平成13年度環境保全研究発表会・発表課題の概要

2月12日(火)第1会場(タイムプラザ)
 
【大気環境の保全に関する総合研究】
 
8. マイクロ波を利用した有害大気汚染物質の処理に関する研究
   経済産業省 (独)産業技術総合研究所 環境管理研究部門
(旧 通商産業省 工業技術院 資源環境技術総合研究所)
   ベンゼン、トリクレン等の揮発性有機化合物の大気放出を抑制するために、マイクロ波等の電磁場を用いた新しい吸着および分解方法を検討した。
 マイクロ波制御吸着脱離手法の検討では、次の結論を得た。(1)VOCと水の2成分系の吸着脱離でのマイクロ波の照射効果を検討した結果、マイクロ波を照射した場合としなかった場合に、吸着挙動に違いがあることが分かった。(2)吸着後の脱離において、誘電、誘導、通電加熱を検討してきたが、これまで不可能とされてきた通電加熱が最も安全で簡易に行える手段であることが判明した。(3)賦活を適度に操作することによって、低濃度で市販活性炭より有効な活性炭を製造できることが分かった。
 新励起システムによる分解手法の検討では、低温プラズマ法を励起源としたVOC分解反応を試みるとともに、この手法のみでは解決できなかった問題点を触媒や吸着剤を複合することにより解決できる糸口を見出した。
 
9. コジェネ用内燃機関のNOx低減化に関する研究
   経済産業省 (独)産業技術総合研究所 エネルギー利用研究部門
(旧 通商産業省 工業技術院 資源環境技術総合研究所)
   コジェネレーションシステムの普及に伴う窒素酸化物(NOx)の排出増加を防止するために、エネルギー利用効率を低下させることなくNOxを低減できる技術の検討を行った。ガスタービンについては、低NOx燃焼が可能な触媒燃焼と火炎燃焼を組み合わせたハイブリッド触媒燃焼技術の検討を行った。触媒後流での気相燃焼特性を明らかにするための実験及び数値解析を行うとともに、二次燃料供給、混合方法の最適化を行い、高性能燃焼器開発の基礎データを得た。ガスエンジンについては、希薄燃焼排ガス中のNOxを選択還元可能な触媒の検討を行った。NOxの選択還元に有効な還元剤の特性、反応機構、触媒担体の効果などを明らかにした。飽和炭化水素をNOxの選択還元に有効な部分酸化物や不飽和化合物に改質することは難しいことが分かった。メタノールによるNOxの還元について、従来の触媒より非常に高い活性を示す触媒を見出した。
 
19. 舶用機関における大気汚染物質の抑制技術に関する研究
  国土交通省 (独)海上技術安全研究所
(旧 運輸省 船舶技術研究所)
   国際海事機関(IMO)において船舶からの排ガス規制が発効予定である。同時に見直し案も採択されたことから、近い将来にはNOx及びSOx以外の揮発性有機化合物(VOC)あるいは微粒子状浮遊物質(PM)等にも規制の適用が及ぶものと予想されている。
 本研究では、舶用ディーゼル機関の電子制御化を通じて燃料消費率を悪化させることなく有害排出物質の低減を、また同時に、実船に適応するVOCとPM計測法の確立を目指した。燃料噴射系のタイミングを電子制御化し、最適な時期に着火することにより、NOx排出量、PM排出量及び燃料消費率を同時に改善し、また、実験機関及び実船にてキャニスタ等を使って排ガスを採取した分析を行った結果、排ガスに含まれるVOCの主成分の計測が可能であった。
 また、国際標準化機構(ISO)で認められたフィルタ重量法とベータ線吸収法を用いてPM計測を行った。各計測法とも実船での計測には解決すべき課題を含むが、ベータ線吸収法では新型式の排ガス稀釈器を開発し測定計を構築した結果、フィルタ重量法の値と良い一致を見るようになった。
 
22. 静電気帯電を利用した高性能エアフィルタ(エレクトレットフィルタ)の開発
  総務省 (独)通信総合研究所
(旧 郵政省 通信総合研究所)
   工場からの排気が空気汚染の原因となるようになって久しいが、排気の中の微粒子は、ディーゼル自動車の排気微粒子、たばこの煙、室内の塵などと並んでアレルギー障害、とくに近年頻発している花粉症の原因の一つとされている。これらの微粒子を除くために1ミクロン以下の極めて小さな粒子の除去が可能な高性能エアフィルタが必要となる。高性能なフィルタとして、エレクトレットフィルタと呼ばれるものが実用化されている。エレクトレットフィルタは、普通のメッシュフィルタとは異なり電気的な吸着をするため、非常に小さな粒子も捉えることができるが洗浄が困難で使い捨てフィルタとなっている。本研究では、当所で独自に開発した空間電荷分布測定装置を用いてエレクトレットの帯電状態を測定し、帯電量のコントロールを行うことによって、くり返し使用が可能なフィルタ素材と構造について検討した。
 
