資料1


                             平成10年11月10日
                              生物多様性条約
                             関係省庁連絡会議
    生物多様性国家戦略の進捗状況の点検結果について

 生物多様性国家戦略の第4部「戦略の効果的実施」の第3節「戦略の進捗状況の
点検及び戦略の見直し」の規定に基づき、生物多様性条約関係省庁連絡会議として
、平成9年度の施策の進捗状況の点検を行ったので、別添の通りその結果を報告す
る。

 点検に当たっては、重複を避け記述を簡潔なものとするため、国家戦略の記載項目を
(1)国家戦略実施のための指針、指標等の整備、国家戦略の実施に関連する
    各種計画との連携及び地域レベルの取組への支援と連携
(2)保護地域の指定及び管理 
(3)国土空間の特性に応じた生物多様性の保全 
(4)野生動植物の保護管理 
(5)社会資本整備に伴う生物多様性の保全と回復の取組
(6)農林水産業における生物多様性の構成要素の持続可能な利用 
(7)野外レクリエーション及び観光における生物多様性の構成要素の持続可能な利用
(8)遺伝資源の保存と利用  
(9)教育及び普及啓発 
(10)生物多様性の現状把握、情報基盤の整備及び調査研究 
(11)国際協力

の11の項目に再整理し、それぞれの項目について平成9年度に新たに行われた施策を中
心に、その取組状況と今後の課題について取りまとめた。


-目次-


○点検結果について                     ───────P1


○施策の概要について

(1)国家戦略実施のための指針、指標等の整備、国家戦略の実施に関
   連する各種計画との連携及び地域レベルの取組への支援と連携    ──P2

(2)保護地域の指定及び管理                ───────P2

(3)国土空間の特性に応じた生物多様性の保全        ───────P3

(4)野生動植物の保護管理                 ───────P4

(5)社会資本整備に伴う生物多様性の保全と回復の取組    ───────P5

(6)農林水産業における生物多様性の構成要素の持続可能な利用   ────P6

(7)野外レクリエーション及び観光における生物多様性の構成要素の持続 
   可能な利用                      ───────P7

(8)遺伝資源の保存と利用                 ───────P8

(9)教育及び普及啓発                   ───────P8

(10)生物多様性の現状把握、情報基盤の整備及び調査研究   ───────P9

(11)国際協力                       ───────P9

(参考)国の取組状況個票(別冊)

○点検結果について   

 生物多様性は、人類の生存基盤をなすものであり、その保全と持続可能な利用は政
府全体の基本的な責務として、より一層の推進を図っていかなければならない。その
ためにも、様々な分野の社会経済活動に生物多様性の確保の観点を組み入れ、その着
実な展開を図っていくことが重要である。

 本点検は、平成9年度に行われた生物多様性の保全及び持続可能な利用にかかる取
組のうち、主として新たに行われた施策等を中心に、その進捗状況を取りまとめたも
のである。
 これらについては、多様な取組が幅広い分野にわたって行われており、多くは継続
して行われているが、平成9年度における状況を概観すると以下のとおりである。

・国の基本方針または計画との連携については、生物多様性の確保の観点も盛り込ま
れた新しい全国総合開発計画「21世紀の国土のグランドデザイン」が決定された。ま
た、国土利用計画(全国計画)を基本として都道府県計画及び市町村計画が策定され
た。
・保護地域の指定及び管理については、保護地域の見直しや新たな指定等が進められ
た。
・国土空間の特性に応じた保全については、例えば、二次的自然における保全として
、水環境における取組や身近な自然を回復・整備し、ネットワーク化する取組などが
行われた。
・野生動植物の保護管理としては、新たな種の指定や保護増殖事業など保護のための
取組が行われた。
・社会資本整備に伴う生物多様性保全への配慮としては、生物多様性の確保や生態系
の保全の観点が盛り込まれた環境影響評価法が制定された。
・農林水産業、野外レクレーション及び観光や遺伝資源の保存と利用などの分野にお
いても生物多様性の構成要素の持続可能な利用という観点に配慮した取組が行われた。
・教育及び普及啓発、現状把握及び調査研究などについては、各省庁の連携による事
業が開始されるなど取組が進められた。
・国際協力については、各種条約に基づく取組など、多国間又は2国間における種々
な取組が行われた。


