均鉛摂取量(36.5μg/人/日:豊田ら、1990〜1999年)及び水道水からの鉛摂取量(5μg/人/日)を勘案すると、全食品からの国民一人当たりの鉛の摂取量は42.82μg/人/日と推計される。これを週間当たり及び体重当たりに換算すると、鉛の摂取量は全体6.0μg/体重kg/週となる。この推計値は暫定耐容週間摂取量と比べ下回っている。
     調査では、提供水域中のA及びBブロックから採取されたヒジキにのみ鉛が検出され、その濃度は0.24〜0.06ppmであった。全国的にヒジキの鉛含有量を調査したものはないものの、公表されている以下のような文献に示されたヒジキの鉛含有量に係る調査結果と比較することは意義がある。
       『食品微量元素マニュアル1985』
        ヒジキ:0.26、1.21、1.75ppm(三重)
      ヒジキ:0.88ppm(大分)
      ヒジキ:0.68ppm(岡山市販)
       『日本土壌の有害金属汚染2001』には海藻類全体の算術平均値が記載。
        海藻類:0.383ppm(サンプル数173)
       これらの文献からすれば、今回検出されたヒジキ濃度は日本人が通常食しているヒジキや海藻類の鉛濃度の範囲内もしくはそれよりも小さいと評価でき、これを長期的に食した場合にも鉛の摂取によって人の健康に影響が生ずるとは考えられないレベルにある。
     
     A,Bブロックのヒジキから鉛が検出されたメカニズム
       一般に水中に生息する生物については、当該生物体内の物質濃度は生息する環境水中のそれよりも高く、両者の比を「濃縮係数(BCF:Biological Concentration Factor)」と称する。濃縮係数は物質毎また生物の種類毎に異なるものである。ヒジキについての鉛の濃縮係数に係る報告はないが、海藻については一般的には1×103 (乾燥状態)という値が国際的に広く使用されている。今回の調査では海水調査は行われなかったが、昨年7月までの米側調査で行った海水調査(1サンプル)では不検出であった。濃縮係数が1×10 (乾燥状態)とすれば、今回の鉛含有量(0.24〜0.06ppm:湿潤状態)から推定される海水中の鉛濃度は0.0024〜0.0006ppm(湿潤状態と乾燥状態の比10)となり、日本の環境基準(0.01ppm)を下回り検出されない可能性が高い。
     ヒジキに限らず海藻への物質濃縮メカニズムについては不明な点が多いが、根から吸収される可能性は少なく、むしろ海水中の極微量の鉛がイオン状になって葉体内に浸透するか、葉体表面に分泌されている粘性物質(ムコ多糖類等)にキレート作用等によって吸着される可能性もある。後者の場合には、ヒジキが通常煮沸・乾燥という加工工程を経て出荷されることから、市場に流通するヒジキの鉛量はより低減されている可能性がある。
     我が国の主要な湾域の底質について、海上保安庁等により鉛などの有害な物質について毎年度定期的な観測が行われている。それによれば湾域の底質中の鉛濃度は12〜78μg/g(乾燥重量比)であるが、昨年7月までの米側調査結果は40〜79μg/g(乾燥重量比)であった。
     従って、今回の調査で検出されたA,Bブロックのヒジキ中の鉛は同水域内の底質中の鉛が海水中に極微量イオン状に溶出し、ヒジキの葉体内に浸透又はキレート作用によって表面の粘性物質に吸着し、濃縮されたものと推定される。
     
      
  4. 評  価
     
     A及びBブロックのヒジキから検出された鉛の含有濃度(0.24〜0.06ppm)と日本人一人当たりの平均的な海藻の摂取量(5.5g‐全量をヒジキと仮定)を用いて計算した鉛の摂取量に、他の食品及び飲料水経由の鉛の摂取量を加え試算した体重当たりの鉛の週間摂取量(6μg/体重kg/週)は、FAO/WHO合同食品規格委員会が93年に示した鉛の暫定耐容週間摂取量※(25μg/体重kg/週)を下回った。
     また、今回ヒジキから検出された鉛の含有濃度は、これまでの文献などに示されているヒジキや海藻類に含まれる鉛の濃度の範囲内もしくはそれ未満であった。
     従って、食品衛生上の観点では、人の健康に影響を与えるものではないと考えられる。
     
    暫定耐容週間摂取量:認められるような健康上のリスクを伴わずに、人が生涯にわたり週に摂取することができる体重1kg当たりの量(暫定として設定)

 (参考)
 昨年7月までの米側調査ではヒジキ含有鉛量は2.5〜1.0ppmの範囲にあったが、米側調査におけるサンプルは生ヒジキを煮沸せずに乾燥させたヒジキ(乾燥重量当たりの濃度)を使用したため、生ヒジキを使用した日本側調査(湿重当たりの濃度)と見かけ上差が生じたものと考えられる。ここで生ヒジキにおける水分含有率(約89%)を考慮すれば米側の測定結果と日本側のそれとはほぼ同レベルであったと判断される。

以 上