 
【廃棄物の処理と資源化技術に関する総合研究】
 
1. リサイクル性に優れた無添加合金製造技術の開発に関する研究
  文部科学省 (独)物質材料研究機構
(旧 科学技術庁 金属材料技術研究所)
   金属系素材リサイクルにおいては、素材自体のリサイクル性を高めることが重要となっている。金属系廃棄物からのリサイクル性向上を阻害している要因の一つに、金属素材における各種添加物がある。すなわち、添加物が素材自体の再資源化を困難にしている。したがって、阻害要因である添加物を必要としない材料創製技術を確立すれば、リサイクル性を画期的に向上させ、廃棄物減量化、再資源化を促進することができる。
 この観点から、阻害添加物を含まない、高リサイクル性「無添加」合金素材を開発することを目的とし、4項目について研究を遂行した。その結果、高リサイクル性防振合金の開発では、M2052という優れた防振合金を開発した。これは、Mn-20Cu-5Ni-2Fe(at%)の基本組成を持ち、優れた制振性能を示す。高リサイクル性焼結鉄合金の開発では、鉄と鉄からなる焼結複合材料の創製方法を開発した。高リサイクル性アルミニウム鋳造合金の開発では、アルミニウム鋳造合金に一般に使用されている微細化剤を利用することなく、微細な結晶粒組織をもつインゴットの創製法を開発した。高リサイクル性快削鋼の開発では、鉛を含まない快削鋼の開発に成功した。
 
3. 廃棄物の熱処理に伴う未規制有害物質の制御・管理に関する研究
  環境省 (独)国立環境研究所
(旧 厚生省 国立公衆衛生院)
   廃棄物のガス化溶融炉や最新式のストーカ炉の排ガスでは、ダイオキシン類濃度は低濃度であったが、RDF(ごみ燃料)を燃焼するボイラでは、排ガス処理設備として電気集塵機を備えていると濃度が増加する傾向があった。多環芳香族炭化水素類も同様に低濃度であったが、排ガス処理設備による低減が顕著ではなく、また成分により多様な挙動を示した。また、家庭用の焼却炉から排出されるダイオキシン類濃度には、温度や空気などの燃焼条件よりは、燃やすごみの質の違いが影響しており、特に、ごみに含まれる塩素濃度の影響が顕著であった。焼却工場周辺の大気や降下煤塵によるダイオキシンレベルの予測モデルを提案し、ある程度の傾向の予測は可能となったが、実測濃度とは大きく異なった。また、排ガス処理設備の更新前後での降下煤塵中のダイオキシンレベルからは、他からの寄与分があるために設備更新の効果は明確には見られなかった。焼却炉排ガス中のダイオキシン類の簡易モニタリング手法として、クロロフェノールによる代替モニタリング手法を検討し、排ガス中のクロロフェノールの連続分析装置を開発した。また、焼却やガス化溶融方式の生成副産物の生物学的な毒性試験法を開発し、それらの実用性を検討した。
 
12. 生分解性プラスチックの再資源化(バイオリサイクル)技術の効率化と環境適合性の評価に関する研究
  経済産業省 (独)産業技術総合研究所 生物遺伝子資源研究部門
           人間系特別研究体
(旧 通商産業省 工業技術院 生命工学工業技術研究所、大阪工業技術研究所)
   生分解性プラスチックは、微生物により分解され、環境への負荷が少ないプラスチックとして、フィルムや繊維など広い分野で実用化が進んでいる。本研究では、生分解性高分子素材が新たな環境問題の原因になることを未然に防止するため、生分解性プラスチックやゴム製品の生物学的な再資源化技術の効率化とそれらの環境適合性の評価手法について研究を行った。生分解性プラスチックのコンポスト技術の効率化を図るために、コンポスト中の好熱性微生物の計数を行うとともに、コンポストの熟成度をより正確に評価できる手法を確立した。さらに、プラスチックを強力に分解する好熱性微生物をコンポスト中に組み込むための手法も開発した。一方、環境適合性の評価手法として、生分解性プラスチックやゴム製品を分解する環境中の微生物の計数法を確立するとともに、分離した微生物によるプラスチック等の分解機構を明らかにした。また、プラスチックやその分解物などの環境生物への毒性評価などについて、大腸菌、バチルス菌(微生物)、カイワレダイコン(植物)、ヒメダカ(水棲生物)、ミミズ(土壌生物)を用いて調べた。その結果、分解によって生成する水溶性低分子量物質は土壌中濃度0.1~1%以下で生物に大きな影響を及ぼさないことがわかった。
 
2月12日(火)第2会場(トレーニングルーム)
 