○施策の概要について

 以下の記述は、生物多様性条約関係省庁連絡会議を構成する省庁から提出された個
票に基づき、平成9年度に行われた新たな取組を中心に取りまとめたものである。

(1)国家戦略実施のための指針、指標等の整備、国家戦略の実施に関連する各
   種計画との連携及び地域レベルの取組への支援と連携

 [取組状況]
○国家戦略第2部の長期的な目標の具体化に向けた国土の生物地理区分(試案)
及び区域ごとの重要地域情報(試案)が公表された。また、生物の生息環境の広
域的なネットワーク化を図るため、富士・箱根・丹沢地域における緑の回廊計画
の検討が進められた。
○新しい全国総合開発計画「21世紀の国土のグランドデザイン」が閣議決定され
、当該計画において、「生物の多様性の確保という視点を含め、自然環境の保全
と回復を図るとともに、人の活動と自然との関わりを再編成していくことが重要」
との記述が盛り込まれた。また、取り組むべき主要な施策として、「国土規模で
の生態系ネットワークの形成」や「ミティゲーション」等が明示された。
○「自然と共生する持続可能な国土利用」の観点が国土利用の質的向上を図る上
で重要とした国土利用計画(全国計画)を基本として策定される都道府県計画及
び市町村計画について、その策定・改定への支援がなされた。

 [今後の課題]
○政府全体として生物多様性の保全と持続可能な利用のための取組を効果的に進
めていくためには、環境の保全に関しては環境基本計画の基本的方向に沿いつつ
、生物多様性の保全と持続可能な利用に密接に関連する国の基本方針または計画
との連携を更に進めていく必要がある。
 また、生物多様性の保全と持続可能な利用を進めていく上では、地域レベルで
の取組が特に重要であり、個々の地域の特性に応じた地域ごとの保全計画の策定
や既存の各種地域計画へ生物多様性保全の観点を反映していくことが必要である
。また、生物多様性の保全を進めていくための生物多様性の評価手法や保全目標
の設定についても検討を進めていく必要がある。

(2)保護地域の指定及び管理

 [取組状況]
○日光国立公園(日光地域)及び室戸阿南海岸国定公園(徳島県地域)について
公園計画等の全般的な見直し、北長門海岸国定公園について区域編入等、大山隠
岐国立公園、吉野熊野国立公園及び霧島屋久国立公園(錦江湾地域)、男鹿国定
公園について公園計画等の一部の変更が実施された。また、吉野熊野国立公園及
び室戸阿南海岸国定公園における公園内の車馬等の乗入れ規制地域の指定や北海
道における特定民有地買上事業などにより、国立・国定公園の自然景観の保護の
強化と利用の適正化が図られた。
○十和田鳥獣保護区(青森、秋田県)、大山鳥獣保護区(鳥取県)及び石槌山系
鳥獣保護区(愛媛、高知県)について特別保護地区が再指定されるとともに、出
水・高尾野鳥獣保護区(鹿児島県)及び漫湖鳥獣保護区(沖縄県)については新
たに特別保護地区が指定された。
○天然記念物については、名護のひんぷんガジュマル他2件が新たに指定され、
また、深泥池生物群集他3件の天然記念物の土地の公有化が行われた。
○保護林については、新たに奥羽山脈北西部、阿武隈高地及び犀川源流に森林生
物遺伝資源保存林が設定されるなどその充実が図られた。また、入林者の影響あ
るいは生息環境の悪化等が見られ、設定目的上、緊急な保全措置が必要なものに
対し保全対策を行う保護林保全緊急対策事業が新たに講じられた。
○世界遺産(自然遺産)として登録された屋久島及び白神山地の保護管理の進捗
状況について調査が行われ、第21回世界遺産委員会において高い評価がなされた
。また、世界遺産の管理・調査研究等の拠点となる白神山地世界遺産センター(
西目屋館)の供用が開始された。
○ラムサール条約登録湿地に関する調査研究や普及啓蒙の拠点である佐潟水鳥湿
地センターが整備された。
○「人間と生物圏計画」(MAB計画)に基づく、屋久島、大台ヶ原・大峰山、白山
及び志賀高原の4カ所の生物圏保存地域のレビューが開始された。

