(別紙)

 

「生態系保全のための化学物質の審査・規制の導入について」の概要
 (平成14年3月・生態系保全等に係る化学物質審査規制検討会報告書)

 
 
1.化学物質の審査・規制への生態系保全の観点の導入の必要性
 
 (1) 化学物質の生態系への影響
国内における化学物質による野生生物や生態系への影響の発現事例として、トリブチルスズ(TBT)化合物の貝類への影響、除草剤や殺虫剤の水生生物への影響などが報告されている。
環境省の環境リスク初期評価パイロット事業や、新規化学物質の審査における限られた情報からの判断などでも、生態毒性が強い物質や生態リスクが高いと考えられる物質がある。
国際的には、生態系に影響を及ぼすTBT化合物等が条約により規制対象とされ、欧州では短鎖塩素化パラフィンやノニルフェノールの用途制限等の対策が進められている。
 
(2) 諸外国における生態系保全の観点からの審査・規制の位置づけ
新規化学物質の審査等を行うよう加盟国に求めているOECDの理事会決定・勧告では、人の健康への影響と環境(生態系)への影響とを同じように位置づけている。
OECD加盟国で新規化学物質の審査・規制制度を有する25か国のうち、環境(生態系)の保全を法の目的に持たず、生態影響試験を事業者に要求できないのは我が国だけである。
 
(3) 我が国における生態系保全のための法的措置
環境基本法の基本理念、環境基本計画の長期的目標(自然との共生)に対応するため、様々な分野の法体系の中で生態系保全措置が実施されており、環境基本計画における化学物質対策の基本的方向として生態系に対する影響の適切な評価と管理の推進が明記されている。
化学物質審査規制法は製品として「表口」から環境に出る物質の事前審査と問題発生の未然防止を行う趣旨から制定された重要な法制度であるが、生態系保全のための法的措置はない。
(4) まとめ
OECD環境保全成果レビューにおける勧告もあり、環境基本法の理念・目標に沿った政策を進め、また国際的に遜色のない化学物質対策を実現し、生態系に影響を及ぼすおそれがある化学物質による環境汚染の防止を図るため、生態系の保全を目的とした化学物質の審査・規制の枠組みを導入することが必要である。
 
2.化学物質の生態系への影響の試験・評価方法
 
(1) 生態影響試験法等の国際的な整備状況
OECDでは、統一的な試験方法であるテストガイドラインや、安全性データの信頼性を確保しデータの相互受理の実効性を担保する優良試験所基準(GLP)を策定している。
米国やEUでは、生態影響に関する各種のデータベースが整備されている。また、米国を中心に定量的構造活性相関(QSAR)による生態毒性の予測が行われている。
 
(2) 海外で用いられている生態影響評価手法
米国、EU、OECD等において、生態影響試験結果をもとにした一定の手法に基づく生態リスク評価が行われており、これらは法的なリスク管理の根拠になっている。
 
(3) 我が国における生態影響試験及び評価の実施状況
我が国でも、環境省において生態影響試験や生態リスク評価が実施されてきている。
(4) まとめ
一般に、食物連鎖を踏まえた代表的な生物種への影響の実験的な把握をもとに生態系への影響が評価されており、試験・評価手法の整備状況や内外の実績を踏まえると、化学物質の生態影響に関する試験及び評価は、我が国でも技術的に実施可能であると考えられる。
 
3.各国の化学物質の審査・規制制度
 
各国の化学物質審査・規制制度を見ると、我が国以外の各国では、人の健康の保護の観点からの審査・規制と、環境(生態系)の保全の観点からの審査・規制の枠組みに特段の差異はない。
各国の制度の特徴は、米国では構造活性相関を活用した審査や用途等の柔軟な規制、EUでは予定上市量による届出項目の差異や表示制度、オーストラリアではリスク評価の概要の公表、カナダではEUと米国の制度の組み合わせなどである。
 
4.生態系保全に係る化学物質の審査・規制のあり方
 
(1) 生態系保全のための審査・規制のあり方
基本的考え方として、製造・使用される化学物質については、事前に生態影響に関する試験・審査を行い、生態系保全に支障を及ぼすおそれがある化学物質については、製造・使用等に関する規制を行う仕組みを導入することが必要である。
生態系保全の観点を導入する際には、現行の化学物質審査規制法の仕組みに必ずしもとらわれずに審査・規制スキームを検討すべきである。
具体的な規制区分は、その物質の生態毒性(ハザード)の評価による規制と、その物質の暴露による生態影響のおそれ(リスク)の評価による規制を組み合わせることが有効である。
規制内容については、現在の製造・輸入の原則禁止や製造・輸入量を制限する方法のほか、対象物質の使用状況等によっては用途の一部を制限する仕組みについても検討すべきである。
現行の化学物質審査規制法で「良分解性」と判定される物質についても、生態系保全のための審査や規制を一律に免除することは適当でなく、何らかの方策を検討することが必要である。
 
(2) 生態影響に関する試験と審査のあり方
基本的考え方として、新規化学物質については、一定の範囲で生態影響試験の実施を求め、生態系への影響について審査することが必要である。また、生態影響試験の要求は段階的なものとし、試験動物愛護や企業負担に留意した合理的なものにすべきである。
化学物質の生態影響に関しては水生生物を対象とする試験法を重視することが適当である。現状では、藻類(生産者)、ミジンコ類(一次消費者)、魚類(二次消費者)を対象とした急性毒性試験を基本的な試験として位置づけることが適当というのが大方の意見であり、また、対象物質の特性等に応じ、必要がある場合には追加的な試験を求めるという考え方が適当である。
生態影響試験を導入する場合には、GLP制度を設け、新たに行う試験についてはGLPを満たす機関で実施すべきである。また、試験可能な機関の確保等の体制整備が必要である。
生態影響試験の実施を求める化学物質の製造・輸入量の基準については、現行(年間1トン超)と同様にすべきかどうかさらに検討が必要である。
水溶性の高分子化合物については、水生生物に影響を及ぼすおそれがあるので、一定の範囲で試験対象とすることを検討すべきである。
化学物質の審査において構造活性相関を活用することについては賛否両論がある。知見の集積を図り、その活用の可否、可能とする場合にはその適用条件等について検討すべきである。
 
(3) 生態系保全のための審査・規制に関連して留意すべき事項
既存化学物質の点検の加速化が必要。その際、国と産業界との役割分担のあり方について再検討し、産業界の積極的な協力や役割分担を求める方策の検討が必要との意見が多かった。
化学物質審査規制法の現行の審査・規制体系については様々な意見が出された。体系全体がより合理的かつ効果的になるよう、関係省において検討していくことが必要である。
化学物質の有害性や危険性に関する分類と表示の制度、製造・輸入量や有害性に関する情報の取扱いについても、様々な意見が出され、今後種々の検討が必要と考えられる。