【海洋環境の保全に関する総合研究】
 
5. 亜熱帯地域での農地からの細粒赤土流出防止技術の確立と海洋生態系への影響解明に関する研究
  農林水産省 (独)農業技術研究機構 九州沖縄農業研究センター
(旧 農林水産省 九州農業試験場)
農林水産省 (独)水産総合研究センター 西海区水産研究所
(旧 水産庁 西海区水産研究所)
   沖縄などの南西諸島において、サンゴ礁など沿岸海洋生態系に重大な影響をもたらしている赤土流出問題について、農耕地からの赤土流出を営農的に防止する技術開発、及び赤土流出・流入が沿岸海域の海棲生物の生理・生態に及ぼす影響の調査を行った。[1]サトウキビの夏植え栽培では、植え付け機の耕耘幅を減らし、不耕起率を増やす減耕起栽培(ミニマムティレッジ)により、植え付け後2ヶ月間の赤土流出量を慣行栽培の2/3に抑えることができた。また、国頭マージのような重粘土質土壌に適用できる振動式全層深耕型破砕機を開発し、圃場の傾斜下部への植生帯設置技術を併用したサトウキビの株出し栽培では、赤土流出量を慣行栽培の2/3から1/20に抑えることができた。[2]パイナップル栽培では、農作物残さ等を砕く農機具であるストローチョッパーにより砕断したパイナップル古株で土壌表面を被覆し、植え付け部分の30%だけを耕起する技術の採用により、植え付け後の赤土流出量を慣行栽培の1/10以下に抑えることができた。[3]赤土流出が海洋沿岸域に生息する生物に与える影響の解明では、光合成活性を利用したサンゴの赤土耐性評価として、水深3mの礁池に生息するサンゴを想定して、赤土流出に由来する濁度が3~15ppm以上の場合、サンゴの光合成収支に悪影響を及ぼすことを明らかにした。[4]赤土流出が海洋沿岸域の水環境に及ぼす影響の解明では、干潟域に堆積する細粒赤土の動態として、「堆積-輸送-再懸濁」のパターンと赤土粒度組成の関係を明らかにした。
 
6. 流出油が沿岸・沖合生態系に及ぼす中・長期的影響の解明
  農林水産省 (独)水産総合研究センター 日本海区水産研究所 
(旧 水産庁 日本海区水産研究所)
農林水産省 (独)水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所 
(旧 水産庁 瀬戸内海区水産研究所)
   1997年1月に、荒天下の日本海で破断・沈没したロシア船籍タンカー「ナホトカ号」からの流出油が沿岸・沖合生態系に及ぼす中・長期的影響を生態学的・生化学的側面から解明するための研究を行った。[1]潮間帯・潮上帯では、流出事故により大きなインパクトを受け、影響が2年程度継続した後、回復に向かう傾向を示したピリヒバ、カサガイ等が汚染の指標種として適当である。[2]沖合に沈没した船尾部からの残存重油の流出海域では、体内に油成分である多環芳香族炭化水素(PHAs)が検出され、もしくは体内に油粒が顕微鏡下で観察された、大型動物プランクトンのヤムシ・オキアミ類が指標種として適している。[3]魚介類について体内のPHAs濃度の経時変化を調べたところ、中腸腺のPHAs濃度が事故時及びその後の流出油の挙動と対応していることから、サザエが指標種として適当である。[4]肝臓の酵素活性を使った汚染指標(バイオマーカー)の測定方法を確立した。指標種をヒラメとすることで、数週間程度の時間スケールで油汚染をモニターできる。
 
11. 海域撹乱が内湾生物環境に与える影響評価技術に関する研究
  経済産業省 (独)産業技術総合研究所 海洋資源環境研究部門
          環境管理研究部門
(旧 通商産業省 工業技術院 中国工業技術研究所、資源環境技術総合研究所)
   閉鎖性海域の富栄養化に深く関わって有害プランクトンによる赤潮や貝毒の被害が社会問題化しているが、その発生には強風等による海域の撹乱が深く関わっていると推測されている。そこで、海域撹乱がもたらす海域の物理・化学的環境の変化過程を明らかにする目的で、現地観測および数値モデルを用いて、撹乱が内部生産の増加、有害プランクトンシストの拡散、海底境界層における栄養塩の動態に与える影響などを調べた。その結果、強風による海域撹乱の影響は水深20mの海底にも及び、海底に堆積している有害プランクトンシストを含んだ懸濁物質を海中に再懸濁させ、有光層にまで巻き上げること、この撹乱と風が起こす鉛直循環流が底泥中の有害プランクトンシスト分布の拡大に大きな影響を及ぼしていることを明らかにした。また、海底境界層水質予測モデルによるシミュレーションの結果、海域撹乱により堆積物表層が混合されたり新たな懸濁物が沈降・堆積すると、撹乱が起きてから30日後においても、堆積物からのアンモニア態窒素の溶出負荷が著しく増大している(撹乱前の26~47倍)ことが明らかとなった。さらに、撹乱による堆積物表層の混合や新たな懸濁物の沈降・堆積は、栄養塩の溶出負荷の増大だけでなく、底層水の貧~無酸素化の原因にもなっていると考えられた。本研究で開発した海底境界層水質予測モデルは、沿岸域の富栄養化にかかわる様々な現象の定量的解析に活用できる。
 