 [今後の課題]
○生物多様性保全の基本は、生物を自然の生息・生育地において保全する生息域
内保全であり、引き続き自然環境保全に関する各種法律等に基づき、保護地域の
指定等の促進を図るとともに、これらの保護地域において生物多様性の観点を踏
まえた適切な管理を進めていく必要がある。また、その際には、野生動物の生息
域の連続性の確保など保護地域間の連携の確保についても検討を進めていくこと
が重要である。


(3)国土空間の特性に応じた生物多様性の保全

 [取組状況]
○重要な生態系のひとつであるサンゴ礁保全の取組として、「国際サンゴ礁研究
・モニタリングセンター(仮称)」の基本構想が策定された。
○河川審議会水循環小委員会において、流域の健全な水循環の構築を通じて生物
の生息・生育環境の保全・回復等に資する取組を行うことなどとする中間報告が
なされた。
○国土審議会近畿圏整備特別委員会の意見を聴き、近畿圏の近郊緑地保全区域等
の変更を行い、近郊緑地面積の増加が図られた。
○都市内の河川、水路等の水辺空間等と一体となって水と緑のネットワークを形
成する地区において、その拠点となる公園を整備する「水と緑のネットワーク公
園整備事業」の創設、下流地域の重要な水源である湖沼の上流支流及び流域にお
ける浄化事業の実施などの「河川環境整備事業」の拡充が行われた。
○多様な生きものが生息する身近な自然を回復・整備し、ネットワーク化を図る
自然共生型地域づくり事業が創設された。

 [今後の課題]
○生物多様性保全の観点からは、原始性の高い自然や絶滅のおそれのある種の生
息地等を対象とした保護地域指定による保全のみにとどまらず、人間活動との関
わりの中で維持されてきた二次的自然の保全や都市地域における自然の保全・創
出が重要な課題である。
 このため、関連する地域指定制度との連携による保全や各種事業における多様
な生物の生息環境の保全・回復のための取組を積極的に進めていく必要がある。
また、その際には、関係省庁や地方公共団体の間で施策の連携を図り、総合的効
果的な取組を進める必要がある。


(4)野生動植物の保護管理 

 [取組状況]
○新たにアツモリソウ、ホテイアツモリ、ワシミミズクが「絶滅のおそれのある
野生動植物の種の保存に関する法律」に基づく国内希少野生動植物種に指定され
た。なお、アツモリソウ、ホテイアツモリについては、同時に特定国内希少野生
動植物種に指定された。また、新たにヤンバルテナガコガネ、ゴイシツバメシジ
ミについて同法に基づく保護増殖事業計画が策定された。
○植物版レッドリストの作成及び両生類・爬虫類のレッドリストの改訂が行われ
、公表された。
○シギ・チドリ類の全国の主な渡来地における観察調査に基づき、シギ・チドリ
類の観察数が一定基準以上の調査地点を抽出、作成したシギ・チドリ類渡来目録
が公表された。
○希少猛禽類のイヌワシ、クマタカについて、分布の把握、生態の解明及び調査
手法の確立のための調査が着手された。
○農林業や自然環境への影響の大きなシカ、イノシシ等に関する生態把握等のた
めの研究や渡り鳥に関する標識調査などが引き続き行われるとともに、これまで
のデータの解析が進められた。また、油汚染事故による海鳥類への影響調査が実
施され、事故時の対応が整理された。
○天然記念物である深泥池生物群集などにおいて生息・生育環境の整備のための
保護管理事業が行われたほか、特別天然記念物コウノトリ、オオサンショウウオ
及び天然記念物田島ヶ原サクラソウ自生地等を対象にした飼育・栽培施設での個
体の繁殖などの保護増殖事業や食害対策事業等が実施された。また、保護増殖事
業の一環として、深泥池生物群集及び田島ヶ原サクラソウ自生地において移入動
植物の除去等が実施された。
○内水面における外来魚密放流の防止を推進するために、外来魚密放流防止体制
推進事業企画委員会を設置するとともに、外来魚の生態調査及び駆除が行なわれ
た。
○アマミヤマシギ、オオトラツグミ等の奄美地域に生息する希少種に関する調査
研究、普及啓発、保護増殖事業の実施等を行う奄美野生生物保護センターの整備
が開始された。

