(別紙)


新宿御苑「環境の杜」構想
 
 

  1. 主 旨
     
     新宿御苑は、明治期に皇室苑地として出発したことに始まる。近代農業振興を目的とする農業試験場(内藤新宿試験場)を経て、明治12年(1879)に宮内省所管の新宿植物御苑が設立された。同39年(1906)には、大規模な庭園造営により現在の体裁が整うとともに、名称も新宿御苑に改められた。
     戦後、御苑は厚生省所管の国民公園として再出発し、国民の利用に供されるようになった。その後所管が環境庁へ移ったが、明治以来の伝統を継承しつつ、都心に位置する緑のオアシスとして国民各層に広く親しまれてきた。
     21世紀を迎えた今、大量消費社会から環境保全型社会へと大きく転換しつつある中、多様な生物との共生や自然とのふれあいなど、人と自然との共生への取組が社会的な課題となっており、平成13年(2001)に発足した環境省の新宿御苑としても、これらの課題に対して一定の役割を担うことが期待されている。
     そのような背景をもとに、環境省では、新宿御苑再生のためのプロジェクトを発足させ、その検討を行ってきた。新宿御苑「環境の杜」構想は、21世紀における御苑のあるべき姿についての指針としてとりまとめられたものである。
     
     
  2. 検討経緯(別添参照
     
     平成12年度には、自然保護局(自然環境局)内に「21世紀における新宿御苑のあり方」について、局内プロジェクト検討会を立ち上げ、そのとりまとめを行った。
     これを踏まえて平成13年度は、6名の有識者検討委員、関係行政機関(東京都、新宿区)及び環境省関係課から構成される有識者検討委員会を組織し、検討を重ねた。
     平成13年4月より5回にわたる検討によって、21世紀の新宿御苑が進むべきみちを新宿御苑「環境の杜」構想として、とりまとめた。
     
     
  3. 新宿御苑「環境の杜」構想
     
     新宿御苑百年の歴史の中で育まれた歴史・文化遺産、植物遺産のもつポテンシャルや都市の緑地としての機能を最大限に活用する。加えて、国民公園新宿御苑として強く求められている役割、すなわち希少植物の保全(保護増殖センター機能の付加)や生物の生息・生育空間の維持・創出等生物多様性を保全する役割、都市型の環境学習の実施や環境情報の発信など環境教育の拠点としての役割等を積極的に担っていくものとする。特に、環境教育については、立地を活かし、苑内の多様な資源を素材として、人材育成・研究・実践が連携した都市型の環境学習のシステム(「環境の杜」自然塾)を構築する。
     これらの施策の有機的連環のもとに、重厚な歴史・伝統と新たな機能との調和が図られた新宿御苑全苑を「環境の杜」と位置付けるものである。御苑誕生百年を機に新たな国民公園新宿御苑として再出発しようとするものである。
     
     
  4. 新宿御苑「環境の杜」構想のポイント
     
    (1) 歴史・文化遺産、植物遺産の評価及び継承
     (1)‐1歴史・文化遺産の継承
     フランス式整形庭園、イギリス風景式庭園、日本庭園の三様式から成る庭園は、明治期以来の歴史を持ち、様式の点では他に例を見ない独特の形態を有する。庭園をはじめ、歴史的建築物、伝統菊の展示技術等について、適正な評価とそれに基づく適切な継承を図る。
     →  遺産の適正な保全(文化財指定?)、環境教育の素材の発掘
     
     (1)‐2植物遺産の継承
     その伝統や沿革の点で特筆すべき植物である、ユリノキ、イチョウ、ケヤキなどの巨樹・巨木、またラクウショウ、ハクモクレン、サクラなどの名木、さらにプラタナスなど後継木育成が必要な外来母樹等、御苑作出のラン等の温室栽培植物について、適正な評価とそれに基づく適切な継承を図る。
     遺産の適正な保全、環境教育の素材の発掘
     
    (2) 都市の緑地としての機能の維持・確保
     (2)-1利用機能の維持・確保
     御苑は、散策、観賞、レクリエーションなど都市住民への安らぎや癒しの場を提供している。今後、利用者の過度集中への対応、柔軟な開苑時間の設定、少子高齢化社会に配慮したレクリエーション・健康づくりの場、御苑内施設のバリアフリー化など、憩いの場としての機能を充実させる。
     適正な緑地の管理と施設整備
     