20. 流出油の回収システムに関する研究
  国土交通省 (独)海上技術安全研究所
(旧 運輸省 船舶技術研究所)
国土交通省 (独)港湾空港技術研究所
(旧 運輸省 港湾技術研究所)
  (1) 高波浪状況下での油回収技術に関する研究(海上技術安全研究所)
     1997年1月のナホトカ号事故のような流出油事故が起こった場合、流出油が海岸に漂着し岩や砂浜に付着すると海岸でそれを取り除くのは大変な作業になる。そこで波が高い状態でも、沖合で流出油を回収することが必要である。
 波浪中で流出油を回収する場合、油回収船の油回収部での波を小さくし、流出油を油回収部に効率よく誘導し、油回収部で油層を厚くし、回収油中の水分を少なくすることが必要となる。本研究では油回収船中央にムーンプールと呼ばれる波を小さくする水たまりを作り、前面の溝からそこに漂流油を取り入れて、できる限り水分を少なくした油を回収する方式を開発した。
  (2) 沿岸域汚染防除のための油回収システムに関する研究(港湾空港技術研究所)
     油回収船の立ち入れない浅い海岸域で高粘度油(粘度約30万cP以上)を効率的に回収(作業員10人で1時間当たり油水最大5m,うち余水20%以下)できるコンパクトなシステムとして、浮遊する油をかき寄せる集油装置、 ネットコンベアによる掬い上げと油水分離を行うスキマー部、 高粘度の油を詰まることなく陸上へ排送する排送機構の新規研究開発を行い完成した。
 
 
  【環境汚染物質に係る計測技術の高度化に関する総合研究】
 
17. ディーゼル排ガス流量の直接測定法に関する研究
  経済産業省 (独)産業技術総合研究所 計測標準研究部門
(旧 通商産業省 工業技術院計量研究所)
   ディーゼル車から排気される粒子状物質は発癌性等の有害性が指摘されているが、ディーゼル車から排気される粒子状物質の量の測定は希釈トンネルと呼ばれる装置を用いて行われている。また、現在はエンジンが安定に回転している定常運転時のみの計測で規制が行われているが、実際の都市内での交通形態を考慮して加減速がある過渡運転を含めた状態における規制への変更が国際的にも必要とされるようになってきている。しかしながら、国内に普及している部分希釈トンネルは、現状では排ガス用流量計が開発されていないため過渡運転モード試験には対応できない状況であった。そこで、本研究では排ガス流量計を試験するための装置を開発し、さらに高速応答が可能なレーザ流速計を利用した排ガス用流量計と既に産業界で多く利用されている渦を利用した信頼性の高い排ガス用流量計を開発した。さらに、超音波排ガス流量計も開発し、実際のエンジンベンチ試験により、これらの特性や測定精度を比較検討し、実用性を確認した。
18. 環境大気計測の信頼性向上に関する研究
  経済産業省 (独)産業技術総合研究所 計測標準研究部門
(旧 通商産業省 工業技術院計量研究所)
   大気中の汚染物質計測のために多くの環境計測器、サンプラーなどが現場に設置されており、そこにはまた多くの流量計が使用されている。しかしながら、様々な要因によって使用されている流量計に問題があり、大気汚染計測の整合性や信頼性がしばしば問題にされている。今後、測定対象に指定された低濃度汚染物質の測定においては、上記の問題がさらに顕在化すると思われる。環境計測器に使用されている流量計の現場校正方法や、国家標準にトレーサブルな流量計の採用、流量計測方法の開発などは、環境大気計測の整合性、信頼性を向上させるうえできわめて重要な課題であると考えられる。本研究では、環境計測で要求される低流量域に使用できる新しい超音波流量計を開発し、ダイオキシン計測用ハイボリュームサンプラーに組み込み、フィールド試験によってその測定の信頼性を確認した。次に、環境大気計測で必要とされる気体小流量計測のための国家標準の整備を行うとともに、現場の流量計を国家標準にトレーサブルな形で校正することができる音速ノズル式流量計の開発を行った。また、簡易型音速ノズル式流量計を組み込んだ大気捕集器のフィールド試験を行いその良好な再現性や安定性を確認した。
 
23. 排気ガス中の粒子状物質のリアルタイム成分分析に関する研究
  厚生労働省 (独)産業医学総合研究所
(旧 労働省 産業医学総合研究所)
   トラック、バスなどのディーゼルエンジンから排出される粒子状物質は過去十年以上にわたって増加傾向にある。炭素(すす)を主成分とする排ガスからの粒子状物質は大きさが0.1μm以下の非常に微小な粒子である。通常、粒子状物質の成分分析ではフィルタに粒子を捕集し、粒子発生からかなり時間が過ぎた後で測定している。しかし、粒子状物質のモニタリングや除去装置開発には、微小粒子の大きさごとの迅速な化学組成の計測方法が必要である。本研究は微小粒子の化学的性質を大きさ別にリアルタイムで測定する方法の開発を目的とし、以下の結果を得た。
  (1)  粒子状物質の分級とそのガスの変換装置を開発した。本装置は排気ガスから特定の大きさの粒子のみをアルゴンガスに浮遊して取り出す。取り出した粒子を誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)に直接導入してリアルタイムに元素分析を行うことができた。リチウムから鉛まで24元素について確認した。
  (2)  試験用ディーゼルエンジンから発生した排気ガス中の微小粒子を捕集したフィルタ、または煤をガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS)に直接投入することにより、粒子に含まれる多環芳香族の迅速定量分析を行う方法を開発した。この方法は抽出などの前処理がなく、分析時間20分程度で分析可能である。
 