 [今後の課題]
○生態系の基本的構成要素である野生動植物は、その多様性によって生態系のバ
ランスを維持しており、絶滅のおそれのある種や希少な種を保全するのみならず
、普通種を含めた多様な動植物相を全体として保全していくことが重要である。
○このためには、国内希少野生動植物種の指定やそれらの保護増殖事業を更に推
進するとともに、その前提として絶滅のおそれのある種の現状把握、評価等の取
組を進める必要がある。また、移入種に対する取組の推進も必要である。
○野生生物と人との共存を進めるため、渡り鳥の渡来地など多様な野生動植物の
生息・生育環境の保全を図るとともに、増加する農林業被害の防止を図りつつ人
と鳥獣との共存を進めるための鳥獣の保護管理対策についても更に進める必要が
ある。

(5)社会資本整備に伴う生物多様性の保全と回復の取組 

 [取組状況]
○環境影響評価法が制定され、同法に基づく各対象事業種に関し横断的な基本と
なるべき事項を表した基本的事項が公表され、事項の中に環境影響評価の調査、
予測、評価の対象に生物多様性の確保、生態系の保全が含められた。
○生物・生態系に配慮しアメニティ豊かな環境への負荷の少ない港湾(エコポー
ト)のモデル港として新たに三河港(蒲郡地区)他3港が指定された。エコポー
ト実現に向けた主な事業として、公害防止計画に基づいて浚渫、導水等を行う港
湾公害防止対策事業や閉鎖性が高くヘドロの堆積した海域において浚渫、覆砂及
びエアレーションにより環境保全を図る海域環境創造事業などが行われた。
○自然を生かした川づくりを目指す「多自然型川づくり」がこれまでのパイロッ
ト事業からすべての河川を対象とする取組に拡大された。
○漁港機能の低下を招く土砂を浚渫するとともに、海岸侵食対策の養浜砂として
有効利用を図る「渚の創生事業」が開始された。
○農村、漁港、砂防、海岸、道路等における社会資本整備のための事業において
、各事業の特性に応じつつ生物多様性の保全に配慮した取組が進められた。

 [今後の課題]
○社会資本整備のための各種事業は何らかの自然改変を伴うものであり、国土の
生物多様性の保全を確保する上では、これらの実施に当たっては生物多様性の観
点からの検討を行い、その保全や回復のための適切な配慮を講じていくことが重
要である。
○今後、環境影響評価においては、生物多様性の保全の観点についても考慮され
ることから、生物多様性の現況把握及び評価手法の整備を急ぐ必要がある。
○また、各種事業の実施に際しての生物の生息環境や生態系への悪影響の最小化
及び生物多様性の回復のための技術についてもその効果のモニタリングや研究開
発を進める必要がある。

