【前文】
○戦略を取り巻く状況:[1]社会経済の安定化と環境意識の向上、 [2]各省の環境、自然の内部化、[3]地球環境の視点からの国際的責務の増大
○新戦略の性格・役割:[1]「自然と共生する社会」実現のための政府の中長期的なトータルプラン、[2]新たに着手する具体施策を盛り込んだ実践的な行動計画
【第1部 生物多様性の現状と課題】
○生物多様性の現状と問題点について、「3つの危機」として整理。
[1]第1の危機:開発や乱獲など人間活動に伴う負のインパクトによる生物や生態系への影響。その結果、多くの種が絶滅の危機。湿地生態系の消失が進行。島嶼や山岳部など脆弱な生態系における影響。依然最も大きな影響要因。
[2]第2の危機:里山の荒廃等の人間活動の縮小や生活スタイルの変化に伴う影響。経済的価値減少の結果、二次林や二次草原が放置。耕作放棄地も拡大。一方人工的整備の拡大も重なり里地里山生態系の質の劣化が進行。特有の動植物が消失。特に中山間地域で顕著、今後この傾向がさらに強まる。
[3]第3の危機:移入種等の人間活動によって新たに問題となっているインパクト。国外又は国内の他地域から様々な生物種が移入。その結果、在来種の捕食、交雑、環境攪乱等の影響が発生。化学物質の生態系影響のおそれ。
○問題意識の基となる社会経済状況、生物多様性、保護制度について現状分析。
【第2部 理念と目標】
〈5つの理念〉
○多様性保全の意味として「生存の基盤」や「有用性」の点に加えて、「安全性・効率性」(マクロ・長期的にみると生物多様性の尊重が人間生活の安全性や効率性を保証)や「文化の根源」(地域の生物多様性とそれに根ざした文化の多様性は歴史的資産、それらを上手く紡ぐことが地域個性化の鍵)という点を掲げ、従来の理念を拡大して整理。
○自然に接する基本的態度として、「エコシステムアプローチの考え方」を位置付け。
〈3つの目標〉
○前回戦略の長期、短期目標の基本的内容は変えずにわかりやすく3つの目標([1]種・生態系の保全、[2]絶滅の防止と回復、[3]持続可能な利用)として整理。
〈グランドデザイン〉
○グランドデザインは、多様性が保全された結果、現れる国土の将来像、人々との関係、行動についてイメージが浮かぶように、ビジュアルに表現。単なる土地の広がりだけではなく、地下から空中、地下水、海洋まで、そして土壌微生物から空を飛ぶ鳥までを国土としてとらえ、その将来像を提示。
【第3部 基本方針】
〈3つの方向〉
○理念と目標を受けて、今後展開すべき施策の大きな3つの方向を提示。
[1]保全の強化:保護地域制度の強化、指定の拡充、科学的データに基づく保護管理の充実、絶滅の防止や移入種問題への対応など、多様性の危機の態様に応じて保全を強化。
[2]自然再生:一方的な自然資源の収奪、自然の破壊といった関わり方を転換し、人間の側から自然に対して貢献。自然の再生プロセスを人間が手助けする形で自然の再生・修復を進める。その端緒として自然再生事業に着手。
[3]持続可能な利用:里地里山等では、厳正的、排他的な規制手法だけでは問題が解決されない。身近な里山等の保全管理と、生活・生産上の必要性等とを上手く調整していくため、NPO活動支援、地権者との管理協定、助成・税制、環境配慮の徹底など、様々な社会的仕組みや手法を検討し、積極的に対応。
〈基本的視点〉
○これらの施策の基礎となる基本的視点として、5つの視点を提示。
[1]科学的認識:調査研究を飛躍的に深化させ、科学的データに基づく理解、認識を政策決定の出発点とする。
[2]統合的アプローチ:社会経済的側面を含め統合的に問題を捉える。国土利用に関する各種計画や、環境負荷を低減する循環型社会づくりとも連携。
[3]知識の共有・参加:積極的な情報公開により、国民の参加を促す。関係者すべてが情報を共有、社会的選択として保全や利用の方向、目標について合意形成。環境意識のレベルを向上させる上からも環境教育・環境学習が重要。
[4]連携・共同:各省が連携・共同して一体的、総合的な取組を進めることが戦略の大きな役割。地域の生物多様性保全のためには、自治体や住民が主体となって地域特性に応じた計画づくりや取組を進めることが大切。国は制度設計のほか、指針の作成、事業の助成、情報の提供などを通じて積極的に支援。
[5]国際的認識:日本と世界、特にアジア地域は、自然環境、社会経済両面から深い関係。アジア地域等の多様性保全に積極的に貢献すべき。地球温暖化など地球環境問題と生物多様性の関わりを認識すべき。温暖化防止・吸収源対策として国内の森林の整備・保全、都市緑化の推進の重要性が増大。
〈国土の捉え方〉
○新たな試みとして、国土全体を生物多様性の観点から認識し、現状や特性を把握すると同時に、多様性を向上させていくためのポテンシャルを示すなどのねらいで、2つの国土の捉え方を提示。
[1]国土の構造的把握:生物多様性を支える骨格的な構造として「奥山自然地域」、「里地里山等中間地域」、「都市地域」、「河川・湿原等水系」、「海岸・浅海域・海洋」、「島嶼地域」をあげ、それぞれの特性と保全・改善の方向を記述。
[2]植生自然度別配慮事項:人為の影響の度合いを示し、また多様性を回復していくための指標的性格も持っている植生自然度をあげ、自然度別に現状と質を高めていくための配慮事項を記述。