 
2月13日(水)第1会場(セミナールーム2)
 
【廃棄物の処理と資源化技術に関する総合研究】
 
13. 爆発反応を利用した有害廃棄物の無害化処理に関する研究
  経済産業省 (独)産業技術総合研究所 物質プロセス研究部門
(旧 通商産業省 工業技術院 物質工学工業技術研究所)
   本研究は、火薬類の爆発反応場という動的な高温・超高圧場を利用した有害廃棄物の無害化処理技術を開発することを目的とした。対象とする物質は、通常の方法では処理が困難な物質全て-例をあげれば、PCB・フロン等の有機ハロゲン化合物、処理法が確立されていない爆発性廃棄物、および、有機リン化合物のような突発的に生じた毒物等-である。行った実験の範囲では、モデル有害物質を良好な分解率で分解させることができた。また、生成物にダイオキシンなどの有害生成物は検出限界以下であった。本技術は、旧日本軍が遺棄した化学兵器の無害化に特に有効であったため、本研究実施中の2000年秋、当時の内閣府に協力し、屈斜路湖に遺棄されていた化学兵器の火薬部分を無害化することに成功した。
 
14. 高速嫌気性消化法を利用した食品工場からの廃棄物処理技術に関する研究
  経済産業省 (独)産業技術総合研究所 エネルギー利用研究部門
(旧 通商産業省 工業技術院 資源環境技術総合研究所)
   食品工場などから排出される食品廃棄物は、現在そのほとんどが焼却などの方法により処理・処分されている。これらの廃棄物は含水率が高く自燃しないため、焼却には多量の補助燃料を必要とする。また、嫌気性消化処理も検討されているが、固形状であるため消化時間が長くエネルギー効率が悪いなどの問題点を抱えている。本研究により以下のことが明らかになった。(1)食品廃棄物、脱水下水汚泥および脱水消化汚泥は、反応温度175℃、保持時間1時間の条件でスラリー状に流動化出来ること、(2)流動化により液相と固相に分離・脱水することが可能になるので、流動化は高度脱水処理の前処理としてとらえることが出来ること、(3)3倍希釈した流動化食品廃棄物の液相を、UASB法により約2日で迅速に嫌気性消化できること、(4)流動化-嫌気性消化法のエネルギー収支を解析した結果、本法は食品廃棄物や有機性汚泥を直接焼却する場合よりもエネルギー収支が改善することなどである。
 
15. 産業廃棄物処分における化学物質安全管理技術に関する研究
  経済産業省 (独)産業技術総合研究所 化学物質リスク管理研究センター
(旧 通商産業省 工業技術院 資源環境技術総合研究所)
   廃棄物処分時の環境安全性や有害化学物質の拡散等の問題を解決するため、安全管理技術に関する早急な技術的対応が求められている。本研究では、産業廃棄物の管理型処分場及び産業施設の周辺の地盤環境を対象として、地震などの緊急時を想定した有害化学物質の漏洩防止及び拡散防止に必要なシステム技術の開発について検討した。具体的には、以下の要素技術について基礎的、応用的な研究を実施し、現場適用に向けてのシステム設計を行った。まず、アクティブバリヤーを用いた電気化学的な捕集・除去技術を確立するとともに、人工熱変成作用バリヤーの形成方法の開発と有害物質の遮断効果の検証、弾性波法と比抵抗法を組み合わせた連成手法による高精度モニタリング技術の提案を行った。また、地盤環境と化学物質の挙動を評価できる環境特性シミュレーション手法の基礎を確立した。これらの成果を踏まえて、中規模スケールの地盤環境モデルを用いた実証実験を行い、開発した要素技術の機能・性能を確認するとともに、要素技術のシステム化について検討した。
 
21. 船舶へのLCAの適用に関する調査研究
  国土交通省 (独)海上技術安全研究所
(旧 運輸省 船舶技術研究所)
   製品の一生、つまり、原材料の調達から製造、使用、廃棄にわたるライフサイクル全体で製品の環境影響を定量化するLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)が注目されている。しかし、多くの部品や複雑な運航を伴う船舶へLCAを適用する本格的な手法は検討されていなかった。
 本研究では85,000トンのタンカーを例として建造工程や運航記録等の調査を行い、船舶の建造、運航、解体及び回収された鋼材のリサイクルに関するCO2排出量の解析を行った。解析された船のライフサイクル全体でのCO2排出量はCO2換算で約140万トンであり、建造及び運航での排出量は各々全体の約1.5%及び約98%であった。また、小型漁船(アルミ合金製、FRP製)、バラ積み貨物船、大型コンテナ船等の解析の実施を通じて、船舶へのLCAの適用手法を開発し、船舶用のLCA解析ソフトを作成した。
 船舶へのLCA手法の適用が可能となったことにより、科学的・客観的な環境政策の立案等に役立つことが期待される。
 