(6)農林水産業における生物多様性の構成要素の持続可能な利用 

 [取組状況]
--林業関係では、
○「全国森林計画」に即して、森林計画区(全国158計画区)のうち、32計画区
について、地域森林計画(民有林)及び国有林の地域別の森林計画が策定され、
126計画区については計画変更が行なわれた。また、市町村森林整備計画が策定
された。
○多面的な機能を高度に発揮しうる森林を計画的に整備する第二次森林整備計画
が策定され、森林の整備目的に応じた森林保全整備事業及び森林環境整備事業が
進められた。
○保安林の計画的な指定・整備を目的とする第五期保安林整備計画が全国のすべ
ての流域において策定された。
○「治山事業七箇年計画」が策定され、豊かな環境づくり等の基本方針の下で、
森林の造成、整備などの治山事業が進められた。
○滞在型森林健康促進対策、森林林業市民参加促進対策として、国民が森林を活
用して健康の維持・増進を図る地域づくりを促進するための基盤の整備及び都市
住民等の直接参加による森林づくりを促進するための基盤の整備が行われた。

--農業関係では、
○環境保全型農業の全国展開の一層の推進のため、都道府県段階における協議会
開催や技術検討、環境影響の測定等の取組の強化、市町村段階における推進方針
の策定・実施等に加え、環境負荷の軽減を図る新しい農法に取り組む先駆的地域
に対する技術的支援や条件整備として農薬廃液処理施設、水質浄化処理施設等の
拡充が図られた。
○農業農村整備環境対策指針を策定した道府県の市町村において、農業農村整備
事業における環境保全の基本方針や対策を定めた「農村環境計画」の策定が進め
られた。
○水、緑、文化等を活かした景観の形成を図り、農山漁村を一体として捉えた環
境・生態系の保全と農林水産業を通じた地域資源の有効活用による地域づくりを
推進する「美しいむらづくり対策事業」が開始された。

--水産関係では、
○原則として沿岸国が自国の排他的経済水域において海洋生物資源の管理を行う
ことを基本とする新たな日中漁業協定が締結された。
○平成8年に策定された「マリン・エコトピア21」基本構想に基づき、地域が指
定され、検討会の開催や現地調査の実施により、マスタープラン(全体計画)が
策定された。
○沿岸漁場保全事業に、沿岸環境緊急回復事業として、新たにアマモ等水質浄化
機能のある水生植物等の移植・播種が追加された。

 [今後の課題]
○生物多様性の構成要素は有用な資源として利用されており、その利用に当たっ
ては、今後とも利用対象としている生物自体の将来にわたる安定した存続を保証
しつつ資源としての持続可能な利用が図られるとともに、併せて生態系全体にお
ける生物多様性の維持にも十分な配慮がなされる必要がある。


(7)野外レクリエーション及び観光における生物多様性の構成要素の持続可能
   な利用

 [取組状況]
○国民が自然体験等を通じて自然とふれあい、自然から学ぶ機会が得られる場を
創設し、併せて自然保護に対する理解・知識を深める「ふれあい自然塾整備事業
」が開始された。
○農林漁業体験民宿の登録数の増加に伴う普及・指導の強化、都市への情報提供
の稼働実験、地域における連携活動の推進等の取組支援が拡充され、グリーン・
ツーリズムが推進された。
○都市山村交流促進対策として、都市住民等の森林・林業への理解の醸成と森林
整備への参加を推進するため、森林内体験活動促進整備計画の策定及びこれに基
づく森林内活動拠点整備等が行われた。
○漁港利用調整事業として、漁業と海洋レクリエーションとの共存を図るための
漁港利用の遊漁船等を分離収容する施設整備や周辺環境の整備が行われるととも
に、漁港交流広場整備事業として、漁港漁村の良好な自然及び水産物との出会い
のための親水施設等の整備が行われ、これらを通じて自然環境等保全に関する意
識の醸成が図られた。
○観光基盤施設の整備として、家族キャンプ村や国際交流村の整備が進められた。
○健康文化都市と連携し、海辺の緑豊かな自然を積極的に活用して人々の健康増
進に資するため、健康増進施設等の整備と合わせて利用しやすい海岸づくりを行
う「海と緑の健康地域づくり」が新たに開始された。