〈主要テーマ別取扱方針〉
○生物多様性保全上の主要テーマ別の取扱方針を[1]から[7]まで記述。
[1]重要地域の保全と生態的ネットワーク形成
- 保護地域制度の強化が基本。自然公園は風景保護の視点に加えて、生態系、特に動物保護の視点を制度上位置付け(自然公園法改正)。
- 緑の回廊、農地、道路、河川、公園緑地、港湾等の取組を有機的に結びつけて国土の生態的ネットワークを形成。
[2]里地里山の保全と利用
- 里地里山を大まかに区分してその特性に応じた方策を進めるべき。 ・地域の生活・文化を含め一体的総合的に問題を捉えていくべき。
- 重点的な施策として、自然公園内の里地里山の管理協定制度(風景地保護協定)の導入や里山における自然再生事業の実施のほか、都市地域、農山村地域での取組を記述。市民参加型里山保全モデル事業に着手して、多様な主体が連携して里山の保全と利用に取り組む実践的な手法や体制について検討。
[3]湿地の保全
- 生物多様性保全の観点から重要な湿地を全国500箇所選定(重要湿地500)。
- 重要な湿地について保護地域化促進や事業配慮徹底などによって保全を強化。
[4]自然の再生・修復
- 自然再生事業は開発に伴う代償措置ではなく、過去に失われた自然を取り戻し生態系の健全性を回復することを直接目的とした事業であることを明記。
- 重要なポイント:順応的管理の考え方を取り入れて、事前の調査、モニタリングを含め時間をかけて慎重に実施。自然再生事業推進会議の設置などを通じて各省連携体制を強化。自治体、専門家、住民、NPOなど多様な主体の参画 ・釧路湿原再生事業はそのさきがけ。釧路における実践を踏まえ、一連の手順を「自然再生事業・釧路方式」として取りまとめ、国内外に情報発信。
[5]野生生物の保護管理
(絶滅対策の強化)
- 緊急避難的な対策に加えて、地域個体群を消滅させないという観点から島嶼や里地里山など絶滅危惧種が集中する場所や湿地のように全国的に減少が著しい生息地などを特定して、その保全、再生を早い段階で進めるなど、絶滅を未然に回避する予防的措置を展開。保護増殖事業強化。自然公園施策等との連携。
(移入種対策)
- 移入種(外来種)は、条約締約国会議で示された中間的指針原則に沿って、[1]侵入の予防、[2]侵入の初期段階での発見と対応、[3]定着した生物の駆除・管理の3段階で必要な対応を推進。特に「移入種の定着状況調査と要注意種リストの早急な作成」、「ペット等国内での移入種の利用に先立つ影響評価と利用の制限」、「輸入実態の把握と水際での管理の検討」、「飼育動物の管理の徹底」などが重点課題。移入種対策を総合的に進めるため関係機関の連携体制を確保。
[6]自然環境データの整備
- 自然環境保全基礎調査の新たな展開として、全国千箇所のモニタリングサイト構築を提案。国土全体の生態系や生物多様性の変化や問題点を早期に把握するために、多くの固定された地点で動植物や環境の状態を継続的にモニタリング。地域の専門家やNGO等の参画・協力を得た実施体制を整備(モニタリングサイト1000)。
- さらに情報が非常に不足している浅海域の干潟や藻場における生物や生態系に関する調査に本格的に着手(浅海域生態系調査)。
[7]効果的な保全手法等
(環境アセスの充実)
- 影響予測手法や影響の回避・低減・代償のための技術的・制度的手法の向上、アセス実施に必要な情報の整備・提供など、より効果的にアセスを機能させる取組を実施
- 諸外国で導入されている戦略アセスの仕組みを参考として、上位計画や政策における環境配慮のあり方の検討を試行やガイドライン作成を通じて進める。
(国際協力)
- 国際協力では、重点分野として、アジア地域を中心に例えば自然環境データ整備をベースとしつつ、渡り鳥の保護、湿地の保全・再生、希少種が集中するホットスポットの保全などへの協力を通じて、国際レベルから国レベルまで様々な空間レベルにおける生態的ネットワークを形成(ヨハネスブルクサミットも受けて)。
【第4部 具体的施策の展開】
○各省の具体的施策を森林、農地など「国土の空間特性や土地利用に応じた施策」、野生生物の保護管理など「様々な空間やセクターに横断的な施策」そして、調査研究、人材育成など「基盤的な施策」の3つに分けて記述。施策羅列との前回批判を考慮して、冒頭に国土利用計画や共管事務の仕組み等を引きつつ、施策全体の体系、関連、相互の連携、適切な環境配慮の内部化を明示。
○4部2章2節「生物資源の持続可能な利用」の中では、遺伝子組み換え生物の安全性確保の取組をあげ、バイオ技術によって改変された生物を環境中に放出して利用する場合には、現在の知見で可能な科学的リスク評価を行い、他の生物や生態系に悪影響を及ばさないよう十分な配慮を講じていくことを述べ、バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書の早期批准を目指し、必要な国内担保措置の検討を政府一体となって進めることを記述。
【第5部 戦略の効果的実施】
○最後のまとめとして新戦略の特徴を述べた上で、実行体制、各種計画との連携、戦略点検・見直しについて記述。
○特に戦略のフォローアップとして、毎年、中央環境審議会へ施策の進捗状況を報告し、生物多様性の観点から点検することを記述。