25. 下水汚泥処理過程における重金属等有害物質の制御技術に関する研究
  国土交通省 (独)土木研究所
(旧 建設省 土木研究所)
   下水の処理に伴って発生する汚泥量は、平成11年度で約188万トン(乾固形物)で、その約58%が緑農地利用、建設資材あるいはエネルギー回収の形でリサイクルされている。資源として有用な下水汚泥のリサイクルをさらに進めるためには、下水汚泥に含まれる重金属等を汚泥の処理過程またはリサイクル製品製造段階で制御し、下水汚泥を再生資材の安全な原料として供給することが重要な要素の一つとなる。本研究では、主に下水処理場に流入する重金属の化学的形態の変化に着目し、汚水処理過程、汚泥の嫌気性消化過程、焼却過程の調査を行った。特に、現在、処理量の約76%を占める焼却については、発生する焼却灰からの溶出が問題となるヒ素とセレンの挙動を重点的に調査した。この結果、流入する重金属の化学形態はその重金属毎に特有で、水処理過程での形態変化は少ないこと、嫌気性消化は、化学的な処理による重金属の除去という観点からみると処理しにくくなる方向に形態変化を生じさせる傾向があることがわかった。また、流動床焼却炉の灰捕集温度が焼却灰中のセレン含有量に影響すること、低温での灰捕集を行う場合、灰中セレン含有量、溶出量を予め概算することが可能であることを示した。このことは、今後、ダイオキシン対策として低温での灰捕集が普及すると予測されるため、焼却炉の設計や灰の利用・処分を考える際の参考となるものである。
 
 
【都市・生活環境の保全に関する総合研究】
 
16. 悪臭等の低温酸化分解触媒に関する研究
  経済産業省 (独)産業技術総合研究所 生活環境系特別研究体
(旧 通商産業省 工業技術院 大阪工業技術研究所)
   悪臭公害は生活密着公害であり、特に「複合悪臭」が大きな問題となっている。本研究では複合悪臭原因物質の省エネルギー処理を目指し、特に食品工場や生ゴミ等からの臭気ガスに多く含まれるアンモニアやアミン類を空気中の酸素との反応により低温で酸化分解し、無臭・無害の物質に転換するための新しい触媒の開発を行なった。魚肉の腐敗臭に含まれるトリメチルアミンを対象に触媒の探索を行い、ニッケル-フェライト酸化物の表面に金を担持した触媒(Au/NiFe2O4)が低温活性に優れ、分解物中にCOやNOx等の副生がほとんど無いことを見出した。この触媒を用いて生ゴミ処理機から発生する臭気除去のフィールドテストを行なった結果、常温(40℃以下)で少なくとも2ヶ月間臭気除去効果が継続し、臭気主成分のアンモニアに関しても分解率約85%以上が得られた。本研究により金触媒が含窒素悪臭物質の低温酸化分解に極めて有効であることを明らかにした。
 
 
【地域密着型環境研究】
 
27. 生物相互作用を考慮した適切な湖沼利用と総合的な湖沼保全を目指す基礎的研究
  環境省 (独)国立環境研究所
(旧 環境庁 国立環境研究所)
農林水産省 (独)さけ・ます資源管理センター
(旧 農林水産省 さけ・ます資源管理センター)
農林水産省 農林水産技術会議
   十和田湖では80年代半ばから水のCOD値が環境基準値を超え、透明度の低下が顕著になった。また、同じ頃からヒメマス漁が不振になった。これは、その頃意図せずに導入されたワカサギが、餌である大型動物プランクトンをめぐりヒメマスと強い競争関係を引き起こした。その結果、動物プランクトン群集への捕食圧が上がり、動物プランクトンが小型化した。さらに、この動物プランクトン群集の小型化が植物プランクトン量の増加と透明度の低下をもたらしたと考えられた。湖の無機環境とそこに生息する生き物は密接に繋がっており、流域・沿岸域の生物間相互作用を考慮した湖の総合的な生態系管理を行うために、1)水産資源の管理、2)沖・沿岸域の生態系要素の特徴と相互関係、ならびに3)集水域の評価と沿岸域の役割に関する研究を進め、おのおのの項目について以下のことが明らかになった。1)十和田湖に適正なヒメマスの親魚数は8000匹、放流数は100万匹以下である。2)深底部の水生ミミズ相は低温狭温性で酸素要求性の高い種類が集水域から入りこんだものである。水生植物の生息域は1967年の調査時に比べ大きく後退していた。3)十和田湖へ入る年間総リン量は5.24tで、そのうち42%が直接湖面に降る雨、32%が流入河川、26%が逆送水(発電による取水を補填するために、別の集水域に溜めた水を入れている)によるとされた。今後は、ワカサギを駆除し、1984年以前の「ヒメマスー大型動物プランクトン群集」が優占する生態系に戻すことが水質保全と漁業振興双方の立場から望ましい。加えて、湖底の酸素濃度の減少を防ぐために、集水域の管理を徹底し、沈水植物群落の分布域を回復させることが、十和田湖固有の生態系を守ることになる。
 
 
2月13日(水)第2会場(トレーニングルーム)
 