 [今後の課題]
○野外レクリエーションや観光に関する施策においては、国民の生物多様性への
理解と関心を深める観点から、自然とのふれあいのための施設の整備や指導者の
育成、ふれあいの機会の提供等の取組を進めていく必要がある。また、同時に、
生物多様性に対する負荷を誘発することのないように、施設の整備や利用に当た
っては十分な配慮を講じていく必要がある。
(8)遺伝資源の保存と利用 

 [取組状況]
○先端技術に関する環境保全施策を推進するため、バイオテクノロジーと環境保
全に関する基礎的な調査やバイオテクノロジーによる環境修復技術(バイオレ
メディエーション)に関する研究等が行われた。
○医薬品分野においては、「組換えDNA技術応用医薬品の製造のための指針」
適合性の確認について、平成9年末までに196件の製造確認が行なわれた。また、
医薬品分野への応用として、平成9年度までに組換えDNA技術応用医薬品25種40
品目が承認された。
○水産生物の配偶子の凍結保存技術・遺伝的多様性の評価手法の開発が進められた。

 [今後の課題]
○地球規模における種の絶滅の進行等を踏まえ、生物遺伝資源の保存への取組を
強化するとともに、安全性の確保にも十分配慮しつつ、バイオテクノロジーによ
る遺伝資源の利用を進める必要がある。


(9)教育及び普及啓発

 [取組状況]
○少年自然の家等教育関連施設と連携し、海辺における野外学習、環境学習を支
援するための利用しやすい海岸づくりを行う「いきいき・海の子・浜づくり」が
開始された。
○河川等の水辺を子ども達の体験学習の場として利用するため、地域の人々と協
力しながら安全な水辺を創出する「水辺の楽校プロジェクト」が実施された。
○天然記念物整備活用事業として、新たにミヤコタナゴ(埼玉県滑川町)、美郷
のホタル及びその発生地(徳島県美郷村)及びオオサンショウウオ(島根県瑞穂
町)の3つの天然記念物活用施設の建設に着手した。
○自然との共生の森整備特別対策として、地域全体としての森林の保全・管理を
促進するため、多様な体験・学習のための森林等の整備が構想の段階から地域住
民の積極的な参加の下に行われ、地域住民の自然との共生等に対する理解の醸成
が図られた。

 [今後の課題]
○生物多様性の保全と持続可能な利用という考え方は、生態系から種、遺伝子レ
ベルを含む非常に幅の広い概念であり、多様な解釈が可能であるとともに一般に
わかりにくい面も有している。このため、国民の理解はまだ十分とはいえない状
況であり、身近な動植物や生息地の観察、調査、保全活動を契機とするなど今後
更に、効果的な教育及び普及啓発に取り組んでいく必要がある。


(10)生物多様性の現状把握、情報基盤の整備及び調査研究 

 [取組状況]
○自然環境に関する情報の収集・整備として、自然環境保全基礎調査等が行われ
ているが、新たに海域自然環境保全基礎調査が開始された。また、自然環境保全
基礎調査の成果等生物多様性に関する情報の収集、管理、提供を行う生物多様性
情報システム(J-IBIS)の整備が行われた。
○自然を生かした川づくりの技術開発の一環として、木曽川に世界最大規模の現
地実験河川を有する研究施設が設置された。
○国立環境研究所において、浅海域の保全に関する研究に加えて、湖沼の保全に
関する研究が開始された。
○森林生態系を重視した森林整備事業等の導入手法が検討された。
○生分解性プラスチックを用いた漁具の海洋環境に与える影響の評価手法を開発
するための調査研究など海洋廃棄物による海洋生物への影響に関する調査が実施
された。