     (2)‐2存在機能の維持・適切な対処
     御苑の緑地は、ヒートアイランド現象の緩和など都市気象の調節、CO2の固定、大気の浄化、独特の都市景観の形成等様々な機能を保有しており、その機能の維持を図る。その存在機能をより科学的に解明するため、専門家にフィールドとして提供する。
     また、広域避難場所の指定を受けていることから、地域住民の安心・安全のために要請に応じて適切な対処が求められている。災害時の受け入れに際しても、貴重な遺産を継承する責務を考慮に入れつつ、被災状況に応じた対応マニュアルを策定するとともに、現在の基幹設備の状況を調査し、必要に応じ計画的な補完を図るものとする。
     関係専門家の糾合(賢人会議の創設)、環境教育の素材の発掘、
     施設管理方針とインフラ整備
     
    (3) 環境という視点からの積極的な施策展開
     (3)‐1生物多様性保全のための機能の創出
     第一に、これまで培われた希少植物の栽培技術(現在ムニンノボタン、ムニンツツジなど約72種のRDB種を栽培)及び温室や圃場施設を活用し、種の保存法(絶滅の恐れのある野生動植物の種の保存に関する法律)上の国内希少野生植物種(ハナシノブ、キタダケソウなど)について、絶滅の危険を分散するための複数地栽培の一単位として、また、個体数の少ない種の増殖の場としての活用を図る。
     そのために、老朽化した既存温室の建て替えや冷温室の新設を行うとともに、生物多様性センター、植物園等、各機関・団体と連携、役割分担し、生物多様性情報の提供や技術の交換等に努める。
     植物版保護増殖センター機能の付加、環境教育の素材の発掘
     新・生物多様性国家戦略第4部第2章第1節に対応
     
     第二に、御苑の広大な敷地は都市内では貴重な生物の生息・生育空間としても優れていることを考慮し、その維持、回復及び創出を図る。歴史・文化遺産等の継承に配慮した保全計画をたて、特に母と子の森や日本庭園を中心としたエリアについては、武蔵野の里地・里山林のイメージで再整備(メダカ、トンボ、ホタルなどの住み易い環境の創出)を図る。
     また、近隣の緑地(明治神宮ほか)と行き来していると思われるオオタカ、オオコノハズク、オシドリなど大型の鳥類の生息環境を守るために、都心の緑を結ぶ生物の生息・生育空間のネットワーク形成についても検討する。
     管理保全計画の策定、環境教育の素材の発掘
     自然再生ネットワークの中核的役割
     
     (3)-2環境教育の拠点ー「環境の杜」自然塾
     優れた立地や多様な資源を活用し、環境情報を都心において発信する場、また広く人と自然のかかわりや歴史を学ぶ場、すなわち環境教育の拠点―「環境の杜」自然塾として機能するために一連の施策を展開する。
     第一に、環境教育の拠点としての機能を果たすため、既存の取組みを基礎としつつも、利用・参加層(学校、シニア団体等)が多岐にわたることを想定し、[1]これに応じた総合的な環境学習のプログラムを研究・開発し、[2]既存の自然観察会や講座の総合化・常設化を図る。また、[3]これらの運営を支えているインタープリター、ボランティア等の研修・研鑽など人材育成の場としても活用を図る。これら三つの機能を一つのシステムにとして連環させることにより高い効果を発揮することを期待する。
     第二に、そのシステムを支えるために、既存のインフォメーションセンターを含めインフォメーション機能の充実・強化を図る。[1]既存のインフォメーションセンターは、苑外の人を対象として遠隔地の国立公園など環境省の諸施策の展示やリアルタイム情報、資源循環等、環境保全型社会形成のための普及・啓発に資する情報を発信する場とする。[2]加えて、第2インフォメーションセンターを新設し、これを中心に休憩所等に情報サテライトを配置し、苑内の随所で円滑に情報提供が受けられるようなシステムを構築する。特に第2インフォメーションセンターは、「環境の杜」自然塾の基盤を担う施設として位置づけ、展示、案内機能のほか、研修・研究機能も兼ね備えたものとする。
     環境教育の拠点ー「環境の杜」自然塾
      
     
  5. 平成14年度の事業予定
     
    予算項目 新宿御苑「環境の杜」基本計画策定調査費
    事業概要
     [1] 有識者検討委員会の運営
    [2] 基盤的調査
    歴史・文化遺産、植物遺産など諸資源の現況を把握し、評価するための調査
    自然環境調査(樹木、動物、水質など)及び国有財産台帳情報の電子化(GIS化・データベース化)
    [3] 計画策定調査
    生物多様性保全の場としての機能を創出するための調査
    環境教育の場としての役割及び位置づけに係る調査


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