【排水処理の高度化に関する総合研究】
 
10. 新規化学物質を含む無機系産業廃水の複合処理システムに関する研究
  経済産業省 (独)産業技術総合研究所 化学物質リスク管理研究センター
(旧 通商産業省 工業技術院 資源環境技術総合研究所)
   Sb、Moは、排水中で多様な化学種として存在し、重金属類の処理法として従来行われてきた凝集沈殿法などでは処理が困難である。また、Sb、Moの排出は主に顔料製造業や染色工業の中小企業であるため、その排水処理法は、低コストでコンパクトな処理技術の開発が必要である。本研究では、凝集剤による凝集作用とゼオライトによる吸着を組み合わせた処理法の開発及び液体クロマトグラフ法によるMoの回収法を検討した。染色排水中のSbに対して低濃度のPAC(ポリ塩化アルミニウム20ppm)を添加し、排水中のSbを吸着、凝集し、この懸濁液をゼオライトカラムで吸着処理することで、排水中のSbが約70%除去されることを明らかにした。さらに、この凝集-ゼオライト法によりMo及びAsも同様に処理可能であった。排水中のMoの回収法として、液体クロマトグラフ法による分離回収法を検討した結果、炭酸ナトリウム溶離液によりモリブデン酸として分離されることを明らかにした。また、モノモリブデン酸及びポリモリブデン酸の分離も可能であることを明らかにした。
 
【陸水系の水環境の保全に関する総合研究】
 
7. 有用植物の水質浄化特性の解明による資源循環型水質浄化システムの開発に関する研究
  農林水産省 (独)農業技術研究機構 中央農業総合研究センター
(旧 農林水産省 農業研究センター水質保全研究室)
農林水産省 (独)農業技術研究機構 畜産草地研究所
(旧 農林水産省 畜産試験場)
農林水産省 (独)農業技術研究機構 北海道農業研究センター
(旧 農林水産省 北海道農業試験場)
   人口密度が低く、広大な農村地域の水質改善には、自然浄化機能を有効に活用した農山村向きの水質浄化システムの開発が求められている。本研究では、省エネルギー・資源循環型の水質浄化システムを開発するため、各種有用植物の水質浄化特性を解明するとともに、ゼオライトや鹿沼土などの濾材を充填した水路上にこれら有用植物を植栽したバイオジオフィルター水路(以下、BGF水路と略す)を設計・試作し、生活排水二次処理水や施設栽培排水などの浄化試験を行った。その結果、BGF水路上に植栽した野菜やケナフ、パピルスなどの資源植物は旺盛に生育し、夏季には、流出水の窒素濃度を雨水より低いレベルにまで浄化できた。また、石灰硫黄系濾材を組み込んだBGF水路の硝酸性窒素の除去速度は極めて高く、高濃度の硝酸性窒素を含む養液栽培排液などの浄化に適していることを明らかにした。さらに、農業集落排水処理施設における浄化試験でも、BGF水路に植栽したトマト、エンサイ、モロヘイヤ、シュンギク、フダンソウなどの野菜類は旺盛に生育し、二次処理水中の窒素、リンなどを効率良く浄化できることを実証した。
 
24. 浮島による湖沼の自然回復と水質浄化に関する研究
  国土交通省 (独)土木研究所
(旧 建設省 土木研究所)
   これまで湖沼の環境対策は水質対策中心であったが,自然環境の保全・復元が中心となってきた現在では,湖沼の自然環境,特に湖岸植生帯の保全・復元も重要な課題となってきた.
 一方,人工浮島はいかだ状の構造物の上にヨシなどの水生植物を植栽したものである.その目的は水質浄化、ハビタット(生物のすみか)の創造、景観の改善、湖岸帯の保全(消波)等である。浮島は、上記のように水環境を総合的に改善する効果があり、景観的にもアクセントとなるため現在、さまざまな応用例が出てきている.
 本研究では,人工浮島を消波構造物として使用し,湖岸植生帯を保全する手法を開発し,霞ケ浦の実験において,3.4%の植生帯復元に成功した.また,湖沼に流入する河川の河口に人工の内湖を設置し,流域から出てくる汚濁物質を除去する「湖内湖浄化法」を提案し,検討した.その結果,「湖内湖浄化法」によってCODやリンの約40%が除去されることを明らかにした。
 