 [今後の課題]
○生物多様性の保全と持続可能な利用のための施策の基盤は、動植物種の分布な
ど生物多様性の現状の的確な現状把握であるが、なお、情報の空白域が数多く残
されており、一層の取組を強化する必要がある。
 また、生物多様性情報システムの充実を図るとともに、生物多様性条約に基づ
くクリアリング・ハウス・メカニズムの円滑な実施に向け、早期の構築に努める
必要がある。

(11)国際協力

 [取組状況]
○平成9年6月の国連環境開発特別総会(UNGASS)において、途上国への生物多
様性保全への協力を含む、これからのODAを中心とした我が国の環境協力政策
を包括的に取りまとめた「21世紀に向けた環境開発支援構想(ISD)」が発表された。
○渡り鳥とその生息地である湿地の保全のための「モンゴル北東アジア地域にお
ける湿地保全に関する国際ワークショップ」が我が国を中心として開催された。
また、日韓ツル共同調査が開始された。
○国際自然保護連盟(IUCN)のレッドリスト・カテゴリーの見直し作業に際し、
日本案を提出し、種の保存委員会の見直し作業に寄与した。
○生物多様性保全のための人材育成等を目的とした「インドネシア生物多様性保
全計画」(プロジェクト方式技術協力)が進められるとともに、あわせて無償資
金協力により生物多様性情報センター等が整備された。
○アジア及び環太平洋地域における自然史系博物館における連携・協力体制(ネ
ットワーク)を構築し、自然史研究と生物多様性の保全の方策に関する研究協力
が実施された。
○「地球圏・生物圏国際協同研究計画(IGBP)」の後期5カ年計画として、人間
活動により大気中に放出された二酸化炭素の行方を明らかにし、地球環境変動メ
カニズムを科学的に解明すること等を目的とした「地球圏・生物圏国際協同研究
計画(IGBP)気候変化の陸域生態系への影響とフィードバック(TEMA)」が新た
に実施された。
○国連環境開発特別総会(UNGASS)において、国連持続可能な開発委員会(CSD)
のもとに新たに設置された「森林に関する政府間フォーラム(IFF)」や温帯林
等の持続可能な経営の基準・指標に関する国際作業グループ(モントリオール・
プロセス)会合及び同プロセスの技術諮問委員会(TAC)等の国際的な政策対話や
熱帯林の保全と利用の両立を目的とする国際熱帯木材機関(ITTO)理事会におけ
る政策事項の審議に積極的に参加したほか、ITTOボルネオ生物多様性調査団への
追加拠出等が実施された。
○持続可能な森林経営の現場レベルでの実践に焦点をあてた「モデル森林の推進
に関する国際ワークショップ」が我が国の主催で開催された。
○熱帯林の保全・造成のため、熱帯地域における保護林経営の手法確立と適正な
施業基準のガイドライン作成などの事業が開始された。
○海洋データ・情報管理として、国内外のユーザーへの情報提供が行われるとと
もに、沿岸海域保全情報の整備として、データベース構造の基本設計等が行われ
た。
○地球環境変動の把握に必要な地理情報が得られ、地球環境の監視と予測及び的
確な政策立案に有効な地球地図整備構想の一環として、「地球地図フォーラム'97
IN岐阜」が開催された。
○ワシントン条約の附属書改正に合わせ、国内取引規制の対象種を変更するとと
もに、象牙等の取引業者に対する規制が強化された。

 [今後の課題]
○生物多様性の保全と持続可能な利用は、地球規模で取り組むべき人類共通の課
題であり、国内における取組にとどまらず、我が国として国際的な取組を積極的
に推進する必要がある。
○このため、生物多様性に関する国際的な情報交換への積極的な参加を進めると
ともに各国との共同研究・観測等の協力を進める必要がある。
○また、生物多様性条約をはじめとする関連する各種の国際条約等において、我
が国として一層積極的な役割を果たすとともに、二国間の協力事業を進めるに当
たっても、関係する国や国際機関、国際条約との連携を図るなどにより、その効
果を国際的に広めていくよう努める必要がある。