2. 界面活性剤の水道水源水域及び利水過程における挙動と適正管理に関する研究
  厚生労働省 国立公衆衛生院
(旧 厚生省 国立公衆衛生院)
厚生労働省 国立医薬品食品衛生研究所
(旧 厚生省 国立医薬品食品衛生研究所)
   界面活性剤のうち使用量の増加にもかかわらず、これまで知見の少なかったポリオキシエーテル(POE)系非イオン界面活性剤とその関連物質について、発泡性、総括分析法、LC/MS法を用いた個別分析法、汚染実態、処理性、毒性等について検討し、界面活性剤の水道に対する健康影響リスクの現存量の推定と発泡等の利水障害等の相互性を評価した。
 水の発泡試験法としてロスマイルス法を確立し、界面活性剤の発泡限界濃度を把握した。水源や浄水過程の発泡の監視には、総括分析法のPAR法等が有効であり、非イオン界面活性剤やその生分解生成物の個別測定には、LC/MS法が有効であった。河川水からは広い濃度範囲でPOEが検出され、特に小河川ではその濃度が高い傾向にあり、全調査地点の約10%、小河川等の約50%が発泡限界を超過する可能性があった。LC/MS法で種々の水を測定した結果、多くの河川では1級及び2級AE(アルキルエトキシレ-ト)が検出され、これらが発泡の原因になっていると考えられた。また、APE(アルキルフェノ-ルエトキシレ-ト)が検出された多くの河川では、主生分解生成物として低EO(エチレンオキシド)付加モル数のNPEC(ノニルフェノキシ酢酸)等が検出され、その他にもOPE(オクチルフェノ-ルエトキシレ-ト)、OPEC(オクチルフェノキシ酢酸)、NP(ノニルフェノ-ル)、OP(オクチルフェノ-ル)等の物質が検出された。これらの生分解生成物は内分泌攪乱作用などの毒性の観点からモニタリングの対象項目とする必要がある。
 浄水処理では非イオン界面活性剤のEO付加モル数の大きい界面活性剤ほど除去可能であった。しかし、EO付加モル数の小さいNPEやNPECなどは凝集沈澱ろ過処理では除去が難しく、オゾン処理等が有効であった。
 
 
【自然環境の管理及び保全に関する総合研究】
 
26. 地域における生物多様性の総合的評価に関する研究
  環境省 自然環境局
(旧 環境庁 自然保護局)
   生物多様性の評価に係る事例的研究として、第1に石川県における指標種(イヌワシ)に着目した例を取り上げた。現地調査と聞き取りから得られたイヌワシのつがい生息地区分ごとに植生や繁殖成績をまとめ、26区分のうち7区分を良好な生息地とした。指標種の生息状況から多様性を評価する方法は、分布情報が得にくいという問題点がある。
 第2に、千葉県を対象に、既存の植生調査データを用いた二次的自然環境の評価を行った。公表されている環境影響評価書などからクヌギ・コナラ群落の資料を抽出し、種多様性と環境要因との関係を検討した。種の豊かさの高いプロットは、千葉県の南部を中心に分布していた。また、種の豊かさは主に夏緑植物の種の豊かさにより決定されていると結論された。
 ある地域の生物多様性を総合的に評価するためには、対象地域の面積や評価目的、環境特性などに応じてさまざまな方法を試み、それらを適切に組み合わせることが重要であると結論された。
 
 
【環境汚染物質の環境リスク評価、管理に関する総合研究】
 
4. ダイオキシン等内分泌系攪乱環境汚染物質のヒト及生態系に対するリスク評価に関する研究
  厚生労働省 国立医薬品食品衛生研究所
(旧 厚生省 国立医薬品食品衛生研究所)
   環境中に存在する多種多様な内分泌系をかく乱する可能性がある化学物質の総合的リスク評価法を確立するための検討を行った。動物個体を用いずに、エストロゲン受容体と結合して内分泌系をかく乱する化学物質の簡便・迅速・高感度な、初期スクリーニングに適用できる試験系を確立した。この試験系を用いてエストロゲン受容体との結合能を評価することが可能である。また、感受性の高い胎児細胞を用いて2,3,7,8‐四塩素化ダイオキシンの作用を調べた結果、発生初期に心臓や血球・血管系に特異的な遺伝子の発現を増加させる可能性が示唆され、スクリーニングの材料として有効であることがわかった。内分泌系をかく乱することが指摘されているクロロトリアジン系農薬の異物代謝酵素(P450)に対する影響を検討した結果、クロロトリアジン系農薬は、ダイオキシン類により誘導される分子種(CYP1A1/2)及び多くの環境汚染物質により誘導される分子種(CYP2B1/2)を優先的に誘導し、生体内の代謝バランスに影響を及ぼすことが示唆された。
 
【次世代型環境リスク評価技術に関する基礎研究】
 
  未来環境.次世代型環境リスク評価技術に関する基礎研究
九州大学大学院、国立環境研究所、国立医薬品食品衛生研究所、他
   我が国では1~2万種にものぼる化学物質が環境中に蓄積していると考えられており、我々を取り巻く環境の健康リスク評価系を確立し環境管理に反映させることが、次世代の存続をはかる上で必須である。本研究では、(1)遺伝毒性・発ガン性・発ガンプロモーター活性、(2)生態毒性(内分泌攪乱活性)、(3)免疫毒性、(4)細胞機能障害試験、および(5)バイオモニタリングと、原理の異なる22種35項目のバイオアッセイ法を探索し、さらに、環境中に存在すると考えられる化学物質の中から生物影響と環境曝露の観点で重要と思われる255種類の物質を選定し、各バイオアッセイ法の特性を横断的に解析した。更に、複数の化合物からなるモデル環境水に適用することで、環境管理を行う上でのバイオアッセイシステムの適用性を明らかにした。